HOME > ajf >

『グローバル・エイズ・アップデイト』第13号

アフリカ日本協議会




グローバル・エイズ・アップデイト
GLOBAL AIDS UPDATE
----------------------------------
 第13号 2005年3月31日
  Vol.1-No.13 Date:March 31,2005

■GLOBAL■<□<■AIDS■>□>■UPDATE■

◆発 行:アフリカ日本協議会
◆連絡先:
・東京都台東区東上野1-20-6丸幸ビル2F
・電 話:03-3834-6902
・FAX:03-3834-6903
・電子メール:info@ajf.gr.jp
◆バックナンバー:以下のブログを参照!
・http://blog.melma.com/00123266/
◆Melma!を通しての購読申し込みは
・http://www.melma.com/mag/66/m00123266/
◆本メールマガジンから転送・引用を行う場合は
 事前に発行者にご連絡をお願いいたします。

*********************
------------------
はじめに:発行趣旨
------------------

○HIV/AIDS問題は、現代世界に於ける保健医療上の最大の問題の一つです。
○しかし、日本では、こうしたグローバル・エイズ問題の深刻さや最新の情報
が伝わっておらず、この問題へのコミットメントが薄いのが現状です。
○このメールマガジンは、グローバルなHIV/AIDS問題の最新動向を日本語で伝
えるメディアが必要だという認識から生まれました。
○HIV/AIDSに関わる主要なウェブサイトの記事を日本語で要約し、隔週で発行
いたします。

----------------------
■「第13号」目次
----------------------

●地域情報

南アフリカ:エイズが主な死亡原因に

ラテンアメリカ:無料ARV治療に向けた会合報告

アジア
1.フィリピン:知らないことは、怖いこと
2.インド:エイズ対策に女性用コンドームを
3.アジア太平洋地域:HIVが貧困に与える影響

●国連関連
UNAIDS:3つのシナリオ

●特集:インド特許法改正とジェネリック・エイズ治療薬
1.インド特許法改正と治療薬問題(編集部による解説)
2.ニューヨークタイムズ紙社説「エイズ治療薬の危機」
3.国境なき医師団(MSF)がインド大統領に宛てた手紙

-------------------------------------------- Vol.1-No.13★--

---------------------
●地域情報
---------------------

----------------------------------------------
★南アフリカ:エイズが主な死亡原因に
----------------------------------------------

 南アフリカ共和国政府は2月18日、エイズ関連の成人死亡者数が、2003年末
までの5年間で57%増加したと発表した。この数字は、様々な国際的保健医療
組織が発表したものに比べるとかなり低い。
 昨年度の国家統計局 the state statistical service の報告書によると、2
001年の南アにおける15〜49歳のエイズ関連による死亡者数は7500人以上(1
日あたり20人程度の計算)で、3.8%を占める。同年齢層の自然死の原因とし
ては、結核、インフルエンザ、肺炎(計28.3%)や脳血管疾患に次いで5番目
に多い。死亡者数は、全体で1998年が 318,287人、2002年が499,268 人であっ
た。
 これに対して、国連やWHOは、毎日600人以上がエイズ関連の原因で亡くなっ
ていると発表している。南ア政府はそれよりも大幅に少ない死亡者数を報告し
ていることになる。
 政府関係者は、未だ社会的にHIV/AIDSにスティグマがあるため、多くのエイ
ズ患者の死因が実際には結核、インフルエンザ、肺炎などに言い換えられてい
る可能性があると認めた。
 国連によれば、人口4,500万人の南アでは、500万人以上がHIVに感染してお
り、この感染率は世界で最悪である。
 ムベキ大統領ほか政府は、エイズ対策の対応の遅れを批判されている。同政
府は昨年まで費用と安全性の懸念を理由に、公共保健施設での抗レトロウイル
ス薬の配給を拒否していた。

原題:AIDS a Leading Cause of Death in S. Africa
日付:February 18, 2005
出典:SFGate.com
URL:http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/n/a/2005/02/18/international/i132957S28.DTL

----------------------------------------------
★ラテンアメリカ:無料ARV治療に向けた域内会合開催される
----------------------------------------------

