表紙 SSKA増刊 障教連だより ひとずじの白い道 第7号1994年10月発行 「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会 編 1971年8月7日第三種郵便物認可 毎月1の日、6の日発行 SSKA増刊通巻第2464号 1994年10月13日発行 p.1 「白いひとすじの道」 (第7号) もくじ 巻頭記 再確認したネットワークの電要性 ―障教連とJVTの熊本での集い― 2ページ 第一部 軌跡 1軌跡(94年4月~8月) 2都教委交渉報告(94年6月と7月) 3資料 (1)筑波大への要望書…14ページ (2)筑波大からの回答書…16ページ (3)6.9都教委協議事項…18ページ (4)8.23都教委協議事項…!9ページ (5)東京都議会への誓願書…21ページ (6)文部大臣への請願書……24ページ (7)署名活動の新聞記事(朝日新聞・多摩版)…26ページ (8)都議会議長への請願書提出を伝える新聞記事…27ページ (9)「目のハンデ克服教壇に」(読売新聞94年7月27日)…28ページ (10)東大泉病院への要望書…29 (11)東村山高等学校長への要望書…30 第二部 障教連第3回大会特集 ○大会総括 大会実行委員長 斎藤 昌久…33ページ ○分科会報告  視覚障碍分科会 尾崎 裕子…38ページ 内外部聴覚障碍分科会 大里 暁子…39ページ ○大会参加者感想  浅海 幸一…40ページ 桑原 崇…42ページ 河村 美智 小林 麻紀子…43ページ 鈴木 美智代 坂巻 典子…45ページ ○Page One(大阪障碍を持つ教職員の連絡会) -編集後記 宮城 道雄 p.2 巻頭記 再確認したネットワークの重要性 ―障教連とJVTの熊本での集い 古賀 皓生  私は、熊本で、障碍者が中心になって、非障碍者と共に設立している 「ヒューマンネットワーク・熊本」という障碍者自立支援組織の会員にもなって います。  本誌第6号で書きましたように、私が障教連に加わるきっかけを作ってくれ たのは、この「ヒューマンネットワーク・熊本」の活動家たちでした。彼らの おかげで、私は全国視覚障害教師の会(JVT)の事務局長であり、本会の会 員でもある栗川さんと出逢い、その人柄と行動力にひきつけられて、直ちにJ VTの会員となり、昨夏の新潟での研修会にも参加し、そこで『ひとすじの白 い道』を目にし、その場で入会したのでした。  日頃は、消極的な私も、障教連が「障碍保障制度」の確立を要求して、文部 省や東京都への署名活動を始めた時には積極的に署名を集めました。私や家族 の友人・知人から集めただけでなく、「ヒューマンネットワーク・熊本」の拡 大事務局会議にも出かけて依頼し、相当数の署名を集めることができました。  ところで、この組織は、『ネットワークBOX』という隔月間福祉情報誌を 発行しており、その記事の中に、あるテーマで一年間続けるシリーズものがあ ります。栗川さんの行動や署名運動が印象的だったためだと思いますが、1994 年のシリーズ企画として、栗川さんをはじめとする障碍を持つ教師の動きを連 載してほしいと頼まれました。私は、熊本から発信する情報誌なのに、熊本抜 きに、新潟や東京の実践や運動の報告が中心になってしまいそうなのをこだわ り、かなり抵抗を試みましたが、結局、栗川さん及び以前から彼と親しい養護 学校教師の平野静一さん、それに私の3人が企画・担当して連載することにな りました。  3人で話し合った結果、平野さんの発案で連載テーマは、障教連のスローガ p.3 ンを借りて、「ノーマライゼーションは教育現場から―バリアフリーを目指 す教師たち―」とすることになりました。そして、第1回には、この企画の 趣旨を書くとともに、3人がそれぞれに自己紹介をし、第回には、障教連代 表の大葉さんにお願いして、署名運動にいたるまでの経過、運動の意味、現状 見通し等について書いていただくことにしました。  1994年3月発行の『ネットワークBOX第14集』に掲載された大葉さんの 原稿は、『ひとすじの白い道』第5号の44頁に、資料として納められています。 この中で、大葉さんは、視覚障害認定を受けた1989年に、「天草に全盲の高校 教師をたずねて飛んでいった」と書いておられ、多くの理解者・支援者を得た ことを書き添えた上で、「数学の教師を続けておられるのも熊本での貴重な仲 間との出会いがあったからだといえます。」と書いておられます。私は、大変 驚き感動しました。栗川さんより先に、まず、大葉さんに書いていただこうと 言い出した時には、「ヒューマンネットワーク・熊本」の会員や読者に、署名 運動や障教連の活動の意味を代表からの直接のメッセージとして伝えていただ くことしか考えていませんでした。「熊本の方々と念願かなって知り合えた」 と書かれるほどに関係がおありだったとは全く知りませんでした。  さて、5月の最後の日曜日に、共同企画の担当者の一人、平野さんの結婚を 祝うパーティーが熊本市で開かれ、新潟から栗川さんも参加し、私も出席しまし た。そして、栗川さんを囲む二次会に向かう途中で、かつて、天草高校に勤め ていたことのある先生から、濱道先生の死が伝えられたのです。いつか、連絡 してお会いしたいと思い続けながら果たせずにきた私にもショックで、そのま ま、栗川さんたちとお悔やみに行きました。その時に、亡くなられた濱道先生 こそ、大葉さんが『ネットワークBOX』に「熊本での貴重な仲間との出会い があったから」こそ、今教師を続けていられると書かれたその「仲間」だった のだと栗川さんから知らされました。  8月20日、熊本市で小さな集会が開かれました。大葉さん、宮城さんの要請で 九州の会員との交流が当初の目的でした。結局、九州の会員としては、熊本の 工藤先生と私だけの参加となり、東京から大葉さん、斉藤さん、宮城さんの3 人、新潟から栗川さん、そして「ヒューマンネットワーク・熊本」の事務局長 をはじめ5~6人、先述した共同企画者であり、この集会の世話人である平野 p.4 さんと彼の呼びかけで参加した高校教師のTさんといった顔ぶれでした。  集会では、参加者一人一人の自己紹介と、障教連、全国視覚障害教師の会 (JVT)、「ヒューマンネットワーク・熊本」の3つの組織の簡単な近況報 告がなされましたが、やはあり、3人で濱道先生を訪問され、天草に渉り、濱 道先生の同僚と会ってこられた大葉さんの発言が胸に迫りました。大葉さんの 濱道先生への思いの深さを、独自の動きをしながら、ゆるやかに連携するネッ トワークの重要さを改めて実感しました。  この集会で、私がうれしかったのは、かつて、挨拶しあったことがあり、い つか再会したいと思っていた視覚障碍のあるT先生が参加しておられ、その後 JVTの会員になられたと聞いたことです。障教連の紹介も是非してみたいと思っ ています。 p.5 第1部 軌跡 軌跡94。4月~8月の動き 都教委交渉報告 資料 p.6 軌跡―94年4月~94年8月の動き 宮城 道雄  今回は94年4月から94年8月までの活動の報告をします。 1.前進 (1)署名、都議会と文部省へ提出  障碍を持つ教師が働き続けるための保障制度の確立に向けた署名を昨 年の9月開始以来1年が過ぎ、組合や諸団体の協力と支援を得たり、会 独自の活動を展開する中で、都議会に7万、文部大臣宛に11万の署名 を集めて提出した。思ったより沢山集められた上に、都議会の奥村議長 や文部省の岡崎政務次官に直接面会して署名を手渡せたことは障碍を持 つ教師の課題をはじめて取り上げさせたという点で画期的な事である。 都議会では厚生文教委員会に付託され問題が審議の場にのせられた。文 部省においても関係部署に回され、検討される事になった。  事前準備として、議員に連絡を取ったり、都議会の各会派回りをやっ て会の活動や主旨を訴え支援を求めたところ、4会派に紹介議員になっ て頂くなど一定の理解を得られたと言える。マスコミに対してもビラを 送るなどの働きかけをしたために、NHKや朝日新聞等が取材に来て報 道されたことで、社会的に問題をアピールできた。この波紋は都教委の 姿勢にも学校現場にも広がって行くにちがいいない。 2.都教委交渉、個別問題で前進  6月8日の2回持たれた。小田原職員課長、榎本管理主事、奥村係長 が前任者と交替した為に引き継ぎを行ない、これからも継続的に交渉を 持つことを確認した。  個別課題としては、まず大里問題だが、今後の勤務のあり方を確認し た。現在、要配慮教員に適用されて3年目になるが、来年度は適用から 外すという事である。勤務は本人の普通校で働きたいという希望を生か して、望まない所へは異動させないとの事。ただ、健常者と同様には働 けないので加配措置を要望した。 p.7  大葉問題については、補助機器やソフトの研究開発、資料の収集のた めの外出(出張)に関する要望に対して、都教委としては個々のケース による違いはあるにしても、基本的には必要なものは認めるとの回答を 得た。 (3)活動範囲、全国へ広がる  対教育委員会としては、辻問題に係わって京都市教委と交渉を持つこ とになった。