◆2002/02/01・02・04 [奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院
大阪読売夕刊
◆2002/03/09 「精神医療 「収容」から地域へ転換を。――WHOが日本に勧告 病床数、数も人口比も世界一」
『読売新聞』2002-03-09 大阪朝刊2面
◆2002/05/21 [シリーズ精神医療](7)偏見をなくすには
『読売新聞』2002-05-21朝刊・安心の設計のページ
◆2002/07/18 被害者の妻として 加害者の母として /精神病の息子 夫を刺殺
あす議員シンポ 苦悩の体験語る/「事後対策より予防を」
2002・07・18 大阪読売夕刊2社面
◆2002/10/12 野宿者「路上死」年213人 大阪市内 餓死18・凍死19人 /府立大教授ら初の実態調査
2002・10・12 大阪読売夕刊1面
◆2002/11/ 「「心神喪失者医療観察法案」がもたらすもの――医療現場はどう変わるのか」
『ナーシング・トゥデイ』2002年11月号(日本看護協会)
http://www.jnapc.co.jp/
◆2002/12/07 精神病院なくしたイタリア 地域のサポート体制充実
イタリア・トリエステ県精神保健センター副所長、医師 ブルーノ・ノルチョさん(57)
2002/12/07 大阪読売健康面
Date: Mon, 15 Jul 2002 23:49:35 +0900
Subject: [mhr:2001] 記事・山口県立病院に改善命令
医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
---------------------------------------------
原@大阪読売です。
[略]
(以下、非営利サイト転載可)
<以下、女性不審死のもとの記事です。以前との重複はご容赦を>
◆女性不審死、山口の精神病院 両親の面会を半年間拒否
死亡後カルテも開示せず
02/01/13: 大阪読売朝刊2社面
山口県立精神病院「静和荘」(宇部市)で一昨年五月、入院中の女性(当時二
十七歳)が不審死した問題で、女性の両親が入院から半年間も面会を拒否されて
いたことがわかった。家族の同意に基づく強制入院(医療保護入院)だったが、
病院側は死亡後のカルテ開示も「県の方針で遺族は対象外」と拒否していた。
女性は九九年十月に入院。最初の一か月は保護室に隔離され、「動物じゃない
からオリに閉じこめないで」と連日訴えていた。
両親は週一―三回、病院を訪ねて面会を希望。しかし主治医の副院長は、女性
が病室に移った後も「もう少し様子を見てから」と渋り続けた。
翌年四月の初面会で女性は両親に抱きつき、手を離さなかったが、一か月後に
急死した。カルテは閲覧に限って一日だけ応じた。
父親は「治療を受けさせる責任を家族に負わせながら納得できない」と閉鎖性
を批判。副院長は「他の患者と接した時の病状が不安で隔離が長引いた。面会は
強く禁止する気はなかったが、ずるずる遅れて反省している」と話している。
原@大阪読売です。
大阪・箕面ヶ丘病院の実態について、連載記事を載せています。
大阪本社発行の夕刊のみで計3回です。
…(略)…
*以下、非営利サイト転載可
■[奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載上)
「ポチ」と呼ばれた患者
10年ひもでつながれ 医師「人手あれば…」
2002/02/01: 大阪読売夕刊2社面
「ポチ」と呼ばれていた男性(59)に会った。様々な人権侵害が明るみに出
た大阪府箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」に入院していた患者だ。大勢が出入
りするデイルームの一角に、ひもでつながれたまま寝起きし、用を足すのもポー
タブル便器。そんな違法拘束を十年近く受け、昨年八月に府の抜き打ち調査で問
題が発覚、ようやく転院した。同病院は患者全員の転退院が終わり、一日、保険
医療機関の指定取り消し処分を受けたが、奪われた歳月と人間の尊厳には何の償
いもない。(科学部 原昌平)
◆半径2メートルの生活
窓の鉄さくから腰に延びた二メートルほどの白い布ひも。その届く範囲が男性
の動ける空間のすべてだった。リノリウムの床に畳一枚と布団が敷かれ、食事は
便器のふたの上で食べた。ひもが外されるのは、たまの入浴と行政の立ち入り調
査の時ぐらい。それでも温和な男性に、他の患者は「ポチ、元気か」と冗談半分
で声をかけた。
入院は二十数年前。精神分裂病との診断だった。法的には退院も外出も自由な
任意入院なのに、「乾電池や鉛筆など目についた物を口に入れる」という理由で
つながれていた。両腕が動かせない拘束衣を着せられた時期もあったという。
