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東京都地域福祉振興基金による助成事業

―自立生活運動の現在・3―

立岩 真也 19921225 『福祉労働』57


 →『生の技法 第3版』

■基金による助成というもの
  九一年度から地方交付税交付金に設置費が含まれるようになって(自治省)、各地方自治体で「地域福祉振興基金」の設置が始まっている。また九一年六月の「社会福祉関連八法」改正により、九三年四月から「地方老人福祉計画」の策定がすべての都道府県および市町村に義務づけられた。こういうものを作ったことがない各自治体は、民間のシンクタンクなども使って苦労している最中のようだ。いずれも基本的に高齢者を想定しているものだが、前者の3)「基金によって行う事業」として「各種民間団体が行う先導的事業に対する助成」があげられ、5)「基金の運用益による助成対象事業」の例示の中には「福祉公社等に対する出捐又は助成」「その他在宅保健福祉の普及、向上に資する事業」もある。「果実運用型の基金」とは原資を設定し運用してその運用益を使うもので、基金が十分になければ使える額が僅かになり、看板だけになってしまう可能性も大いにあるが、そこのところを含めて自治体の動向に注目し、これに積極的に介入していく必要があると思う。
 その場合に、独自に開始されている「東京都地域福祉振興基金」による「地域福祉振興事業」への助成の試みは、他に比べれば裕福な東京都の制度をそのまま持ってくるのは難しいにしても、参考になるのではないか。また都内の各自立生活センターはこの助成から財政のかなりの部分を得ている。そこで今回はこれを取り上げる。

■基金設置と運用の経緯・その目的
 東京都では八三年、増える福祉サービスの需要にどう答えていくのか、都の社会福祉審議会に対して諮問がなされ、八六年に答申が出された。その中で従来の制度になじみにくいものを育てていく必要があること、それを基金からの助成というかたちで行うのが適当であることが指摘された。これを受け、地方自治法第二四一条第一項に基づき「東京都地域福祉振興基金条例」(八七年四月施行)が制定された。この条例制定後の同年五月、「東京都地域福祉推進計画等検討委員会」(三浦文夫会長)が助成のあり方等について検討するよう東京都福祉局長から依頼を受け、同十月に「中間のまとめ」を報告、翌八八年四月に『東京都地域福祉振興基金による助成のあり方について』を報告した。
 以下この報告(『あり方』と略)、助成事業の実務を行う東京都社会福祉振興財団発行の『助成事業のごあんない』『地域福祉振興事業助成金交付実施要綱』(各年度)広報紙『地域福祉の芽』(各団体の活動の紹介等)と財団への問合せにより得た情報により、その事業内容を概観する。
 まずこの事業の狙いについて。条例の第一条は「在宅福祉の推進等により地域福祉の振興を図るため」とあっさりしているが、『あり方』は、基金の規模の大きさと目的が特定されている点で注目されるとした後、「従来の福祉サービスの内容や方式では充足できないニーズが拡大」している中で「既存の福祉サービスに質・量を付加し、更に新たな方法でサービスを提供する様々な実践が進められつつ」あり、それらが「今後の福祉サービスのあり方にどのような地歩を占め得るか、という点で、地域福祉振興を標榜する本基金への期待は大きいと考える」とし、「在宅福祉サービスの多様な展開を目指す、様々な先駆的、開拓的、実験的実践を誘引し、それらが地域に根ざしたサービスとして安定した運営が確保されるよう、育成、援助していくための基金として、多様な試みを視野に入れた、包括的で柔軟な運営がなされることを期待したい」と述べている。
 八七年度に設定された基金は二百億円、この後三年間毎年百億円が追加され五百億円となった。実際に助成が開始されたのは八八年度から。助成総額は、八八〜九一年度にかけ、一億三八九四・五万、二億三九一七・九万、三億八八五五・九万円、六億一五三一・一万円(決定額、予算は九億五七〇〇万円)と、年々増えている。なお、『あり方』の5「公私協働の方策」では「地域に根ざしたサービスとして安定した運営が確保されるためには、地域住民の連携と参加が極めて大切」とし、「都民の自発的負担としての参加を誘導し、本基金を公私が協働して育成していくことを、今後の基金運用の中で引続き検討するよう望みたい」とあるが、現状では全額が都からの補助金によっている。

