研究手帖
- 福尾匠 / 思弁的実在論における読むことのアレルギー
■『現代思想』47-2(2019-2) 2019/02/01
いまこそ「男」を問い直す
さまざまな社会状況の変化を受け、いま再び「男性学」が注目を集めている。男性が男性として抱える困難を真摯に見つめ直しつつ、しかしフェミニズムに対する不毛なアンチに陥る危険を注意深く避けながら、男性性のあり方を批判的かつポジティヴに思考する途はあるか。本特集ではセクシュアリティやコミュニケーション、教育、労働、福祉といった多様な観点から「男」なるものの来し方と行く末を思考する。
特集*「男性学」の現在――〈男〉というジェンダーのゆくえ
男が男を考えるということ
- 男性学・男性性研究=Men & Masculinities Studies――個人的経験を通じて / 伊藤公雄
- 日本における男性学の成立と展開 / 多賀太
- 男性学は誰に向けて何を語るのか / 田中俊之
マスキュリニティのゆくえ
- 「草食男子」から考える日本近現代史 / 深澤真紀 聞き手=清田隆之(桃山商事)
- “鏡”の中の俺たち――「女性の目に映る男の姿」をめぐる当事者研究 / 清田隆之(桃山商事)
- 暴力の遍在と偏在――その男の暴力なのか、それとも男たちの暴力性なのか / 中村正
- 男らしさの危機、あるいは危機の言説? / F・デュピュイ=デリ 訳=須納瀬淳
男性学とフェミニズム/クィア・スタディーズ
- CSMM(男性[性]批判研究)とフェミニズム / 海妻径子
- ラディカル・メンズリブのために / 杉田俊介
- ないことにされる、でもあってほしくない――「ゲイの男性性」をめぐって / 森山至貴
- とり乱しを引き受けること――男性アイデンティティとトランスジェンダー・アイデンティティのあいだで
/ 藤高和輝
承認という問い
- 生きづらい女性と非モテ男性をつなぐ――小説『軽薄』(金原ひとみ)から / 貴戸理恵
- 痛みとダークサイドの狭間で――「非モテ」から始まる男性運動 / 西井開
Men’s bodies that matter
- 新たなる男性身体の〈開発〉のために / 澁谷知美+金田淳子
- 自然の再来――フェミニズム、覇権的男性性、新しい唯物論 / S・ガーリック 訳=清水知子
- 男性原則の彼岸へ――男の現象学はどこまで可能か? / 稲垣諭
- 少女になること――新しい人間の誕生と救済の非対称性 / 黒木萬代
連載 瓦礫(デブリ)の未来
連載 科学者の散歩道
- 第五五回 科学で広がる世界と人々――想像を超えて / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-4(2019-3) 2019/03/01
「バラ色の未来」か「どん底」か――“人生の転機”スタディーズ!
芸能人、スポーツ選手、そしてサラリーマン……人はなぜ引退/卒業するのだろう。引退/卒業を決意するという経験の内実から、引退/卒業しないでぼちぼち続けることの効能、そして引退/卒業をめぐる制度まで。ジェンダーや労働問題、教育問題、世代間問題などの観点から議論する。
特集*引退・卒業・定年
討議T
- 理にかなわない生存――芸人×ライターの続け方 / 山田ルイ53世+武田砂鉄
芸能引退論
- ヘヴィメタルバンドに見る「辞める辞める詐欺」の有意性 / 武田砂鉄
- そして再び、アイドルグループは「学校」になった――引退/卒業のアイドル史 / 太田省一
学業と「卒業」
- 学校の働き方改革と卒業――部活動の持続可能性から考える / 内田良
- 卒業は実在しない――学び続けるパートナーたちのために / 逆卷しとね
「定年」と「引退」
- 定年後と高齢アンダークラス――「自己責任論」の新展開から問い直す / 橋本健二
- フリーランスに「引退」はあるのか――漫画家・編集家・ライターの未来 / 竹熊健太郎/古川美穂(聞き手)
- 経営者は、引退できるのか?――会社の「モノ性」と「ヒト性」をめぐって / 鈴木洋仁
エスノグラフィ
