*この頁は故西尾等さんが遺されたホームページを再録させていただいているものです。→その表紙ALS [2003.7 再録:立岩 真也]



 ALS筋萎縮性側索硬化症にかかった以上、いつかは気管切開→人工呼吸器を装着するか否かの選択は避ける事は出来ません。
その選択は個人の人生観や年齢、生への執着、家族環境、ALSという病気の理解度などで大きく異なります。
 しかし、絶望しないで下さい。生きる希望を放棄しないで下さい。人工呼吸器をつけても、貴方には思考する能力/意思を伝える手段/社会に貢献する方法は幾らでも有るのです。確かに家族には多大な介護と財政的負担がかかるかもしれません。しかし、それも患者受入施設が有る場合は、特定疾患の認定を受ければ負担は皆無になるか、僅かですみます。
もし在宅療養しか手段がなくても、失望せず保健による無料化を勝ち取っている方、闘っている方が沢山います。
もし貴方が家族を愛し、家族が貴方を愛しているなら、是非人工呼吸器をつけてALSと闘う道を選んでもらえませんか。生きてください。
死を選択される方は、それなりに非常に勇気のある行為だと尊敬します。何故なら、呼吸困難/窒息の苦しさと死の直前まで己と闘わなくてはならないのですから。
人工呼吸器を装着する事の決断も勇気有る行為であり、死からの逃避ではありません。だから一旦装着を決意したら、その後決して、『死にたい、呼吸器を外して』と言ってはなりません。心で思っても言葉に出したら卑怯者です。呼吸器を付けず死を選択していった人達への冒涜だと、私は思うのです。


■ 気管切開と人工呼吸器装着について ■

気管切開には全身麻酔と局所麻酔の二通りあります。喉に挿入するカニューレの大きさに合わせて、通常1cm程度の穴を開けます。
カニューレ写真

カニューレ (写真)には8号、7.5号、7号のような呼び名がついており、数値の大きい方が太くなります。カニューレには小さな ゴムの袋 (カニューレに付いている袋。写真下の袋はエアー確認用。)が1つまたは2つ付いており、人工呼吸器からの空気が、鼻孔側に抜けないように膨らまし栓の役目をします。カフ圧と呼び、通常カニューレの号数−1または−1.5の空気をシリンジで入れます。
カフ圧は時々調べないと抜けている場合があります。カフ圧が抜けると、人工呼吸器からの空気が上気道に漏れて、少し息苦しくなったり、声が出たり、痰の吸引がうまくすえなかったりします。また、まれに肺に行くはずの空気の一部が、胃にまわり膨満感をきたす事もあります。
またカニューレは最初8号を挿入していても、気管切開穴が肉の盛り上がりにより狭くなり、7. 5号におとしたり、肉ゲを切開したりしなければならない。年齢が若いほど、穴が狭くなりやすい。かといって、穴を広げすぎると、カニューレとの間から空気が漏れてしまう。
カニューレは人体にとり異物であり、平均2週間に1回の割りで交換を必要とする。この際痛みと出血を伴う。
体位はベッドを平らにして枕をはずし、喉を延ばすようにする。医師は消毒し、カフ圧を抜きカニューレを引き抜く。吸引し、カニューレを一気に押し込んでもらう。紐でしばり固定する。紐のしめ具合は指1本が入る位がよい。緩すぎるとカニューレがずれて、気道壁にあたり痛みを生じる。
人工呼吸器装着する事で失う物があります。
  1. 声と意思疎通
    これにはスピーキングバルブや意思伝達装置でかなりカバー出来ます。
  2. 行動の自由
    人工呼吸器にも移動可能なポータブル型が有りますし、それらを載せられる車椅子も開発されています。事実、人工呼吸器を付け海外にも出掛けてる方もいます。今回、私の隣室の
    "井殿トクエ様" のご好意から、人工呼吸器PLV-100を乗せ車椅子にのられた写真を頂戴しました。写真、お名前etcの掲載許可は戴きました。井殿さんはご主人や三人の息子さんなど親戚の方が頻繁に訪れ、車椅子に乗せたり、普通食を(お寿司も)食べたりされています。
    人工呼吸器を車椅子に載せて散歩病院散策
     私も約3年前、人工呼吸器を付けても車椅子に乗りたい、口から流動食を食べたいと病院側に頼みましたが、看護婦の手が廻らない事を理由に拒否されました。今、家族の協力でそれを実行されてる井殿さんは、生き生きして見えます。そして私にとり、あの3年前の時もし、車椅子にのれていたら、もっと足は動いていただろうと思うと、他の方にはその失敗をせず、何らかの方法で実行してほしいと願うのです。
     ALSなどの神経難病患者を車椅子に乗せたりしてくれる、ボランティア組織があれば。
    1. 臭い
      気道をカフで塞ぎますので、臭気は無くなります。これは考え次第で、排便の臭いもしない訳だから、幸せな面もあるのです。美人の化粧/香水や花の臭いは想像力でカバー。

