サービス協同組合たすけあい「こんにちは」
※上吉原佐公子・吉川史郎 19960229 「住民参加型在宅福祉サービス」(千葉大学文学部社会学研究室千葉大学文学部社会学研究室『NPOが変える!? ─非営利組織の社会学』,第11章)より
「こんにちは」は「市民が地域の中で,日常生活を安心して送れるように会員同士が互いに助け合うことを目的に,設立された協同組合方式の会」である。この団体は,いわゆる有償ボランティアで在宅ケアの活動をしている。活動地域は千葉市,主に磯辺・真砂・幸町の辺りが中心となっている。
設立は1988年3月。この団体の前身は,真砂にある生活クラブ生協の支部委員会などの活動から発足したワーカーズ・コレクティブ(→第8章〜)であった。困ったときにお互いに助け合えたらいいねということで発足し,30人くらいで始まったものである。しかし,その活動を続けていくうちに,福祉は利益を追求してはいけない分野ではないか,利益は追求したくないと思うようになり,利益を追求するワーカーズ・コレクティブの活動に次第に違和感を覚えていった。そして,2,3年後にワーカーズ・コレクティブから抜け,「こんにちは」を設立した。生活クラブ生協のワーカーズ・コレクティブの会から分離して7年目になる。しかし,今でも組合員の人は多いという。
この団体の運営の中心となっているのは月1回開かれる運営委員会であり,ここで様々なことが話し合われる。規約や活動方針の細かいところはみんなで話し合って決めてきたという。規約を変更する場合などは,年1回開かれる総会で会員に承認されなければならない。この総会には,担い手だけではなく受け手も出席している。また総会の時には講演
会も行なわれる。他に研修が年4回,会員同士の交流を目的とした全体会が年1回。また,機関誌も発行している。2ヵ月に1回,偶数月に発行している。これは,B4・1枚に両面印刷をしたものを半分に折ったものである。
この団体の主な財源は, 900円/時のケア料金に含まれる事業費と助成金である。会員の会費やケア代からの事業費だけでは,活動の運営は成り立たないという。ケアを提供することによって得られる運営費は1ヵ月,140円×400時間(大体の1ヵ月に提供するケアの時間数)で5万6千円くらいである。これだけで,電話代,事務所代,ボランティア保険を払うのはきつい。
それで,京葉銀行やシャルレなどの助成金を出すところには申請している。しかし,これらの助成金は申請したからといって必ずもらえるものではないので,安定した財源にはならない。京葉銀行からは,1993年に20万(研修費5万,ワープロ代15万),1994年に15万(電話機代5万,エプロン代10万)。2年続けてもらっているし,他の団体もあるので来年はもしかしたらもらえないのではと言っていた。シャルレからは1993年はもらえたが今年はもらえなかった。今のところ安定した助成を受けられると考えられるのは千葉市からの助成金10万である。この助成は1993年からで,研修・講演会費6万,機関誌代1万,ボランティア保険3万という内訳である。
「こんにちは」は何かあったときの連絡先,問い合わせ先として,事務所をもっている。ここには月,水,金の週3回,午前10時〜午後3時の間,「こんにちは」の会員が対応している。この事務所は,「市民ネットワーク千葉」と共同である。事務所を探していたときに「市民ネットワーク千葉」の人達から,共同でもいいなら一緒にやらないかと声をかけられたので使せてもらうことになった。「市民ネットワーク千葉」と「こんにちは」は,まったく別の団体である。しかし,「こんにちは」で活動している人で「市民ネットワーク千葉」に参加している人は多い。この2つの団体の担い手は重なっているのである。このことは事務所の様子からも見て取れる。共同で使われている事務所には仕切りはなく,1つの部屋を2つの団体が使っている。
「こんにちは」は協同組合なので,入会する時に出資金として5000円が必要である。この入会金は脱会する時に返却されるが,やめる人は少ないという。また,会費は年1200円であり,年度末までに一括で支払うことになっている。
活動を始めた最初は,ケアの担い手と受け手の区別があった。受け手は受給会員,担い手は組合員であって,会費とか決まりに違いがあった。しかし,活動を続けていくうちに,担い手と受け手の区別があいまいになりうまくいかなくなったので運営委員会で話し合い,総会でみんなに承認してもらって今年から規約を変更した。ケアの担い手と受け手が同じ会員となったのである。
ケアの料金は1時間につき 900円である。このうちケアの担い手が「分配金」として受け取るのは 760円であり,差額の 140円は団体の運営費に使われる。この運営費は,ケアの担い手と受け手の双方で70円ずつの負担となっているが,ケアを受ける時間が2000時間を超えた受け手には運営費は免除されて利用料は 830円となる。また,担い手がケアに行く時にかかる交通費は受け手の負担となっている。
ここで提供されているケアは,一般的な家事援助(掃除・洗濯・炊事・買物),産後のケア,育児補助,簡単な介助などである。1時間から引き受け,週3回が限度,ケア時間は主に日中であり,夜間のケアはしていない。夕方は遅くても5時くらいまでだという。また,原則として,日曜・祝祭日・盆休み・年末年始のケアは休みとなっている。
この活動では,利用者のニーズに合わせてケアを提供している。だから定期的な固定のケアだけでなく,「スポット」と呼ばれる単発の急な依頼にも応じている。これは例えば子供が発熱したのに両親はどうしても仕事を休めないとかいう場合の依頼であり,前日とか前々日とかに電話の連絡が入る場合が多いという。
ケアの依頼の手続きは簡単である。会員になった人は電話で依頼することが出来る。電話で事務所にいるコーディネーターとケア内容・時間・料金・ケア人数などについて話し合い,取り決める。一方,コーディネーターはケアの依頼があったら,行けそうな人を登録カードで捜して,その人にケアを依頼する。登録カードには名前・都合のいい時間などが書かれてあり,これはこの団体に加入するときに全員に書いてもらっている。もし,ケアの出来る人が見つからなかった場合は,仕方がないのでその依頼を断っている。だがその場合は,他の同じような団体を紹介している。
ケアの担い手として登録しているのは50〜60人くらいだが,実際に活動してるのは30〜40人くらいだという。そのほとんどが女性であり,子育ての終わった40代前後の専業主婦(パートをしている人もいる)である。独身の人はいない。男の人は,定年退職した60代の人が1人いるだけである。
このような活動では担い手の確保が問題となる。だが,この団体では広告を出して担い手の募集はしていない。だからといって,担い手が十分なのではない。ケアの依頼があったときに,そのケアの出来そうな友人・知人を誘っている。広告を出して募集するよりもこの方が確実だし,まったく知らない人ではないので安心してケアのを頼むことができるという。
ここでは,「はまのホーム」という障害者の施設にもケアを提供している。この施設でのケアを除くと,利用者は,男の人が11人,女の人が29人である。しかしこの人数は,夫婦でケアを受けているところもあるので確かな数ではない。このようなケアの依頼者は,役所や保健所などからの紹介で来る場合もある。また,最近の傾向としては,高齢者からの依頼が多くなってきているという。