*この頁は故西尾等さんが遺されたホームページを再録させていただいているものです。→その表紙ALS [2003.7 再録:立岩 真也]



■ALS筋萎縮性側索硬化症と治療最前線
『発症原因の研究』
1、SOD-1遺伝子
今現在ALS発症の原因として特定できており、また唯一実験可能なALS発病マウスを提供出来る意義は大きい。
SOD(スーパーオキシドディスミターゼ)は強い
活性酸素O2-(スーパーオキシド)を抑制する酵素です。体内ではO2-/H2O2/OH/シングルオキシジェンなどの活性酸素と、抗桔する酵素やベータカロチン(ビタミンA)/ビタミンCのバランスでなりたっているのです。
 人間の体内では、このO2-の強い殺菌作用で外敵から自分自身を防御している。感染が起きると、白血球が集まり酸素を出して殺菌します。泡の出る消毒薬も同じ殺菌原理です。
また、心臓体外循環後や肝臓移植の為に虚血した後、血液を再還流すると活性酸素が発生して、組織障害を起こします。
発生したO2-は通常ならSODにより、ハイドロゲンペロオキサイド/H2O2などに変化し、さらに様々なペロオキシダーゼにより、シングルオキシジェンに変り、ベータカロチンなどにより、H2Oに変ります。
また、激しいストレスによっても、活性酸素を生じます。活性酸素には白血球の関与があります。

ところがALSの2%の患者に、このSOD機能に異常(機能低下)があり、しかもそれが家族性(遺伝)であることが判っています。 SOD-1遺伝子は第21番染色体上にあります。
家族性FALSは孤発性PALSの約10%ー15%以内と言われています。
2、第九染色体
まれに、家族性ALSのうち第9染色体に異常が見つかっている特殊な家系の存在があります。異常な程その家系にはALSが多発しています。日本人に多い福山型筋ジストロフィーも同じ、第9番染色体上に位置しています。
3、グルタミン酸
 ジョンズホプキンス大学の研究チームが中心になって、グルタミン酸の異常蓄積の原因が、EAAT2タンパク(グルタミン酸トランスポーター)が複製の際に誤ってコードされ、疑似タンパクが正常なタンパクを抑制するため、グルタミン酸を抑制出来ずに、脳と脊髄の運動神経の周りにグルタミン酸が異常蓄積し、そのグルタミン酸は興奮性神経伝達物質で、運動神経を障害していくと考えられている。
孤発性ALSの約65%にこのmRNA転写異常による、疑似タンパク産生がみられ、他のパーキンソンなどでは見られない。

【DNAとRNAの雑学】
DNA(二本鎖)はデオキシリボ核酸の略で、染色体上にあります。形状はラセン形の梯子でAGTCのたった4つの塩基の組み合わせから成り立ち、きちんとした法則があります。A(アデニン)はG(グアニン)とのみ対になり、T(チミン)はC(シトシン)とのみ対になります。つまりG-A, T-C, C-T, A-Gの組み合わせが、ラセン階段に並んだものを想像しましょう。§§§§§
複製する場合は、その対の鎖が酵素で切断されて、1本になっていきます。トランスファー(転写)RNAにより、きちんと塩基配列がコピーされていきます。(CATTGAATTTCAGTAA)のように。各対の塩基は決まっているから、反対側は(TGCCAGGCCCTGACGG)と必然的になります。何と合理的なのか! ! !
ある塩基配列により、特定のタンパクのみがメッセンジャーRNAにより精製されていきます。しかしその段階で、(例)G→Aと誤って複製されると疑似タンパクが作られていきます。癌などの場合も、本来は対になるはずの無い塩基同士がくっついたり、対の鎖に歪みが生じたり、癌タンパクを作り出したり様々な異変を作ります。
分子量を調べるには特定の部分で切断する酵素を使い、切断した後、電気泳動をかけます。放射性物質の32p(リン)が結合されているので、どのくらい移動したかは、32pの距離を比べれば分子量が判ります。分子量が大きいとのろく、小さいと速いのです。
小錦と若乃花と、瀬古を走らせ、距離の差から、体重(分子量)を割り出すのに似ています。

『治療薬の研究』

  1. グルタミン酸抑制薬
    リルテック/ノイロンティン(商品名:ガバペンティン)/LY 300164
  2. 免疫抑制剤
    サノフィー(商品名:SR57746A )/FK506
  3. 神経保護物質/神経成長因子
    BDNF/GDNF/FK506/サノフィー
  4. 抗酸化剤
    大豆レシチン結合SOD(対O2-)
    セレン(対H2O2)
  5. その他の治療法
    リンパ球除去(リンフォプラズマ)
    末梢幹細胞移植
    免疫グロブリン療法

(注)リルテックは1999年4月より正式承認薬として服用が認められる予定。 (延命効果としては3カ月程度?)サノフィーは1998年4月より国内で治験開始。BDNFは皮下注射では効果がみられない事から、脊髄液に直接注入する方法で米国では治験が進行中。日本でも治験開始予定。国内でも治験中のミオトロフィン(インシュリン様成長因子)は効果がないよう。 LY 300164(イーライリリー社)は米国で第二相試験中。ノイロンティンは抗てんかん薬。
米国では、リルテック+サノフィーのような複合投与も行われている。

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