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『精神医療』37 特集:自閉症スペクトラム

『精神医療』編集委員会 20050210 批評社,118p.

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last update:20190822

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■『精神医療』編集委員会 20050210 『精神医療』37 特集:自閉症スペクトラム,批評社,118p. ISBN-10: 4826504144 ISBN-13: 978-4826504140 1700+ [amazon][kinokuniya] ※(第4次・通巻112) m
 ※20050210 『精神医療』4-37(112)

■内容

本書:pp.2-3より

巻頭言『自閉症スペクトラム――特集にあたって』
高岡 健(岐阜大学医学部付属病院)

――――●1
 自閉症スペクトラムが、「ブーム」といっていいほどの状況にある。正確にいうなら、一方の極には誤解を伴った無関心があり、他方の極には誤解に根ざした加熱がある。では、どこかに正解があるかといえば、本当のところは危ういものというしかないのが現状である。それでも自閉症スペクトラムをめぐっては、良きにつけ悪しきにつけ、半世紀以上にわたる歴史的蓄積があることも確かだ。
 自閉症スペクトラムは文字通りスペクトラムだから、「正常」と障害との間に明確な境界線が引かれているわけではない。だから、たとえば福祉的支援が必要な場合には、その範囲をできるだけ広く定義すればいいし、逆に不利益処分をもたらすような場合には、その範囲をできるだけ狭く定義すべきだということになる。そうはいっても、全てがうまくいくとは限らない。広く定義した上での教育が、支援というよりは強制や排除にしかならないような場合もある。狭く定義した上での刑罰が、適切な支援を欠落させてしまうこともありうる。


――――●2
 冒頭で私は、あえて「ブーム」という言葉を用いた。残念なことに、「ブーム」の背景には、かつての学級崩壊をめぐる遺産がある。日本の学校教育システムの老朽化に起因する問題を、子ども達に「軽度発達障害」という非学術的診断を貼り付けることによって、切り抜けようとした負の遺産である。また、「ブーム」の背景には、いくつかの少年事件をめぐる悪意がある。自閉症スペクトラムが犯罪の動因となることはないにもかかわらず、あたかも △2 障害が事件を惹起したかのような切断操作が、悪意なのだ。
 自閉症スペクトラムを有する人々が、施設の内部でのみ処遇される時代は、次第に過去のものになりつつある。それは歓迎すべき事実だ。しかし、施設を利用するにせよしないにせよ、現象面にのみ根拠をおいて子どもを発達障害と決め付けるなら、それは障害を見て人間を見失ってしまう結果に陥るだろう。


――――●3
 そもそも「正常」とは何であり、「障害」とは何なのか。あるいは、「普通」とはどういう意味を持っているのか。それらを文化の文脈の中でとらえかえすことは、大きな意味をもっているはずだ。
 同様に、発達障害者支援法という、これまでの障害福祉の中で置き去りにされた領域に、わずかとはいえ光をあてる(少なくとも私はそう評価しているが)法律も、今後の展開によっては桎梏となりうる二面性を有している。


――――●4
 以上のような論点について、本号の特集は、根源的な考察を加えている。総論に相当する私の小論はともかく、各論考の著者はそれぞれ立場こそ違え、自閉症スペクトラムの領域での第一人者である。
 加えて、本号には耳目を集めた浅草レッサーパンダ事件についての座談会を、弁護団と発達心理学の泰斗の参加を得て、収載することができた。

 アメリカからの輸入精神医学を吟味しないまま、日本の状況に当てはめることほど、子ども達にとっての不幸はない。しかし、そのような傾向が一部に見られ始めていることも事実だ。本号の特集が、自閉症スペクトラムに関心を寄せる人たちにとって、自前で考えるための材料になることを願う。

 

■目次

巻頭言 自閉症スペクトラム入門 [高岡健(岐阜大学医学部)]
自閉症のバリアフリーと合理的な配慮[大屋滋(旭中央病院脳神経外科、社団法人日本自閉症協会千葉県支部)]
“気がかりな”特別支援教育の本質[氏家靖浩(福井大学教育地域科学部付属教育実践総合センター)]
発達障害概念の拡大の危険性について[生地新(日本女子大学人間社会学部心理学科)]
普通? 普通じゃない??スペクトラムを考える[木村一優(陽和病院・こころのクリニック石神井)]
自閉症スペクトラムの社会的処遇?発達障害者支援法の成立をめぐって[石川憲彦(林試の森クリニック)]

【座談会】浅草レッサーパンダ事件?自閉症と裁判をめぐって[副島洋明(弁護士、浅草レッサーパンダ事件主任弁護人)×大石剛一郎(弁護士、浅草レッサーパンダ事件弁護人)×浜田寿美男(奈良女子大学、発達心理学者、法心理学者)×高岡健(岐阜大学医学部、浅草レッサーパンダ事件弁護側証人)×岡村達也(文教大学〈司会〉)]

【視点3】「医療観察法」施行前夜の憂鬱[岡崎伸郎(仙台市精神保健福祉総合センター所長)]
【引き抜きにくい釘・第6回】大江戸時騒動男女[塚本千秋(岡山大学教育学部)]
【コラム】失うことで見えてくること[上石陽子]
【老いのたわごと25】忘れられない人々2[浜田晋(浜田クリニック)]
【書評】広田伊蘇夫著『立法百年史?精神保健・医療・福祉関連法規の立法史』[浅野弘毅(高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター)]
【書評】藤本豊・花澤佳代編『やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ/よくわかる精神保健福祉』[(福井大学教育地域科学部付属教育実践総合センター)]


■引用


■書評・紹介


■言及



*作成:岩ア 弘泰
UP:20190822 REV:
精神障害・精神医療 雑誌  ◇BOOK
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