 2005年1月、コスタリカとペルーのNGOがイニシアティブをとって、「ラテ
ンアメリカ諸国における無料治療アクセスの進歩と障害」と題する国際会議が
開催された。この会議には、ラテンアメリカHIV感染者・エイズ患者ネット
ワーク Red Latinoamericana de Personas Viviendo con VIH/SIDA 
(RedLa+) の各国代表らHIV感染者・AIDS患者が数多く参加した。

 会議では、ペルーのNGO ビア・リブレ Via Libre の理事長、ロビンソ
ン・カベージョ氏 Robinson Cabello が、「今後いかにしてHIV感染者・エイ
ズ患者に持続的なARV治療の供給を行えるか、ラテンアメリカとしてまとまっ
た答えを模索していくべきだ」と重要性を強調した。

 コスタリカ代表のギィジェルモ・ムリージョ氏 Guillermo Murillo は、
「ベリーズを含む中米諸国と、ドミニカ共和国では、2004年時点で、336,500
人がHIVに感染している。11,612人しかARV治療を受けることができず、ARV治
療が必要な26,400人が治療を受けられていない」と現状を報告した。

 ボリビア代表のホルヘ・ヘレラ Jorge Herrera 氏は、1996年にボリビア
でARV治療が可能になったこと、2002年8月にはボリビアHIV感染者・エイズ患
者ネットワーク Bolivian National Network of People Living with
HIV/AIDS (REDBOL)が設立されたと報告した。ボリビアでは、131名が、ARV
治療を受けている。ARVについては、世界エイズ・結核・マラリア対策基金の
資金供給により、ブラジルによって拠出された治療薬が活用されている。

 RedLa+は、ラテンアメリカ諸国政府はエイズ問題に目を向けず、また当局の
無関心が目立つと指摘している。会議において、RedLa+の各国代表らは、ARV
治療の継続と、政府がより真剣に対策に取り組むことが重要であると確認した。
さらに無料治療を広めるために、HIV感染者・エイズ患者らが各地でより大き
な運動を起こしていくことも不可欠であるとまとめられ、会合は閉幕した。

参考ウェブサイト
ラテンアメリカHIV感染者・エイズ患者ネットワーク http://www.redla.org/
(スペイン語)

原題:Access to HIV/AIDS treatment:The constant battle of
zero-positive Latin American activists
日付:February 28, 2005
出典:RedLa+ Issue #15, Cali, Columbia
URL:http://www.paginasyboletines.com/fondo/2005/edicion_16/022005_eng.htm

----------------------------------------------
★フィリピン:知らないことは、怖いこと
----------------------------------------------

※本記事は、フィリピンで90年代からHIV/AIDS問題とコミュニティに関わって
活動を続けている研究者、マイケル・タン氏による論説です。

 フィリピンでは、近隣の東南アジア諸国に比べてHIV感染率が低く、感染者
数も緩やかな伸びにとどまっている。政府の公式統計では、HIV事例報告も通
算3,000件以下しか報告されておらず、潜在的な感染者を含めても、成人のHIV
感染率は1%以下と推測される。東南アジアにおける、フィリピンの際だった
HIV低感染状況は、これまでもエイズ研究者らの注目を集めてきた。政府やNGO
が、HIVが国際的に認識され始めた1980年代にいち早く対策を始めたため、感
染率の低さの要因の一つとなっている。
 ところがここ数年、人々のエイズについての認識が低下している。2003年全
国人口健康調査(全国保健調査)The 2003 National Demographic (and*)
Health Survey (NDHS) によると、95%がエイズについて「聞いたことがあ
る」と答えたが、生活水準や居住地域によって大きな差があり、ミンダナオ
島・イスラーム教徒自治地域(ARMM: Autonomous Region of Muslim
Mindanao)での調査では、女性で75%、男性で51%にすぎなかった。
 この地域では、HIVに関する具体的な知識については、さらに低い数字が報
告されている。約40%強の人々が蚊を媒介して、HIV感染し、約20%は超自然的
に感染すると信じていた。HIVとエイズの違いについては、大学教授の間でさ
え、あいまいな理解にとどまっている。
 このような理解から、実際的に目に見えるような日和見感染症などによって、
感染しているかどうかを判断する人もいる。例えば、セックスワーカーやその
客は、一見健康そうに見えるため、互いに相手が感染していないと考え、コン
ドームを使う必要がないと思い込むということが多い。コンドームがHIVの感
染を防ぐことを知っていたのは、この地域では、女性で48%、男性で62%のみで
あった。多くの人々は、HIVはセックスワーカーとその客だけの問題だと考え
ている。
 政府は、セックスワーカーに対し、HIV感染と性感染症検診を義務付けてお
り、診断書を発行している。しかし、感染してから1〜3カ月の間は、検査を
受けても感染がわからない「ウインドウ・ピリオド」期にあたる。これについ
ての検討がないところでテストを受けて、証明書が発行されるというケースも
あり、注意が必要である。
 さらに、エイズ患者に対する差別が存在するため、HIV感染者・エイズ患者
(PLWHA)は、病気を隠さざるを得ず、社会的に排除されてしまう。PLWHAへの適
切なケアとサポートは、問題解決に不可欠であるにもかかわらず、フィリピン
では、そのような環境が整っていない。このような状況を鑑みれば、将来、こ
の国でエイズが徐々に流行拡大したとしても、不思議ではないだろう。

