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「生存」の人類・社会学研究会

2010年度グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点院生プロジェクト
2009年度 「生存」の人類・社会学研究会
2011年度 「生存」の人類・社会学研究会


■ 計画 ■
◆研究課題◆
『「生存」の人類・社会学』研究構築に向けた若手研究者ネットワークと調査方法論開発の土台作り

◆プロジェクト研究メンバー:計7名
【研究代表者】
吉田 幸恵 立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程公共領域
【研究分担者】
新山 智基 立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程公共領域・日本学術振興会特別研究員DC
松田 有紀子 立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程共生領域  ※事務担当
西嶋 一泰 立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程共生領域 ※企画担当
岩田 京子 立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程共生領域
青木 千帆子 立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー
永田 貴聖 立命館大学大学院先端総合学術研究科 研究指導助手/非常勤 ※アドバイザー

【事業推進担当者】
天田 城介 (立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授)

【研究協力者】




◇研究計画◇ ※申請書から抜粋
T.研究内容等および「生存学」創成拠点にもたらす効果
@研究内容、目的、意義
 本研究会は昨年度から始動した当GCOE拠点院生プロジェクトである。近年の人類・社会学分野では、若手研究者たちが中心となり、「障老病異」の諸問題に直面する人々・地域・集団が展開する生存実践に焦点を当てる研究の蓄積が進みつつある。本研究会の目的は、この動きを受け、本GCOEを拠点として、生存実践に焦点を当てる研究を蓄積し、他大学当該分野関係者と交流することにより、「『生存』の人類・社会学」を構築するネットワークの基礎を作り上げることにある。
 本研究会のメンバーは、ハンセン病施設での生活実践に焦点を当てた研究、アフリカ地域での疾病予防に取り組む国際NGOの連帯を分析する研究、芸能活動を軸とした町おこしを試みている地域の研究、生存戦略として芸能の継承を媒介とした社会的小集団を形成する芸妓たちの研究、日本人と家族関係を結ぶことで在留資格・国籍などを取得し、国境を越えた移動そのものを生活基盤とする新しい世代の外国人たちの生存戦略の研究を展開し、十分な研究成果を蓄積しつつある。
 昨年度は『フィールドワークの「生存学」』をテーマとするワークショップを開催した。この会では新進気鋭の若手人類学者が学外から招請され、活発な議論が交わされた(詳細はhttp://www.arsvi.com/o/s26.htm#01に掲載)。本研究会メンバーはこの成果をふまえて、フィールドワーク手法を用いて「生存」現場を考察する試みを開始した。
 今年度は個々のメンバーが主体となり、より活発に学外の若手人類・社会学者たちとのネットワークの拡大と情報共有を深めていくことを目指す。特に「生存」現場との提携の試みとして、過疎地域での芸能活動による町おこしの実践を取り上げる。芸能サークル和太鼓「ドン」・「BATI-HORIC」との共催ワークショップを開催し、研究方法論の蓄積と若手研究者間のネットワーク構築、およびHPでの成果公開を行う予定である。※詳細は添付資料を参照。
 具体的な活動内容は、研究メンバーによるフィールドワーク、本研究会メンバーによる研究とその成果報告、当該分野の学外若手研究者との研究会の開催、フィールド調査を行う人類・社会学の調査方法論についての検討、および本拠点のWEBSITEを活用した研究成果の共有である。

