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Africa Recovery


last update: 20160630


◆アフリカ、エイズとの戦いを最優先課題に
 ナイジェリア・サミット、充分な「軍資金」の必要性を強調
 Africa Recovery, vol15 no1-2掲載・エイズ特集

斉藤@AJF事務局です。

原田さんが、Africa Recovery, vol15 no1-2掲載・エイズ特集からまとまっ
た報告記事を日本語にしてくれました。

アフリカ、エイズとの戦いを最優先課題に
ナイジェリア・サミット、充分な「軍資金」の必要性を強調

 4月、アフリカ各国の指導者とコフィ・アナン国連事務総長は、HIV/AIDS
や他の感染症と戦っていこうとするアフリカの決意を後押ししていくことを
確認した。アナン事務総長が、病気との戦いに必要な資金を確保するための
世界信託基金の設置を提案する(「医薬品価格の急激な値下がりが、エイズ
との戦いを元気付ける」参照)一方で、アフリカの指導者達はエイズとの戦
いを「最優先課題」としていくことを誓った。具体的には、国家予算の少な
くとも15%を「保健セクター改善」のために割り当てることを誓約したので
ある。
 「私は、設置される世界信託基金と私たちの努力で、行く手に待ち構える
長期間に及ぶであろう戦いで必要とされる資金が調達できることを強く希望
しています。」2001年4月24日から27日にかけてナイジェリアのアブジャで
開催されたHIV/AIDSと他の感染症に関するアフリカ・サミットで、オバサン
ジョ・ナイジェリア大統領は、他の指導者を前にこう述べている。この会議
は、アフリカ統一機構(OAU)が国連と共催したもので、2000年12月3日から
7日にかけてエチオピアのアジスアベバで開かれた第2回アフリカ開発会議(
アフリカ・リカバリー、2000年1月号)のフォローアップ会議である。
 サリム・A・サリムOAU事務総長は、これに先立って、必要とされる資金を
次のようにわかりやすく表現している。「エイズそして結核や他の感染症と
戦うために、アフリカ各国は、エイズ対策に特に力点を置いて基礎保健プロ
グラムを実施できるよう相当額の予算拡大を実現する必要があります。」そ
して、そのためには、「大規模な予算、名目的だったり、あるいは象徴的だ
ったりすることのない、巨額の予算が継続的に必要なのです。」
 アナン事務総長もこれに同意する。「エイズとの戦争に勝利するためには、
今までの大きさをはるかに超えた軍資金が必要です。」聴衆からの拍手で、
しばしば中断された演説の中で、彼はこう語った。彼は、エイズとの戦いに
は、世界中で年間70億ドルから100億ドルの資金が必要であるとした。「私
たちが要求している金額は莫大なものです。しかし、私たちは、今自分たち
が直面している問題の大きさを考えなければなりません。」
 現在、HIV/AIDに感染している人は世界中で3600万人に及ぶ。そして、そ
のうちの70〜80%がアフリカの人達である。サミットに出席したビル・クリ
ントン前米国大統領は、今やエイズはアフリカ大陸で起っているすべての戦
闘による犠牲者をあわせたよりも多くの人命を奪っていることを、その演説
の中で訴えた。
 OAUは、アフリカでエイズと戦うために必要とされる資金を年間30〜40億
ドルと見積もっている。しかし、現在アフリカ各国の政府が約束している金
額はその約10%に過ぎない。「私たちは、資金をかき集めることに関し主た
る責任は、アフリカ自身にあることを認識しなければなりません。」サリム
事務総長はこのように述べた。
 ポール.カガメ・ルワンダ大統領は、アフリカ各国がHIV/AIDSと戦うため
に特別な予算措置をとること、そしてもしできれば、そのようなプログラム
のために、前もって一定の割合の予算を割り当てるようにすることを、指導
者達に促した。該当国であれば、「債務削減措置で、得られた資金を回す事
もできるだろう」とカガメ大統領は言う。