拘束には、精神保健指定医の診察とカルテ記載が法律上欠かせないが、何の記
録も残っていない。だから違法拘束の期間も正確にはつかめないが、関係者によ
ると、十年前に異物を飲んで開腹手術を受けたあとは続いていたという。
◆あきらめ
同病院は医師、看護婦とも法定基準の約半分という極度のスタッフ不足。状態
の悪い患者を隔離する保護室もなかった。西川良雄院長は、患者が大声を出した
りすると「何とかしろ」と、よく職員に命じていた。
週一回、当直に来ていた医師は「人手があれば個々の患者に気を配れて、拘束
せずに済むのにと思いつつ、言っても変わらないとあきらめていた」と語る。
男性は生活保護で入院していた。長期入院になると、福祉事務所のワーカーは
めったに訪れない。身寄りがなく、病院に苦情を言う家族もいなかった。
同病院に長く勤めた職員はこう振り返る。「昔、府に内部告発した職員もいた
が、だれが言ったか病院に伝わっただけで、何の手も打たれなかった。当初は何
とかしたいと思ったけれど、めげてしまった」
◆償いの手立ては
転院先で面会した男性は愛想よくほほ笑んだ。しかし病状の影響なのか、言葉
はなかなか出ず、生年月日と出身地を聞き取るのがやっと。院内の生活は普通に
でき、異物を口にする行動も今はないが、何かを説明したり、意思表示したりす
るのは難しいという。
「民事訴訟は本人の意思が原則。後見人を立てるにもハードルが多くて……」
と、障害者問題に詳しい弁護士はため息をついた。
西川院長は、職員水増しで不正受給した診療報酬の返還請求と、精神保健指定
医の資格取り消し処分を受ける見込みだが、刑事責任を問う動きはない。読売新
聞の取材申し入れには応じていない。
◇写真=違法拘束が行われていた箕面ヶ丘病院。樹木で外側が覆われ、内部は見
えない(箕面市稲5)
◇図=箕面ヶ丘病院の元職員が描いた男性の拘束の様子。こうした形で10年近
く病棟デイルームにつながれていた。「ポータ」はポータブル便器
■診療報酬不正受給 「箕面ヶ丘病院」の保険指定取り消し
/大阪社会保険事務局
02/02/01: 大阪読売夕刊2社面
大阪社会保険事務局は一日、診療報酬を不正受給していた大阪府箕面市の精神
病院「箕面ヶ丘病院」(百二十八床)の保険医療機関の指定と西川良雄院長の保
険医登録を取り消す処分をした。
同病院は医師、看護職員数を水増しし、実態より単価の高い入院基本料や食事
療養費を得ていた。不正額が確定すれば40%のペナルティー付きで返還を求め、
患者側の自己負担分の差額も返還を指導する。
■ [奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載中)
触診もせず「大丈夫や」/分裂病の治療薬1種類だけ 「30年前のまま」
2002/02/02: 大阪読売夕刊夕B面
◆腸閉そく、転院せず
昨年十二月、箕面ヶ丘病院(大阪府箕面市)に入院していた八十歳前後の男性
患者が、異常なおう吐を繰り返し、腹痛を訴えた。
西川良雄院長は、患者に触りもせず「大丈夫や。様子を見ろ」と言い、行われ
たのは栄養液の点滴だけ。二日後、非常勤の内科医が聴診とエックス線撮影で腸
閉そくと診断、転院を求めたものの、院長は「必要ない」と主張した。
その後も、痛み止めと吐き気止めを別の当直医が院長の了解を得ずに出した程
度。「痛い、痛い」と訴え続けた男性は、異臭のする液体を吐くようになり、六
日目に息を引き取った。老人性痴ほうだが、元気に歩いていた人だった。
以上は、複数の看護職員が証言した経過だ。
この種の腸閉そくは、鼻からチューブを入れ腸の内容物を取り出し、それでも
悪化すれば手術が基本。どちらも転院しないと不可能だった。家族は「ここでで
きる範囲の治療でいい」と病院に伝えていたという。
「あんなに苦しんで。『終末医療』ともいいようがない」と職員は憤る。
◆熱には風邪薬
昨年八月に府が指導するまで、詰め所にはカルテも看護記録もなく、看護職員
たちは、患者の病名も家族関係も薬の処方もよくわからないまま働いていた。
院長の回診はなく、病棟の二、三階へ上がることもめったにない。体調の悪化
した患者がいると一階に運ぶが、ひと目見ただけで「はよ連れていけ」。熱を出
したら一律に風邪薬、高熱でも「水は飲ますな」、腹痛でも「メシは食わせろ」。
解熱剤を出しましょうかと聞くと「お前は医者か」とどなられた。職員たちはそ
う証言する。
◆物言わぬバイト医
精神分裂病への処方は、最初に開発された治療薬のクロルプロマジンばかり。
他の病院の精神科医は「まるで三十年前のまま。薬の量は少ないが、どの患者に
も画一的だった」と驚く。
院長以外の医師は何をしていたのか。患者はひと月に一、二回、副院長の診察
を受けたが、「調子はどうですか」などと聞かれる程度。一分ほどで終わってい