A「生存学」創成拠点にもたらす効果
 これまで本GCOE拠点においては、主に医療、福祉、介護、障害に関連する問題が研究されてきた。本研究会において昨年度2月に開催したワークショップ『フィールドワークの「生存学」』では、玉置真紀子氏(江戸川大学非常勤講師)が題「正三角形を描く−先住民族住民組合とフィリピンNGO、日本NGOの取り組み」において、フィリピン南部少数民族が、海外からのNGOによる医療プロジェクトを通して新たな生き方を模索していること、浜田明範氏(産業能率大学兼任講師)が、題「2つの相互性を往復する:ガーナ南部における健康保険の受容をめぐって」において、ガーナでの公的保険制度確立以降の医療へのアクセシビリティと公平概念の転換について、また東賢太朗氏(宮崎公立大学専任講師)が、題「呪いには虫の糞がよく効く―呪術のリアリティからアクチュアリティへ」において、フィリピン・イロイロ島で行われている呪術という脱近代的な医療実践について、それぞれ報告した。
 3月の研究会では研究分担者である新山智基氏が題「【ブルーリ潰瘍問題調査報告】トーゴ共和国・ベナン共和国の実態−病院施設の現状、in-hospital education(病院内教育)支援、NGOの取り組みを中心に−」において、ブルーリ潰瘍対策の最新動向について報告した(詳細はhttp://www.arsvi.com/o/s26.htm#02に掲載)。
 これらの報告は、いずれも「障老病異」に関連する人類・社会学的研究の蓄積を進める重要性を示すものである。今後はこの成果を引き継ぎ、本GCOE拠点において、さらに幅広い「障老病異」に関連する「生存」実践を模索する地域、個人、集団の活動に焦点を当てる研究、調査方法論を蓄積し、『「生存」の人類・社会学』拠点構築に向けた土台作りを行う。特に人類・社会学において行われているフィールドワーク手法を用いた研究の蓄積、方法論の検討は、本GCOE拠点における大きな課題である。本研究会では、医療、福祉、介護、障害の問題に集約されない幅広いの「障老病異」研究と調査方法論の蓄積、若手研究者の交流に取り組む予定である。これらの活動が、多様な困難な状況に置かれている人々によるより幅広い「生存学」研究につながると確信している。

U.研究計画・方法・研究成果発表の方法
【研究メンバーによるフィールドワーク】
(1)吉田幸恵による熊本県合志市のハンセン病施設において調査と、(2)西嶋一泰が青森県東津軽郡今別町にておこなわれる荒馬踊りのフィールドワークを実施する。以上2名の旅費・交通費を予算から充当する予定である。

【本研究会メンバーによる成果報告、当該分野の学外若手研究者とのネットワーク拡大のための活動】
以下(a)〜(e)までの研究会及び、ワークショップの開催を予定している。

(a)西嶋一泰が青森県東津軽郡今別町にておこなわれる民俗芸能、荒馬踊りのフィールド調査をまとめ、9月に「マツリの生存学〜呑メヤ踊レヤ生キ残レ!〜」と題したワークショップを行なう。マツリをいかに継続しつつ、そのマツリによっていかに地域が生き残っていくのか、民俗芸能研究、コンテンツマネージメント、マイノリティのマツリなど多様な文脈から現代に於けるマツリの可能性を模索する。また、荒馬踊りに取り組み、地元と継続的な関係を持つ立命館大学のサークル「和太鼓ドン」と、プロのパフォーマンス集団「BATI-HOLIC」との共催により、実践者が直面する問題を取り上げたパネルディスカッションおよび、防音設備が整った場所を会場とし、実際のお囃子を演奏し、荒馬を踊るワークショップも開催する。

(b)研究会外部から新進気鋭の人類・社会学者を招き、近年、大きな学問的潮流を形成しつつある「バイオエシックス」をテーマとする人類・社会学分野についてのワークショップを開催する。報告者は岩佐光広氏(国立民族学博物館機関研究員)、山崎吾郎氏(大阪大学研究員)、堀田義太郎氏(日本学術振興会特別研究員・立命館大学)を招請する予定である。コメンテーターとしては、本GCOE拠点の推進教員たちが担当する予定である。

(c)アドバイザーである永田貴聖が、日本人と家族関係を結ぶことにより結果として、在留資格・国籍を取得し、日比間に国境を越えた移住ネットワークを形成している「新しい」フィリピン人についての最新動向について報告する。