編集部注) 全国人口健康調査(全国保健調査)の正式な名称は、The
National Demographic and Health Survey 原文では、andが省略されている
ために、編集部で補っています。
参考ウェブサイト : http://www.measuredhs.com/

原題:Low simmer or slow boil?
日付:23 February 2005
出典:Philippine Daily Inquirer
URL: http://news.inq7.net/opinion/index.php?index=2&story_id=28384&col=81

----------------------------------------------
★インド:エイズ対策に女性用コンドームを
----------------------------------------------

【2005年2月25日】インド国家エイズ管理機構 National AIDS Control
Organization: NACO と連邦保健省の家族保健福祉課 Ministry of Health
and Family Welfare は、国家エイズ政策に女性用コンドーム(Female
Condoms: FC)の使用を組み込むことを推奨している。これはNACO、ヒンドゥ
スタン・ラテックス株式会社 Hindustan Latex Limited :HLL および家族保
健基金 Family Health Foundation が主催した女性用コンドームについての協
議会で提唱された。
 インドでは昨年から、FC推奨が開始された。しかし、商業的・社会的にもま
だ利用されるに至っていない。FCに対する認識の低さとそのコストの高さが障
壁となっている。HLLは、FCを配給している唯一の企業で、4月には商業的に新
しい「コンフィドム 'Confidom'」に着手する。頑丈で柔らかく透明なポリウ
レタン製で、性行為の前に女性の膣に入れて、使用する。
 インドでは、HIV感染者が510万人、昨年8月までにエイズ患者が87,596人報
告されており(NACO統計)、世界の 10%を占める。HIV感染者エイズ患者のう
ち3人に1人は女性である。これまでのHIV予防計画は、女性のエンパワーメン
トと男性の参加問題を見過ごしてきた。有効な唯一の防止策は、全ての性交渉
でFCを含めたコンドームの使用の促進である。FCによって、女性が主導的に、
望まない妊娠、HIVを含む性感染症から守ることができるだろうし、長期的に
は、女性のエンパワーメントや男女平等といった根の深い問題に取り組むこと
が期待できる。またNACOの防止計画にFCを導入すれば、女性主導の防止策への
アクセスが増え、インド全土にコンドーム使用に前向きな影響を与えるであろ
う。

原題:Female Condoms to counter AIDS
日付:23 February 2005
出典:SEA-AIDS
URL:http://eforums.healthdev.org/read/messages?id=4420

----------------------------------------------
★アジア太平洋地域:HIVが貧困に与える影響
----------------------------------------------

