HOME > World / Africa >

公開書簡
プロサバンナにおける JICA の活動に関する抗議文


Tweet


アフリカアフリカ Africa 2018


おかねおくれ


作成:斉藤龍一郎
 *(特活)アフリカ日本協議会理事、生存学研究センター運営委員



PDFファイル ダウンロード


マプート、2017年2月17日

独立行政法人 国際協力機構理事長 北岡伸一様

プロサバンナにおける JICA の活動に関する抗議文

本状は、「プロサバンナにノー」を表明する農民と市民社会組織がともにJICAに提出する最初の書簡です。

これまで起きたすべての出来事、そして「プロサバンナにノー キャンペーン」によって集められた一次資料の数々は、プロサバンナ事業を進めるにあたりJICAがモザンビークの社会に直接的に介入していることを明白な形で証明するものです。その社会的直接介入とは、資金を介して、職員を介して、あるいは契約したコンサルタントを介して行われてきましたが、いずれのものであろうとも、以下に挙げる否定的な影響をモザンビーク社会に与えました。つまり、人権侵害、小農らの土地への権利と食料安全保障に対する侵害、地域の小農本来の暮らしや生活への介入、そして何よりもモザンビーク市民社会の独立を奪い、社会内部に分裂・分断を作り出しました。

これらの介入は、JICA自身の「環境社会配慮ガイドライン」と「コンプライアンス・ポリシー」に抵触するばかりか、日本が締結国となっている「国連憲章」、「国際人権規約(市民的・政治的権利に関する国際規約)」、日本の「開発協力大綱」、そして「モザンビーク共和国憲法」にも違反しています。

これまで、プロサバンナ事業において根幹となる活動は極めて秘密裏に行われてきました。そこで、「プロサバンナにノー キャンペーン」に集う市民社会組織は、繰り返しプロサバンナ事業について情報公開の要請を行ってきましたが、これらの要請は受け入れられることはありませんでした。「プロサバンナにノー キャンペーン」として、私たちは、独自に一連の(部外秘を含む)公文書を入手しましたが、それによって、容認かつ受忍できない数々の活動を、JICAがしていたという事実が明らかになりました。

これらによって明らかにされた事実は、プロサバンナ事業が、前掲のガイドラインや法に明記されJICAの活動を本来的に規制しているはずの原則、規範、価値に違反しているばかりか、プロサバンナに関わる3カ国の国民をも裏切ってきたことを示しています。さらには、アカウンタビリティの履行を含むプロサバンナ事業のすべてのプロセスにおけるJICAの活動が、不公正、不透明、かつ無責任なものであったことを裏付けています。

本書簡では、次の点を表明するものです。

これまで、JICAは、モザンビークに「開発」あるいは「支援」だけを持ち込んできたわけではありませんでした。JICAの活動自体が、前述した自身が守るべき諸原則の履行に疑念を抱かせるものでした。これには、「Do No Harm」の原則も含まれます。JICAの一連の活動は、自身の文書が明示するように、モザンビークにおける公正、民主的、透明で責任のあるガバナンスとは裏腹の困難な状況を作り出しています。

ここで強調しておきたいことがあります。それは、私たち「プロサバンナにノー キャンペーン」は、共和国憲法の価値を推進し、これを擁護することに貢献してきたという点です。憲法の中でも、とりわけ重視してきたのが、国家が尊重すべき点として掲げられている民主的な権利、平和の文化、社会正義、言論の多元的主義の尊重、人権の尊重、主権の擁護、その他第11条に掲げられた「基本的な目的」に示されている価値です。

【JICAの「社会環境配慮ガイドライン」】

同ガイドラインには次のように書かれています。

[1.1 理念] ...ODAの実施が開発途上国の環境や社会に与える影響などに十分注意を払い、公平性を確保することを定めている。

【JICAが関与した法令・ガイドライン違反への抗議】

「キャンペーン」が独自に入手した一連の文書から、ProSAVANA-PD(プロサバンナ・マスタープラン策定支援プロジェクト)の一環として、少なくとも四つのサブ・プロジェクトの存在が明らかになりました。JICAは、以下のサブ・プロジェクトを計画し、資金拠出を行い、モザンビーク社会への介入強化を行っています。

  1. コミュニケーション戦略定義プロジェクト
  2. コミュニケーション戦略実行プロジェクト
  3. ステークホルダー関与プロジェクト
  4. マスタープラン見直しプロジェクト

