批判されるG8のニューアライアンス
農業分野の成長促進と貧困からの救済を目指す象徴的な取り組みは、むしろ大企業に好都合で、小規模農民の不利益となっているとの批判があがっている。
G8による新たな貧困削減策として、農業投資促進の取り組みが動き出している。その中で、アフリカ諸国政府が、種子、土地そして税に関する法律を民間投資家に有利なように変更することに同意したことから、それが新たな植民地主義であるとの批判がおこっている。
この2年間に巨大アグリビジネスは前例のないほどアフリカの政策決定者とのつながりを深め、10ヵ国で、法や規制の改正など、200以上もの政策的な誓約がなされた。
これらの誓約によって、輸出管理や税法が緩和され、政府が大規模な土地を投資向けに囲い込むなど、企業がアフリカでビジネスをすることがより容易になる。
こうした動きに関して、エチオピア政府は、長期の土地賃借を促し、商業農場向け土地契約の施行を強化するために土地法を「洗練する」と語った。マラウイでも、政府は2015年までに20万ヘクタールもの一等地を商業投資家向けに保留しておくことを約束し、ガーナでも、2015年までに1万ヘクタールのも土地を投資対象として用意すること約束している。さらにナイジェリアでは、エネルギー会社の民営化まで約束している。
Guardianの分析では、こうした取り組みの中でおこなわれている企業による投資の多くは、綿花やバイオ燃料、ゴムなど非食料作物栽培に向けたもの、もしくは専ら輸出市場向けの食料作物栽培に向けたものと考えられる。
G8食料安全保障と栄養のためのニューアライアンスによって、企業は農業生産向上と、2020年までに5000万人を貧困から救済するという大義名分の下、席に招かれていた。
しかしながら、このプログラムで最も恩恵を受けなければならないはずの小規模農民は交渉の場から除外されてきた。
国連の食料への権利に関する特別報告者であるOlivier de Schutterによれば、アフリカ諸国政府は、小規模農民の長期的な将来像を持たず、また彼らを参加させることをせずに、水面下にて投資家との約束を取り付けているとのことだ。
彼はアフリカを最後の大規模農業のフロンティアと描き出した。「アフリカでは土地、投資、種子の制度をめぐる抗争が起きています。そして何よりも政治的影響力をめぐる争いが起きているのです。」とも語った。
タンザニア議会公会計委員会の委員長であるZitto Kabweは、種子への民間投資拡大を狙って政府が行った誓約に全面的に反対しているという。
「この投資市場が導入されれば、農民は輸入種子に依存せざるを得なくなります。このことは、小規模農民に決定的な影響をおよぼします。同時に、ローカルレベルでのイノベーションを抑圧してしまうでしょう。これは、工業分野ですでに起きていることです。」
「これはまるで植民地主義です。農民は種子が輸入されるまで耕すことができず、また国際価格の影響を強く受けることになります。大企業はそれにより利益を得ますが、そのようなことはとても許容できません。」
タンザニアの税に関する誓約は同様に、小規模農民よりも大企業に利益をもたらすだろう、と彼は言う。提案された税改革は議会を通過しなければならない、とも付け加えた。「行政機関がこれらの改革を誓約するなどあってはなりません。とても繊細な問題なので、十分な議論がなされるべきです。」
アフリカ食料主権連合(Alliance for Food Sovereignty in Africa:AFSA)のリーダーである、Million Belayは、これらのイニシアチブが、アフリカの小規模農民に悲劇をもたらすとの見方を示した。「これは、明らかに種子の生産と流通を企業の手中に収めるためである」と、彼は語った。
「最近の傾向として、アフリカに投資する企業は、法の整備がなければ投資はできないと政府に迫っています。もちろん、農業には投資が必要ですが、地元の農民の生活を大きくコントロールする正当な理由とはなりえません。」 「今、アフリカの食料生産システムは、これまでにないほどの危機的状況に直面しています。アフリカにおいて、今ほど我々の農業システムの将来が外部の力の決定に委ねられていることはないでしょう。」
AFSAは、G8のイニシアティブがアフリカ大陸において新植民地主義の流れを助長していると、公然と非難している。
バラク・オバマは、過去何年ものあいだ農業投資が減少し続けていることや、2009年イタリアのラクイラG8ラサミットにて取り交わされた約束である、国際食料安全保障基金への積み立て失敗などを受けて、2012年にキャンプデービッドでのG8サミットでニューアライアンス(「G8食料安全保障と栄養のためのニューアライアンス」のことです)を発足した。
2003年のマプート宣言にしたがって、農業開発への予算割り当てを10%にするという目標を達成したのは、たったの8ヵ国だけであった。
従来の援助予算が圧力を受ける中、援助国は必要額とのギャップを埋めるためにますます民間企業に頼るようになり、世界で最も貧しい人々を救済するために納税された資金が、商業投資家に利益をもたらし、富を増やすようなプログラムのために使われているのではないかという懸念を呼び起こしている。
発足時に、(コートジボワール、ブルキナファソ、エチオピア、ガーナ、モザンビーク、タンザニアの)6ヵ国がニューアライアンスに名を連ね、去年新たに4ヵ国が加わった。
Guardianが入手したリーダーシップ理事会の文書によれば、このイニシアチブは「参加各国トップの個人的なリーダーシップ」に大きく依拠している。リーダーシップ理事会は、援助機関のトップやビジネス界のトップなどと並んでアフリカ諸国の国家元首たちを招いている。そこにはユニリーバや、巨大アグリビジネス企業であるSyngentaや、Yara、Cargillなどといった企業のCEOが名を連ねている。
