第六回自立生活問題研究全国集会・他
―自立生活運動の現在・11―
立岩 真也 19941225
『福祉労働』65:146-151
→『生の技法 第3版』
■第六回自立生活問題研究全国集会
十一月三日から四日にかけて「第六回自立生活問題研究全国集会」が開催された(はずである←開催前に原稿を書いている)。三ツ木任一氏(現放送大学教授)らの呼びかけで一九八九年に初めて東京で開催された集会(略称「自問研」)が、大阪→東京→名古屋→札幌と開催地を移し、その性格も回ごとに微妙に変化しながら、第六回を迎えたのである。主催は実行委員会だが、第四回集会から、第三回集会の前日に発足した全国自立生活センター協議会(JIL、連載C本誌五八号)が集会の企画・運営に関わり、第四・第五回は共催のかたちがとられた。今回の事務局は自立生活センター・立川(CIL立川→連載@・本誌五五号)内に置かれた。実行委員長には、CIL立川の菊地洋子さんとコミュニティ・チャレンジ・メイツの玉木伸吾さんの若い二人がついた。
初日は日本青年館で二つのシンポジウム「これまでの自問研を振り返って――成果と課題」「自立生活をどうとらえるか」の後交流会、二日めは戸山サンライズで、午前中に「自立生活への行政支援――自立生活センターへの行政支援を中心として」、「自立生活とマスコミ」、「障害者の自立と親との関係」の三つの分科会と、午後にシンポジウム「これからの自問研をどうするか――今後に向けて」。
プログラムからもわかるように、この研究集会がこれからどうなるのか、今考えどころにいるようだ。集会に向けた実行委員会でも議論が行われた(結論はでなかったが)。三百名余りが参加する集会を準備するのは、特に人手がそう多くない組織にとっては確かに荷が重い。その代わりに何をやるのか、そして何が得られるか。この研究集会に限らず、人が集まる時、ネットワークを作って何かする時に、何があるのか、何が求められるのか。少し考えておきたい。
@何かやっていることを知る、何かやっている人がいることを知る。知るというか感じる。そして人が集まること自体で盛り上がり、とにかく元気になる。それを研究とは言わないだろうが、しかし、何かが始まり続いていくためには、なくてはならない大切な部分である。
A各組織の実際の活動の様子や、使える制度等々についてより詳しく具体的に知る機会として。この場合には口答で伝えられることには限界がある。組織の成り立ちから今までを一人ずつしゃべって時間切れでは欲求不満が残る。それなりに周到な準備や文章化された情報の提供が必要となる。例えばJIL加盟団体の活動実績についての継続的な調査もあった方がよいだろう。研究者との関係がずっと問題になってきたこの集会だが、とりあえずは双方の利害が一致すればよいのであって、何を調べてほしいのかを明らかにして委託できる部分は委託すればよいと思う。ただし、活動の正当化に都合のよい部分だけをとってくるのでは長期的には損失になる。問題点・課題をはっきりさせるために、正しい苦言なら、苦言も聞く必要があるだろう。
B地域の一つ一つの組織の枠を越えて、これからどうしていくのか、方針を立てねばならない場合が出てきているし、そのためには継続的で集中的な議論が必要になる。その場限りの大きな集会はそういう場としては必ずしもふさわしくはない。学会などその最たるものだ。
C主張を外部にアピールしていくこと。内輪でやっていけば済む活動ではないのだから、自分達の活動を、変なふうにではなく、知ってもらう必要がある。「自立生活とマスコミ」という分科会にはそうした狙いが込められている。
そして、国の政策全体に関わるような場合には、いくら方針について議論をして、何か出ても(B)、外に向けての主張が加わらないと意味がない。
例えば「親との関係」の分科会の実行委員会では、親の扶養義務に「定年制」を設けるとよいのではないかといった議論もなされた。これは非常によいアイデアだと思う。親が死んだら、足腰が立たなくなったらどうしようといったレベルでしか語られない暗い状況に対して、こういうシンプルで具体的で積極的な主張をしていく必要がある。
また「公的介護保険制度」が、確実に、しかもかなり短期間の間に、そして高齢者の部分だけが、作られてしまう可能性が高い。これに対してものを言っていく必要がある。
B→Cの機能をどこが担うか。DPI日本会議、全障連等がいくつかのテーマについて積極的な発言を行なってきてはいるが、介助等の福祉サービスのあり方についてはどうか。なくはない。だが、大きな声をあげるところがもっとあってよい。自問研の今の実施形態では、B・Cの役割を果たすのは無理があるだろうと思う。年度ごとに作られるものでなく、恒常的に存在する組織が担っていく必要がある。JIL加盟団体の会員数は既に総計五千人を超えている。そして、既にサービス提供に不可欠な一部分を構成している。二○のCILが総計二○万時間の介助派遣に関わっているのである(九三年度)。そのような組織は、例えば介助制度のあり方に対して影響力のある発言をすることができるはずだ。JILはこのような有利な条件(そして主張する必要)を有している。団体加盟しなければ構成員となれないという制約はあるが、JILは少なくとも一つの主体となることが出来るだろうと思う。