危機に瀕した大陸

 早急な行動が必要とされていることを、サミット参加者に嫌が応でも認識
させたのは、41歳のナイジェリア人女性ジョルジニア・アハメフレ(
Georginia Ahamefule)さんであった。1995年にHIV陽性と診断された彼女は
現在、結核を発病している。「私たち、アフリカの人々が、あなたがたが持
っている最大の経済資産です。それなのに、今、私たちはゆっくりとしかし
確実に、これらの二つの病によって、消え行こうとしているのです。」彼女
は、HIV、結核、マラリアそして他の疾病に感染した何百万というアフリカ
人を代表して、アフリカの指導者達に語りかけた。「もし、皆さんが今行動
しなかったら、20年後この大陸はどうなっているのでしょうか。」
 アハメフレさんは、自分の結核が治療可能なものであるとしたが、ナイジ
ェリアでは必須医薬品の価格が高いために治療を継続していくことは容易で
はない。「医師は、もし私が治療スケジュールに従わなかったり、あるいは
治療を最後まで続けられなかったりしたら、耐性結核と呼ばれるほとんど治
療の見込みのない結核を引き起こすかもしれないと忠告しています。それは、
間違いなく死の宣告を2度受けるものです。」
 ナイジェリアの少年活動家である、15歳のアバヨミ・マイティ(Abayomi
Mighty)は、アフリカの指導者達に自分達の義務について思い起こさせた。
「皆さんは、戦いが起った時、私たちに戦場に赴くよう命令します。選挙キ
ャンペーンのためのラリーに参加するようにも命令します。今、私たちは
HIV/AIDSと戦っていくために皆さんを必要としています。死にゆくのは私た
ちなのです。」
 ナイジェリア大統領は、アフリカの将来が危ういことを認めた。「私たち
にあるのは、手におえなくなった感染拡大の事実です。そして、それは私た
ちの国、子供たち、そして未来を脅かしています。」オバサンジョ大統領は
参加者に語りかけた。「私たちは危機に瀕した大陸なのです。」
 サミット期間中、指導者達に対して行われた情熱のこもった訴えを考えれ
ば、アブジャ宣言の採択は、指導者達ができる最低限のことであろう。「我
々は、我々の国々におけるHIV/AIDSの急激な感染拡大、そしてエイズ、結核、
他の感染症によって引き起こされる何百万という死について、深い懸念を表
明するものである」、彼らはこう宣言した。そして、さらに「疾病への対策
に真剣に奔走している我々の努力にも関わらず」これらの死が発生している
ことを加えた。
 サミットの最後に採択された活動の枠組みの中で、指導者達はHIV、結核
および他の感染症の感染率を「押え込み、減少させる」ための活動の優先分
野と戦略を決定した。そして、病気との戦いに社会全体を巻き込んでいくた
めには、国家、地域そして大陸の各レベルでの指導力が必要とされているこ
とを強調すると共に、情報、教育、報道、人権保護の各分野での改善を呼び
かけた。

前進と挑戦

 サミットの期間中、いくつかの喜ばしいニュースが届けられた。とても、
小さな喜びではあるが。マラリアとエイズの治療法についての研究で前進が
あったことが報告されたのだ。世界保健機構(WHO)が、マラリアに感染し
た子供を治療するための新たな医薬品を開発したと発表したのである。その
発表によると、アフリカにこの薬が紹介されれば、マラリアで死亡する子供
の数が毎年10万人減少すると言う。現在、サハラ以南アフリカ諸国で、この
病気で死亡する人達は、毎年百万人にのぼる。
 中国の薬草artemisia annuaから抽出されて作られたこの薬は、
Artesunateと名づけられている。直腸注入の抗マラリア薬として開発され、
注入後直ちに吸収される。この薬は病気の進行を食い止めるため、「患者は
意識を回復して、診療所まで出かけ、経口マラリア薬によるより確かな治療
を受ける事が出来るようになる」とWHOは発表の中で述べた。
 WHOは、また、1年前にやはりアブジャでアフリカの指導者達によって開始
されたマラリアへの反撃(Roll Back Malaria)キャンペーンの1周年を記念
して、この日をアフリカ・マラリアの日に指定した。このキャンペーンには、
WHO、国連児童基金、国連開発計画そして世界銀行が参加しており、2010年
までにマラリアの発生数を半分にすることを目標としている。マラリア汚染
地域にある多くのアフリカの国々が、現在、マラリア対策プログラムを実施
している。ナイジェリアでは、「普及をはかり、購入しやすくするために」
蚊帳にかかる税金や関税を引き下げたとWHOは述べた。
 HIV/AIDSを予防したり、あるいは完治させたりするワクチンは存在してい
ないが、国際エイズ・ワクチン研究所(IAVI)は、アフリカを対象に5つの
予防ワクチンを開発中であることを発表した。IAVI総裁のセス・バークレー
は、ケニアのナイロビで、既にこの3月から予防ワクチンの臨床実験を開始
していること、そして、1年をかけて実験を行うことを語っている。しかし、
彼は、開発がもっともうまく行った場合でも、ワクチンが普及するのは7年
後であると説明している。
 オバサンジョ大統領は、ナイジェリア政府が、インドから輸入した廉価な
抗レトロウィルス薬を1万人のエイズ患者に投与するパイロット・プロジェ
クトを開始したことを発表した。
 これらの前進にもかかわらず、道のりは遠い。「自分達をごまかすのは止
めましょう。HIV/AIDSはまさしくここにいるのです。」国連エイズ合同計画
ピーター・ピオット事務局長はこう述べる。「だから、私たちは、今後を見
据えたキャパシティの構築と共に、現在のための緊急行動を始めなければな
らないのです。」

