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「自立生活センター」は非営利民間組織(NPO)の一つのあり方を提示する

立岩 真也(千葉大学) 1993.11.5
第67回日本社会学会大会 於:同志社大学 配布原稿 要旨集原稿


 →『生の技法 第3版』

 障害を持つ当事者が中心となって運営する「自立生活センター」=「CIL」と呼ばれる組織が,特にここ3〜4年の間に全国各地に誕生しその活動を急速に拡大しつつある。障害者が社会的支援を受けながら自らが選んだ生活を施設でも親元でもない自分で選んだ場所で送ることを指向する運動を「自立生活運動」と呼ぶが,1970年代に始まるこの運動が新たな展開を見せてきているのである。これは,地域福祉,市民活動の新しい形態,行政と民間組織との新しい関係のあり方を目指すものとして注目に値する。1ではなぜそう言えるのか,その概略を述べる。2で,実際の活動について一部を報告する。

※ なお,CILの一つであるヒューマンケア協会(東京都八王子市)の@『ニード中心の社会政策』(共著書04…以下番号は報告に付した「論文etc.一覧」に対応)がTを含む全体的な構想・戦略を示している。
 Uは,1993年度の千葉大学社会学研究室3年生の調査報告A『障害者という場所――自立生活から社会を見る』(共著書03),特に第2章,石井雅章・井上智紀・寺本晃久「CILの現状――質問紙による調査から」(pp.39-58)に依るところが多い。データの集計,分析にあたっては特に石井雅章君の貢献が大きかったことを記しておく。
※ 会場にA(375p.,1200円)とA+@の合本版(375p.+89p.1500円)を用意しています。今回報告できない多くの事実,論点が示されています。御購入いただけると幸いです。

T 自立生活センター(CIL)とは何か

(1) 自立生活センターの位置〜社会領域の再編成
 「自立生活」とは,障害者が,A@:社会的支援を得ながら,AA:地域の中で自らの選んだ生活を送ることを意味する★01。「自立生活センター」とは,それをサポートするためにB:障害を持つ当事者が中心になって運営される,C:いくつかの種類のサービスを提供する組織である。D:営利を目的とした組織ではないが,サービスは基本的に有料のものとし,E:スタッフも有給で働いている。F:自治体等による助成を求め,得られるところでは助成を得て活動している。
 Aは,なぜ自立生活センターがあるのか,その理由・目的である。B・Cはその目的を果たすために誰が,何をしているのかである。具体的には,介助の利用者と介助者を登録し,両者間の調整を行う「介助派遣」,援助を得ながら自らの生活を地域で営むために,自らに対する自信を獲得し,生活の具体的なノウハウを学ぶことを支援する「自立生活プログラム」「ピア・カウンセリング」(ピアは同輩の意)★02等。他に住宅等に関する情報提供活動や,団体によっては移送サービス等も行う。
 AAは当事者の望む生活が実現されるべきことを言う。そのためにB・C:当事者がよく生きようとすることを支援し,サービスの供給に関わるべきだする。福祉を受ける側にだけ障害者があるのでなく,自らが主体となって事業を行なう。
 D〜Fは運営のあり方に関わるものであり,現実に全ての組織がこうした形態を取れているのではないが,これらもまたAに関係する重要な意味を持っている。
 D:サービスは基本的に有償のものとして捉えられる。例えば介助サービス。第一に,有料化しないと必要な「量」を調達することができないからである。第二に,契約関係の下に置くことで,時に頼りなく特に独善的な相手の意思に左右されず,自分の要求をはっきり主張し(→A3.),介助の「質」を確保しようとするという意図もある。だがこれらだけではない。第三の理由は,「負担」のあり方,「公−私」の関係のあり方に関係する。
 これまでの「社会福祉」を巡る思考,そして実践は,公か私かという対立軸,そして無償か有償かという対立軸を巡って動いてきた。「自分でみんなやりなさい」の反対は「すべてを公的な福祉が行なう」である。「お金を出して買う」の反対は「清く貧しいボランティア」である。立場は様々である。@:市場を万能とする立場,A:家族を基本とすべきだとする立場,B:政治が全ての必要をまかなうべきだとする立場,C:ボランティアに全面的な期待を寄せる立場。「自由主義者」は@,「保守主義者」はA,(保守的な自由主義者は@とAの組合わせ),「革新派」はB,「人道主義者」はCを主張してきた。例えば,行政が直接提供する=良い,(有償というと)営利企業=金儲け=悪い,でなければ「ボランティア」=良いという発想もこれらの中に位置づく。
 自立生活センター=CILはそのいずれの立場もとらない。サービスを行なう負担を,直接の提供者に求める,つまりその者を「ボランティア」とする(→C)のでもなく,利用者の自己負担とする(→@)のでもない。社会全体がこれを担うべきだと考える(→AA)。ただ,社会の全ての者が直接に参加することを望めない。とすると,負担できる者は税金や保険料といった形で負担し,それがサービスの提供に対する対価として支払われるのが最も合理的である。また参加への回路を開き,直接的な参加者の層の拡大を図るためにも有償化は有効である。彼らは,「福祉」に関わる仕事の全てがフルタイムの労働者,専門家により担われる必要はなく,様々な人の(その人の様々な仕事の中の)一つの仕事であってよい部分があると考える。
                  