ちなみに、企業はニューアライアンスのもとでおこなう投資計画の全貌の公表を拒否しており、イギリス政府へ情報請求をおこなう権利も、企業秘密の名の下で拒まれた。
マラウイでのニューアライアンスに向けた協力協定起草のため、ドナーに雇われていたコンサルタントによれば、この協定によって政府の上層部のいたるところで民間投資家の要求に応じる動きがうながされることになるという。
Joint opportunity-
化学肥料メジャーであるYara InternationalのOysteinは、このイニシアチブはドナーや企業を「同じ方向」に向かわせ、「どこにチャンスがあり、どのようにして投資が相互利益を生みだすのか、についての対話」の余地を生み出すものだとしている。
Syngentaの食料安全保障担当の国際部門トップであるKavita Pralash-Maniは、2022年までにアフリカで10億ドル規模にビジネスを発展させる計画をしており、すでにアメリカの開発機関USAIDやイギリスのDfIDと連携をとっている。「我々はどこで連携する機会が見つかるのかを見極めるために対話をおこなっています。」
彼女は、国家間の協力枠組みの形成には関与しないが、政策の改革は「我が社や、他社の望むような成果を出すには必要不可欠である」としている。さらに彼女は、「国家の規制をより良く調整することは、アフリカの農民にとって必要な実用的技術の導入速度を早める効果がある。」とも語った。
一方でニューアライアンスに対して批判的な者は、こうした取り組みが貧しい農民を救済をするという意見に対して疑問を投げかけている。Guardian紙が入手した書類によれば、このイニシアチブは投資が貧困削減に寄与するという仮定に基づいており、食料安全保障の向上や栄養状態の改善という目標に対しては、具体的な数値目標を設定していない。
ロンドン大学東洋アフリカ学院の開発経済学研究フェローであるColin PoultonはGuardianのインタビューに対して、「大規模農業への投資拡大がどのようにして貧困削減、食料安全保障と栄養改善をもたらすのかを具体的に示した明確な仮説、がない以上、このニューアライアンスはアフリカ農業の商業化を第一の目的とするイニシアチブになってしまうでしょう」と答えた。
一部の市民団体は、この取り組みには農民に利益をもたらす可能性があるとみなしているが、政策改革がおこなわれるスピードや、十分な相談がないこと、特にアフリカ地場のグループとの話し合いがおこなわれないことを懸念している。実際にGuardianの取材に答えた農民は、こうしたイニシアチブの存在や法の改正について全く知らされていないという。
Christian Aidのアドボカシーおよび政策のシニアー担当者であるKato Lambrechtsによれば、本来なら国内において十分議論されるべき政策や法、規制の実施を、政府は即座に進める約束をしてしまっているという。憂慮すべき点は、このように進められている外資民間企業の農業バリューチェーン構築への投資を促す政策が、貧しい農民たちが貧困から脱するための包括的政策とはなり得ないということである。
リーダーシップ理事会で市民団体代表を勤める、南部アフリカ農業組合連合(the Southern African Confederation of Agricultural Unions)のBenito Eliasiは、「法の施行は、アフリカの農民が直面している最大の問題のひとつです。農民へのセーフガードが必要です…農民が参加すべきなのです。もし農民を巻き込まなければ、この試みは失敗するでしょう。」と述べている。
Oxfam Americaの政策担当ディレクターのGawain Kripkeは、市民社会や農民たちと十分な議論を持たないことは致命的な誤りであると話す。「アフリカをはじめ、世界中で開発プロジェクトが失敗してきたという100年間もの歴史があるのに…」
イギリス国際開発大臣である、Justine Greeningは、小規模農民は『絶対的にニューアライアンスの中心部分を担うべき存在』であると言う。「大規模企業、中規模企業が十分な役割を担えるのでしょうか?もちろんある程度の役割は果たせるでしょうが、それが唯一の方法ではないでしょう。私はそうではないと思います。」
「私は、最終的には民間セクターが関わることになるこれらのプロジェクトが何か良くないものになっていくと結論付けることのないよう十分に注意すべきだと考えます。」
DfIDの成長とレジリエンス局長のTony Burdonは、市民団体や農民との話し合いが十分おこなわれていないということを認識しており、企業は投資計画をより透明性のあるものにすべきだと述べている。
しかし、彼は市民団体の参加や説明責任の問題に焦点を当てることは、このイニシアチブの本質からはずれているとも述べている。ニューアライアンスは農業の成長と農民所得の向上を目的としており、これらに対する投資は政府機関だけでは到底達成できないものであり、それらが食料安全保障や貧困削減に寄与するのであると言う。
先月、イギリス海外援助評価委員会は、イギリスの栄養に関わる資金拠出がその目標を達成しているのかを幅広く調査する一環として、ニューアライアンスの取り組みを検証する予定であることを発表した。【翻訳:AJF】
G8 New Alliance condemned as new wave of colonialism in Africa