組合では、米光問題に係わって静岡県教組と連絡を取り合 い、会の活動に対する理解を得て協力の糸口を持てた。会の組織として は、8月、九州連絡担当の古賀さんを中心に障教連九州の集いを開催し た事により、今後の九州での活動の拠点作りの第一歩を踏み出したと言 えそうだ関東では署名活動を通して埼玉で協力者が増え、東京、神奈 川で新化委員が増加している。 (4)障教連第3回対回開催 7月30、31日、多摩障害者スポーツセンターにおいて第3回障教連  大会(夏季合宿)が開催された。延べ40名の参加の下、総会、分科 会、討論集会、連帯挨拶、差別問題報告会と予定通りに滞りなく終え た。1年間の成果と課題を確認し、更に、多くの人達と交流が出来て大 変有意義であった。今回、方針の中で「差別をなくすために」の一文を 加え、個別問題を障碍者差別と位置づけて捉えることが確認された点で 一歩前進といえる。 (5)筑波大付属盲学校の教員採用基準の視力規定を撤回させる  英語課程教員採用基準として視力0.7規定があった事がわかり、本 会として問題点を指摘して、早急に改善することを求めて要望書を提出 した。その結果、視力規定は撤回して、これからは今回の様な事態を繰 り返さないように善処するとの回答を得た。 p.8 2.課題 (1)一人一人の当該者が各教委に要望を出して行こう!  当該者の個別問題については、現在継続中の課題だけでなく、一人一人の会員 がそれぞれ抱えている問題と要望事項を明らかにして、各教委との交渉のテーブ ルに載せて行きたい。都教委交渉での積み重ねが京都府教委との交渉にも生かさ れている。今後も具体的な要望を出して行く中で、教育委員会に何らかの対応措 置を要求し、個別問題の解決に取り組んで行きたい。一つ一つの成果の蓄積が、 障碍保障制度の実現に向けた近道である。   (2)署名提出を契機にして、行政に対する働きかけをさらに強化しよう!  都議会宛の署名は、現在、厚生文教委員会に付託されている。今後の運動とし ては、議員に対して質問を依頼したり、委員会を傍聴するなどの取り組みが必要 になってくる。委員会内で積極的な論議を巻き起こし、都教委としても真剣に検 討せざるを得ない状況を作り 出して行こう。また、文部省に対しても、署名提出 を契機にして新たに交渉の場を設定して行きたい。  なお、署名は都議会、文部省とも追加することが出来るので、今後も署名活動 は継続し、多くの人の理解を得て行かねばならない。 (3)運営部に積極的に参加して活動を活性化しよう!  教育委員会との交渉、各教組への協力要請、マスコミへのアピールと、会の活 動は大きく広がり、新会員も増えている。それに伴って運営部の作業量は大幅に 増え、責任も重くなってきている。皆が障碍を抱えつつ仕事と活動をこなしてい るので、少人数では役割分担にも限界が出てくる。障教連だよりの編集作業も人 手が不足している。会員一人一人が力を出し合って会を運営して行こう。運営部 に新しい方もぜひ参加を! (4)各地で運動の拠点作りを進めよう!  各地の連絡担当者を中心に地域ごとの交流を深めて行く。具体的な問題が生じ p.9 た場合には、運営部とも連絡を取り合いながら協力して解決に当れるよう努力 する。また、この間つながりの出来た教育委員会や組合へは、今後も働きがけを 継続して行く。   (5)自らの障碍を受け入れると同時に、他の人の問題も共有化しよう!  中途障害者の多くは自らの障碍を受け入れることが難しく、健康な頃と同様な 働き方を、無理してでも続けようとしがちだ。体調を維持しつつ働き続けるため には、無理をせずに何が必要かを具体的に要望して行けるようにしたい。また、 他の人が抱えている障碍をお互いに理解し合い、問題を共有出来るようにして行 きたい。 3.主な日程と動き ■4月 05(火)読売新聞の取材 09(土)運営会議、都障福 10(日)病院友の会参加 23(土)定例会、中野区民集会室 ■5月 04(水)署名集約作業 07(土)運営会議、都障福 10(火)東大泉病院に要望書送付 13・14(金・土)担当会議 21(土)定例会 24(火)担当会議 28(土)合宿実行委、新宿南口ルノアール p.10 ■6月 03(金)静岡県教組と話し合い 03・04(金・土)担当会議 04(土)街頭署名(NHK取材)、運営会議、都障福 09(木)都教委交渉 16(木)担当会議 18(土)街頭署名(朝日新聞取材)、定例会、富士見会館 19(日)朝日新聞掲載 21(火)都議会回り 30(木)NHK教育TV「あすの福祉」に「障」教・連登場 ■7月 02(土)運営会議、都障福 05(火)都議会回り 07(木)前島議員秘書に面会 10(日)朝日新聞の取材 12(火)都議会に請願署名提出、NHKニュース放映 13(水)朝日・読売新聞東京都版に記事掲載 15(金)成田空港にてアメリカの車いす教師・ジョン氏と面会 16(土)定例会、中野区民集会室 24(日)拡大合宿実行委員会、都障福 30・31(土・日)第3回「障」教・連大会、多摩障害者スポーツセンター ■8月 06(土)運営会議、都障福 11(木)大里担当会議 14(日)NHK放送「視覚障害者の皆さんへ」に「障」教・連登場 18(木)熊本の故・浜道さん宅訪問 p.11 19(金)天草で梶山氏(浜道さんの同僚)と面会 20(土)「障」教・連 九州の集い 21(日)臨時運営会議・大里問題 21・22・23(日・月・火)全国視覚障害教師の会合宿 23(火)都教委交渉 27(土)定例会、都障福 p.12 【6月9日】 出席:小田原職員課長・榎本管理主事・宮崎前管理主事・奥村職員課服務係長    井上人計課企画係長    障教連6名 (1)小田原・榎本・奥村の三氏が4月から前任者と交替したため、顔合わせと、こ れまでの都教委との話し合いの経過を双方で再確認した。 (2)障碍保障制度については、3月の交渉の時点から特に進展はなかった。視覚障 害を中心に検討してきたが、慢性疾患や、その他の身体障害も含めて考えており、現 行制度とのからみもあって、具体的な中身の検討に時間がかかっているとのことだった。 (3)大葉さんが、補助機器の開発や資料収集のために時間内外外出を要望している点 については、小田原職員課長は現校長になってから全面的に不許可になっていること は知らなかったようで、要望に対し一定の理解を示した。 【8月23日】 出席:榎本・井上・奥村の三氏    障教連6名 (1)障碍保障制度については、都教委内での検討は相変わらず進んでいないとのこ   と。 (2)大里さんの件  ①要配慮教員に適用されて3年目になり、制度上延長はないので、来年は適用を外 す。  ②普通校で働きたいという本人の希望を尊重する。  ③定数に入れることは難しいので、何らかの対応措置を考えたい。  ④現在受け持っている音楽の授業を二学期以降も続けていく。 p.13 以上の点を確認し、会としては、健常者と同じ働き方は無理なので同僚にも負担の かからない加配措置を要望した。 (3)大葉さんの勤務時間内外出の件  ソフトの研究開発など必要なものについては、基本的に認めるという見解が示され た。専修、奥村氏が校長と会って同様の主旨で話し合ったとのことである。 (文責 坂西) p.14 1994年3月14日 国立つくば大学付属盲学校長 宮 澤  嘉 夫 殿 筑波大付属盲学校 英語科主任 殿 「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会 代表 大葉 利夫 要望書  本会は、「障碍」(身体障碍や慢性疾患等)を持つ者が「教師になり たい、教師を続けたい」の実現を目指し、1991年10月に発足しま した。その目的実現の為に、意識面の改善や人的・物的対応の実現を、 行政や雇用主に対して要求して来ています。  具体的な例としては、視覚障碍であれば朗読アシスタント・内部障碍 であれば勤務内容の適正化(軽減)等であります。これらを私達は、 「障碍保障制度」と呼んでおります。現在、東京都教育委員会とは月一 回のペースでその実現に向けての交渉の場を持っております。また、組 合などとの連携も進めております。「制度」実現に向けて、国や都道府 県に宛てての全国署名も行っております。遅れている教育現場のノー マライゼーションの実現を、自らの力で実現すべく活動を続けておりま す。  そんな最中、貴校において1994年度の英語科教員採用基準に、 「視力0.7以上の者」の規定があった事実を知り、本会の主旨に反し ており、誠に遺憾と考えております。視覚障碍を持つ教師をアシスタン トをつける等してでも、一人でも多く採用しようという意識がなかった 事は、誠に残念であります。また今回の事は、貴校が障碍を持つ生徒の 社会進出に関して、今日まで非常に積極的に取り組まれて来たという歴 史に反する行為であり、対外的に盲学校においても視覚に障碍を持つ教 p.15 師は「不必要である」と公言した事になり、ましてや盲学校以外におい てはその限りではないという概念を生じさせてしまったのではないで しょうか。