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増補・改訂について

立岩 真也 1995
『生の技法 ―家と施設を出て暮らす障害者の社会学― 増補改訂版』pp.10-11
安積純子・尾中文哉・岡原正幸・立岩真也,藤原書店,1995年5月



  この本の初版が出てから四年余りたった。変わらないことも多いが、大きな動きもあり、この本はその中で読まれた。変化は、あの時に私達が期待していた変化である。この本がそれにいくらか貢献できたのだとしたら、うれしいことだ。第6章までに記された現実と主張を変更する必要はないと考える。第7章も歴史を記したその意味は残るだろうと思う。ただ、九〇年にまだ本格的なものになっていなかったその新しい動きを伝える必要がある。
  この間、筆者の一人、第1章を担当した安積はピア・カウンセラーとしての活動を続け、日本中を動き回り、世界中に出かけている。またフィリピンの子供たちを支援する「バタバタの会」の活動を始めた。第1章に追加が必要なところだが、彼女は九三年に『癒しのセクシー・トリップ』(安積遊歩[93])を出版した。それを読んでいただきたい。もともと「障害者福祉」の専門家ではない三人の「研究者」達はそれぞれの仕事をしてきた。それでも九三年には、尾中が中心となり、安積の協力も得て、フィリピンとタイから各一名障害を持つ女性を招く機会があった★01。アジア地域の教育を研究領域とする尾中が、補論でアジアの状況を紹介することになった。
  大きな展開があったのは、特に初版の第7章・第8章に続く部分である。当事者主体のサービスの提供組織「自立生活センター」を設立し運営していく動きが、九〇年から急な進展を見せてきた。第9章でそれをみる。それは第7章の続きという性格を持ち、初版の第8章で考えた、介助がどのように社会の中に位置づけられるべきかという問いに対する当事者からの回答を見るものでもある。他にも、乗物や建物へのアクセシビリティ獲得に関わる動き、福祉行政等の総合的な情報を提供する活動の開始、知的障害を持つ当事者達の活動の台頭、施設に暮らす人達のネットーワーキングの試みなど、注目すべき動きが数多くあるが、残念ながらここで紹介することはできない★02。言うまでもなく「自立生活」運動と呼ばれるものは、これら全てに関わるものであり、以下で取上げることのできるのはそのごく一部である。これらがどのようにあるべきかについては、第9章に取上げる自立生活センターの一つであるヒューマンケア協会の委員会が基本的なプランを提示している★03。この企画にも参加し、またその時々の状況の一端を『季刊福祉労働』誌上に連載で報告してきた立岩が、第8章の改訂と新しい第9章を担当する。
                             (一九九五年二月)


REV: 20161031
『生の技法』
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