政府が検討している途上国の政府開発援助(ODA)従事者の安全確保強化策案の内容が明らかになった。岸田文雄外相は日本人7人が犠牲になった7月のバングラデシュの首都ダッカでの飲食店襲撃事件を受け、国際協力機構(JICA)とともに「国際協力事業安全対策会議」を設置。8月1日に安全確保強化策に関する中間報告を外相に提出する。
現地政府に軍や警察など治安当局の警備強化を促す。治安能力構築のため専門家を派遣し技術やノウハウも提供する。防弾車や衛星電話など在外公館やJICAが保有する安全対策機材を増やすほか、現地や第三国の民間警備会社の活用も検討する。経費の一部を政府が秋の臨時国会に提出する今年度第2次補正予算案に計上する。
現地の安全・危険情報を提供・共有する対象者も拡大する。これまではJICA関係者が中心だったが、現地政府と直接契約した事業者やODAの実施前調査の従事者、非政府組織(NGO)を含めODAにかかわる幅広い関係者に広げる。
日本政府がアフリカ諸国などと8月27〜28日に開く第6回アフリカ開発会議(TICAD)は、いくつかの特徴がある。第1に、アフリカでの初めての開催。第2に、100人超の日本企業が安倍晋三首相に同行し、官民含めて日本とアフリカの間でさまざまな業務協力の覚書を交わす点だ。
2000年代に入ってからの資源価格の上昇、中国による投資の拡大を背景に、サハラ砂漠以南のアフリカ経済は14年までの平均で5%を上回る高成長を実現した。国内の中間層がじわりと育ち、自信を深めたアフリカ側は「援助より貿易・投資を」と日本側に求めてきた。今回のTICADはこうした要求にこたえるものだ。
しかし、足元では資源安が南アフリカ、ナイジェリアなどの経済を直撃。国際通貨基金(IMF)は16年のサハラ砂漠以南の成長率を1%台半ば程度とみている。そんなアフリカにとっての新たな優先課題が、資源に過度に依存しない経済の「多様化」と付加価値を高める「産業化」だ。そこに日本企業への期待が集まる。
また、日本企業が進出すれば、現地の雇用を創出し、高失業が間接的な原因とされるテロも抑止しやすくなる。エボラ出血熱などの感染症対策でも日本の技術力が貢献できる余地が大きい。
一方、日本企業にとってアフリカは「世界経済の最後のフロンティア」。アフリカでの事業は米欧や中国の企業より大きく出遅れている。安倍首相のトップ外交をテコに、新ビジネス拡大へ巻き返しを狙っている。こうして日本とアフリカが実利面で大きく接近しようとしている中で今回のTICADは開かれる。
会議閉幕時に採択する予定の「ナイロビ宣言」は、日本とアフリカの経済協力の分野を包括的に盛り込んだ政治宣言となる。むしろ大事なのは、TICAD後の日本企業の対応だ。アフリカの山積するリスクに目配りしつつ「攻めの投資」を進めなければ、中長期でみて人口が急増していく成長市場に足場を築くのは難しくなる。
(編集委員 瀬能繁)
ケニア・ナイロビで今月末、日本とアフリカ諸国の首脳や企業関係者が一堂に集まる「第6回アフリカ開発会議(TICAD6)」が開かれる。最後のフロンティアと期待されるアフリカ市場の魅力と課題は何か。経団連のサブサハラ地域委員長を務める野路国夫コマツ会長と、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院上級講師のマイケル・ジェニングス氏に聞いた。
−−アフリカ市場をどう見ていますか。
「人口が増え、経済発展に伴って消費が伸びる。それと資源だ。まだまだ眠る資源がある。コマツが扱う建設・鉱山機械で見ると、アフリカの需要はまだ全世界の5%だ。15%ぐらいまで増えてもおかしくない。インフラ工事に使う建機は経済の先行指標とされる。新興国では先に建機の需要が伸びて、次に自動車や消費関連分野に広がる」
−−2013年のTICAD5の後、資源価格の下落や感染症の拡大、テロの拡散など、アフリカを取り巻く環境は変わりました。
「長い目で見ればアフリカの魅力は変わらないが、短期的には厳しい。どの国もまず資源で外貨を稼ぎ、インフラを整え、これを使って製造業が育つ。こうして経済が自立して回っていく。停電が頻発しては工場はつくれない。道路がなければ物資は運べない。アフリカではこうした自立した循環に至る前に資源価格が下がった。経済規模がある程度、大きくならなければ消費市場としても難しい」
−−アフリカの成長を促すために日本がすべきことは。
「人材育成だ。人を育てない限り、国づくりはできない。日本政府が前回のTICADで打ち出した、5年で1千人の若者を受け入れる『ABEイニシアティブ』は評価できるが、重要なのは帰国後のフォローだ。いくら日本で学んでも自国に戻って欧米などの企業と仕事をするようでは効果が期待できない。そのためには日本企業がアフリカに進出し、日本で学んだ人とつながりを持つことが必要だ」
−− アフリカには50カ国を超える多様な国があります。
「国境を越えてインフラを整備していくことが大切だ。発電所でつくる電気を周辺国と融通したり、内陸国と沿岸国をつなぐ物流網を整備したりすることが、アフリカ全体の底上げにつながる。前回のTICADで、広域開発の重点対象地域を選び、10カ所の『戦略的マスタープラン』として取り組みが始まった。まだ道半ばであり、これらを実行することが重要だ」
「アフリカ諸国との投資協定や租税条約の締結、南部アフリカ開発共同体(SADC)や東アフリカ共同体(EAC)といった地域経済共同体との経済連携協定(EPA)など、順番をつけずにいろんな角度から攻めるべきだ」
−−アフリカ市場をめぐる国際競争の現状をどのように見ていますか。
「健全な競争をすればいい。そのためには、アフリカの国々に何が一番良いのか理解してもらうことが必要だ。中東では道路工事に保証が求められたり、入札の段階で完成後の保守も条件になったりすることがある」
「この点は日本が得意だ。建設の初期費用だけで判断するのでなく、保守まで含む全体のコストを選定の条件とすることが、双方の利益となり、質の高いインフラ輸出につながる。入札条件やプロジェクトで採用する規格などの交渉では官民の連携が重要だ」
「当社は南アフリカやセネガルなどに建機の運転や保守を教えるトレーニングセンターを設けている。建機が売れることは大切だが、使えなければ仕方がない。カンボジアやアンゴラではNPO法人と地雷処理の活動を続けている。地雷処理に加え、建機の使い方を教えて農地を開発し、道路を造っている。時間がかかるが、自分たちで生活できるようにすることが必要だ」
−−イスラム過激派によるテロが広がっています。
「無差別テロは世界で起きており、我々だけでは解決できない。しかし、カンボジアやアンゴラでの活動のように、草の根の運動を積み重ねることで少しずつ社会は良くなる。人材はそういうところから育つ。ビジネスだけでは生まれない」
−−TICAD6に期待することは。
「アフリカの人たちは日本に期待している。同時に米欧や中国、韓国など、いろんな国がアフリカとの関係強化に動いている。期待はあっても、実績を残すことでしか評価はされない。前回のTICADで決めたことのうち、うまくいっているところもあれば、いっていないところもある。まずは計画、実行、評価、改善の4段階を繰り返し、これらをやり抜くことだ。日本らしいことを、持続性のある形でやる。それが最大のポイントではないか」
