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原 昌平 ■記者の視点 ◆2003 「不正にはまず怒ろう」(記者の視点3) 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会) ◆2003 「患者アドボケイトの導入を」(記者の視点4) 『京都府保険医新聞』 ◆2003 専門家の自由と責任」(記者の視点5) 『京都保険医新聞』 ◆2003 「感染者の側から考える」(記者の視点6) 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会) ◆2003 「事故報告制度が出発点だ」(記者の視点7) 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会) ◆2003 「医学と法律の学校教育を」(記者の視点9) 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会) ◆2003 「「インフォームド・チョイス」への深化を」(記者の視点11) 『京都保険医新聞』(京都府保険医協会) ◆2000/03/29 県立2病院でカルテを公開 4月1日から/申し出は患者や家族らが可能 2000/03/29: 西部読売山口版 ◆2003/06/21 「統合失調症とともに(1)」森 実恵(寄稿連載) 2003/06/21大阪読売 健康&医療面 ◆2003/07/03 「アトピー薬プロトピック 薬事審が動物実験やり直し指示 「安全な濃度が不明」」 2003/07/03 大阪読売夕刊2社面 ◆2003/07/00 「SARSの教訓」 読売新聞 ◆2003/08/28 「心神喪失者医療観察法 事件予防へ実効疑問 7月成立 人格障害は対象外」 大阪読売夕刊3面 ◆2003/09/02 「あくまで患者の味方 病院の中に相談室 医療の質 向上目指す」 『読売新聞』2003/09/02朝刊・安心の設計面 ="0703"> Date: Sun, 06 Jul 2003 02:10:16 +0900 Subject: [mhr:2201] 記事・プロトピック軟膏続き 医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。 --------------------------------------------- 原です。(重複受信の方はすみません) プロトピック軟膏に関する、その後の記事です。 (以下、非営利活動のみ転載可とします) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ◆2003/07/03 アトピー薬プロトピック 薬事審が動物実験やり直し指示 「安全な濃度が不明」 2003/07/03 大阪読売夕刊2社面 アトピー性皮膚炎用の免疫抑制剤「プロトピック軟膏(なんこう)」(一般名 タクロリムス)による発がんリスクをめぐり、国の薬事・食品衛生審議会が、動 物実験のやり直しをメーカーの藤沢薬品工業(大阪市)に指示していたことが三 日、わかった。審議会はすでに小児用軟膏(濃度0・03%)の承認を妥当と判 断したが、この濃度ならがんは増えないといえるか不明確として、より低い濃度 でも調べるよう求めた。ただし実験結果が出るまで承認を待つわけではないとい う。 藤沢薬品の実験は、成人用(濃度0・1%)と小児用をマウスの皮膚に二年間 塗り、薬なしの場合と比較。そのデータを同社は「成人用の濃度だと悪性リンパ 腫(しゅ)が増えるが、小児用では増えない」と解釈したが、審議会は、どの程 度の濃度ならがんは増えないのか、明確でないと判断。この点をはっきりさせる 実験計画の提出を求めた。 これに対し、NPO医薬ビジランスセンター(大阪市)の浜六郎理事長は「発 がんの恐れを否定できないのに、なぜ承認できるのか。再実験の結果を待つべき だ」と批判する。 承認後に、小児用濃度でもがんが増えるという実験結果が出る可能性もあるが、 厚生労働省審査管理課は「あくまでも動物実験。成人用は承認されて世界中で使 われており、(小児用はそれより)濃度が低いので深刻な事態とは考えていない」 としている。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 以下は東京医療面に掲載された記事です。 ■アトピーの免疫抑制剤「小児用タクロリムス、妥当」 国の審議会が判断 2003/07/01 東京読売医療面 アトピー性皮膚炎用の免疫抑制剤「プロトピック軟膏(なんこう)」(一般名 タクロリムス)について、薬事・食品衛生審議会は、小児用軟膏の承認を妥当と する判断をくだした。 薬害を監視する複数の団体が「悪性リンパ腫(しゅ)などのがんが増える恐れ がある」と反対していたが、審議会は〈1〉発がんのリスクについて患者に十分 な説明を行う〈2〉アトピー治療に精通した医師や医療機関に使用を限る〈3〉 発がんの情報も含めて徹底した市販後調査を十年間行う――を承認の条件とした。 この薬は、臓器移植用の免疫抑制剤を外用薬に転用したもので、一九九九年に 濃度0・1%の製剤が成人用(十六歳以上)に承認された。メーカーの藤沢薬品 工業は昨年、濃度を0・03%に下げた小児用軟膏の承認を申請した。 これに対し、NPO医薬ビジランスセンター(浜六郎理事長)などが、承認前 の実験データを分析。マウスに二年間塗った慢性毒性試験では、0・1%の濃度 で、がんの発生危険度が二十七倍、悪性リンパ腫で二十倍になり、濃度0・03 %でも、それぞれ約三倍に高まっていたことから、小児用に承認しないよう要望 していた。 ="0700"> ◆2003/07/00 「SARSの教訓」 Date: Wed, 23 Jul 2003 22:13:48 +0900 Subject: [mhr:2206] SARSの教訓(上) 医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。 --------------------------------------------- 原@大阪読売です。 (超長文のうえ、重複受信の方はすみません) 他の2つのMLには既投稿のもので、 この場にふさわしい内容かどうかわかりませんが(という前提で)、 以下は、SARSの教訓と今後の備えに関して、 最近発行の「いのちジャーナル」(最終号)に書いた原稿です。 さいろ社 tel&fax 078-453-6796 http://www.sairosha.com ホントはまず新聞に書くべきでしょうが、締め切りに迫られ、とりあえずこちら をこしらえました。投稿は、さいろ社に叱られるかも知れませんが、できれば雑 誌を、お取り寄せ下さい。(SARS関係の記事は他にもう1本あり) ひじょうにひじょうに長文なので、3つに分けます。 SARSの教訓といっても、切り口や視点はいろいろあるし、 私は関西でウオッチしていたのみという限界もあります。 どうぞ、ご批判、ご議論を。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (いのちジャーナル2003・7−8月号) ◆記者の診方9 SARSの教訓――感染者側の視点を忘れるな 新型肺炎の出現は、感染症の脅威を改めて見せつけた。気になるのは感染者を 「加害者予備軍」のように見て強制力に頼ろうとする風潮の強さだ。感染予防と 患者の人権を対立させるのでなく、レベルの高い医療を提供し、差別や不利益を なくすことに力を注がなければ、難敵に立ち向かえない。 ◆進んだ自然科学 「人類の滅亡はひょっとすると、こんなふうに始まるのかも知れない」。のち にSARS(重症急性呼吸器症候群)と命名された新興感染症の出現をネット情 報で知った私は、半ば冗談でそう言いながら、大ぶりの紙面展開を図った。 中国・広東省から香港、ベトナムに広がった「謎の肺炎」について、WHO (世界保健機関)が世界への警告を発したのは3月12日だった。まもなくシンガ ポール、台湾、カナダ、欧州などにも飛び火し、3月15日には「いまや全世界的 な公衆衛生上の脅威である」と旅行客への注意を勧告した。 それから99日目の6月18日、WHOはクアラルンプールで開いた国際会議で、 ほぼ制圧にこぎつけたことを宣言した。 この間を振り返ると、未知の感染症への対処は、自然科学の面では比較的うま く進んだといえるだろう。病原体の特定は37日目に完了し、新型コロナウイルス のRNAの塩基配列もあっという間に解明された。実用的な検査法、治療法の確 立には意外に手間取っているものの、臨床的な病状の経過や感染ルートの解明も ある程度、進展した。 ◆遅れた社会科学 自然科学的な解明を支えたのは、WHOのリーダーシップによる国際的な研究 協力態勢と、インターネットを活用した情報交換だった。日本からの情報発信は 皆無に近かったが、国際的なメーリングリストなどを通じ、最新情報が以前では 考えられないほど素早く入手できた。 これはこれで国際的な対処が進歩したわけだが、社会的対処の面では、人類は まだまだ未熟なように思える。 半ば政治的な情報隠しで感染拡大を招いた中国、医療関係者の無責任な行動で 院内感染を広げた台湾、渡航延期勧告の解除をあせったものの再燃したトロント が代表的な失敗例だが、おそろしく幸運にも感染者が出ていないとされる日本の 対応にも、問題点はたくさんあった。 ◆立ち上がり半月遅れ 政府の危機管理の面では、まずスタートの鈍さを挙げねばならない。WHOの 警告を受け、厚生労働省は結核感染症課と国立感染症研究所を中心に、24時間態 勢での海外情報の収集、発生国への医療援助スタッフの派遣、国際研究チームへ の参加などに取り組み、国内でのサーベイランス(発生動向調査)も始めたが、 国民への積極的広報、医療の態勢づくり、入国者の検疫といった分野は弱かった。 半月余りの間、厚労省や感染研はSARSの詳しい情報をホームページに載せ ておらず、民間のリンク集や海外の英文サイトの方がはるかに役に立った。 報道対応も実務担当者が記者の取材に答える形がほとんどで、大臣らが積極的 に記者会見して語ることもなく、国民へのメッセージは乏しかった。 ようやく国の対策が本格化したのは4月3日。広東省と香港への渡航延期勧告、 帰国者への検疫の強化、感染症法に基づく「新感染症」として扱うことなどを福 田官房長官が発表した。 ただし渡航延期勧告は前日のWHOの勧告を後追いしたもので、米国、シンガ ポール、カナダなどはずっと前に渡航自粛を出していた。外交や経済への配慮、 厚労省と外務省の温度差なども一因らしいが、WHOの勧告前に独自の措置に踏 み切る度胸が日本にあっただろうか。 自治体の応急対応の法的根拠になる「新感染症」として扱うことも、伝染力と 症状の重篤さで判断すればよく、もっと早く可能だったはずだ。 ◆欠けた情報公開 4月3日以降、国関係の情報発信は一気に増え、マスコミの扱いも急に大きく なった。SARSの表面化直後にイラク戦争が始まり、4月に入るとイラク関係 にも飽きてきたという報道側の事情もあるが、「何で今になって急に騒ぎ出すの か。政府の動きに左右されすぎではないか」と私は違和感を覚えた。 うがちすぎかも知れないが、最初の半月間、厚労省はパニック防止を優先させ、 積極的な情報提供を避けたのではないか。自分たちの段取りが整い、対策メニュー を用意できてから物を言い始めたという印象だ。 3月19日に国内で最初の「疑い例」が3人報告された時は、都道府県名や年齢、 性別、渡航歴、病状を尋ねても一切答えず、「可能性は極めて低い」と言うだけ。 過剰反応を恐れたのだろうが、ある程度説明してくれたら納得もできるのに、単 に「我々を信用しろ」と言われたら、かえって疑念を抱いてしまう。 そして「今後、疑い例や可能性例が出たらどうやって公表するのか」と問うと、 「とくに発表はしません。人数はホームページに載せるので見て下さい」。 その翌日から土曜を含めて三連休だったので、ホームページの更新を休日もや るのかと確かめると、「我々は出ているけれど担当部門が休みなので……」。 その後も国内の症例に関しては「非公開」の傾向が強かった。医療機関からの 報告を独自に公表した県もいくつかあったが、厚労省の意向を受けてか、そのう ちさっぱりなくなった。 やっと方針を転換したのは5月14日。可能性例が出た場合は都道府県、年代、 渡航歴、病状などを「パニック防止のために」公表するとした。ただし腰の据わっ た方針とは言いがたい。