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生活保護他人介護加算

―自立生活運動の現在・6―

立岩 真也 1993/09/25
『季刊福祉労働』60号


□この文章に言及している本

◇立岩 真也 2020 『(本・1)』,岩波新書


使えるものは使う
 生活保護を受けている人あるいは受けられる人で、一日四〜十時間(以上)の介助(ただし家族外)を要する人なら、月に七〜十七万円ほどの介護加算を受け取ることができる。金額の多い方の手続きは確かに面倒だが、既にこの制度を利用している人達の助けを借りるなら、なんとかなる。詳しくは後で紹介する「全国公的介護保障要求者組合」へ。まず、利用してみようという人への情報はごく簡単に言ってしまえばこれだけ。これ+αが今回の報告。
 というわけで今回のテーマも介助保障に関わる。なかなか偏っている。けれど例えば建物・住居・移動については、前号の『福祉労働』の特集等の記事もある(当方に条例をコンピュータのファイルとして収録したものがあります)。そして、介助はやはり重要なことの一つではある。前にも書いたが、私は、介助(費用)の支給の基本は生活保護以外の全国的な制度であるべきだと考える。そして、それに現実的な可能性がなくはないとも思う。しかし、まがりなりにも介助費用の(「介護人」への)支給制度がある東京都(「東京都脳性麻痺者等介護人派遣事業」については前号の連載・5を参照のこと)等の自治体を除けば、介助に関して利用できるのは、他人介護加算以外には、まだまだ貧弱なホームヘルプサービスだけである。(これにもかなりの自治体間格差がある。その紹介は別の機会にゆずる。)障害基礎年金制度の導入と同時に設定された「特別障害者手当」というものも、あることはある。だが、その性格はあいまいで支給額も十分でない。介助料と解釈すべきとの説もあるが、少なくとも現実にはその機能を果たしてない。
 東京都では、基本的な生活を自立生活センターのスタッフとしての給料と年金、介助に関わる部分をホームヘルパーと介護人派遣事業と市の独自の上乗せ分を利用することで、生活保護の受給をやめる人がわずかに出始めているが、これはまだごく一部分の人のことだ。生活保護の枠内の制度は、当然その受給者に限られるという限界があり、また受給資格要件が厳しく手続きも難しい。そして、生活をそれで成り立たせていくに十分とは言えない。しかし全国的な制度としてあるのはともかくこれだけだ。障害基礎年金+特別障害者手当ではもっとどうにもならないのだから、依然として生活保護は大きな意味を持つ。この制度の支給者の枠の拡大、充実を求める運動が、二十年近く続けられている。将来的にどういう制度があるべきかはまた別の課題として、というよりむしろそこにつなげるためも、ともかく国がどういう経緯で何を認めているのかを押さえておくことは必要だと思う。そこで、まず制度の概要とその推移、次に支給を受けるための手立てを簡単に記す。