(d)都市人類学の観点から、「異」の生存技法についてワークショップを開催する。研究分担者松田有紀子が芸能サービスを提供する職業集団である祇園の芸妓たちの生存実践を、岩田京子は風致地区制定経緯に表出したエージェントの言説分析の成果をそれぞれ報告する。これらの報告は共に本学の所在地域である京都を対象とした実践例であり、異なる背景をもつ他者が集まる都市という場において「みんなと共に生きる技術」(convivalit & eacute)の模索でもある。コメンテーターに京都の都市人類学の専門家を招き人類学という学問領域から現代社会での生存のありかたに対して一つの応答を示すことを目的としたい。

【アウトリーチ活動】
フィールドワーク実施後、調査報告を当GCOE拠点のWEBSITEにおいて行う予定である。また、研究会での報告者の資料など可能な限り、WEBSITEを通じて公開することとする。


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■□活動/成果□■
◆ワークショップ開催◆
■□「生存」の人類・社会学研究会 公開ワークショップ□■
【テーマ】「マツリの生存学〜呑メヤ踊レヤ生キ残レ!〜」

 現在におけるマツリは誰によってどのように行われ、その行為にはどのような意味があるのか。そしてマツリによって、人びとや地域はどのように生き残ろうとするのか。
 本ワークショップでは、マツリに携わる実践者による事例報告およびパネルディスカッションと、演者によるパフォーマンスによるマツリの擬似体験をお届けします。コメンテーターによさこい研究で知られる内田忠賢氏をお迎えし、マツリの継続による地域存続の可能性を探ります。

【日時】2010年9月3日(金) 14:00〜17:00
【場所】立命館大学創思館1Fカンファレンスルーム

【プログラム】
13:30〜14:00 映像上映:大川平荒馬踊り

14:00〜15:00 第一部:研究報告「マツリの現在」
 趣旨説明 吉田 幸恵(立命館大学先端総合学術研究科大学院生)
 報告@ 西嶋 一泰(立命館大学先端総合学術研究科大学院生)
     「大川平荒馬踊り マツリのネットワーク」
 報告A 福田 一史(立命館大学先端総合学術研究科大学院生)
     「太秦戦国祭り マツリのマネージメント」
 報告B 梁 説(立命館大学先端総合学術研究科大学院生)
     「東九条マダン マツリとマイノリティー」
 コメント 内田 忠賢(奈良女子大学教授)

15:10〜16:10 第二部:パネルディスカッション「マツリの生存学」
 炭谷 耕太郎(立命館大学学生サークル「和太鼓ドン」代表)
 黒坂 周吾(パフォーマンス集団「BATI-HOLIC」代表)
 第一部 報告者 および コメンテーター

16:20〜17:00 第三部:ワークショップ
 「和太鼓ドン」・「BATI-HOLIC」による荒馬踊りの実演
 解説 西嶋 一泰

18:00〜 懇親会

司会:松田 有紀子(日本学術振興会特別研究員DC)

【報告者関係リンク】
荒馬.net:http://www23.atwiki.jp/aramanet/
太秦戦国祭り:http://www.joraku.jp/
東九条マダン:http://www.h-madang.com/

【コメンテーター】
内田 忠賢(奈良女子大学文学部教授)
京都大学大学院文学研究科博士課程中退。文学修士。京都大学助手、高知大学助教授、お茶の水女子大学大学院助教授、国際日本文化研究センター助教授等を経て、現職。 専門は歴史・文化地理学、日本民俗学、大衆文化論。著書に『記憶する民俗社会』(共編、2000年)、『風景の事典』(共編、2001年)、『よさこい/YOSAKOI学リーディングス』(2003年)、『都市民俗生活誌(全3巻)』(共編、2005年)、『都市の生活』(共編、2009年)などがある。

【パネリスト・出演者】
和太鼓ドン(代表:炭谷 耕太郎)
立命館大学を中心に、関西の学生によって構成された学生サークル。日本の郷土芸能を舞台用にアレンジした和太鼓・踊り・唄の公演を行う。
Webページ:http://wadaikodon.web.fc2.com/

