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『障害の地平』No.89

視覚障害者労働問題協議会 編 19961229 SSK通巻第984号;身体障害者定期刊行物協会,24p.

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視覚障害者労働問題協議会 編 19961229 『障害の地平』第89号,SSK通巻第984号;身体障害者定期刊行物協会,24p. ds. v01

■全文

表紙
 SSK増刊ー障害者開放運動の理論的・実践的飛躍のためにー
 子宮から墓場までノーマライゼーション!
 ー視労協ー
 障害の地平 No.89
 「これが私の生きる道」と言えるものがありますか?
  視覚障害者労働問題協議会
 一九七一年六月十七日第三種郵便物許可(毎月六回 五の日・0の日発行)
 一九九六年十二月二九日発行SSK増刊通巻九八四号

 目次
 視労協的気分   江見 栄一‥‥‥1
 障害児学校の給食調理民間委託に反対する  的野 玲子‥‥‥3
 ヘルスキーパーの制度化を求めて 堀 利和‥‥‥5
 第2回障害者政策研究全国集会参加報告
 教育分科会に参加して 斎藤 昌久‥‥‥7
 障害者政策研究全国集会に参加して 宮城 道雄‥‥‥8
 “もも"と駅点検に参加してみて 野口 由紀子‥‥9
 点検活動から得た課題へのとりくみ 森 登美江‥‥13
 まちづくり?! 的野 碩郎‥‥16
 水戸事件・続報 視労協事務局‥‥20
 書評「聖なる予言」 梅林 和夫‥‥21
 情報交換ポケット(4) 郵便局、点字対応あれこれ 森 登美江‥‥22
 〈資料1〉視覚障害者の公園利用に関する要望書 ‥‥‥23
 〈資料2〉視覚障害者誘導用ブロックの標準化に関する標準基盤研究について‥‥24
 ボーナスカンパのお願い
 編集後記

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 視労協的気分
 江見英一
 私は先月少し休みがもらえたので,長野の小海へ時間をゆったりとった旅行に数人の仲間と出かけました。
 まず新宿に出てそこから埼京線,高崎線と乗り継いで,信越線回りで一路小諸へ向かったのだ。途中、信越線の松井田駅に立ち寄り,そこにある(といってもタクシーを使わなくてはならないのですが)「アンデルセン牧場」へ行きました。そこには世界の羊をはじめ馬や山羊が飼育されていて,それらをさわれるというのが謳い文句なのだ。その中でも羊の種類は群を抜いており、聖書に出て来る古代の羊から日本に最初に来た羊まで多種多様な種類がそろっていた。しかし,特に貴重な羊はサクで囲まれており,さわることができなかった。総ての動物がさわれるというふれこみとは少し違っていた。あと,広さの割に入場料が高かったことと入口に笹川良一のポスターが貼ってあったことが気になった。寒い季節でもあるので,羊にさわっているとふんわりとした感触の良さと温もりを感じた。
 さて私たちは,「アンデルセン牧場」をあとにして,各駅停車で小諸へ。途中峠の釜飯屋でも有名な横川で駅弁を買い、少し遅い昼食を

p2
取った。そして小諸で小海線に乗り換え。こちらはたった2両のディーゼルカーである。それに乗って今日の宿舎へ。
 次の日午前9時に宿舎を出て小海線に乗る。この線でJR線最高地点に向かう。列車はワンマンカーで後ろから乗って前から降りるタイプ。標高の高い所をさらに上へ向かうのでどうしてもスピードはゆっくりになってしまう。ほんとに重そうに少しずつ走っていく。列車は小1時間も走り続けJR線最高標高駅「野辺山駅」へ。この駅は「空に一番近い駅」というキャッチフレーズで一躍有名になった駅である。この駅に着く前の列車の車内放送でも、「空に一番近い駅野辺山です」とアナウンスが入る。この駅の標高は1345.6mで駅では文句なく最高標高駅である。しかしJR線最高標高地点となるとここから2kmほど小淵沢寄りに行った踏切がそこである。列車は野辺山駅で少し停車した後また坂道をゆっくり動き出した。ゆっくりと重そうにしかしそれは1歩ずつ確かめるようでもあった。列車はゆっくりとでもなかなか速く進まない。これはどこか私たちの人生と似ている。私たちも懸命に坂道を上って来たのではないだろうか。しかしその歩みは大変遅い。ほんとにゆっくりと坂道を進んで来たのである。人はそんな私たちを見ていらだつが,私たちは精いっぱいの力で歩みを進めているのだ。
 列車はJR線最高標高地点1375mへ向かって進んでいく。相変わらずゆっくりとしたペース。さあ頂上まであと少しだ。もう一息だ。私たちもそれぞれのペースで生きていけばいいのだ。そのことを最近痛切に感じる。
 この小海線には頂上がある。それを越えれば坂道はなくなり下り道が続く。さて私たちの人生には頂上はあるのか。人生でいう頂上というのはいつなのか。もしやしてそれは「死ぬ」時では…。
 列車は最高標高地点にさしかかっている。「JR線最高地点」と書いた碑が立っている。列車は「疲れたよおぉ」と言っているのか警笛を鳴らし、最高標高地点をあっという間に通り過ぎた。ほんとによくやったな。ご苦労様。

p3
 障害児学校の給食調理民間委託に反対する
 的野 玲子
 都教委は1996年度から7年間で障害児学校 (肢体不自由校を除く41校9寄宿舎)の給食調理を民間委託すると発表し、今年度方浜養護、板橋養護、南大沢学園養護、大田ろう学校の4校の民間委託を強行した。
 都教委は提示や説明の中で、発達に応じた調理、味付け、アレルギー除去食など特別食をきちんとやるなど給食内容を充実すると言いながらパサパサに乾燥したサラダ、冷めてラップをかけたおかずバンドエイド、アブラ虫などの異物混人など給食の充実とはほど遠い内容になっている。更に栄養士の指示書だけで調理するため衛生面の確認、調理内容についての細かい指示、緊急の対応などができない状態である。また、これまでのように専門職ではなくパートがほとんどで、問題があるとすぐ首をすげ変えることで対応し、根本的な解決はなされていない。
 今年度、O・157の問題が起きたにもかかわらず10月15日都教委は1997年度の民間委託校として久留米養護・小岩養護・

