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『グローバル・エイズ・アップデイト』第50号

http://blog.melma.com/00123266/

アフリカ日本協議会


■GLOBAL■<□<■AIDS■>□>■UPDATE■

グローバル・エイズ・アップデイト
GLOBAL AIDS UPDATE
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 第50号 2006年(平成18年)8月17日
  Vol.2 -No.50 Date: August 17, 2006

■GLOBAL■<□<■AIDS■>□>■UPDATE■

◆発 行:アフリカ日本協議会
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はじめに:発行趣旨
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○HIV/AIDS問題は、現代世界に於ける保健医療上の最大の問題の一つです。
○しかし、日本では、こうしたグローバル・エイズ問題の深刻さや最新の情報が伝わっておらず、この問題へのコミットメントが薄いのが現状です。
○このメールマガジンは、グローバルなHIV/AIDS問題の最新動向を日本語で伝えるメディアが必要だという認識から生まれました。
○HIV/AIDSに関わる主要なウェブサイトの記事を日本語で要約し、隔週で発行いたします。

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■「第50号」目次
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地域情報
●アフリカ
1.ナイジェリアでHIV感染率低下:さらなる予防努力をとエイズ委員会議長述べる
2.ウガンダ スティグマとジェンダー役割の呪縛に苦しむ男性HIV陽性者

●中東
レバノン:戦争によるインフラ破壊でエイズ治療へのアクセスが困難に

●北米・中米地域
1. 米国:製薬会社ギリアドによる治療薬供給事業の問題点
2. 米国:「世界の指導国」の国内エイズ対策は失敗傾向
3. カリブ諸国:ブラジルのARV薬提供にも多くの問題が

NGO情報
国境なき医師団が新規医療技術の研究開発に提言

国際機関
死去した李鍾郁WHO事務局長:HIV/AIDSに残した業績

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★ナイジェリアでHIV感染率低下:
 さらなる予防努力をとエイズ委員会議長述べる
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ナイジェリアの国家エイズ行動委員会National Action Committee on HIV/AIDS(NACA)の議長であるババトゥンデ・オソティメヒン教授 Babatunde Osotimehinは、2006年5月、ナイジェリアの感染率が1.4%低下したことはナイジェリア政府および援助機関の政治的・財政的努力の賜物であると評価した。現在、ナイジェリアのHIV陽性者の人口は290万人と推定されている。ナイジェリアのHIV/AIDS対策資金は増大しており、三大感染症への対策資金を供与する「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(世界基金)から5000万ドルの資金援助一時差し止めを受けたものの、さらに1億8000ドルが拠出された。

同国では、2001年には4.8%だった感染率が、2004年には4%に低下したものの、2005年には4.4%に増加している。オソティメヒン議長は、ナイジェリアの日刊紙「デイリー・チャンピオン」のインタビューにおいて、「今後、抗レトロウィルス薬の供給センターの設置拡大とともに、治療のためのさらなる資金援助が必要である」と述べた。また、彼は「世界基金の役割は、エイズ・結核・マラリアによる影響を軽減するために、官民パートナーシップPublic-Private Partnership(PPP)を通じて、資金を調達・管理・分配することである」と主張しており、「それが貧困削減やミレニアム開発目標と一致するところでもある」とも強調している。

オソティメヒン議長は、国家エイズ行動委員会が、HIV感染率を減少させるための主要な戦略として行動変容のためのコミュニケーションBehavior Change Communication (BCC)を採用したことにより、2001年に5.8%だった感染率が、2003年には5.0 %、昨年は4.4%に低下したことを指摘し、委員会の成果を称えた。同委員会は、HIV/AIDSの感染予防と目的に対する国民の意識を高め、コミュニティへの参加を促すことを目的とした全国情報・教育・コミュニケーション a nation-wide information, education and communication (IEC)を戦略として採用している。議長は特に、このIEC戦略をセックスワーカーや長距離トラック運転手やエイズ遺児など感染の可能性に直面している社会集団を対象に積極的に実施する必要性があることを指摘した。

議長は、2006年5月現在、95%のナイジェリア国民がHIV感染の可能性を認識しており、コンドームの使用も増えていると述べる一方、例えば南西部エキティ州 Ekiti の感染率は1.6%であるのに対し、感染率の高い東北部ベヌエ州 Benue では10%に上るなど、地域格差の問題は依然として残っていると指摘した。