BATI-HOLIC(代表:黒坂 周吾)
和太鼓・踊り・唄・笛・鳴物等を中心としたパフォーマンスグループ。2004年に結成。京都を拠点に、国内外問わず年間100カ所以上、延べ数十万名の前で公演や教室を展開。
Webページ:http://www.bati-holic.jp/about/index.html

【参加費】無料(事前申込不要)

【主催】立命館大学グローバルCOE「生存学」創成拠点・院生プロジェクト 「生存」の人類・社会学研究会


無事終了しました!

「マツリの生存学 呑メヤ、踊レヤ、生キ残レ!」報告  西嶋一泰
マツリの生存学のコーディネーターを勤めさせていただいた西嶋です。このワークショップは、現在のマツリについて、とにかくわいわい考えてみようというところから出発しました。マツリというと古臭い地域の年中行事というイメージもあるかもしれませんが、しかし、現在でもマツリに熱狂する人々が存在し、かつそこに関わる人々が置かれている非常にダイナミックな現在が表象される場でもあります。そのなかで人々は自分が熱狂する「このマツリ」をなんとか継続しようとするがゆえに変化も辞さないという試みがなされていたり、あるいは「マツリ」を行うことによって地域や人びとが生きるための弾みを得ようとしている。人びとの生存戦略やウチとソトのコンフリクトや交渉のさまが、このマツリの実践、マツリの表象を読み解いていくことでみえてくるのではないか。そのアイデアを、より多くの人たちとアクティブに話せる場として、このワークショップを企画しました。マツリとともに、楽しく生きるにはどうすればよいのか、マツリの実践者や研究者、そして多くの人々とともに考えてみようとしました。

第一部では、私が青森県の津軽半島の過疎高齢化が進む集落に伝わる大川平荒馬踊りに、県外から荒馬踊りの愛好者たちが加わり、ともに現在のマツリをつくっている様を報告し、福田一史さんが京都の太秦映画村で近年の戦国ブームをうまく利用した太秦戦国祭りについてコンテンツマネージメントの実践を報告し、そして梁説さんが京都の東九条の在日コリアンの人々と地域の人や学生たちがいっしょになって取り組む東九条マダンの実践を報告してくれました。

第二部では、第一部の報告者たちと、よさこい研究で知られる奈良女子大学の内田忠賢先生、そして西嶋報告の中でとりあげた大川平荒馬踊りに取り組む立命館大学の和太鼓ドンの代表炭谷耕太郎さん、プロパフォーマンスグループBATI-HOLIC代表の黒坂周吾さんを交えて、それぞれの実践を踏まえた議論を行いました。マツリの魅力をいかに継続していくか、あるいはマツリの段取りの手間と馬鹿騒ぎのバランス、どのようにマツリを広げつつウチとソトの人々とうまくやっていくのか。実感に根ざしたやりとりが行われました。

第三部では、和太鼓ドンとBATI-HOLICによる大川平荒馬踊りの実演とワークショップ。とにかくみんなで体を動かしてみようというもので、実際の太鼓の音にあわせて体を動かしてみることで、マツリの楽しさの一端を多くの人に感じていただけたと思います。

私自身、このような企画を主導するのは初めてでさまざまな部分でトラブルやミスもありましたが、多くのマツリの実践者が自分たちのマツリについての問題意識をぶつけあいながら改めて、その意味を考えてみるという機会になったことは非常に嬉しかったです。また、当日は初めての試みとして、Ustreamでのネット中継を行いました。こちらで視聴いただいた方もありがとうございました。現在の苦しい状況の中でも、マツリというかたちで、楽しみながら人々が集まり、自分たちを含めた多くの人達を、盛り上げていこうという実践。その実践を、より多くの人たちに知ってもらい、考えてもらい、参加してもらうきっかけに、このワークショップおよびそれに続く試みがなれば、幸いです。