(聞き手は編集委員 松尾博文)
のじ・くにお 1969年阪大基礎工卒、コマツ入社。07年社長、13年から現職。経団連サブサハラ地域委員会委員長。69歳。
◇ ◇
−−アフリカの発展の将来をどうみていますか。
「長期的にみれば楽観的な見方をする根拠がいくつもある。過去15年にわたり経済成長の基盤となる重要な変化が起きた。石油やガスといった資源産業だけでない。過去10年で国内総生産(GDP)の伸び率が6〜7%と高い成長をみせた東アフリカは資源への依存が低く、持続的な発展であることを裏付けている。アジアほど劇的ではないにしても貧困が大幅に減ったことは見逃してはならない」
−−成長の基盤とは具体的には何でしょう。
「まずは交通インフラの整備だ。高速鉄道や道路、橋などの整備が遅れていたことは成長の大きな妨げだった。もう一つは携帯電話の普及など情報通信革命の波及だ。人々が携帯電話でネットにつながり、経済だけでなく政治的にも重要な意味があった」
−−うまくいっている国とそうでない国の差は。
「一つは地域統合だ。欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国が『アフリカの成長には経済統合が不可欠だ』と説いて回っているのは皮肉だが、この主張は正しい。経済的に最も成功した東アフリカは強い経済連携を実現した。成長を妨げているのは地域統合が進んでいないことだ」
「航空網の整備が遅れているのは痛手だ。西アフリカの多くでは近隣国へ行く最も早いルートは欧州経由となっている。こんな状況で域内貿易をどうやって後押しできるというのか。地域統合がなければ工業化も進まない」
「もう一つは指導力だ。安定している国の指導者は経済成長という目標に明確に関与してきた。タンザニアのニエレレ初代大統領は、部族ではなく国民国家としての帰属意識を人々に植え付けるため、多大な努力をした」
−−インフラ整備は効率的でないとの指摘もあります。
「問題があったのは確かだ。高速鉄道の大型プロジェクトが各地で進むが、標準化、特に国家間の規格統一について考慮されていなかった」
−−貧困や貧富格差は依然として深刻です。どんな対応が必要ですか。
「経済成長と貧困削減を結びつけるような政策が必要だ。どの分野に取り組むのか、どの分野で支援を求めるのかを決めなければならない」
「国連のミレニアム開発目標(MDG)や持続可能な開発目標(SDG)は、政府がそれぞれの優先課題を設定する余地を奪ってしまった。いま各国政府が直面する課題は必要な政策をつくり、行動に移すことだ」
−−多くの国は政府の統治能力に問題があるのでは。
「政府統治の問題は誇張されている。たとえばソマリアのような国は確かにガバナンスで非常に深刻な問題を抱えている。だがアフリカ各国を見渡せば、大抵どの国にも省庁があり大臣がいる。政府の組織や制度は整っている」
「問題は『政府の組織』ではなく『国の組織』のほうにある。まずは徴税機関だ。汚職に加え、政治の介入、非効率な運営、明確なガイドラインの欠如など深刻な問題がある。タンザニアは徴税当局の改革に乗り出し、国際企業との税をめぐる対立が生じた」
「次に司法機関。政府から独立しておらず、手続きが遅く、使い勝手が非常に悪い。弱者が裁判を通じて権利のために戦うルートがほぼ閉ざされている。経済成長を遂げたアフリカでは、こうした組織が新たな現実に対応できず機能不全に陥っている」
−−全体として民主化の進展をどう評価しますか。
「民主主義の国といえる国は明らかに増えている。ガーナやタンザニア、セネガル、ナイジェリアなど自由な投票で民意が政治に反映されるようになった。しかし、憲法を改正して在任期間を延ばそうとするなど、個人的な権力に固執する指導者がなお多いのも確かだ。民主主義へと前進しているが、一部の国が逆行しているというのが現実だ」
−アフリカ支援を強化しようとしている日本の動きをどうみますか。
「日本はもっと自身の役割を宣伝すべきだろう。過去の失敗の教訓をいえば、支援とともに各国の問題に耳を貸すことが重要だ。アフリカ開発は外部の専門家に大きく依存してきた。多くの事業や構想がアフリカで頓挫した背景は、単独の事業についてしか知識のない外部の専門家の意見を全体の脈略と無関係に採用した結果だった」
(ロンドン=岐部秀光)
Michael Jennings 英オクスフォード大卒。ロンドン大東洋アフリカ研究学院で博士号取得。英政府の開発政策に助言。44歳。
◇ ◇
「アフリカ開発会議(TICAD)」は日本とアフリカ諸国の首脳が集まり、アフリカ開発の課題や協力策を話し合う場だ。これまで日本で開催してきた会議は6回目の今回、初めてアフリカで開く。
援助から貿易・投資へ−−。この言葉がキーワードになった前回の会議から3年。アフリカを取り巻く環境は変わった。成長をけん引した資源価格は低迷し、エボラ出血熱の流行やテロの拡散など、新たな課題も浮上している。
だが、野路、ジェニングス両氏の主張に共通するのはアフリカが持つ長期的な成長の余地だ。逆風が吹く今こそ、TICADをアフリカ諸国の経済構造改革を後押しし、産業の育成に手をさしのべるきっかけにすることが重要だ。
ジェニングス氏は「地域統合と域内貿易の活性化の重要性」を指摘する。そのために、野路氏は「国境を越えたインフラの整備と人材の育成が欠かせない」と言う。アフリカで開くTICADを日本の役割をアフリカの人びとに広く認識してもらう機会にしたい。
(松尾博文)
リオデジャネイロ五輪が開幕した。ブラジルではジカ熱の新規患者数は減っているが、同じヒトスジシマカが媒介するチクングニアが増加しているそうで、現地の状況はかなり複雑だ。五輪観戦などで渡航する人は、蚊に刺されない万全の対策が必要だ。
2020年に東京五輪を開く日本は「観光先進国」実現を目指して訪日外国人旅行者の拡大を進めており、発熱や下痢などを発症した内外の患者がいつ訪れても適切に診療できる感染症への「対応力」が医療機関に求められる。
感染症はいまや「個人の健康の問題」から「国家レベルの安全保障の問題」へと変わっている。
潮目となったのは02〜03年に感染が広がった重症急性呼吸器症候群(SARS)だ。世界保健機関(WHO)を中心に各国の保健機関が協力して対応に当たり、以来、感染症は国際的な連携で封じ込めるべき危機管理問題となった。05年には国際保健規則(IHR)が改訂され、WHOへの報告義務の対象が「国際的な公衆衛生上の脅威となりうるあらゆる事象」に拡大されるとともに、WHOと各国との連絡体制も整えられた。
日本は1998年に橋本龍太郎首相がバーミンガムサミットで国際寄生虫戦略(橋本イニシアチブ)を提唱して以降、途上国の感染症対策や公衆衛生向上の支援に力を入れてきた。15年10月には国際緊急援助隊に感染症対策チームを立ち上げ、専門家を迅速に派遣する仕組みを作った。その第1陣9人が7月20日に黄熱病がまん延しているコンゴ民主共和国に派遣され、予防接種の準備や検査の技術支援などに当たった。