■組織・申請方法・助成対象団体
 都の出納長室が基金原資の管理・運用を行う(運用益金は、東京都一般会計歳入歳出予算に計上され、基金に繰り入れられ、その全部又は一部を事業経費に充てる)。また外部の委員で構成される「基金運営委員会」(仲村優一委員長)は都から審議依頼を受け、基金運営に関する基本的事項の審議決定、助成計画の審議決定を行い、都に報告する。この委員会の運営を行うのは都の福祉局である(この事業の担当部署は福祉部地域福祉課)。
 助成の実務を行う広域的民間福祉団体として、七三年に設立された財団法人「東京都社会福祉振興財団」が指定された。ここで団体からの助成申請受付、助成計画案の作成、助成金の団体への交付、実績報告のとりまとめ、事業報告書の作成・報告を行う。またこの中に置かれる外部の委員からなる「地域福祉振興事業審査委員会」(前田大作委員長)が申請の審査、実績の評価を行う。
 申込みの受け付けは年度二回(四月と八月)、申請書・計画書と区市町村等の意見書を提出する。家事援助サービスース等は申請の大部分が認められている。助成期間は原則として一年だが、将来にわたり継続される事業については、前年度の事業実績を勘案して、助成を継続することができる。実際、家事援助サービス等一度認められた団体は、継続して助成を受けている。助成期間の終わりに報告書を提出する。書類は各B4かB5の用紙一枚で、民間の財団の研究助成等の申請・報告に比べればそう面倒なものではない。
 助成対象団体の規定で注目されるのは、『あり方』の2「対象とすべき団体」で「先駆的、開拓的、実験的プログラムを促進し、地域の特性に即した在宅福祉サービスを質・量共に向上させていくという本基金の主旨から、対象とすべき団体については、限定的にとらえることなく、その事業の内容に着目して、出来る限り広範・柔軟に考えていくべきである」とし、その事例としてあげられる有料在宅福祉サービスの運営主体として区市町村社協、区市設立の公社とともに「民間の任意団体」も助成の対象になる、また「法人化することが望まれるが、必ずしもそれを助成の条件とはせず」と記されていることである。これが『要綱』第二条1)「対象団体」の「東京都内に所在し、都民を対象に社会福祉活動を実施している団体で営利団体を除く次の団体」中の最後、ウ「地域福祉の振興に寄与する事業を行うその他の民間団体」(別箇所では「純民間の活動団体」)である。また財政基盤に格差があることから、民間の任意団体に対する助成率は他に比べて高く設定されている。
 八八〜九一年度の助成件数は、六七・九〇・一四九・一六二件、このうち任意の民間団体が三八・五三・七一・九三件となっている。またこの五年間の各年度の新規分を累計した件数は二三二件、一六二団体となっており、このうち任意の民間団体が一一七件、九六団体を占めている。高齢者を主な対象とする団体が多いが、障害者が中心となって運営している団体としては、ヒューマンケア協会(八王子市)、町田ヒューマンネットワーク、自立生活センター立川(連載第一回参照)、自立生活企画(田無市)等が助成を受けている。

■助成対象事業
 『あり方』では、助成対象経費を「サービス利用者に負担を求めることが適切でない経費」とし、有償在宅福祉サービスの例では、コーディネーター等常勤専門職員配置に必要な経費、サービスの担い手のための経費(保険料、研修費用)、事務所借り上げに要する経費、初度調弁等機器整備をあげている。民間の財団等の助成等には大抵含まれない恒常的な人件費が含まれている。助成をもらっても備品が増えるだけということはない。実際の助成にあたっては、人件費と事業費に大きく項目が分けられている。
 次に対象事業。「各種在宅福祉事業の中で、東京都の既存の公的制度や補助事業に組み入れられていない先駆的、開拓的、実験的な次の事業」(『要綱』第二条2)「対象事業」)として挙げられているのは、@有償家事援助サービス、A毎日食事サービス、Bミニキャブ運行システム、C障害者自立生活プログラム、D情報システムの開発・ネットワーク、E地域づくり活動、F調査・研究、G福祉組織化活動、H地域福祉活動計画(住民活動計画)の策定、Iその他サービス提供事業、の十種類である(以下実績は基本的に九一年度、基準額・助成率は九二年度のもの)。
 @有償家事援助サービス。自立生活センターが提供する介助は「家事援助」だけではないが、この枠の助成を受けることになる。基準額は人件費五百万円、事業費(事務所借り上げ経費、担い手のための研修経費、担い手のための損害賠償保険等の加入経費、備品費、事務所運営に要する経費)二百万円で、純民間団体の場合は四分の三が助成率となる(社協、公社等は三分の二、この比率は以下A〜Fについても同様、基準額×助成率と対象事業に関わる所要額−収入額を比較し、少ない方が助成額となる)。原則として利用会員五〇名以上、協力会員一〇〇名以上が条件。年間利用件数三千件以上の純民間団体の場合は、コーディネーター等を複数設置可。つまり五百万円上乗せで、基準額一二百万円、助成額九〇〇万円まで可能ということになる。九一年度の件数は五二件、うち純民間団体が二五件。この事業に対する助成が二億円余と全体の約三分の一を占めている。ちなみに九〇年度の総利用件数は約十四万件、利用会員数約八八百名、協力会員数が約九千名。
 A毎日食事サービスは調理する場所の確保が難しいこともあって、件数としては伸び悩みという状況のようだ(九一年度までの三年間で十一件・十一件・十二件)。基準額は調理人人件費三八〇万円、事業費四五〇万円、開始に必要な機器、配達用自動車購入に対して各二百万円。
 Bミニキャブ運行システムの基準額は人件費五百万円、事業費二百万円。自動車購入経費については三百万円。九一度は十四件、全てが純民間団体。
 C自立生活プログラムに対する助成が行われているのが注目される(連載第二回参照)。これは、委員や都の担当部局の職員にこの活動に注目する人がおり、ヒューマンケア協会の中西事務局長が前述した検討委員会に招かれその必要性を強調したことにもよる。人件費五百万円、事業費二百万円が基準額。九一年度十八件。全てが純民間団体。
 D情報システムの開発・ネットワーク。現在までのところ社協・公社に対する助成となっており、九一年度は社協に三件。パソコン通信を利用する障害者の提案で、市の社会福祉協議会が福祉情報+αの情報提供サービスを開始した事例もあるという。研究、開発経費は三百万円、ネットワーク等に要する機器設備費は三五〇万円が基準額。
 E地域づくり活動は、福祉啓発活動や体験学習活動などの事業に対して。九一年度に初めて二件の助成が行われた(いずれも純民間団体)。基準額二百万円。
 F調査・研究への助成は、基本的に団体が具体的なサービス提供プログラムを作る上での指針作成のための調査に限っており、ニード調査や既に開始されているサービスについての実態調査等は受けていない。例えば東京都精神障害者家族会連合会による調査は、世田谷区精神障害者家族会によるCの事業としての精神障害者地域生活プログラムに生かされている。九一年度は七件。この年度までの調査・研究事業のリストが財団にある。基準額二百万円。
 G福祉組織化活動は社協対象。九一年度二一件。基準額は人件費五百万円、事業費二百万円、助成率は三分の二。
 H九一年度から「地域福祉活動計画(住民活動計画)の策定」への助成が開始された。「社会福祉協議会等が自らの活動の目的や目標などを設定し、実践するための地域福祉活動計画(住民活動計画)の策定に対する経費を助成する」というもので、社協(一四件)以外にも認めており、九一年度は二つの純民間団体が助成を受けている。基準額三百万円、助成率は@等と同じ。
 Iその他サービス提供事業。「台東区身障児者を守る父母の会」が設立した「生活ホーム」(重度の身体障害を持つ人が親元から数日間離れて宿泊体験をする)の運営に対する助成等、九一年度は十七件、うち十六件が純民間団体。助成額は個々の事業計画に基づき審査され、九一年度は合計六四百万円余となっている。

