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大阪市立自立生活センター?「ピア大阪」

―自立生活運動の現在・12―

立岩 真也 19950325 『福祉労働』66:145-150


 →『生の技法 第3版』

■なりたち
 昨年十二月に調査で大阪に行く機会があって、その時に大阪市東淀川区にある「自立生活支援センター・ピア大阪」で職員の野谷靖さん他にお話をうかがうことができた。ピア大阪のことは、昨年六月のJIL(全国自立生活センター協議会)総会のシンポジウム(テーマは自立生活センター=CILへの助成)で、職員(で運営委員会事務局長)の平下耕三さんがシンポジストの一人として登場した時に知った人もいるだろうと思う。私自身、わかった、という感じがまだしない部分も残しつつ、インタビューと機関誌『自立へのチャレンジ〜ピア大阪通信』一号と二号から、知りえたことを紹介する(本誌前号一〇九頁にも紹介有)。
 ピア大阪は一九九四年五月に開所した。大阪市が設置し、社会福祉法人大阪市障害者更生文化協会に事業依託するかたちになっている。公立民営ということになるが、この法人自体も大阪市が出資して設立された法人だということだ。
 場所は、「大阪市立早川福祉会館」(シャープの会長だった早川さんが土地を寄付した)という建物の中にある。古くからの住宅街ということだが、前は広い通りで交通量も多い。区役所も近くあって便利なところにある。(とにかく大阪市の地理を私は知らない。)以前は平屋だったのが九四年に新しい建物になった。地下二階、地上四階のずいぶん立派な建物で、ピア大阪の活動場所が最初から組み込まれている。地下含め延総床面積千坪ほど、このうちの一階の大部分と二階の半分くらいがピア大阪用の活動場所。一階に相談室・事務室・浴室、二階に自立体験室、介護人室が各二つずつ。一・二・三階の会議室も必要な時には使えるし、実際使っている。三階の広い会議室は多人数の集まりに使える。十二月には、午前中はバザー、午後は語り部コンサートのイベントをここで開催した。屋上も、介助講習会の時、電動車椅子を体験してもらうのに使った。四階は点字図書室、対面朗読室等。一階・四階には作業室もあり、知的障害の人達とそのお母さん達が作業をしていた。
 次に組織について。運営委員が置かれ(定数は定められていない)、運営委員が互選で運営委員長(障害者)、運営副委員長、常任委員(十一名、常任委員会十一名以上、過半数を障害者とする)を選出する。また運営委員の選出は常任委員会の推薦による。頚髄損傷の定藤さんが運営委員長、運営委員は現在三二名(障害者十三名)、常任委員は十五名(障害者八名)。運営委員会は年一回以上、常任委員会は随時、運営委員長が召集して開催される。(以上『ピア大阪通信』創刊号掲載の「運営委員会会則」「運営委員会細則」による)。運営委員・常任委員の関係が少しややこしいが、要するに今の委員会が次の委員会を(再)生産していくシステムになっている。ただ職員の人事権は運営委員会に帰属しない。事務局は運営委員会の事務局とされ、職員で構成される。事務局長は職員による互選で選ばれ、障害者であることとなっている。現在の運営委員で要綱を作り、市の了解を得たということだ。法人からも干渉はなく、自主運営に近い。民間の任意団体の自立生活センターにかなり近い組織形態になっている。市による設置という性格との兼ね合いの中で、ぎりぎりのところを狙っているという感じだ。ピア大阪は「大阪自立生活センター研究会」(代表定藤丈弘大阪府立大学教授)が前身になっている。細かな事情は聞かなかったが、定藤さん達と大阪市の行政との関係が以前から築かれていなかったら、こういうものはできなかっただろうと思う。
 職員は現在常勤六人、非常勤一人。常勤の四名(障害者二名)は更生文化協会の職員として採用されており、辞令もここから出る。障害者二名は、骨形成不全の平下さんと頚髄損傷の東谷太さん。他に野谷さんと下岡加代子さん。非常勤職員の國井由紀子さんもここに雇用されているかたちになっている。自立生活センター研究会が大阪市の障害福祉課に推薦し、障害福祉課が推薦して決まったのだという。小野信夫さんと中島章憲さんの二人は市からの出向。こちらは市の方で決定した。市から職員が派遣されてくるというので、やりにくいかなと思っていたが、仲良くやれてほっとしている。更生文化協会の給与は市の職員の給与に準ずる。六人が大阪市職員並みの給料を得ているわけだ。 事業費は九四年度約六〇〇万円。ピア・カウンセラーの人件費、事務関係の物品の購入等に使われる。建物は市の建物で初めから用意されていて場所代はかからないし、水道光熱費なども支払う必要はない。七人の常勤・非常勤職員の人件費も、別に市と法人から払われる。職員の人件費、施設費、これらを全てお金に換算すれば、年間五千万円は上回るのではないか。JIL加盟のCILで予算額が多いところで三千万円台(ただし、利用者から介助者に渡る介助利用料=規模の大きいところで四千万円ほど、は含まれない)だから、それと比較して財政規模はかなり大きい。

