カダフィは本当に悪者なのか?
中国在住のアフリカ人たちは意外な評価
2011.11.01(火)
姫田 小夏
リビアの元最高指導者カダフィ大佐が10月20日、同国中部シルトで死亡した。
「カダフィが死んだそうだ――」
10月20日、中国のアフリカ系コミュニティーにも激震が走った。アフリカの母国から電話を受けた者もいれば、メールで知らされた者もいる。情報を受け取ったアフリカ人の1人は「信じられない」とつぶやいた。
中国のメディアもこれを報じた。どの新聞(タブロイド判)もトップ面で扱い、10ページにわたって特集を組むところもあった。東方早報は「カダフィ最後の4時間」の見出しを立て、「市民は街に繰り出し独裁者の死亡を喜んだ」「戦争は終わった、暴君政治も終わった」と報道した。論調はどれも同じくカダフィを「狂犬」と見立て、独裁の終焉に拍手した。
上海には長期滞在するアフリカ人も多く、そのコミュニティーは拡大しつつある。彼らに「これで良かったと思うか」と筆者が聞くと、「何も殺さなくてもいいだろう」と、むしろ反カダフィ派の残酷さに反感の声を上げる者も少なくなかった
あるアフリカ人はこう語る。「カダフィは確かに危険人物であり、変人ではあったが、天の裁きを受けるべき独裁者とは割り切れない。非常に複雑な心境だ」
当コラムでもお伝えしたが、中国在住のアフリカ人に聞くと、アフリカではむしろカダフィを肯定的に受け入れる人が少なくない。今回は、アフリカ人から見たカダフィ像を改めて浮き彫りにしてみたい。
毛沢東語録に匹敵する「グリーンブック」
「毛沢東語録を知っているでしょう? あれに匹敵するのが、カダフィのグリーンブックなんですよ」と、上海を訪れていたアフリカ人のY氏は語る。Y氏は西アフリカの大学で教鞭を執っている。
カダフィの最終目標は、リビア国内に「政府」を必要としない社会主義国家を建設することだった。「毛沢東語録が赤だったのに対し、彼のは緑。国民に所持が義務づけられていた」(同)という。
「グリーンブック(緑の書)」には、彼の哲学が凝縮されていた。だが、結果的に多くの矛盾を生むことになった。
確かに彼は、選挙によって選ばれた大統領ではない。日本では「大佐」と呼ばれるが、カダフィの称号は「リビア最高指導者および革命指導者」、あるいは「敬愛なる指導者」にとどまる。
しかし、彼なりの哲学があったことは確かだ。カダフィは1973年から文化革命を始めるが、彼が求めたのは資本主義でもなければ、共産主義でもない「第三の世界理論」だった。
彼に大きな影響を与えたのがエジプトの故ナセル大統領の存在だった。1940〜50年代にかけて戦火をくぐり抜け、激動するアラブ社会の幕開けをもたらした象徴とも言われている。
1948年にイスラエル建国を契機に始まった第1次中東戦争ではナセルも戦地に赴き負傷している。その後、52年のエジプトにおけるクーデターでは、ナセルが権力を掌握した。このエジプト革命により、王政は廃止され、エジプトは共和制に移行する。
56年に大統領に就任したナセルは、イギリスの管理下に置かれていた戦略上の重要拠点であるスエズ運河を国有化すると宣言。第2次中東戦争が勃発したが、英仏軍を退け勝利した。
こうした一連の動きの中で示されるナセルの革命政策にカダフィは触発され、熱狂的な崇拝者となった。リビアの国内政策は、ナセルがエジプトで行ったものと完全に同じである。69年にカダフィが行った演説もまた、ナセルが52年に行ったものと全く同じだったという。
だが、若き時代の熱い理念は続かなかった。最も直接的な民主制を実現するとしながらも、実際にはリビアの政治と経済は、彼とその家族の手中に収められていった。
アフリカ全土にばらまかれたカダフィマネー
リビアは輸出収入の9割を原油が占め、年間の原油輸出額は422億ドルに上る。カダフィはその巨万の富を一族で支配したわけだから、桁外れの資産家であるはずだ。だが、すべて一族の懐に入っていたかというと、決してそうではなかった。
富を蓄えるのには、彼なりの理由があったようだ。
北アフリカのX共和国から上海に来たZさんは、「カダフィによるX共和国への投資は膨大なものだった」と話す。
広大な土地を買い上げて自らの邸宅を建築し、イスラムの祭りがあるたびに滞在した。その一方で、「国内の銀行やホテルやオフィスビル、その多くが彼の投資によるものだ。フランスを退けて最初にX共和国にテレビ局をつくったのも彼の資本によるものだった」と言う。