【2005年2月21日】アジア開発銀行(Asian Development Bank:ADB)副総裁
ヴァン・デル・リンデン氏 Geert Van Der Linden は「国連ミレニアム開発
目標は、2015年までにアジア太平洋地域の貧困を半減するという目標を立てて
いるが、これは HIV/AIDS対策抜きには達成できない」と述べた。副総裁は、
ADBとUNAIDSが作成した同地域のHIV/AIDSに関する報告書を受けてこの発言を
行った。
 同地域では、HIV/AIDS感染者数は拡大傾向にある。2001年、HIV感染者・エ
イズ患者は計約700万人いた。また、エイズに関連して死亡した人が50万人を
超えている。しかし、報告書では、2010年までには、年間75万人が死亡するだ
ろうと予測する。HIVに直接起因する経済的損失も、2001年は総額73億米ドル
(2001年)であったが、予防と治療にさらなる投資を行わなければ今後倍の
175億米ドルになると予測されている。
 報告書ではHIVが貧困を助長することも指摘している。同地域諸国はこれま
で貧困の削減に努めてきたが、報告書では、2003−2015年の間に、カンボジア、
インド、タイ、ベトナムで年間平均560万人がHIV/AIDSが原因で貧困に追い込
まれるだろうと述べられている。状況改善のためには、政府やドナー機関の経
済的な支援が急務である。2003年にこの地域の国々は、エイズ対策のために約
15億米ドルを必要としていた。しかし、公的機関とドナーによる資金の提供は
2億米ドルのみであった。
 予防、意識向上、治療プログラムなど増え続ける仕事量のために、アジア太
平洋地域では、2007年までに51億米ドルを必要としている。
 ADB と UNAIDSは、アジア太平洋地域のエイズ対策を拡大することで合意し
た。UNAIDS事務局長ピーター・ピオット氏 Peter Piot は、HIV/AIDSは「人類
にとって最大の挑戦のひとつ」と話している。

原題:Fighting poverty 'means fighting AIDS'
日付:February 21, 2005
出典:The Sydney Morning Helard
URL:http://www.smh.com.au/news/Breaking-News/Fighting-poverty-means-fighting-AIDS/2005/02/21/1108834731530.html#

--------------------
●国連関連
--------------------
----------------------------------------------
★UNAIDS:アフリカのエイズ・3つのシナリオ
----------------------------------------------

 UNAIDSは「アフリカのエイズ:2025年までの3つのシナリオ」と題する報告
書を発表した。報告書では、「最善」「中間」「最悪」の場合をそれぞれ想定
し、最悪の場合、1980年から2025年にかけて、アフリカでは約6,700〜8,300万
人がエイズ関連の病気で命を落とし、2003年から2025年までに新規HIV感染者
は8,900万人になると予測している。ちなみに「最善」の場合については、新
規感染者は4,600万人と予測されている。最善の場合、2025年までに、70%の
HIV感染者が抗レトロウイルス薬(ARV)治療を受けられるが、最悪の場合20%
にとどまるとしている。
 最善のシナリオのためには、「かなり considerabl[y]」多くの海外援助が
必要である。報告書では、アフリカにおける1,600万人のエイズ関連の死と
4,300万人の新規HIV感染者を防ぐため、今後20年間で約2,000億円の海外援助
が必要になると概算している。しかしながら、現時点で資金提供はこの額に遠
く及ばない。
 エイズ状況の今後はアフリカの指導者の政策や海外からの援助次第だとしめ
くくっている。UNAIDS事務総長のピーターピオット氏 Peter Piot も「アフリ
カやその他諸国が、エイズを経済や社会生活を混乱させる可能性のある例外的
危機ととらえ、本腰をいれて対策に乗り出せば、何百万人という新規HIV感染
者を防ぐことができる」と語っている。エチオピア大統領ギルマ・ウォルドギ
オルギス Girma Woldegiorgis は、「エイズに立ち向かっていこうとしている
今、人的、経済的資源集めに取り組み、かつそれらを持続的な前進のために有
効に活用しなくてはならない」と話している。
 報告書は2年間に及んだ調査に基づいている。調査には、アフリカ開発銀行、
アフリカ連合、世界銀行や、ロイヤル・ダッチ・シェル Royal Dutch Shellな
どの企業も協力した。

原題:More Than 80M Africans Might Die From AIDS-Related Causes by
2025; Almost $200B Needed To Combat Disease, UNAIDS Report Says
日付:Mar 04, 2005
出典:kaiser daily network
URL: http://www.kaisernetwork.org/daily_reports/rep_hiv_recent_rep.cfm?dr_cat=1&show=yes&dr_DateTime=04-Mar-05#28467UNAIDS

----------------------------------------------------
●特集:インド特許法改正とジェネリック・エイズ治療薬
----------------------------------------------------

-------------------------------
★インド特許法改正と治療薬問題
 (編集部による解説)
-------------------------------

 「南の技術大国」といわれるインドは、医薬品、とくにジェネリック医薬品
製造において、途上国のパイオニアの位置を占めてきました。とくにHIV/AIDS
に関しては、インドのジェネリック薬製造大手Cipla社が、国境なき医師団と
の連携で途上国におけるエイズ治療薬の「価格革命」を起こし、これが現在の
途上国における安価なエイズ治療の実現の引き金となりました。現在、インド
は途上国で流通しているエイズ治療薬の50%を生産しています。

