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『アステイオン』第65号

アステイオン編集委員会 編 20061204 阪急コミュニケーションズ,215p,

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last update: 20191205

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■アステイオン編集委員会 編 20061204 『アスティオン』第65号,阪急コミュニケーションズ,238p. ISBN-10: 4484062321 ISBN-13: 978-4484062327 欠品 [amazon][kinokuniya]

■内容

未来を語る前に【鷲田 清一】 (pp.10-11より)

 不確定なものに不確定なままに精確に対処すること、正解がありえないところでそれでも最善の解を探し求めること。これは、意外におもわれるかもしれないが、ほとんど芸術製作の妙に等しい。なぜかといえば、芸術とは、曖昧なものを曖昧なままにかぎりなく精確に表現することだからである。なぜここにこの色なのか、なぜここにこの音なのか、なぜここにこの振りなのか、その必然は、「全体」として閉じえない動く全体が要求してくるものだからである。
 分からないもの、不明なものへの感受性を、わたしたちは少なからず失ってきているのかもしれない。わたしたちは時代の行方に性急な答えを求める。信頼するに足る正確な予測をもとめる。答えが霧の彼方におぼろげに浮かび上がるのを待ちきれないかのように。
 わたしはおもう。ここで必要なのは、科学的な分析能力、予知能力である以上に、「教養」という名の判断力である、と。ここで「教養」とは、第一に、ものごとの軽重、つまりは何がより大事かという価値の遠近法を身につけているということである。第二に、立つ位置によってそのときに限定的に現われる世界を、与えられたその位置の外に出 △10 て、より大きな視野のなかでとらえうるということである。
 スペインの思想家、オルテガ・イ・ガゼットはかつて、「今日のもっとも『教養』ある人びとが、信じられないほどの歴史的無知に陥っている」と警告した。「専門性」という名のもとに、サイエンティストとビューロクラート、テクノクラートは、自己の限られたレパートリーのなかに閉じこもる。他の領域、つまり自分が無知である領域について発言するのは越権としてみずからに禁じる。裏返していえば、他の領域の専門家を自分の専門領域に受け容れようとしない。このような「自己の限界内に閉じこもりそこで慢心する人間」がいたるところにはびこりつつあるのが、現代という時代だ、と。こうした「閉じこもり」は七十年経ったいま、おそらくはいっそう頑迷になっている。行政官僚であれ、メディアのプロデューサーであれ。
 未来を予測する「専門的」な能力よりも、この社会においていま軋みだしているもの、いま飽和点もしくは臨界点に向かおうとしているものへの、深くて重層的な感受性をそなえていること。その混沌のなかで次世代に伝えるべき最低限のものが際立てられる、そのような遠近法を手に入れていること。このことを措いて、一社会の「民度」を測ることはできないようにおもう。


■目次

特集 続・次世代の世界秩序と日本

未来を語る前に
鷲田 清一
「機会均等」教育の変貌
苅屋 剛彦
社会に立ち向かう科学技術
中島 秀人
アラブ・メディアは中東政治を変えるか
池内 恵
中国の未来――「平和的発展は続くのか」
高原 明生

The Essays

あわれで健気で幸せな女
芳賀 徹
名所絵葉書
階 秀爾


第2特集 世界の思想

二〇世紀の「端正」な知識人たち
ヴォルフ・レペニース
「世俗」のパワー
マーク・リラ
息子から見たムソリーニ
アレクサンダー・スティリ

The Essays

モーツァルトを育むのは誰?
渡辺 裕
土の建築
藤森 照信
ジーコの言い訳、ジダンの頭突き
奥本 大三郎

装飾とデザイン――彷徨する造形(連載最終回)
山崎 正和


■引用



■書評・紹介



■言及





*作成:岩ア 弘泰
UP: 20191205 REV:
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