たという。
当直のアルバイトに来ていた兵庫医大、大阪大などの医師もあまり意見は言わ
なかった。「明らかに内科の病気でも『精神症状のせいや。様子を見ろ』と院長
は言い張った。こちらはしょせん当直ですし……」と一人は打ち明けた。
大阪府医療対策課は「(ずさん医療や事故がいくらあっても)医療法上、個々
の中身に行政は口を出せない。病院と患者、家族の間で解決してもらうしかない」
という姿勢だ。
■[奪われた歳月]大阪・箕面ヶ丘病院(連載下)
隔離収容が作る「無気力」
手紙は燃やされ、公衆電話もなく/半数が入院20年超
02/02/04: 大阪読売夕刊夕B面
◆おとなしすぎて…
「『指示待ち人間』というのか、こうしなさいと言えば何でも『ハイ』。買い
物を勧めても自分では選べない。病状は軽く、会話は十分できるのに、意欲がな
く自己主張に乏しい」
箕面ヶ丘病院(大阪府箕面市)から、三人の転院患者を一月に受け入れた民間
病院の院長はそう話す。
別の病院へ移った四十代の男性も似た状態だ。二十三年いた箕面ヶ丘病院への
不満を尋ねても、現在の要望を聞いても、出てこない。母親は「一生預かって下
さい」と言った。
「息子が邪魔なのではなく、精神病院はそんな所だと思っている。病院が社会
復帰に取り組むなんて想像もしなかったようです」とスタッフは当惑する。
◆31年目の自由
箕面ヶ丘病院に昨年八月時点で入院していた百二十一人のうち、ほぼ半数は在
院が二十年を超えていた。
病棟では「看護人」と呼ばれる無資格の男性三人が目を光らせていた。外出は
できず、娯楽や運動、日光浴の機会もなく、ベッドで寝るかテレビを見て過ごす。
掃除、配ぜん、体の不自由な患者の食事・入浴介助といった院内労働だけが、た
ばこなどと引き換えに用意されていた。
三十一年前、病院ができた年に入院した男性(69)は毎年、府が立ち入り調
査に来る日に小型バスに乗せられた。行き先もなく走り回るバスは「余計なこと
を言わせないため」だった。
「いくら手紙を出しても相手に届かない。燃やされたと後から聞いた」が、調
査の日だけは病棟に公衆電話が置かれた。残った患者には「自由にかけられます、
と答えるんやで」と西川良雄院長が言い含めた。
転院先では開放病棟。ほぼ毎日外出する。「自由の実感はわかないけれど、こ
の病院も早く出て、残された時間を生かしたい」
◆医療の名の下に
長い歳月を経てなお反発心を持ち続けた彼のような患者は珍しい。
府の改善指導を受けて昨年秋、散歩や買い物に出た患者の多くは、同行した看
護婦に幼児のようにしがみついて離れなかった。「外の世界がこわいんですよ」
と看護婦は言った。
「収容所症候群」という言葉がある。ナチスの強制収容所や刑務所の無期囚な
どで報告された現象だ。期限なき隔離収容は、無気力、無関心で、管理に従順な
人間をつくるという。
日本の精神病院の入院患者は三十三万人。その半数は入院が五年以上、二十年
以上も五万人にのぼる。
「意欲の低下や自閉傾向は精神分裂病の慢性症状とされるが、病院収容がもた
らす影響も大きい」と黒田研二・大阪府立大教授(地域保健福祉)は指摘する。
医療の名の下に人生を奪われているのは、箕面ヶ丘病院の患者だけではない。
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◆2002/03/09 「精神医療 「収容」から地域へ転換を。――WHOが日本に勧告 病床数、数も人口比も世界一」
『読売新聞』2002-03-09 大阪朝刊2面
Date: Sat, 09 Mar 2002 20:48:22 +0900
Subject: [mhr:1925] 記事・WHOが日本の精神医療改革を勧告
医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
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原@大阪読売です。(重複受信の方はごめんなさい)
次々に問題案件が起きますが、
たまには、少し希望の持てる記事を。
WHOの精神保健のプログラムの方向は、
精神疾患の社会的負担の大きさの重視、社会資源の投入の拡大、
1次医療を中心とした地域保健医療サービスの重視、一般医療との統合、
様々なパートナーとの連携、教育訓練の見直し、などです。
これまで日本の病床数の世界比較は、OECD統計しかなく、
ロシア、中国、インドの数字がわからなかったので、
「先進国で最大」「世界でも飛び抜けて多い」などと書いてきたのですが、
今回初めて世界全体の国別データが出て、
やはり絶対数でも世界最多とわかりました。
ちなみにインドは2万5000床程度です。
(以下、非営利サイト転載可)
◆精神医療 「収容」から地域へ転換を。