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白鷺養護、文京盲、綾瀬ろう、石神井ろう、大塚ろう、足立ろう学校の8校を提示した。
久留米養護学校は病弱児の全寮制の学校で月2回の帰省日以外は全食寄宿舎で食べている。糖尿病、高脂血症、腎臓病、アレルギーなどの子供たちのカロリー計算された何種類もの食事、急病のための軟菜、おかゆ食、行事食、弁当など到底民間委託で対応できるとは考えられない。又、心身症の子供たちへの励ましや声かけによる偏食、少食の改善なども民間委託では期待できない。
4月に本校に着任した校長、事務室長は病弱養護学校の実態も十分理解しないうちに、都教委の提示を受け、調理師に対し再三圧力をかけ、異動希望を提出させている。調理師の中でも用務を希望してこの問題に無関心な人もいて一枚岩ではいかない状態である。転職希望の有無にかかわらず、食事の民間委託は子供の病気の回復、成長に大きな影響を与える大切な問題であり、絶対譲るわけにはいかない。現在、本校独自の署名活動(現在8千名位)、都知事あてのファックス(12月末まで毎日) 、議員交渉、マスコミへの投書、取材依頼などに取り組んでいる。出来る限りのことをして撤回を目指していきたい。

p5
 ヘルスキーパーの制度化を求めて
 ヘルスキーパーの制度化を求める連絡会代表、堀利和
 (始めに)
 ヘルスキーパーという耳なれない言葉は、なにも昨今流行の片仮名かぶれによるものではない。企業の中で、マッサージ等の施術によって労働者の健康保持増進に寄与する者をいうのである。正に「ヘルスキーパー」なのだ。30年程前から「産業マッサージ師」といわれて、僅かながら企業に雇用されていた。そして、数年前労働行政(障害者雇用対策課)において、「企業内理療師(ヘルスキーパー)」と改められ、視覚障害者の雇用促進に力が注がれた。
 現在全国に200〜300名程度いると推計されている。ヘルスキーパー自身による職能団体として「日本視覚障害ヘルスキーパー協会」が4年前設立された。およそ3割が正社員で7割が嘱託という、雇用状況となっている。
 ヘルスキーパーは厳密にいって「治療」してはならない。治療行為は認められていないのである。といっても、ヘルスキーパーの身分、施術の位置付け等は様々で、ここ数年のバブル期に視覚障害者の雇用の観点から多く且つ急速に採用されたという事情がある。そこで今、問われているのが、視覚障害者のヘルスキーパーの雇用促進を前提にしながらも、いかにその身分の「制度化」を計って行くのか、施術行為が労働者の健康保持増進にとって必要であるのか、その意義を企業や労働者に対してどのように認めさせて、職安行政(障害者雇用対策)とともに労働衛生行政(労働規準局)のうえから、その制度化をどう計って行くかである。
 (経過)
 「制度化連」は視労協を含めて6月12日に結成され、同月26日には永井労働大臣と面会した。私達の要望に対して大臣からは、鍼灸・マッサージの効果を充分認識している事、労働者の健康保持増進に有効である事、視覚障害者の就業が困難な状況にある事、制度化連の運動に可能な範囲で協力する事、その方向で対応するよう事務方へ指示する事などが示された。
 8月6日労働省の関係担当者と話し合いを持った。労働衛生課へはヘルス

p6
キーパーの施術の効果を証明するための調査研究を、障害者雇用対策課へはヘルスキーパーの実態調査を要求した。しかし、特に労働衛生課の見解はヘルスキーパーの施術が労働衛生行政の範疇にない事を理由に理解は得られなかった。
 続いて、9月30日には連合ユニオンに対して要請を行なった。私達の趣旨を伝えた所、その点については充分な理解が得られた。連合としても労働省に対し、政策要求として具体的に「ヘルスキーパー」の雇用を取り上げていた事が分かった。労働衛生の観点においては、産業医が未だ充分配置されていない事に重点を置いて戦うとの事であった。しかし、ヘルスキーパーについてもその効果と意義に基づいて前向きに対応していきたいというものであった。
 私達はヘルスキーパーの現状を踏まえ、現在働いているヘルスキーパーの不利にならないよう最善の注意を払いながら「制度化」の中身を検討している。その為の学習会を10月22日に中央労働衛生専門官を招いて開催した。
 (現行法制度とヘルスキーパー)
 労働衛生課の見解で触れたように、ヘルスキーパーの労働者に対する施術は労働安全衛生法の現行法制度では位置付ける事が出来ない。拡大解釈をしても無理だという事である。これが結論だ。
 労働安全衛生法第69条では、労働者の健康保持増進に対する事業主の責務がうたわれている。本法に基づいて2つの指針がある。「健康づくり指針(THP)」と「快適職場指針」である。THPはトータルヘルスプロモーションとして産業医、栄養師、ヘルストレーナーやリーダーといったスタッフにより生活環境、栄養指導など労働者自身が行なうものである。ヘルスキーパーは刺激を直接体に作用、疾病予防、疲労回復、症状緩和などの効果を期待する施術行為を目的としているからである。そのため、法制度の改正を睨んでそもそもヘルスキーパーとは何か、また、企業内でのその行為はいかなるものかの「定義」を要する事となり、「制度化」に当たって避けて通れない「定義」に今、取り組む事とした。

