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世界の食料システムと気候危機


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アフリカの食料・農業問題/アフリカアフリカ Africa 2015

世界の食料システムと気候危機

2009年10月 グレイン

ハイテク種子や派手な包装を使った今日の世界の食料システムはすべての人々を養うという最も基本的な機能を果たすことができずにいます。この途方もない失策にもかかわらず、上層部権力機構では方向転換の話し合いは行われずにいます。大規模な高まる人々の運動が転換を求めて騒いでいるのにもかかわらず、世界の各国政府および世界機関の多くは、尚一層のアグリビジネス、農業の工業化とグローバル化の促進を相変わらず続けています。その大部分がこの農業モデルそのものによって促進された地球気候変動が加速する期間に移行するにつれて、意味のある行動が取られずにいることにより、ただでさえ我慢のならない状況がさらに急速に悪化しています。しかし、食料主権を求める世界中の運動には、これから前途の見込める出口があります。

今年は10億人が飢える一方でその半分の5億人が肥満に苦しむことになるでしょう。食べるのに事欠く人々の4分の3は農民や農業労働者(食料の生産者)である一方で、食品チェーン経営会社(食料の向け先の決定者)を支配する一握りのアグリビジネス関連企業が数十億ドルの利益を蓄財しています。今、最新の科学的研究では、通常のビジネスのシナリオにおいては、気温の上昇、極端な気候条件ならびに、それらに関連する深刻な水と土壌の問題によって何百万人もが飢餓階級に押しやられるものと予想されています。人口の増加により食料需要が増すほど、気候変動によって食料を生産する私たちの能力が徐々に奪われています。すでに深刻な飢餓問題と戦っている一部の国では、今世紀末を待たずに自分たちの食料生産が半分も低下する目に遭遇する可能性があります。しかし、エリート達は気候変動に関する話をするために集まっても、食料の生産と供給に関するこのような必然的結果について殆ど語られませんし、ましてこれらに対処するために何かが実施されることも殆ど無いのです。

この行動への緊急ニーズが強化される気候変動と世界的な食料システムの間の相互作用に対しては別の見方も出来ます。機能不全に陥っている今日の食料システムは気候変動に対して備えが全く悪いというばかりではなく、その背後に隠された主要な推進力の一つでもあるのです。世界中の食料システムを提供する工業化農業モデルは、その石油を食品に変換する過程で膨大な量の温室効果ガス(GHGs)を生成することで実質的に機能するものです。化学肥料の大量使用と食肉産業業界の拡大、そして、農産物を栽培するための世界のサバンナや森林のもとでの農業は、全体で、気候変動の原因である少なくともグローバルな温室効果ガスの排出原因の30%を占めています[1]

しかし、これは気候変動の危機に対して現在の食料システムが寄与するほんの一部にしかすぎません。食料を世界の工業用品に転換することは、世界中にそれを運搬し、加工し、貯蔵しかつ冷凍すると同時に人々の家庭にそれを届けることで、膨大な化石エネルギーの廃棄物を招く結果となります。これらのプロセスはすべて、気候勘定に寄与します。合算すると、現在の世界的な食料システムは、世界の温室効果ガス排出量のほぼ半分に相当する可能性があると言っても決して過言ではありません。

世界の食料システムに対する総点検を求める理論的根拠や緊急性がこれほどはっきりしたことは未だかつてありません。現実的な観点からは、健全なシステムへの移行を妨げるものは何もなく、どこの人々も、自分たちが地元食材を探し求める消費者達であれ、道路をバリケードで塞いで自分たちの土地を守る農民たちであれ、変わる意思を示しつつあります。道を妨害するのは権力機構であると同時に、この権力機構こそが何にもまして変質を必要とするものなのです。

予想では飢饉に向かっています

2007年に、政府間パネル(気候変動に関するIPCC)は、長いこと待望された地球気候に関する実態報告を出しました。この報告書は、その中で、地球温暖化が起こっていて人類にその責任がある可能性が高いということをはっきりとした言葉で述べながらも、我々が温室効果ガスの排出量削減を全くしなければ、地球は10年ごとに摂氏0.2度ずつ温めることを真剣に予測しています。本報告書は、21世紀末までに温度上昇が2〜4度に到達する可能性があり、これにより海面が劇的に上昇し、気候災害の頻度が大幅に増加するだろうと警告しています。