WHOが日本に勧告 病床数、数も人口比も世界一
2002・3・9 大阪読売朝刊2面
世界保健機関(WHO)は八日、日本の精神医療について、病院収容から地域
医療への転換を緊急に進めることなど五項目の勧告をまとめ、サラチーノ精神保
健・物質依存部長が千葉市で開かれた日本社会精神医学会で明らかにした。すで
に厚生労働省幹部に伝えており、追って文書でも政府に届ける。長年の課題であ
る隔離収容中心の精神医療体制の改革が国際的にも迫られたことになる。
サラチーノ部長は、日本の精神病床(約三十四万床)が人口比でも絶対数でも
世界最大であることを指摘し、「人材や資金などの社会資源はあるのに、有効に
使われていない」と批判。精神病院のベッドを減らし、退院後の受け皿を準備し
ながら外来や訪問などの地域医療へシフトするよう求め、「これは緊急の課題だ。
十年かかるかも知れないが、すぐ始める必要がある」と強調した。
さらに▽当事者や家族、非政府組織、市民が患者の権利擁護活動などに参画す
るようにし、医療をオープンにする▽生物学的な精神医学だけでなく、社会的分
野の研究を重視する▽心理専門職の位置づけを明確にする▽アジア諸国の精神保
健への協力----を求めた。
WHOが昨年初めてまとめた世界の精神保健統計では、日本の精神病床は世界
全体(百八十五万床)の18%を占め、すでに地域医療へ転換した欧米諸国はもち
ろん、ロシア(十七万床)や中国(十三万床)よりも多い。
◆◆◆ 原さんより
原です。
とりあえずお知らせだけ(重複受信の方には失礼します)。
きょう21日付けの読売新聞朝刊・安心の設計のページに
「シリーズ精神医療7・偏見をなくすには」があります。全国通し。
大阪池田の支援センター、高知、千葉、福岡などの話を載せているので、
関心があれば、ご利用ください。
オンラインでも読めます。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/index.htm
(記事は非営利サイト・印刷物に転載またはリンク可)
●[シリーズ精神医療](7)偏見をなくすには
『読売新聞』2002-05-21朝刊・安心の設計のページ
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/index.htm
*以下は上掲のホームページより。写真、グラフなど抜けています。直接、上掲のホームページをご覧ください。
◆隔離収容や知識不足が「危険」の見方助長
精神障害者に対する否定的イメージは根強い。社会復帰施設の建設に周辺住民が反対する「施設コンフリクト」も絶えない。しかし、国民の60人に1人は心の病を抱えている。ほとんどはおとなしく、きまじめな人たちで、事件を起こすのはごく一部にすぎない。偏見や差別はなぜ生まれるのか、どうすれば解消するのか。様々な取り組みから探った。(原昌平、小山孝)
昨年6月、大阪府池田市の大教大付属池田小で起きた児童殺傷事件では、「精神障害者による犯行」という当初の報道で、心の病を持つ人を危険視する風潮が強まった。
その池田市に今年4月、精神障害者の地域生活支援センター「咲笑(さくら)」がオープンした。登録メンバーは40人余り。思い思いの時間に来て仲間とくつろぐ。
「外から見てわからない病気だから、ナマクラ病みたいに言われてつらい。ここでは本当に打ち解けて過ごせる」と利用者の平田光代さん(64)。
倉田薫市長は事件後、作業所を激励に回り、「咲笑」開設にあたっては基本資産の約半分を市から援助した。「センターや作業所に通う人は、いつもケアされているのだから大丈夫。むしろ通う所もなく孤立する方が問題で、こういう施設を増やすことが事件を防ぐことにもなるんです」
大阪市内では近年、支援センターの開設に住民が数百本のノボリを立てて反対するケースが相次いだが、池田では反対は出なかった。施設長の野田美紗子さんは「勇気を持って病気を語れるようになれば、市民の意識もさらに変わる」と期待する。
福岡県大任町の町立大任小では昨年7月から、5年生が総合学習の時間に町内の授産施設「のぞみの里」の利用者と交流会を開いている。
昨年春に学校側が企画。準備を始めた直後に池田小事件が起きたが、まず教員十数人が施設を訪問し、精神障害について学んだ。精神病に薬が効くと知らなかった先生もいた。
交流会は学校や町内の畑などで計4回行われ、サツマイモを収穫し、作ったお菓子を味わった。児童には「精神障害」という言葉は避け、「心の病気」と柔らかく説明した。
佐藤ひとみ校長は「知識より、交流して楽しかったという経験が大事。それが子供たちの今後の人生で生かされるはず」と考える。
交流の後、施設を利用する男性(24)がジョギングしていると、車で通りがかった児童と母親に声をかけられ、感激したという。