同国の農業に対するカダフィの貢献度も高い。100万ヘクタールにわたる灌漑農地があるが、そのうち2万ヘクタールは、カダフィの出資によるものだと言う。
これだけ出資したのは、カダフィの母親がこの国の北部の部族出身だったからだ。莫大な投資は確かにプラスの面での作用もあるが、「母親の出身部族」にカダフィが武器を送り、同国政府に攻撃を仕かけさせようとしたこともあるらしい。
こうした点でも、カダフィへの評価は「複雑」である。多くの資本を投下する一方で、政府を脅かそうとする彼の存在は「諸刃の剣」だとも言えた。
カダフィのオイルマネーは、リビア国内の砂漠の緑化プロジェクトをはじめ、ブルキナファソやセネガルなどの周辺諸国にも向けられた。アパルトヘイト撤廃に向けて活動する南アフリカのアフリカ民族会議も彼がサポートしていた。
アフリカ資本による通信衛星を計画したのもカダフィである。アフリカ通貨基金(African Monetary Fund)を創設しようとしたのも彼だったし、アフリカ連合(African Union:アフリカの53カ国と地域が加盟)を財政的に支えたのも彼だった。
エジプトを発展させたカリスマがナセルであれば、アフリカ全土を発展させようとしたカリスマは、実はカダフィだったというわけだ。実際に、彼はその莫大な資金力をバックに、着々とそれを実行に移していた。
しかし、リビア国内における富の配分には、確かに大きな偏りがあった。2010年には石油による外貨収入が320億ドルあったにもかかわらず、国民の月収は300〜400ドル程度にとどまるなど、「国は富んでも民は貧困」という状況が続いていた。
また、リビアには150を超える部族が存在し、カダフィ派とそうでない部族によっても格差が生じていた。
「殺すに相当する独裁者だ」と強調していたのは、反カダフィの部族だった。一方、「カダフィは日本車の購入に補助金を出したり、海外に派遣する留学生には相当額の生活費を与えたりしていた。すべてを独り占めしていたわけではなかった」というコメントもある。
カダフィなきリビアの先行きは不透明
カダフィが西欧諸国にとって目の上のたんこぶであったことは間違いない。カダフィの強烈な欧米嫌いは有名だ。石油価格決定権を握るために、西欧諸国に「油田を閉めるぞ」と脅すぐらいは朝飯前だ。
カダフィは西欧諸国による「経済植民化」に強く反対し、またアフリカ諸国も彼を支持した。アフリカ諸国には、このままではアフリカは先進国による資源略奪と部族間対立で荒土と化すばかりだという不安がある。これを食い止めるアフリカのリーダーとして、強烈なカリスマ性と資金力を持ったカダフィのような人物が求められていたことは否定できない。そんなカダフィに率いられて、力を持ったアフリカが反旗を翻してきたら・・・。
アフリカの識者は、西側諸国が仕組んだ「カダフィ落とし」の真相はここにある、と受け止めている。
カダフィ政権を倒したリビア国民評議会にも大きな問題が潜んでいる。
33人が代表メンバーとされているが、かつてカダフィ政権で法務大臣を務めた人物が含まれる。さらに、その水面下には、強力な勢力を持つムスリムグループが存在していると言われている。それがアルカイダである可能性も否定できず、事実、カダフィ政権の打倒のために、NATOがリビア国民評議会に供与した武器の一部がなくなっていることについても、「アルカイダに流れているのではないか」と周辺国は不安を強めている。
今後の憲法制定において原理主義が加速するのではないかと懸念する声もある。実際に10月23日に行った、アブドルジャリルの「シャリーア(イスラム教に基づく法体系)がリビアの法律になる」との宣言は国民を震撼させた。
また、カダフィ政権の打倒のために、NATOがリビア国民評議会に供与した武器の一部がなくなっていることについても、周辺国は不安を強めている。アルカイダに流れている可能性も否定できないからだ。
今後、新たなリーダーの下にリビア国民は団結できるのか。国民生活は、カダフィ政権時代よりも良くなるのだろうか。
カダフィなき後のリビアの将来について、答えられる者は誰もいない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/27409
2011年11月1日10時21分
リビア、新首相を選出 学者出身のキーブ氏
