*この頁は故西尾等さんが遺されたホームページを再録させていただいているものです。→その表紙ALS [2003.7 再録:立岩 真也]



◇ 排 泄 ◇

ALSになって、呼吸の次に困るのが排泄です。便を押しだす腹圧も無くなり、薬による排便促進が必要です。便の硬さは、摂取する水分量によっても影響されます。それは腸管壁から吸収される水分量に少なからず影響を与えます。また、体内のNa+/k+のバランスによっても、細胞壁浸透圧の変化により、腸管壁からの水分吸収は変化します。
 体位交換で身体を動かす事。精神のリラクゼーション。お腹の”の”の字のマッサージも刺激になり、腸の蠕動運動を起こします。

1)排便促進の薬。
■ラキソベロン。
作用:腸の動きを良くして、便を直腸に下げる働きをします。
成分:ピコスルファート+Na
液状で、お茶などに混ぜて滴下するか、飲み込みの出来る場合、口中に直接滴下します。多少の水分をその後に取る方が効果があるようです。味は甘い水蜜のようです。
滴下は10滴から40滴まで、人により調整しやすい特徴があります。滴下してから、普通10〜12時間で便意があります。

■大黄甘草湯
作用:便自体を軟らかくして押しだし易くする漢方です。食後の薬に混ぜますが、Mチューブは詰りやすくなります。色は茶色です。
■カマグ
作用:腸管内に水分を呼び込み、便を軟らかくして排泄しやすくする。Mチューブは詰りやすくなります。習慣性はありません。
成分:炭酸Mg

■浣腸
成分:グリセリン
作用:直腸に降りてきている便を、便意をおこし排出しようとするものです。
便がある程度軟らかくないと、また直腸まで降りていないと難しいようです。
腹圧をかけやすくする為に、ゴム便器にのり、ベッドをかなりジャッジアップしてやると、出やすくなります。手や座布団、時には砂嚢で重みをかけるのも効果的です。

■レシカル座薬
作用:炭酸ガスを腸管内に発生させて、排便を促進させる。
成分:炭酸水素Na

■摘便
浣腸しても便が硬く、肛門の出口でつかえている場合、指を直腸に入れて、直接ほじくり出してもらいます。私はオリーブオイルを指に塗ってもらいます。キシロカインゼリーより滑りがよく、痛みはまし。しかし、どうせなら美人で指の細い人の方がいいよなー。
 でも、屈辱的で、結構痛い。横向きになり、口を開けて肛門から力を抜く。便が少し上にある時は、お腹を下に強く押しながら摘便する。
あまり瀕回にしていると、肛門から出血する事もある。


2)排尿
ALSの場合は意識がしっかりしている為、尿意も便意もあります.
■男性の場合
 ▲安楽尿器/集尿器と排尿部分(ペニス)にあてる容器がチューブでつながっているため、より多くの尿がためられます。集尿器は床に置きます。
有る程度、あてる部分の保持の工夫が必要なのと、チューブの折れがあると漏れやすい欠点があります。また、落差が有る程度必要です。
 ▲一般尿器/病院尿器の1000cc容器では溢れそうになる場合、市販の1200cc透明容器もあります。膝枕で固定すれば、支えなくても、集尿出来る。

■女性の場合
 ▲一般尿器/女性用に作られた専用尿器があります。
 女性の場合は、尿道の距離が短いために、膀胱炎になりやすいようです。

■膀胱バルーンカテーテル

 排尿の意思伝達が困難になって失禁したり、排尿に問題が出ると、カテーテル挿入が必要になるかもしれません。しかし、細菌感染のリスクも高くなるので、出来るうちは、定期的な時間に尿器挿入してもらう方法をとった方が良いと思います。
 膀胱炎や尿道炎による排尿困難で、膀胱に尿が溜まった様になると、苦痛や炎症を起こしたり、炎症を悪化させるので、カテーテル挿入が必要になります。
 尿道カテーテルも定期的に交換が必要ですし、定期的に膀胱の洗浄が必要です。カテーテルは異物ですから、粕の様な物がバルーンやカテーテルにこびりつき、つまるからです。
【交換手順】
尿路感染を防止する為にも、正確な手順を知るべきです。(1)挿入してあるバルーン内の、滅菌水をシリンジで抜く。(2)カテーテルを抜く。(3)滅菌済みピンセットを使い、尿道先を消毒する。(3)カテーテルに集尿バッグを連結する。(4)不潔にならない様に、カテーテルを袋から出す。(5)キシロカインゼリーの先端を少し捨てる。(6)キシロカインゼリーをカテーテルにたらす。(7)滅菌ピンセットでカテーテルをつまみ、挿入する(8)滅菌水を滅菌シリンジで約5cc取り、カテーテルに注入し、バルーンを膨らます。
 これは、私のいる病院での標準的方法で、多少医師により異なります。袋に封入されたキシロカインゼリーを滅菌済みシリンジに取り、尿道に先に注入する方もいます。要は、きちんと清潔を保つ事が大切です。
  ここまで気をつけてるのに、便を拭いたタオルを折り返し、ペニスを拭こうとするナースがいるのには、驚きです。


臨床的に、正確な尿量を把握したい場合にもカテーテルを挿入して、普段はクランプしておき、尿意のでた時にクランプを開けて、集尿して尿量測定して、点滴量とのイン/アウトのバランスを調べる事があります。
■膀胱ろう
 在宅療養されておられる方で、膀胱に直接管を通して、膀胱ろうの手術をされている患者さんもおられます。理由は家族の介護の手を減らしたいからだそうです。
年老いていく家族の負担を支える、公的支援がもっとしっかりしていれば、しなくて済む手術かもしれません。


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