だが、こうした交流はまれだ。学習指導要領は、中学・高校の保健体育で、感染症や生活習慣病の予防、ストレスへの対処法などを教えるよう求めているが、精神病は対象外。精神分裂病に触れた教科書は1冊もない。
◆相互交流や情報公開が理解への第一歩
千葉県東金市の浅井病院が毎年5月に開催する「はんてん木まつり」には、住民5000人が集まる。入院患者やデイケア利用者がステージで歌い、模擬店を出す。
院内は見学自由。隣接する小学校の児童は写生や庭掃除に訪れる。患者の入退院状況などを載せた分厚い年報も地域に配っている。
池田小事件の後、「患者が院外に出て大丈夫か」という声が地域で出た時には、心配する児童の親を文化祭に招いて、院内を見てもらった。
隔離収容が中心だった日本の精神医療。鉄格子つきの病棟に患者を閉じ込めることが「危険な存在」という見方を助長した。
浅井邦彦理事長は、「情報の公開が重要だ。治療すれば治る人が多いことを知ってほしい」と言う。
「人が生涯に1度でも精神障害になる確率は25%」。WHO(世界保健機関)はそう訴えている。だが地域生活の拠点づくりはなかなか進まない。埼玉県春日部市では、「医療法人社団双里(ふたざと)会」の社会復帰施設建設計画が、1997年からストップしたままだ。
「教育、生活環境が悪化する」「ダメージは計り知れない」。近隣住民が県へ提出した要望書に、埼玉弁護士会は「差別的表現が含まれ、人権侵犯のおそれがある」と配慮を求めたが、自治会長は「理解しろと言われても、中には事件を起こす人もいるんだから理解しがたい」と強硬姿勢を変えない。
「知らないから不安なのは理解できるが、知ろうとしないで反対するのは偏見ではないか」と双里会の川瀬典夫理事長は訴える。
一方、反対運動を乗り越えて地域に根を張る施設もある。高知市和泉町の通所授産施設「さんかく広場」では、天然酵母を使ったパンやクラッカーを焼いている。スーパーや自然食品店、保育所の給食などに毎日200―300袋を卸す。
材料の仕込みなどに腕を振るう西田好伸さん(26)は、「周囲の人が自分の悪口を言うという妄想があり、仕事なんて無理と思っていたけれど、自信がついてきた」と笑顔を見せる。
平たんな道のりではなかった。94年に市有地の無償貸与が決まったが、近隣の住民は「絶対反対」の看板を並べた。一方で「賛成」の署名運動も起き、町内会は東西に分裂した。
市の後押しもあって覚書を交わし、オープンして4年半。隣家の主婦(82)は「見たこともないから怖いと思って反対した。できてみると、あいさつもするし、普通に物を言う人たち。あんなに騒がんでもよかった」と語る。
長年、病院や社会の片隅に追いやられてきた精神障害者だが、「生活する姿、働く姿が見えることで理解が深まる」と武田広一施設長は強調する。
◆ ◇ ◆
犯罪との関連が判明しない
段階での病歴報道に疑問も
警察庁の統計によると、2000年の刑法犯検挙者約31万人(交通事故を除く)のうち、精神障害者、またはその疑いと警察が判断したのは2072人で0・67%。15歳以上の人口に占める精神障害者の比率(1・84%)より低い。
ただし殺人は9%、放火は16%で人口比より高いが、法務省によると、精神障害者による殺人は被害者の7割が身内で、無関係な人が被害者になるケースは多くないという。
事件との関係では、報道のあり方を問う声も強い。容疑者に精神障害の可能性があると、名前を伏せ、入通院歴を伝えるのが一般的だったが、全国精神障害者家族会連合会は「犯行との関連がはっきりしない段階で病歴を報道することが、偏見を広げている」と批判している。
稲沢公一・東洋大助教授(精神障害者福祉)は「偏見とは、物事を分かった気にさせる『楽なものの見方』。危険、不治、育て方や遺伝が原因――といった偏見は、有効な治療法がない時代に作られた。
そこに一部の人が起こす事件のショッキングな情報が加わり、『危険』という見方が、実態に反して強まってしまう」と分析する。
<教育と触れ合いが大事>
白石大介・武庫川女子大教授(ソーシャルワーク論)
「現実の精神障害者は、大半が純朴な人たちなのに、急性期の症状と、その伝え聞きから否定的イメージが強い。
当事者は自己表現が苦手なこともあり、民族問題などと同様、コミュニケーションしにくい少数者を排除する社会心理も働いている。
実像との差を埋めるのは、小さい時からの教育と当事者との直接のかかわり。マスコミも事件ばかりでなく、精神障害者の具体的な姿を伝え、ドラマや小説も含め、理解を深める努力をしてほしい」
2002年5月21日 東京読売朝刊
■被害者の妻として 加害者の母として /精神病の息子 夫を刺殺
あす議員シンポ 苦悩の体験語る/「事後対策より予防を」
2002・07・18 大阪読売夕刊2社面
精神病で心神喪失状態になった息子に夫を刺殺された京都府の女性が十九日、
東京・永田町の参院議員会館で開かれる「精神保健福祉の充実を求める超党派議