自問研がどうなっていくのか。これは集会当日も議論されたはずである。私は判断しかねている。今回の集会には三百人の定員に四百人を超える申し込みがあり、三五○人に枠を広げて対応した。需要はあるということだ。Aの役割は、恒常的に活動している組織・人がうまくサポートすればもっとうまく果たせるだろう。また、障害をもつ当事者の間にまだ「自立生活的乗り」が根づいていない状況では、誰でも参加できて乗りを感じてもらえるこうした集会を続けていく必要があるのかもしれない(@)。ただそれを具体的な運動に結びつけていくためには、年に一回どこかに集まるというかたちだけでなく、同時に、日常的な交流やCILへの研修の受け入れをより活発に行うこと、恒常的にバックアップしていける体制があることが不可欠だ。
『資料集』が集会当日に出される。また報告集『自立生活NOW』が(多分かなり時間のたった後に)出される。事務局の自立生活センター・立川に注文すれば送ってもらえる(○四二五−二五−〇八七九)。また過去の集会の資料集・報告集の残部は、知る限りではJIL事務局(ファックス兼用○三−三二三五−五六三七)に何冊かずつある。
■自立生活センターに対する助成・その後
私が実行委員として参加したのは公的助成についての分科会である。今年六月のJILの総会の時に行なわれたシンポジウムでもこのテーマが取上げられた。この連載も、偏りすぎでこれでは看板に偽りありだと思いながら、介助保障と組織に対する助成を集中的に取上げてきた。重要な関心事の一つではあるからと自らに言い聞かせつつである。
実行委員達は何回か会合を重ね、今獲得できる、あるいは今後可能性のある助成についてまとめ資料集に掲載した。四百字で約一二〇枚分である。先にあげた中ではAを狙ったのである。以下、詳しくは資料集を見て下さい。
0:有償のサービスを利用するために、なされるべきことの第一は、所得保障と介助等の費用の支給である。介助保障制度を中心に、その現状を概観した。
だが同時に、有益な事業をやっているなら、少なくとも社会福祉法人と同じ助成を受けてよい。CIL立川の事務局長の野口俊彦さんは次のように述べている。
「私たちが自立生活センターを社会の人的資源を有効に配置し機能させるシステムとして位置づけることが、行政との関係でも大事です。特定のグループ(共同体)の中だけの利益を求めているように見られないようにしましょう。不特定の市民に対してサービスを提供することを目指すべきです。このことによって、行政ができなかったり、気づかなかった福祉サービスの必要性を掘り起こすこともできます。そしてそれを行政に問い直すことも大事です。
また自立生活センターの果たす機能が行政や他団体では果たせないものであることを私たちが認識し、行政に認識させることが必要です。自立生活プログラムやピア・カウンセリングは障害当事者にしかできないことを言っておきましょう。立川市ではピア・カウンセリングはこれから行政が支援する事業として、地域福祉総合計画に含まれています。介助サービスについても行政の提供するホームヘルパーや他の民間団体では障害当事者の自立生活に合ってないことを強調しましょう。本来、生活の中心者は障害当事者なのです。生活を行政サービスに合わせる必要はないのです。障害当事者が普通の生活を営むことができることを自立生活センターの機能が立証することです。そのことによって改めて行政のサービスの不備がわかるでしょう。行政にも自らのサービスが行政責任を果たしていない自覚を持ってもらうことです。そのことを前提に関係を作ることが大切です。そうでないと無視されたり、一方的に利用される関係になりがちです。行政の対応についてあきらめないで何度でも同じテーマで話を継続することが良いような気がします。」
主張の仕方として加えるべきことはない。「調査・研究」の一つの意味は、以上を検証すること、現実が主張通りでないならその要因を探ることである。前々回でも紹介した千葉大学の調査(報告書は四○行×三七五頁、千五百円、問合せは立岩:ファックス兼用〇四二二−四五−二九四七)は、右に言われていることをほぼ裏付けている。
「住民参加型在宅福祉サービス団体」の中で「重介護」まで行なっているのは、回答数三四五団体のうち七五団体、以前より増えてはいるのだが二一・七%、「めざすサービスの程度」としても「重介護サービスまで対応」「看護サービスまで対応」は二三・五%、九・六%にすぎない(九二年度の全国社会福祉協議会の調査)。重度の障害を持つ人にとってこれでは役に立たない。またホームヘルプサービスの現状は知っての通りである。それに対して、CILは、当然、重度の障害を持つ人に対する身辺介助を行っているし、また夜間・休日にも対応している。また、全社協調査では介助者のうち九六・二%が女性であるのに対して、CILでは介助者の四○・六%が男性であるという重要な違いもある。そして助成(の規模)と事業(の規模)は正確に対応している。介助者派遣、自立生活プログラム双方について言えることだが、介助派遣をとれば、助成額が九百万円のところで、介助派遣実績として三万時間のCILがある。一時間三百円程度である。こうしたデータを集積し、助成の必要性と有効性をアピールできるはずだ。
