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日本社会事業大学・講義概要(1994年度)

立岩 真也


◆基礎演習

 今まで、本に書いてあることや人の言ったことをまとめる、自分の言いたいことを整理して書くあるいは言う、そして討論する、そして自分が何がわからないかがわかる、そういう機会、その訓練のための機会があまりなかったんじゃないかと思います。この演習がそういう機会になればよいと思います。君達の知らないこと、そして私の知らないことがたくさんあります。調べたことを発表してもらいます。
 テーマはいろんな領域に渡ることになるだろうと思います。ただ、私自身は何年か前から、障害を持っている人達自身が、自分達で介助サービスやら何やらを提供したり自らの権利を擁護するための組織を作って、自分達が、家族の世話になったり施設に入ったりすることなく地域で暮らしていこうとする運動(これを・・私自身はそんなに好きな言葉ではありませんが・・「自立生活運動」などと呼び、その組織を「自立生活センター」などと呼びます)に興味を持っていて、いろいろと調べたりものを書いたりしています。さらに、もっと広く、医療や福祉や教育や街づくり等々に関わり、子供や女性や高齢者や外国人に対する人権擁護の活動、サービスの提供を行っている様々な民間の非営利組織に興味をもっています。そういう組織のことを知ること、そういう組織を作ってあるいは作ろうとして活動している人達、あるいはそこを利用して暮らしている人達に話を聞いたりすること、こういうことに関わる制度等を調べたりするのは、君達にとってもおもしろいことなんじゃないかと思います。
 だとすれば、調査実習的な部分も入れて、そういう場にでかけていくこと、でかけていってもらうこともしたいと思います。どこか一つに行って見てくること、調べてくることを、このゼミ参加の要件にしようかとも考えています。その結果を発表してもらい、討論してもらいます。もちろん文章もたくさん読んでもらいます。買ってもらわねばならないものもあります。始まってから、具体的なところはいろいろと調節していこうと考えています。積極的に参加すれば得られるものはあるはずです。いろんなことを知りたい、そういう気持ちで臨んでほしいと思います。


◆社会学

 例年、社会学の担当は安立先生ですが、先生が海外出張のため今年度前期は立岩が担当します。後期は安立先生です。以下、『』内は立岩の研究内容をまとめたものです。学生向けに書いたものではないので難しいと思いますが、講義(前期)では、できるだけわかりやすくかみくだいて話すつもりです。また、近代社会、そして近代社会を理解しようとする学としての社会学の歴史的な展開を理解してもらえるよう努め、その中で私の関心事に触れたいと考えています。
 『基本的な関心は、近代社会において、誰が何について権利を有し、何について義務を負うのか、その正当化はどのように行われるのか、またそれらは社会の編成にどのような効果を与えるのか、そして私達はそれについてどう考えたらよいのかである。
 A:第一に「個人」に何が帰されるのか。例えば「能力主義」について、また「自己決定」について、どのように考えるべきか。それは「私的所有」について考えることにつながる。これらについて歴史的な検討と理論的な考察を行ってきた。そして、この作業は私による制御の外側にある「他者」についての考察を促すことになる。
 以上と関わるもう一つの関心は、B:ある行為や財が、市場/政治/家族/その他の自発性の領域の複合として構成される近代の社会のいずれに配分されるのか、またいずれかに配分されるべき、あるいは配分されてはならない理由は何かである。
 例えば「代理母」は生殖に関わる過程の一部を市場の領域に持ってくることでもある。例えばこれをどう考えるのか。これは「生命倫理学」とも重なる問題領域であり、「自己決定」や「身体の所有」を巡る問題とともに考察してきた。
 また、高齢者や障害者の介護(介助)を誰が担うのか、どのようなシステムの中でそれが供給されるべきか。特に、当事者自身が自身にとってよい生活を選んで暮そうとする時に、どのような形があったらよいのか。これまで約10年間に渡り、親元を離れ、また施設での生活からも離れて、地域で生活しようとする重度の障害を持つ人達の生活、そして彼ら自身がサービス供給の一部分を担おうとする「自立生活センター」の設立・運営の試みについて調査、研究を行ってきた。1990年に共著書『生の技法』を出版し、1995年にその増補・改訂版を刊行した。この調査研究は今後も続行され、その中では、政府でも営利組織でもない非営利民間組織(NPO)の意義についての考察も行う予定である。医療・福祉の領域における、医療・福祉を利用する当事者達の活動について調査し、NPOが、上述の4つの社会領域の中で、あるいはその間で、どのような役割を果たしているのか、専門家との関係において当事者がどのような位置に置かれ、また自らをどのような位置に置こうとするのか、専門家の果たすべき役割は何か、以上を踏まえ、医療・福祉が社会全体の中でどのようなシステムとして位置づくことが望ましいのかを検討する。
 また、このテーマとも関連しつつ、家族論(家族に課される権利と義務についての考察、性別分業として現われる市場と家族との関係についての考察)に関わる作業がある。これもまた誰が何をする権利が(例えば子を持つ権利が)あり、義務が(例えば扶養する義務が)あるのか、それが何を効果するのか(誰に利益を与えているのか)という問題であり、家族と家族でない領域との関係の問題である。』


REV: 20161031
立岩:非常勤講師・集中講義等  ◇立岩 真也
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