ただ、こうした個々の感染症制圧への支援だけでは限界もある。当センターはベトナムの感染症対策に協力しており、研修生を受け入れている。感染症対策の本質は、国の保健医療システムの充実にあり、それには人材の養成が不可欠との考えからだ。
2年前にエボラ出血熱が発生した西アフリカ諸国では保健医療システムが脆弱で、病院が急増した患者を収容する機能を果たせなかった。感染症のアウトブレイク対策では、その国の保健医療体制を強化する国家規模の社会支援が欠かせない。
貧しい中でも早期に国民皆保険制度を整備して国民の健康を実現し、その後の経済成長と医療体制の構築につなげた日本の歴史と経験は必ずや生かせるはずだ。
外務省の科学技術外交推進会議(座長・岸輝雄外相科学技術顧問)は今月27、28両日にケニアで開かれるアフリカ開発会議(TICAD)に向け、科学技術の研究支援を通じてアフリカ発展に貢献すべきだとする提言をまとめた。感染症や農業、防災などの分野を挙げた。
提言では、優秀な研究者が自国で活動を続けられるよう環境を整えるべきだと指摘。日本とアフリカの研究者交流を進めることも盛り込んだ。政府は提言を参考に、TICADでアフリカ支援策を打ち出す方針だ。
今年7月の世界の平均気温は、観測史上最も高かったことが18日、米海洋大気局(NOAA)の分析で分かった。月別の平均気温の記録更新は15カ月連続。温室効果ガス排出による地球温暖化の影響が出ているとみられる。
NOAAの分析によると、7月の世界の平均気温は、20世紀の平均気温よりも0.87度高い16.67度だった。観測記録が残る1880年以降で最も高かった昨年7月を0.06度上回り、他の月と比較しても最も暑い月となった。
今年1月から7月までの平均気温も過去最高だった昨年を0.19度上回っているという。北極の海氷の範囲は平均を約17%下回り、7月の記録としては過去3番目に小さかった。
高い気温が観測されたのはインドネシアや南アジア、クウェート、バーレーン、ニュージーランドなど。ただ米国北西部、カナダ東部、カザフスタン、インドなどでは例年より気温が低いところもあった。
世界気象機関(WMO)によると、クウェート北部やイラク南部では7月下旬に気温が50度を超えた。クウェート北部ムトリバでは21日に54度を記録し、アジアや欧州、アフリカなどを含む東半球の最高気温となった可能性があるとして、検証を進めている。〔共同〕
約12億人の人口と、豊富な資源を抱えるアフリカは最後のフロンティアだ。27日からケニアの首都ナイロビで開かれる「第6回アフリカ開発会議(TICAD6)」では、日本とアフリカ諸国の首脳や経営者が集まり、アフリカ開発の課題や協力策を話し合う。市場獲得競争が激化する中、日本は存在感を発揮できるか。
(編集委員 松尾博文)
アフリカ南東部のモザンビーク。1人当たり国民総所得が700ドルに届かない最貧国の一つが、日本のアフリカ開発の突破口になろうとしている。
「数日前、2隻目の船がキミツに向けて出航したよ」。首都マプトから北へ1500キロメートル。インド洋に面したナカラ港の桟橋で現地の担当者が語った。
キミツとは新日鉄住金君津製鉄所(千葉県君津市)のことだ。今年5月、ここから積載量17万トンの大型輸送船を使った日本向けの原料炭輸出が始まった。
新日鉄住金が調達する原料炭は半分以上がオーストラリア産だ。「供給の安定には新しい調達先が不可欠」(末永正彦原料第一部長)だが、鉄鋼生産に使える高品質の石炭産地は世界で限られる。モザンビークは数少ない手つかずの産地なのだ。
内陸のモアティゼ炭鉱からナカラ港まで900キロメートルを鉄道で運ぶ。炭鉱から鉄道、港湾の開発・運営まで手掛けるのはブラジルの資源大手ヴァーレと三井物産。総開発費80億ドル(8千億円)を超える巨大事業である。
「日本向けの資源の安定確保とサブサハラ地域の経済開発。そこに商社が持つ総合力を組み合わせる」。三井物産の高橋規副社長は語る。描くのはインフラを起爆剤とする広域開発だ。
鉄道は途中マラウイを通り、再びモザンビークに入る。石炭以外に穀物や肥料、燃料まで運ぶ。モザンビークの西にはザンビアやジンバブエも控える。沿岸国と内陸国をつなぐ物流の動脈を整備し、沿線の農業開発や産業育成を促す狙いだ。
日本政府も支援する。2014年にモザンビークを訪れた安倍晋三首相は5年間で700億円の政府開発援助(ODA)の供与を約束した。ナカラ港の一般物資ターミナルは円借款で整備し、農業開発ではモザンビークやブラジル政府と連携する。
アフリカには54カ国がある。一国では小さくても、複数の国をつないだ経済圏で見れば市場は広がる。13年に横浜市で開いた前回のTICAD5で、政府は広域開発の重点地域10カ所を選んだ。中でも、モザンビークのナカラ港を拠点に複数の国にまたがる「ナカラ回廊」の開発は、官民が連携し、第三国と協力するアフリカ開発のモデルだ。資源価格下落で新興国経済は低迷し資源開発には逆風が吹く。だが、インフラ整備と組み合わせた複合開発はアフリカの自立を後押しし、新たなビジネスの機会を生む。
ただし、インフラに注目するのは日本だけでない。アジアから欧州に至る経済圏構想「一帯一路」を掲げる中国の攻勢はアフリカにも及ぶ。
「北部回廊」は東アフリカの玄関口、ケニアのモンバサ港から、内陸のウガンダやルワンダ、ブルンジを結ぶ物流インフラを核とする広域開発計画だ。
日本政府は円借款でモンバサ港の整備や経済特区づくりを支援する一方、経済圏の背骨となるモンバサと首都ナイロビを結ぶ450キロメートルの鉄道は中国が建設することが決まった。
過熱するインフラ受注競争の下で、日本はどう足場を築くのか。ヒントになる取り組みが同じ東アフリカにある。
ナイロビから北西へ100キロメートル。自然公園のあちこちで白い煙があがる。地中から噴き出す高温の蒸気だ。日本人には温泉地で見慣れた光景だが、ここでは蒸気を送るパイプラインが縦横に走る。発電に使うためだ。
「50本の蒸気井から発電設備に供給している」。ケニア発電公社の技術者が真新しいプラントを前に説明した。オルカリア1地熱発電所4、5号機の出力は計14万キロワット。建設には円借款を使い、豊田通商と東芝、韓国企業の連合が受注した。
紅海からジブチ、エチオピア、ケニアを通りタンザニアに抜ける「大地溝帯」。アフリカ東部を貫く広大な谷は地熱資源の宝庫でもある。アフリカ全体で原子力発電所14基分にあたる1400万キロワット分の資源量があるが、活用は進んでいない。
その中でケニアは地熱発電の開発に積極的だ。電力供給に占める地熱発電の比率はすでに3割。これを「19年に5割に引き上げる」(ケニア発電公社)。
地熱発電プラントは日本のお家芸だ。東芝や三菱日立パワーシステムズ、富士電機の3社で世界シェアの7割を押さえる。
国際協力機構(JICA)ケニア事務所の野田光地次長は「ケニアへの支援は同国の発展だけでなく、周辺国が地熱発電に関心を持つきっかけになる」と説明する。東芝の海外火力営業第三部の東沢勉部長も「ケニアを足がかりに、エチオピアやタンザニアに事業機会を広げたい」と意気込む。
今月27、28両日にケニアでアフリカ開発会議(TICAD)が開かれるのを前に、日本からアフリカへの今後の投資のあり方について電子版の読者にお聞きしたところ、「積極的に投資すべきだ」との答えが57.5%を占めました。