本題に入ろう。受けられる(可能性のある)助成として次のものがある。資料集に掲載される文章から紹介する。
T:「雇用促進法」(「障害者の雇用の促進等に関する法律」)による助成は、CILで障害者を雇用することで、今すぐに使える。これについては大野直之氏が非常に実践的に制度を紹介し使い方を示している。
特に事業の運営がまだ軌道に乗っていないセンターの活動の立ち上げの時期に役立つ。書類さえ指定された通りに書いて出せば、確実に助成される。重度の障害者の場合、給料の四分の三(不況に対応して今年度いっぱい率が上げられている)が助成される。そして必要な機器、職場の改造、働く人の住居・通勤用の自動車・駐車場についても、また職場での介助者の雇用(身体障害者の場合は五人以上に一人と条件がきびしいが)に対する助成もある。例えば、二人を雇用すれば、三年間で七百万円以上の助成を受けることができる。全国一律の制度だからどこの地域のセンターでも利用できる。等々が資料集に紹介されている。他に共同連(〇六−五六七−五一七〇、五百円の解説書を出している)、全国公的介護保障要求者組合(ファックス兼用〇四二四−六二−五九五五)が詳しい。
雇用促進法による政策は助成の期限が限られている等々の問題がある。雇用については『福祉労働』の前号でも特集されていたが、私自身は、現行の日本のシステムはうまく機能していない、少々手直してもあまりよいものにならないと考えている。すっきりさせるには、ADAのような雇用差別禁止立法+(生活保護よりましな)所得保障制度(+個々人に対応した就労のためのプログラム)によるのがよいと考えている。しかし、この制度はともかくそのまま全国で誰でも使える。使えるものはもらさず使えばよい。
U:「東京都地域福祉振興基金」による助成については連載B(本誌五七号)の内容に九二〜九四年度の実績・予算を加えた。基金は五百億円。助成総額は八八〜九三度に約一億四千万→二億四千万→三億九千万→六億一千万→七億七千万→十億二千万と増え、九四年度予算は十一億二千万円ほど。介助者派遣(助成額の上限九百万円)、自立生活プログラム(五二五万円)、移送サービス(七五○万円・初年度)を行っている都内のCILは全て助成を受けており、以上の二〜三つの事業を行っている場合には、年間千四百万〜二千万円くらいの助成を受けられる。
V:Uと同じような趣旨で国(自治省・厚生省)が都道府県・市町村に設置させるものとして「地域福祉基金」がある。基金の総額は九六〇〇億円で、人口比で見た場合この額は東京都の基金に比べむしろ多い(約二倍)のだが、実際にはほとんどCILに降りていない。この制度のこと、そして東京都の基金の使われ方を知り、その上で自治体と交渉し、助成を得ることができるはずである。また各CIL間で情報を交換する必要もある。連載G(本誌六二号)以降特に新しい情報はなく、資料集に掲載した内容はほぼそのまま。何か情報があったら教えて下さい。
W:「「障害者の明るいくらし」促進事業」は厚生省が金を出し都道府県・政令指定都市が実施する事業で、年間十九億三四〇〇万円、一県あたり六九〇〇万円(九四年度)の予算が組まれている。非常に多くの事業があがっているので、一つ一つの事業に対する助成はそう大きなものにならないかもしれないが、少なくともいくつかの事業は現にCILが行っているものであり、この枠からの助成を求めることができるかもしれない。
X:「ホームヘルプサービス」の受託団体になる方法は前回紹介した(連載I・本誌六四号)。これまで受託したCILは実際にはないが、可能性はあり、委託を受けた場合、「事業委託基準」で一回(二〜三時間)六〇六〇円が支払われるというものである。
Y:以上と別に自治体、特に市による独自の助成を要請し、助成を受けているCILがある。CIL立川の場合、九四年度は立川市から約一八三〇万円の助成を受けている。資料集では事務局長の野口さんが行政との関係のあり方について述べている。先に引用したのはその一部である。
Z:「法人化」。現状では法人格の取得が難しく、そのわりに利点が少ない場合がある。資料集では利点・難点を並べ上げて資料としたが、問題があるなら公益法人に関わる制度自体を変えるべきだという主張も可能だ。いわゆる非営利組織(NPO)をどう位置づけるか、公益法人の制度をどうするか、他の場でも議論がここ数年高まっている。このテーマについても機会があったら報告したいと思う。
■この文章への言及
◆安積 遊歩・立岩 真也 2022/**/** 『(題未定)』,生活書院