p7
 第2回障害者政策研究全国集会参加報告
 教育分科会に参加して
 齋藤 昌久
 東京で開かれた第1回の集会に参加できなかったので、この神戸の集会には関心があったのですが、関係書類や分科会のテーマも知らぬ準備不足のまま神戸へ向かったのですから、十分な参加報告ができるわけはありませんが、参加した教育分科会は、「障害児の普通学校(学級)で学ぶ権利(学習権)の保障を求めて」各地で展開している地道な取り組みの報告を聞くことができました。2日目の午前中までは、シンポジュウムでその大半がレジメに報告されていることのさらに詳細な報告と全国の事例が紹介され、教育現場でのノーマライゼイションの大きな立ち後れと行政サイドの施策と執行面の著しいズレが明らかにされ、「障害児教育の改革は、普通教育をどう見直していくかが重要」といった逆説的な発言が目立ちました。それは障害児が普通学級で学ぶ場を設定しても、障害児の学習権を能力主義的な観点から、登校拒否の子供たちまで養護学級に押し込むような間違った教育が行われている現状が報告された。その原因は、教育行政が「児童の権利条約宣言」の批准後も一貫して能力差別を行っていることによるものであり、普通学校の生徒をも含めて段階的に選別していく場として、その底辺を養護学校に負わせている日本の教育体制が、障害を持つ生徒が、養護学校を拒否して普通高校に入学した経過報告の中で明確に指摘された。「高校の学校行事に参加するとき、いつも先生におどかされている。修学旅行には一緒に行動できないから参加するのはやめろ。どうしても参加したいのなら、介助者として親が付いてこい。」こういった、嫌がらせが日常茶飯事に行われている。その逆境の中で、倉敷高校に入学した石川浩三さんの取り組みは、受験のための準備を中学2年の時から始め、一つ一つ行政サイド要求を積み上げ、高校入学を果たした後も、学校側に自分にとってなにが必要かを学校側に明らかにして改善をさせていく努力には頭が下がる思いがしました。彼のこうした姿勢を見て、障害者を見る周囲の目が変わらないはずはない。それでも「いじめ」があるらしいが、彼は人間関係を大切にして学校生活を楽しんでいるという。
 この分科会でまず感じたことは、障害を持つ教師の参加が極めて少ないということでした。ましてや、私のような難聴の教師がいないためか、分科会での要約筆記や手話通訳の姿はなく、聞き取れない発言も数多くあったのは残念でした。資料も「カウンターレポート」の膨大なものが配布されましたが、時間がなく発言者と同じ土俵で議論できる参加者は少なく一方通行の分科会になっている感じがしました。まだ集会は2回目なので今後改善されることを期待していますが、障害の種別を越えて、より多くの教員、父母、生徒が参加して日本の教育現場からノーマライゼイションの波を立ててほしいと思いました。

p8
 障害者政策研究全国集会に参加して
 宮城 道雄
 11月30日12月1日の厳しい寒さの中、神戸のしあわせの村で行なわれた障害者政策研究全国集会に参加し多くの事を学ぶことができた。1日目の全体集会と2日目の教育分科会に出た感想を書きたいと思う。
 全体では、障害者プランの策定の意味と課題という内容でシンポジウムが持たれた。障害者基本法によって位置づけられた障害者プランの策定は、県や市町村等の自治体に法律的に策定が義務づけられてはいない。福祉サービスは行政任せでは無く、障害当事者のニーズによって作り上げ、血の通ったものにしなければならない。地域で作業所を作り自立生活運動を行なっている障害者をはじめ、この集会に結集してきた多くの障害者が、自立生活、街作り、教育、労働等の様々な分野で、政策を立案する事、それを現実のものにする色々な取り組みこそ重要であると考えられる。
 障害を持つ教師の働き易い環境作りの運動において、障害者運動全体を視野に入れて、政策や制度作りの活動として位置付け展開する必要性を再確認させられた。
 教育分科会では、子どもの権利条約の背景分析の上に立ち、障害児を普通学級に通わせる運動として、普通高校に入学した2人の障害者の詳しい報告と障害児を普通高校に入学させた母親の報告を受けて、討論が行なわれた。自分の住んでいる市の高校に3度受験したが入れず、4年目に隣の市の学校に入学できたという母親の話は、厳しい現実を語っていた。障害児が普通学校で学ぶには、入学試験において定員割れでも入学できない事、学校での人間関係、成績評価、進級や卒業など様々な問題点が存在している。これらを整理すると、現行教育は、障害児は特殊学校で学ぶことで発達が保障されるという分離教育の立場に立っているので、私達の側の運動の、共に生活する中で、生きる力を獲得するという統合教育の考え方が理解されていないということである。また、障害者本人の自己決定権を軽視してしまい、人権意識が弱いという大きな問題がある。結局、色々な方法で人権意識を高める事が最も必要であり、継続して粘り強くやらなければならない課題である。
 学校現場で障害を持つ教師が働き続ける為には、この人権意識を高揚させることが大切で、児童生徒の場合も教師の場合も教育現場にノーマライゼイションを実現するには共通した大事な課題である。

p9
 ももと駅点検に参加してみて。
 野口由紀子
 さる10月6日の日曜日に、京王線駅点検がありました。私はその一月近く前に、森さんから、「人手が足りないから手伝ってくれない?」と声を掛けられ、友達のよしみで、気軽に「いいよ。」とのこのこ出掛けて行きました。そうしたら今度は、その時の事について原稿を書いて欲しいといってきました。しかも承諾する前に書いてくれるものと決めてです。私は原稿と名のつくものといえば、日本盲導犬協会の同窓会「えみの会」で会報の編集をしていた時に、自分の頭を使って書いた原稿は、僅か数行の編集後記に過ぎず、そんな原稿などとんでもない話です。ですが、電話が掛かってきた時はもうかってに決めてあるというそれこそとんでもない状態で、またしかたがなく友達のよしみで書く羽目になりました。とにかくなんでもいいから思いついた事を書いてくれてかまわないというのです。すでに書き出して困りはじめている所です。
 私は元は白杖歩行をしていました。盲導犬と歩きはじめたのは昭和60年の5月からで、今いっしょに歩いているイエローラブのももちゃんは2頭目になります。盲導犬と歩くようになって、年々白杖一つで歩く事が苦手になってきています。盲導犬と歩く安全性や快適さにすっかり慣れてしまったせいでしょう。犬も生身です。いついっしょに歩けないような状況が起こるか分かりません。現実に1頭目の時それを経験していますし、ももちゃんとの生活の中でも同様にそれを経験しています。
 私が白杖歩行の指導を受けたのは、大阪にある日本ライトハウス、という所の、職業生活訓練センターでした。ここではもちろん白杖の使い方や歩き方にとどまらず、一人歩きするうえで重要な、「感覚訓練」というのを徹底してやっていました。防音室の中に7箇所のスピーカーがあり、ここから一斉に町中の騒音が流れ、その騒音の中を、小さな音が七つのスピーカーを移動して聞こえてくるのを正確に聞き取って図式化したり、正しい姿勢で少しでも長い距離を直線歩行をする訓練をしたり、歩いたり手に持ったりして距