そのわずか2年後の現在、IPCCはあまりにも楽観的だったように思われます。 今日の科学的なコンセンサスは、次の数十年間で2℃の上昇はすでにほぼ確実であることと、当然のシナリオは2100年までに8度も上昇する可能性があり、峠を越えてしまって、危険で不可逆的な気候変動として説明される、警告状態に押しやられるというものです[2] 。じわりとながら、気候変動の影響によりすでに多くの打撃を受けています。ジュネーブに拠点をおく世界人道フォーラムによると、今年、気候変動により3億2千5百万の人々が深刻な影響を受けて、気候変動に誘発された飢餓、病気や気象災害で315,000人が死亡するといいます[3] 。気候変動による年間死者数は2030年までに50万人に上昇し、世界の人口の10%(700〜800百万人)が深刻な影響を受けると予測されています。

現在、気候危機の中心となっている食料は危機の進展とともにずっと継続します。誰でも農業生産が今後数十年間大幅に増加する人口増に対して供給を継続しなければならないことを認めます。しかし、気候変動により農業生産は逆戻りする可能性が高いのです。

表1:地球温暖化の影響予測、2080年代までの世界農業生産能力(%)
炭素施肥なし 炭素施肥あり
グローバル
加重生産 -15.9 -3.2
加重人口 -18.2 -6.0
国別平均値 -23.6 -12.1
工業国 -6.3 7.7
開発途上国 -21.0 -9.1
平均値 -25.8 -14.7
アフリカ -27.5 -16.6
アジア -19.3 -7.2
中東/北アフリカ -21.2 -9.4
ラテンアメリカ -24.3 -12.9
出典:ウィリアムクライン、 地球温暖化と農業、p. 96から編集された表

これまでの農業に関する地球温暖化の影響をモデリングする研究の中の最も広範な調査で、ウィリアムクラインは、2080年までに、通常のシナリオでは、気候変動により現在に比べて世界農業の生産能力は3.2%も低下すると予測しています。発展途上国の被害が最も多く、農業生産能力は9.1%低下するでしょう。アフリカは16.6%の低下を被るでしょう。 これらはゾッとするような数字ですが、クラインは、実際の影響はこれらの数字が示唆するよりもはるかに悪くなりそうだと言っています[4]

農業のことになると、IPCCその他の予測の弱点は、主として、彼らの予測にある、大気中の高レベルのCO2により多くの主要作物において光合成が強化されその収量が高まると主張する"炭素施肥"の理論が受け入れられる点にあります。最近の研究では、この点は幻想であることが分かっています。 当初の成長の加速が数日あるいは数週間に大幅に鈍化するだけでなく、二酸化炭素の増加により葉中の窒素やタンパク質が12%以上も低下します。ということは、気候変動に伴い、小麦とコメのような主要穀物の中にヒト向けのタンパクが少なくなることになります。また、虫類向けの葉の窒素も少なくなって、虫類が葉を余計に食べるということになり収量の大幅な低下につながります[5]

クラインのその試算から二酸化炭素施肥効果を取り除くと、結果はさらにぞっとするものとなりました( 表1参照)。収量が中南米で24.3%、アジアで19.3%、(インドでは38%)アフリカで27.5パーセント(セネガル、スーダンでは50%以上)の低下となって、世界中の収量は2080年代までに15.9%も低下するでしょう[6] 。書のように、クラインの研究では、気候変動に関連して迫り来る水危機が考慮されていませんでした。現在、24億人が水を非常に心配する環境に住んでおり、最近の予測では、この数字はこの世紀の後半には40億人に増加することが示されています。農業用水の水源は世界の多くの部分で枯渇しているかあるいは危険なほど低下しており、地球温暖化は高温がより乾燥した条件を生成して、農業用水に必要な量を増やすため、問題をこじらせるものと予想されています[7] 。人口増加とともにその需要が増える当分は、食料の生産が現在の水準を維持するのは難しくなるでしょう[8]

クラインの予想範囲のほかに気候変動により助長される極端な天候の増加の影響があります。干ばつ、洪水などの「自然」災害はその頻度と程度を増加させて農業の大混乱を引き起こすものと予想されます。世界銀行は、気候変動によって引き起こされる暴風の激化により、沿岸地域で新たに3百万ヘクタールの農地が浸水を受けやすくなると予測していています[9] 。同時に、毎年約3億5千万ヘクタールの土地に既に影響を与えている林野火災は、地球温暖化の結果として劇的に増加するものと見込まれ、温室効果の影響をさらに悪化させるカーボンエアロゾル汚染という深刻な問題を生んでいます[10] 。ある調査では大気温度が増加するという予測の結果として、2055年までにアメリカ西部での山火事は50%も増加するものと予測されています[11]