汚名・恥辱からの決別

 サミットにより、1歩の前進がもたらされた。それは、新たな感染を防ぐ
ための戦いにおいてばかりではない。エイズにまつわる沈黙、汚名といった
輪を打ち破ることにおいてでもある。サミットに参加した幾人かの「エイズ
と共に生きる人達」(PLWAs)は、この問題に実体を与えた。この病気にま
つわる社会的な汚名のために、感染者の多くは、自分達の感染を公表しない
し、その他の人達はHIVテストを受けに行くことさえしない。
 「私たちは、皆長い道程を歩いてきました。ウィルスと共に生き、多くの
節目を通り過ぎました。衝撃、恐怖、不確かさ、否定、罪悪感、恥辱、非難、
そしてもちろん希望といった節目です。」ナイジェリア人の活動家で、
PLWAsを代表して発言した一人であるモハメド・ファルク・アウワル(
Mohammed Farouk Auwalu)氏はこう語りかけた。
 「この病気の感染が広がり始めてからの長い歳月、そして科学の発達にも
関わらず、未だにこの病気にまつわる汚名や、差別はひどいものです。」軍
情報機関の将校であったアウワル氏はこう語る。「子供にだって、容赦あり
ません。」
 アハメフレさんのケースは典型的である。彼女の雇用者は、彼女の同意な
しにテストを行った。そして、陽性であることがわかると、解雇したのであ
る。憤慨した彼女は、裁判所にこの件を持ち込んだ。しかし、裁判所は彼女
の訴えを認めなかった。そして、彼女は控訴裁判所に提訴し、現在この件は
係争中である。
 22歳の看護学校生で、HIV感染者のインカ・ジェゲデ(Yinka Jegede)さ
んも同様の経験をしている。学校経営陣は、HIVに感染していることを彼女
が公表することに不快感を示した。その結果、学校は、しばらくの間彼女を
停学処分にしたのである。今、彼女は、卒業するために余分に一年間学校に
通わなくてはならない。会議の冒頭に開かれた閣僚級会合で彼女はPLWAsへ
の態度を変えていく事を要求した。「私たちの権利は完全に認められなけれ
ばなりません。」彼女は、また、エイズに関する国家政策策定の場にPLWAs
が参加できるようにすべきであること、PLWAsの指導的役割を認めることを
各政府に求めたのである。
 参加者達は、ウィルスと共に生きている人達が、この状況を打破するため
に演ずるべき役割があることを認めた。「元首は、沈黙を打ち破るためのイ
ニシアチブを自らとる必要あります。そして、人々がエイズについて話し合
う事ができるようにしなければなりません。」クリントン前大統領はこう発
言した。

計画とパートナーシップ

 HIV/AIDSとの戦いの中で、お金は重要である。しかし、行動計画がないな
らば、アフリカ各国が、前進できるチャンスはほとんどないだろう。計画策
定の際は、それを「重点分野」とすることが大切であると、カガメ・ルワン
ダ大統領は述べている。「これは、今後長期間にわたって、私たちが共に生
きていかねばならない問題です。」彼は、他の指導者達に対して、「短期的
な対策」に頼ることのないようにと語りかけた。
 指導者達もこの点を理解している。「我々は、HIV/AIDS、結核、そして他
の感染症の流行を食い止め、感染率を減少に転じさせることが、21世紀の最
初の四半世紀における最重要課題であることを完全に認識している。」アブ
ジャ宣言ではこう述べられている。
 国家計画の策定にあたっては、エイズとの戦いで中心となるのがアフリカ
各国であることが明確にされなければならない、と発言者は主張する。更に、
国内の資源を動員し、そのコミットメントを確保することは、各国の政治的
意志を明らかにするものと言える。そして、この事が、HIV/AIDSとの戦いに
勝利するために最も重要な鍵であることを、ほとんどの参加者が同意してい
る。
 言い換えれば、このような行動は、アフリカ各国がこの戦いに真摯である
ことを国際社会に納得させ、国際社会とアフリカ大陸との間でより強力なパ
ートナーシップを構築していくための基礎となるだろう。「目の前の道はた
った一つしかありません。それは、パートナーシップ構築の道なのです。」
ピオット事務局長はそう語った。