制度の概要と推移
 他人介護加算を得るためには、生活保護の受給資格を得なければならない。といっても、もちろん、生活保護とその中の他人介護加算を同時に申請することはできる。生活保護全般については東京ソーシャルワーク編 『How to 生活保護』(現代書館、一三八〇円)を読んでいただくのが一番よい。家族が近くに住んでいる場合、どのように福祉事務所に言っていくのがよいかといった点でも参考になる。
 関係する支給額の推移を表にまとめた。示してあるのは上限(一級地−一)。物価・賃金の格差からもっと少なくなる地域がある。また介護加算特別基準は本人の必要度に応じた額が原則で、その意味でも上限。
 障害者に関わる加算としては、まず障害者加算・重度障害者加算(障害者加算に上乗せされる)がある。次に介護加算(特別介護料)は、重度障害者家族介護加算・重度障害者他人介護加算に分れる(原則的には分けるべきでないと、それ以前に生活保護が世帯単位になっていること自体問題だと思うが、それはここでは置く)。普通「他人介護加算」と言ったら「一般基準」のことである。この制度を利用する人達の間で、次に述べる特別基準との対比で「一般基準」とも呼ばれるわけである。これは福祉事務所が資格を認めた場合にとれる。申請にあたっては介助の必要性が認められなくてはならないが、特に申請者の側で有償の介助関係を証明する必要はない。だがその使途に関しては監督を受けることになる。受給者は千人台にはまだといったところ。厚生省社会局保護課(ここが担当)に問い合わせると教えてくれる。毎年の支給額は『社会福祉の動向』(厚生省・毎年発行)等に掲載されている。
 「特別基準」というのは、火災・地震等の天災にあった場合など、特別に増額を認めるという一次的・例外的なものだそうで、ことに他人介護加算に特別基準を設定しうることなど一般的な本・文書の中にはどこにも書いてない。福祉事務所の人も教えてくれない、というか「福祉川柳」的な乗りでない人であっても存在自体を知らない場合がありうる。厚生省もあまり宣伝したくないらしく、保護課への電話での問い合わせに対しても支給者数等は答えられないということだった。だから、この要求を行っている人々の情報からまず知るしかない。受給者は徐々には増えているがまだ三桁には達してないようだ。表に記したのは、幾種類かの機関紙等に掲載された額をまとめたもの。
この基準での支給は七五年度に始まる。七〇年代初頭の府中療育センター闘争を契機にセンターから出て生活を始めた人々等が、都との交渉によって、七三年に重度脳性麻痺者等介護人派遣事業の設立を獲得し、七四年度から実施される。これと同様の過程で、都の制度として重度心身障害者手当が創設されるが、厚生省は生活保護支給の際にこの手当の一部を収入として認定しようとする(つまり生活保護の受給者にとってはその分はないと同じになる)。これに対する反対運動の中で、厚生省は生活保護他人介護加算の特別基準の適用を受けうることを示し、七五年度から東京都の二名に対して実施された。施設労働者の賃金から毎日二四時間として算定した介護料を要求したが、支給されたのは一日四時間、一時間四百円の計算で月四八○○○円だった。この支給に際して、都の民生局長宛てに保護課長名で出された通達が七五年社保三五号である。東京都の進達(後に書くように知事名の書類が厚生省に送られる)に疑義があり、生活保護の目的を達する上で支障がない範囲として「介護需要が…必ずしも介護に熟練していない者の半日介護の範囲内であると考えるのが適当であり、この範囲を超えるような介護需要を要する場合には、むしろその処遇等を施設によって画ることをすべきであると考える」としたのである(後にここで言う半日が四時間を意味することを表明)。これが介護保障を巡る運動側と厚生省との一つの争点となった。四時間以上必要な人は施設に行けというのはとんでもないことで、これが福祉事務所等の現場での施設送りの口実に使われては困る。当然この撤回が求められた。八一年、国際障害者年の年の厚生省社会局保護課との交渉では、二四時間介助を必要とする重度障害者についても地域で生活しようとする意志が尊重されねばならないことを確認するが、通達の撤回はならず、支給額としても大きな進展があったわけではない。これらについて、特別基準を受ける人達は毎年厚生省との交渉を続けてきた。八九年には、当初東京近辺の人達が中心だったこの運動、そして介助保障制度の確立の運動を全国的なものとするべく、「全国公的介助保障要求者組合」という変っていると言えば変った「組合」が結成され、以後交渉の主体を担うとともに、この制度の全国への拡大を進めていく。
 制度と支給額にかなりの変化があったのは九一年度。知事承認の特別基準での加算が新設された。これは、従来から横並びで介護費用の支給額等の改善が行われてきた原爆者特別措置法の介護手当を引き上げるのに合わせた原爆被害者対策主導のもののようだ。被害者への介護手当は、従来、月二〇日間他人介助を受け、一日の介助従事時間が四時間程度との前提で積算が行われていたが、実態を調査してみると、毎月二五日から三〇日介助を頼む人がほとんどで、また、重度の人の場合一日四時間では済まず、六〜八時間を要していることがわかり、このため、他人介護料を、重度の人の場合月額九四、五〇〇円以内(厚生大臣承認)、中度の人で月額六三、〇〇〇円(以内(知事承認)とすることになった、のだと言う。こうした動きは三月に伝わった。その中で、要求者組合は、九一年四月までに、厚生省との間で、社保三五号は一個人の設定基準を示したもので、施設入所を強制するものではないこと(当たり前だ、生活保護法第三〇条二項に明記されている)、福祉事務所等が強要するとしたらそれは誤りであり、厚生省は指導を行うこと、また一般基準が想定する一日の介助時間が四時間、新設の知事承認特別基準が六時間、厚生大臣承認が十時間であることを確認した。撤回はされないものの「社保三五号」と別の方針を厚生省が具体的に採ることが確認されたわけである。これまで特別基準で支給されていた人は、厚生大臣承認の特別基準の枠に移っている。