そして考えるべきマーケットがそこにあります。世界的な食料供給は、種子からスーパーマーケットまでフードチェーンと一緒に、ほぼ独占的な地位を利用する少数の多国籍企業によってますます支配されています。農産物貿易の投機資本量も増えています。この背景の中で、どの食料供給への混乱、あるいは認知済みの混乱であっても、無秩序な価格の上昇や投機筋による極端な利益搾取につながって、食品は都市貧困層にとって入手しづらくなっていると同時に、田舎における農業生産をとん挫させられています[12] 。 確実に迫り来る世界的な食料不足の話については、プライベートエクイティ投機筋が農業にすでに注目していると同時に、グローバルな農地収奪を推進しつつあり、このようなことは植民地時代以来なかったことです[13]

私たちは食料生産の深刻な混乱の時代へと移っています。食料が必要に応じて全員に行き渡ることが確保できる仕組みの必要性がこれほど差し迫っていることは未だかつてありませんでした。しかし、世界の食料供給はわずかな集団によって確実に支配されていて、その決定は自分たちの株主のため自分たちが引き出せる金額だけを踏まえて行われているのです。

夕食のために調理される地球

「緑の革命」の支持者たちは均一な植物の品種と化学肥料の基本的な解決策が世界のどれだけ多くの人々を飢餓から救ったかを自慢しています。いわゆる「畜産と青(養殖)の革命」の守護者たちは均一な品種や工業化飼料についても似たような話を売り込みます。しかし、今日では地球のほぼ4分の1が空腹状態であるのに作物収穫量は1980年代以降足踏みを続けている状態であるため、この話には説得力があまりないように聞こえます。実は、彼らは、環境上の影響を検討する場合に、特に世界においてこれらの農業分野の変化やますます大規模になる食料システムが、気候変化に対してなす寄与について沢山知れれば知るほどに、ホラーストーリーを読むがごとくますます余計読むのです。

科学的コンセンサスでは、農業は、現在、人為的温室効果ガス排出量の約3分の1に相当することになっています。しかし、農業のすべての形態をひとまとめにしてしまっては真実が隠れてしまいます。農業をベースにした殆どの国については、農業自体による気候変動への寄与は少なくなります。このような農村人口の割合が最も高く、国の経済が農業に最も依存している国では人口一人当たりの温室効果ガスの排出量は最も低くなる傾向があります[14] 。 例えば、カナダの農業は国全体の温室効果ガス排出量の6%にしかならないと言われるものの、カナダ人一人当たりの温室効果ガスは1.6トンになる計算となるのに対し、農業が国民経済にとってはるかに重要なインドでは、全発生源からの一人当たりの温室効果ガス排出量は1.4トンでしかなく、農業からはわずか0.4トンでしかありません[15] 。従って、実践されている農業のタイプには差があって一般的に誰も農業だけを名指しで非難することはできません。

また、気候変動に対する農業の全体的寄与をブレークダウンすると、農業の温室効果ガス排出量はほぼすべてでも我々の活動のうちのほんの少しの部分に相当するに過ぎないことが分かります。土地利用変化に起因する森林伐採が全体の約半分に相当する一方で、それよりはるかに大きい農場での排出量の主犯は家畜の生産と肥料なのです。これらすべての温室効果ガス発生源は農業の工業化の隆盛と企業体による食料システム(別紙「地球的な問題」、抜本的な気候危機への取り組み、参照)に密接に関連しています。 食料システムによる化石燃料への過度な依存、ならびに、あらゆる種類のプラスチックで包装された世界中の投入資材と食料の陸上および海上輸送とにより生じた大量の炭素使用痕跡についてもまた同じことです。