    人工呼吸器装着の前に

    【ファイティング】
    一番最初に人工呼吸器を装着すると、人工呼吸器のリズムに合わずに、自分のタイミングで自発呼吸をするため、吸いたいのに空気がこなかったり、反対に息を排気したいのに空気が押されたり、人工呼吸器とのファイティング現象が起き、非常に苦しい状態が続きます。
     人工呼吸器が変り、換気量設定がすこし少ないと、ファイティングを起こします。その日に血液ガスを測って問題無くても、2〜3日してからファイティングがおこりだし、末梢の酸素濃度の低下が起きている事があります。最近では、指に挟む小さな測定器が開発され、非常に便利になった。
     前者の場合には、

    1. 腹式呼吸に心掛け、過呼吸にならない。
    2. 器械にまかせる気持ちを作る。
    3. ゆっくり大きな息をする。
    4. 落ち着く。
    ことが大事です。ファイティングして器械に逆らっても、しんどいだけで何の得もないのです。

    ■Mチューブと胃ろう ■

    食事が飲み込めなくなったり、誤いんの危険があったり、咀嚼困難になり、栄養上問題が出ると、経管栄養の検討が必要になります。
    しかし、人工呼吸器を付けたから即経管栄養という訳ではありません。気管切開、人工呼吸器装着しても、上記症状が軽ければ、工夫次第で家族と同じものを味あうことも可能です。また、コーヒーを飲んだり、ゼリーや卵豆腐などは結構いつまでも食べれます。
    Mチューブについて

    鼻から胃の入口までチューブを飲み込むように挿入します。長さとしては約50cm弱、鼻の入口から通します。チューブの径は、8、10、12、14フレとあり、数値が大きくなると太くなります。通常私は8freを使用しますが、顆粒の薬を投与すると詰まりやすいので、太いチューブを使用します。
    利点は感染のリスクがまず無い事で、欠点は
    気道と食道の分岐点 をうまく飲み込めないと苦痛がある事です。
    気道と食道のイラスト 交換は約2週間に1回です。チューブのまま挿入する場合(充分飲み込む力があるケース)チューブの中に細いガイドワイヤーを通す場合、チューブを凍結する場合などがある。
    体位としてはベッドを上げ、少し枕をたかくし、顎を引くようにし、気道と食道の分岐点で思い切って飲み込むようにすると、後はスムーズに通る。医師にチューブを押す前に“飲んで”と言ってもらい、後はタイミング次第。
    M(マーゲン/ドイツ語で胃のこと)チューブには、使用しない時に逆流しないためにキャップが付いている。

    //胃ろうについて//

     直接胃に穴を開けGチューブを通します。チューブの径は通常20フレを使用します。利点はMチューブのように頻繁にチューブを交換しなくても良く(3カ月に1回位)、太めのチューブを挿入出来、在宅者は大抵胃ろうを選択している。ミキサー食や裏ごし食を食べることが可能になり、家族と同じ物を食べている満足感が得られる。
    欠点は傷口からの感染のリスクがある事、胃汁の滲みによる皮膚の爛れや体位交換の際固定が悪いと引っ張られたり痛みを伴う事です。

    胃ろうイラスト

    <このイラストは胃ろう用PEGの種類と、その模式図です。図の下部が胃壁になります。広い方の図の左端がガストロボタンです>
    HOME HEAD