マツリの生存学
パネルディスカッションの様子


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第2回 公開ワークショップ
【テーマ】「バイオエシックスの人類学×社会学」

【ワークショップの趣旨】
 本年度の立命館大学GCOE「生存学」創成拠点院生プロジェクト「『生存』の人類・社会学研究会」では、人が生きる上での4つの困難―「障害」、「老い」、「病」、「異なり」―に対する「生存」実践の在り方を模索することを目的として、地域・個人・集団の活動に焦点を当てる研究/調査の方法論を探究しています。この探究は理論/フィールドという二分法的な視野を越えて、理論とフィールドの中間領域を往来しながら行われるべき営為です。
 本ワークショップでは、こうした観点から、近年の「障害」、「老い」、「病」、「異なり」をめぐる理論的・実践的調査双方において注目される「バイオエシックス」を対象とした人類学と社会学における3つの研究を紹介します。フィールドにおいて出会う困難に直面した当事者たちに対して、私たちはどのように向き合うことができるのか。理論とフィールドをつなぐ新たな可能性を探ります。皆様のお越しを心よりお待ちしております。

【日時】2010年12月4日(土)13:00〜17:30
【場所】立命館大学創思館4階 創思館401・402

【プログラム】
 13:00〜13:10 趣旨説明 永田 貴聖(立命館大学大学院先端総合学術研究科 研究指導助手)

 13:10〜14:00 報告@ 岩佐 光広(国立民族学博物館 機関研究員)
   題:バイオエシックスと人類学/社会学――その問題性と可能性
要旨:1980年代以降、人類学/社会学において、バイオエシックスに関連する諸問題の調査研究が進められてきた。具体的な調査研究を通じて、バイオエシックスが見落としてきた人々の「生きられた経験としての倫理」を描き出し、そこから、ある現象を倫理的問題として同定し、その解決の道筋を示す「装置」としてのバイオエシックスの機能を批判的に検討してきた。この批判的アプローチに人類学/社会学の研究の一つの可能性を見ることができる。
 しかし、そこには不可避的に一つの問題性が伴う。バイオエシックスを批判的に検討する当の「私たち」は、バイオエシックスが成立し、一定の影響力をもった世界を生きており、その影響を深く身に刻み込んでいる。そうである以上、その枠組みに与することは容易く、そこから抜け出ることは難しい。バイオエシックスの批判的アプローチは、「生老病死」あるいは「障老病異」の倫理性に向き合おうとする「私たち」自身にも鋭く問いを突きつけるのである。
 この問いは、生物医療と深く関わりながらも、それを批判的に考察するという、医療人類学・医療者社会学における最も基本的にして最大の困難と類似のものである。そして、この困難に向き合うなかで医療人類学と医療社会学はその可能性を示してきた。本発表では、医療人類学・医療社会学の「構え」を見つめなおすことで、バイオエシックスの人類学・社会学の可能性について検討してみたい。
【参考資料】
岩佐光広、2010、「バイオエシックスの「第4期」としての文化的アプローチ――人類学的視点からの一考察」
     『千葉大学人文社会科学研究』21: 27‐41.
―、2009、『生の型、死の構え――ラオス低地農村部における終末期の民族誌からのバイオエシックス再考』
  千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程学位取得論文.
―、2008、「生命倫理学における民族誌的アプローチの重要性」『生命倫理』18(1): 22−29.