本会の運動にも大きな打撃を与えた事になったと考えており ます。  具体的な要望としては、 1. 今後このような事が無いようにして頂きたい。 2. 対外的なマイナス面の回復措置をこうじていただきたい。 この二点につき、3月25日迄に本会に文書にて納得がいくような形で お答え頂きたい。  色々と不躾な要望を述べましたが、本会としては貴校の前進的な歴史 に日頃より敬意を評しており、今回の件を共に乗り越えた後、障碍を持 つ教師が一人でも多く教壇に立てるための運動を続ける事が出来れば幸い と考えております。 連絡先 〒183 府中市朝日町1-15-26 大葉 利夫 TEL0423-62-7776 p.16 平成6年4月27日 「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会 代表 大葉 利夫  殿 筑波大学付属盲学校長 宮澤 嘉夫  1994年3月14日付「要望書」について(回答)  かねて貴会より要望のありました標記のことにつきまして、次のように回 答いたします。 「1.今後このような事が無いようにして頂きたい。」について    貴会ご指摘の通り、今回本校が行いました英語科教員公募に際しまして、 「視力0.7以上の者」という基準を設けましたことは、障害者運動全般の趣 旨に照らしましても、誠に不適切と申し上げるよりほかありません。今後こ のようなことのないよう、教職員一同障碍者に対する理解を一層深めるよう 努力すると共に、校内における文書のチェック体制を改めて参ることとし、 さる3月中に実行したところであります。 「2.対外的なマイナス面の回復措置をこうじて頂きたい。」について  本校の社会的立場を考慮いたしますと、今回の公募におけるご指摘の件は、 対社会的にも大きな影響を与えるものと危惧され、その責任はまことに重大 なものがあると考えます。本校と致しましては、出来るかぎりのてだてを尽 くして誤解を解いて参りたく、ただいま今回公募文書を配布致しましたすべ ての機関に、釈明の文書をお送り申し上げるべく準備を進めております。ま た、今後あらゆる機会を通じて、障害者雇用に対する一般の理解を求めるよ う努力すると共に、障害を持つ教師が、一人でも多く教壇に立てるよう、自 らも務めることによって、対外的なマイナス面の回復措置を図って参りたい と考えます。 p.17 (補足説明)  ご承知のように、本校では、以前から可能なかぎり視覚障害者の教員を採 用して行こうと努力して参りました。公募に当たっては、特に「点字使用者」 と明示して公募したこともございますし、それ以外の公募におきましても、 視覚障害の有無に係わらず、厳正な審査を経て、真に本校の教員としてふさ わしいと思われる方を採用して参りました。今回の英語科教員の公募に当た っては、英語科教員4名のうち、前回の公募において既に全盲教員を1名採 用しており、この上視覚障害者の採用は厳しい状況にあったことは事実です が、公募の謂わば入口の段階で、視力0.7をもって資格に制限をつけること は、視覚障害者排除につながる大きな誤りであったと反省しております。加 えて、0.7という数字が、従来、視覚障害者の教員採用問題において象徴的 な意味合いを持つ数字であったことを考えますと、視覚障害者の学校である 本校で、あり得べからざる過ちを犯したと申し上げるよりほかありません。 実情を申し上げれば、校内の大半の者が気づかぬままに、一部の者の判断で 文書が公になってしまったと言うことであります。この事につきましては、 先に申し述べたとおり、厳正なる文書のチェック体制を確立すべく改善を図 ったところであります。  いずれにしましても、一度公になった文書である以上、責任を免れること は出来ません。この上は、障害者の雇用問題に対する本校の今後の実際行動 をもって、釈明していくしかないと考えます。なにとぞ意のあるところをお 汲み取り頂き、今後とも手を携えて、共に障害者の雇用運動の一端を担わせ て頂きたく、お願い申し上げる次第です。 p.18 1994年6月7日 東京都教育庁人事部 職員課長 「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会 代表 大葉 利夫 6月9日の話し合いについて  日頃より本会に対して御理解ご協力を頂き誠に有難う御座います。さ て、さっそくですが6月9日の「話合い」の内容を以下のようにまとめ ました。双方で事前に検討を加えて、当日の会議が有意義なものになる 事を希望します。 Ⅰ.年度変わりに当り今日までの経過確認等  特に、本会と貴教委とのつながりに大きな役割を果たされた坂本職員 課長が変わられた事もあり、今回は新しい職員課長に同席頂き、今まで の経過を含めて今後への双方の役割の大きさを確認したい。 Ⅱ.貴教委における「障碍保障制度」の検討状況  本会の提示した「障碍保障制度要綱」や、この間の具体的な事例や、 95年度新規教員採用を含めた課題に対して、その後の進展状況を知り たい。 Ⅲ.当該教諭に関して 1.都立東村山高等学校大葉教諭  ア.研究開発等の時間的保障  イ.異動実現までの通勤の危険 2.品川区立城南第二小学校大里教諭  3月25日以降「94年度の勤務内容」が不明確なまま今日に至って いる。貴教委の担当者の交代が今年もあり、引き継ぎの面で不安も感じ るが、当該に対する「期待出来る見通し」をお聞かせ願いたい。 Ⅳ.成績評価と障碍を持つ教師との関わり  現在、賃金に対する「成績評価の導入」が貴教委の方で出されている が、その是非については本会の考えもあるが、特に今回は「成績評価導 入」の場合、障碍を持つ教師に対する検討はなされたのか。担当者の考 えをお聞きしたい。 Ⅴ.その他  時間が許されれば、のびのびになっている大葉教諭の「実践」の報告 と意見交換をしたい。 p.19 1994年8月23日 東京都教育庁 人事部職員課長 小田原 栄 殿 「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会 代表 大葉利夫 8月23日協議事項  本日も貴重な時間を共有出来る事を感謝致します。私達「障碍」を持 つ教師が働き続けられる為の協議内容を以下二まとめましたが、今回は Ⅰ-1、Ⅱ-1-ア・イ、Ⅱ-2-アを中心に進めたいと考えます。残 る部分については来月にも時間を頂きたいと思います。 Ⅰ.全体 1.「障碍保障制度要綱」についての進行状況と展望 2.教育委員会全体で、「障碍」を持つ教師が働く為のプロジェクト チーム(当該者側も含む)の結成の必要性はさし迫っていると考えられ るが如何であろうか。 3.都議会への「請願」に対する考え 4.教育長の考え(次回に向けて)  上記1~3に対して統括者である教育長の考えを聞きたい。 Ⅱ.個別 1.大葉利夫教諭(都立東村山高等学校・視覚) ア.研究開発や資料収集による勤務内容の変更  小田原職員課長も既に衆知であったこの件が、現校長により「中止さ れた」問題はどのように取り組まれたか。6月30日現在では留目校長 の態度は変わっていない。 イ.補助機器の別枠公費購入 p.20 ウ.ワークアシスタントの公費化 エ.通勤の負担と危険に対しての考え オ.異動について 2.大里暁子教諭(品川区立城南第二小学校・人工透析及び視覚) ア.「要配慮教員」と勤務問題について  本年4月から7月にかけて区および都教委の現場への積極的な動きに 対しては一定の評価をしております。  しかしながら、大切なポイントが欠落していると考えます。「要配慮 教員」適用3年目、従ってその「出口」を探すに終始している様であり ます。本来ダブル障碍の大里さんが、いかに今の職場で教育活動を続け られるかが問題(校正者注:「本来~問題」下線)であり、その為の「具体的な対応施策」が無く、貴教委 が便宜的に「要配慮教員」にしてきたに過ぎません。  本会の立場から見れば「出口」の問題ではなく、障碍を持つ教師がい かにしてその職務の遂行を可能ならしめるかの「具体的な対応施策」の 「入口」に、貴教委が立つ時期の方が問題であったと言えます。その意 味では、94年度に入ってようやく貴教委がこの問題の「入口」に付近 いたと言う印象を受けます。  大里さんの問題は、本人や現場の協力・本会の支援・貴教委の「具体 的対応施策」があって初めて解決出来る事はお判り頂いている事と信じ ています。  「入口」の問題として貴教委も捉え、本人と現場の協力の中で試行錯 誤しながら考えられてきた3年近い中で、ようやくたどり着いた現在の 勤務内容(主に音楽)を継続させる(校正者注:「現在の~させる」下線)以外に、「出口」は見えてこないであ ろう。  具体的には「要配慮教員」の適用を早急に中止し、職場の教員定数を プラスする等の人的保障を改めて提起致します。 イ.ワークアシスタントや研究開発の保障 Ⅲ.