- ライフコースからの排除――沖縄のヤンキー、建設業の男性と暴力 / 打越正行
- カムバックについて――「世界なき習慣」をめぐる考察 / 石岡丈昇
討議U
- 引退後を生きのびるための当事者研究 / 上岡陽江+小磯典子
フェミニズムと「引退」
- 安室奈美恵とダウンサイジングの美学 / トミヤマユキコ
- 「子連れ排除型社会」からの卒業は可能か――「子連れ出勤」の社会学 / 山田陽子
家族/ケアから問う
- 広がり、根付くオープンダイアローグ――ひきこもり当事者の高齢化から考える / 斎藤環
- 「自己決定」から遠く離れて――終末期医療のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)への警告
- 親密な関係と卒業とを往還する――「卒婚」の言説を媒介として / 中森弘樹
引退/卒業をめぐる思想
- 引退/卒業をめぐる形而上学的考察 / 山内志朗
- リベラル性の引退 / 西川アサキ
- 終焉の存在論――終わることの困難と魅惑 / 稲垣諭
「引退後」を生き直す
- 抵抗としての引退――異なる生のかたちのために / 田中純
- 老いぼれた親鸞と、猫たちと、吉本隆明と、妄想のホトトギスと / 杉田俊介
連載 瓦礫(デブリ)の未来
連載 科学者の散歩道
- 第五六回 超新星1987A の衝撃――「宇宙線は天啓である」 / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-5(2019-4) 2019/04/01
入管法改正から見えてきた、移民/難民のリアル
昨年末に、出入国管理法の改正が成立した。本改正案によって、ますます「単純労働」とされる分野において、外国籍の方のさらなる就労が目指されることになる。われわれは、近くて遠い/遠くて近い外国人とともに、いかに暮らしていくことができるのか。法改正の問題点から、技能実習生・留学生の労働問題、入管における人権問題まで、多角的な視点から議論する。
特集*新移民時代――入管法改正・技能実習生・外国人差別
入管の実態から問う
- 分断と暴力の外国人政策――入管収容施設の実態 / 平野雄吾
技能実習生/留学生
- 「失踪」と呼ぶな――技能実習生のレジスタンス / 巣内尚子
- 日本における南・東南アジア人留学生の進路――日本学生支援機構による調査の国別集計結果をもとに
/ 眞住優助
入管をめぐるポリティクス
- 新自由主義的移民政策の潮流の中で――日本の入管法改正を問う / 小井土彰宏
- 「剥き出しの生」への縮減に抗して――非正規移民の生の保障をめぐる人権と人道 / 谷幸
差別をめぐって
- 共生社会で求められる「相対的よそ者」の視点 / 森千香子
- 「自由の侵害の不平等」を是正するために――二〇一八年入管法改定から差別禁止法の必要性をあらためて考える
/ 明戸隆浩
ジェンダーから問う
- 「移住セックスワーカー」に対する暴力を防ぐには / 青山薫
- 〈女性〉〈移民〉に有償家事労働を担わせるとき――再生産領域の国際分業としての国家戦略特区の家事労働者
/ 定松文
- フィリピンと日本から考える「人間のメンテナンス」――移住ケア労働に日本が求めるものとは / 小ヶ谷千穂
国境と移動をめぐる思想
- 国境の壁とテイコポリティクス / 川久保文紀
- 「ぼくたちはすべてがほしい」――オペライズモ的「移民」論 / 北川眞也
歴史をたどり直す
- 「フジヤマのトビウオ」とブラジル日系コロニアの戦後 / 乗松優
- 「定住者」の視線を超えるために――移動者たちの生にむけて / 西亮太
攪乱される境界
- 「日本人」と「外国人」の二分法を今改めて問い直す / 下地ローレンス吉孝
- 「半歩」からの約束――帰属の政治とHAFU TALK(ハーフトーク)のメディア実践 / ケイン樹里安
共に生きることの只中へ
- 街は生きていて、街に生かされていく――『ルポ 川崎』から考える、移民とも共に生きる社会 / 磯部涼
- 地域で共に / 猪瀬浩平