 14:10〜15:00 報告A 山崎 吾郎(大阪大学大学院人間科学研究科 特任研究員)
   題:臓器移植の人類学からみた生命の経済とその倫理
要旨:この発表では、臓器移植における身体の位置づけを「経済化economization」の観点から検討して、身体を資源として用いる特殊な領域が成り立つ条件について考察する。また同時に、この医療において生命倫理が果たした歴史的役割にふれながら、身体を資源として扱うさいの倫理が成り立つ条件について議論する。
 経済ならざる諸領域に経済分析が浸透していくことの影響は、ミシェル・フーコーがその講義においてとりあげたように、現代では新自由主義の批判的検討において様々に主題化しうるものである。人間がそれによって生きる身体が直接経済分析の対象になるという事態(臓器移植の経済分析)は、その意味で、経済ならざるものの経済化を考える格好の題材であり、現代に特異な主題といえる。生命そのものの認識に経済的な関心が結び付けられていくとき、「生命」が喚起する倫理と、「経済」が体現する効率的・合理的な秩序との間には、領域侵犯に伴う秩序の混乱と同時に、従来とは異なる関心の結びつきもみいだされる。こうした実践の動態に配慮しながら、特定の経済領域・分類を想定するのではなく、「経済化のプロセス」に着目する意味と、その方法論的射程について議論する。そして、生命の経済とその倫理を同時に問い直す視座を模索したい。


 15:10〜16:00 報告B 堀田 義太郎(日本学術振興会 特別研究員PD・立命館大学)
   題:生命倫理の議論枠組みと社会的・文化的背景の関連性について
要旨:生命倫理の諸問題を貫く問いの最有力候補は〈自己決定権・自己所有権の範囲はどこまでか〉という問いだろう。この問いに、〈個々人の判断に委ねればよい〉と答える素朴な自己決定至上主義には限界がある。本人が「よし」と言えば(望めば)、何をしても/しなくてもよいとは誰も思わない。自殺未遂者は助けなくてよいとは思わない。とすれば、本人の判断を超えて、当人の身体に介入し、行動を制約・強制してよい場合がある、という立場になる。では、その根拠は何か。生命と身体の安全を核として、当人自身にも侵害してはならない(不可侵・不可譲なinalienable)モノがある、という価値観だろう(これはいわゆる無危害・善行に重なる)。ここで、生命と身体の安全は、客観的な基準として位置づけられている。
 とはいえ、生命や身体の安全を脅かすような決定でも認めざるを得ない、と言われる場面がある。たとえば臓器売買を認めず、親の子への臓器提供を認めるならば、決定内容と状況(総じて理由)に即して、どこかで線を引いていることになる。
 個々人の決定を額面通りに受け取らないならば、生命・身体の安全性を客観的制約条件として、決定の背景にある社会文化的価値観の何にどこまで配慮すべきであり、逆にいかなる社会文化的背景については「圧力」として除去すべきか、という問いが生命倫理学の諸問題の核心にあるということになる。
 発表では、具体的な諸問題に即してこの点を再確認したい。



 16:10〜17:00 コメント
        報告@へのコメント 天田 城介(先端総合学術研究科 准教授 社会学)
        報告Aへのコメント 小泉 義之(先端総合学術研究科 教授 哲学)
        報告Bへのコメント 渡辺 公三(先端総合学術研究科 教授 人類学)

 17:00〜17:30 質疑応答・討論

 終了後 会場付近で懇親会

司会:松田 有紀子(先端総合学術研究科院生・日本学術振興会特別研究員DC)

【報告者関係リンク】
岩佐光弘  http://www.minpaku.ac.jp/staff/iwasa/

【参加費】無料(事前申込不要)

大学へのアクセス
キャンパスマップ ※創思館は地図中の24番

【主催】立命館大学グローバルCOE「生存学」創成拠点・院生プロジェクト 「生存」の人類・社会学研究会
・お問い合わせ先:gr0000sk(あっと)ed.ritsumei.ac.jp(吉田)
 075-465-8475(立命館大学生存学研究センター事務局)


無事終了しました!