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離や長さや重さを正確に判断したりなどなど…。
20数年前の町は今とは全く違います。歩道や交差点、駅のホームなどに点字ブロックなどはありませんでした。今ではあたりまえの自動券売機にも点字は打ってありませんでした。今でさえ視覚障害者に住みよい町ではないのに、昔はそれ以上に住みよい町ではありませんでした。今、あのころの状態の町や駅を白杖で歩けといわれたらきっと足がすくんでしまうかもしれません。点字ブロックがあってあたりまえ。券売機には点字が打ってあり、料金表が点字であってごく普通になってきています。音声信号機もあってあたりまえになってきています。でも、まだまだ危険な落とし穴はいっぱいあります。点字ブロックにしても音の鳴る信号機にしても、設置する側が利用する側の意見や話を聞く事なく、ただ設置しさえすればいいような設置の仕方をしています。実際あっても役に立っていないものもたくさんありますし、逆にないと困る所にはなにもありません。申請してそれが設置されるまでには長い年月も掛かります。そのために、どれだけ視覚障害者が危険にさらされながら歩いているか分かりません。
 ももちゃんと歩く事で、ついその安全性快適さに、ふとそういう事を忘れがちになりますが、必ずしも犬と歩いてさえいれば絶対安全という保障はありません。当日、私は笹塚、幡ケ谷、初台、この三つの駅の点検に加わりました。その中で感じた事は、ももちゃんといっしょで歩ける事が、こんなに危険だらけの駅を無事、事故も怪我もなく安全だったという事を再確認したとともに、逆に、一つまちがったらたとえももちゃんといっしょでも大変危険だという事も再確認しました。
 基本的に犬は、これ以上進むと危険となると、主人の命令に従わず動こうとしません。ですが、犬といえど人と同じ。決して完璧ではないはずです。迷ったり、まちがったりしながら覚えていきます。中には犬としても判断に迷い、主人の命令に従って必要以上に前へ出てしまう事もあります。ももちゃんにはホームの警告ブロックを、「点字ブロック」と教えこみました。必要以上に前へ出ないために徹底して教えこみました。しかし、ホームの床面と、警告ブロックの色が似通っていて濃淡がはっきりしなかったり、周囲の床面が痛んででこぼこになっていると、私達自身も靴底で触れても判断しに

p11
くいのですが、やはり犬にも時々境目がよく分からない事もあるようで、確かに絶対に完璧と太鼓判を押せない事は確かです。その危険から回避するために、私は、初めて行く所やホームなどでは必ずといっていい程白杖を使用します。ごく1団体の盲導犬訓練所では、白杖を使うという事は犬を信用していないという証拠なのでかえってきけんである、という事で、訓練の最初に訓練師が白杖を回収してしまう所があります。幸いにしてうちの協会の朴善子(パクソンジャ)所長は、「より安全に確実に目的地まで行くためなら、犬だけでなく、白杖でもなんでも利用できるものはおおいに利用してくれぐれも怪我をしないように歩行するように。」というのが口癖で、ユーザー仲間の浅井淳さんや山田都さんは・盲導犬と歩く時もソニックガイドを使い、必要に応じて白杖も使用しながら歩いていますが、所長は、「それで安全が確保できるならおおいにけっこう。犬も人もパーフェクトではないのだから。」といいます。正にそのとおりで、たとえ犬といっしょであっても、それだけ危険が溢れかえっている事だと思います。駅によってその危険の質は違うと思います。ちなみに、私の家のある最寄り駅、京王相模原線稲城駅は、上りホームが、ホームと電車の間が15cm以上、場所によっては20cm以上空いているうえ電車がむこう側に傾いています。おまけに停車時間が非常に短いときています。1年半前、ももと都内に出るため、快速本八幡行きに乗ろうとしました。ちょうどドアとドアの間に我々がいました。こういう時普通「ライトドア」で右のドアに犬を行かせます。なぜなら「レフトドア」では電車と犬の間にユーザーがきてしまうため足を間に踏み入れたりする危険があります。たとえ左のドアが近くても基本的に「ライトドア」にします。そうすれば電車とユーザーの間に犬がくる事になりますから、犬は最低限自分の歩く場所を確保します。まちがってもユーザーが列車とホームの間に足をつっこむ事はありません。私はももちゃんに「ライトドア」と命令しましたが、私の右隣にいたおばさんが、「そっちの方が近いわよ。そっちそっち」と私を左に押しました。ももは右のドアに行こうとした体勢のままずりずり押し戻されるうち、目の前に突然ドアが開けたものだから思わずぱっと電車に乗りましたが、私の方は状況判断が遅れあっという間に右足を電車とホームの間に落とし、ももちゃんの上に覆いかぶさるように転び怪我をしてしま

p12
いました。それ以来彼女は電車に乗る時、慌てるようになり、かえって危なくなり、それもあってなおさら白杖を利用するようになりました。ですが、そうこうしているうちに1年立って半年ぐらい前からはそう慌てずに電車に乗れるようにもなりました。朴所長のいうとおり、安全の確保の為ならあらゆる方法を取るのが賢明です。最近ではももちゃんは、私が足と杖で電車の乗り口を確認するのを余裕を持って見ているようです。ユーザー仲間に、犬と歩く時でもソニックガイドを使い、必要に応じて白杖を利用するユーザーがいますがそれについても朴所長は、「それでより安全に確実に歩けるなら上手に使い分けて利用した方がいい。」といっています。目的は、いかに怪我や事故なく、安全に目的地へ行けるかどうかで、それだけ今の町や駅は視覚障害者にとって危険な落とし穴に満ち溢れているという事ではないでしょうか。
 といってなにもかもが直ぐに改善されるはずもありません。我々自身が自分の安全を確保しながらも、早急に改善しなければならないような所から改善していってもらえるように働きかけをして行く事はとても大切な事だと思います。