ここで指摘しておきたいのは、上記の最初の3プロジェクトは、市民社会の知らないところで立案され、知らないままに実施されていたということです。

以下に列挙する事実関係は、JICA自身の文書によって明らかになったものであり、またモザンビーク共和国憲法上の規範、国際法やJICAガイドラインによって担保されている諸権利を保障する諸原則に、JICAが明確に違反していることを如実に示しています。

  1. モザンビークのコンサルタント企業(CV&A社)に出したJICAの業務指示書(TOR)には、「各ステークホルダーへのアクションと介入計画」の策定が明確に指示されています(1)。そして、この契約を通じて、2013年9月に、「プロサバンナ事業のためのコミュニケーション戦略」が、JICAによって『戦略書』として完成されました(2)
  2. この『戦略書』には、モザンビーク市民社会の「価値を低めること」、また市民社会の「重要性を弱めること」についての指示が書き込まれていました(3)
  3. JICAは、この『戦略書』を実行に移すため、再度の契約をCV&A社と締結しましたが、これは「特定随意契約」によるものでした。
  4. それにもかかわらず、プロサバンナに反対するキャンペーンが継続することを受けて、次にJICAが着手したことは、地元の別のコンサルタント企業(MAJOL社)と契約することでした(4)。JICAは、MAJOL社に、プロサバンナ事業に抗議するモザンビークの市民社会組織それぞれの、同事業におけるポジションと利害関係、そして(周囲への)影響力の強弱の調査を行わせています(5)。その上で、団体と個人を特定し、「助言委員会」を「唯一の政府-市民社会間対話プラットフォーム/メカニズム」として構築しようとしました(6)。この結果、MAJOL社がJICAとコンサルティング契約を締結している最中の2016年2月に、MCSC-CNが結成されました。
  5. JICAとMAJOLの間で取り交わされた契約の業務指示書によると、この調査を通じてプロサバンナ事業に賛同しうると特定され、モザンビーク農業食料安全保障省(MASA)とプロサバンナ本部(ProSAVANA-HQ)によって許可された団体と個人のみが、この「対話メカニズム」の準備会合に招待されると定められていました(7)
  6. MCSC-CNの結成後、しばらくして、「プロサバンナにノー キャンペーン」は、再び、MAJOL社からJICAに提出された各種報告書を独自に入手しました(8)。それらの報告書からは、以下の目的のためにJICAがMAJOL社との契約を準備したことが明らかになりました。つまり、モザンビークの市民社会、特に北部の市民社会に介入し、これらの市民社会の間に分裂を作り出し、その分断を強化すること、そしてプロサバンナ事業に反対する者を孤立させることが目的であるとされていました。
  7. この結果として、JICAは、モザンビーク市民社会を分断することに成功しました。

これまで私たちは、3カ国の市民社会組織とともに、これらの事実について、声明などの公的な形で強く非難してきました。しかしながら、これらの非難にJICAは応えようとしなかったばかりか、さらにモザンビーク市民社会への有害なる介入を強化する結果となりました。

【JICAによるモザンビークNGO/市民社会の代表者とのコンサルタント契約】

JICAとこのNGOとの契約は、モザンビーク市民社会への介入継続を露呈することになりました。

以上の事実は、国際協力のために日本の納税者がJICAに託した公的資金が、不公正にそして不透明に使われたことを明らかにしています。この契約に対して、2016年11月、そして12月にも、3カ国(モザンビーク、ブラジル、日本)の市民社会は繰り返し反対を表明してきました(13)。さらには、ナンプーラ州の小農リーダーらを含む「プロサバンナにノー キャンペーン」の訪日派遣団が、2016年11月28日の東京での院内集会で、JICAと外務省に対し、改めて抗議を表明したにもかかわらず、次のようなことが起こりました。

【JICAと日本政府のモザンビーク・メディアへの介入】

以上の事実は、JICAがいかなる手法でモザンビーク社会に対して直接的介入を主導し、関与してきたかを如実に示すものです。特に、重要な点としては、JICAの技術協力案件であるProSAVANA-PDの下で立ち上げられたサブ・プロジェクトによる計画、資金投下、実施、管理指導によって、これらの介入はなされてきた点です。

JICAによるこれらの活動が、モザンビーク社会にネガティブで深刻な影響を与えており、JICAの環境社会配慮ガイドライン、国連憲章、国際法、モザンビーク共和国憲法の諸原則に違反していることは言うまでもありません。