新連載 造物主議論 〈建築〉──あるいはデミウルゴスの“構築”
連載 科学者の散歩道
- 第五七回 ポスト・コールドウォー――ソ連崩壊とSSC中止 / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-7(2019-5) 2019/05/01
ブラック部活動・大学入学共通テストから問う
実は部活動を運営する現場で、生徒も先生も大変な思いをしていた――「ブラック部活動」は社会問題として可視化され、その問題の解決のために議論が重ねられている。また、入試現場でも激変が起こりつつある。センター試験廃止に伴い、「大学入学共通テスト」が導入される。このテストの導入は、国語と英語教育の未来にも大きく影響を及ぼすであろう。教育の現場に寄り添い、さまざまな問題を問い直す。
特集*教育は変わるのか――部活動問題・給特法・大学入学共通テスト
討議
- 麻痺する教育現場から問い直す / 内田良+大内裕和+岡崎勝
部活動問題
給特法とは何か
- 教員の長時間労働解消の展望を考える / 藤川伸治
- 教師の定額働かせ放題=「給特法」問題はいかにして広まったか / 斉藤ひでみ
「働き方」をめぐる言葉
- 教員が我が事を語る言葉を取り返すために――教員の「働き方」改革を問い直す / 赤田圭亮
- 「呪いの言葉」を解くための対抗的キャリア教育 / 上西充子
国語教育の未来
- 「国語」改革における多様性の排除――教材アンソロジーの意義 / 紅野謙介
- 高校国語科の曲がり角――新学習指導要領の能力伸張主義、実社会、移民時代の文化ナショナリズム / 日比嘉高
英語教育の未来
- 英語教育の「市場化」に未来はあるか? / 江利川春雄
「読解する」とはどういうことか
- 「読解力が危機だ!」論が迷走するのはなぜか?――「読めていない」の真相をさぐる / 阿部公彦
- 未来は誰のものか?――新しい「国語科」の理念と現実 / 五味渕典嗣
市場化する教育
教育のオルナティブな現場から
- 社会と向き合うことを教えてくれた予備校文化論 / 小林哲夫
- 殻に包まれて――アゴラ子ども美術工場の試み / 渋垂秀夫
教育とジェンダー
- 生=痛みを分有するためのわたしたちの生涯学習社会に向けて / 冨永貴公
- 文理の境界とジェンダーの未来 / 隠岐さや香
教育とケア
- ヤングケアラーから問う教育の未来――言語化しづらい「ケア」を可視化し、支援するということ / 澁谷智子
連載 デミウルゴス
連載 科学者の散歩道
- 第五八回 「もの書き」人生の交わり――「活字になる」に魅せられて / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-8(2019-6) 2019/06/01
失われた未来を取り戻す、資本主義への最終応答
加速主義という新たな思想的潮流。そこでは根底的な社会変化を引き起こすために、資本主義制度、あるいはそれを歴史的に特徴づけてきた技術的プロセスを、あえて拡大し、再利用し、加速するべきであるとされる。閉塞感に満ちた現代社会を打破するような不思議な力によって、それは私たちを否応なく変えてくれるのではないか、あるいは変えてしまうのではないか――そういった来たるべきなにかへの期待と不安が渦巻いているなか、加速主義のもつ可能性を、その新反動主義の一面も含めて明らかにする。
特集*加速主義――資本主義の疾走、未来への〈脱出〉
討議
- 加速主義の政治的可能性と哲学的射程 / 千葉雅也+河南瑠莉+S・ブロイ+仲山ひふみ
加速主義の源流
- 暗黒啓蒙(抄) / N・ランド/五井健太郎訳・解題
資本主義のはざまで生きる
- 転形期の未来――新反動主義かアシッド共産主義か / 水嶋一憲
- 気をつけろ、外は砂漠が広がっている――マーク・フィッシャー私論 / 木澤佐登志
継承と共鳴
- さまよえる抽象 / R・ブラシエ/星野太訳・解題
- 加速主義から思弁的実在論へ――ブラシエとグラント / 浅沼光樹