員と市民の会」のシンポジウムで、自らの体験と思いを語る。被害者の妻である
と同時に、加害者の母という複雑な立場の家族が公の場で発言することは異例。
触法精神障害者の処遇をめぐる法案が審議される中、病者と家族、被害者の苦悩
がどれほど理解されているかを問いかける。
森ちさとさん(58)はこの十年余、重い現実を背負いながら暮らしてきた。
息子が発病したのは学生時代。「道を歩く人がみんな僕を笑ってる気がする」
と打ち明けた。病院で神経症、やがて統合失調症(精神分裂病)と診断された。
通院で病状は軽くなり、アルバイトにも出かけていたが、ある日から石のよう
に黙り込んだ。目に緊張感が漂い、夫の首を竹製の物差しで切るそぶりをした。
病院に電話したが、主治医は「薬を飲みなさい」と本人に指示しただけ。数日
後、説得して病院へ連れて行った。「限界です。入院させて下さい」。けれども
医師は「空きベッドがない。長く効く薬を注射するから様子を見て」と告げた。
悲劇は翌日起きた。夫は包丁で刺されて死亡、ちさとさんも傷ついた。逮捕さ
れた息子は「父をハトに変えるためだった」などと話した。精神鑑定で刑事責任
能力はなかったと判断され不起訴、措置入院。
鑑定書は検察庁に頼んでも見せてもらえなかった。「とても責任を負える精神
状態ではなかったのは確か。でも、なぜ事件を食い止められなかったのか。その
検証は何もないんです」
二年後、息子は病院の五階から飛び降り、重傷を負った。面会時の表情を見て
「事件の前に似ている。注意して」と病院に頼んでいたのに、手だては取られて
いなかった。
精神障害者の犯罪率は一般より低い。殺人の被害者の七割は身内が占め、八割
以上は初めての事件だ。一方、継続審議になる見通しの政府案は、重大事件の再
犯防止に限定している。
「起きた後の対策より最初の事件を防いでほしい。症状が軽い時からかかれ、
悪化した時にきちんと応える医療。牢屋のような保護室も改善して、心休まる病
院にしてほしい」
息子は今も別の病院に入院中。ずいぶん良くなり、面会に行くといろんな話を
する。早めに社会復帰させなければと思う。
政府案の強制入院先は、触法患者だけの特別施設。
「事件の時は心神喪失でも、急性症状が収まれば他の患者と違わない。本当に
十分な治療があるのか。社会から切り離され、見捨てられないでしょうか」
ちさとさんは、そんな気持ちも議員らに伝える。
◇写真=「本当は思い出すのがつらい」。そんな気持ちを振り切り、森さんは永
田町へ出向く
◆参考「サイラブネット」について(ご存じない方へ)
触法精神障害者隔離法案に反対する運動のメーリングリストがあります。
下記シンポの呼びかけ人などを中心に、意見・情報の交換がなされています。
登録希望者は、氏名、所属、電話連絡先などを「明記」して、
伊賀興一弁護士(大阪)へメールを送って下さい。
oio@k9.dion.ne.jp
="20021012">
*医療と人権メーリングリスト mhr からの配信
原@大阪読売です。(複数ML受信の方はすみません)
もう1つ。少し前に載せた記事ですが、これも日本公衆衛生学会での発表です。
以下のような状況を放置しておくなら、何が医療かと思います。
(以下、非営利サイト転載可)
◆野宿者「路上死」年213人
大阪市内 餓死18・凍死19人 /府立大教授ら初の実態調査
2002・10・12 大阪読売夕刊1面
大阪市内の路上や公園などで遺体で発見されるか、病院へ運ばれた直後に死亡
した野宿生活者が2000年で213人にのぼり、餓死が18人、凍死が19人
もあったことが黒田研二・大阪府立大教授(公衆衛生)らのグループの調査でわかっ
た。ホームレス問題の深刻化に伴う大都市の「路上死」の実態が判明したのは全
国で初めて。毎年、同様の状況が続いているとみられ、医療と福祉の抜本的な対
策を求める声が強まりそうだ。
黒田教授と逢坂隆子医師らは、大阪市内で発生する「異状死」の死因解明にあ
たる府監察医事務所の死体検案記録を精査した。
野宿者(推定を含む)は213人。これに簡易宿泊所滞在者81人、家賃滞納で
追い立て中だった6人、救護施設入所者6人を加えた計306人(うち女性6人)
を広い意味でホームレス状態の人の不自然死と考え、内容を分析した。
救急搬送されたのは27%だけで、残りは死後の発見。死亡場所は路上90、
公園45、河川敷17、水中7などで、簡宿は71人。発見の遅れも目立ち、高
度腐敗、白骨化、ミイラ化が計33例あった。
平均年齢は56.1歳と比較的若く、最年少は20歳、最高は83歳。
死因は、病死が167人で55%を占めた。心筋こうそくなどの心疾患が62
人で最も多く、次いで肝疾患と肺炎が各22人、肺結核も19人を数えた。凍死、
栄養失調による餓死を含む不慮の外因死は53人。自殺は52人、他殺は少年グ