p13
 点検活動から得た課題への取り組み
 森登美江
 今では生活の一部になってしまった点検活動。この所、増え続けている来院・入院患者さんたちと朝8時半から夕方5時半近くまで向き合ってその後、会議に出席したり、子供と食事にいったり、友人と飲みに出掛けたり、様々な動きの中でも気がつくと駅の階段・てすりの点字表示を確かめたり、点字ブロックの点の数を調べてみたり、時々嫌になってしまう程です。でも、その度に新しい発見をするのですから、大事なことかもしれません。
 6月16日の「府中まちづくりみんなの会」主催で行なった府中駅およびその周辺の点検活動の中で、京王線府中駅周辺再開発の一部として作られた駅隣接のペデストリアンデッキ(「スカイナード」と呼ばれています)の各階段・てすりの点字案内表示が非常に不十分な事や、駅に誘導している点字ブロックをそのまま進むと日頃空いている駅のドアの角に直撃するなど不備や危険な箇所を確認しました。それについて、7月に市の都市建設部管理課と話し合いを行なった結果、ドアについては、市が京王と話し合ってドアの開閉方向を換える事でとりあえず決着しました。また、点字表示についても、市から依頼を受けた業者と点字プレートを制作している専門の業者と視覚障害者が参加して再検討し、表示内容も検討した末、各階段・てすりへの取り付けが決定されました。12月の半ばには取り付け作業が開始されると聞いています。点字ブロックと同様に、点字プレートの材質や取り付け方法、分かりやすく正確な表示内容など、統一されていない状況でもありますし、これからさらに工夫を重ねる必要があると思います。そこで、今回のスカイナードの点字表示の仕方が、今後の検討の目安の一つになればと思います。市の確認が済みしだい、スカイナードに点字による案内表示が各階段・てすりに取り付けられたという情報を市の公報で取り上げるよう、連絡したいと思っています。一人でも多くの視覚障害者が利用していく事で、よりよいものに改善されていくと思います。もちろん読むのが困難であったり、めんどうだったり、様々思いや考え方があるというのも確かです。それに点字ブロックにもいえる事ですが、それらがどれだけ整備されようと全て安心とはいえ

p14
ません。ただ思うのは、福祉のお飾りにしてしまう訳にはいかないという事です。その見本のようなものが音響式信号機です。押しボタンのポールが色々事情はあるのでしょうが、横断する場所から遙か遠くにあって、視覚障害者用のものです、といったような意味の事が大きな文字で書かれているらしいのです。なんとも困った現象ではありませんか!東京都ではなるべく歩道橋は作らない方向とか聞いています。それは助かる事なので進めて欲しいですが、横断する歩行者の全ての人の安全を絶対に確保できる対策を望みます。
 10月6日には、同じく「府中まちづくりみんなの会」主催で京王線全訳の点検を60名程の参加で実施しました。市内2名を含む計5名の視覚障害者と、府中在住・在勤の人達、そして、様々な地域から学生や点検活動に取り組んでいる人達など多くのみなさんが休日を返上して参加してくださいました。4・5名の班に分かれて3駅を受け持つ形で行動しました。打ち合わせと報告を含む朝9時から夕方4時までという強行軍のなか、様々な感想や考えを持って点検されたと思います。現在その報告資料などを元にして、まとめの段階に入っています。12月、数回の会議や再点検を経て12月23日に京王電鉄への要望書作成会議を実施する所にきています。年明け早々に京王との話し合いの場が設定できればと思っています。要望書の内容としては将来的な大枠とともに、早急に修復しないと非常に危険だと考えられる具体的な箇所を示す事になります。全訳点検後も最も危険と思われる箇所の再点検を重ねながら私が実感したのは、駅ホームはやはりホームドア方式的な発想をする以外に方法はないのではないかという事です。数年前に営団地下鉄・南北線のホームドア方式を点検した時にはよく分からなかったのですが、ホームで一番おそろしいのはなんといっても転落事故です。先日「障害者政策研究全国集会」で神戸にいきましたが、新幹線・新神戸駅のホームに確か転落防止柵のようなものがあって、ドア部分だけが新幹線の入場と同時ぐらいに空いたような気がしました。時間に追われていたので正確には知る事はできませんでしたが、そんな気がしたのです。けっこう安心感がありました。1度点検にいってみたいと思っています。この所、危険な箇所ばかり点検しているせいでしょうか、なんとなく歩くのが不安になっています。
 来年はもう少し府中の町に心を向けて道路や市のたくさんの建物を点検し

p15
てみたいと思っています。「府中まちづくりみんなの会」といっても自分の町ばかりにこだわっている訳ではありません。各地域での点検やまちづくりの情報を知りたいと思います。でも、府中の点検に当たって、まだ市内の視覚障害者には広く呼び掛ける事ができていません。10月6日の取組では「府中公報」に掲載された呼び掛けに対して1名の視覚障害者の方が参加してくださいました。その方ともなかなかコンタクトが取れていない状況で、人との付き合いの苦手な所を私自身克服しなければなりません。一人ではとてもやれない事を目指しているのですから。
 府中でも「まちづくり条例」が制定され、整備規準の検討が進められています。また、市の都市計画課懇談会が各文化センターで実施されました。私も地元の住吉文化センターで行なわれた懇談会に参加してみました。市の担当者3名と住民10名程で2時間にわたって話し合いました、墨字 (活字)貸料にはいつもながら残念な思いでしたが、「府中都市計画マスタープラン」の素案を今年度末にまとめるため、住民の声を聞いておこうという事です。その概要の説明を受けた後、現在計画中の道路の話や公園の在り方、それから水源である奥多摩ダムの事など私自身なにも知らないので勉強しなければならない問題がたくさんある事を再確認させられました。
 まちづくりをはじめ各分野での具体的な数値を示したうえでの計画が必要となり、国としても姿勢だけでも住民の声を聞かなければならないような雰囲気になりつつあるのでしょうか。こんな時、私達視覚障害者の声を集めて、ぶつけていかなければならないと思います。点字ブロックの統一も当事者の合意がない所で、いつのまにか決まってしまう事があってはなりません。アンテナを延ばして正確な情報をキャッチする事と、点検活動だけに追われたり満足してしまったりせずに、そろそろ自分の意見をまとめなければと思います。
 多くの視覚障害者の生活を支えている三療業(按摩、マッサージ・指圧、はり、きゅう)の危機的状況をしっかりと受け止め、よりよい方向に持っていけるよう力を注ぐ事と、障害者にとってのまちづくりやバリアフリーの運動に積極的に取り組んでいく97年にしなければならないと思います。その力を生みだすために、具体的な提起をしていかなければならないと考えます。