- 死の向こう側 / 小倉拓也
解放への道程
- 『加速主義読本』序論(抄) / R・マッカイ+A・アヴァネシアン/小泉空訳
- 加速主義の系譜学――『加速主義読本』序論解題 / 小泉空
- ポスト労働社会の想像と四つの要求 / 川村覚文
幻視される特異点
- ゲーデル・シンギュラリティ・加速主義――近代以降の世界像の変容とその揺り戻し / 丸山善宏
- The System of Hyper-Hype Theory-Fictions / 樋口恭介
複数化する未来線
- 啓蒙の終わりの後に、何が始まろうとするのか? / Y・ホイ/河南瑠莉訳・解題
- ブロメテアニズム / A・ギャロウェイ/増田展大訳・解題
フェミニズムによる応答
- プロメテアン労働とドメスティック・リアリズム / H・へスター/三浦尚仁+依田富子訳
ここにある〈出口〉
- 「大きな思想」と「小さな日常」が乖離するとき――ダークな思想を持った人たちの演出について
/ C・ローウィー
- スティーヴ・グッドマン諸作における人類消滅後の全自動ホテルが示すもの / 橋勇人
連載 デミウルゴス
連載 科学者の散歩道
- 第五九回 揺れる学界諸事――「戦後成長」の終焉とグローバル化 / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-9(2019-7) 2019/07/01
モノへのまなざしが描き出す〈暮らし〉の思想
道行くひとの靴や軒先のランプ、ハリガミからカケ茶碗まで……さまざまな〈モノ〉へのまなざしを通じて私たちの日常生活のかたちを描き出す、考現学という営み。今和次郎にはじまり現在へといたる多様な実践の系譜から、その尽きせぬ深さとひろがりをさぐり、アクチュアルな思想としての可能性を浮き彫りにする。
特集*考現学とはなにか――今和次郎から路上観察学、そして〈暮らし〉の時代へ
討議
- あたかも数千年後のまなざしで――考現学と〈モノ〉への問い / 藤森照信+中谷礼仁
考現学を画定する
- スケッチが拓く「いま」の博物学――考現学の理論とその継承 / 黒石いずみ
- 考現学の本願と方法的規準について / 佐藤健二
- 考現学、その方法的連鎖をめぐる断章――破門、生態学、小鳥居 / 菊地暁
- 思考ツールとしての考現学 / 石川初
五感がとらえる〈現〉のかたち
- おれの「食の考現学」 / 遠藤哲夫
- 架空の通学路について / panpanya
- 音の採集――「オーディオユニオン録音コンテスト」から見る一九七〇年代日本の音響技術文化 / 金子智太郎
モノへのまなざしに潜むもの
- 仮設住宅団地の考現学――ならびに死者がモノと言葉に残す痕跡について / 廣田龍平
- アーカイブ的統治とフェティシズムから考える考現学 / 田中雅一
- 考現学と帝国主義――今和次郎の視線について / 逆井聡人
KULTURO DE MODERNOLOGIO
- トマソンの類型学――ポピュラー文化のなかの超芸術 / 佐藤守弘
- メディアのなかの考現学――アカデミズムとジャーナリズム、エンターテインメントの狭間で / 飯田豊
〈生活〉を思考すること
- 「日常」を写すことの条件 / 阿部純
- 今和次郎の家政思想における「詩人」とは誰か / 野崎有以
- 「多様性」からの批判精神――今和次郎の都市観察に関する考察 / 小野寺研太
- 生活へのまなざし――考現学と民藝とその周辺 / 鞍田崇
考現学の浸透と越境
- 二つのデザイン・サーヴェイ――考現学以後の建築とプロダクト・デザイン / 加島卓
- 大衆の観察/大衆による観察――一九三〇年代イギリスの考現学的実践 / 祐成保志
連載 デミウルゴス
- 第四回 双制(デュアル・システム)(一) / 磯崎新
連載 科学者の散歩道
- 第六〇回 光陰者百代之過客――岡本と河合 / 佐藤文隆
特別掲載
研究手帖
■『現代思想』47-10(2019-8) 2019/08/01
相対論からブラックホール撮影成功まで…物理学の巨人、生誕140周年記念特集!