「バイオエシックスの人類学×社会学」報告  岩田京子
 この公開企画は、本研究会の昨年来のテーマである理論とフィールドの関係性再考の一環として位置づけられる試みです。「障老病異」をめぐる研究において非常に重要だと思われる、理論/フィールドという二分法的な視野を越えた、理論とフィールドをつなぐ新たな可能性の検討を目的としていました。今回はとりわけ、理論と実践双方面から注目されるバイオエシックスを対象とした近年の人類学・社会学分野における3つの研究を報告していただきました。
 まずは、バイオエシックスを含めた医療の枠組みや発想が自明と見なされがちな社会と、その自明さを前提として研究が進められている社会学・人類学そのものを問い直されている文化人類学者の岩佐光広さん。フィールドで出会う「他者」と「自己」との間を絶えず往還する、文化や民族誌の記述がもつ相互批判的・反復的な側面を軸として、人類学・社会学の方法論をいかに展開すべきか、構想を示されました。
 次に、臓器移植における身体の位置づけを「経済化economization」の観点から―市場経済、贈与経済などの分析概念を用いながら―検討されている人類学者の山崎吾郎さん。臓器移植における治療行為以上に、政策をも背景とした統計的事実への関心の高まりが顕著な現在に、そもそも身体が資源化する特殊な領域が成り立つ条件と、この医療において生命倫理が果たした歴史的役割にふれ、身体を資源として扱うさいの倫理が成り立つ条件について報告されました。
そして、医療現場における自己決定権・自己所有権などに基づく自己決定至上主義の限界と、決定にかかわる価値選好について検討されている医療社会学・倫理学者の堀田義太郎さん。倫理的解答の妥当性は自明ではなく、それに影響する社会文化的背景の何をどこまで配慮、あるいは「圧力」として除去すべきか、という問いを提示されました。
 以上の御三方の分析・考察にたいして、本学先端総合学術研究科の先生方―社会学がご専門の天田城介先生、哲学がご専門の小泉義之研究科長、人類学がご専門の渡辺公三先生―に、それぞれ分野をずらして指定コメントをいただき、その後フロアも交えて白熱した応酬が行なわれました。
 岩佐氏のご報告にたいしては、自文化中心主義に対する批判的記述とし得るのか、価値観の滑り込ませではない形での文化の重みづけをいかに扱うのかが問われ、医療の問題系とバイオエシックスの枠組みを様々な現象の社会経済的状況・文脈のなかで鍛え直す必要性が指摘されました。山崎氏のご報告にたいしては、臓器移植のポテンシャルドナーを経済的な「生産」と位置付けることなどが疑問に付され、規制の概念や理論モデルにとらわれず社会集団の固定もせず、いかに理論的拡張を行なうかが議論の焦点となりました。堀田氏のご報告にたいしては、過酷な選択状況や他者を絡めての決定への理解と、それを踏まえて自己決定を選好モデルで論じることの妥当性、研究者の立場もが問われました。
 アメリカを中心に体系化された「バイオエシックス」は必ずしも日本語の「生命倫理」と単純な翻訳関係にあるとは限らない。それを踏まえた上で、フィールドにおいて出会う、困難に直面した当事者たちに対して、私たちはどのように向き合うことができるのか。議論の核心を引き出すコメンテーターと報告者との緊張感あるやりとりに加えて、ドナーのご家族もご来場くださり、大変鋭い質問・指摘が飛び交いました。当日は多くの方にご参加いただき、論者のバックグラウンドやフィールドの組み合わせをわざと工夫したことも含めて、全体として概ねご好評いただけたことをスタッフ一同幸いに思っています。
 今回の企画が、終末期医療にかかわる生命倫理の実践者・研究者が自分たちの問題意識をぶつけ合いながら改めてその意味を考えてみる機会になったのであれば幸いです。広報や今後の企画などに関して有意義なご意見を多々いただきましたので、至らなかった部分は今後の課題として、次につなげていきたいと思います。


「バイオエシックスの人類学×社会学」当日の様子1「バイオエシックスの人類学×社会学」当日の様子2
「バイオエシックスの人類学×社会学」当日の様子3「バイオエシックスの人類学×社会学」当日の様子4
当日の様子



*作成:永田 貴聖
UP:20100723 REV :20100724, 0818, 1025, 1103, 1104, 1115, 20110131, 1014
組織 

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