ループの暴行を含めて6人だった。
◇円グラフ
ホームレス状態の人の不自然死の原因
(2000年、大阪市内、計306人)
病死
心疾患 62
肝疾患 22
肺炎 22
肺結核 19
脳血管疾患 17
その他 25
不慮の外因死
凍死 19
餓死 18
自己・中毒など 16
ほか
自殺 52
他殺 6
死因不詳 28
(数字は人)
■「路上死」213人/孤立防ぐ援助必要/安心な医療の確保を
2002・10・12 大阪読売夕刊2社面
先進国の大都市でなぜ餓死、凍死するのか−−。初めて明らかになった大阪市
内の「路上死」の実態は、野宿生活の過酷さを見せつけた。死体検案記録を調査
した研究者たちは「医療を受けていれば命を落とさずに済んだケースも多い」と
指摘する。重症にならないうちに医療にかかれる手だて、孤立を防ぐ積極的な援
助が求められている。
餓死の18人は全員、凍死の19人も半数が明らかな低体重、つまりガリガリ
の状態だった。腹が減ったら何が何でも食べ物を探すはずと考えがちだが、研究
グループの的場梁次・大阪大教授(法医学)は「栄養失調になると体力と気力が低
下し、食べ物を求める行動さえできなくなる。目の前にあっても固形物は食べら
れなくなる」と言う。
長年、死体検案に従事する監察医の坂井芳夫さんは、肺炎、肺結核による死亡
の多さを嘆く。「高齢者ならともかく、野宿者は50歳代が中心で、普通なら肺
炎では死なない年齢層。肺炎も結核も、治療すれば治る病気なのに……」
問題点の一つは、通院医療が受けにくいこと。大阪市は他の主な大都市と違い、
通院に限定して生活保護を適用する「医療単給」を原則としてやらない。無料診
療に応じる病院も限られている。このため体調が悪くても医者にかかれず、病状
が重くなってから救急車で入院するケースが多い。
野宿者自身の生きる意欲や孤立の問題もある。
7月中旬、JR大阪駅前で野宿していた50歳代の一女性が病院へ運ばれた直後
に亡くなった。一か月ほど前から体のむくみがひどく、支援団体の女性が福祉事
務所の相談を勧めたが、「大丈夫」と応じなかった。ある夜、見かねて救急車に
乗せたが、手遅れだった。「他者との関係をうまく持てない野宿者はとくに心配
だ」とこの女性はいう。
NPO釜ヶ崎支援機構の松繁逸夫事務局長は「冬がまた近づく中、対策の遅れ
にあせりを感じる。体力の落ちた人への対策は最優先すべきだ。生活保護をきち
んとかけることが墓本。安心してかかれる医療の機会を確保してほしい」と話す。
武内貴夫・大阪市福祉援護担当部長の話「目の届かない人を減らすため、17
人の巡回相談員を今年度中にほぼ倍に増やす予定だ。医療は、福祉事務所に相談
すれば必ず何らかの形でかかれるようにする。民間団体や市民の協力を含めて対
策を強化したい」
◆大阪市内の野宿者の餓死=2000年(数字は年齢、カッコ内は所持金の記録)
1月 男56 北区の公園の段ボール内(38円)
2月 男67 長居公園のテント内(120円)
2月 男59 西成区の路上から救急搬送(1000円)
2月 男60〜70 西成区の公営住宅植え込み(ゼロ)
2月 男49 住之江区の路上の車両内(ゼロ)
3月 男65 西成区の地下鉄入り口そば、リヤカー横
4月 男60 都島区桜之宮公園のテント内
6月 男56 天王寺区の公園のテント内
7月 男83 西成区の路上。10日前に無断退院
11月 男65 天王寺区の高架下の駐車場内
11月 男66 東住吉区の路上の廃車内(1050円)
11月 男60 浪速区の水防碑そばのテント(661円)
11月 男50 西成区の歩道橋上のテント(23円)
11月 男59 天王寺区の路上のリヤカーの荷台
12月 男75 福島区の河川敷の段ボール(2000円)
12月 男67 中央区の駐車場内(130円)
※他に簡宿内、追い立て中の自室での餓死が各1人
◆以下は、スペースの関係で載らなかった分です。
【凍死】
1月 男60 西成区の公園で通行人が発見
1月 男52 西成区の公園のテント内
2月 男60〜70 天王寺区の寺の門前(110円)
2月 男40〜50 桜之宮公園のテント内(ゼロ)
2月 男64 大阪城公園内の路上
2月 男60 浪速区の歩道に敷いた段ボールの上
2月 男68 浪速区の路上(10円)
2月 男60〜70 西成区の公園に敷いた布団の上
2月 男60歳位 西成区の路上に敷いた毛布の上
2月 男65 浪速区の路上から搬送。本人が診察拒否
2月 男63 中央区の地下街から搬送(43円)
2月 女58 中央区の路上。タクシーが発見
3月 男40 西成区の路上の放置車両内(220円)
3月 男57 中央区の地下街入り口近くの路上
3月 男45 北区の路上から搬送中に死亡(ゼロ)
4月 男80 浪速区の路上から搬送(158円)