2019年4月10日――奇しくもアインシュタイン生誕140周年にあたるこの節目の年に、一般相対性理論に基づき存在を予言されていたブラックホール撮影成功の報が世界中を興奮させた。本特集ではブラックホールや重力波、量子情報などをめぐる最先端の知見から、歴史・哲学・倫理まで多様な観点をもって巨人の足跡を辿り直し、そのアクチュアリティを探る。
特集*アインシュタイン――量子情報・重力波・ブラックホール…生誕140周年
討議
- アインシュタインから眺める現代物理学史 / 佐藤文隆+細谷曉夫
ある物理学者の肖像
- アインシュタインは何をしたか / 江沢洋
- アインシュタインを読む / 安孫子誠也
科学と平和
- 「ニコライ=アインシュタイン宣言」を巡って / 池内了
- アインシュタインと私 / 小沼通二
量子力学の問題系
- アインシュタインと量子論 / 筒井泉
- アインシュタインと不確定性原理 / 小澤正直
- 量子力学の完全性をめぐって――EPR論文とアインシュタインによる論文の相違点 / 北島雄一郎
魅惑する深淵
- ブラックホールを「見たい」という願い / 本間希樹
- ブラックホール理論とその周辺 / 真貝寿明
- 天体観察画像の視覚化における認識論 / 野内玲
- ブラックホールは哲学を吸い込むか――相補性からホログラフィック原理へ / 杉尾一
- 呑み込まれた物語――あるいは語られたブラックホールの歴史 / 麦原遼+宮本道人
科学史上のアインシュタイン
- 像/世界/記号とアインシュタイン――ブラックホールの図像化をめぐって / 田中祐理子
- いかにしてアインシュタインは原子論に到ったか / 稲葉肇
- アインシュタインをめぐるイメージの諸相 / 古谷紳太郎
アインシュタインと日本
- 反相対論者と学界警察――一九二〇年代初頭、日本科学界の一断面 / 岡本拓司
- 竹内時男とアインシュタイン / 伊藤憲二
哲学との接線
- ジルベール・シモンドンの固体化の哲学にみるアインシュタインの影響――特異性‐場の二重分節としての個体化とアラグマティックな関係 / 近藤和敬
短期集中連載 『弱くある自由へ』第二版に
連載 デミウルゴス
- 第五回 双制(デュアル・システム)(二) / 磯崎新
研究手帖
■『現代思想』47-12(2019-9) 2019/09/01
医療、環境、戦争から占いまで…応用倫理の最先端
テクノロジーの進歩や社会状況の変化とともに、「人間」の概念が大きく揺さぶられている現在、人がどう生きるべきかを問うてきた倫理学もまた、大きな転換点を迎えている。医療、環境、ロボット、ビジネス、戦争から占いまでさまざまな領域を横断しつつ、応用倫理学の今を総覧する。
特集*倫理学の論点23
討議
- ボーダーから問いかける倫理学 / 岡本裕一朗+奥田太郎+福永真弓
- 応用倫理学のメソドロジーを求めて / 池田喬+長門裕介
応用倫理のトピックス
- 環境 人新世下のウィルダネスと「都市の環境倫理」 / 吉永明弘
- 宇宙 神話と証拠 / 清水雄也
- 食農 いのちを支える行動を日常に埋め込む / 秋津元輝
- 動物 動物の倫理的扱いと動物理解 / 久保田さゆり
- ロボット ロボットは権利を持ちうるか? そして権利を持たせるべきか? / 岡本慎平
- 戦争 人工物が人間を殺傷することを決定し実行することは、道徳的に許容されるのか / 眞嶋俊造
- ビジネス 企業それ自体の責任を問うことの困難さ / 杉本俊介
- 医療 リプロダクティブ・ライツとは何か / 柘植あづみ
- 生政治 身体の政治はなにを纏うか / 重田園江
- 生殖 ベネターの反出生主義をどう受けとめるか / 吉沢文武
- 世代間 将来を適切に切り分けること / 吉良貴之
- 高齢者 新健康主義 / 北中淳子
- 公衆衛生 公衆衛生・ヘルスプロモーション・ナッジ / 玉手慎太郎
- ジェンダー/セクシュアリティ トランス排除をめぐる論争のむずかしさ / 筒井晴香
- 美醜 外見が「能力」となる社会 / 西倉実季
- 共依存 親をかばう子どもたち / 小西真理子
- サイバー・カルチャー 身体はいかにして構築されるのか / 根村直美
エッセイ
- フィクション それでも、物語に触れる / 西田藍
- 占い 占いという「アジール」 / 石井ゆかり
- ルポルタージュ 「良き例」を欲してはいけない / 武田砂鉄
短期集中連載 『弱くある自由へ』第二版に
連載 デミウルゴス
- 第六回 双制(デュアル・システム)(三) / 磯崎新
連載 科学者の散歩道