p16
 「まちづくり?!」
 的野碩郎
 まちづくり条例の中身を提起するために全国的に様々な団体が駅点検や公園点検を行なっている。この間視労協も東京都との間で他の団体と共にものを申したり、勉強会をしたり、要求書づくりをしたり、視労協大会の中で討論をしたりという形を繰り返し続けてきた。今回は10月6日の京王全線のホームでの点検と10月10日の東京都光が丘公園の点検を行なった。まずはそれに参加しての感想を報告したい。ただし、後々報告集とか他の人からの機関誌投稿があるようなので、重複する事は勘弁願いたい。
 10月6日5・60人の参加を得て、69駅のホームを中心とした点検を行なう。視覚障害者自身の参加は少なく学生、主婦、組合の参加が目立った。それぞれ5人程度の班を作り、3駅程度受け持つという事になりいざ出発。昼食を含んで4時間程の持ち時間での点検。やり方によれば長いようでもあり、短いようでもある時間だ。
 僕は東府中、多摩霊園、武蔵野台の三つの駅である。府中市の市報に載せ呼び掛けた事もあり、駅員が出てきてご立派な挨拶をもらう。相変わらずのやり口である。メージャーと点検表とカメラとチョークを各班は受け取り、それぞれ担当を決めての真剣勝負となった。
 さて、点検表に基づいて書いていくには膨大なスペースを必要とするので、最も印象に残った部分を3駅だけに限って書いていきたい。
 京王線はホームを継ぎ足し継ぎ足しして延ばしているので、屋根のある所とない所に分かれてしまう。つまり、ホーム上を両端に向かって歩くと、急に音の響きや空気の流れや体への触感が変わって一種の恐怖感に襲われてしまう。8量編成があったり、10量編成があったりと電車の最先頭の位置がその度に変わる駅もある。住宅事情や経済の動きによって人口増加に伴う駅のホームの継ぎ足しがあるのだろうが、なるべく安上がりにしようとする姿勢から、屋根が継ぎ足されなかったり、スピーカーの位置が最初のままだったりするようだ。確かにホームの端に立てばスピーカーの音は声として伝わって来ない。ましてや、駅員が一人も存在しないホームでは監視カメラだけが車掌や運転手の頼りになる訳で、ホームがカーブしている場合となると最

p17
悪な状態となる。幸い僕の点検駅は直線ではあったが。
 次に、ホーム上に鉄柱が点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロックとほんとうはいうらしいが)に接触する程に立っていてなにを考えて点字ブロックなるものを敷いたのだろうかと思わざるをえないし、もちろん鉄柱にはラバーをまいて衝撃を弱めるという事もしていない。点字ブロックを敷設する時、どういう手順を踏んで業者に依託しているのだろうか。その敷設までの行程に視覚障害者自身はどんな形で登場し、意見を述べ、チェックをするのだろうか。その視覚障害者は視覚障害者全体のあるいは、障害者全体の代表として意見を述べているのだろうか。
 転落の原因の中に錯覚ということがけっこうあると聞く。点字ブロックのホーム上の両端にここで点字ブロックはおしまいという警告するブロックが敷かれているが、ホームはその先までなんm(校正者注:m=メートル)と続きホームの端を1m以上の棚が終りを知らせる訳であるが、この空間が視覚障害者の位置感覚を乱してしまい転落へと導いていくのだ。当然僕の点検した駅もそれに当たる。一つの駅(東府中)は島ホームも抱えていて、端に行く程細くなるという恐怖のホームである。
 また、車椅子対応が3駅ともしてあって、スロープが継ぎ足されて作られている。ところが、後からの継ぎ足しであるため自転車置き場になってしまっていたり、ホームの途中からホームのまんなかを潰してスロープをつくっていたり(今までどおり線路側には点字ブロックが敷いてあり危険を伴う)場当り的対応工事になっている。あればいいというものではない。「あればいい」という事からいうと、他のホームへの移動の為の地下通路の点字ブロックは水はけ用のふたと同居していて、階段の終りに直なんcm(校正者注:cm=センチメートル)かの点字ブロックが敷いてあって、水はけがあってまた点字ブロックが敷いてあるという形になっていて、全く警告していないのである。さらに、さらに「あればいい」のきわめつけは多摩霊園のトイレへの誘導ブロックである。男女別々のトイレがあるのに対して、誘導ブロックはなぜか男性トイレにのみ敷いてあるという有様。確かに女性トイレには男性用トイレはないが、男性トイレには女性も出来るトイレもあるのである。それにしても、駅職員はこの事実をとっくに気がついていただろうになぜ「目をつぶって」いたのだろうか。

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 他にもこの3つの駅での問題点はあるのだが誌面の都合上ここまでにして置こう。
 点検表を作るにしても、全体で行なった点検以外に何人化の中心的な人達によって再点検が繰り返されたし、京王との交渉を来年に控えて分析や打ち合わせが繰り返された事も大事な事で、視覚障害者と共にまじに点検をしていただいた人達に敬意を表するとともに、この事が単発的なものでなく持続ある活動、そして、共に生きる社会づくりの一翼を担うものとなる事を強く願う、特に業者としての立場で毎回駅点検活動に付き合われた人には、今までと違った真のまちづくりへの協同作業の視点という所から嬉しく心強く、思ったしだいである。
 10月10日の東京都練馬区にある光が丘公園へ20人程度で視覚障害者、組合などの参加で公園点検を行なった。第1の目的はなん箇所もあるトイレの中の一つに実験的に音声案内付き触知図を設置しその点検である。公園にはなぜか点字ブロックが長々と駅から続き、歩道と公園内との違いが伝わって来ない。公園も限られた場所には土はあるようだが、とにかくコンクリートだらけ。だだっぴろさだけが公園の1つの条件を満たすだけ。公園の中に入るにもなに口なに口と幾つも入り口があるし、当然それは出口になる訳で視覚障害者にとっては点字ブロックの上だけが公園という感覚だけで、そのブロックの上をいって帰ったというだけの事になりはしないだろうか。公園が満たしてくれる解放感なるものは見当たらない。めちゃ印象に残っているのは、公園内レストランでのくたびれるようなできあがりの待ち時間であった。
 さて、音声案内だが、回りの騒音に応じて音が大きくなるというシステムで触知図も比較的分かりやすくなっていたが、将来全部のトイレに付けるようにするのかそれとも各入り口で公園の全図が触知図で置いてあるのか、広い広い公園内どうすればというのがとりあえずの思いである。小さな地域にある公園はけっこう視覚障害者が単独で使う人も多いようだが、光が丘をはじめとする大きな公園を単独でというのはあまりないと聞く。やはり大きい所では学習をしてからとなると最低公立の公園の地図が欲しいものだ。
 やはり実験的な音声案内だったせいか、2箇月も立たない内にいたずらに