その直後、台湾の医師が関西や四国を旅行していたケー スで、宿泊先や立ち寄り先の具体名を公開したのは、地元自治体の要請に押し切 られた形だった。 ◆「可能性例」を報告せず いちばん妙だったのは、WHOへの報告のあり方だ。 疑い例、可能性例というのはWHOの「サーベイランスのための症例定義」で、 まだ確定診断の技術がないから、一定の外形的な基準で各地の発生状況をつかむ ことにした。ほとんどの国は、可能性例に該当した患者数、米国は疑い例を含め た患者数を報告していた。報告後にSARSでないとわかれば、その分を後から 減らしていた。 ところが厚労省は、専門家会議の判断による「確定例」という独自の概念をこ しらえ、可能性例を報告しなかった。「実際にSARSである可能性は低い。ど の範囲を報告するかは各国に任されている」と主張した。 WHOの要請を受け、可能性例の数を初めて報告したのは4月11日。それまで ネットで毎日発表される世界の患者発生状況で日本はゼロが続いていた。 だいたい「suspected case」を「疑い例」と呼ぶのはともかく、「probable case」を「可能性例」と翻訳したのは、本来の意味からも日本語の語感からも妙 だ。素直に訳せば「たぶん例」「ほぼ例」「蓋然性例」といったところで、「可 能性例」なら「possible case」だろう。 確かにWHOの基準では、疑い例の基準(38度以上の発熱、せきか呼吸困難、 発生地域に滞在後ないし発症者と接触後10日以内)に加え、肺炎症状があって抗 菌薬が効かない程度で可能性例になるから、他のウイルスなどによる肺炎も紛れ 込む。それでも危機対応のための情報収集なのだから、安全側に軸足を置いて報 告すべきだった。 ◆組織対応から個人責任へ 悪口ばかり並べているが、行政関係者は対岸の火事と見て怠けたわけでなく、 懸命に対処を図ろうとしたのだと思う。 当初の推定死亡率は3−4%とされていたが、5月になって15%にはね上がっ た。感染ルートも接触、飛沫が中心ながら、付着した物や便の中で数日生きてい るなど、一筋縄でいかないことが次第にわかってきた。 だから問題点ばかりあげつらうのは酷な気はするが、機敏さに欠ける大きな原 因は、危機対応を「組織」でやりすぎる点にあるのではないか。 会議や決裁が必要だと当然、時間がかかるし、現状維持に傾きがちだ。専門職 でない官僚の力が強いと、科学的な判断より「パニック防止」や「政治的影響」 を気にする傾向もある。 感染症のように専門性と迅速性が要求される領域では、専門職のスタッフにもっ と権限をゆだね、その代わり、判断ミスにはポスト交代を含めた個人責任を問う べきではないか。これは独断や独裁とは異なる。他のスタッフや外部の意見も聞 き、会議も併用すればいい。そうした情報・意見の収集能力まで含めた個人責任 である。 とくに重要なのはプレス発表の権限だろう。欧米の役人やビジネスマンはふだ んから個人責任で働き、固有名詞でメディアに登場するが、日本では国立感染研 などの研究部門でさえ、取材対応を統制している。 ☆――――――――――――――――――――-☆ 原 昌平 hara4142@yomiuri.com 読売新聞大阪本社・科学部 〒530−8551 大阪市北区野崎町5-9 TEL 06-6366-1649 FAX 06-6361-0521 携帯 090-9044-5604 Date: Thu, 24 Jul 2003 19:07:19 +0900 Subject: [mhr:2207] SARSの教訓(中) 医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。 --------------------------------------------- 原です。続きです。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (いのちジャーナル2003・7−8月号) ◆記者の診方9 SARSの教訓――感染者側の視点を忘れるな −−−−−−−−−−−−−−−−− ◆貧弱な医療体制 SARSで露呈した大きな問題点の1つは、感染症の医療体制の頼りなさだっ た。 まずは入院に対応する感染症指定医療機関の数。1999年4月の感染症法施 行から4年たった今年4月の時点で、最も高度な「特定」は、市立泉佐野病院 (大阪)と4月7日指定の国立国際医療センター(東京)の2か所計6床だけで、 各地方に1か所の目標にはほど遠い。第1種の指定病院も、各都道府県に1つ以 上が目標なのに12か所計22床にすぎず、北海道、東海、北陸、中国、四国、沖縄 にはない。第2種の指定病院は295か所計1687床と数はあるが、このうち 陰圧設備の病床は81か所計460床にとどまった(その後増設は進められた)。 質的にはどうか。特定感染症指定医療機関としてエボラ出血熱やペストなど危 険度の最も高い病気の患者を受け入れる市立泉佐野病院には、日本感染症学会の 専門医も、院内感染対策を指導するICD(感染症管理医師)やICN(感染管 理認定看護師)もいない。院内の感染症センターに医師は常駐せず、いつもいる のはICN資格のない看護師長1人だけという。 毎日新聞の5月初めの調査によると、第1種の病院でも3か所は学会専門医が 不在。SARSに対応可能として公表された全国約200病院のうち、学会専門 医の常勤は26%にすぎず、逆にICDもICNもいない病院が3割を超えたとい う。 指定病院と言いながら、一定の設備があればいい方で、人材面はろくに考 慮せずに指定し、感染症の診療能力、院内感染防御策などソフト面の内実を伴わ ないままだったことがわかる。 もともと日本は感染症の専門医が少ないうえ、指定病院には陰圧病室などの建 設費の補助や維持管理や消耗品にかかる運営費の補助はあっても人件費の国庫負 担はない。このため、ふだん空きの多い感染症病床は経営の圧迫要因になり、院 内で冷遇されがちだ。「国はかけ声ばかり」と言われても仕方がない。 ◆外来受診をめぐる混乱 そのうえ、SARSかも知れない患者を最初にどこで診るのかをめぐって右往 左往した。 厚労省は当初、「外来受診はすべての医療機関で適切な対応が必要」とした。 しかし海外で外来から院内感染が広がった例もあり、「診察用の個室もなく、感 染症担当医もいないのに…」と現場から不安の声が続出した。