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【緊急声明】プロサバンナ事業でのマスタープラン初稿の開示と対話プロセスに関する抗議と要請


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アフリカアフリカ Africa 2018


おかねおくれ


作成:斉藤龍一郎
 *(特活)アフリカ日本協議会理事、生存学研究センター運営委員



私たちは、2012年10月にモザンビーク最大の農民組織連合(全国農民連合UNAC)が、モザンビーク北部ナカラ回廊地域における「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるアフリカ熱帯サバンナ農業開発(通称プロサバンナ事業)」への懸念や問題を指摘する声明を発表して以来(1)、その声に応え、日本の開発援助(ODA)の改善に寄与する目的で活動してきた市民・NGO・研究者等の集まりです。

この度、現地の農民組織を含む市民社会組織から、プロサバンナ事業で深刻な事態が発生しているとの一報を受け、ここに緊急声明という形で私たちの意見を表明いたします。

背景

プロサバンナ事業は、「地域に広大にある未開墾地」への海外投資導入による農業開発を中心とする事業として構想され、地域住民の圧倒的多数を占める小規模農民(以下、小農)らとの協議を欠いたまま実施されたため、その方向性と不透明性は現地の農民組織や市民社会組織に強く危惧され、批判されてきました(2)。これを受けた日本の市民社会は、外務省や独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)との定期的な意見交換会の開催(3)、現地調査を踏まえた農民の現状に関する情報や農民自身の声を伝えることによって、同事業の透明性とアカウンタビリティの向上と改善に協力してきました。

2年以上にわたるこのような活動の結果、日本政府とJICAが、事業の目的を「現地の小農支援」であると明言し、そのために農民や市民社会との「対話を重視する」と述べるようになったことは、ひとつの成果であると考えます。2014年5月12日の岸田文雄外務大臣並びにJICA田中明彦理事長の国会答弁でも、事業の進め方において「丁寧な作業と対話」が約束されています。

しかしながら、現実には、依然として情報開示と対話が十分になされていないために、現地の農民や市民社会は事業の内容とプロセスに懸念を一層強めています。この点については、私たちの現地農民・市民社会組織との合同調査(2014年7〜8月)(4)やその後の追加調査(2014年11月)などでも確認されたため、日本政府及びJICAに対し書状や協議の場でくり返し伝えてきました。

マスタープランについての問題の経緯

そのような中、モザンビークから、プロサバンナ事業の柱の一つである「ナカラ回廊農業開発マスタープラン策定支援プロジェクト」(以下、PD)のマスタープラン素案(初稿)がいつの間にか発表され、当事者の連合組織であるUNACやこれまで同事業に積極的に意見を述べてきた市民社会組織との協議がないままに、民主的とは言い難いやり方での「農村公聴会」が予定されているとの相談が寄せられました。

2012年度に開始したPDは、2013年度の終了が予定されていましたが、ブラジル側コンサルタント機関(FGV)が作成した当初のレポートの内容が、投資偏重で現地農民の土地収用を前提とするものであったため、現地社会のみならず国際的にも懸念と批判が高まり、政府は再考を迫られていました(5)。そこで、3カ国の市民社会は、政府に対し、マスタープランの関連資料の開示を求める一方、策定プロセスに関する情報提供を繰り返し要請してきました。これに応じる形で、上述の国会答弁で「丁寧な対話」が約束されていたため、3カ国の市民社会は、マスタープランの策定プロセスやその「素案」は前広に公開されるものと受け止めていました。

しかし、昨年末に既に「素案(ドラフト・ゼロ)」が策定済みであったことが明らかになり、私たちのみならず現地の農民や市民社会はこれを裏切りと捉え、大きな驚きと失望感を受けました。

その結果、UNACをはじめとする社会の広範なる組織・ネットワーク10団体は、モザンビーク農業大臣に宛てた「請願書」を送り、憲法並びに行政法に基づき、(1)同素案と策定に使われた関連資料の早急なる共有、(2)「行政サービスを受ける側の参加と協力の確保、透明性や意思決定への参加の担保」を要請しています。私たち日本の市民社会も、12月3日に「マスタープランドラフト公開の申し入れ」をJICA理事長宛に提出いたしました。