■今後
 都内の自立生活センターは続々と助成を受けるようになっている。例えば、@とCの二種類の事業を行っておりコーディネーターを複数置く場合、基準額一九百万円で、助成額の上限が一四二五万円になる。ヒューマンケア協会は@Cに加え九一・九二年度はHの助成も受けており、予算の約半分がこの基金による助成によっている。今後、具体的なプログラムと実行能力を持つさらに多くの機関が参画していくことになろう。事業内容によってはBDEFIの助成を申請することも可能だ。
 一つの問題は、現在「先駆的、開拓的、実験的」であるものが、将来当然行われるものとなった場合にどうなるかである。『あり方』には、「本基金の役割の本旨は、先駆的、開拓的、実験的プログラムを発掘し、それらが在宅福祉サービスの一翼を担うものとして、真に有効な事業と成り得るかを検証することを保障していくことにある」から、「一定の検証がなされた後どうするかについては、本来、在宅福祉サービス事業の主体的役割は、区市町村にあることからいって、地元区市町村の判断によることとなろうが、それらの事業が、基金の助成に代わる継続的支援が得られるよう、都と関係区市町村との間で十分協議し、具体的方策を講ずることを要望したい」となっている。各区市町村の施策が整っていない現状で、当面は既に行われている助成を継続し、加えて新規の助成を受け入れることになろう。前掲の九一年度の数字を見てもまだ余裕があるが、将来財政上の問題が生じることはありうる。この助成自体が実験的なものだから、どのような形態に落ち着くかは未知数だ。
 財団に対しては各県や政令指定都市等からかなりの問い合せ等があるらしいが、結局財政上の問題で、同じようなものを実施というわけには簡単にいかないでいるらしい。だが、実施規模はともかくとしても、法人格を持たない団体に対しても助成していること、自立生活プログラムといった活動に対しても助成を行っていること、運営に最も必要な人件費を助成しており、手続きがさほど煩雑ではないこと、これらは評価すべきだし、参考にできると考える。
 東京都社会福祉振興財団 千代田区神田小川町二−三M&Cビル3階 пZ三−三二三三−二九四一 東京都福祉局福祉部地域福祉課は〇三−五三二〇−四〇七一
▼補記 前号で触れた『自立生活への鍵――ピア・カウンセリングの研究』は九月に刊行(千二百円)。問い合せ・注文はヒューマンケア協会〇四二六−二三−三九一一へ。


■この文章への言及

◆立岩 真也 2015/01/01 「精神医療現代史へ・追記10――連載 107」『現代思想』43-(2014-12):8-19


UP: REV:20141027
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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