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「自立生活センター」は非営利民間組織(NPO)の一つのあり方を提示する

立岩 真也(千葉大学) 1993.11.5
第67回日本社会学会大会 於:同志社大学(報告要旨 06.30提出) 配布原稿


 →『生の技法 第3版』

1.社会的諸領域の再編成
 障害を持つ当事者が中心となって運営する「自立生活センター」=「CIL」と呼ばれる組織が,特にここ3〜4年の間に全国各地に誕生しその活動を急速に拡大しつつある。障害者が社会的支援を受けながら自らが選んだ生活を施設でも親元でもない自分で選んだ場所で送ることを指向する運動を「自立生活運動」と呼ぶが,1970年代に始まるこの運動が新たな展開を見せてきているのである。これは,地域福祉,市民活動の新しい形態,行政と民間組織との新しい関係のあり方を目指すものとして注目に値する。1ではなぜそう言えるのか,その概略を述べる。2で,実際の活動についての当日の報告の一部を予告する。
 「自立生活」とは,障害者が,A1.:地域の中で,2.:社会的支援を得ながら,3.:自らの選んだ生活を送ることを意味する。
 「自立生活センター」とは,それをサポートするためにB:障害を持つ当事者が中心になって運営される,C:いくつかの種類のサービスを提供する組織である。
 D:営利を目的とした組織ではないが,サービスは基本的に有料のものとし,E:スタッフも有給で働いている。F:自治体等による助成を求め,得られるところでは助成を得て活動している。
 Aは,なぜ自立生活センターがあるのか,その理由・目的である。
 B・Cはその目的を果たすために誰が,何をしているのかである。福祉を受ける側にだけ障害者があるのでなく,自らが主体となって事業を行なう。具体的には,介助の利用者と介助者を登録し,両者間の調整を行う「介助派遣」,援助を得ながら自らの生活を地域で営むために,自らに対する自信を獲得し,生活の具体的なノウハウを学ぶことを支援する「自立生活プログラム」「ピア・カウンセリング」(ピアは同輩の意)等である。他に住宅等に関する情報提供活動や,団体によっては移送サービス等も行う。
 D〜Fは運営のあり方に関わるものであり,現実に全ての組織がこうした形態を取れているのではないが,Aに関係する重要な意味を持っている。
 D:サービスは基本的に有償のものとして捉えられる。例えば介助サービス。第一に,有料化しないと必要な「量」を調達することができないからである。第二に,契約関係の下に置くことで,時に頼りなく特に独善的な相手の意思に左右されず,自分の要求をはっきり主張し(→A3.),介助の「質」を確保しようとするという意図もある。だがこれらだけではない。第三の理由は,「負担」のあり方,「公−私」の関係のあり方に関係する。
 これまでの「社会福祉」を巡る思考,そして実践は,公か私かという対立軸,そして無償か有償かという対立軸を巡って動いてきた。「自分でみんなやりなさい」の反対は「すべてを公的な福祉が行なう」である。「お金を出して買う」の反対は「清く貧しいボランティア」である。立場は様々である。@:市場を万能とする立場,A:家族を基本とすべきだとする立場,B:政治が全ての必要をまかなうべきだとする立場,C:ボランティアに全面的な期待を寄せる立場。「自由主義者」は@,「保守主義者」はA,(保守的な自由主義者は@とAの組合わせ),「革新派」はB,「人道主義者」はCを主張してきた。例えば,行政が直接提供する=良い,(有償というと)営利企業=金儲け=悪い,でなければ「ボランティア」=良いという発想もこれらの中に位置づく。
 自立生活センター=CILはそのいずれの立場もとらない。サービスを行なう負担を,直接の提供者に求める,つまりその者を「ボランティア」とする(→C)のでもなく,利用者の自己負担とする(→@)のでもない。社会全体がこれを担うべきだと考える(→A2.)。ただ,社会の全ての者が直接に参加することを望めない。とすると,負担できる者は税金や保険料といった形で負担し,それがサービスの提供に対する対価として支払われるのが最も合理的である。また参加への回路を開き,直接的な参加者の層の拡大を図るためにも有償化は有効である。彼らは,「福祉」に関わる仕事の全てがフルタイムの労働者,専門家により担われる必要はなく,様々な人の(その人の様々な仕事の中の)一つの仕事であってよい部分があると考える。
 これは,政府がサービスの提供まで直接担当すること(→B)を意味しない。むろんそれは施設という場で提供されるべきではなく(→A1.),誰からどのようなサービスを受け取るのか,決定は利用者に委ねられるべきだと考える(→A3.)。つまり資源の供給とサービス(の提供者)についての決定を分離し,前者を政治的再分配によって確保し,後者を当事者(利用者)に委ねればよいと考える。これはサービスの提供が有償のものとして行なわれることを意味する(→D)。
 しかし個人が単独で供給された資源を利用し,サービスを利用することは難しい。ならばそこに組織が介在すればよい。CILがその位置(の一角)を占める。ここでも,本来なら「公」が供給すべきものを仕方なく「肩代わり」しているのだという言い方もできる。実際,CILの活動もそのようなところから出発した部分がある。しかしそれだけではない。当事者こそが当事者に必要なものを最もよく提供できるのだという,より積極的な認識がある(→A3.)。ここに当事者が主体となり運営される組織の意味がある(→B・C)。
 この組織が民間の組織でありながら,その運営に対する公的な助成を積極的に求めているのも同じ理由からである。この活動は片手間ではできない。かなりの費用がかかり,現状ではその負担を利用者に求めにくい。また,職を見つけにくい状況下で,他で得た収入を活動に使うことも不可能であり,むしろこの組織での仕事が職業としてあることを望む。こうした現実が実際にある。しかし,CILへの支援を正当なものとして求める理由は別にある。この組織が行なっていることが社会全体による支援の一部であり,しかも当事者がこの仕事を担当するのが一番適切であるのなら,そして直接サービスの利用者にこうした組織の利用料を含めて給付することが当面できないというなら,その活動に対して支援がなされてよい。これが理由である。(→E・F)
 つまり,1.障害を負うことによる生活上の必要については政治的再分配策による全社会的な資源の供給を求めながら,2.資源の活用の仕方(誰に直接的な援助を依頼するか,等)については当事者に決定を委ねるべきだとし,さらに3.当事者の自己決定を可能にするために当事者が中心となった組織が介在するのが望ましいと考え,しかもその際,4.市民の直接的な活動への参加の可能性を開こうとする。当人の自己負担,自助努力,あるいは家族による負担を第一とするのでなく,かといって全てを行政に委ねるのでもなく,さらに無償のボランティアに全面的に頼ろうというのでもなく,社会的な支援形態のいくつかのものを組合わせ,全体を組み替え,最適のシステムの構築を目指そうとしている。そして,こうして新しいあり方を模索するものであるために,様々な困難を抱え,また様々な工夫を重ねてその解決の方向を探っている。その活動は注目に値する。