12月 男61 西成区の路上から搬送(110円)
12月 男64 中央区の路上から搬送(24円)
※補足(これも行数の関係で載らなかった分)
・身元判明率は77%。ただし家族と連絡がついたのは3分の1にとどまった。
・所持金は63%が3000円未満だった。
・地域別では、あいりん地区のある西成区47%を占め、次いで浪速、中央、北、
天王寺区の順だった。
・大阪市内の野宿者総数を仮に8660人(98年調査)とした場合、年齢分布
を考慮した野宿男性の死亡率(SMR)は、総死因で、全国の男性の平均の3・
56倍だった。個別の死因では、結核44・8倍、胃潰瘍8・6倍、自殺6・0
倍、肺炎4・5倍、肝疾患3・8倍、心疾患3・3倍。これは路上死だけで、ほ
かに入院後の死亡があるので、実際の野宿者の死亡リスクはさらに高くなる。
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◆2002/12/07 精神病院なくしたイタリア 地域のサポート体制充実
イタリア・トリエステ県精神保健センター副所長、医師
ブルーノ・ノルチョさん(57)
2002/12/07 大阪読売健康面
*原さんより
医療と人権メーリングリスト mhr からの配信です。
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原@大阪読売です。
イタリアの精神科医がこのまえ来日して、トリエステの実情を講演しました。
その概要を記事にしていますので、遅れましたが、ご参考に紹介しておきます。
大阪だけの掲載で、オンラインには出ていませんでした。
(重複受信の方はすみません)
(以下、非営利サイト転載可)
精神病院なくしたイタリア 地域のサポート体制充実
イタリア・トリエステ県精神保健センター副所長、医師
ブルーノ・ノルチョさん(57)
2002/12/07 大阪読売健康面
イタリアは精神病院を廃止しました。改革が遅れていた南部でも二年前になく
なった。大革命ですが、病院から地域へという世界的な精神医療の流れに沿った
ことです。
改革の先頭に立ったF・バザーリア医師(故人)は「精神病院は治療の場とし
て適切でない」と考えました。人権、自由、個人の自立を精神病院が制限してき
たからです。以前はイタリア全土で約十万人が鉄格子の閉鎖病棟に隔離され、患
者は全員、同じ服装で丸坊主だった。私物も持てず、作業療法の名目で院内清掃
などをやらされたのです。
バザーリア医師がイタリア北東部の港町、トリエステの公立サンジョバンニ精
神病院の院長になり、本格的な改革を始めたのは一九七一年。当時は入院患者が
千百八十二人もおり、90%が強制入院でした。
彼は「病名でレッテルを張るのをやめよう、個人を見つめ直そう」と訴え、ま
ず疾患別の病棟を出身地域別に変え、家族が協力的な人から退院を進めました。
作業は有給に変え、協同組合を組織した。次にアパートやグループホームへの退
院。受け入れ先のない人は空いた病棟をアパートに改造して住んでもらった。病
院を地域に開放するうち市民や芸術家の協力も増え、今では九つの協同組合で障
害者と市民がレストランやホテル、農業などを営んでいます。
七八年には「バザーリア法」が成立、精神病院の新設、新規入院が禁止された。
トリエステ県は最初に病院を閉鎖して、四つの地域ごとに精神保健センターを作
りました。県の人口は二十五万人で精神医療ユーザーは約三千人。各センターは
約三十人のスタッフで二十四時間の診療・相談体制をとり、急な入院用のベッド
も八床ずつある。地域に責任を持つので来所を待つだけでなく、医療を放置され
た人を積極的に探し、刑務所へも医療提供に出向きます。
救急医療、強制入院は総合病院で行います。強制入院は七日間(更新あり)で
医師二人の診断をもとに市長が決め、裁判所が事後審査しますが、七一年に百五
十件あった強制入院は九八年で三十六件に減った。自殺は五十人から四十八人で
変化がない。この間、精神保健医療スタッフの総数は半減し、コストも半分になっ
た。病院より地域医療の方が安く済むのです。
事件はどうか。イタリアには刑事事件を起こして責任能力なしとされた障害者
に対する保安処分制度があり、司法精神病院五か所に約千人が収容されているけ
れど、トリエステでは七一年に二十件あった保安処分が九八年はゼロ。十年間で
四人しかいない。精神病院を閉じて、事件はむしろ減っているわけです。
日本でも保安処分に似た法案が出ているそうですが、司法精神病院は人権上も
治療上も問題が多い。地域のサポートを充実すれば事件は減らせるのです。
(原 昌平)
◇ノルチョ医師は日弁連の招きで十一月に来日、京都、大阪、東京で講演した。
◇写真=「精神病院はいらない」と語るノルチョ医師(11月25日、大阪弁護
士会館で)
cf.イタリア