原題:Nigeria: NACA Boss Explains Drop in HIV/Aids
日付:May 22, 2006
出典:allAfrica.com website (Daily Champion)
URL:http://allafrica.com/stories/200605220003.html

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★ウガンダ スティグマとジェンダー役割の呪縛に苦しむ男性HIV陽性者
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ウガンダの男性HIV陽性者のサポート団体である「男性HIV陽性者連合」Positive Menユs Union(POMU)は、男性のHIV陽性者自身がエイズと正面から向き合うことで、HIV陽性者自身や家族を危険から守るべきだと主張している。

POMUは、男性のHIV感染率を抑えるために、彼らに心のケアを受けることを勧めており、POMUの会長であり、自身もHIV陽性者であるリチャード・セルンクーマ Richard Serunkuuma 氏(34歳)は、「男性のHIV陽性者であること、また、HIVに感染することはかつては道徳上の罪であり、誰に頼ってよいのかわからない状態は相当な苦しみであった」と述べている。ウガンダの文化規範には、男性は家族を守る存在であるべきという考えが根付いているので、彼らが治療を受けることは非常に難しいとされている。セルンクーマ氏が感染しているのを知ったのは彼が20歳のときだが、家族にどのように打ち明けるべきかで、悩み苦しんだという。

ウガンダの主要なケア団体である「エイズ支援機構」 The Aids Support Organization(TASO)によれば、ウガンダのHIV陽性者の65%が女性であるという。また、ウガンダ全国人口調査によれば、2004〜05年の15歳から49歳の人口のHIV感染率は6.4%であるのに対し、最新のウガンダ・HIV/AIDS行動調査 Uganda HIV/AIDS Sero-Behavioural Survey (UHSBS)は、男性の感染率は5.2%であり、女性の7.3%よりも低いという調査結果を出している。しかし、セルンクーマ氏は、この数字にはカウンセリングや治療へのアクセスを求めている人数の男女差は反映されていない、と主張する。

セルンクーマ氏は、「スティグマが依然として強く残る地方では、男女の格差はさらに大きく、男性が治療を受けなければ、家族へ悪影響を及ぼすばかりである。」と述べる。例えば、複数の妻のいる男性は、妻を感染させるばかりか、家族を養うこともできなくなるのだ。また、TASOのアドボカシー・ディレクターであるピーター・セバンジャPeter Ssebbanja氏は、「ウガンダの家庭では男性が意思決定者であり、男性の感染を防ぐのは大変重要である。そのためには、『検査は通常の医療検査の一部であるので、検査を受けてほしい』と男性を説得することが必要になってくる。」と述べている。

POMUはTASOなどと14の地区で協働して活動を続けている。この14の地区には、内戦の被害を受け、治安状況の悪い北部のグル県 Gulu も含まれる。セルンクーマ氏によれば、現在のところ、POMUのプログラムに登録しているHIV陽性者は2000人で、POMUの活動予算は年間1100USドルである。しかし、最近では、POMUやTASOの働きかけの効果があってか、HIV検査や援助を求めてやってくる男性患者が増えてきているという。セルンクーマ氏は「登録者は少ないが、変化が見えつつある」と感想を述べている。

原題:Uganda: Men's Union Encourages Men to Be More Open About HIV
日付:May 22, 2006
出典:allAfrica.com
URL:http://allafrica.com/stories/200605220759.html

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★レバノン:戦争によるインフラ破壊でエイズ治療へのアクセスが困難に
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レバノンで展開されているイスラエル軍と、シーア派イスラーム政治・軍事組織ヒズブッラー Hizbollah (「神の党」 Hizb-Allah)の交戦の影響で、レバノン国内では今、医薬品不足が深刻化している。援助機関および医療関係者によると、レバノンの主要紛争地域で医薬品の供給に影響が出ている。

7月12日、ヒズブッラーにより捕捉・連行されたイスラエル軍兵士を救出するとの名目で開始されたイスラエル軍のレバノン攻撃により、レバノンの交戦地帯の道路や端などのインフラが壊滅した。(編集部注:8月15日現在、国連安保理の決議採択により、一応の停戦が実現している)