5月16日になって 同省は方針を転換し、「感染防御体制の整った医療機関が望ましい」と自治体に 通知した。受診先を具体的に確保するよう求めたわけだ。 その通知の当日、SARSを発症した台湾の医師が関西旅行していたことが判 明した。大阪では、不安を抱いた受診者が府内3か所の入院指定病院に集中し、 混乱した。行政は「SARSかも知れない時は病院へ直接行かず、まず電話で保 健所などに相談を」と強調していたが、相談を受けて紹介できるのは、その3か 所しかなかった。 一方、国の指示を待たず、独自の判断で外来受診の協力病院を確保していた県 もいくつかあった。病院・診療所はSARSに限らず、診療に伴う感染を防ぐ日 常的備えが必要だが、「すべての医療機関」に期待するだけでは具体的な受診先 の確保が進まないし、感染拡大のリスクを考えれば受診先はやたらに増やさない 方がいい。このあたりは「緊急事態への想像力」の問題だろう。 ◆指定病院が入院拒否 ただ、医療機関側には院内感染への懸念だけでなく、風評被害まで含めた経営 への影響を気にする空気も強い。それを浮き彫りにするケースも発覚した。 京都府内にある第2種指定の公立病院は5月下旬、中国から帰国後に高熱を出 した患者の入院を拒否し、大阪市内の第1種の公立病院へ転送していた。 患者にせきはなく、X線でも肺炎の兆候はなかったというから、疑い例にも該 当しない。しかし抗生物質で熱が下がらず、府は念のため、入院させるよう指示 した。ところが病院側は「院内感染や風評被害が心配」という理由で拒んだ。 この病院は可能性例まで入院できるはずだった。院長は「感染症病床は一般病 室と同じ階にあり、もし感染者だったら病院機能がマヒしていた。『疑い例』が 出ただけで他の患者が来なくなり、病院がつぶれる恐れさえある」と話した。患 者は結果的には「扁桃炎」だったという(読売新聞6月21日夕刊)。 元をただせば、実情を確かめずに入院先に選んだ府のずさんさ、それを受けた 病院の無責任さがある。ただ、感染防御の面で本当に心配なのか、それを口実に 厄介を避ける受診拒否なのかは、明確になりにくい。 HIV感染者が、どの医療機関でも拒否された時代を思い起こさせる状況だ。 ◆疑い濃厚でも自費診療? 入院手続きと医療費の面でも今のやり方でよいかは疑問だ。 国の方針では、WHOの基準に沿って可能性例から原則入院とし、知事が入院 を勧告できる。応じなければ強制入院もある。ただし医療費が公費負担になるの は勧告後で、それまでは通常の保険診療で自己負担がある。 しかし可能性例は、胸のX線撮影で肺炎などが見つかるか、PCR法でSAR S遺伝子が検出された場合だから、決まるのは医療機関で検査を受けた後の話だ。 それより前の段階でも本物が濃厚なケースは十分ある。 たとえば、例の台湾の医師が日本滞在中に「SARSかも」と自ら受診を求め らどうだったか。発熱が38度以上でも、せきなどの呼吸器症状がまだなら疑い例 にさえ該当しない。外国人旅行者だと医療保険もない。 これでは費用負担を気にして必要な人が受診しない恐れがあるし、そもそも疑 い例、可能性例という情報収集の基準を、医療対応に機械的に連動させるのは無 理がある。もっと柔軟性のある対処ができないか。 受診先への交通手段もあいまいだ。電車やバス、タクシーはやめてほしいと行 政は言う。それは正しいが、マイカーのない人や症状が重くて運転できない時は どうするのか。SARSを否定できない時は、救急車か行政の車で責任を持って 送ることを明示すべきだろう。 ◆生活保障の手だてを さらにいえば医療費だけでなく、生活保障も考えるべきだ。公務員や大企業の 社員なら少々長く休んでも大丈夫だし、一定の給料も健康保険による傷病手当も 出るが、中小零細事業所の従業員、パート、自営業者などはたちまち生活に困り、 解雇や倒産に直結しかねない。国保だと傷病手当もない。それでは「必要なら入 院する」「きちんと治す」ことの妨げになる。 三年前、結核をめぐる連載記事を取材する過程で浮かび上がったのも、大都市 に多い「不安定就労層」の発病の多さだった。ホームレスの人々だけではない。 定期的な健康診断がきちんと行われていない、少々体調が悪くても簡単には休め ない、入院したら失業する、治療を始めても早く仕事に戻ろうとあせる、体調が 戻れば大丈夫と思って服薬が途切れる、中途半端な治療で耐性菌ができる――そ ういうパターンが多いのだ。 人から人への感染力が強くて入院治療が望ましい病気には、生活維持の手だて を政策的に提供する方が、大局的にみると賢いのではないか。「病気だから仕方 がない」「かかったのは本人の不運」という従来の発想にとらわれないほうがい い。 一定の治療手当を支給する、入院中の欠勤による解雇や感染症を理由にした不 利益な扱いを雇用主に対して禁止する、といった方策がありうる。 一見、財政的に大変な話に聞こえるが、放置していると感染の拡大に加え、生 活困窮や長期入院によって生活保護を要する人も増え、結局、社会的費用はかさ んでしまうのだ。 ◆批判のあった感染症法 感染症法は、社会防衛を主眼とした伝染病予防法を100年ぶりに改正し、性 病予防法、エイズ予防法を廃止統合したものだ(結核予防法は別に残った)。 法律の理念には、 1:新興・再興感染症の脅威に迅速・的確に対応する 2:ハンセン病、エイズなどへの差別や偏見を教訓に患者の人権に配慮し、良質 で適切な医療を提供する ――の2点がうたわれた。 だが具体的な内容には成立前から批判があった。公衆衛生審議会の基本問題小 委員会が出した報告書(97年)に比べ、法案化された段階で社会防衛に重点が移 っており、一部の委員は「がく然とした」と批判した。 米インディアナ大のデビッド・フィドラー氏(国際感染症法学)は国会審議中、 1:輸入感染症への対応という時代遅れのモデルでグローバルな視点がない 2:症候群別サーベイランスに移行する国際保健法と整合性がない 3:患者の人権と個人情報の保護規定がない 4:病名を特定した条項は差別を招きかねない 5:知事の権限が大きく、政治的判断や全国的に一貫性のない対応の恐れがある ――と指摘した。 すべて的を得ていたとは思わないが、入院勧告、就業制限、消毒といった権力 的な行政手続きの規定を中心にした法律なのは確かだ。以前よりましとはいえ、 人権保護や医療確保の具体策は乏しい。 ◆改正へ課題は山積 感染症法は来春をめどに改正する予定だという。バイオテロ、バイオハザード への備えも含め、たいへん多くの課題がある。 まずは病気の分類とランクづけ。現行法は人から人への感染力と症状の重さに よって1類から4類に分けて病名を列挙し、対応する指定病院のランクを決めて いるが、とくに4類は様々な感染症が混在しているうえ、全数報告、定点観測 (一定数の医療機関だけ報告)に分かれ、非常にややこしい。バイオテロに使わ れる炭疸や温泉施設などで集団感染の多いレジオネラなども、発症すれば致死率 が高いのに、人から人へうつらないという理由で4類になっている。 むしろ人−人感染、動物由来、環境感染、食品・水感染、性感染、医原性感染 といった感染ルートで大づかみに分け、それぞれに感染力や重篤度のレベルを示 す方がよいのではないか。そして病名は法律本文より政令で定めて国会に報告す る方式にし、柔軟に変更したほうがよい。 天然痘、ウエストナイル熱、野兎病、鼻疽、疥癬などリストに載せておくべき 既知の感染症も多い。リストにないと対応が遅れるし、医師に知識が普及せず、 対策も放置される。 サーベイランスでは確定診断後でないと報告がなされないという弱点がある。 出血熱、急性呼吸器症状、感染性下痢、急性神経症状といった症候群に分け、判 明した病名を添える形が望ましいのではないか。死亡・重症などの病状や転帰を 把握・追跡するしくみがない点、医師が報告を怠った時の対処の甘さ、院内感染 の報告制度が足りない点も、何とかしたい。 危機対応では、国・自治体の担当課や保健所の夜間休日の当直体制、ブロック 単位の危機管理、患者の移送を含めた実働部隊の確保などが挙げられる。 ☆――――――――――――――――――――-☆ 原 昌平 hara4142@yomiuri.com 読売新聞大阪本社・科学部 〒530−8551 大阪市北区野崎町5-9 TEL 06-6366-1649 FAX 06-6361-0521 携帯 090-9044-5604 Date: Fri, 25 Jul 2003 17:16:03 +0900 Subject: [mhr:2208] SARSの教訓(下) 医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。 --------------------------------------------- 原です。これで終わりです。 最後のほうのメディア論については、書き出せばきりがないのですが、 紙幅の事情もあり、この程度にとどめました。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (いのちジャーナル2003・7−8月号) ◆記者の診方9 SARSの教訓――感染者側の視点を忘れるな −−−−−−−−−−−−−−−−− ◆根強い「加害者視」 そしていちばん重要なのは患者の人権に対する姿勢だ。 うつる病気を人間は恐れる。感染力や致死率が高く、未知の度合いの大きけれ ばなおさらだ。医療従事者でさえ我が身を守る意識が先に立つ。それは自然な感 情だろうが、エスカレートして、感染者を「加害者」「容疑者」のように見る傾 向、人に対する強制力によって社会防衛を図る発想が社会に根強くある。 結核、ハンセン病、エイズなどでは、医療提供も不十分なまま恐怖と差別をあ おり、社会にいづらくして封じ込めを図った過去がある。現在でも、MRSAや 疥癬を持つ患者が入院や施設入所を拒否されるケースは日常茶飯事に起きている。 「SARSの流行は徹底した19世紀的手法(隔離、接触者追跡と経過観察、検 疫、渡航制限)の適用で封じ込められようとしている」とWHOはコメントした。 コッホによる炭疸菌の培養は1876年、初の抗菌薬サルバルサンの開発は19 12年、ペニシリン発見は1929年。人類が病原微生物と対峙して歴史はまだ 浅い。新たな病原体が登場するたびに、社会は19世紀以前の感覚に戻るのか。 けれども、不安と恐怖を誰よりも抱くのは感染者や感染の可能性のある人たち だ。病気そのものへの不安に加え、社会的な不利益・差別への不安が重なる。後 者の不安が大きければ、受診する勇気がなえ、早期発見と治療を妨げてしまう。 ◆人権と予防の両立のために 症状が重く、人から人への感染力も強い病気では、感染の拡大は、他者の生命 や健康という高度な人権にかかわる。したがって、とにかく患者の人権が最優先 という単純な発想はできず、患者の行動の自由やプライバシー権の制約もやむを えない場合がある。その意味で、行政による強制措置を完全になくすのは無理が あると私は思う。 けれども人権保護と感染予防は本質的に対立するものではない。患者は他人に うつしたいわけではないし、誰かにうつっていたら一層つらい。故意にうつすと したら、よほど強い被害意識と絶望感を抱いた場合だ。 だから患者への制約は科学的に必要な最小限度にし、双方の矛盾をいかに小さ くするか、強制せずとも患者側が納得できるようにするかが重要になる。そのポ イントはいくつかある。 第1は、受診や入院が患者の「安心」につながることだ。診療できる医療機関 を確保し、可能な限り高度な医療を提供する。指定病院の整備計画をきちんと立 て、人材養成と医療体制の維持向上に、国がもっと資金と指導力を投入しないと いけない。 第2は、不利益・差別を減らすことだ。公衆衛生の担当者はことあるごとに正 しい理解を訴え、入院・隔離などに応じた患者への感謝を表明する。差別禁止規 定を設け、不当な社会的扱いや医療機関の不適切な対応には勧告や制裁を行う。 さらに生活保障への配慮が、人権制約への補償の意味も含めて必要だ。 第3は、医療機関の感染防御の確立だ。この部分がいい加減だとパニックにな る。現実には未確立の医療機関が多いが、人から人へ感染する病気のほとんどは 標準的な感染防御で対応可能だし、SARSもほぼ対処できた。強敵は、空気感 染する天然痘と多剤耐性結核、それに飛沫感染でも感染力の強い新型インフルエ ンザかも知れない。それらへの備えも欠かせない。 第4は、対策の内容をよく分析し、人権保護と感染防止の適切なバランスをと ることだ。病気によって発病率、症状の重さ、致死率、感染ルート、感染力は異 なる。とくに感染ルートの違いによって対処法に差が出る。