リビアで新政権づくりをめざす国民評議会は10月31日、近く発足させる暫定政府の首相に、学者出身で評議会メンバーのアブドルラヒム・キーブ氏を選んだ。評議会は、カダフィ政権からの全土解放を宣言した10月23日から30日以内の暫定政府樹立をめざしており、今後、キーブ氏を中心に組閣を急ぐ。
評議会のメンバー51人が新首相を決める投票に参加。候補者5人のうち、キーブ氏は26票を獲得した。当選後、キーブ氏は記者団に対し、「人権が尊重される国をめざす」などと抱負を語った。
キーブ氏は首都トリポリ出身。渡米後、1984年にノースカロライナ州立大で博士号を取得した。専門は電気工学で、米アラバマ大、トリポリ大、アラブ首長国連邦(UAE)の研究所などで教えてきた。
リビア暫定首相、電気工学者のキーブ氏選出
【トリポリ=佐藤昌宏、田尾茂樹】リビアのカダフィ政権を打倒した「国民評議会」は31日、幹部らによる選挙を行い、近く樹立する暫定政府の首相に評議会幹部で電気工学者のアブドルラヒム・キーブ氏を選出した。
同氏はトリポリでの記者会見で、暫定政府を「2週間以内」に発足させる意向を示した。
評議会は、政治色の薄い学者を暫定首相に据えることで内部の亀裂を避ける思惑があるとみられる。キーブ氏は記者会見で「革命に参加した者たちは皆、同じ考えを持っている。この国の安定こそが最も重要だと思っている」と述べ、結束を呼びかけた。
評議会のアブドルジャリル議長は「全土解放宣言」翌日の10月24日、暫定政府が2週間以内に発足するとの見通しを示していたが、閣僚人事の調整は難航が予想される。暫定政府樹立は、評議会の憲法草案で「宣言から30日以内」と定められた期限ぎりぎりまでずれ込む可能性がある。
(2011年11月1日11時08分 読売新聞)
リビア国民評議会、暫定首相を選出 2週間内に組閣見通し
2011/11/1 11:06
【ドバイ=太田順尚】リビア全土を掌握した国民評議会は31日、新政権の樹立を目指す暫定政府の首相に、評議会のメンバーで電子工学が専門の学者、アブドルラヒム・キーブ氏を選出した。8カ月以内に予定する国民議会選をにらみながら、カダフィ政権崩壊後の国内の復興や国民融和の重責を担う。キーブ氏は約2週間以内に組閣する見通しだ。
暫定首相には評議会でナンバー2のジブリル氏が有力とみられていたが、親欧米・世俗的だとしてイスラム主義勢力などから反発を受け就任を断念。評議会のメンバーの投票で選ぶことにした。AFP通信によると、タルフーニ石油相ら5人の候補が争い、キーブ氏が約50票中26票を獲得して勝利した。
キーブ氏は首都トリポリ出身。米国の大学などで学び、アラブ首長国連邦(UAE)などで大学教授を務めた。同氏は「(政権の)移行期間はいくつもの課題がある」と指摘。「全ての国民の共通の願いは国の安定だ」とし、暫定政府の運営への協力を求めた。
国民評議会は10月23日に「全土解放」を宣言。8カ月以内に新憲法を定めるための国民議会選を実施するとしている。評議会内の部族や地域の対立を背景とする主導権争いは激化しており、閣僚ポストの配分が難航する懸念もある。
一方、31日の軍事作戦終了に合わせトリポリを訪問した北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長は同日、「NATOの歴史の中の成功した章が今夜終わる」と軍事介入の成果を強調。「今度はリビア国民が新たなリビアの歴史を書く番だ」と述べた。
2011年11月2日10時19分
「復興さなかのPKO派遣に感謝」 潘基文国連事務総長
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は1日、日本政府が南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に陸上自衛隊の施設部隊派遣を決めたことを歓迎する声明を発表。「日本が東日本大震災からの復興のさなかに、(南スーダンの)平和維持に貢献すると強く約束してくれたことに心から感謝する」とした。
国連外交筋によると、国連事務総長がPKO派遣を決めた国に個別に感謝の声明を発表するのは異例。声明は潘氏の強い意向で出され、「8月の被災地視察で日本の置かれた大変な状況をわかっているだけに、日本人に感謝の気持ちを伝えたかった」(国連幹部)という。(ニューヨーク=春日芳晃)
国連事務総長、リビアを予告なしで訪問 評議会メンバーと会談
nikkei.com
2011/11/3 0:16 (2011/11/3 1:31更新)