その他 p.21 紹介議員 障碍(しょうがい)を持つ教員が働き続けるための 保障制度に関する請願 〒183 東京都府中市朝日町一―十五(校正者注:以下、捺印のため文字の判読不能) 「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会 代表 大場 利夫 ℡ 〇四二三―六(校正者注:以下、捺印のため文字の判読不能) 他 六六二五一名 p.22-23 障碍(しょうがい)を持つ教員が働き続けるために保障制度の確立を求める請願 請願事項 障碍を持つ教員が働き続けられるようにするために、以下の内容を含む具体的施策を講じてください。 一、障碍に応じて必要なワークアシスタントの配置をして下さい。 二、障碍の状況に応じて勤務内容を軽減し、そのために必要な講師その他の人的配置をして下さい。 三、必要な補助機器の導入と施設設備の改善をして下さい。 四、職場の異動にあたっては通勤・通院等事情に十分配慮して下さい。 五、医療機関への定期通院(人口透析のための通院等)については勤務時間内での通院を認めて下さい。 請願理由  病気や事故により中途で障碍(身体障碍及び慢性疾患等)を持った教員は、働き続けることが大変困難 な状況に置かれています。完治しない障碍ゆえに休職後の復帰が認められなかったり、復職しても、健常者 と同じノルマを消化しなければならないため体調を悪化させ、多くは退職を余儀なくされてきました。法律 によって障害者の雇用率が定められていますが、公的機関の中で学校現場の雇用率は、新規採用の壁が厚い ことも重なって非常に低い率に留まっています。  国際障害者年(一九八一年)とそれに続く「国連・障害者の十年」の中で、日本においても障害者の「完 全参加と平等」を目標に掲げ、障害を持つ人も持たない人も社会の中で共に生活していくというノーマライ ゼーションの理念の下に、様々な取り組みが国・自治体レベルで進められてきました。  また、一九九二年に批准されたILO一五九条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する 条約)の四条に「障害者である労働者と他の労働者との間の機会及び待遇の実効的な均等を図るための特別 な積極的措置は、他の労働者を差別するものとみなしてはならない」とあります。  「完全参加と平等」、ノーマライゼイションの理念を教育現場で実現していくためには、「障害児」も共 に学び、障碍があっても共に働くことのできる学校現場にしていくことが必要です。現行制度の枠内では障 碍を持つ教員が働き続けることは困難であり、個々の障碍に応じた、働いていく上に必要な人的・物的保障 を制度として確立することが早急に求められます。  以上の主旨により私達は、障碍を持つ教員が働き続けるために、障碍に応じた保障制度の確立に向けた具 体的施策を強く要望するものです。  年 月 日 東京都都議会議長 殿 p.24-25 障碍(しょうがい)を持つ教員が働き続けるために保障制度の確立を要望します  要望事項 障碍を持つ教員が働き続けられるようにするために、以下の内容を含む具体的施策を講じてください。 一.障碍に応じて必要なワークアシスタントの配置をして下さい。 二.障碍の状況に応じて勤務内容を軽減し、そのために必要な講師その他の人的配置をして下さい。 三.必要な補助機器の導入と施設設備の改善をして下さい。 四.職場の異動にあたっては通勤・通院等の事情に十分配慮して下さい。 五.医療機関への定期通院(人口透析のための通院等)については勤務時間内での通院を認めてください。 要望主旨  病気や事故により中途で障碍(身体障碍および慢性疾患等)を持った教員は、働き続けることが大変困難 な状況に置かれています。完治しない障碍ゆえに休職後の復職が認められなかったり、復帰しても、健常者 と同じノルマを消化しなければならないため体調を悪化させ、多くは退職を余儀なくされてきました。法律 によって障害者の雇用率が定められていますが、公的機関の中で学校現場の雇用率は、新規採用の壁が厚い ことも重なって非常に低い率に留まっています。  国際障害者年(一九八一年)とそれに続く「国連・障害者の十年」の中で、日本においても障害者の「完 全参加と平等」を目標に揚げ、障害を持つ人も持たない人も社会の中で共に生活していくというノーマライ ゼーションの理念の下に、様々な取り組みが国・自治体レベルで進められてきました。  また、一九九二年に批准されたILO一五九号条約(障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する 条約)の四条に「障害者である労働者と他の労働者との間の機会及び待遇の実効的な均等を図るための特別 な積極的措置は、他の労働者を差別するものとみなしてはならない」とあります。  「完全参加と平等」、ノーマライゼーションの理念を教育現場で実現していくためには、「障害児」も共 に学び、障碍があっても共に働くことのできる学校現場にしていくことが必要です。現行制度の枠内では障 碍を持つ教員が働き続けることは困難であり、個々の障碍に応じた、働いて行く上に必要な人的・物的保障 を制度として確立することが早急に求められています。  以上の主旨により私達は、障碍を持つ教員が働き続けるために、障碍に応じた保障制度ノ確立に向けた具 体的措置を強く要望するものです。 一九九四年 九月 七日 文部大臣 与謝野 馨 殿 署名提出団体  「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会         代表 大 葉  利 夫 〒一八三 東京都府中市朝日町(校正者注:以下、捺印のため番地の判読不能) TEL 〇四二三―三六―七〇一二 署名数 一〇五四二一名 p.26 朝日新聞 1994年(平成6年)6月19日 日曜日 教師である限り、障害があっても教壇に立ちたい・・・ 保障制度求め署名活動 JR飯田橋駅西口の街頭で 近く都議会に請願  病気や事故による障害を抱えながら、学校で働き続けたいという教師らで作る「『障碍(しょうがい)』を持つ教師と共に・連絡協議会」(大葉利夫代表)のメンバーが18日、JR飯田橋駅西口の街頭で署名集めをした。  障害に応じた勤務内容の軽減や補助機器の導入など、新しい保障制度の確立を都教委や文部省に要求しており、これまで全国から約8万6000の署名が集まっている。近く署名簿を添えて、都議会に請願する予定だ。  会は91年10月に首都圏を中心に約20人の会員で発足した。会員は支援者も含めて東北から九州の約150人にまで広がった。  会員のうち教師は約50人。抱えている障害は視覚、聴覚、心臓病、人工透析が必要な腎臓病とさまざまだ。障害を理由に退職を迫られたり、授業からはずされたりした経験を持つ教師が多い。  こうした障害のある教師のための特別な制度は整っていないため、会員らは、校長や教育委員会との交渉で、授業時間の軽減、勤務時間中に人工透析を受けること、専用ワープロの導入などを実現させてきた。  この日の署名活動には、新聞で会の存在を知った都内と神奈川県の小学校の教師二人も初めて参加。続いて開かれた定例会で職場での苦労や、将来への不安などを語り合った。  大場代表は「障害のある教師が、それぞれの学校の中で権利を主張していくことには限界がある。働き続けるための人的、物的な保障を制度として確立することが早急に必要だ」と訴えている。  会の連絡先は、〒183府中市朝日町1の15の26、大葉利夫さん(電話番号0423・62・7776) 写真省略「道行く人たちに署名を呼びかける、協議会のメンバー 18日午後、JR飯田橋西口で」 p.27 朝日新聞 1994年7月13日 障碍のある教師たち 保障制度の確立請願 都議会に  病気や事故によるハンディがある教師たちで作る「『障碍(しょうがい)』を持つ教師と共に・連絡協議会」(代表、大葉利夫・都立東村山高教諭)が12日、働くための保障制度の確立を求める請願を都議会に提出した。13日に開かれる都議会本会議で、常任委員会に付託される。  請願は「中途障碍がある教員は休職後の復職が認められなかったり、復職しても健常者と同じ勤務条件のもとで体調を悪化させ、多くは退職を余儀なくされてきた」と述べた上で、「完全参加と平等の理念を教育現場で実現するために、人的・物的保障を制度として確立することが早急に求められている」と訴えている。  この日は大葉代表のほか事務局長の宮城道雄・埼玉県立岩槻高教諭ら7人の教師が都議会を訪れ、奥山則男議長に全国から集まった6万6千人分の署名を添えて、請願書を手渡した。今後、文部省に対しても同様の要望書提出する予定。  会の連絡先は、府中市朝日町1の15の26、大葉利夫さん(電話0423の62の7776)。 読売新聞 1994年7月13日 障害持つ教師の勤務条件改善を 都議会に請願書 「障害」を持つ教師と共に・連絡協議会(大葉利夫代表)は12日、身体障害や慢性疾患を持つ教師が働き続けるための保障制度を求める請願書を都議会に提出した。近く文部省にも同様の請願を出す予定。  同協議会は、障害を持つ教師の労働条件の改善を目的に平成3年10月に結成。現在は教師になってから視力障害や慢性疾患などの障害を持つようになった小、中、高校教師50人と賛同者100人が加入している。  