もちろん人から人へ 感染しなければ隔離も不要だ。 一方、ひと口に人権といってもレベルに差がある。最上位は生きる権利、医療 を受ける権利だし、人身の自由、面会の自由の制約も重い。働く権利、経済活動 の自由、旅行の自由となるとランクが下がっていく。 その意味では、香港や台湾からの観光客が5月までほぼフリーパスで入ってい たのは問題だった。海外旅行の権利は高度な人権とはいいがたい。検疫ではハイ リスクの人たちに積極的な説明・質問をするべきで、強めのチェックもありだと 思う。 ◆個人情報をめぐって 台湾の医師のケースでは、接触者調査や注意喚起のための情報公開が、事業者 の利益との関係で論議を呼んだ。宿泊先、立ち寄り先の具体名の公表は正解だっ たと思うが、外国人のツアー客だったのは幸運というべきで、患者のプライバシー が関係してくるともっとやっかいになる。行政にも報道機関にも非常に悩ましい テーマだ。 私は今後に備え、社内向けに報道マニュアルのたたき台をこしらえた。結論的 には公表がもたらすメリットとデメリットの大きさや質を分析し、比較検討する しかないと考えている。 個人情報を「すべてプライバシー」と言ってしまうと検討のしようがない。詳 しく考えれば、情報の種類と内容によって個人特定のリスクは違う。個人の不利 益も、内心の不快感のレベルか、監視・介入・干渉による平穏な生活の妨害が考 えられるのか、差別・侮辱・迫害の恐れがあるのか、といった差がある。 検討対象の個人情報としては、A:居住地域、B:国籍・渡航歴・発病者との 接触状況、C:病状と経過、D:性別・年齢、E:家族関係、F:職業とそれに 伴う対人接触、G:日常生活での立ち寄り先、H:私的な交友・活動、I:旅行 での立ち寄り先、J:関係する医療機関名――などが考えられる。 それぞれに、ア:感染リスクの程度、イ:接触者把握への役立ち度、ウ:個人 特定への接近度、エ:個人の不利益度、オ:事業者の不利益度――が異なる。 たとえば患者の職業がデパートの接客担当者なら、感染リスクが高くて公表の 必要度も高いと思われるが、個人の特定度・不利益度も事業者の不利益度も大き く、微妙な判断になる。 逆に、客として買い物した近所の商店なら、行政だけで接触者を把握できるの で公表の必要はないし、大都市の交通機関や観光施設なら公開の必要度は高く、 個人の不利益度は小さい。 実際にはなかなか答えを出せないケースが多いだろう。 ◆協力者には感謝を 営業上の利益は相対的に低い位置づけになる。生命・健康の方が明らかに大切 だし、個人の自由やプライバシーと違い、経済的手段で回復可能と考えられるか らだ。規模や業種に配慮する必要はあるが、SARSなら潜伏期間の目安とされ る十日間で一応ケリがつくこともあり、報道のバックアップも含めて事後的に回 復を図るべきだろう。 悩ましいのは「風評被害」で、いくら報道を工夫しても抑えきれない面がある。 地域や施設の打撃も大きい。だが、それを気にして必要な情報を伏せたら、流行 が拡大し、はるかに損失が大きくなるかも知れない。 何らかの補償か融資、保険などで対応するしかないが、その議論以前に国や自 治体にはやるべき行動がある。協力した事業者への感謝だ。せめて「安全宣言」 をする際、大臣や知事は公表した施設名をいちいち挙げて頭を下げ、被害回復へ の協力を国民に訴えるべきだった。 ◆メディアの責務 感染症はマスメディアの影響力が大きい。新たな感染症への警告、正しい知識 の普及、患者の支援など、良い方向で力を発揮することも多いが、80年代後半に はエイズをめぐって長野県のフィリピン女性感染判明、神戸の女性患者死亡、高 知の感染女性の出産などに過剰反応し、パニックと人権侵害を招いた。その結果、 HIV感染者への迫害が強まり、薬害エイズへの注目も遅らせてしまった。 過去への反省はメディア内にもあるが、冬場になってSARSが再燃し、国内 に入った場合などを考えれば、かつての二の舞を演じる恐れはある。何かにつけ て強権的な対応をよしとする風潮も社会に強まっている。 けれども感染症に立ち向かうために有効なのは、恐怖心にかられた強制力指向 ではない。結核対策でDOTS(直接服薬確認治療)が成果を挙げているのも、 患者を厳しく監視するからではなく、「完治を願う親身なサービス」の姿勢だか らだ。 医療で大切なのは、科学とともに患者側の視点であり、人間の気持ちへの想像 力だ。そのことを、報道のあり方への自戒も込めて再確認し、この雑誌では最後 になる筆を置きたい。 はら・しょうへい◆読売新聞大阪本社科学部 ☆――――――――――――――――――――-☆ 原 昌平 hara4142@yomiuri.com 読売新聞大阪本社・科学部 〒530−8551 大阪市北区野崎町5-9 TEL 06-6366-1649 FAX 06-6361-0521 携帯 090-9044-5604 ="0828"> ◆心神喪失者医療観察法 事件予防へ実効疑問 7月成立 人格障害は対象外 2003/08/28 大阪読売夕刊3面 Date: Mon, 15 Sep 2003 00:48:38 +0900 From: "読売新聞大阪本社科学部" Subject: [mhr:2226] 解説・池田小事件と新法 医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。 --------------------------------------------- 原です。 (長文のうえ重複受信の方、主題とあまり関係ないMLの方はすみません) たいへん遅くなりましたが、 最初の記事は、池田小事件判決の時に載せた新法の解説記事です。 人格障害という概念、名称、対処をめぐる問題は、この程度の分量ではとても論 じられず、まだまだ舌足らずですが・・・。 2番目の記事は、判決前の連載のうち、精神医療に関する回です。 (以下、非営利活動転載可) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ■心神喪失者医療観察法 事件予防へ実効疑問 7月成立 人格障害は対象外 2003/08/28 大阪読売夕刊3面 池田小事件がきっかけになり、「心神喪失者医療観察法」が今年七月に成立し た。