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瀬地山角さんへの手紙


last update: 20161029


MAIL ********
Re:
瀬地山 角 様

★ 御無沙汰しています。立岩です。メイルいただきました。返事おそくなってす
みません。本を読んでいだき,ありがとうございます。

★ 性の商品化について。私がある程度の分量を書いたのは「何が性の商品化に抵
抗するのか」(江原編『性の商品化』所収,1995年)だけです。満足していません
が,それでも当時の議論の状況の中では,ある程度のことを言い得たと考えていま
す。&それから,考えがそう前に進んだわけではありません。&そこに書いたこと
は『私的所有論』と矛盾していないはずです。本のだいたいの構図を得たのちに書
いたものだと思います。
 以下,ランダムにいくつか。

★ 私にとっては,自己決定でいいじゃないか,という話は,「常識」のレベルに
あることであって,論として立てるまでもない(し,相当部分,私自身が思うこと
でもある)。考えるとすれば,このことに「ついて」考えるということになるだろ
う。ですから,本の第1章の注でも書いたことですけれど,「性の自己決定論」と
いうものが,あらたになにごとかを言っているかのように受け取られることがある
とするなら,そのことがわからない,という感じです(もちろん,そうした主張が
需要−受容されることについて,解釈はいろいろとできますけれども)。

★ まず(通常言われている)自己決定の主張がそれほど強固な,というより,明
確な主張であるのか。
 第一に,意外とそのことの含意が検討されていないと思うのは,私たちは自己決
定のすべてを認めてはいないということです。

★ 第二に,「迷惑をかけなければ」と自己決定論者が言ってしまうことの意味で
す。これを逆手(かどうかしりませんが)にとって,自己決定を否定することだっ
てできるでしょう(『現代思想』に書いたものの最初の方でもこんなことを書いて
います)。永田さんの議論は,こういうのに近い。
 ひとつに,こうしたことを地道に?考えることではないでしょうか。

★ それはともかく?,私の論の内部では,性の自己決定,死の自己決定が完全に
否定されることはありません。
 しかしその時に,議論は終わるのか。そうも考えないということです。(死の自
己決定については,本が出た後,2本くらい書いてますが。)

★ そして,「性=人格」論を,完全に否定することができるかという問題もある
でしょう。もちろんここで「人格」をどういった意味に解するのか等々の問題があ
りますが。(ちなみに『現代思想』の浅野さんの論文を私は読んでおらず,今手元
にないので,論評することはできません。)

★ てな具合で(どんな具合にもなってませんが),話はなかなか込み入っていま
す。が,相当のところまで論を詰めることはできるだろうと思っています。
 ただ,この主題で長いものを書きたいとは,少なくとも今,思いません。なぜだ
ろうか。一つには,この主題についてあることを伝えたいと(少なくとも今)切実
には思っていないからでしょうか。また一つには,この主題についての議論が消費
されてしまう,その消費されてしまい方があまり好きでないということでしょうか。

★ ところで宮台他の『<性の自己決定>原論』を,こないだ原稿を書く時に見て
おくといいのかなと思って手にとったのですが,おもしろいと思ったのは,主張さ
れている論と事例として引かれていることとの間のずれでした(宮台氏の書いてる
部分です)。後者において,相当に叙情的な,あるいは人間的(人格的?)な記述
がなされている…。ずれている2種類の言説が並置されていることの与えている効
果,といったものに興味をもちました。

★ 7月は6度くらい東京に行く用があるのですが,8月はそれが少しあきます。
中旬に松本を1週間ほど留守にするつもりです。それ以外は松本におります。ので
よろしかったらどうぞ。もちろん,9月など,私が東京にいったついで,でも。
 明日しゃべる話をいちおう作ってしまい,次の仕事にかかる合間に書いています。
これからしばらく,来月10日締切の原稿にかかります。ですから,返事などは遅
くなる可能性がありますが,メイルはほぼ毎日見ています。

★ 私は,こうした(どうした?)主題についての(Eメイルなどでの)やりとり
については,準?公開(ホームページに掲載する)でいければと考えています。
もちろん,瀬地山さんのところにも掲載していただだいて(私としては)OKです。
 ここのところさぼっていますが,私のホームページの「S’s」というところは
そんな感じです。(掲載についての予めの相談の上でメイルをやりとりしているわ
けではないので,固有名詞は伏せてあります。)私からの発信については,今後も
こういう方法をとりたいと思います。少なくとも,同じような(しかし少しややこ
しい)内容のメイルを何度も書く必要はなります。瀬地山さんの了解が得られれば
(例えば日程の確認等,余計な部分を省き),双方のメイルを掲載いたしますが,
いかがいたしましょう。もちろん,御希望に沿い,いかようにもいたします。私と
しては,様々なメイル(でのやりとり)をそういう具合に使っていきたいと思って
いる(が,そうまめな方ではないので,なかなか…)ということです。
 また,いわゆる「活字」になるものよりは真面目に考えて書いていないことは確
かなので,論文等のようにどこを引用されても文句は言わない(言えない)という
のとは少し性格が異なると思いますが,チェック→了解の上での引用等は許容され
うると思います。

★ とりあえず,以上。最後の方は,思いつきで書いてたら長くなったので,あま
り気にしないでください。失礼いたします。
                                立岩 真也

  390-0861 松本市蟻ケ崎1892-4 phone & fax 0263-39-2141
  NIFTY-Serve ID:TAE01303,internet ID:tateiwa@gipac.shinshu-u.ac.jp
 ※http://itass01.shinshu-u.ac.jp:76/TATEIWA/1.htm
  勤務先:390-8621 松本市旭3-1-1信州大学医療技術短期大学部
  phone 0263-37-2369[自室] fax 0263-37-2370[学部]

 ※1月12・16・20・26日,2月2・10・17・24日,3月4・18・27,4月3・6
  ・14日,5月5・10・18・29日,6月15・26日,7月1・10・14日に更新しま
  した。
 ※拙著『私的所有論』(勁草書房,1997年9月刊)関連のページがあります。
 ※「全文収録」の項目を作りました。著作権等の問題がない&広く公開してよい
  という文書の全文を収録し,見ていただくためのものです。御利用ください。


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