                  
   @市場        C政府        (市場)       政府
                    
       or    or                 資源
                        行為       負担
         利用者       ・         利用者
                    
        or    or      
                    
   A家族       Bボランティア      (家族)       (ボランティア)
                    
                    
                    

 これは,政府がサービスの提供まで直接担当すること(→B)を意味しない。むろんそれは施設という場で提供されるべきではなく,誰からどのようなサービスを受け取るのか,決定は利用者に委ねられるべきだと考える(→AA)。つまり資源の供給とサービス(の提供者)についての決定を分離し,前者を政治的再分配によって確保し,後者を当事者(利用者)に委ねればよいと考える。これはサービスの提供が有償のものとして行なわれることを意味する(→D)。
 しかし個人が単独で供給された資源を利用し,サービスを利用することは難しい。ならばそこに組織が介在すればよい。CILがその位置(の一角)を占める。ここでも,本来なら「公」が供給すべきものを仕方なく「肩代わり」しているのだという言い方もできる。実際CILの活動もそのようなところから出発した部分がある。しかしそれだけではない。当事者こそが当事者に必要なものを最もよく提供できるのだという,より積極的な認識がある(→AA)。ここに当事者が主体となり運営される組織の意味がある(→B・C)。
 例えば介助サービスについて,下のような形が想定される。★03

        選択/対価             選択   
   利用者         介助者     利用者         介助者  
         介助                  介助   
      利用料                 利用料   
         媒介組織                媒介組織   
    費用              or 対価   
           助成                  助成   
                        
         政府                  政府   
                       

 この組織が民間の組織でありながら,その運営に対する公的な助成を積極的に求めているのも同じ理由からである。この活動は片手間ではできない。かなりの費用がかかり,現状ではその負担を利用者に求めにくい。また,職を見つけにくい状況下で,他で得た収入を活動に使うことも不可能であり,むしろこの組織での仕事が職業としてあることを望む。こうした現実が実際にある。しかし,CILへの支援を正当なものとして求める理由は別にある。この組織が行なっていることが社会全体による支援の一部であり,しかも当事者がこの仕事を担当するのが一番適切であるのなら,そして直接サービスの利用者にこうした組織の利用料を含めて給付することが当面できないというなら,その活動に対して支援がなされてよい。これが理由である。(→E・F)★04
 つまり,1.障害を負うことによる生活上の必要については政治的再分配策による全社会的な資源の供給を求めながら,2.資源の活用の仕方(誰に直接的な援助を依頼するか,等)については当事者に決定を委ねるべきだとし,さらに3.当事者の自己決定を可能にするために当事者が中心となった組織が介在するのが望ましいと考え,しかもその際,4.市民の直接的な活動への参加の可能性を開こうとする。当人の自己負担,自助努力,あるいは家族による負担を第一とするのでなく,かといって全てを行政に委ねるのでもなく,さらに無償のボランティアに全面的に頼ろうというのでもない。
 近年,非営利民間組織(NPO)の意義が語られる。意義があるのは疑いない。しかしこの国のCILは単にその意義,当事者の参画の意義を言うのでなく,また政府との関係を単に並立的に捉えるのでなく,その関係のあり方を理念と現実から構築しようとしている。社会的な支援形態のいくつかのものを組合わせ,全体を組み替え,最適のシステムの構築を目指そうとしている。そして,こうして新しいあり方を模索するものであるために,様々な困難を抱え,また様々な工夫を重ねてその解決の方向を探っている。その活動は注目に値する。