- 第六一回 未来科学の三つの架空図 二〇世紀科学の行く末? / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-13(2019-10) 2019/10/01
コンプライアンスとマニュアルがはびこる社会の未来
コンプライアンスの遵守を求める社会は、日常生活のあらゆる局面でマニュアル化が徹底され、リスク管理が行われる社会の方向とも軌を一にしている。本特集では、コンプライアンス/マニュアルがわれわれの日常にもたらしている影響を読み解き、多様な身体をもったひとびとがともに暮らすための対抗的なマニュアルの在り方まで思考していく。
特集*コンプライアンス社会
討議
- オピニオン/ファクトとどう向き合うのか――メディアとコンプライアンスの過去・現在・未来
/ 石戸諭+武田砂鉄
企業は何を追求するのか
- 労働における「コンプライアンス」をどう考えるか? / 今野晴貴
- ICTと職務専念義務 / 大谷卓史
- 公害・環境分野における法令順守の課題――被害をなきものとしない社会的責任に向けて / 友澤悠季
労働の現場から見えるもの
- ブルシット・ジョブ現象について / D・グレーバー/ 芳賀達彦+酒井隆史訳
- 「「コンプライアンス」によって塗りつぶされるこの時代」?――コンプライアンスの解釈から見える企業と社会そして
/ 栗田隆子
- まちづくりの落とし穴――反ジェントリフィケーションの釜ヶ崎 / 渡辺拓也
表現と自由をめぐって
- 「あいちトリエンナーレ2019」におけるコンプライアンス / 樫村愛子
- 抵抗のヒロイズムとリベラルの空回り――『新聞記者』、『主戦場』を通して考える日本の言論状況 / 逆井聡人
リスク管理と統治の構造
- 忠誠関係の構造――ラナ・プラザ事件からコンプライアンスまで / A・シュピオ/ 橋本一径訳
- 個別化されたリスクとしての〈コンプライアンス〉――遍在化するリスク管理 / 小松丈晃
- 行政改革とマニュアルの生成、その絶えざる悪循環について / 羅芝賢
マニュアル化と生きるひとびと
- 社会を持たない社会の儀礼――コンプライアンスの人類学的素描 / 木村周平
- 反省性・巻き込み・個別解――続・参加のテクノロジーとその行く先 / 牧野智和
ジェンダーから捉える
- 悩める夫婦はひとまず『逃げ恥』を読むといい / トミヤマユキコ
- 「診断基準マニュアル」と文化翻訳の必要性――PTSDとGDをめぐって / 岩川ありさ
差別を問い直す
- 「思いやり」を超えて――合理的配慮に関わるコンプライアンスの新たな理解 / 飯野由里子
- 大学のヘイトスピーチ規制について / 堀田義太郎
対抗的マニュアルづくり
- コモンサードという手法(マニュアル)――モノを介した質的研究と生活実践 / 石岡丈昇
- 介助・介護における「淡いグレーゾーン」を肯定する――知的障害者の見守り介助や、筋ジス病棟での生活をめぐって
コンプライアンスから遠く離れて
- 「オレ、明日からラーメン屋やります」という常連の出現するこの世界 / 郡司ペギオ幸夫
短期集中連載 『弱くある自由へ』第二版に
連載 デミウルゴス
- 第七回 双制(デュアル・システム)(四) / 磯崎新
連載 科学者の散歩道
- 第六二回 メカニカルは差別用語だった / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-14(2019-11) 2019/11/01
私たちは生まれてこないほうが良かったのか?
人生において何か困難に直面したとき、生まれてこなければこんな苦しみを味合わなくてすんだのに、という気分にとらわれるのも不思議ではない。人間は生まれてこないほうが良いと考える立場の登場は古代ギリシャにまで遡ることができるが、それを哲学者デイヴィッド・ベネターが「反出生主義」として議論の俎上に載せたことで、近年急速に注目を集めている。本特集は現代の反出生主義について、感情的な応酬のみが注目されがちな現状を問い直し、国内外の議論をそのテーマの多様性も含めて紹介する。
特集*反出生主義を考える――「生まれてこないほうが良かった」という思想
討議
- 生きることの意味を問う哲学 / 森岡正博+戸谷洋志
私たちの生に未来はあるか
- 天気の大人――二一世紀初めにおける終末論的論調について / 小泉義之
- 生に抗って生きること――断章と覚書 / 木澤佐登志
To be, or not to be : that is the question.