■事業
★相談事業
 月曜日から金曜日までの十時から三時、障害を持つ当事者が相談に応じる。
月 精神障害:仲谷真一さん(大精連ぼちぼちクラブ)
火 視覚障害:慎英弘さん(神戸大学非常勤講師)に加えて九四年十一月から視覚+聴覚  障害:門川神一郎さん
水 肢体障害:磯崎章一さん(頚髄損傷・大阪頚損連)
木 肢体障害:川嶋雅恵さん(脳性麻痺・中部障害者解放センター)
金 聴覚障害:河江重松さん(聴覚障害・草の根ろうあ者こんだん会)
 精神障害を持つ当事者の相談員を入れている。これは大阪市では初めて。知的障害者のピア・カウンセラーを置きたいが、どうやって養成するかが考えているところ。一回あたりの相談時間は、二時間、三時間と長くなることがけっこうある。いろいろな障害を持つ人が、自立、就労、福祉(制度・機器)、住宅、あらゆる相談にくるが、予想より多かったのが、知的障害の人(とお母さん)の相談、そして就労に関する相談。視覚・聴覚障害の人も働きたいという相談が多い。精神障害の人も、仕事せな、という相談が多い。あんまり頑張ってもかえって調子を崩したりすることになるから、働かんでもいいよ、とアドバイスする。いわゆる自立したい身体障害者は、他に押されて少なかったが、このごろ増えてきた。ピア・カウンセラーに対する報酬は、一時間一二五〇円、一日五時間。年間二百万円弱の支出になるだろうか。
 制度関係については市の職員スタッフが役にたつ。中島さんは生保のケースワーカーをやっていたし、小野さんは関係機関との調整が得意だ。また数月に一度、弁護士、建築士他の専門相談員による、法律、住宅、就労、リハビリ・健康、教育に関わる専門相談もある。
★ 介助者養成事業
 ピア大阪の事業(入浴、体験室、相談)を利用するのにともなう介助を担う人を養成する。介助者派遣事業は、夜間勤務がないので夜間に対応できないし、ごく近くにある「大阪中部障害者解放センター」が派遣を行っているから、今は考えていない。介助は時給千円で、ピア大阪が負担。年四期の講習会を行う予定で、第一期のシリーズが、昨年十月から始まった。週一回、土曜の午後、一時から五時ころまで、五回で修了。講座を終えた人で、その意志がある人はピア大阪のアテンダントとして登録する。第一期は、二〇人程が継続して参加。男性三人、他は女性、二二歳の学生から六〇代までと年齢の幅は広く、四〇代位が多い。私が訪れた時はちょうど第一期が終わり、登録受け付け期間だった。最終回に来た人は全員登録した。この講習会の他、今年一月から計二〇回の手話講習会(毎週火曜午後、約二時間、募集二〇名、資料代三百円)も始められている。
★自立生活体験事業
 二階に二つ体験室がある。一つは六畳の和室に板間のダイニング・キッチンがくっついている。上がり降りするタイプの調理台があって、車椅子で調理ができる。洋室はもっと広い。ダイニング・キッチンの部分とベッドのある部分をカーテンレールで分けることができる。二十畳くらいあるんじゃないかと思う。こちらは機器がさらに充実していてベッドも上がり降りするタイプ、ホイストもあって重度の人が使える。洗濯機(傾くようになっていて、車椅子でも使える)と乾燥機の置いてある場所もあった。もの干しもベランダにある。介護人室が同じ階に別室として二部屋とってある。六畳の和室で二人でも三人でも泊れる。家族で来ることもあって、合宿のような感じのことがあるのだそうだ。備え付けの調味料等の利用実費として、一泊一組三百円、シーツ一人分百円を払ってもらう。
 知的障害の人とお母さんという組み合わせの利用相談が多い。お母さんとペアじゃなんですから、他のお母さんに介護人を頼んでもらったらどうですか、といったアドバイスもする。買出しに行き、調理して食べ、片付ける。お風呂、掃除をする。今まで親から言われていたことを自分なりにやってみる。ここを体験してから、御飯を自分で炊くようになった、洗濯を自分でやるようになったといった声がある。作業所の職員の人が介護者としてついたりして、精神障害の人も来る。脳性麻痺等の人は少なかったが、最近ぼちぼち来だした。利用率は現状で二部屋のどちらかは月の半分使われているといったところ。
★浴室提供事業
 利用者は現在十七組。利用料は、いろいろ考えた末、シャンプー等の実費相当分だけ。かなり広い。車椅子で入れる(浴室用のに乗り換える)。いろいろ工夫がこらされているが、機械っぽい感じではなく、くつろげる。事業を始めてから、洗った水が入らないように溝を作るとか、角を削るとか、利用者の声を聞いて改造した。
 日曜・祭日以外の十時から八時の間に、一枠一時間半で、六枠とられている(当初は五枠だった)。八割方埋まっている。夫婦での利用が四組くらい(奥さんが脳こうそくの後遺症等)。息子が六〜七〇歳台のお母さんを介助するという利用もある。老人福祉センターにも風呂はあるが、六五歳以上でないと使えないし、混んでいる。銭湯は男女で入れない。近くの作業所、会館を使っている作業所の人達にも団体利用してもらっている(三組)。障害者五人+介護者五人が一度に利用という場合も。当初予期していた脳性麻痺の人の利用というのは、今ところ意外と少ない。
★障害者交流フリースペース
 二階の会議室を第二・第三土曜日は開けてもらう。ワープロやオセロ等いろいろ遊ぶものを置いてある。職員が誰か一人はいて、自己紹介くらいの時間はとるが、後は自由に使ってもらう。毎回十数人くらい来る。若い知的障害の人が多い。ワープロ(絵がかけるの)が楽しいみたいだ。
★情報資料室・通信発行
 三階に部屋がある。國井さんが担当。今ある書籍はロータリー・クラブからの寄付(三百万円)によるもの。貸し出しを始めた。『ピア大阪通信』は年四回発行。編集長は野谷さん。これは分厚い。それにしても大阪の障害者関係の雑誌メディアは数が多く、中身が多い。どうしてだろう。
★研究会・講座など
 月一回、「機会平等研究会」を開催。その他、「ピア大阪人権講座」を企画・開催している。第一回のテーマは障害者の財産権。広く参加を呼びかけ、四五人ほどの参加を得た。第二回は二月の「知的障害者の権利侵害」。

