『精神医療』10(4) 特集:I 精神医療の経済構造 II 保安処分新設阻止のために
精神医療委員会 編 19811210 精神医療委員会,106p.
last update: 20110710
■精神医療委員会 編 19811210 『精神医療』10(4) 特集:I 精神医療の経済構造 II 保安処分新設阻止のために,精神医療委員会,106p. ISSN: 03030105 ※(第3次・通巻41)
※19811210 『精神医療』3-10-4(41)
■目次
特集1/精神医療の経済構造
日本の医療経済構造――英米の精神医療の動向との比較で(西村周三) 3-7
第二臨調と診療報酬改訂(稲地聖一) 8-13
診療報酬制度改定をめぐって(木村昭彦) 14-24
特集2/保安処分新設阻止のために
オランダ・デンマークの保安処分制度について――見聞記(川合仁) 25-33
イギリスにおけるいわゆる「保安処分」制度は適正に機能しているか(寺嶋正吾) 34-47
日弁連「要綱案」を批判する(小澤勲) 48-51.
資料1の1 報告書(含・討議資料 精神医療の抜本的改善について(要綱案))(日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会) 52-60
資料1の2 報告書「精神医療の改善方策について」(骨子)――保安処分問題と関連して(日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会) 60-62
資料2 声明 (全国「精神病」者集団) 62
資料3 抗議文(精神科医全国共闘会議) 62-63
資料4 「精神医療の抜本的改善について(要綱案)」に対する意見書(日本精神神経学会) 63-66
資料5 要望書(病院精神医学会) 66-68
資料6 要望書(日本臨床心理学会) 68-69
資料7 「精神医療の抜本的改善について(要綱案)」に関する見解と要望(東京都地域精神医療業務研究会) 70-72
覚醒剤中毒者対策に名をかりた保安処分新設(瀬尾博) 73-76
保安処分に関する主な動き(1981年10月〜11月)(著者署名なし) 76
海外から
精神障害者に新しい憲章(デビッド・ヘンケ:ガーディアン,1981年9月7日)(寺嶋正吾) 13
英国の精神科リハビリテーション――スコットランドの首都エジンバラを中心に(納屋敦夫) 77-85
わが国における幼児自閉症論批判(6)(小澤勲)86-105.
事務局より(著者署名なし) 106
■引用
◆声明(全国「精神病」者集団) 62
日本弁護士連合会が8月31日に示した「精神医療の抜本的改善」といわれる要綱案は「精神障害者」に向けられた新治安構想ともいうべき内容であり,私たちはこれを到底容認することが出来ない.
この要綱案は保安処分の対象として,現行の精神医療政策を手直しし,違法行為をする「精神障害者」とそうでない「精神障害者」を分断し,あたかも治安と福祉が両立するがごとく描かれている.
そもそも,保安処分は「精神障害者」=「犯罪素因者」と決めつける誤った前提の上に立つが,私たちはそのような,差別と偏見を根本的に否定する.
ところが,今回の要綱案はその誤った前提に立脚し,精神衛生法をより厳密に活用することによって,「精神障害者」の治安対策の拡大と強化を計ろうとする差別的構想に他ならない.
私たちは保安処分という治安対策に対案など決してないと断言し得る.同要綱案は抑圧と隷属を拒絶し自由と人権の復権を心からの願いとする私たちを踏みにじり,「精神障害者」に徹底的管理をもたらすものである.
同要綱案は,贖い切れない深い傷を私たちに負わせ,窒息するがごとき危機意識を与えた.
人権の擁護を社会的使命とする弁護士が,その使命を自らで放棄し,同要綱案を保安処分の対案とする日本弁護士連合会を私たちは決して許すことが出来ない.私たちはこの要綱案を心からの怒りを持って弾劾することを声明する.
1981年9月7日
全国「精神病」者集団
◆抗議文(精神科医全国共闘会議) 62-63
はじめに
「私達は,1969年日本精神神経学会総会(金沢)以降,病者及びその家族の方々と共に,治安的現行精神衛生法体制解体,隔離収容施設としての精神病院解体をスローガンとして,病者の人権を抑圧する拘禁制度としてしかない精神医療の実態を明らかにし,これを改革する闘いを続けてきました.それは,病院の開放化と自由入院の促進であり,こうして精神衛生法の持つ社会防衛的本質すなわち予防拘禁性を批判していく作業でありました.
そのような歴史的経緯を踏まえず提出された「要綱案」は,10年来の改革運動に反動の冷水を浴びせるものでしかないといっても過言ではありません.このことを前提にして左のごとく抗議し,「要綱案」の根本的再検討を強く要望し,白紙撤回を求めます.
1. 昨年夏以来.政府・法務省は,いくつかの「事件」に便乗して,“精神障害者は危険だ”“危険な精神障害者が野放しにされている”と差別を煽り,そのことによって一気に保安処分新設−刑法全面改悪を強行しようとしてきました.
2. このこと自身,精神「障害者」を犯罪素因をもつ反社会的なものと決めつけ,その予防的拘束・矯正を行なおうとする保安処分の思想を先取りしており,精神「障害者」に対する差別と社会からの抹殺の攻撃そのものであります.
3. 日本弁護士連合会が今回保安処分の「代案」として提出した『精神医療の抜本的改善について』(要綱案)は,このような精神「障害者」に対する差別と保安処分の思想と闘うのではなく,政府・法務省と基本的に同一の立場に立ち,その上で,保安処分を刑法によってではなく,「医療の充実」すなわち措置制度強化を軸とした精神衛生法の保安処分的再編でもって行なうことを提案するものであります.
4. 更に,「保安処分の消極性と限界」「精神医療改善の積極性と意義」の項に典型的に表現されているように,社会防衛目的のためには,保安処分より「精神医療の抜本的改善」の方が「実効」があるとして,精神「障害者」の生活全般を一生にわたって管理していくといういわば保安処分を上まわる方策をうちだしています.
5. したがって『要綱案』は保安処分に反対するどころか,実質的保安処分を「医療」の名に於て推進しようとするものであり,精神「障害者」差別をより全面化しようとするものであります.このような保安処分「反対」論は,保安処分の一般市民への「乱用」を防止するために,精神「障害者」を犠牲にし,“保安処分はあくまで精神障害者だけに!”という差別主義に貫かれているといえます.
6. 日本弁護士連合会は,この『要綱案』を保安処分新設を阻止する意図のもとに提出しているようですが,結局は,保安処分新設を容認し,それを補完するものとして精神衛生法の強化をうたうことにつながるものであります.
7. 私達は,現行精神衛生法の措置入院制度を頂点とする社会防衛的,治安管理的精神医療を実態的保安処分体制と把えこれを批判してきました.即ち,刑法によるものであれ,「医療」の名によるものであれ,あらゆる保安処分に反対するものであります.
8. 日本弁護士連合会は,精神「障害者」に対する差別主義を根本的に自己批判し,『要綱案』を白紙撤回すべきであります.
1981年9月28日
精神科医全国共闘会議
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