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あってしまった。ていのいいおもちゃにでもなったにちがいない。公園に関してはもっと多くの視覚陸害者の経験による意見を集約する所から始める段階のような気がする。
 2つの点検を終えて幾つかの思いが浮かび上がってきた。
 1つは、全国共通のものとしてどうすればいいのかである。運輸省のすきかってで企画づくりもできるだろうが、様々在る視覚障害者の団体の考えを一本化していく作業をどうすればいいのかである。歴史的に政府に同調している団体の意見が強く反映していくが、それでもその団体の幹部の意見だったりする事が多い。となると一本化の道は遠いものがある。視労協で取り組めるとしたら、諸団体にアンケートを取る事により共通点をみいだす事と、実際にいっしょに歩いてなにがよいかをみいだすきめ細かい作業、たとえば、25点と32点の点字ブロックを老若男女歩いてみる統計づくりの必要性もあるのではと思う。とにかく、各団体かってに提起するのは見合わせる事と、緊急的な「話し合いの場」の必要性を訴えたい。
 2つ目には、まちづくりの基本的な考え方の中に障害者自身の立場からと、障害者の個々の訴えだけにとどまらない障害者全体を大切にした考えを持つ事である。
 3つ目に、機器の発達や高度化を強く突き出すより人間と人間の自然発生的な触れ合いを大事にしていく事。教育現場にもまちづくりは登場すべきである。
 4つ目は、全てが金に掛かっている事による身動きできないまちづくりがあり点検活動の限界がある。省庁予算や市区町村の予算にも障害者自身の学習の声が必要である。
 4つの問題提起は言葉たらずになっているので、機会があれば展開していきたい。
 今現存するまち、それは障害者にとって住みにくいまち。まちを作る――まちを換えるにはどんな力が必要なのかぜひ討論を重ねたい所である。

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 水戸事件・続報
 視労協事務局
 ○1996年10月18日茨城新聞報道。赤須社長追起訴(94年6月、寮の食堂で男性従業員の左耳をスリッパで殴る。95年12月、女性従業員の左膝を蹴るなどの暴行)
 ○10月30日 公判。この日は追起訴の読み上げと、次回の予定の件だけで閉廷、所要時間10分。午前10時から2時間の予定だったが被告への尋問や情状証人による話も一切なし。次回公判は12月2日に決定。
 ○10月31日 東京新聞に比較的大きな記事として取り上げられる。事件の内容とその背景などに触れながら、前社長と国、県に対する損害賠償請求訴訟を被害者、弁護団が起こす予定である事を中心に取り上げている。
 ○11月21日 3件の追加告訴状を水戸地検、水戸警察署に提出。3人の女性従業員に対する強姦罪で。
 ○12月2日 第4回公判。情状証人として現・水戸パッケージ社長への質疑。被告人質問―検察の質問「あなたは一体どういう動機で障害者を雇おうとしたのか」、「本当にきれい事だけでやっていけると思っていたのか」、「不正受給を悪いと知りつつ仕方なくやったと確信犯であった事を述べているが、発覚しなければどこまでやるつもりだったのか」など。暴行について赤須は「申し訳ないことをしました」と謝罪していたとの事。「バットで殴った、レイプした」については「知らない」と答えている。次回は2月27日。
 ○12月10日 筑波大学にて「水戸パッケージ知的障害者虐待事件講演会」約80名の参加。
 以上の内容は、支える会事務局の一瀬さんからのメッセージの中からごく簡単にこの間の経過をまとめたものです。年明けにも民事(損害賠償)訴訟が起こされると思います。引き続く御支援をお願いします。

 ☆水戸事件の本「障害者虐待を許さない」購入のお願い
 ○申し込み 水戸事件のたたかいを支える会
 〒105 港区新橋4ー8ー9 地球塾気付
 TEL 03ー3438ー1235 FAX 03ー5470ー8427
 ○定価1500円(点字版も同額で提供します)

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 書評
 「聖なる予言」
 ジェームズ・レッドフィールド著 角川文庫
 この本は、別に宗教書ではない。アメリカでベストセラーになった小説である。内容は、「ある中年男性が、ふとしたことから、ペルーで発見された古文書のことを知る。紀元前600年に書かれたものだが、この20世紀後半になって人類が意識変革を行うのに必要な知恵が第一、第二…と順番に書かれている。ところがペルー政府が何らかの理由で、その写本を湮滅させようとしている事を知る」と言うものである。本当は近代合理主義に対するものとしてニューサイエンス的な考えを「フィクション」である小説の形で書いたのである。この本の続編である「第十の予言」ではもっとストレートな形で「ニューサイエンス」的歴史観(直観的歴史観?)も書いている。
 面白い。(鉄腕アトム)を面白がったように。しかし、それ以上に入れ込むと、又もやカルトになる。面白いのは、歴史や合理(科学)を学ぶ地道な苦労をしなくてよいからである。単なる怠惰の合理化なのに、それを「ニュータイプ」と勘違いしてしまう愚か修行者(知的怠惰には修行や自己犠牲的実践がつきもの)にはならないようにしようと思う。―梅林―

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 情報交換ポケット(4)
 郵便局、点字対応あれこれ
 森登美江
 半年程前、郵政省交渉の場に参加する機会を得た際、郵便業務案内が点字や拡大文字で作成され各郵便局に供えられているという情報に触れ、早速次の日にいつも利用している郵便局にいってきました。A4サイズ程の大きさの冊子を2冊、窓口の人がどこからか見付けだしてきました。今まで利用者の申し出がなかったからでしょう、少し時間がかかっていましたから。その場所で読むには量的に難しかったので、承諾を得てかりてきました。
 郵便貯金や郵便物などに関する点字サービスはもうすでに利用されている方も多い事と、思いますが、まだごぞんじでないかたはぜひ上記のような冊子類の閲覧を地域の郵便局に申し出て1度読んでみてください。けっして宣伝をしている訳ではありません。現在あるサービスをフルに活用していく事が、新しい対応につながります。
 今ここにその冊子のうちの「郵便貯金のご案内」というのがあります。96年3月郵政省貯金局発行となっており、株式会社日本テレソフト製作とあります。95年12月1日現在の内容のものです。「目の不自由な方へのサービス」という所を開いてみると、各貯金通帳と貯金証書に対する点字対応の事や、郵便貯金点字キャッシュカードの利用方法などが書かれています。私はカードを持っていませんので分かりませんが、ATM (現金自動預けばらい機)やCD(現金自動支払い機)を利用している仲間にいわせると多くの問題がありそうです。特に気になるのは、それらの機械が音声対応のみに統一するという郵政省の方針です。情報を得たら、そのままにしないで運動につなげていく力を持たなければならないと思います。
 今手元にはありませんがもう1冊は、はがきや手紙そして小包みなどの各郵便物や電報などについて書かれています。点字による不在通知(問題だらけのもの)や点字による内容証明郵便などがここに含まれる訳です。
 ぜひ1度ご確認ください。