潘基文事務総長は2日、リビアの再建支援に向け、首都トリポリを予告なしで訪問、同国の統治主体となった国民評議会のメンバーらと会談した。国連総会のナセル議長(カタール)も同行した。事務総長報道官が明らかにした。
潘氏の訪問はフランス・カンヌで3日から開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合出席に先立ち行われた。2日夕にはカンヌ入りする予定。
国連はリビア再建を援助する国連リビア支援団(UNSMIL)を設置。潘氏は今回の訪問で、リビア復興に関係する団体のメンバーとも会い、今後必要な支援について意見を交換する。
潘氏はこれまで国連総会などで新生リビアのため「国連はあらゆる支援をする」と表明し、最高指導者だったカダフィ大佐が死亡した後には報復を避け国民和解に努めるよう要請していた。(ニューヨーク=共同)
カダフィ氏次男の国外逃亡、雇い兵集団が支援か
【ニューヨーク=柳沢亨之】国際刑事裁判所(ICC)のオカンポ主任検察官は2日、リビア情勢を巡る国連安全保障理事会の会合で、元最高指導者カダフィ氏の次男セイフ・イスラム氏の国外逃亡を雇い兵集団が支援しているとの情報を得たことを明らかにした。
ICCは、セイフ・イスラム氏に対し「人道に対する罪」の容疑で逮捕状を出しており、南隣のニジェールに出国したとの情報がある。
一方、主任検察官は、カダフィ氏死亡の経緯について、リビアの統治機関「国民評議会」が調査する意向を示したことを指摘。「ICC設立条約上、国内の手続きが進んでいる以上、ICCは介入すべきでない」と述べ、静観姿勢を示した。
(2011年11月3日18時57分 読売新聞)
国連事務総長がリビア訪問、武器管理徹底を要請
【トリポリ=佐藤昌宏】国連の潘基文(パンギムン)事務総長は2日、リビアの首都トリポリを予告なしに訪問し、新生リビアを統治する「国民評議会」のアブドルジャリル議長と会談した。
潘事務総長のリビア訪問は、今年2月の内戦開始以降初めて。事務総長は会談後の共同記者会見で、化学兵器や内戦中に拡散した武器類の管理徹底をリビア側に求めたことを明らかにした上で、「『警備と管理を徹底する』との議長の発言に勇気づけられた」と述べた。
議長は「武器管理の資金が不足している」と強調。国際社会に、リビア資産の凍結解除を急ぐよう、改めて求めた。
(2011年11月3日20時26分 読売新聞)
リビアなど41カ国は就労「不適格」 比政府が発表
nikkei.com
2011/11/4 19:19
フィリピン政府は同国人海外就労者の就労先として不適格な41カ国を発表した。中東のレバノンやリビア、アジアではインドやカンボジアなどが入った。就労者を保護する国内法や2国間協定、国際条約に加盟しているかどうかなどに基づき就労中止を検討。状況が改善しなければ正式に禁止する。海外就労者の送金が支える比経済に影響を与える可能性がある。(マニラ支局)
米国防長官、リビア訪問
パネッタ米国防長官(中央)は17日、リビアの首都トリポリを訪問した。米国防長官のリビア訪問は初めてで、リビア新政権が求めている安全保障上のニーズを探るのが目的。 【AFP=時事】
http://www.jiji.com/jc/p_archives?rel=j7&id=20111217221049-1887028
リビア国営電話会社、北アフリカ事業拡大を加速
http://www.africa-news.jp/news_rbW3xbQS0.html
地域での存在感拡大に意欲
リビアの国営電話会社LAPグリーン・ネットワークは、シエラレオネおよびトーゴでの事業展開を近く開始することを発表した。また、南スーダンでも、無線サービスの提供を開始するという。
LAPグリーンは現在、リビア以外ではウガンダ、ルワンダ、ニジェール、コートジボワールの4か国に進出している。今後もブルンジ、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、ギニアへの参入を計画しており、北アフリカ地域の通信市場でプレゼンス拡大を狙う。
大手各社との競合を目指す
同社の目標は、南アフリカのMTNグループやボーダコム・グループ、仏フランステレコム傘下のオレンジといった、アフリカで強力な基盤を築いている大手各社に肩を並べることだという。ウェブサイトでも
「戦略的に適合した大陸で、積極的に成長機会を探っている」
と述べている。