「この1ヶ月で、状況は悪くなる一方だ。」と保健省国家エイズ・プログラムのディレクター、ムスタファ・アル=ナキブ氏 Mustafa al-Naqib は嘆く。同氏によると、現在HIV治療には、三剤併用療法の実施のため複数の医薬品を使用しているが、そのうち1種が不足しているという。HIV陽性者の場合、治療薬を規則正しく服用しなければ薬への耐性ができてしまうため、医薬品アクセスの確保が特に重要になる。

現在レバノンで登録されているHIV陽性者は918人。WHOによると、政府主導のプログラムで治療を受けている約200人について、必要な抗レトロウイルス(ARV)薬へのアクセスに困難が生じているという。レバノンでは、HIV/AIDSは現在でもタブー視されており、差別や偏見が依然として強い。

治療薬だけでなく、衛生状態の悪化や食料の不足も問題になっている。この交戦により、約100万人のレバノン人が難民化し、学校や公演などに避難しているが、その中にもHIV陽性者は存在する。アル=ナキブ氏は、これらのHIV陽性者たちは普段と違う医師の治療を受けなければならず、それがHIV陽性者らの状態を悪化させる可能性があると懸念している。

原題:Drug shortage threatens HIV/AIDS patients
日付:11 August, 2006
出典:ロイター通信
URL: http://www.alertnet.org/thenews/newsdesk/IRIN/c46e4a3f000de2c3c8345f905794b185.htm

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★米国:製薬会社ギリアドによる治療薬供給事業の問題点
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米国カリフォルニア州に拠点を置く世界有数の製薬会社、ギリアド・サイエンシズ社 Gilead Sciences が行っているエイズ治療薬の提供プログラムには、まだ不十分な点がある。

2006年5月初旬、米国カリフォルニア州バーリンガムで開かれたギリアド・サイエンシズ社Gilead Sciencesの株主総会に押しかけたエイズ活動家らは、「ギリアド社は利益の見込める先進国で業績を伸ばす一方で、利益の見込めない途上国へのエイズ治療薬導入の取り組みが遅い」と非難した。ギリアド社が開発・販売しているエイズ治療薬は、他の第一選択薬に比べると副作用が少なく、HIV予防の効果もあると謳われている。それだけに、この治療薬が多くの人々の手に渡っていないということが非常に悔やまれる。

ギリアド社が行っている「HIV治療のためのグローバル・アクセス・プログラム」 Global Access Program for HIV Therapies へは、97ヵ国に参加資格があるとギリアド社は誇らしげに語っているが、問題点もある。同社が開発した最も効果的なエイズ治療薬、ツルバダ Truvada(編集部注1)とビリアード Viread (編集部注2)は、これらの国々のほとんどでアクセス不可能なのである。ギリアド社は97ヵ国のうち54カ国でこれらの薬の承認を求める申請を行っているが、まだわずかな国でしか承認されていない。アフリカの国々などで、人手不足などにより治療薬承認プロセスに時間がかかるのは事実だ。こうした事務手続きを迅速に進めるための世界規模のメカニズムが必要だろう。

また、ギリアド社のプログラムは、HIV/AIDS拡大の打撃を受けたインドなどの中進国を除外している。そうした国々にも、治療薬を買えない多くの貧しい人々がいるというのに。さらに、他の製薬会社と同様に、乳幼児に適した製剤処方に関してはまだ試行錯誤中である。現在2300万人にのぼる15歳未満のエイズ患者は、治療薬を使用できないということになる。

ギリアド社はブラジルにおいて、同社の治療薬ビリアードを半額で提供する決定をした。子供向けの新しい製剤処方の臨床試験の完成にも取り組んでいる。その一方で、ギリアド社はインドで同薬の特許申請をしようとしており、インドのエイズ活動家らが抗議している。特許がおりれば、インドのジェネリック薬企業はビリアードのジェネリック薬を製造できなくなる。

G8参加国は、2010年までにエイズ治療を行き渡らせようという目標を掲げたが、達成のためには我々の渾身の努力が不可欠だろう。ギリアド社やその株主たちが改心して、途上国のエイズ患者たちが治療薬を手に入れやすくするような道を探らなければ、たとえばボツワナのような国は、エイズによって消滅する危険にさらされることになる。