請願書は①障害に応じて仕事の補助者を置く②勤務内容を軽くして人的配置も講じる③必要な補助機器の導入、施設の改善を図る④勤務時間内の医療機関への定期通院を認める⑥職場の異動には通勤、通院などの事情を配慮する―――の5点を求めている。  メンバー八人は、都議会の奥山則男議長に約6万6千人の署名とともに請願書を提出。都立東村山高教諭の大葉代表が「障害を持っても生徒と接することはできる。人的・物的措置を」と、奥山議長に訴えた。 p.28 読売新聞 1994年(平成6年)7月27日(水曜日) YOUNG塾 障害者とのかかわり学んで! 目のハンデ克服、教壇に 都立東村山高の大葉さん  都立東村山高に、目が不自由なハンデを克服しながら教壇に立つ数学の教諭がいる。大葉利夫さん(44)。ボランティアに支えられ、同じ悩みを持つ教員グループの代表も努める大葉さんは、「学校は社会の縮図であるべきだ。障害を持つ教師がいて、子供たちが自然に障害者とのかかわり方を学べたら素晴らしい」と訴えている。  教諭になった後の昭和57年、無理がたたって緑内障を発病。平成元年に急に視力が落ち、今では左目が光を失い、右目もほとんど見えなくなった。学校側からは、別の道に進むことを勧められたと言う。  しかし、大葉さんはハンデがあっても教育の場に視力障害者はいるべきだ。そのために自分が先例になってやろう」と考え、教師を続けることを決意。独学で点字を習得し、ボランティアの助けをかりながら授業方法を工夫していった。  大葉さんはまず、点字で書かれた授業用の台本を作ることにした。点字教科書だけを使った授業では、大葉さん自身が膨大な量の点字を読まなくてはならないため煩雑で時間がかかるからだ。ボランティアグループ「東村山朗読研究会」の堀川朝子さん(56)らに教科書を朗読してもらい、それを聞きながら大葉さんが点字を打って授業用台本を作っている。  よく使う数式はあらかじめボードに書いておく。黒板に円を書く場合は、磁石を支点にひもで円をかく。  「試行錯誤の繰り返しだったが、能率を上げる方法を考えるのは、楽しみ」と、今では余裕さえ見える。  大葉さんは、都内の普通高校に2人いる、目が不自由な教師の一人。このほど都議会に障害を持つ教師が働き続けられるようアシスタントの配置や、音声ワープロなどの補助器具を備える障害保障制度を求める請願を行った。  「途中で障害を持った教師が退職する現状を変えるため、保障制度は必要。健常者と対等に教壇に立つことで、生徒たちの学ぶことも多いはず」と話している。 写真省略「ボランティアの堀川さんの教科書朗読を聴く大葉さん」 p.29 1994年5月10日 東大泉病院 日野部長殿 「障碍(しょうがい)」を持つ教師と共に・連絡協議会 代表 大葉 利夫 要望書  本会は、「障碍」(身体障碍や慢性疾患等)を持つ者が、「教師にな りたい・教師を続けたい」の実現を目指し、1991年10月に発足し ました。その目的達成の為に、「障碍」に対する社会的な意識面の改善 や、人的・物的対応(これを「障碍保障制度」と呼ぶ)の実現を、行政 や雇用主に対して要求して来ております。  実際には、東京都教育委員会と毎月の交渉、国や都道府県に対して要 求実現の為の全国署名を展開中であります。本会の会員は、教職員及び 一般市民・組合・議員と幅広い構成となっております。  貴職に対する要望主旨に入らせて頂きます。本会の活動の中心的存在 であり、副代表の的野碩朗さんに対して、長年勤めて来た職場を奪うと 言う配慮無き措置に対して、強い怒りを感じております。  貴病院内の諸般の事情はあるやも知れませんが、大事な職場を簡単に 奪うようなやり方に対しては、許されようはすがありません。しかも、 視覚障碍者が長年に渡り、日本の医療に多大な貢献をして来た事実を も、貴病院では抹殺してしまう様な事を、本当に考えられているので しょうか。  本会は、この事実を見逃す事も許す事も出来ないと言う立場で、下記 の要望を致します。  この要望の実現と、要望に対する心有る回答を下記に御連絡頂く事を 願うところであります。 記 1.貴病院における二人のマッサージ師の勤務を継続させる事。 2.今後、今回の様な問題を引き起こさない事。 連絡先 〒183 府中市朝日町1-15-26 Tel 0423-62-7776  大葉 利夫 p.30 1994年6月30日 都立東村山高等学校長 留目 祐光 殿 都立東村山高等学校 教諭 大葉利夫 要望書  視覚に障碍(しょうがい)を持つ私が、勤務を続ける為に下記の「障 碍保障制度」の実現の為の御配慮を宜しくお願い致します。 記 Ⅰ.人的保障 1.持ち時間の軽減(適正化) 眼精疲労の軽減や、授業準備等のアシスタント(現在朗読・点訳ボ ランティア)との対応時間の確保の為に必要。 講師配当の「軽減の項、その他」の適用に際しては、本人及び教科 からの意見を尊重してほしい。 2.アシスタント ア.採点などを私的対応から公的対応へ 現在前任校の同僚等にアルバイト依頼。 イ.ボランティアによる朗読や授業準備を公的対応へ Ⅱ.物的保障 1.仕事に関わる物的費用の別枠公費負担化へ  例)点訳料、テープ化、図書、消耗品 2.障碍機器の別枠公費による購入 p.31 例)パソコン 点字プリンター タイプライター   パソコンに関しては、常時使用する必要があるので、ノートパ   ソコンを緊急に購入して欲しい。 Ⅲ.障碍をカバーする為の研究開発の保障 1.点字図書館等への出張 2.障碍機器の開発  通常の「研修日」だけでは到底処理出来ない時間的量的な内容であ  る。障碍故に既成の施設や機器では利用する事が不可能で、新規に  開拓する事情を考えて頂きたい。小田原職員課長は、この点に関し  ては大友校長時代の方法が現在も行われていると思われていまし  た。 Ⅳ.異動について 1.異動が実現するまでの通勤問題  毎日危険で不安定な通勤状態の改善策を考えて頂きたい。 2.異動の実現  既にお伝えしている様な事情を考えて頂き、「異動人事」が困難な  状態だけで処理するのではなく、現実的な結果をお願いしたい。 p.32 第2部 第3回障教連大会特集 大会(夏合宿)総括 参加者の声 p.33 第3回 障教連大会総括 実行委員長  斉藤 昌久  多摩障碍者スポーツセンターで、7月30,31日の両日に渡って94年度の障教連 夏合宿は開催されました。障教連が産声を上げたゆかりの所であり、93年から 94年の上半期にかけての障教連の充実した活動の成果を踏まえて、夏合宿を 「障教連大会」として開催することになりました。  参加者は30日が29名、31日が高校生を含めて33名になり、2日間活発な意見 交換と障教連の今後の活動の方向性や新会員への情報提供が行なわれました。  この大会にも、昨年に続いてボランティア6名のご協力を頂き、この総括の場を借 りて先ずお礼を申し上げなければなりません。参加者の出迎え、文書の印刷、 受け付けなど、その貢献は計り知れないものがあります。  この大会総括は、障教連の一年の歩みを知り、障碍を持つ教師である当該者 員はもとより「共に」会員が、障碍者運動の今後の方向性を考えていく上で、 大変重要な位置を占めるものとなることを願って、「白いひとすじの道」に特 集版として、まとめることになりました。現在都教委と文部省に「障碍保障制 度要網」の請願署名の提出をやり遂げ、議会への上程へ厚生文教委員会などに 働きかけている、きわめて重要なダン会に、今一度大会を振り返って私たちの会 の過去・現在を再確認し、これからの運動を構築する基礎にしていただければ 幸いです。  大会役割分担:実行委員長 斉藤  参加者への呼びかけ 荘田  宿泊施設準備  栗原  ボランティア・食事・懇親会 大里  受け付け・案内 坂西  集会総合司会    宮城  分科会司会  尾崎・大里  懇親会  丸山・大里  討論集会   的野  ボランティアの方々:藤井(日本女子大より)河村、芦沢、仁科、 及川、小松、植松(敬称略) 以下、大会の概要と分科会の内容、そして参加者の感想をまとめました。 p.34 第3回「障」教・連大会資料要約とまとめ 基調報告:「ひとすじの白い道がある」  1.93年夏合宿以後の動き 都教委交渉における2つの成果 ①大場問題で94年度は勤務時間適正化(5時間の講師配当による勤務時間軽減) が障害者であるという理由で正式に認められた。 ②大里問題で、人工透析を受けている人の勤務時間内の透析通院が時間病欠 (身分上、賃金上不利益のない)という形で94年4月から正式に認めたこと。 都教委は、要配慮教員制度が障害者が働き続けるための制度ではないことを認 め、障害者が働き続けるための対応措置を検討していると回答した。  「障」教・連から出されていた「障碍保障制度」の確立を求める要求に対し て視覚障害教師が働くためのアシスタントの配置についても実例を収集して 研究中であると回答した。  障碍保障制度確立に向けた全国署名については、昨年9月に開始して以来、94 年7月末までに日教組他多数の組合、諸団体・個人から、文部省宛10万名、都 教委宛7万に達した。