 こうしたことがインドで実現できた要因は二つありました。インドが製薬産
業においてかなりの技術を持っていることと、インドの特許法が、医薬品への
物質特許を認めていないことです。インドは医薬品に物質特許(物質それ自体
に関する特許)をかけてはならないという特許法があったために、多国籍製薬
企業はインドでは医薬品について製法特許(医薬品の作り方の特許)をとるこ
とはできても、物質特許をとることはできませんでした。そこで、インドのジ
ェネリック薬企業は、特許権を持つ多国籍製薬企業とは異なった製法で、同じ
成分・効能を持つ医薬品を製造し、輸出することができたわけです。

 しかし、インドも加盟している世界貿易機関(WTO)では、知的所有権保護
の基準を統一することを定める「貿易関連知的所有権協定」(TRIPs協定)の
遵守が義務とされています。TRIPs協定は、インドのように物質特許関連で法
律改正が必要な一部の途上国については、2005年1月1日までにTRIPS協定に
準拠した特許法を制定することを定めていました。今回のインドの特許法改正
は、このTRIPS協定の規定を守るということで行われたものです。これにより、
インド特許法で物質特許の保護が定められると、これまでのように大手を振っ
てジェネリック薬を製造・輸出することができなくなります。今回のインドの
特許法改正が途上国で多くの懸念を生んでいるのは、このためです。

 とは言っても、インドの特許法改正によって、アフリカなどの途上国の多く
で現在利用されている多剤混合薬(Fixed Dose Combination)全てが製造・輸
出できなくなるわけではありません。これらの薬の多くは、1995年のTRIPS協
定施行以前に開発されたものか、もしくは特許権を所有している企業が途上国
向けには特許権を放棄しているものか、いずれかですので、インドはこの特許
法改正によっても、法律上の問題なしにこれらの薬を製造・輸出することがで
きると思われます。

 影響が出てくるのは、数年後に、途上国において、現在使われている多剤混
合薬への耐性が大規模に出現し始めた場合です。耐性HIVは、長期間、同じ薬
を服用していれば必然的に出てくるもので、先進国においても、長期間薬を服
用している人たちの間にはすでに耐性ウイルスが生じています。ですので、新
薬を継続的に開発していく必要があり、実際、先進国市場がしっかりとある
HIV/AIDSについては、次から次へと、効果があり副作用が少ない新薬が開発さ
れ続けており、ある薬に耐性ウイルスが出来ても、組み合わせを変えて他の薬
を飲むことで、病気の進行を抑えることができています。

 HIV/AIDS治療の長期化により耐性ウイルスができるのは、先進国に於いても
途上国に於いてもいわば必然的なことです。途上国においても、耐性ウイルス
に対応して、効果のある治療を安価に継続していく上で基盤となるはずだった
のが、インドのジェネリック薬産業でした。くための基盤が、本来、インドの
ジェネリック薬産業であるはずでした。現在途上国で大々的に使われている多
剤混合薬も、同じ成分の薬を先進国でブランド薬として入手しようとすれば、
年間数十〜百数十万円はかかるものです。これが途上国でこれだけ安くなった
のは、インドのジェネリック薬産業が途上国で価格競争を展開し、勝利したか
らです。しかし、インドで特許法が改正されると、新薬に関して物質特許が設
定されるため、インドのジェネリック薬産業は、これらの新薬のジェネリック
版を作ることができなくなります。そうすれば、ジェネリック薬を作ろうとい
うインセンティブが失われ、ジェネリック薬の産業基盤が壊れることになりま
すので、新薬に関しては、現在みられるような低価格での製造・輸出が不可能
になってしまいます。そうすれば、結局、新薬を途上国で安く出回らせるかど
うかはすべて、「先進国の多国籍製薬企業の温情のさじ加減」にゆだねられる
ことになりかねません。

 今後遅くとも5年〜10年たったとき、インドの特許法改正の悪影響は途上国
でボディーブローのように効いてくるものと思われます。これは、別にエイズ
の問題だけではなく、結核やマラリアなどについても程度の差はあれ同じこと
が言えます。インドはまさに途上国における必須医薬品普及の「頼みの綱」で
あり、インドが失われることは世界の貧しい人々にとっての医薬品アクセスが
失われることと同義といってもよいと思われます。