テーマ1:森林伐採の始まり
気候変動を起こす要因の統計では土地利用の変化が農業と一緒くたにされていることが多い理由は、その多くが森林や草地の作物生産や畜産への転換を通じて生じていることにあります。 FAOの推計によると、森林伐採の90%が農業に起因しており、それもそのほぼすべてが発展途上国におけるものとされています。それでも、農民たちは相当な面積の森林を保存しています。世界アグロフォレストリー研究センターによって行われた詳細な衛星画像を使用した最近の研究では、世界の農地の46%には少なくとも10%の木の茂み(1)が含まれていることが明らかにされました。「この研究で明らかにされた面積はアマゾンの2倍の大きさであり、農民たちは自発的に木を保護し植林していることが示されている」と、同センターの事務局長のデニスギャリティは述べていました。 これらの木はすでに気候変動に対する農民保護のために重要な役割を果たしている上に、特に、熱帯地方の農家は驚くべき5万種ものさまざまな樹種を有しており、これらから選定すれば、さらに役に立つ可能性があります。 「作物や家畜が不足すると、木々がしばしば干ばつに耐えるために人々は次シーズンまで持ちこたえられる」、と、同センターの副局長のトニーシモンズが述べていました。
森林が切り倒される理由は農業とは明らかに別の重要な原因があります。 伐採業、鉱業、道路、都市のスプロール化やダムも森林破壊の主な原因です。薪の小規模な採集もまた、同じであって、貧しい人々に味方する公的エネルギー源へのアクセスの欠如によって駆り立てられていることが多い。多くの国では、森林伐採は木材用に土地の利権を得たいとする企業が農業の発展として偽装しているものです。パーム油やゴムの企業は農業用地の開発約束を果たす努力もせずに、原生林を切り開いてただ木材を手に入れたいだけなので悪名高いのです(2)
つまり、農民が新しい農地を手にしたいがために森林を切り倒しているということなのです。しかし、我々はそうする理由を尋ねる必要があります。人口プレッシャーは話の一部にすぎないのです。「世界熱帯雨林運動」が広範に資料を集めて立証した通り、農地の不足ではなく、土地/あるいは資源が一人のエリートの手中にあったり、プロジェクト開発のために道を通すため地元社会から追われるという方が問題であることの方が多いのです(3)。森林伐採は地元社会によるその資源の統制が失われる時に起きやすいのです。森林伐採が行われる場合、地元社会、特に、土着民族の人々の地元社会は、通常、それを止めさせようとします。
そして、貧しい人々が農地を求めて森林を伐採する場合には、自分たちの元の土地から立ち退きをせまられていると同時に、その見込みは、ベトナム、中国などの国々の土地紛争をめぐる未解決の山のような訴訟事例と請願書を見れば分かるように、彼らはそのプロセスに抵抗しようとしたというのが実態のようです。
しかも、これらの森林や牧草地の農業への転換は、小規模農家ではなく、多国籍企業(TNC)あるいは多国籍企業向けに生産する大規模農家であるケースが多いのです。インドネシアの熱帯雨林の油ヤシプランテーションやブラジル、セラードのサトウキビプランテーションが明確な例です(4)。本当に小規模農家が大規模な森林伐採を引き起こすとは考えにくく彼らの占める割合は、多くの国でその農地のうちの低い割合にしか過ぎません。ラテンアメリカのこのようなデータが入手可能な国々では、小規模農家はエクアドルで農地の3.5%、ブラジルで8.5%、そしてチリで5%を占めるに過ぎません(5)。小規模農家が大半の農地を所有する(それぞれ保有地の82%と70%)コロンビアやペルーでは、彼らはその農地のほんのささやかなシェアを占めるに過ぎません(それぞれ14%と6%)(6)
  1. ロバート J. ゾマー ら、 「農場の木々」:アグロフォレストリーの地球的規模および地理的パターンの分析、2009年、森林管理ワーキングペーパー第89号、世界アグロフォレストリー研究センター、ナイロビ
    http://www.worldagroforestry.org/af/newsroom/for_journalists/agroforestry_assessment_report
  2. 例として、クリス・ラングの「カンボジアおよびラオスにおける工業用木材プランテーションの拡張」:フォーカスアジア、2006年12月26日、を参照してください。 http://chrislang.org/2006/12/26/the-expansion-of-industrial-tree-plantations-in-cambodia-and-laos/
  3. 例えば、「世界熱帯雨林運動」、「ザンビア:森林伐採の政府政策に関連した原因」、 2001年、公報 第50号、http://www.wrm.org.uy/bulletin/50/Zambia.html
  4. Almuth Ernsting、「アジアのアグリ燃料:給油、貧困、紛争、森林伐採」;グレイン、「企業パワー:アグリ燃料とアグリビジネスの拡大」、 「苗木」誌、2007年7月、 http://www.grain.org/seedling/?type=68
  5. エクアドル: 2000年、Breve analisis de los resultados de las principales variables del censo nacional agropecuario
    http://www.sica.gov.ec/censo/contenido/estud_an.htm
  6. 2000年、III Censo agropecuario del Ecador、 http://www.sica.gov.ec/censo/docs/nacionales/tabla1.htm、 2000年6月13日, Serafin Ilvay, Foro brasileno por la reforma agraria: “Repartir la tierra y multiplicar el pan” http://movimientos.org/cloc/mst-br/show_text.php3?key=10。 Censo Agropecuario Forestal de Chile、 http://www.censoagropecuario.cl
  7. Edelmira Perez Correa and Maniel Perez Martinez, “El sector rural en Colombia y su crisis actual”、 http://redalyc.uaemex.mx/redalyc/pdf/117/11704803.pdf