さらに、日本企業がアフリカに進出した場合、「大いに活躍できる」(33.6%)と「まあまあ活躍できる」(33.0%)とを合わせて66.6%が、欧米や中国に先んじられているアフリカ市場での、日本企業の活躍を期待しています。
◇
アフリカに「積極的に投資すべきだ」と考える読者の多くは、域内の人口の多さに目をつけています。
「2050年に20億人の市場になると言われる大陸。どこに投資するかはともかく、積極的に打って出るべき」(47歳、男性)
フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の6/7日の週末版に掲載されていたチーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターのギデオン・ラックマン氏の記事(アジアの戦争と平和 「東方化」する世界)には、こんな記述がありました。
「スウェーデンのカロリンスカ研究所のハンス・ロスリング氏は、世界のPINコード(識別番号)は『1114』だと言って、この状況を見事に表現している。世界の人口70億人のうち、ざっと10億人が欧州、10億人が米州に暮らし、10億人がアフリカ、40億人がアジアに暮らしているという意味だ。2050年には、世界の人口は90億人になる見込みで、PINコードは1125に変わる。アフリカとアジアの人口がそれぞれ10億人増えるわけだ」
日本の場合、08年のピーク時には約1億2800万人だった人口は、50年までには約9700万人に減少する見通しです。
さらに日本では現在、人口の4分の1以上がすでに65歳を超えているという統計もあり、これに比べると、「アフリカは、まだ伸び代がありグローバル化で見逃せない市場」(54歳、女性)と言えましょう。
「例えばインドへの日系企業の投資が今ほどに増えると思ってた人は少ないはず。種まきはそれぞれの国の国民性もふまえて積極的にやるべきだ」(32歳、男性)
インドでは、すでに活躍している日本企業もあります。
「スズキがインドで成功しているが、なぜか。それが参考になるのではないか。相手国、地元に沿った投資を行うべきか。信用を大事にして欲しい」(68歳、男性)
実際の投資にあたり、次のような懸念も寄せられました。
「市場の多様性に対応した信頼できる現地パートナーを築けるかが鍵」(56歳、男性)
「明確な意思と戦略を持ち、費用対効果をしっかり吟味した上での投資なら、積極的になるべきだ」(33歳、男性)
具体的な投資分野としては、「日本に期待されるのはサステイナブルな質の高いインフラ投資、農業と教育の支援」(60歳、男性)、「日本は、長年教育、医療などの援助で培われた地道な活動があり、その延長線上で長期的な経済活動をすべきだと思う」(63歳、男性)といったご意見もありました。
なお、「現在程度でいい」(32.2%)と答えた読者の中には「過激派組織『イスラム国』(IS)の状況によっては、ハイリスクとなる」(59歳、男性)として、アフリカ投資へのリスクを指摘したコメントも。
ある国際機関の調査では、投資家がアフリカに憂慮するリスクとして「途中で規制が変わる」「契約が守られない」「政府の利払い拒否」といった政策上の不安定さとともに、「内乱」や「テロ・戦争」が挙げられていました。
◇
これまで日本企業とアフリカとのつながりは、政府開発援助(ODA)に基づいたものがほとんどでした。
日本企業にとっては、交通の便のよいアジア圏に比べ、遠く離れたアフリカに投資する積極的な理由がなかったこともありますが、最近では戦争が減り、情勢が安定しているなかで、資源開発を中心とした大きなプロジェクトに日本企業も参加するようになってきています。
今度、日本企業がアフリカで「大いに活躍できる」と考える読者は、これまでの日本企業が蓄積してきた技術を売り物にできることを期待しています。
「日本が誇る水質浄化技術、乾季の農作物育成技術等で貢献し、庶民の真のニーズ、課題を解決し豊かな国になる手助けをしてほしい。そうすれば紛争、内戦の絶滅につながると思う」(63歳、男性)
「農業や水資源など、生きていくために必要なインフラ整備に日本のノウハウは大いに役に立つはず」(36歳、男性)
特に、すでに日本企業が進出しているアジアでの経験を重視している傾向が目に付きました。
「アジアで培った経験を生かし、現地の国民に本当に役立つ息の長い支援を進めてほしい」(67歳、男性)
「かつての東南アジアが日本企業の進出による軽工業から発展していったように、まずは基本的な日本の品質・生産管理、生産技術の移転によって、海外にも通用する製品をつくる製造業の基盤づくりに貢献できると思う」(56歳、男性)
一方、「あまり活躍ができない」(27.4%)や「まったく活躍ができない」(3.1%)と答えた読者は、先行して進出している中国の存在を気にしています。
「これまではアフリカだけに向き合えば良かったが、これからは中国の政策・戦略と対等に渡り合える人材が必要」(58歳、男性)
「5年以上前にカタンガ州(コンゴ民主共和国)のドキュメンタリーを見たが、中国人の進出には目を見張るものがあった」(36歳、男性)
将来的には世界の人口が縮小する中で、国連の推計では、アフリカの人口は増え続け、50年には世界人口の4人に1人はアフリカが占めると言われています。
ただ、大陸を構成する54カ国は資源や経済成長率にもばらつきがあり、貧困や飢餓問題を抱えている国も少なくありません。
アフリカ開発を考える上では、アフリカ経済の将来的な安定が世界経済全体の安定を左右する−−といった視点を持つことが必要だと言えるでしょう。
◇
今回の調査(13日〜16日)にご協力いただいた読者の皆さんによる安倍内閣の支持率は62.7%でした。前回調査(66.4%)よりも3.7ポイント下落しました。
18日の日本経済新聞朝刊「視点・焦点」面では、アフリカ開発の現状や今後の可能性について特集を組んでいます。皆さんのご意見も一部紹介しています。併せてお読みください。
(CNN) 米ワシントン州オリンピアの警察は21日までに、市内のレストラン近くでキスを交わしていたアフリカ系(黒人)の男性と白人の女性を刃物で襲った32歳の男を逮捕したと発表した。
地元警察の報道担当者によると、容疑者は白人至上主義者と主張しているという。
被害者の2人に言葉も発せず近付き、いきなり刃物で刺し始めていた。黒人男性は臀部(でんぶ)を刺されたが、容疑者に立ち向かい警官が現場に到着するまで地面に押さえ付けていた。被害者の2人は軽傷を負った。
容疑者は取り調べで、白人至上主義に絡む言動を示し、人種差別的な主張も多数行ったという。また、米国内で現在起きている「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動への反発も示した。BLMは「黒人の命も大切だ」という意味のスローガン。
警察は今回の事件をヘイトクライム(憎悪犯罪)として調べている。同容疑者は第1級暴行とワシントン州のヘイトクライム法に基づく悪質な嫌がらせの罪で訴追された。