この申入れに対し、JICAアフリカ部乾英二部長からは、「(素案の議論を)形式的な対話」に留めず(12月15日)、「モザンビーク政府の最終確認が完了し次第、皆さまと共有させて頂く」(同月25日)との代理回答を頂きましたが、その後JICAからの本件に関する連絡が途絶えたために、本年4月9日に理事長宛に状況確認の要請文をお送りしたところ、「先般、ポルトガル語版が完成。以下からダウンロード可能」との回答が14日付で届きました。そこには、先になされた「共有の約束」が果たされなかった理由に関する照会への回答はありませんでした。

その一方で、モザンビークでは、突然農業省より4月20日から29日に「農村公聴会」が3州29カ所で開催されるとのプレスリリース(3月31日付)が一方的に発表されました。プロサバンナ事業は19郡を対象としますが、公聴会は全郡で開催されるわけではありません。また、公聴会には農民や市民が自由に参加できるわけではなく、各人が農業省の出先機関に出向いて登録しない限り参加ができないため、希望者すべてが参加できるわけではないことが問題視されています。

さらに、この200頁を超える素案(初稿)は、公聴会の参加者や希望者に十分な時間をもって配布されているわけではなく、ホームページ上に公開されただけでした。インターネットにアクセスのない者は、各州・郡の農業省出先機関で閲覧できるとの通達がなされていますが、地域の農民らが、同素案の内容を事前に理解して公聴会に参加することはほとんど不可能な状態です(6)。とりわけ、農民の多くはポルトガル語を解さないため、読解にも通訳が不可欠です。また、公聴会は、同じ日に3州5カ所で開催されることが予定されており、各回3時間程度の時間しか確保されていません。このような手法や限られた時間では、上記のような多様な制約条件を持つ地域の農民と十分な対話ができないことは明らかです。

なお、過去30年近くにわたり、政府と農民の間の政策に関する協議に重要な役割を果たしてきたUNACや対象州の農民連合は、素案公開と公聴会の詳細について新聞報道で初めて知ったとのことで、本素案をどのような形で農民と共有し、その意見を汲み取るのかについての相談は一切なかったと述べています。

要請

JICA理事長は、上述国会で「モザンビークの小農始め農民組織、市民社会の意見をできる限り丁寧に反映して、その結果、農民の方々に受け入れられるようなマスタープランを作っていく」との考えを表明しています。しかし、このように地域の農民や住民の状況を理解せず、実質的な協議ができない場に農民の参加を促すやり方は、農民の主権を蔑ろにする行為であり、日本政府・JICAのこれまでの約束に反すると考えます。

もし、このまま事業を強行すれば、農民・市民社会との関係をさらに悪化させかねず、事業の成否も危うくなります。また、現地政府のガバナンス改善を停滞させるなど、日本の国民・納税者に説明が付かないばかりか、ODAの歴史において禍根を残す事態にもなりかねません。この重大な局面に際し、私たちは、まずは日本政府並びにJICAに対し、早急にプロセスの見直しを行い、地域農民との信頼をこれ以上損なわないよう強くお願いするとともに、こうした緊急的事態を広く日本の社会にも知って頂きたく、ここに緊急声明という形で私たちの意見を表明致します。

2015年4月18日

(特活)日本国際ボランティアセンター、(特活)アフリカ日本協議会、(特活)オックスファム・ジャパン、ATTAC Japan、モザンビークの開発を考える市民の会、No! to Land Grab, Japan

(1) Uniao Nacional de Camponeses (UNAC) プロサバンナ事業に関する声明 > 本文へ

(2) Uniao Nacional de Camponeses (UNAC)ほか呼びかけ プロサバンナ事業の緊急停止を求める公開書簡 > 本文へ

(3) NGO・外務省定期協議会ODA 政策協議会サブグループ「ProSAVANA 事業に関する意見交換会」2013年1月(第1回)から現在まで10回を開催。 外務省サイト議事要旨 > 本文へ

(4) 「プロサバンナ事業考察?概要と変遷、そしてNGO からの提言」(2014年10月28日) ダウンロード(PDF) > 本文へ

(5) 国際声明(2013年4月30日)並びに同レポート GRAINウェブサイト > 本文へ

(6) UNESCO 統計によると、成人女性(15才以上)の識字率は42.85%で、成人男性は70.80%であるが(2010年)、これは都市人口を含み、実際は農民の識字率はこれより格段に低い。 > 本文へ

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UP:20180416 REV:
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