 以下、この問題に関する的確な整理となっているニューヨーク・タイムズの
社説と、「国境なき医師団」のインド大統領に宛てた手紙をお送りします。ま
た、この問題について、より詳細を知りたい方には、以下のウェブサイトにあ
る、「国境なき医師団」必須医薬品キャンペーンのエレン・トゥーン氏による
以下の解説(英語)が参考になります。

Indian Parliament to discuss Patent Law - millions of lives
at stake
http://www.msf.org/countries/page.cfm?articleid=88694E5B-0FED-434A-A21EDA1006002653

----------------------------------------------
★安価なエイズ治療薬の危機:インドの特許法改正
(ニューヨーク・タイムズ紙3月5日付社説)
----------------------------------------------

 インド政府が世界中のHIV感染者・エイズ患者に影響を与える法案審議を始
めた。インドは世界でも有数のジェネリックのエイズ治療薬の供給国であり、
インドの巨大なジェネリック薬産業は、旧来の特許法のもとでは、抗レトロウ
イルス薬(ARV)やその他の薬をコピー生産することが可能だった。インド特
許法は薬の製造方法に関する特許(製法特許)を認めていたが、物質それ自体
に関する特許(物質特許)を認めていなかったからである。
 しかしその特許法の改正が現在インドの国会で審議され始めている。WTOの
強い圧力がその背景にある。
 WTOは、加盟国に特許保護を求める一方で公衆衛生を優先することを認めて
いるが、現状は厳しい。インド特許法改正案のいくつかの条項は、WTOの要請
以上の基準で特許権を保護している。先進国の多国籍製薬企業やインドの非ジ
ェネリックの製薬企業が強硬に特許の保護を要請し、これまでこれら企業のロ
ビー活動によって、公衆衛生を犠牲にする法案が成立してきたのだ。かれらは
アメリカ合衆国の人口よりも多いインドの中産階級を対象として、治療薬の販
売を計画している。
 特許法が改正されて、ジェネリック薬を生産することができなくなった場合、
強制実施権compulsory licenseとよばれる、例外に特許を実施できる権利を発
動して、安価な薬の生産を継続することは考えられる。ジェネリック薬生産者
は特許権者にロイヤリティ(特許使用料)を支払うのみで、使用許諾を得るこ
となく製造することができる。しかし、インドの強制実施権制度の手続きは時
間がかかるし、特許権者と法廷で争う可能性もあるため、活用が難しい。さら
に、インドの新特許法では、生産された製品を、アフリカ諸国などに輸出する
ことは極めて困難になってしまう。
 インド立法府は、安価な薬の提供を阻む特許法改正について、再検討する必
要がある。貧しい国へ治療薬を輸出する道を閉ざしてはならない。立法府は法
案の可能な改正について公の議論に最大限に耳を傾けるべきだ。インドはこれ
まで、自らが世界の公衆衛生の重要な立場にあることを、ほとんど考慮してこ
なかった。インドがジェネリック薬を生産し続けることができるなら、それは
インド国内外の何百万という人命にとって大きな助けになるのである。

原題:AIDS Drugs Threatened
日付:March 5, 2005
出典:The New York Times ウェブサイト
URL:http://www.nytimes.com/2005/03/05/opinion/05sat3.html?8br

----------------------------------------------
★国境なき医師団(MSF)がインド大統領に宛てた手紙
----------------------------------------------

インド大統領 アブドゥル・カラーム閣下

 貴国の国会が、翌週、1970年の特許法の改正案を審議するとうかがいました。
私たち、国境なき医師団(MSF)は、世界のおよそ80カ国で医療支援・救済を
行っている人道支援団体の一つとして、この度、途上国の患者が引き続き手頃
な医薬品の入手を確保するため、インド政府の支援をお願いしたいのです。

 現在、インドは途上国で活用されている安価なジェネリック薬の供給におい
て、重要な役割を果たしています。また世界貿易機関(WTO)における「貿易
関連知的所有権に関する協定」(TRIPs協定)とその公衆衛生への影響に関す
る討議で先導的役割を果たしています。