日本が主導する第6回アフリカ開発会議(TICAD)が8月27〜28日にケニアの首都ナイロビで開かれる。農業、保健、平和や安定などアフリカを巡る課題は多いが、持続的成長に向けてビジネスの活性化をどう後押しするかが重要なテーマになるだろう。初のアフリカ開催の今回は多くの日本企業関係者が現地に入る。アフリカの産業界との距離を縮める絶好の機会であり成果に期待したい。
アフリカ諸国ではかつて国際通貨基金(IMF)や世界銀行の強い管理下で構造調整が実施された。各種の緊縮策で景気が低迷したため「かえって社会の不安定を招いた」との思いが各国では根強い。その分、民間の投資が求められているが、貧困層も加えたバリューチェーン(価値の連鎖)を構築し、雇用や消費を喚起する視点が欠かせない。
アフリカ開発を巡る国際会議は近年増えてきたが、TICADに対する現地の人々の期待は群を抜いて高いと、国連職員の1人として日々感じる。会議の共催者にアフリカ連合が名を連ねているのもその証左だ。東西冷戦の終結後、アフリカへの国際社会の関心が急速に冷めたなかでも寄り添い続けてくれた国として日本は特別視されている。
1983年に日本の支援で架けられた「マタディ橋」という巨大なつり橋がコンゴにある。内戦などの混乱で建設後、国際協力機構(JICA)の支援は途絶えた。ところが日本が育てた補修ノウハウが脈々と受け継がれていたことが最近分かり、支援関係者を驚かせた。つり橋は30年たった今もコンゴ人の手でピカピカに維持されている。
「中国も大事なパートナーだが皆さんとは違う。日本に期待しているのは技術と人々の気質だ」。国連開発計画(UNDP)の職員として13年まで赴任したチャドではこんな声を大統領以下、政府幹部から何度となく聞いた。「コンゴの橋のような技術で鉄道を造りたい」と言われたのが強く印象に残っている。日本が得意とする、高度な技術と仕組みを合わせたシステムづくりに、我々の想像以上に熱い視線が注がれている。
アフリカ支援をJICAや外務省だけの手で負える段階は終わった。これからの担い手は民間であり、今回のTICADでは有望な市場に企業がアクセスしやすくするための環境づくりが望まれる。日本企業はアジア展開を成功させた実績がある。アフリカにも積極的に乗り出すべきだ。
「私見卓見」は有識者や読者の意見を紹介するコーナーです。個性的な洞察や時代を読むヒントになる投稿や寄稿を紹介します。経済に限らず、政治、国際、企業、社会など幅広いジャンルの問題を取り上げ、日本経済新聞朝刊「経済教室」面と電子版に掲載します。
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日本政府とともに27〜28日にケニアで第6回アフリカ開発会議(TICAD)を開く世界銀行のキム総裁は、日本経済新聞のインタビューで「投資保険の供給などを通じて日本企業のアフリカ投資の橋渡し役を果たす」と強調した。アフリカには年900億ドル(約9兆円)のインフラ需要があると分析し、「事業機会は大きい」と訴えた。
−−アフリカ経済の現状をどうみますか。
「2008年から14年まで、サハラ以南のアフリカは年平均5%超の経済成長を実現した。アフリカの輸出の6割は原油など鉱物資源で、資源価格の上昇が後押しして空港や道路の整備にもつながってきた」
「資源価格は一転して下落し、足元では低迷が続く。5%超の成長は見込めず、今年は2.5%前後に減速するとみている。アフリカは資源輸出に頼った経済構造から鉱物を精製加工するなど付加価値のある事業構造へ転換する必要がある」
−−日本企業の進出は加速するでしょうか。
「アフリカは年900億ドル超のインフラ投資が必要だ。海外からの投資はピークの14年には500億ドルを超えたが15年は3割減った。サハラ砂漠以南には8億人の人口があるが、ベルギー一国並みの電力供給力しかない。風力、水力、太陽光、地熱などエネルギー開発の余地は大きい」
−−TICADのアフリカ開催は初めてです。
「民間部門から2000人の企業幹部がアフリカを訪問することに意義がある。日本が全体の対外直接投資に占める割合は1%に満たない。今回のTICADは、企業が考える以上に事業機会があると示す好機となる」
−−世銀はどのような役割を果たしますか。
「民間企業はアフリカ事業におしなべてリスクがあるとみている。世銀の役割は、こうしたリスクを減らしてアフリカ投資を橋渡しすることだ。グループの多国間投資保証機関(MIGA)は、政治リスクを補償する投資保険を供給している」
「投資先の国が支払いを止めた場合、民間企業は保険金を受け取って損失をカバーできる。こうした制度がまだ日本企業には浸透していない。TICADを通じて活用方法を知ってもらいたい」
−−テロ拡散や感染症などの不安もあります。
「国によって事情は異なる。ケニアはテロ対策で大きく進展した。2000年代初頭からのエイズ禍では国際的な対策づくりが進んでいる。感染症対策は主要7カ国(G7)でも伊勢志摩サミットで基金の創設に合意し、日本政府も資金拠出を表明している」
「世銀は国民皆保険を実現した日本と組んで、適切な負担で全ての人が医療保健サービスを受けられるユニバーサル・ヘルスケア・カバレッジ(UHC)の普及に努めている。UHC普及は農業分野やエネルギー分野に並ぶ重要な取り組みだ」
(聞き手はワシントン=河浪武史)
日本政府とアフリカ諸国などは27〜28日、ケニア・ナイロビで第6回アフリカ開発会議を開く。2012年にアフリカに強みを持つ仏商社CFAOを買収して以降、ほぼアフリカ全土で事業を展開している豊田通商の加留部淳社長に聞いた。
−−アフリカ経済の現状は。
「当社はアフリカ54カ国のうち53カ国をカバーしている。大きく分けると資源国のナイジェリア、アンゴラは厳しい。ただ、資源国以外の国はそこそこの経済成長率を保っている。国でいうと、東部はケニア、タンザニア。西部はコートジボワールとセネガルだ」
「非資源国では中間層が増えている。教育に熱心な国はいい国になりつつある。コートジボワールでは仏カルフールと一緒にショッピングモールをつくった。うまくいけば数店出すし、周辺8カ国で事業をすると約束している。ハイネケンの工場をコンゴだけでなくコートジボワールにもつくる」
−−北アフリカはどうですか。
「いまはダメ。アルジェリアは一番景気が悪い。税制も変わり、車の販売台数も落ちている。欧州車がどんどん入ってくるので競争が激しい」
−−アフリカでのビジネスの基本は。
「わたしたちの考えは、ウィズ・アフリカ、フォー・アフリカ(アフリカと一緒にアフリカのために成長しよう)。国も成長し、豊田通商もその中で成長しようと。1〜2年でポーンと投資をして利益を上げて帰る、というのはいっさい考えていない」
「5年から10年かかるかもしれないが、粘って長期的な資金・視点で事業をやり、人を育てながら社会貢献もしていく。ケニアでは自動車の修理の仕方を教える人材育成センター『トヨタケニアアカデミー』をつくった。ビジネス創出と人材育成、社会貢献の3本柱のケニアモデルをタンザニアなどにも広げていきたい」
−−アフリカ経済の課題は。