 

◆「アフリカ諸国の対応能力は大きい」
 From Africa Recovery, Vol.15

斉藤@足立区です。

Africa Recovery, Vol.15掲載エイズ特集から'Africa's capacity to deliver is huge'の訳を投稿します。
この特集の記事、残りもわずかになりました。原田さんほかの方にお願いして、近々、翻訳・紹介を完了する予定です。

アフリカ諸国の対応能力は大きい
アフリカ諸国のHIV/AIDSに関する国連特使、ステファン・ルイス氏へのインタビュー

 6月1日、カナダの前国連大使であるステファン・ルイス氏が、コフィ・アナン国連事務総長からアフリカ諸国のHIV/AIDSに関する国連特使に任命された。6月半ば、この率直な外交官はアフリカ・リカバリーのインタビューに応じ、自らの仕事はアブジャ・サミットでアフリカ諸国の首脳たちが表明したエイズに対する闘いへのアナン事務総長自身の関与を表明することにある、と語った。
 アフリカにおけるエイズ危機について、ルイス特使は、何人ものアフリカ諸国首脳同様、「世界は恐るべき無責任さで放置してきた」と語った。1990年代の終わりに至っても、「多くのHIV/AIDS感染者は見捨てられており、感染者たちの暮らす国々は大変な困難に陥っていた。世界中があえて踏み込もうとせず、誰しもが、この件については沈黙を保っている間に、我々の周囲全てで、この世界的な感染拡大は大災害を引き起こし始めていた。」と言うのである。
 この64歳の外交官は、長年に渡ってアフリカの諸問題に関わってきている。1986年の国連アフリカ特別総会の準備・運営に関わり、1995年から99年にかけては国連児童基金の事務局次長を務め、一方で、1994年のルワンダ大虐殺にあたってアフリカ統一機構(OAU)が組織した調査団の一員も務めた。彼の主要な任務は、アブジャでかかげられた公約をアフリカ諸国の首脳たちと共同して実現することであるが、同時に、アフリカに関わる援助国・援助機関、民間部門のリーダーたちそして多国籍機関と連携を取っていくことにもなっている。

切迫感漂う

 ルイス特使は語る。「幸いなことに、この4カ月から6カ月で全ての雰囲気がびっくりするほど変わりました。今では、紛れもなく切迫している、非常事態だという認識があります。今年初めから起きているのは、圧倒的な危機意識の高まりであり、またアフリカ諸国首脳が指導力を発揮すべきだという決意の形成なのです。今では、誰もエイズについて語ることを躊躇していません。」
 もう一つの決定的な出来事は、南アフリカの薬価低減の試みに法廷での闘争を挑み、この4月その提訴を取り下げることを強いられた大手製薬会社の劇的な方針転換と、それによって実現した途上国でのエイズ治療薬価格の急落である、と彼は語った。「製薬業界は、世界的に広がった激しい怒りに気づき、全ての人びとに関わる災難に関わりあることを認識して、特別な方針決定でやり方を変えました。それで、雪だるま式にある会社に別の会社がそれに続く形で、薬の値段を下げ、無償での供与を拡大し、ウガンダやボツワナでは病院を建設する費用も提供する、という状況になったのです。この状況の変化には、事務総長自身も自ら積極的に関わってきています。」
 三つ目の心強い変化は、基金拠出です、と彼は続けた。事務総長が提唱した、途上国でのエイズ・マラリア・結核との闘いへの新たな資金拠出源として最終的には年間70億ドルから100億ドルを運用することを目指す世界エイズ保健基金は、「既存のシステムに衝撃を及ぼしている」。当初の拠出表明が4億5000万ドルであり、今後、基金拠出の増加を目指さなければならないことを、ルイス特使は認めた。
 「しかし実現可能なことなのです。資金が集まれば集まるほど、大きな変化につながります。今、私たちはアフリカにおけるエイズ感染拡大を押しとどめ、さらには感染を徐々に縮小へと押し戻していく瀬戸際にいるのです。」