他人に危害を加える事件を起こして精神障害を理由に実刑にならない場合、 裁判官と精神科医による審判で入院や通院を強制するしくみだが、これが類似事 件の予防にどれだけ役立つかは疑問がある。事件の背景になった司法・医療の本 当の課題は、まだ改革がないまま残されている。(科学部・原 昌平) 立法化を加速したのは小泉首相の事件直後の発言だった。「精神的に問題のあ る人が逮捕されても、また社会に戻ってひどい事件を起こす」。宅間守被告に精 神病の診断歴があったこと、二年前に勤務先の伊丹市の小学校で起こした薬物混 入事件で逮捕されながら不起訴になり、措置入院も短期で解除されたことを念頭 に置いたものだった。 この方向で作られた新法は、心神喪失や心神耗弱の状態で事件を起こした者に 手厚い治療を行うことで再発を防ぎ、社会復帰を促進するとした。主に精神病に 伴う妄想や幻聴による事件を想定した制度といえる。 だが被告は刑罰を免れるために「詐病」を重ねていたことが捜査・公判で明ら かになった。過去に精神病の病名をつけた医師たちも以前の診断を否定した。 教訓の第一は、精神科医の診断や検察段階の簡易鑑定のいい加減さであり、と くに伊丹事件やその後の様々な事件できちんと処罰していれば、凶行を防げたの では、との見方は強い。 しかし簡易鑑定や検察の事件処理の抜本改革はないし、新法では検察が不起訴 にした場合も対象になる。鑑定や審判で事後的に一応チェックされるとしても、 裁判すべきケースが新制度で安易に医療側へ送られないかという懸念がある。 第二の問題は「人格障害」と呼ばれる性格・気質が極端に偏った人たちへの社 会の対応が確立していない点だ。人格障害なら病気ではなく、刑事責任能力が基 本的にあるとされるので、新法の対象にはならず、医学による治療も難しい。 その意味で新法の枠組みは、今回のような事件と焦点がずれている。人格障害 による重大犯罪を防ぐには、医療よりも心理的な援助や訓練が、地域でも刑務所 ・少年院でも必要だろう。 第三に新法は再犯防止という事後対策にすぎない。精神病の場合も含め、不幸 な事件や自殺を防ぐ本来の手だては、安心してかかれる地域医療、いつでも利用 できる救急医療、生活の安定、そして孤立の防止だ。 新法の施行は来年度以降だが、病院への閉じ込めや偏見を拡大して生きづらく しては逆効果になる。運用には細心の配慮が必要だし、貧困すぎる精神医療・福 祉の底上げに、国が本気で取り組むことこそ肝心だ。 ◆「殺人者の精神科学」などの著書がある臨床心理士、矢幡洋さんの話 「被告は性格に起因するトラブルや事件を何度も起こし、自分から助けを求めた 時期もあったのに、誰も適切に対処できなかった。人格障害は医療の対象ではな いし、精神科医は薬物療法中心で、カウンセリングの訓練は受けていない。米国 では初犯の場合や非行少年、児童虐待した親などに、服役の代わりに心理教育プ ログラムやグループ学習に参加させる制度がある。そういう方法も考えるべきだ」 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 以下は、判決前に社会部で書いた連載のうち、精神医療に関する回です。 ■連載[凶行の記憶](3)精神科医 カルテに「統合失調症」/“詐病の連鎖”断てず 2003/08/23 大阪読売朝刊2社面 大阪教育大付属池田小事件の現場検証があった二〇〇一年七月二日。大阪府警 の捜査員二人が府内の病院を訪ね、精神科の医師(46)に黄ばんだカルテを差 し出した。「私の字です」。医師は驚きの声を上げた。 患者は宅間守被告(39)だった。大阪市内で婦女暴行事件を起こした一か月 後の一九八四年十二月、逮捕を恐れて兵庫県伊丹市内の精神病院に入院している。 その時のカルテだ。 「あの男を、本当に自分が診断したのか」。半信半疑のままカルテに目を落と した。そう言えば……。大柄な男の姿が浮かんだ。 「車を運転していると、対向車がわざと接触してくるような気がする」と、し きりに訴えていた。しかし、問診では行儀が良く、おとなしかった。だから、印 象に残らなかったのだ。 当時、研修医として週二回、患者の診察にあたっていた。宅間被告が入院した 数日後、院長から主治医を任せられた。 診察の結果は「不安神経症」。いわゆるノイローゼである。ところが、知らな い間に、院長が病名を「精神分裂病(統合失調症)」に変えた。医師は間もなく それを知ったが、問いただす立場になかった。被告の治療歴に、初めて統合失調 症が記録された。 ◇◆ なぜ、病名が書き換えられたのか。昨年三月、付属池田小事件の公判に証人と して出廷した院長は、こう証言した。 「私も統合失調症ではなく、情動障害か不安神経症と思ったが、治療で投与し た抗精神病薬などの薬剤が保険審査に通るように変更した」 宅間被告に投与された抗精神病薬に、「ハロペリドール」がある。この薬が保 険の適応を受けるのは、統合失調症とそう病に使われた時だけだ。 薬剤ごとに保険適応できる病名が決まっている。それを「保険病名」と言う。 国が定めるものだが、医療関係者によると、病名があまりにも限られており、 精神医療の現場では、実際の病名を保険病名に変えて保険請求するケースが多い。 このため「実態にそぐわない」と保険診療のゆがみを指摘する声は強いという。 ◇◆ 宅間被告は、八四年十二月に入院した伊丹市内の精神病院で年を越した。元日、 院長にボソリと尋ねた。 「ここに入院している患者は、人を殺しても物を盗んでも、責任を問われない のか」 付属池田小事件で捜査段階の精神鑑定を担当した「かしば医院」(大阪府枚方 市)の樫葉明院長は「あの時、『事件を起こしても、精神病院に入院すれば捜査 から逃れられる』と、確信したに違いない。後の彼の犯罪につながる詐病の原点」 と語る。 九九年三月、被告が伊丹市の小学校で薬物混入事件を起こし、逮捕された後、 措置診察した精神科医は統合失調症の治療歴に引きずられ、「観察の必要がある」 と判断した。被告は措置入院となって起訴を免れ、二年後の付属池田小事件では 精神障害を装った。 ◇◆ 「十九年前のあの入院が、大量殺人につながったということでしょうか」。被 告の主治医だった医師は、複雑な表情を見せた。 宅間被告は八一年三月から二〇〇一年五月の間、精神病院への入通院を繰り返 し、四人の医師が統合失調症と診断した。このうち、院長を含む三人が証人とし て法廷に立った。