※編集部注1:ツルバダ Truvada は、ギリアド社が開発した核酸系(ヌクレオシド系)逆転写酵素阻害剤(NsRTI:抗レトロウイルス薬の一種)エムトリシタビン Emtricitabine (FTC) (=商品名はエムトリバ Emtriva)と同じくギリアド社が開発した核酸系(ヌクレオチド系)逆転写酵素阻害剤(NtRTI:同じく抗レトロウイルス薬の一種)テノホビル Tenofovir(TDF) (=商品名はビリアード Viread)の二剤混合薬。一般名の略号をTDF/FTCと記述する。

※編集部注2:ビリアード Viread は、ギリアド社が開発した核酸系(ヌクレオチド系)逆転写酵素阻害剤であるテノホビルの商品名。医薬品には、(a)物質の名称である一般名とその略号、(b)生産・販売企業により命名される商品名がある。また、日本で認可される場合は、(c)日本語の指定された一般名表記、(d)日本語の指定された商品名表記が存在する。たとえばテノホビルの場合は、
(a) 一般名=Tenofovir、略号=TDF
(b)商品名=Viread
(c)日本語の一般名表記:テノホビル
(d)日本語の商品名表記:ビリアード
 本メールマガジンでは、確認できる限り、医薬品名称の日本語表記については、英語の発音と関わりなく、日本語の指定された一般名・商品名表記を使用する。

原題:A look at drug firm's story of supplying AIDS patients
日付:Sunday, May 21, 2006
出典:sfgate.com website
URL:
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/chronicle/archive/2006/05/21/ING54ITLRJ1.DTL

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★米国:「世界の指導国」の国内エイズ対策は失敗傾向
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オープン・ソサイエティ研究所Open Society Institute(OSI)は、米国のこれまでのHIV/AIDSに関する国内政策が不十分であるという調査結果を発表した。この調査は、国連エイズ対策レビュー総会(UNGASS)の開幕に先立ち、各国の2001年の国連エイズ特別総会で採択されたコミットメント宣言の5年間の実施状況を検証したものである。詳しい内容はhttp://www.publichealthwatch.info (英文)で入手できる。

OSIは、レビュー総会に向けて、公衆衛生の観点からの継続的な調査プロジェクトを実施し、米国のエイズ政策関係者からの聞き取りや報告書による幅広い調査を実施した。報告の概略は以下のとおりである。

(1) 米国では、国内のエイズ対策に向けて協調した取り組みがなされておらず、HIV感染予防対策や治療、ケア等を含む国家計画も策定されていない。
(2)米国のHIV新規感染数は年間約4万件であり、この数は10年にわたって減少していない。
(3) HIV/AIDSの勢いは有色人種、ゲイ、男性同性愛者、薬物使用者、貧困層の間で依然衰えていない。

本報告書の著者で、公衆衛生調査のコンサルタントでもあるクリス・コリンズ Chris Collins氏は「米国には多くの有能な科学者やヘルスワーカーおり、HIV感染予防に対する支援の提供者もいるはずだが、この慢性的な発生率の高さや予防や治療へアクセスの悪さは甚だしい。これは大統領と連邦議会の連帯責任であるが、いずれにしても、支援の必要性が叫ばれているのに政府の対応は手薄になるばかりだ。」と批判的だ。

プロジェクト・ディレクターのレイチェル・ググリエルモ Rachel Guglielmo氏も、「5年に渡って予防対策に取り組んできたにも関わらず、米国ではいまだにHIVの感染率に人種的、経済的な格差が見られる。アフリカ系アメリカ人は人口比では全体の13%だが、感染者の半数を占めている。また、エイズは24歳からの34歳の女性の死因第一位となっている」とコメントしている。

OSIによる報告書は今後米国が取り組むべき課題として以下を挙げている。

(1) 連邦政府、州、地域社会が協調して国家エイズ戦略を策定し、具他的な政策やプログラムを監理、評価するシステムを確立すること。
(2)HIV/AIDS対策における格差を是正するため、これまで恩恵を受けてこなかった人たちにサービスを提供すること。
(3)性教育、汚染されていない注射器と注射針を供給する注射針交換プログラムの実施、HIVエイズ予防及び治療に関する研究の継続など、効果的な支援のために更なる資源を投入すること。