2.事業の実績と特徴
 当日の報告(口頭発表・配付資料)では,1993年度の千葉大学文学部社会学研究室の学生による調査結果※等,また最新の情報を用い,介助サービスを中心とし,行政機関や非営利民間の在宅福祉団体全般の提供するサービスとの比較を行ないながら,CILの活動の実態を報告する(以下は1993年度の状況,報告時には更新されたデータを用いる)。
 全国的な連絡組織に加盟している団体が40あり,20団体が介助サービスを行なっている。20団体の年間総派遣時間は20万時間程度。2〜3万時間の供給を行なっている団体もある。CILの介助サービスは他と異なり,所謂「重介護」に対応している。曜日・時間を問わずに提供されている。提供者として男性の割合が高い(約40%,民間在宅福祉団体全体では4%弱にすぎない)。活動の規模等は公的な介助料制度,法人格を持たない非営利民間団体への助成の有無,額の多少によって変わる。等。

※ 1993年度社会調査実習報告書『障害者という場所:自立生活から社会を見る』にまとめられた(40字×40行×375頁,1200円)。 CILの一つであるヒューマンケア協会(東京都八王子市)が作成した『地域福祉計画』(40字×40行×89頁)を合本した版もある(1500円)。問合せは千葉大学文学部社会学研究室(立岩)まで(→fax:043-290-2294/tel:043-290-2293/〒260 千葉市稲毛区弥生町1-33)。


REV: 20161031
自立生活センター  ◇日本社会学会  ◇立岩 真也
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