「一概にはいえないが、長い目で見たら人材育成につきる。これが国・地域にかかわらず発展していく大きなポイントだ。(子会社の)CFAOでもいい人材なら現地の社員を社長にしよう、ということは始めている。ただ、そこは腰をすえて長期的視点でやらないとアフリカの商売はうまくいかない」
−−政情不安やテロのリスクも指摘されています。
「日揮のアルジェリアのプラントがテロリストに襲われたあと、当社にセキュリティー対策室をつくった。事前の駐在員教育、テロリストに捕まった時を想定した実地訓練をやっている。アフリカや中東にいく社員は衛星電話も使っている」
「当社は駐在員の自宅の電話番号、携帯電話番号、住所はおさえているが、CFAOは社員の自宅を北緯や東経という形で把握しているという。また駐在員は全地球測位システム(GPS)を持ち、常にどこにいるかわかるようにしている。なぜかというと、脱出できなくなったらフランス軍がヘリコプターを飛ばして家族を救ってくれるという。テロのリスクはあるが、それに対応できることはすべてやる」
「CFAOはアフリカにフランス人駐在員が約300人、現地スタッフが約1万1千人。豊田通商は駐在員が54人、現地スタッフが約3千人。テロの事件が起きた時に駐在員と現地スタッフ、その家族の安否確認がすぐにできるようにしている」
−−なぜアフリカ事業に力を入れているのか。
「アフリカは最後のフロンティア。いまは11億人の人口が2040〜50年にかけて倍になるといわれている。もう一つは中間層が伸びている。わたしたちもそれを実感している」
−−いまからアフリカ進出を検討する日本企業は遅すぎですか。
「そんなことない。まだ間に合う。ただ、アフリカの場合、どこかの『点』だけでビジネスをやろうとすると難しい。複数の拠点としての『点』と『点』を持って『線』にしたり、それを広げて『面』にしたりできれば、全体の事業コストを下げることができる。あとテロや不正を回避することも大事だ」
「ヤマハ発動機がナイジェリアで二輪車の生産を始めた。単独では二の足を踏んだと思うが、ヤマハとCFAOが折半で合弁会社をつくった。カメルーンではCFAOがマキタ製品の販売を始めた。そんな形で日本企業と当社の補完性がでてきた」
−−日本政府への期待は。
「2、3年前に『中国の方がアフリカでの出先機関の数が圧倒的に多いので、日本も出先機関を増やしてほしい』といったら日本政府は(大使館や日本貿易振興機構などの)出先を増やしてくれた。ただ、まだ中国は圧倒的に強い」
(聞き手は編集委員 瀬能繁)
日本が主導し、アフリカ諸国の首脳が参加する第6回アフリカ開発会議(TICAD6)が27日、ケニアの首都ナイロビで開幕する。共同議長の安倍晋三首相は同日、日本の技術を生かしたインフラ投資やテロ根絶に向けた支援策など、日本のアフリカ政策を盛りこんだ基調演説を行う。
TICADのアフリカ開催は初。安倍首相は演説で、インフラ投資などで日本の「質の高さ」をアピール。人材育成などへの貢献も訴え、アフリカで影響力を増す中国との差別化を図る考えだ。アフリカの国連安全保障理事会の常任理事国入り支持も表明する。
首相は26日午前(日本時間同日午後)、ケニアのケニヤッタ大統領と大統領官邸で共同記者発表を行い、「日本はアフリカが描く夢を、アフリカと手を携えながら実現していきたい。それを強く推進していくのがTICADだ」と述べた。(ナイロビ=岩尾真宏)
アフリカ諸国の保健システムの強化を訴えた。
安倍首相は「日本は、自国の経験を生かし、国・地方での保健サービスの拡充に向け、政策・制度改革や政策課題ごとの人づくりを支援します」と述べた。
TICAD(アフリカ開発会議)の開幕を前に、安倍首相は26日、保健・医療分野の会合に出席し、日本として、アフリカ諸国の取り組みに協力していく姿勢を示し、「先駆的な国の取り組みが、アフリカ大陸全体に広がるよう、日本は積極的に貢献する」と強調した。
そのうえで、安倍首相は、誰もが生涯にわたって、基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」を構築する必要性を訴えた。
【ナイロビ=辻隆史】日本とアフリカ諸国の首脳が経済発展のあり方などを話し合う第6回アフリカ開発会議(TICAD)が27日午前(日本時間同日午後)、ケニアのナイロビで開幕する。安倍晋三首相が開幕時の基調演説で「質の高いインフラ」整備や人材育成の推進を表明する。首相の経済ミッションには77の企業・大学が同行。アフリカ支援と同市場の開拓を官民で強化する。
TICADは2日間の日程。今回は初のアフリカ開催となる。日本政府が国連やアフリカ連合(AU)、世界銀行などと共催し、アフリカ54カ国の全首脳を招待する。28日の閉幕時に今後のアフリカ支援の方向性を記した合意文書「ナイロビ宣言」を採択する予定だ。
政府開発援助(ODA)などの支援を表明するほか、閣僚級が参加する「日アフリカ官民経済フォーラム」を設立。外相、経済産業相と、日本とアフリカ各国の経済界代表が定期的に協力案件を話し合う枠組みをつくる。会議にあわせて日本企業約20社が各国政府や現地企業などと約70件の覚書を結ぶ予定だ。
安倍首相は各国首脳との「マラソン会談」を重ねる。すでにギニアやコートジボワール、モザンビークなどとの首脳会談を相次ぎ実施。コートジボワールのワタラ大統領との会談では、日本企業の進出を促すため投資協定の交渉開始で一致したほか、港湾施設の建設支援のための円借款を実施する方針を表明した。
一連の首脳会談では、日本の国連安全保障理事会の常任理事国入りに向け、支持取り付けをにらんだ関係強化も狙う。
【ナイロビ=辻隆史】日本とアフリカ諸国の首脳が経済発展のあり方などを話し合う第6回アフリカ開発会議(TICAD)が27日午前(日本時間同日午後)、ケニアのナイロビで開幕した。安倍晋三首相は開幕時の基調演説で、アフリカ支援に今後3年間で民間資金も合わせて300億ドル(約3兆円)規模を投じる方針を表明。日本が重視する「質の高いインフラ」の整備や人材育成に注力する考えを示した。
【ナイロビ=辻隆史】日本とアフリカ諸国の首脳が経済発展のあり方を話し合う第6回アフリカ開発会議(TICAD)が27日、ケニアのナイロビで開幕した。安倍晋三首相は基調演説で、2016年から18年の3年間で官民合わせて300億ドル(約3兆円)規模の投資をする方針を表明。「質の高いインフラ整備」を進めるほか、1千万人の人材育成に取り組む考えを示した。
TICADは28日までで、今回は初のアフリカ開催。13年の前回TICADでは13〜17年の5年間で3.2兆円を支援するとしており、政府は支援額を上積みしたとしている。今回のTICADに合わせて商社や重電大手が受注する地熱発電や火力発電所などの案件を含む。
官民一体で経済協力を進めるため、閣僚や経済団体、企業トップによる「日アフリカ官民経済フォーラム」を立ち上げる。
生産性向上やイノベーションにつながる人材育成も支援の柱に掲げた。地元企業の工場長などの現場指導者を1500人、産業の基盤を支える人材を3万人育成する。感染症の専門家を2万人育てる。若者5万人に職業訓練を受けさせる。