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〈資料1〉
 東京都建設局長 殿
 1996年11月18日  
 視覚障害者労働問題協議会
 代表 込山 光広
 障害者総合情報ネットワーク
 代表世話人 二日市 安
 視覚障害者の公園利用に関する要望書

 ノーマライゼーションの理念を実現するための施策の一つとして、東京都は本年9月に「福祉の街づくり条例」を施行されました。公園は、日夜都会の喧噪に悩まされている私たち視覚障害者にとっては耳と心のオアシスとなっています。また防災避難所としての位置付けも無視できません。そこで、視覚障害者も都民の一人として都立公園を利用できるように御配慮いただきたく、下記の事項を、今年度予算で実行されますことを要望いたします。
 記
 1. 『都立公園ガイド』の点訳をして下さい。
 2. 都立公園の触地図案内板(公園内諸設備の解説付き)を、公園の各出入口に立てて下さい。
 3. 公園内のトイレの所在がわかるような音声付き触地図案内板をつけて下さい。
 4. 電話ボックスの所在を示す音声装置をつけて下さい。
 5.今後私たちと話し合いを持ちながら具体化を図ってください。
 以上ご検討よろしくお願いいたします。
【連絡先】
 〒162 新宿区 山吹町354 トライポート101 障害者総合情報ネットワーク
 上薗和隆(かみぞの かずたか)
 電話:03ー5228ー6916

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 〈資料2〉
 視覚障害者誘導用ブロックの標準化に関する標準基盤研究について
 平成8年12月2日
 工業技術院標準部
 1.研究概要
 視覚障害者誘導用ブロックは、視覚障害者が屋内外を移動する際、その誘導、警告を行う手段として、道路、駅等に広く普及しているが、そのパターンについては統一されていない。このため、視覚障害者やブロックの設置者等から標準化の要望が提出されており、標準化に向けた検討が課題となっている。しかし、標準化のためには、さまざまなパターンの視覚障害者による認知テストなど、基礎的データの収集・解析が重要であり、このため平成8年度から標準基盤研究を実施しているところである。
 平成8年度は、実験に用いるブロックのパターン・色等の選定、被験者の数、実験内容及びその進め方等の基本的事項について検討を行い、平成9〜10年度に実施する被験者実験の計画書を策定する。
 なお、視覚障害者誘導用ブロックのJIS化については、この標準基盤研究の研究結果を受けて検討を開始する予定である。

 2.研究実施計画(校正者注:表省略)

 (参考)標準基盤研究の概要
 近年、工業標準の役割の重点は、高齢化・福祉社会対応、消費者対応、地球環境対応、先端技術対応等、豊かでゆとりある国民生活を実現するための分野にシフトしてきている。これらの分野の標準化を推進するためには、その前提として、関連技術に関する標準化のための基礎的データや評価手法等の関連情報が必要であるが、産業界を中心とした民間においてはこれらの分野のデータ等が不足しているか、ノウハウに属するようなものであって標準化の資料として活用できない場合が多い。
 このため、国が中心となって人間・生活関連技術、地球環境技術、先端技術に関する基礎的データの収集・蓄積・体系化や、試験評価方法の確立の基礎となる評価データの取得・分析等の標準基盤の整備(標準基盤研究)を平成5年度から実施している。

 裏表紙の裏
 〈ボーナスカンパのお願い〉
 11月30日、12月1日に神戸で開催された、「第2回障害者政策研究全国集会」には障害当事者を中心に600名が参加しました。視労協からも7名が参加しましたが、地元も含めてほとんど視覚障害者の姿を見かけませんでした。これからの運動のキーワードのひとつは「障害種別を越えて」だと思います。視労協は視覚障害者固有の課題と併行して、このような視点を持って運動を進めていきたいと考えています。皆様方の大きな御支援、御協力をお願いします。
 □カンパの送り先
 ○郵便振替口座 00180ー6ー92981
 ○加入者名 視覚障害者労働問題協議会
 (同封の振替用紙を御利用下さい)
 ☆会費、定期購読費未納の方もよろしく!
  〜編集後記〜
 「街づくりネットワーク清瀬」の通信に嬉しい記事がのっていました。9月8日に私達も実際に歩いてみた志木街道に音響式信号機が年度内に設置されるとの事です。危険箇所は2ヶ所ですが、第1段階として小学校入口に設置する事にしたそうです。ネットワークの方々の努力に敬意を表するとともに、今後のがんばりを期待したいと思います。
 政策研究集会として課題別プロジェクトを結成する事になり、「まちづくり」も一つのテーマとなりました。視覚障害者の立場からの問題提起をこういった場を通じて積極的にしていきたいと思います。
 さて今年も残りわずかになりました。墨字版は年内に、点字版は1月上旬にお届けできると思いますが、来年もまた皆さんとともに一歩前進できるよう、それなりにがんばってみたいと思います。                             (奥)

裏表紙(奥付)
 1996年12月29日
 定価200円
 編集人 視覚障害者労働問題協議会
 〒239 横須賀市長沢115 グリーンハイツ2ー7ー405
 奥山幸博気付
 発行人 身体障害者団体定期刊行物協会
 世田谷区砧6〜26〜21
 視覚障害者労働問題協議会
 一九七一年六月十七日第三種郵便物許可(毎月六回 五の日・0の日発行)
 一九九六年十二月二九日発行SSK増刊通巻九八四号


■引用



■書評・紹介



■言及





*作成:仲尾 謙二
UP: 20210528 REV:
障害学 視覚障害  ◇身体×世界:関連書籍  ◇『障害の地平』  ◇雑誌  ◇BOOK  ◇全文掲載
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