工業化食料システムで使用されるほとんどのエネルギーは化石燃料消費からもたらされるため、その使用エネルギー量はそのまま温室効果ガスの排出量となります。米国食品システムだけでも同国の化石燃料消費量のなんと20%にもなるものと計算されています。この数字には、食物を栽培する農場並びに農業以外の工程の食品の輸送、包装、加工ならびに保存で使用されるエネルギーが含まれます。米国環境保護庁は、なんと米国農家が2005年には同年の1億4100万台の自動車と同量の二酸化炭素を排出していると報告しているのです!この絶望的に非効率的な食料システムにより、たった1カロリーの食品を生産するのに10カロリーもの非再生可能エネルギーの化石燃料が使用されているのです[16]

テーマ2:気候変動と食料危機に対処可能な食料システムに向けた5つの重要なステップ
  1. 持続可能な統合された生産方式への変更
    工業化農業が私達にもたらした人工的な分離や単純化を元通りに戻さなくてはならないと同時に、持続可能な農業システムのさまざまな要素を改めて一本化する必要があります。農作物や家畜は農場で再統合する必要があります。農業生物多様性が再度食料生産の基礎にならなくてはならないと同時に、地元の種子の保存と交換の仕組みを再活性化する必要があります。化学肥料や農薬は土壌を健全に保つとともに害虫や病気を抑制する自然な方法と入れ替えなくてはなりません。これらの線に沿った食料システムの再構築が農場にゼロエミッションに近い条件を作り上げるのに役立つでしょう。
  2. 土壌の再構築と水の保持
    我々は土壌を真剣に再び取り上げる必要があります。我々は、土壌に有機物を戻して構築するとともに肥沃度を戻すという大変な努力の必要が世界中にあります。多くの場所で数十年間続いた化学物質を使った土壌の劣悪処理やその他の場所の領土の採掘により土壌が疲弊しています。 有機物が豊富で健全な土壌は、農業システムの弾力性を生み出すために必要であって、膨大な量の水分を保持してすでに私たちを侵犯しつつある気候や水の危機に対処できます。 世界中の土壌中の有機物の増加が図れれば、大気中の現在の過剰な二酸化炭素の相当量の捕捉を促進するでしょう( 「土壌物質」、p. 9、参照)。
  3. 脱工業化農業、省エネルギーならびに農地の人々の維持
    小規模家族農業が改めて食料生産の基礎となる必要があります。 民衆のための食料ではなく世界市場向けの物資を生産する大規模工業化農業経営の構築を許すことによって、我々は、空疎な田舎、過密都市を作り出してその過程で多くの生活や文化を破壊してきたのです。 脱工業化農業は工業的農業システムの今が作り出しているエネルギーの膨大な無駄をなくすのにも資するでしょう。
  4. 成長の終結と世界貿易の削減
    食料主権原則の1つは、世界貿易よりも地元市場を優先することです。私たちが見てきた通り、食料システムの気候危機に対する主たる寄与要因は食品の世界貿易、およびそれに関連する食品加工業、スーパーマーケットチェーンなのです。これらのほとんどすべては、食料生産が地元市場に向けて方向を変えればこの食品チェーンから大幅に取り除くことができます。これを実現することは、非常に多くの企業パワーが貿易システムの成長と拡大に集中されており、多くの政府はこれと一緒に上手くやって行くことに甘んじているため、おそらくは何はさておき最も過酷な戦いとなります。それでも、我々は気候変動危機に真剣に対処するのであれば、これは変えなくてはならないのです。
  5. 食肉経済の低減と健康的な食生活への変更
    おそらく、工業化食料システムが私達にもたらした最も深刻で破壊的なものは家畜部門の変質です。農村生活の不可欠で持続可能な部分であったものが、巨大産業食肉工場のシステムとなって世界各国に普及しましたが、ごく1部によって牛耳られています。最近の数十年で5倍に成長してきた世界的な食肉経済は気候危機にとてつもなく寄与しています(27頁参照)。また、豊かな国の肥満問題が生じるのを助長し、補助金やダンピングを介して貧しい国々の地元の食肉生産を破壊してきました。これを止めなくてはならず、特に豊かな国の消費パターンを肉から遠ざける必要があります。世界は食肉生産と流通を民衆のニーズに応じて組織された分散型のシステムに戻す必要があります。公正な価格で小規模農家から地元の市場に食肉を供給するマーケットが復元され活性化される必要があり、世界的ダンピングは止めさせねばなりません。