とりあえず、都議会議長に対し7月121日に請願書を提出 した。(紹介議員:社会党4、公明党、日本新党、日本共産党各1の7議員) この請願行動をNHK、朝日、読売が報道し、その反響の成果が都教委交渉にも及ぶ ことが期待される。  その他、国分寺駅連絡通路自動化(が障害者を排除している)問題に対し、JR と西武鉄道に改善要求し、不十分ながら一定の対応を引き出した。また筑波大学 付属盲学校の教員募集規定に視力制限(0.7以上)を設けたことに対しても要望書 を提出。これに対しても学校側から視力制限規定を廃止する旨の回答があった。  以上のように「障」教・連の活動の広がりと共に成果も上っている。 2.課題 ①都教委交渉を継続し、当該者の継続的問題解決に努力する。 p.35 ?要配慮教員制度の問題点を明確にし、て障害者が働き続けられるようにするための措置を出させる。 ③(研究中と言明した)アシスタントはいちについては、中途障害者にも適用し、 実施を早めるように養成する。 ④文部省宛の署名の請願提出に全力で取り組み、運動の主旨をアピールし、広範な世 論形成へと発展させる。 ⑤支援組合・諸団体・こじんとのつながりの重視と会員の責任ある行動。 ⑥会員の積極的な運営会議への参加。 ⑦「障」教・連だより編集委員会の強化。 94年度運動方針案(再掲) 「全ての人間は、人間として同等であり、いかなる差別も請ける事なく、等しく そのいきる権利を有する。」を基本理念とし、現実に存在するあらゆる差別をな くす事を目的として運動を進める。  障碍に対する保障を実現させる事により、対等な立場で障碍を持つ者が生きら れる世の中を作る。 1.孤立している当該者との連絡の輪を広げる。 2.個々の立場に捕らわれる事なく全体的な立場に立てるようにする。 3.本会の主張を広く訴える。 4.「障碍保障制度」確立に向けて積極的に働きかける。 5.連携できる組織との協力を深める。 6.本会を組織的に動ける会にしていく。 運動方針案に対しては、質疑応答はなかったものの、討論集会では「障」教・ 連がどんな団体なのかわかりにくい」との意見もあったことを考えると、運動方 針をもっと具体的な表現に変える必要がありそうだ。 組織/案 組織案の中に、構成が明確でないものがある。編集会議は、事実上運営会議の中 p.36 で行なわれており、独立した会議としては開かれていない。現在「たより」の発行 は5号まで進んでおり、定着したとみるべきで、今後署名活動が全国的に広げな ければならないことを考えあわせると、会員間の情報、交流ばかりでなく、一般 の人々に対する会の広報の役割を担う重要なものとなることが予想される。そこ で、会の中に、独立した担当者を置くか、事務局長の負担を軽減するためのなん らかの対策を立てる必要がある。  また運動方針案のような重要な議案が総会にかけられる前にまったく運営会議 で検討されていないことに加えて、総会で検討する時間的余裕すら会員に与えて いない点は、「障」教・連の運営会議が未熟であり、障碍者団体の運動体として 機能し切れていないためである。今後障碍保障制度の確立を求めて運動していく ためには、「たより」第5号の『検証「ひとすじの白い道」』で、大葉代表が指 摘しているように当該者自らの弱点の克服が必要であり、障碍の共有化をしうる 力を持たなければ障碍保障制度の確立に向けて理解を広め、世論形成を企図する ことは出来ないだろう。  94年度の運動の中心は、署名簿の文部省への提出に向けての活動で、都教委 向け提出の運営会議とその周辺だけの活動だけでは達成できないであろう事は目 に見えて明らかである。また平行して、都教委交渉を継続して労働条件の改善を 粘り強く進める以外に、他府県などの障害者団体との交流でネットワークを構築 していくエネルギーをもたなければならない。  大葉代表の提案した運動方針と組織案はこうした展望の上に立ったものであ り、「障」教・連の会員が障碍者として自立していくことが、現在の厳しい状況 を打破する第一歩であり、その苦しみを共有しながら運動することを原点である ことを強調したものとなっている。  大会直後の運営会議(8月6日)の総括では、「今までは運動方針などは、そ の場その場で動いていたので、活動の枠(レールともいうべきか・・・筆者)がなかった。 今年は障碍保障制度要項の署名活動で会は社会的に責任を負うことにもなったの で、初めて方針を提案したので、運営会議に提案し検討する余裕がなかった。」  (大葉)その意味で方針案が心情的な表現を含んでおり「障」教・連の全体像を 文書化したというべきだろう。 p.37 93年度会計報告・94年度予算案  総会の質疑にもあったが、通信費、交通費がほとんど運営会議メンバーの個人 負担になっていて、会計報告では、167,810円の残高が出ているが、実質は赤字決 算。93年度内に個人負担した額を出してみることになった。  最後に資料集作成の担当者として感じたことを述べておきたい。資料提出され たものは点字印刷をしていただいている窪川さんに早く送付しなければならない のに7月7日の締め切り日までに届いたものは早川報告と会計報告の2点だけ。 運営会議のメンバーは窪川さんがいつもあまりに手際よく迅速に点字印刷してく ださるので、遅くなっても大丈夫と安心しきっているようだ。締め切り厳守を強 く望みたい。あの悪名高い「組合時間」(会議が30分や1時間遅れても平気と いう風潮)を「障」教・連には持ち込まないでほしい。今回の資料集を改めて見 直してみると、93年度の「障」教・連の活動実績は非常に素晴らしかったと、 思わざるを得ない。厳しい状況を少しずつではあるが切り開いているし、おぼろ げながらではあるが、将来の見通し(白いひとすじの道)が見えてきたと感慨深 いものを感じる。 p.38 分科会報告 分科会報告(校正者注:「分科会報告」に下線) 視覚障害分科会 報告:尾崎 祐子  昨年に続き、今年も夏合宿の視覚障害分科会の司会を務めさせていただきましたので、 会の様子をお伝えしたいと思います。  出席者は22人、その中にはボランティアの学生さんやガイドさん、NHKの記者の方 も含まれています。初めに自己紹介をしてもらいました。中でも今回始めて参加された埼 玉の高校で英語を教えておられるM先生からは、現在の状況を詳しく話し手いただきました。  M先生は「目が見えなくなったらやめなくてはいけないか、自分に何が出来るだろう か」と悩んでいた。大葉先生(当会代表)の存在を知ってうれしかった。「これからはテー プをフル活用してやっていけるかなという気持ちでいる。職場の人の個人的な善意に頼 るのではやっていけない。」それに対して、同じ悩みを経験してきた宮城さんや丸山さん たちから、いろいろなアドバイスがありました。  ・拡大読書器で読むことと書くことが自力で出来るようになった。  ・音声ワープロで事務処理をしている。  ・拡大写本、拡大コピー、朗読ボランティア等の活用応援。  ・採点は人に頼み、お礼を出して処理する。している。  ・常に身近な人をつくっておくこと。  ・できないことはできないと言う勇気を持つ 大葉代表からは、「人間は同じ」という考え方に立つことが根本的な解決なのだが、日本 の社会では、その考えに立てていない。私も職場や教育委員会との長い根気強い話し合い の結果、持ち時間の軽減や朗読ボランティアを職場内に入れることを認めさせた。アシス タントの公費待遇を要求できるところまできた。」 「(視覚障害のある教師は)生徒が何をしているか、生徒管理の面で問題はあるがティ ームティーチングなど教室内に複数の教師を入れることには賛成できない」などの意見も 出された。 p.39 分科会報告(校正者注:「分科会報告」下線) 内部・外部・聴覚障害分科会報告 報告:大里 暁子  参加者7名、ボランティア数名。 自己紹介をして新化委員の話を聞きました。 ◎A先生(小学校、3年生担任、内部疾患)  職場は統合教育を推進している学校なので、とても理解があって、同僚、管理職との関 係は今のところ問題はないが、異動で職場が変わり新しい学校にになったときを考えると 不安である。過去に2年間だけ理科専科にしたことがあるがいろいろな面でむずかしい問 題が沢山あったため今度学級担任に戻った。 ◎B(小学校、図工専科、内部疾患)  同僚の理解が得られず、毎日孤軍奮闘している。障害を持ちながら、持ち時間18時間 は限度と考えているが、クラス数の関係で20時間を求められたこともある。本来、希望 制であるはずの夏期休暇中のプール当番も強要され遠足の引率なども無理強いされている。 障害者手帳を校長に見せて同僚の人達に理解を図ってほしいと依頼したが、その必要はな いと断られた。障害者が働きやすい環境を作ってほしい。いつまで働き続けられるか不 安である。 ◎C(中学校、外部疾患、大阪障害を持つ教師の連絡会)  教育委員会が障害者の雇用率を達成していると公表しているが、教員の全対数を数えず に、常に100として障害者比率を出していることを突き止め、大阪府教育委員会を追求 した。