 現在、途上国で抗レトロウイルス(ARV)治療を受けている70万人のうち50
%がインド製のジェネリック薬を服用しています。MSFは27カ国でARV薬を使用
した治療を2万5千人に施しており、うち70%はインド製の薬品です。インド製
の多剤混合薬(Fixed Dose Combination)は、エイズ治療に革命を起こしまし
た。それはこの薬品によってプロジェクトを行っている私たちには周知の事実
です。インドでは、こうした薬を一つの錠剤にする上で、これまで特許による
制約がかかりませんでした。そのために、使用者に優しい治療法が実現できた
のです。

 MSFはこれまで、今回国会に上程された、現行特許法(1970年制定)の改正
案について吟味してきました。私たちは、この改正案がインド製薬会社による
こうした必要不可欠なFDC薬品の製造と供給を徹底的に制限、さらに、阻止す
ることにつながりかねないと危惧しております。

 インドは安価なジェネリック薬の主な製造国であり、供給元であります。私
たちは、インドがTRIPs協定の法令遵守を行うにあたり、特許法と知的所有権
保護政策において、インド及び世界中の患者のために最大限の柔軟性を保障し
てくれるものであるよう強く求めます。

 我々はインドが「貿易関連知的所有権と公衆保健に関するドーハ宣言」の制
定の際に示した国際的指導力を引き続き示してくれるものと期待しています。
現行特許法の改正案が、いかなるものになるにせよ、安価のジェネリック薬へ
のアクセスにより生命を保っている途上国の何百万もの児童、女性、男性を守
るものとなることを、せつに懇願いたします。

国境なき医師団国際評議会代表(在スイス・ジュネーブ)
ロワン・ギリーズ
Rowan Gillies, M.B.B.S.
President
International Council of M=E9decins Sans Fronti=E8res
Geneva, Switzerland

国境なき医師団必須医薬品キャンペーン ディレクター
カリム・ラウーブディア=セラミ
Karim Laouabdia-Sellami, MD, MPH
Director
Campaign for Access to Essential Medicines
M=E9decins Sans Fronti=E8res
Geneva, Switzerland

原題:MSF letter to President of India
日付:February 22nd 2005
出典:IP-Health
URL:http://lists.essential.org/pipermail/ip-health/2005-February/007537.html


------------------------
■□編集後記
------------------------
今日の午後、いよいよ東京でも開花宣言がでました。今年の桜は、折りよく新
年度の到来を告げるかのように咲きましたね。
明日から4月。新しい環境に身をおく読者の方々も多いのではないでしょうか。
「グローバル・エイズ・アップデート」も新しい研究員を迎え、ますますパ
ワーアップしていきます。連載企画も予定していますので、どうぞお楽しみに。

------------------------
■□メールマガジンご案内
------------------------

○メールマガジン「グローバル・エイズ・アップデート」は、世界のHIV/AIDS
問題の 最新動向を網羅するメールマガジンとして発行しています。

○このメールマガジンは、購読者の皆さまに逐次お送りするほか、HIV/AIDSや
国際保健・医療関係のメーリングリスト、関係機関等に継続して送付いたしま
す。ただし、メーリングリスト等への投稿は、徐々に減らす形となります。継
続してお読みになりたい方は、以下の講読申込票をメールマガジン発行元(ア
フリカ日本協議会)までご送信下さい。また、本メールマガジンを発行してい
る「Melma!」の以下のサイトから登録することもできます。
http://www.melma.com/mag/66/m00123266/

---------------------------------------
<講読申込票>info@ajf.gr.jpまで
---------------------------------------
○氏名
○所属(あれば)
○メールアドレス
○ご在住の市町村
○コメント
---------------------------------------

○このメールマガジンの記事は、グローバル・エイズ問題や国際保健医療に関
連するホームページを定期チェックして要約・記事化する研究員によって作成
されています。あなたも、研究員になって記事を作ってみませんか。研究員に
なりたい方は、以下の研究員申込票に所定の事項をご記入の上、メールマガジ
ン発行元(アフリカ日本協議会)までご送信下さい。研究員のお仕事の詳細を
別途、ご連絡いたします。

-----------------------------------------
<研究員申込票>info@ajf.gr.jpまで
-----------------------------------------
○氏名
○所属(あれば)
○メールアドレス
○ご在住の市町村
○コメント
-----------------------------------------


UP:20050401
アフリカ日本協議会
TOP HOME (http://www.arsvi.com)