ジェンダーそして借款供与をめぐる諸問題

 ルイス特使は強調した。全ての取り組みを支えるのは、アフリカにおけるエイズ危機の見通しとあり方に関する理解が急速に広がり深まったことです。特に重要なのは、ジェンダー抑圧と関わっていることが理解されたことです。「やっと世界中が、アフリカにおいてはジェンダー抑圧とエイズ感染拡大が関わっていることを理解したようです。女性がもっとも危険にさらされている、だから女性の社会的・文化的平等を実現するために何かをしなくてはならない、という認識がなければ、現在のエイズ危機を克服することはできないのです。これがこの危機全体の基本的なカギなのです。男たちが振る舞い・行動を変えなかったために、いずれにせよ女たちは男たちを撃退することのできる力量を身につけることを迫られたのです。」
 ルイス特使が見るところでは、数十年に渡ってアフリカの人々の健康と教育を損なう政策を採ってきた国際金融機関の行動も、変わることを求められている。ルイス特使は、世界銀行ほかの国際金融機関によるエイズ対策への資金供与を「見るに忍びない」と表した。これらの金融機関が過去の政策の誤りを検討し始めたことは確かだが、ルイス特使は「過去の誤りが一掃されるのでなければ、納得いかない」と語る。
 「先進国においてはすでに何年も使われている抗レトロウイルス薬によってHIV/AIDS感染者の延命が実現しているというのに、アフリカでは1700万人が死亡し、2500万人がHIV/AIDSに感染しているのを見ると、(金融機関の方針転換は)余りにも遅いのです」、と彼は言う。「やっと今になってアフリカでも抗レトロウイルス薬での治療を始めようとしているなんて、とても受け入れがたい、何とも弁解のしようもないダブル・スタンダードが存在してきたのです。アフリカのPHA(People who have AIDS)も、西側諸国の人々同様、生きる権利を持っているのです。」一方で、彼は、患者に薬を届けることがと感染予防努力とが秤に掛けられてはいけない、「感染予防努力こそがすべての出発点なのです」と強調した。

アフリカ自身の力を動員する

 6月、ルイス特使はボツワナに行きフェツス・モガエ大統領(President Festus Mogae)、国連当局者、HIV/AIDSに取り組むCBO(community-based organization)メンバーと面談した。ボツワナは世界で最もHIV感染率の高い国である。2002年初めに、ボツワナは30万人のHIV陽性者に対して抗レトロウイルス薬の使用も含む大規模な治療努力を開始しようとしている。「モガエ大統領は国家の生死を賭けて戦っているのです」とルイス特使は語る。
 このボツワナの治療の試みは、アフリカではHIV/AIDS感染者の治療は不可能で感染予防だけが実施可能だとする北側の人びとアフリカへの不信への挑戦でもある。「この試みが成功し、人びとが体調を取り戻し、健康そうに感じられ、体重も増え、そして再び生産に寄与することができるようなれば、間違いなく周辺諸国へインパクトを与えるだけでなくアフリカ大陸を見る眼自体が変える力をもつ。」
 ルイス特使は言う。ボツワナで最も彼の感銘に残ったのは、普通の人びとの意識と状況を変えようと言う決意だ。「大衆的な参加意識は、行けば判る。すごいものがある。ここに希望がある。これがアフリカの力なんだ。治療が実現し感染予防が実を結び普段いる場所でのケアが充実していけば、この巨大な人的資源を活用することができる。それが可能だと確信できる。今は、食べる物がなく、毛布がなく、配るための薬もない。しかし、人びとが秘めている力はすごいんだ!」
 彼は強調する。「カギは女性たちだ。物事を動かすのはいつだって村々の女性たちなんだ。」危機意識が共有され、治療とそれを支える資金供与が実現した時、国連の果たすべき役割は、エイズとの闘いの中で国際社会とこの村々の女性たちを結びつけることなのだ、というのがルイス特使の結論である。「事務総長のために果たすべき私の役割は、この結びつきが実現するよう導くことなのです。」

REV: 20160630
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