首相は国連安全保障理事会改革に触れ「23年までにアフリカは常任理事国を送り出しているべきだ」と語り、連携を呼び掛けた。「アジアからアフリカに及ぶ一帯を成長と繁栄の大動脈にしよう」と提唱。「両大陸をつなぐ海を平和な、ルールの支配する海とするためアフリカと一緒に働きたい」と述べた。
日本とアフリカ諸国の首脳や経営者が一堂に会し、アフリカ開発の課題や協力策を話し合う「第6回アフリカ開発会議(TICAD6)」が今日から、ケニアの首都ナイロビで開かれる。
豊かな人口と資源を持つアフリカは、大きな可能性を秘めた「最後のフロンティア」だ。日本はアフリカの持続的な成長をどう支え、取り込んでいくのか。改めて考える機会にしたい。
経済の多角化が急務
1993年に東京で第1回を開いたTICADは、6回目の今回、初めてアフリカで開く。紛争や飢餓に苦しんできた「暗黒大陸」は2000年代に入ると成長の軌道に乗った。新興国の資源需要の増加に伴う資源価格上昇が足がかりとなったのは間違いない。
今回は資源ブームが一段落した中での開催となる。資源価格の下落により、経済を資源輸出に頼る国は苦境に陥った。アフリカの自立への機運を失速させてはならない。産業を育て、経済を多角化する構造改革を急がねばならない。
日本はこの分野で積極的な役割を果たしたい。貧困解消や教育の充実など、政府や非政府組織(NGO)による援助は引き続き大切だ。同時にアフリカが求めるのは自立を後押しする貿易や投資だ。それには企業の役割が大きい。
アフリカでは生活水準の向上に伴い、巨大な消費市場が出現しつつある。TICAD6に出席する安倍晋三首相には今回、70以上の企業・大学の首脳や幹部が同行する。アフリカ市場への強い期待の表れといえる。
アフリカには54の国がある。12億人の人口は40年に20億人を超えて中国やインドを上回る。一国では小さくても複数の国をあわせた経済圏で見れば市場は広がる。広域で開発を進める視点が必要だ。
アフリカ諸国も地域経済圏づくりに取り組んでいる。ケニアやタンザニアなど東部の5カ国で構成する東アフリカ共同体(EAC)や、南アフリカやアンゴラなど南部15カ国で構成する南部アフリカ開発共同体(SADC)は自由貿易地域をスタートさせている。
日本は投資協定をモザンビークと締結し、ケニアとは実質合意した。個別の国との貿易・投資環境の整備に加え、EACやSADCなど、地域経済共同体との経済連携協定(EPA)の締結を考えることも必要だろう。
日本はEACとの間で、国境での輸出入手続きや税関業務を効率化して域内物流を改善する支援を続けている。こうした経済圏づくりへの協力を広げていくべきだ。
国をまたがるインフラの整備も重要だ。経団連のサブサハラ地域委員長を務めるコマツの野路国夫会長は「発電所でつくる電気を周辺国に融通したり、内陸国と沿岸国をつなぐ物流網を整備したりすることが、アフリカ全体の底上げにつながる」と言う。
13年に横浜市で開いた前回のTICAD5で、日本政府は広域開発を重点的に支援する10カ所を選んだ。その一つであるモザンビーク北部では、三井物産がブラジルの資源大手ヴァーレと炭鉱や鉄道、港湾を開発・運営し、日本政府がモザンビークやブラジル政府と沿線の農業開発で協力するなどの連携が具体化しつつある。
広域開発で官民連携を
アフリカ市場をめぐる国際競争は激しさを増している。日本が中国などと、政府開発援助(ODA)の額で競うのは限界がある。企業では負担の重い港湾や道路の整備や、貿易・投資環境の改善を政府が受け持ち、企業が工場や発電所を建て、雇用を生み出す。経済援助の規模を競うのではなく、官と民の効果的な連携の質を高めることを日本は目指すべきだ。
イスラム過激派によるテロはアフリカにも広がる。ソマリアや南スーダンでは内乱が続く。西アフリカに広がったエボラ出血熱はほぼ終息したとはいえ、アフリカの保健・衛生環境は依然として脆弱だ。アフリカにはまだまだ多くの課題がある。
若者が過激思想に引き寄せられないようにするには教育や職業訓練の場を整え、雇用創出や生活水準の向上など社会の安定に向けた粘り強い取り組みが必要だ。日本ができることはたくさんある。
ただし、テロや感染症の対策は日本だけで解決できる問題ではない。TICADは日本とアフリカ諸国だけでなく、国連や世界銀行など国際機関が共催する。日本のための会議にするのでなく、アフリカの課題を広く議論する場として育てていくことがTICADの重みを増し、ひいては日本の存在感を高めることになるはずだ。
安倍首相が出席して、ケニアで行われているTICAD(アフリカ開発会議)は28日、「ナイロビ宣言」を採択して、閉会する。
安倍首相は、基調演説で中国を強く意識し、質の高いインフラ投資や人材育成など、日本の強みをアピールした。
安倍首相は「『質の高い』、『強靱(きょうじん)な』、『安定した』という3つの修飾語をアフリカにつけてみます。それこそ日本が皆様とともに目指すアフリカの姿です」と述べた。
安倍首相は、アフリカの成長に向けて、「日アフリカ官民経済フォーラム」を設立するとともに、3兆円規模の投資を行うことを表明したほか、日本型の教育を実践するなどして3年間で1,000万人の人材育成を行うことも約束した。
中国が莫大(ばくだい)な資金力で影響力を強めているのに対して、「質」や「安定」といった日本の強みを生かした支援を前面に打ち出した形となっている。
TICADは、日本時間の28日夜に閉会し、アフリカ諸国で課題となっている原油価格の下落に対して、経済の構造改革を促進して対応することなどを盛り込んだ「ナイロビ宣言」が全会一致で採択される見通し。
TICAD出席の安倍首相、アフリカの成長に向け3兆円規模の投資表明
【ナイロビ=辻隆史】ケニア訪問中の安倍晋三首相は27日、TICADに参加したアフリカ各国首脳と相次いで会談した。マダガスカルのラジャオナリマンピアニナ大統領、セネガルのサル大統領と個別に会い、政府開発援助(ODA)の供与を伝えた。
26日にはギニアやコートジボワールなど6カ国の首脳と会談。一連の会談では、国連安全保障理事会改革も議題になった。経済支援や協力を示すことで、安保理常任理事国入りに向けて大票田のアフリカの支持を得る狙いもある。アフリカ側からは改革を支持する声もあった。
アフリカ諸国も共同でまとめた長期ビジョンで常任理事国入りを掲げるが、新たな常任理事国への拒否権を付与するかなど具体策では日本と違いがある。
【ナイロビ=辻隆史】安倍晋三首相がアフリカ開発会議(TICAD)の基調演説で強調した支援のキーワードは「質」だ。アフリカ取り込みで競う中国と支援額で勝負するのは限界がある。インフラ整備など「質」の高さと、人材育成によるソフトな支援を前面に出す。日本企業の投資につなげる成長戦略の面もあるが、テロ対策など治安への対応が課題になる。
首相は演説で「アフリカの可能性は日本と日本企業を力強く成長させる。質を高める日本の力を生かすときが来た」と強調。「質の高い、強靱(きょうじん)で安定したアフリカをめざす」との目標を掲げた。
政府のアフリカ政策が従来型の「援助」から「投資」へと転換しつつあることを印象づけた。