(2) 「事業」の「運営」
 事業,組織の運営を巡る方法論についても様々な工夫が見られる。これもNPOのあり方を考える上で重要な点だと考える。
 当事者主体の組織一般とCILとの差異を,「センター」「サービス」「プログラム」「カウンセリング」といった言葉が用いられること自体から捉えることができる(無論,米国のCILから言葉を輸入したという理由もあるのだが)。例えば「自立生活プログラム」や「ピア・カウンセリング」。こうした大仰な名前が冠せられてはいなかったにしても,当事者のグループの中で,様々な助言はこれまでも行なわれてきた。参加者は,そのグループ,グループに属する者に惹かれ,自らの新しい生き方を見い出してきた。むしろそのために当事者のグループがあると言ってもよい。ただ,それをことさらに「プログラム」と銘打ち,「サービス」として提供すること自体の意味がある。
 サービスはパッケージ化されて提供される。場所,期間,料金が設定される。契約の条件が設定され,解約の条件も定められる。このサービスはこういう必要に対応しているということが予め示される。その時その時の関係の中では相手が必要な情報を持っていなかったり,濃淡やむらがあったものが,全体を見通したシリーズの中で提供される。
 このことによって利用者は一貫性・総合性を持ったサービスを受け取れる。同時に,その一部を切り取って利用することができるようになる。自分の必要に合わせて,期待するものを受け取ることができる。また,偶然に出来上がった人間関係やつてに頼って行なわれてきたものが,サービスの存在と内容が公開され可視化されることによって,それを必要とする全ての人に開かれたものになる。
 こうして「自立生活センター」は,見知っている人,知り合うことになった人の集まり,同じ考えを持った人達が集う場から,不特定多数の人に対して開かれた組織になる。このことは,運営する側に明確な理念があることと背反しない。組織の運営への参加は開かれているが,それに距離をとる人がいるのであればそれはそれでもよい。例えば介助サービスだけを受けたいのならその人もまた会員となれる。入口は広くとられており,そこで利用者が何が必要なのかを考え,受け取る。提供されるものはCILの理念に沿って提供される。提供されてよいのに提供されてこなかったものを求める人に提供し,それによって各々の人が生きやすくなること,暮らしやすくなることをサポートする。その目的を果たすためにこのようなかたちが選択されるのである。
 そしてここでもう一つ無視できないのは,パッケージ化されること,かたちを持つこと,そして基本的にこの組織への参加の要件をサービスが必要であることによって捉えることによって,外側からもそれが「事業」として認知されやすくなることである。今まで,私的関係の中でなされてきたもの,したがって無料であり,また社会的な支援,公的な助成の対象にもならなかったものが,はっきりしたかたちを持ち,「こういうサービスをやっていますから誰でも参加して下さい」と外部にも公表され,行なっていることが事業実績としてのかたちを持ち,データが集積され,それをアピールしていくことができる。このことによって,外部からの支援・助成を受けるための正当性の獲得が容易になる。

 1986年に(1)・(2)の主張とスタイルを持った組織=CILとしては最初の組織,「ヒューマンケア協会」(東京都八王子市)が設立される★05。その「運営の理念」は次のようなものである。

 1.これまで,福祉サービスの受け手であった障害者が,サービスの担い手となり,
   障害の区別なく,老人を含む,全てのハンディキャップ者にサービスを提供する。
 2.有料のサービスを提供するために企業的な運営手法を取り入れ,職員も全て有給
   とし,障害者の新たな職域作りをめざす。
 3.自立生活は自らの生活をコントロールすることであり,意志決定,目標決定など
   を,自らできる障害者を育てる。
 4.障害者が地域で自立生活をおくれるよう,以下のサービスを提供する。
    @介助サービス A自立生活プログラム Bピアカウンセリングプログラム
    C権利擁護運動

※ ただ(1)・(2)について公平に,正確に言えば,次のようになろう。(2) は――米国の組織の方法論を採用することで――この時点で明確に示されている。(1) については当初(介助サービスに限れば,当事者主体という主張を除けば)民間の有償ボランティア組織全般とさほど変わるところがなかった。しかし,障害者を対象とする有償の事業は「公的保障」を前提として初めて可能なものであり,それを要求してきた当事者組織の運動を前提とするものだった。さらに,それらの組織自体がCILという組織形態を採用し出した。こうした両者の関係の中で,また自らの立場を明確にしようとする努力の中で,(1) が次第に確立されていったのである。

(3) 全国自立生活センター協議会 ★06
 1991年11月,「全国自立生活センター協議会」(JIL=ジル)が,「自立生活センターの設立,提携,制度化」(規約第三条「目的」)を目指して結成され,活動を始めた。団体を構成員とする協議会であり,会員は正会員と準会員と未来会員からなる。「正会員」は以下の5つの条件を満たす団体である。これはJILによる「自立生活センター」の定義でもある。