米国は、これまでにも世界規模でエイズ対応への貢献を行ってきたといわれているが、一方で国内での対策が遅れ、充分な成果を挙げているとはいえない。「米国は我が国民のためにも、よりよい支援を行わなくてはいけない。」と前出のコリンズ氏も話している。

原題:U.S., A LEADER IN EFFORTS AGAINST GLOBAL AIDS EPIDEMIC, IS FAILING TO ADDRESS THE DISEASE AT HOME, SAYS NEW REPORT
日付:May 24, 2006
出典:UNGASS HIV
URL:
http://www.ungasshiv.org/index.php/en/ungass/shadow_reports_2006/public_health_watch/the_united_states


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★カリブ諸国:ブラジルのARV薬提供にも多くの問題が
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カリブ海諸国では、人口の2.4%にあたる50万人の人々がHIVに感染しており、サハラ以南地域に次ぐ感染率である。2005年4月、東カリブ諸国連合Organization of Eastern Caribbean Statesの加盟国に対し、ブラジル政府は、抗レトロウイルス薬(ARV)を提供すると約束した。対象となる国は、アンティグア・バーブーダ、英領ヴァージン諸島、ドミニカ連邦、グレナダ、セントルシア、セントクリストファー・ネイヴィス、セント・ヴィンセントおよびグレナディーン諸島などである。ブラジルからの抗レトロウイルス薬は、これらの国々の500人のエイズ患者に提供されることになっている。【以上Associated Pressの記事より】

しかし、コスタリカに本拠を置くアグア・ブエナ人権協会 Agua Buena Human Rights Association のディレクター、リチャード・スターン氏は、ブラジルのARV供給誓約について次のように問題点を指摘している。

ブラジルがこの誓約を行ったのは、世界エイズ・結核・マラリア対策基金のプロジェクトの実施が遅れているからである。この約束がなされた当初、ブラジルの名声は大いに高まった。ところが、実際に薬を提供するのに数ヶ月から数年もかかった。一方、ブラジルはニカラグアに対しても抗レトロウイルス薬提供を申し出たが、6ヶ月たっても未だに薬は提供されていない。しかもブラジルが提供する薬は、自国で生産している7種類の第一選択薬のみであり、それ以外の薬が必要な人たちのことは考慮されていない。

実際には、ARVの価格が下がっている現在、カリブ諸国は、ブラジルに頼らずに市価で抗レトロウイルス薬を購入することもできたはずだ。そもそも、2年前、治療薬を提供しようとした世界基金のプロジェクトは、一体どうなってしまったのか。

原題:Caribbean Islands Antiretroviral Drugs in Support of Their Fight Against HIV/AIDS"(2005年の原記事)
日付:April 25, 2005(原記事)
原典:メーリングリストおよびAssociated Press(後半部分の原文については、編集部までお問い合わせください。)
出典:HIV dent website
URL:http://www.hivdent.org/publicp/inter/ppinBGCI0405.htm

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★国境なき医師団が新規医療技術の研究開発に提言
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5月19日、国境なき医師団(MSF)は医療研究開発についてどのように優先順位がつけられ、資金が供給されているのかを見直すこと、および、ケニアとブラジルが提案している「必須医療技術の研究開発に関する世界的枠組み」 Global Framework on essential health R&D に関する決議案を支持するよう各国政府に呼びかけた。この決議案は、多くの国の支持を集めているにも関わらず、WHOの事務局によって阻まれている。

本決議案は2003年のWHO総会によって設立された独立機関である知的財産権・技術革新・公衆衛生委員会 Commission of Intellectual Property, Innovation and Public Health CIPIH による報告書の分析と提言に基づいて提案された。現行のシステムでは、研究開発を促進するための力を特許権に依存しているが、この報告書では、途上国の人々に必要な研究が推進されないとしている。特許権に依存する現在のメカニズムでは、結果的に製薬企業はより利益が上がる薬をより裕福な市場に向けて開発し、途上国の患者を無視することになっている。

国境なき医師団のリーダーたちは、現在の研究開発システムの状況に深い憂慮を示しており、今回開かれるWHO総会で何らかの改善が見られなければ緊急な保健のニーズに応える大事な機会を失うだろうと述べている。