申請・受給の方法
 手続きは確かに簡単ではない。厚生大臣承認の加算の場合、当事者の側が生活状態、介護の実態をくわしく書いた申請書を準備し、診断書をそえて、福祉事務所に申請する(書式は定まっていない)、福祉事務所の担当ケースワーカーが状況を調査し、福祉事務所で会議の後福祉事務所の所長名で各都道府県に調査結果と意見書を送り、生活保護課が認めると知事名で厚生省社会局保護課に送り、認められると厚生省から都道府県に、都道府県から福祉事務所に許可の通達が来て、最後に本人に着く。いかにも時間がかかりそうだが、実際ほっておくといつ認められるかわからないから役所をせかせ、いつまでに結果を出すのか確認させねばならない。認められると、申請した月にさかのぼって毎月支給される。支給の窓口は各福祉事務所。「特別」だから、支給期間は一年間。毎年申請し直す(ただ必要書類は最初の手続きの時ほど面倒ではない)。
 と言ってもなんだかわからない。具体的な申請の方法等については全国公的介護保障要求者組合発行のパンフレット『生活保護・他人介護加算特別基準受給の手引書』の改訂版(九二年九月、千円、問い合せ・請求は東京都田無市南町四−三−二サウスタウン五F 全国公的介助要求者組合(田無市の「自立生活企画」と事務所を共用)電話〇四二四−六二−五九九九 ファックス五九五五 郵便振替・東京三−三八九五 組合員募集中・会費年六千円)を見るのが一番よい。ここには、他人介護加算特別基準をどのように申請すればよいのか、その手順や申請書の実例等も含めて詳しく解説されている。申請書の見本を自分用に一部変更して使うといったことができる。新しく申請しようとする人にとっては必須のパンフレットである。他に、東京都・大阪市・埼玉県・札幌市の介護人派遣事業の要綱や金額の推移等も掲載されている。まずこれを請求して送ってもらい、わからないところがあったら、電話等で問い合せれば相談に乗ってくれる(これは組合の活動の一つだ)。各自治体・各福祉事務所の対応は異なるだろうが、国の制度に不当な格差が生ずることに正当性があるはずはない。他の地域でどうなっているかの情報が重要だ。この点についても要求者組合が対応してくれるだろう。

「組合」のことなど
 全国公的介護保障要求者組合は、九一年には、新しい全国的な制度の設立、すなわち生活保護制度に限らず、最大二四時間を保障し、それが労働として認められることを基本方針とする。その上で、他人介護加算の拡充、各地の介護人派遣制度の獲得と拡大、そしてホームヘルパー制度の充実、特に利用者が自ら推薦する人を登録する登録ヘルパー制度の提案といった多面的な活動を行っている。ホームヘルパー制度は一つの注目点だ。時間枠については厚生省の意向より自治体の方の対応が遅れているのだが、制限時間を撤廃する自治体が出てくる(例えば東京都は九三年三月に撤廃)。そして、ホームヘルパー十万人体制をかかげながら、金は出せても(金が少ないからでもあるが)人を集められない状況下で、利用者側が人を用意しヘルパーとして登録するといった方法に行政の側が乗ってくる可能性がある。とすればむしろこれを重点的に求めるべきなのか。この「組合」の活動については別に紹介したい。各地の介護人派遣事業やホームヘルパー派遣の制度の実際についても検討・報告せねばならない。この連載も、まだしばらく介助制度の話、お金の話が続くだろうと思う。


UP:1996 REV:20071108
介助(介護)  ◇生活保護  ◇立岩 真也
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