■これから
 ピア大阪が今いる位置をむしろ武器にしたい、民間型とは違った組織として何ができるか模索している、と野谷さんは言っていた。例えば介助者の養成事業など、民間でやっていたらそんなに来ない。大阪市がやっているということでやってくる。行政に関する情報も得やすい。
 そして他の公立機関のように杓子定規でなくて柔軟に対処できる。ここでは公立の機関が問題にする年齢、等級を問題にしたことはない。精神障害者が利用できない障害者スポーツセンターを利用できるようにと要求している。
 行政と組織との関係について原則的なことを言える用意が私にはない。まだ私はピア大阪のことをよく知らない。始まったばかりでもある。事業の発展を願ってます、ぐらいしか言えないが、いくつか思うことはある。
 一つに「相談」の充実。各地で開催されている「ピアカウンセリング講座」はピア・カウンセリングの技術習得の手段である(だけではないにしても)。ピア・カウンセリングとは本来、ピア大阪がやっているような相談事業のことだ。(そしてカウンセリングの方法論はそう細かいところまで一義的に決まっているものではない。ただ技術は必要だ。参考のために講座に参加してみるのはよいと思う。)
 制度としてある「身体障害者相談事業」はあまり機能していないと聞く。障害を持つ人に対するサービスに、こういう形で当事者・・民間団体や地域活動で経験を積んできた当事者・・が関わるのがよいことを実証すること。障害者福祉センターみたいなものはかなりの自治体にある。そういうところにもモデルを提供できるかもしれない。
 だが私達は出向いていって相談したり、カウンセリングを受けるのに慣れていない。いろいろと工夫が必要だろうとは思う。一度に多人数(といっても十人内外)を相手にした「(自立生活)プログラム」の形をとるという手もある。その上で個別の事情に応じた相談の必要も出てくる、また高まってくるのではないか。自立生活体験室を利用してみようという人も出てくるのではないか。お節介みたいだが、注文を取りに出かけたっていい。高等学校や養護学校の高等部を出る人達のところに宣伝に出かけるとか。カウンセリング、プログラムと同時に、他のCILは、介助者派遣によってその利用の裾野を拡大し、同時に地域での生活を支援していった。介助者派遣を他に任せるなら、情報提供・プログラム・カウンセリングがまずある。その活動によって権利の擁護をはかっていく。これは行政が真面目にやってこなかったことだ。当事者性を保ちつつ、必要なら大阪市の機関として、問題解決のために具体的な場面に具体的に積極的に介入する。それをどこまでやれるか。
 そして利用者の幅に合せた対応。精神障害、知的障害と既に十分に幅広いのだが、知的障害や精神障害の人への対応なら、当事者のグループを援助し、同時に協力を求める形がもっとあってよいと思う。また高齢の障害者には、障害者と認められなかったり、公的なサービスを受けるのにためらいがあったり、十分な情報を得ていないなどの事情がある。高齢者・障害者という分け方自体変だ。だが、でも高齢の障害者の事情に応じたサービス、権利擁護のあり方はある。パンフレットには「自立へのチャレンジ! 皆さんの自立生活のお手伝いをします」とある。これで間違いはないのだが、大阪市の看板で地域密着でやっていこうとするなら、別の言い方も必要かもしれない。
★住所・連絡先 〒五四六 大阪市東住吉区南田辺一−九−二八大阪市立早川福祉会館内 電話〇六−六二二−一一八〇、ファックス〇四二三。機関誌の年間購読料二千円。郵便振替口座は〇〇九五〇−二−二三六四三「ピア大阪」。


 ※後日記 以下の報告書が関係しているのかもしれない。
◆大阪市障害者(児)地域施設研究会 199003 『障害児者の地域自立生活の今日的課題――日本的な自立生活センター構想を中心に』,大阪市障害者(児)地域施設研究会,28p. ※r


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自立生活センター  ◇『季刊福祉労働』  ◇立岩 真也
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