工業化農業と伝統農業システムとの間でエネルギーの使い方の差はこれ以上はっきりできないのです。効率的で生産性の高い工業化農業と世界中の南の伝統農業との比較の仕方について多くの話がありますが、仮にエネルギー効率を考慮に入れると、実際は全くの見当違いなのです。 FAOでは、平均して先進国の農民は穀物の1キロを生産するのにアフリカの農家の5倍の商業エネルギーを消費するものと計算します。具体的な作物に注目すると、トウモロコシの1キロを作るのに米国農民はその伝統的なメキシコの隣人の33倍の商業エネルギーを使用するため、その差は尚一層、目を見張るものとなります。さらに、コメ1キロを生産するためには、米国農民はなんとフィリピンの伝統的な農家の80倍もの商業エネルギーを使用するのです[17] ! もちろん、FAOの言う「商業エネルギー」とは、肥料や農薬の生産に必要とされ農業機械で使用される、主に化石燃料の石油と天然ガスであり、そのすべてが相当な量の温室効果ガスを排出するのです[18] 。しかし、それでも、農業自体には我々がテーブルに食物を摂取するために使用されるエネルギーの4分の1程度しか責任がありません。エネルギーの本当の無駄と汚染物質は加工、包装、冷凍、調理、食品の移動といったもっと広範な世界中の食料システムにおいて発生します。家畜飼料用作物はタイで栽培され、ロッテルダムで加工され、その後、どこかで家畜に給餌されたものがケンタッキー州のマクドナルド店にて食されている場合があるのです。

食品輸送には膨大な量のエネルギーを消費します。再び米国に注目すると、すべての国内物品輸送の20%パーセントが食品の移動になっていてCO2排出量は1億2千万トンとなっています。米国の食品輸出入はさらに1億2千万トン のCO2の発生源となります。これに、工業化農場への補給品や投入財(肥料、農薬等)の移動、プラスチックや用紙の包装産業への搬送そしてますます遠くなるスーパーマーケットへの消費者の移動を追加すると、私たちは工業化食料システムに必要な輸送要件だけでも膨大な発生量にのぼる温室効果ガスとなります。残りの温室効果ガスの大規模発生源は、食品加工業、冷凍業、および包装業であって、米国食品システムのエネルギー消費量の23%を占めます[19] 。これが信じられないほどのエネルギーが無駄となります。その上、無駄というテーマに関して、工業化食品システムは、農場から取引業者まで、食品加工業者まで、デパートやスーパーマーケットまでの経路において全食品生産量の半分にまでのぼる廃棄を行っているのです!これは世界中の空腹を6回以上食べさせるのに十分なものです[20] 。この捨て去られた食品のすべてが腐ることによって発生する温室効果ガスの量を計算しようとは誰もしてこなかったのです。

食料システムが脱中央集中化され、農業が地元や地域の市場に向けてもっと関心を向けた場合には、この途方もない世界中の無駄と破壊の多くは避けることができます。小規模農家と消費者が再びもっと緊密になって、食品システムから大規模なアグリビジネスが排除されるでしょう。結果として食品はより健全となり、生産者も消費者もより幸せとなって持続可能な地球となるでしょう。

しかし、今日の最高決定権力者は、現在の食料危機や地球に生命を授けるシステムの加速的な崩壊に直面してなすべきことを計画する時に、彼らの提案はすべていくつかの無駄な技術的修正を付け足すため変わり映えしないものとなります(22頁参照)。企業体食料秩序はその結果明らかに行き詰ります。これにより食料危機の解決策として、工業化農業とグローバル化した食品チェーンが提案されるのです。しかし、これらの活動により気候変動が促進されて深刻な食料危機が激化します。これが極端な貧困や利益をまきちらす悪循環となり、両者間の隔たりをますます一層深刻なものにしています。この世界的な食料システムを分解整備するための過去のやり方がこれです。

どの出口に脱出するのか?

ごく初歩的な程度でも、気候危機により、「通常の事業」をすぐに停止しなくてはならないことを意味します。我々の社会のための組織原則としての営利動機の破たんに合わせて、我々は地球上の人々と生命のニーズに合わせて編成される生産と消費の代替システムを構築しなくてはなりません。食料システムの問題になると、権限が、現在がそうであるように、企業に与えられている場合にはこのような変化が起こることはあり得ません。かといって、科学者がいう壊滅的な気候変化を止めるために行うべきことと政治家が取る行動との間のミスマッチはますますちぐはぐなことになるため、我々は政府を信頼することも出来ません。変化に向かう力は私たちの食料システムと地元の統制を取り戻そうと組織する我々共同体自身の上にかかっています。