特に、人道医療支援団体が研究開発に取り組むのは一般的ではないが、MSFはこの状況に向き合い、研究開発を実施しなければならない状況になっている。MSFはケンブリッジ大学と協力して、医療資源の少ない地域でも実施でき、簡単で安く、迅速に結果がわかる簡便なウイルス量検査Viral Load の手法(SAMBA :Simple AMplification BAsed nucleic acid test)の開発に取り組んでおり、これにより開発途上国において乳幼児の診断に活用し、また大人への治療モニタリングの改善を図ることができると期待する。しかし一方で、MSFと提携するケンブリッジ大学の研究チームリーダーのヘレン・リー博士は、「本来、この様な研究開発は世界規模で、より大きな規模で取り組むべきだ」と主張している。

原題:GOVERNMENTS MUST MOVE FORWARD WITH GLOBAL R&D FRAMEWORK AT WORLD HEALTH ASSEMBLY
日付: 19 May, 2006
出典: MSF access website
URL:http://www.accessmed-msf.org/prod/publications.asp?scntid=19520061210493&contenttype=PARA&

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★死去した李鍾郁WHO事務局長:HIV/AIDSに残した業績
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WHO事務局長の李鍾郁(イ・ジョンウク LEE Jong-wook)氏が、5月22日硬膜下血腫のため亡くなった。61歳だった。2003年7月に韓国人として初めて国際機関の長として選出された李氏は、WHOに従事した23年間、世界の保健問題に取り組んできた。西太平洋のポリオ根絶、結核患者に良質で低価格の抗結核薬を配布する世界抗結核薬基金(Global Drug Facility) を構築するなど多くの偉業を行った。

国連のアナン事務総長は「彼は、女性や子どもなど弱いものの立場にたって保健プログラムを実施し、そしてどんな問題にも正面から立ち向かうことのできる偉大な人だった。世界は李氏のような偉大な人物を失ったが、彼の功績はこの保健分野の歴史に残り続けるであろう。」と弔辞を述べている。

HIV/AIDS分野においても、李氏は、「3 by 5 イニシアティブ」(2005年までに途上国の300万人に抗レトロウイルス(ARV)薬による治療を施す計画)を率先して進めてきた。目標には到達しなかったが、目標を掲げたことが、ARV薬の世界的な普及を促し、人々の問題意識を高めた。

また李氏は、感染症の専門家として、鳥インフルエンザの人間への感染流行を阻止するため、各国のリーダーたちに、インフルエンザ感染にかかる国家的な対策を計画して実行するよう呼びかけた。その結果、鳥インフルエンザとその対策への関心が一気に高まったのである。

李氏は5年間の事務局長の任期中に60カ国以上を訪れた。米国のブッシュ大統領や仏シラク大統領をはじめとする各国の首脳とも面識があり、直接交渉にあたる一方で、農民や医療従事者、子どもたちの声も積極的に取り入れた。インド洋沖津波の際には保健のニーズ、支援を探るために真っ先に被災地を訪れている。今年8月に開催されるサンクトペテルブルグにおけるG8サミットにもロシアのプーチン大統領に招待を受けており、感染症に関する報告を行う予定になっていた。

生前の李氏は、WHOの組織運営にも尽力した。192のWHO加盟国に対するWHOの責務を重く受け止め、少しでも効率的に任務を適切な技術や人材の確保に力を入れていた。WHO本部での予算削減を促し、強固な財務戦略を押し進めるなど、時には厳しい決断を下す指導者としても知られていた。

原題:A tribute to Dr LEE Jong-wook, Director-General of WHO
日付:May 22, 2006
出典:Yahoo News / World Health Organization
URL:http://www.who.int/dg/lee/tribute/en/


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■□編集後記
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おかげさまで、「グローバル・エイズ・アップデート」は今号で50号を発行しました。
創刊から2周年、購読者も700人を超えました。今後とも、充実した情報をお届けできるよう努めてまいりますので、ご愛顧よろしくお願いします。

ところで、14日朝の首都圏の停電で被害を受けた方も多いのではないでしょうか?
私は幸い(?)首都圏を離れていたのですが、エレベーターに閉じ込められた人も多いと聞いています。ちょっとしたミスで都市機能が麻痺してしまったわけですが、一方で電気のありがたみも感じた出来事でした。そういえば、3年前にもニューヨークでも大停電がありましたね。

読者の皆様の中には、アフリカをはじめ海外で生活している方も多いようですが、それぞれの電気事情等、教えてくださいね。

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