 1.所長(運営責任者)と事務局長(実施責任者)は障害者。
 2.運営委員の過半数は障害者。
 3.権利擁護と情報提供の基本サービスの他に介助,住宅,ピアカウンセリング,自立   生活技能プログラムの中から二つ以上のサービスを不特定多数に提供している。
 4.会費が納入できる。
 5.障害種別を問わないサービスの提供。                    
 「準会員」は3の中で1つ以上のサービスを現に行っているか近々行う具体的な計画がある団体。「未来会員」は,将来自立生活センターの活動を行うことを志向する団体。この基準をもとに各団体がどれを選ぶか自己申告する。こうして3種あり,そして「未来会員」という奇抜なものが存在するのは,CILがCILである条件をはっきりさせながらも,構成団体を出来るだけ広げ,これから本格的な活動を始めようとする団体に対して積極的な支援を行おうという意図からである。総会での議決権等に差はない。94年9月現在の会員団体は42,加盟団体数の推移と各団体の発足年を表1・表2にまとめた。

表1 JIL加盟団体数の推移         表2 JIL加盟団体発足年分布
9111 9209 9309 9409 発足年 〜80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93
正 13 14 15 16 団体数 7 1 1 0 2 1 1 0 2 5 5 7 3 7
準 2  5 6  8                ★       ☆
未 1 10 15 18
計 16 29 36 42
 総団体数:42 ★:ヒューマンケア協会設立 ☆:自立生活協議会(JIL)設立

U 事業の実績と特徴

 述べたように,CILの提供するサービスは多様だが,今回は介助サービスに限り,全国社会福祉協議会による非営利民間の在宅福祉団体全般に対する調査結果(全国社会福祉協議会『平成4年度住民参加型在宅福祉サービス調査報告書』,1993年,以下「J調査」と略)との比較を行ないながら,CILの活動の実態と特徴を報告する。

(1) 介助時間/件数/…

   表3 1992年度・1993年度CILの総計(15団体・20団体) 総計 介助総時間  介助件数  介助利用者数  介助者数
1992CIL 147,471.5時間 37,647件    504人    975人
1993CIL 202,641.5時間 53,210件   851人 1,690人

   表4 1992年度・1993年度CILとJ調査団体(1991年度)の平均 ※ 平均 介助総時間  介助件数  介助利用者数   介助者数
J調査団体 A 14,980.0時間 B 4,892件 C 76人(48人) D 60人(49人)
1992CIL   9,831.4時間   2,896件    36人   70人
1993CIL 10,132.1時間 2,956件    45人 89人

   表5 1992年度・1993年度CILとJ調査団体の単位別データ
年度 介助総時間/件数 件数/利用者 件数/介助者 介助者/利用者
J調査団体 3.1時間/件 43.3件/人 55.2件/人 0.8人/人
1992CIL   3.9時間/件 74.7件/人 38.6件/人  1.9人/人
1993CIL   3.8時間/件 62.5件/人 31.5件/人  2.0人/人
 JIL加盟40団体で介助サービスを実施しているのは,20団体(93年度,試験的実施も含む)である。他方,J調査によれば,92年2月現在の「住民参加型在宅福祉団体」の総数は452団体,このうち「住民互助型」が147団体である。調査時期が違うため単純に比較できないが,住民参加型団体の総数の4〜5%,住民互助型団体の12〜14%を占める。
 介助サービス実施団体の増加,各団体の介助時間数の増加に対応して,CIL全体の介助総時間は増えている。J調査は 452団体で換算すると――実際より多くなるだろう――
6,770,814時間になるとしている。この時間に対する 92年度・93年度のCILの実績の割合を求めると2.2〜3.0%になる。
 J調査団体の平均介助時間はCILの 1.5倍程だが,各団体の介助時間数の分布をみると(表は略),年間1万時間以上の介助実績のある団体は29%,住民互助型サービス団体では 8.5%に対し,CILでは45%に達する。年間2〜3万時間供給しているCILもあり,運営が軌道に乗り出したCILは比較的大規模な介助サービスを行っている。

※ J調査では団体類型別の総数及び表4A・Bの平均値の記載がなく,比較して参考になる「住民互助型」団体についての数値がわからない(表4C・Dについては記載がある。左は調査団体全体の平均,右の括弧内は「住民互助型」についての平均)。「行政関与型」「福祉公社型」「施設運営型」など,財政的基盤が安定している団体,既存の大きな組織が運営する事業は事業規模も大きい。