これらの報告(編集部注参照)を東京でも活用してほしい。  この分科会は人数は少ないが、それぞれに異なった障害や疾患を持っていて、その種別 によって、配慮してほしいと願う内容が様々で、職場の同僚の理解を得にくい。人によっ ては、職場に話すことが出来ないでいる人もいた。この仕事が続けられなくなったら、ど うしたらよいのか不安に思う毎日を送っている。結局、「とにかく、一生懸命頑張りまし ょう。」の声で時間切れになった。 (※編集部と報告者と話し合った上で、当該者の氏名をA、B、Cとしました。ご了承く ださい。) 《編集部注》C先生から、大会の集会で配布された「Page One」を資料として添付しまし たのでご覧ください。 p.40 障教連夏合宿に参加して  私ははっきり言ってその団体の存在を知らなかった。しかし、目 の不自由な先生がいろいろな工夫をして苦労しながら授業をしてい るところはテレビのニュースで流れていたのを覚えていた。それと、 紹介してくれた宮城先生も目が悪かったということを知って驚いた。 だが、この団体がどういうのか分からなかったので参加してみるま で不安だった。  7月30日・31日に合宿があった。私はいったん家に帰ってまた来 るつもりだったが、皆様のおかげで迷惑を掛けながらも泊めても らった事に感謝しています。  私は南武線谷保駅を降りて道に迷ったが、しばらく歩くと東京都 多摩障害者スポーツセンターに着いた。設備が整っていて素晴らし いと思った。ただ、初めて参加したので不安だった。言葉が悪いか もしれないが、誰も知らない人が、目が不自由な人などがいるので 私は何をすればよいのか分からなかった。いま思うととても恥じる ことだと思う。総会が始まると、いろいろな話題が出てきた。学校 等の社会での差別や、組織の存在維持の資金不足など苦労している と率直に思った。その後に分科会、全体会、翌日の討論会などに参 加させてもらいました。時がたつにつれ、なじめていけたと思いま す。  この合宿に参加して話を聞いて思ったことは、職場での環境が余 り良くないと思ったことです。体の調子が悪いと不快感を表す人が いたり、職場の設備が整ってない所もあり、職場から排除されたり とかあり、非人道的な感じがあるなぁ、と思いました。私は偉そう なことは言えませんが、困っている人々と助け合えるような社会を 築ければよいなあ、と思うが、現実は厳しいと思ったことです。こ れからもっと訴え、多くの人に視ってもらえれば少しは良くなると 思います。しかし、今は何もできない自分に歯がゆさを感じていま す。自分自身が恥ずかしく思いました。私もこれから人の役に立て p.41 れるような人間を目指したいです。  あと、小言を挟むようなことを言うとまだ不慣れなとこがあるよ うに思います。しかし、慣れれば大丈夫と思います。もうひとつ、 酒が入ったら色々な話が聞けて良かったです。おわり (浅海 幸一) p.42 第3回障教連大会特集 夏合宿に参加して   帝京大学法学部3年 桑原 崇  合宿参加は、春のミニ合宿を含めると3回目です。参加する度に思うのです が、みなさん本当にお元気な方たちばかりで驚きます。「若年寄り」だの、 「隠居」だのと呼ばれたこともある私など、ついていくのに苦労するほどのパ ワーでした。そういったみなさんの明るく元気な姿を見るにつけ、教育委員会 をはじめとする行政側や学校当局の対応には怒りを禁じ得ませんでした。全く 日本の役人というのは不人情な生き物ですね。とは言え、私も公務員志望なの で、正直なところ、非常に複雑な気分になったのも事実です。  「障碍保障制度」の確立などの障教連の掲げる目標と、行政側の態度との落 差を考えると、日暮れてなお道遠しの感を深くせざるを得ません。しかし、障 害を持つ人たちが声を上げていくことによって、社会を変えていこうという障 教連の営みは決して無駄なことではないと、私は確信しています。困難にめげ ずがんばってください。来年みなさんにお会いできることを楽しみにしていま す。 ◎ボランティアとして大会のお手伝いをいただいた方々からもご意見を頂きまし たので次に紹介いたします。 日本女子大学社会福祉学科 河村 美智香  去年に引き続き参加させて頂き、去年とはまた違う自分自身に、そして会の 動きに感動しました。  去年はまだ、何をしていいのか、どうしていいのか分からず足手まといにな っていた私ですが、様々な状況に対し、全ては分からずとも、ずいぶんと自主 的に動けたのではないかと思います。そんな自分にびっくりです。  そして去年とはずいぶんと違う会の動き・・・。会員も増え、あと5年、いやい や、あと3年後には大きな実を結ぶのではないかと心ひそかに思っているのは、 私だけでしょうか。  学生の私たちに出来ることなど本当に少し。会員のみなさんの共に生きる姿 勢を学びながら、“私たちの社会福祉”をこれからも学んでいこうと参加した p.43 他4名とも互いに話し合いました。ぜひ、生の声、生の活動を私たちに学ばせ てください。  会のご発展を今後も応援します。 小林 麻紀子  私は今まで障碍を持つ教師(特に中途障碍)の立場、状態を考えたことがな かった。  生徒の場合は、裁判問題になった例から、障碍のある人とない人がいるのだ から、学校という社会も動揺であって当然だと考えていた。これは教師の場合 も当てはまる。それなのに、今まで社会の関心が弱い、ないといった状況のた めに、持てるはずの権利がない教師がいることを、今日のボランティアの中で考 えた。今までこのようなことに関心が向かなかった。自分の視野の狭さが恥ず かしかった。個人の力でこの問題にとりかかるのは、弱いところも出てくると 思う。だから、障教連のような団体の力がこれから重要となるだろう。多くの 人が関心を持ち、参加できる部分は手伝い、障教連の規模が拡大される必要が あると思った。  報告を聞いていて、問題が理解されてない難しさを感じた。 ◎2日目に岩槻高校(本会の宮城事務局長が教壇に立っている学校=埼玉県立) から参加した2人の高校生からも大会参加の感想を寄せていただきました。 集会に参加して  鈴木 美智代(校正者注:「集会に~美智代」下線)  今回、といっても、もう八月のことになりますが、初めて、障碍を持つ教師 と共に連絡協議会の集会に参加させて頂きました。一泊二日の2日目でした。  当日は、友人と2人で国立に行きました。駅を降りて、さて行くか、と歩い て行こうとしたら、駅の入口で、「障教連」と書いて(あったような気がす る)ある紙を持った女の人が二人立っていらっしゃったので、ボランティアの方 だろうと思い、近づいていったら、あちらの方から気づいてくださり、バスに乗 っていけばいいと教えてもらいました。その時はまだ何も知らなかったのです p.44 が、お二人のうち一人は河村美智香さんという方でした。「多摩障碍者スポー ツセンター行き」の直通バスに乗り込むとこれは早く着きました。ついでに、 運賃もタダです。大きな通りに一橋大学なんかもあって、並木道だったりしま す。この通りはおにぎりを食べながら歩ける通りだと思いました。いや、おに ぎりは少し行き過ぎかもしれないので、パンです。その、何と言うか、そうい う雰囲気のある所でした。 施設の中に入ると、2階に上って、会議の行われている部屋の前まで来ま したここまで来て初めて緊張しました。とっくに会議は始まっている時間で す。みなさんが話し合いをされている中、扉を開けて、いやどーも、などと言 い訳じみたことをいいながら入るのもためらわれます。でも、結局、扉を開け て入りました。ガラッ。中にいらっしゃった方の一人が気づいてくれて席へ案 内してくれました。資料をいただき、話を聞きました。討議されている話は、 とても難しく、自分の勉強不足を感じました。そして途中、一言ということで、 自分の感想を述べたのですが、語尾が口に中でモゴモゴと消えていくような感 じのことしか述べることが出来ず、馬鹿なことを言ってしまいました。  今回、「障教連」の合宿に参加された方々は、学校の先生、病院で働く方、 そして、ご自身の職場を辞めざるを得ないようにされた方など様々な人がいら っしゃったが、あの時や、みなさんのご一緒に集まることの出来るときは、同 仲間がいらっしゃる。しかし、一人で、社会の不当な差別や非難を受け、そ れに立ち向かわなければならない時というのは、私では、わからない苦労があ ったのではないかと思います。その苦労を笑い話に出来るのはすごいと思いま した。  私自身、いつ事故にあって、どんなケガをするのかわからないので、他人事 ではないなと感じます。そして、様々な人がいるように、様々な障碍を持った 人々が、自然に暮らしていけるようになるのは、たくさんの痛みを伴うものだ と思います。でも、その痛みに負けないで、どこでも、楽しくやっていければ いいなと思います。そして、今回、集会に来ただけで、沢山の方々に親切にし て頂いた。どうもありがとうございました。 p.45 障碍者集会に行って。  坂巻 典子  何の考えもなく行った「障教連」集会だったが、かなり面白いものだった。 