【「プロサバンナにノー キャンペーン」による要求】

さらに、「プロサバンナにノー キャンペーン」は、現在JICAに進められていることが発覚した不正やその他の憂慮すべき活動を踏まえ、次の点を要請します。

  1. JICAとソリダリエダーデとの間の契約に関わるすべての文書の公開。これには、インセプション・レポートも含まれます。
  2. 当該契約のプロセスと契約そのものに関する独立した審査会の設置。
  3. ソリダリエダーデとの契約の凍結。その理由は上述の通りです。
  4. 「フィールドワーク」(JICAが主張するところの「コミュニティ・コンサルテーション」)の中止。
  5. モザンビーク共和国憲法、その他の国際的に適用されているあらゆる法律やガイドラインに基づく規範や原則の遵守およびそれらの厳格な適用。

以上、現在の緊急なる状況を踏まえ、本書簡の回答を2017年2月24日までに返答することを、JICAに対して要請します。なお、この要請は、JICAガイドライン「1.4.基本方針」に示された、(重要事項3)「JICAは協力事業の実施において、説明責任と透明性を確保する」、(重要事項4) 「JICAは…ステークホルダーからの指摘があった場合は回答する」、(重要事項5) 「情報公開を行う」に基づいてなされています。

最後に、「プロサバンナにノー キャンペーン」に集い連帯する人びとは、不平等、環境・社会・経済・政治における不正義、人権の擁護、土地・水・森林・空気・財・文化遺産・共通の歴史へのアクセスと管理に関わる諸権利の擁護に尽力し続けることをここに宣言します。さらに、我々は、モザンビーク共和国憲法第81条、つまり「民衆の抵抗に関する権利」を踏まえ、「プロサバンナにノー キャンペーン」として、「プロサバンナ事業へのノー」を強く宣言します。最後に、国内外のすべての社会運動、とりわけ人権の擁護に関わる運動に対し、プロサバンナ事業に対して、共に抵抗し闘い続けることを呼びかけます。

Anabela Lemos  (Justiça Ambiental(JA!)ディレクター、
「プロサバンナにノー キャンペーン」を代表して署名)

ADECRU(農村コミュニティ開発のためのアカデミック・アクション)
カトリック教会・ナンプーラ大司教区「正義と平和委員会」(CAJUPANA)
カトリック教会・ナカラ司教区「正義と平和委員会」(CDJPN)
女性フォーラム / 世界女性マーチ
Justiça Ambiental(JA!環境正義) / FOE Mozambique
人権リーグ
Livaningo(環境NGO)
UNAC(全国農民連合)

【註】

(1) JICA文書、CV&A社へのTOR( p. 4)。 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/102.pdf > 本文へ

(2) JICA文書、『プロサバンナ:コミュニケーション戦略書』ポルトガル語http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/104.pdf > 本文へ

(3) 同上書、 34-35ページ参照。 > 本文へ

(4) JICA文書、MAJOL社との契約書 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/121.pdf > 本文へ

(5) JICA文書、MAJOL社のインセプション・レポート http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/123.pdf > 本文へ

(6) JICA文書、MAJOL社への業務指示書 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/122.pdf > 本文へ

(7) これらのJICA文書は次のサイトに掲載。http://www.farmlandgrab.org/post/view/26158-prosavana-files > 本文へ

(8) http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/data/20160219-prosavana-statement.pdf
 http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2016/03/20160329-prosavana-partnership-with-wwf.html
 http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2016/08/20160829-prosavana-ticadvi.html
 http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/20161117-prosavana-japanese.pdf > 本文へ

(9) JICA文書、契約書 (http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/130.pdf) 、 TOR (http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/131.pdf) > 本文へ

(10) 契約書の2ページ目。 (http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/130.pdf)  > 本文へ

(11) JICA並びに農業食料安全保障省などの文書 http://www.farmlandgrab.org/uploads/attachment/doc_2.pdf > 本文へ

(12) 上記文書の1ページ目末、参照。 > 本文へ

(13) http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/20161117-prosavana-japanese.pdf
 http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy/20161117-prosavana-japanese.pdf > 本文へ

(14) http://www.farmlandgrab.org/post/view/26687-nao-ao-prosavana-e-as-suas-auscultacoes-publicas-fraudulentas
 http://www.farmlandgrab.org/post/view/26908-protesto-urgente-e-pedido-encaminhado-ao-presidente-da-jica-sr-shinichi-kitaoka-versao-portuguesa > 本文へ

(15) JICA文書。http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/docs/103.pdf > 本文へ

関連資料・企画紹介 ProSAVANAについて考えよう

UP:20180416 REV:
アフリカ  ◇世界 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)