いずれも「本当は人格障害だと思った」と証言。二人は、最初 の院長の診断を否定できなかったという。 だれかが、被告の“詐病の連鎖”を止められなかったのだろうか。それを問い かける取材には、四人とも応じなかった。 ……………………………………………………………… <付属池田小事件直前までの宅間被告の主な入通院歴と病名> 診察・入院など 診断 1981年 3月 兵庫県伊丹市の病院に来院 重症の神経症 84年12月 同病院に入院。抗精神病薬 不安神経症から、統合失調症 〜85年 1月 の投与 に変更 2月 婦女暴行事件(84年11 統合失調症 月)で大阪府警の捜査照会 に同病院が回答 8月 婦女暴行事件で措置診察 統合失調症と人格障害の境 界。入院不要 94年 1月 大阪府吹田市の病院に来院 神経症 96年12月 兵庫県加古川市内の病院に 不安神経症 来院 98年12月 吹田市の病院に来院 人格障害 99年 3月 薬物混入事件を起こして逮 統合失調症の印象 捕。直後に不眠を訴え、伊 丹市の病院で診察 4月〜5月 兵庫県西宮市の病院に措置 統合失調症の疑い 入院 8月 吹田市の病院に再来院。投 統合失調症の症状なく、投薬 薬を依頼 断る 2001年 4月 大阪市の傷害事件(00年 人格障害 10月)で府警からの捜査 照会に西宮市の医師回答 5月 兵庫県川西市の暴行事件 妄想性人格障害 (01年2月)で検察庁の 照会に西宮市の医師回答 ……………………………………………………………… ◆心神喪失者医療観察法の成立 宅間被告に措置入院歴があったことから、付属池田小事件は、今年七月の「心 神喪失者医療観察法」成立のきっかけにもなった。 現行の措置入院制度は、重大な犯罪を犯した精神障害者が不起訴になると、刑 法から切り離され、精神保健福祉法に基づいて医師が入院か否かを決める。処遇 は医師に任せられ、退院後の再発防止策が欠落しているとの指摘があった。二年 以内の施行が予定されている新法の柱は、この刑事司法と精神医療のはざまを埋 め、処遇を医師と裁判官の合議で判断する点だ。 事件で女児を失った父親は「重大犯罪を犯した精神障害者に、司法が一定の関 与をする新法は評価できる」と話している。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ="0902"> ◆あくまで患者の味方 病院の中に相談室 医療の質 向上目指す 2003/09/02 読売新聞朝刊・安心の設計面 Date: Mon, 15 Sep 2003 00:11:06 +0900 From: HARA SHOHEI Subject: [mhr:2225] 記事・患者アドボカシー 医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。 --------------------------------------------- 原@大阪読売です。 (重複受信の方はすみません。以下、営利サイトも転載可) 一般医療における院内アドボケイトに関する記事です。ご参考に。 患者アドボカシーの制度化は、医療改善の非常に重要な手だてと考えています。 記事全文は、HPにあります。 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an390201.htm ■あくまで患者の味方 病院の中に相談室 医療の質 向上目指す 2003/09/02 読売新聞朝刊・安心の設計面 「アドボカシー」という言葉をご存じだろうか。不利な立場にある人々の側に 立って権利を守る活動のことだ。医療の場では、患者の立場は弱い。不満や疑問 があっても直接言いにくく、言っても改善されないことがある。そこで「患者ア ドボカシー」、すなわち「患者の味方」という姿勢を明確にした相談室を設ける 病院が出てきた。患者、医療者の双方から医療の質の向上につながると注目され ている。(大阪本社科学部 秦 重信)・・・・・・・ ■関連サイト ◇記者の視点4「患者アドボケイトの導入を」(原昌平) http://www.arsvi.com/0p/r.htm ◇岡山旭東病院 http://www.kyokuto.or.jp/www/libraly/gakkai/libraly2003.htm ◇週刊医学界新聞・アメリカ医療の光と影(李啓充氏) http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1999dir/n2329dir/n2329_02.htm#00 http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1999dir/n2331dir/n2331_04.htm#00 http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1999dir/n2333dir/n2333_04.htm#00 http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1999dir/n2335dir/n2335_02.htm#00 ◇「アドボカシー」の日本語訳を作ろう(長崎大・山野辺裕二さん) http://member.nifty.ne.jp/yamnobe/docs/advocacy.html ■精神科領域については、以下の記事・サイトをご参照下さい。 ◇読売新聞・安心の設計・シリーズ精神医療(4) http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an1c2501.htm ◇医療改善ネットワーク webzine 第4号 http://www.mi-net.org/webzine/0202/0202_07.html ◇精神医療にオンブズマン制/権利擁護へ公的支援 http://homepage2.nifty.com/whitehole/db/4book/020108yomi.html ◇NPO大阪精神医療人権センター http://www.psy-jinken-osaka.org/onbuzuyoukou.htm REV:...20030805,10 1123 ◇原昌平 ◇精神障害 ◇WHO |