(2) サービスの内容・質
 J調査では,サービス水準の目標についての質問には重介護サービス,看護サービスまでをあげる団体は,3割程度しかいない(表6)。また重介護サービスや看護サービスまで求められたときの対応について聞いたところ,自団体内で対応している(対応していく)という回答は,2割程度にとどまっている(表7)。

表6 J調査団体のサービス水準目標  表7 重介護・看護サービスまで求められた場合の対応
  めざすサービスの程度 % %
家事援助サービスの範囲 37.1 専門的機関,福祉事務所等を紹介する程度 26.7
軽易な介護・介助サービスまで対応 63.8 専門的機関,福祉事務所等に連絡,サービス調整 51.6
重介護サービスまで対応 23.5 対応する機能がなくてもなんとか対応 12.8
看護サービスまで対応 9.6 専門的機能を持っているので対応している 8.4
無回答 0.6 そこまでの機能がないので断るだけ 8.7
無回答 7.5

 他方,全てのCILは身辺介助に対応しており,介助の内容について記入を求めた質問では身辺介助が第一にあげられている。例えば「自立生活センター・立川」は「一人暮らし二四時間の介助なんでも」と記入している。家事援助等は身辺介助と同時に当然行なわれている。また,移動介助も行っており,「家の中」でのサービスに限らないサービスが提供されている。(1団体あたりの介助者数,介助1件当たりの時間,利用者あたりの利用件数,利用者あたりの介助者数の違い(表4・表5)も,CILが特に重度の障害者に対する介助サービスの提供をめざしているためと考えられる。)
(3) 介助者の層
 介助者の男女比に大きな差がある。CILの介助者に占める男性の割合は40.6%であり,J調査団体の 3.8%に比べ,はるかに男性の割合が高い。
 CIL10団体の介助者の総数を社会的属性別にみると,学生が最も多く(31.2%),次が主婦(24.9%)。他に職業を持つ人も全体の3分の1程度を占める(表8)。個々に見ると,「HANDS世田谷」では会社員・公務員の数が主婦の数を超え,「ホットハートしみず」では会社員・公務員の数の割合が最も高い。
 他方,J調査団体の担い手の89.6%は40〜60歳代,常勤で働いている人,パートタイムで働いている人の割合が 8.4%,23.8%である。ほとんどが女性であることは先に見た。中高年の専業主婦あるいはパートタイムで働く主婦の割合が非常に高い。介助者の社会的属性の分布がはっきり違う。
 CILの提供する介助はまず入浴介助等の身辺介助であり,介助という仕事自体がかなりの重労働になる場合がある。また夜間を含む一日の全ての時間が介助の必要な時間であるとき主婦層はそれに応じることができない。さらに,施設等で異性による介助が当たり前のようになされてきたことを彼らは批判し,同性による介助を原則としている。介助という仕事が「女の仕事」であると考えない。CILはこうした現実と原則から介助者を広範に募集してきた。これは所謂在宅福祉団体の多くが,中年の主婦層を中心として自らの親の世代に近い高齢者に対する家事援助を,家庭という枠を超えて,しかし主婦という集合の中で行おうとして,あるいは行わざるをえない中に成立し運営されているのと明確に異なる。調査結果はこのことを示している。

           表8 CILの介助者の社会的属性
学生 主婦 勤め人 福祉関係 自営業 障害者 無職 その他
人数 417 333   334   95 23   10  54 68 
% 31.2 24.9 25.0 7.1   1.7 0.7   4.0 5.0



★01 以下,報告者が関係する文献に限り,「一覧」の番号を用いて関連文献をあげる。他の重要文献につき,詳しくは書01・04・05の文献表を参照のこと。自立生活(運動)にいて書01(特に運動の歴史的な展開について文08)。この書は増補・改訂される(書06)。介助システムについての章(文09)を書き換え,CILについての章を加える予定。
★02 前者につき文21・書03,後者につき書03,千葉大学報告書(書04)第1章(文36)。
★03 介助に関わる制度について文09・26・29。千葉大報告書(書04)中の小山雄一郎「公的介助保障の現状と展望」(他にホームヘルプサービスとCILの提供するサービスについて比較した金山信一「介助者をどこに求めるか」)。
★04 非営利民間団体への助成制度について文23・34・41。また千葉大報告書(書04)中の梁井健史・原田康行「自立生活センターに対する行政の支援体制」。
★05 この組織の他,「町田ヒューマンネットワーク」,「自立生活センター・立川」について,千葉大報告書(書04)中の小山雄一郎・石井雅章「3つのCIL」。
★06 cf.文24,千葉大報告書(書04)第1章(文36)



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