- 考え得るすべての害悪――反出生主義への更なる擁護 / D・ベネター(訳=小島和男)
- 反−出生奨励主義と生の価値への不可知論 / 小島和男
- 生まれてこないほうが良いのか?――書評:デイヴィッド・ベネター『生まれてこないほうが良かった』 /
T・メッツ(訳=山口尚)
- 非対称性をめぐる攻防 / 鈴木生郎
- ベネターの反出生主義における「良さ」と「悪さ」について / 佐藤岳詩
- 「非同一性問題」再考――「同一」な者とは誰のことか / 加藤秀一
- 「痛み」を感じるロボットを作ることの倫理的問題と反出生主義 / 西條玲奈
信仰との接続点
- 釈迦の死生観 / 佐々木閑
- 生ま(れ)ない方がよいという思想と信仰――宗教との関連から捉える / 島薗進
生まれ出づる悩みの、その先へ
- ハンス・ヨナスと反出生主義 / 戸谷洋志
- 反出生主義における現実の難しさからの逸れ――反出生主義の三つの症候 / 小手川正二郎
- 反出生主義と女性 / 橋迫瑞穂
- トランスジェンダーの未来=ユートピア――生殖規範そして「未来」の否定に抗して / 古怒田望人
- 未来による搾取に抗し、今ここを育むあやとりを学ぶ――ダナ・ハラウェイと再生産概念の更新 / 逆卷しとね
連載 デミウルゴス
- 第八回 双制(デュアル・システム)(五) / 磯崎新
連載 科学者の散歩道
- 第六三回 メカニクスの下克上――働く学問≠ヨ / 佐藤文隆
研究手帖
■『現代思想』47-15(2019-12) 2019/12/01
日常の想像力を凌駕する“デカい”数、そのめくるめく世界に迫る
宇宙空間を埋め尽くす砂粒の数を試算したアルキメデスの時代から、数学基礎論の知見を駆使して巨大数の生成を競う現代のグーゴロジストに至るまで、人々はいつも「巨大な数」という存在に魅了されてきた――。本特集では古今東西の数学はもちろん、物理学や情報学、さらには宗教や哲学、人類学といった領域をも横断しつつ、巨大な数と人間との関わりを広く考察する。
特集*巨大数の世界――アルキメデスからグーゴロジーまで
討議
- 有限と無限のせめぎあう場所 / 鈴木真治+フィッシュ
Imagination for Large Numbers
- (寿司 虚空編) / 小林銅蟲
- スパゲッティ・カレーライス / 詩野うら
現代数学とグーゴロジー
- 巨大数論発展の軌跡 / フィッシュ
- 無限の名を呼ぶ――巨大関数をとりまく数学小史 / 木原貴行
- 無限と連続の数学 / 藤田博司
- 巨大基数と巨大な巨大基数、超数学での無限と集合論的無限、それらに対する有限の諸相 / 渕野昌
- 大きな有限の中に現れる構造をめぐって / 徳重典英
大いなる数の人類史
- 歴史的に観た巨大数の位置づけ / 鈴木真治
- 古代ギリシャの(巨大)数 / 斎藤憲
- 巨大数の経験 / 師茂樹
- 仏教経典と『塵劫記』とにおける巨大数の心性試論 / 小川束
- 社会、世界、そして宇宙――情報社会にとって「数」とは何か? / 大黒岳彦
- 巨大な素数は世界をどう変えるか / 小島寛之
- 宇宙における巨大数と物理の視点 / 小林晋平
涯しないもののための哲学
- かぞえかたのわからない巨大数は存在しないのか / 近藤和敬
- 永遠について――現在の視点から / 佐金武
巨大な数に〈ふれる〉ということ
- 感性的対象としての数――カント、宮島達男、池田亮司 / 星野太
- 一〇兆と五〇〇億のあいだ――ジンバブエのハイパー・インフレ通貨と巨大数 / 早川真悠
短期集中連載 『弱くある自由へ』第二版に
連載 科学者の散歩道
- 第六四回 メカニカルの移入――和魂洋才 / 佐藤文隆
研究手帖