もう1つの食料システムに向けた闘争では、我々の主要な障害は、技術的なものではなく政治的なものです。我々は種子を農民の手に取り戻し、化学肥料、殺虫剤を排除し混合農場に家畜を統合し、我々の食料システムを編成して、誰もがプラスチックを使わずに十分に安全で栄養価の高い食事をするようにできるのです。このような変化に向けた可能性は世界中の地元社会における数千ものプロジェクトや実験によって検証されつつあります。世界銀行主導の「開発のための農業科学技術の国際的評価」(IAASTD) でさえもそれなりに認めてきたものです。農場レベルでは気候変動や食料危機への対処方法はとても分かりやすいものです(テーマ2参照)。

政治的な取組みはもっと困難です。しかし、ここでもまた、すでに多くが現場で起きています。暴力的な抑圧の目に直面してもものともせず、地元地域社会は、ダム、鉱山、プランテーションや木材の大規模なプロジェクトに反発しています(テーマ3参照)。それほど認識されることはありませんが、この抵抗運動が気候行動の中核をなしています。食料主権のための運動なども同じでネオリベラルな政策の押しつけに抵抗したり、将来の集団的なビジョンを開発することが一体となってきています。これらの余地において、また、このような組織的抵抗を介して、今日の破壊的な食料システムに対する代替え案が出てくるのであって、 ここに食料システムの権限を変化させるための我々の集団的強味と戦略があるのです。

テーマ3:ペルーのアマゾンにおける2つの世界の衝突
ペルー政府は、アマゾンの人々に残虐な攻撃を開始するのに「世界環境デー」という象徴的な日を選びました。この弾圧の理由は?それは鉱業、石油掘削や樹木や農業燃料作物のモノカルチャープランテーションなどの社会的かつ環境上の破壊的産業による自分たちの領土侵略に対するアマゾン地域社会の断固たる反対なのでした。
ペルーの全アマゾン地元地域社会は4月9日には、ペルー議会が先住民族の権利を危険にさらす一連の立法令を見直しそびれたことに抗議していわゆる「無期限スト」なるものを始めていた。これらの法令は、米国と交わされた自由貿易協定の実施の枠組みの中で行政府によって公布されたものです。 「世界環境デー」に、この大虐殺を引き起こすことによって、アランガルシア政府は世界にいかに環境保護に関する関心が薄いのかと同時に、開発を望み国の自然資源を破壊する大企業を如何に大事にするのかをさらけ出しました。さらに悪いことには、政府は社会的にも環境上も破壊的となってきた「開発」モデルの進展により殆ど何も残されてこなかった自分たちを擁護して闘争している先住民族の人々の生活に関する軽蔑を公言したのです。
この流血の弾圧と全世界で集まった世間の注目の結果として、ペルーのアマゾンが世界の舞台で演じられた人類の現在と未来という2つの異なる考え方の間の対立の象徴となったのです。
この紛争の一方の側には社会や環境上の破壊、力による押しつけ、権利の侵犯、を意味する経済的利益の世界があります。
この世界は、単に企業にとって一時的な使い捨てのアシスタントに過ぎないペルー大統領によっては制御されていないのは明らかで今では事実は元大統領のフジモリ氏の運命によって明らかになっています。それでも尚、彼らアシスタンたちは最も基本的な人権を明らかに侵害する行動に必要な"合法性"の虚飾を加える人たちであるため、その果たす役割は極めて大きいのです。
他方には、連帯と自然を尊重する将来を志向する人々の世界があります。この場合、アマゾンの先住民族の人々がこれらの人々を象徴していましたが、世界中の同様な闘争においてもこのような人々を見つけることができ、大企業の経済的利益に利用されるその他の政府たちと対立しています。ほんの数例に触れると、巨大な水力発電ダムによる破壊から数百万の人々の生計をもたらすメコン川を守る南東アジアの国々での現在の闘争、石油掘削および伐採に対するアフリカの人々の闘争、採掘から自国の森林を保護するインドの先住民族の闘争を指摘することができます。
この対決では、これらの破壊的なモデルを押しつけようとする偽善的行為は無限にあるようです。アマゾンの採取産業への開放を望むアランガルシア大統領のペルーの場合には、ちょうど1年前に彼は、神が私たちに与えているこの基本的な富が人の労働によって、また、土地を働かせるかあるいは経済的に活用する人々の無能さによって劣化するのを守りたいがために、我々は環境省を新設したと発表しました。
政府による偽善は、世界中で、特に、気候変動に関して顕著です。1992年に始まった果てしのない世界的な措置の中で、世界の政府は、気候変動は人類の直面している最悪の脅威であることで合意しました。彼らはまた、気候変動の2つの主な原因は、化石燃料の使用によって生じる温室効果ガスの排出量と森林伐採であることでも合意しました。最後に、彼らは、これについて実施なければならないことでも合意しました。関連する協定に署名はしましたが、それぞれの国に戻った後、彼らは石油掘削および/または森林伐採破壊を促進するための権限のすべても実行したのです。
環境の省庁を新設したり、気候変動と戦うために世界的な措置に参加する必要がなくても、世界中の民衆は、環境と気候を守るために行動を起こしています。ほぼすべての事例で、彼らの行動は、民衆を奨励しそれらをサポートすべき人々すなわち自分たちの政府によって、南や北の両方で、刑事罰を与えられたり抑圧されています。
ペルーの象徴的な事例の現在では、アマゾンの人々は、象徴的な場合には、世界中の市民の数千人の支援とともにこの2つの世界の間の対立における重要な戦いに勝利をしています。誰もがこれで闘争は終わりとは考えていません。しかし、この勝利は2つの世界の間の対立の結果が全人類の運命を決定することになるため、他の似たような目標のためにそして最終的には世界全体のために戦う人々に希望をもたらす勝利であります。
世界の熱帯雨林運動から編集 掲示板、第143号2009年6月