集会の内容は、私には難しく、さっぱり分からない事が多かったが、参加して いる障碍者の人たちを見ていて思ったことが少しある。みなさん非常に明るい のだ。年齢層は30代以降の人たちだったが、パワフルである。見えなくとも、 笑えることがその辺に転がっているものだと思った。悩んで、悩んで、笑うこ とが出来なかった時もあったろうに。どうやって乗り越えていかれたのか。す ごい人達だと思う。もしも、自分が目が見えなかったら・・・とまず想像していた。 朝目が覚めても見えない。髪も結べないTVも見れない。みんなの顔が見え ない、と考えていって絶望してしまった。耐えられないと思った。でも現実に 耐えている目の前に人達がずらりといて、楽しそうに笑っているのを見て、安 心のようなものを感じた。人間ってっけっこう強いなあ、というような安心感だ った。  それから、ボランティアの大学生の人達が何人か来ていて、その人達がとても しっかりした考えを持っているのを聞いて、驚いたのと、恥ずかしいなと思っ たのと、両方だった。年もあまり違わないのに、随分違うものだ。とっさに意 見を聞かれて、あれだけのことをいえると言う事は、普段、もっと深く考えて いるのだろうと思った。  集会の後の「藍屋」での二次会も参加させてもらった。やはり、みなさん明る くて、見えないなんて、端から見たら分からない。私も早く堂々とお酒を飲め る年になって、一緒になって、騒ぎたいものだと思った。私は、自分でもう大 人だと思っているけれど、皆さんとまともに話すにはまだまだ足りないことが 多いと感じた。年というより、苦労でしょうか。どれほど色んなことに悩んだ り苦しんだりしたかが、みなさんに近づけるカギのようだ。  それから、帰りのバスに皆さんと乗っていたら、席を譲ってくれた人がいた。 その他にも、譲ろうかどうしようかと悩んでいる風の人も数人いて、世の中捨 てたものではないと思う。 p.46 Page One 1994年8月号 障碍をもつ教職員の連絡会  暑い日が相変わらず続いています。どうにかならないものかとこの灼熱地獄を逃げだし たくなるような毎日ですが、皆さんお元気でしょうか。7月16日の出席者も少なく、5 人だけでした。前回から引き続いて、雇用促進法について話し合いました。  林さんが、日教組を通じて問い合わせてくれました。それによると、障害教職員の雇用 率を報告する通報書について、労働省は法通りの形式にしていきたいようですが、文部省 が難色を示しているようです。文部省の言い分は、障碍者で教職免許をもっている人が非 常に少ないので、すぐに雇用率を達成するのはむつかしい…ということで、労働省 と文部省の調整がうまくいってないので(加えて、労働省内部の担当者も人事異動で替わ ってしまっている。引き継ぎはちゃんとできているのか?)、今年の通報書の発出は遅れ るだろう。(施行条例第八条では、任免状況の通報は、毎年6月1日現在における障害者 の雇用状況を、7月15日までに、労働大臣または都道府県知事に行うこととされていま す。)  これを受けて、会として労働省や文部省にどう働きかけていくのかを話しました。  まず、府教育委員会に今年の通報書はどうなっているのかを聞く。「まだだ」とい う返事を受けて、「教育委員会からまだだと聞いたが、なぜなのか?」と労働省に つめていく。(校正者注:「まず、~つめていく。」四角囲み)  それで、労働省(文部省も?)につめていく時に、法律的な見地(高校・中学校の教員 は雇用促進法に適用される)だけでは、現状とのギャップが大きすぎるので、いくら言っ ていっても、「障害者の教師は教えるのがむつかしいだろう。」というような社会の一般 常識を変えていくのがむつかしいし、まして文部省などが社会より一歩先んじて政策を推 進するようなことはないだろうから、もっと障害者教職員が教育現場にいることの意味や プラス面(校正者注:「もっと~プラス面」下線)を我々としても強く出していく必要が あるのではないかということになりました。 その辺について、少し話し合いましたが、強い理論づけ(?)がほしいので、会に参加さ れなかった方からも幅広く意見を伺って、それをもとにして、労働省や文部省に文書を送 ろうということになりました。  ぜひ、積極的に意見を寄せていただきたいのです。次回(8月27日)に参加出来る方 p.47 はその時、コピーしてもってきていただいてもいいのですが、参加できない方は26日ま でに下記まで意見をお送り下さい。  枚方市香里ヶ丘1丁目21の1、E16-303 藤田 千恵  なお、この日に出された意見は次のようなものです。  ・足が悪い私が荷物をかついで階段を上っていると、生徒たちが荷物をもってくれた りする。障害者の教師だってうまく教えられるからいいとかではなくて、その場に いること自体が大切なのだ。  ・障害者が職場にいることで、他の健常の教職員も無理してやることが少なくなって 労働条件が全体にとってよくなる。  ・たとえば、事務職員ならば分担された事務の仕事だけをやればよいわけだが教師の 場合、他の職種と違って、あらゆることが要求される。教えることから始まって、 担任もクラブ指導も生徒指導もすべてやらねばならない。そういう意味では、障害 者には働きにくい。4%の手当てはついているが、すべてをやるなんていうのは、 働きすぎだ。  この他、今年小学校の採用試験を受けることになっている聴覚障害者のHさんについて も少し話合われました。雇用促進法の現状が以上のようにお粗末なものですし、これから 障害者教職員の数を増やし、合わせて労働条件の改善を進めていくためにも、彼のような 人が増え、実績を積んでいく必要があるという話になりました。ただ、最初は労働条件の 保障なしに実績を積んでいかねばならないという過酷な状況があるし、だからといって、 保障なしに働けるということを出しすぎるのもおかしなことだし(何より、本人が続きま せんよね?)、ずいぶん矛盾したところからの出発になってしまいます。早く、社会状況 が変化してほしいものですが、次回はまた、一次試験を終えたHさんを含めて話し合いを 続けていく予定です。  次回は8月27日(土) 14:30~       芦原橋 同和地区総合福祉センター(校正者注:「8月~センター」太字) p.48 編集後記 宮城 道雄  「障」教・連頼り第7号の発行に到りました。会の発足以来3年が過 ぎて時の経過の早さを感じます。この間に会の活動範囲は拡大して、都 議会に署名を添えて請願しました。また、第3回大会(夏合宿)を開催 し、差別を許さないという1文を方針の中に盛り込みました。これらの ことは会の活動が少しづつですが着実に前進していることを示すもので す。編集委員としてはそれを記録に残したいと頑張っています。  本号は第3回大会特集としてプログラムにそっって担当者の報告を載 せました。また、職場の仲間や学生の参加も多かったので感想を書いて もらいました。スクランブルは、新入会員からの声がよせられてえいま すが、紙面の都合により次号にまわします。ご了承下さい。  都議会に請願を提出し、社会にアピールした直後の大会において、運 動の到達点と確認と展望を見通す事が大切です。今、やらなければなら ない事は、点在する当該者を会に結集させて、各個人の要望事項を各教 委に提出することです。都教委交渉の中で都教委は具体的な要望を知り たいと発言しています。障害者基本法の成立という状況の下で請願行動 を契機に対教育委員会交渉を強化するチャンスです。  職場や組合において「障」教・連便りを使って良き理解者、仲間を増 やして行きましょう。当該者を会に結集させましょう。 編集委員会事務局 宮城 道雄 宅  〒339 埼玉県岩槻市府内1-3-52  Tel  048-797-1323 (校正者注:「編集~1323」四角囲み) 裏表紙 すべてのものは、平等にその生きる権利を有する。したがって、対等に働 く権利を有する。この観点に立ち私達は、対等に働ける事が当たり前の社 会を確立する為に歩む。 「障」教・連だより ひとすじの 白い道 第7号 1994年10月 障教連 編集「障碍」を持つ教師と共に・連絡協議会  〒183 府中市朝日町1-15-26 大葉方 新設専用電話・FAX 0423-36-7012 郵便振替 00120-6-707824 ◆連絡先◆ 代  表:大葉 利夫 0423-36-7012 事務局長:宮城 道雄 048-797-1323 副代表:尾崎 裕子 0427-29-1293 荘田 美智子 03-3751-3136 的野 碩郎 0423-81-2534 斉藤 昌久 03-3925-4656  新潟:栗川 治 025-262-3678  京都:辻  範子 0775-24-7086  兵庫:三宅 勝 0798-36-2895  福岡:古賀 アキ生 0942-32-8551 定価 300円 1971年8月7日第三種郵便物認可 毎月1の日、6の日発行 SSKA増刊通巻第2192号 1993年12月7日発行 発行所 東京都世田谷区砧6-26-21 身体障害者定期刊行物協会