参考文献

  1. 「開発のための農業科学技術の国際的評価」((IAASTD)、グローバルレポート、2008、 http://tinyurl.com/6r82ry
  2. クリス・ラング、「気候変動の科学と気候変動交渉の間に広がる隔たり」、世界の熱帯雨林運動紀要、第143号2009年6月。
  3. グローバル人道フォーラム、人類への影響に関する報告書、2009年5月 http://tinyurl.com/lqvs6v
  4. ウィリアム・クライン、 地球温暖化と農業:国別影響の推測、グローバル開発センター並びにピーターソン世界経済研究所、2007年には、 http://tinyurl.com/nc4hsr
  5. ジョンT.トランブル、ケーシーD.バトラー、「カリフォルニア州の害虫問題を悪化させる気候変動」 カリフォルニア農業誌、 63巻、2号、 http://tinyurl.com/m3qf85
  6. ウィリアム・クライン、地球温暖化と農業:国別影響予想、グローバル開発センター、ピーターソン世界経済研究所、2007 http://tinyurl.com/nc4hsr

[1] クラインによると、蒸散は温度とともに上昇するという。(蒸発による土壌と気孔蒸散による植物からの同時水分損失)。本文へ戻る

[2] IAASTDの報告書によれば、灌漑用水供給信頼度はすべての地域で低下し、2000年から2050年までに70%から、58%まで世界的に低下すると予想されるという。「開発のための農業科学技術の国際的評価」(IAASTD)、グローバルレポート、2008、 http://tinyurl.com/6r82ry 本文へ戻る

[3] サスミタ・ダスグプタ、ブノワラプラント、シオバン・マーレー、デビッドウィーラー、「海面上昇と高潮:途上国影響の比較分析」 世界銀行、開発研究グループ、環境エネルギーチーム、2009年4月。本文へ戻る

[4] FAO、「原野火災問題」、ローマ、2009年7月27日、 http://tinyurl.com/n4qfcv 本文へ戻る

[5] アメリカ地球物理学連合、ハーバード大学 「米西部の温暖化に伴って増大する森林火災による被害と汚染」2009年7月28日、 http://tinyurl.com/l53keg 本文へ戻る

[6] 食料危機に関するグレインWebページを参照のこと http://www.grain.org/foodcrisis/ 本文へ戻る

[7] グローバルな土地収奪に関するグレインWebページを参照のこと http://www.grain.org/landgrab/ 本文へ戻る

[8] ウィキペディア、1990年〜2005年 人口あたりの二酸化炭素排出国の一覧について、 http://tinyurl.com/yzh39x 本文へ戻る

[9] グリーンピース、カナダ, 「オイルサンドより悪い農業! カナダ統計局報告」、2009年6月10日、 http://tinyurl.com/nkd5pp 本文へ戻る

[10] この段落のデータは、「食料と水のウォッチ」、「工業化農業の燃料と排出量」、ワシントン、2007年11月 http://tinyurl.com/mdgypy 本文へ戻る

[11] FAO、「エネルギーと農業の連鎖」、ローマ、2000年、表2.2および2.3、 http://tinyurl.com/2ubntj本文へ戻る

[12] グレイン、「アグロ燃料ブームを止めよ!」、苗木、2007年7月 http://www.grain/seedling/?id=477 本文へ戻る

[13] この段落のデータは、「食料と水のウォッチ」、「工業化農業の燃料と排出量」、ワシントン、2007年11月 http://tinyurl.com/mdgypy本文へ戻る

[14] トリストラム・スチュアート、「浪費:世界の食料スキャンダルをあばく」、ペンギン、2009 http://tinyurl.com/m3dxc9 本文へ戻る



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