打ち出した日本の支援策は、今後3年間で民間資金も合わせて300億ドル(約3兆円)規模を投資する内容。2013年の前回TICADで約束したのは、13〜17年の5年間で最大3.2兆円の支援だった。政府は支援額を上積みしたと説明しており、首相主導でアフリカ政策をテコ入れした。
ただ、300億ドルのうち「大部分は民間資金になる」(政府関係者)。国際協力銀行(JBIC)の融資などを加えれば、全体の拠出額を膨らませることもできる。全体に占める政府開発援助(ODA)額について前回は約1.4兆円と発表したが、今回は明らかにしていない。
アフリカ進出では中国が先行する。中国もTICADと類似の会議を3年ごとに、中国とアフリカで開催。15年には今後3年間で総額600億ドルの巨額支援を打ち出した。支援額で比べると、台所事情が厳しい日本は劣勢にならざるを得ない。
首相は新たな外交戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略」も打ち出した。「力や威圧と無縁で、自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育てる責任を担う」と強調。太平洋とインド洋を「平和な、ルールの支配する海」とするよう呼び掛けた。中国の海洋進出をけん制したものだが、アフリカがどこまで同調できるか、見通せない。
TICADでアフリカ連合(AU)議長国、チャドのデビ大統領は「資源価格の下落や治安への脅威で多くの国の経済が危機的状況にある」と訴えた。テロの増加や、エボラ出血熱など感染症拡大のリスクもある。アフリカ外交に詳しい遠藤貢・東大教授は「アフリカは経済のフロンティアであると同時に、経済外交や安全保障政策が試される」と指摘する。
【ナイロビ=竹内康雄】第6回アフリカ開発会議(TICAD)に参加している日本の官民は28日、アフリカ市場への投資や進出を相次いで表明した。22の日本企業・団体がインフラや金融などで協力を進める73の覚書に署名。資源価格下落で足元の成長率は落ち込むが中長期的な成長余地は大きいと判断した。TICADは同日、共同宣言を採択し、閉幕する。
覚書の記念式典は「日本・アフリカビジネスカンファレンス」(日本貿易振興機構=ジェトロ=など主催、日本経済新聞社など共催)の式中に開かれた。あいさつした安倍晋三首相は「アフリカのさらなる経済発展に向けて官民挙げて協力したい」と表明。ケニアのケニヤッタ大統領は「アフリカの優先課題である産業化と多様化に貢献する」と評価した。
TICADには約100の日本企業・団体が参加した。豊田通商と日本郵船は仏複合企業ボロレと組んでケニアに合弁企業を設立、タンザニアやウガンダを含む東アフリカ地域で完成車の物流事業を始める。豊通はケニアで手掛ける地熱発電の事業拡大に向けた調査を開始するほか、エチオピアでも同発電を始める計画だ。
NECはコートジボワール国家警察に指紋などの生体認証技術を導入し、テロ対策などセキュリティーの強化をめざす。三井住友銀行はアフリカ開発銀行やアンゴラ開発銀行などと覚書を結び、人材育成や顧客紹介などを通じ、具体的な融資案件につなげる狙い。
三菱商事は仏トタルや日本貿易保険と組み、ケニア中部で40メガワット規模の太陽光発電所を建設・運営する。丸紅はウガンダやカメルーンなどで病院運営や地域医療のインフラ整備で協力する。
日本が主導する第6回アフリカ開発会議(TICAD6)が28日午後(日本時間同日夜)、ケニアの首都ナイロビで閉幕した。経済の構造改革、強靱(きょうじん)な保健システム強化、社会安定化の促進の3分野に優先的に取り組むナイロビ宣言を採択。日本の技術力を生かしてアフリカ開発に寄与し、関係を強化する方針を確認した。
共同議長を務める安倍晋三首相は同日午前、日本の企業とアフリカ諸国の首脳が対話をする会議に出席。「日本企業の高い技術力は、アフリカの開発課題を解決することに資する」と訴えた。同日午後の閉会会議でナイロビ宣言を採択。2013年のTICAD5以降、アフリカは1次産品の価格下落やエボラ出血熱の流行、武力紛争と気候変動などに直面しているとし、問題の解決に優先的に取り組む方針を掲げた。
具体的には、質の高いインフラの整備や人材育成などによりアフリカ経済の構造改革を促進。すべての人が適切な医療を受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の達成などによる保健システムの強化や、若者や女性への職業訓練などを通じた社会の安定化を進めるとした。
首相は今回のTICADで、今後3年間で官民で総額3兆円(300億ドル)規模を投じる方針を表明している。日本が競争力を持つ分野で官民が協力してアフリカ開発に携わり、アフリカで影響力を強める中国に対抗する考えだ。
宣言は日本やアフリカ諸国が常任理事国入りを目指す国連安全保障理事会の改革にも言及。「早急に改革する決意を再確認し、対話の強化を通じて政治的モメンタム(勢い)を維持する」と確認した。首相は、閉幕後の記者会見で「日本が目指すアフリカは、産業化した強靱な、安定したアフリカだ。アフリカがさらに発展し大きく変貌(へんぼう)すると確信している」と語った。(ナイロビ=岩尾真宏)
■ナイロビ宣言の骨子
●アフリカを世界経済の重要なプレーヤーと位置づけ
●アフリカは1次産品の価格下落、エボラ出血熱の流行、テロ・武力紛争などの課題に直面していることを認識
●雇用創出や技術・ノウハウ移転などにより、経済構造改革を促進
●感染症の大規模流行(パンデミック)などの危機に対応する強靱(きょうじん)な保健システムの強化
●教育、技術・職業訓練などを通じた社会安定化の促進
●安全保障理事会を含む国連諸組織を早急に改善する決意を再確認
【ナイロビ=辻隆史】第6回アフリカ開発会議(TICAD)は合意文書「ナイロビ宣言」で、アフリカの経済成長には、社会を安定させ、テロや紛争の抑制につながる若者への教育や雇用での支援が重要だとの方針を打ち出した。安倍晋三首相は全体会合で「日本企業の高い技術力はアフリカの課題解決に資する」と強調した。
TICADは27〜28日の2日間、日本とアフリカ諸国の首脳らが経済発展のあり方を話し合った。ナイロビ宣言はテロや紛争に加え「世界的な1次産品の価格下落」「エボラ出血熱の流行」をアフリカの新たな課題だと指摘。これに対応するため「質の高いインフラ整備」などを通じた経済の多角化・産業化や人材育成、保健システムの強化が必要だとした。
ナイロビ宣言とともにまとめた各国・機関向けの実施計画は、港湾や空港、鉄道、幹線道路などの建設を加速する方針を明記。地熱や水力発電などエネルギーインフラや電子通信網をさらに開発するとした。経済特区の推進も盛り込まれており、政府は日本企業の受注増につなげたい考えだ。
実施計画では、日本企業がリスクと捉えるテロ対策も各国に対応を促した。ICTを活用した国境管理強化や、国境を越える兵器の違法取引の取り締まり加速も盛り込んだ。テロや大量破壊兵器の拡散に関する各国の情報交換も推進。国連安全保障理事会改革に向けた対話を強化するとした。
首相は28日の共同記者会見で「海で法の支配が尊重されることは、地域の平和と安定、繁栄の基礎になる」と指摘。「日本とアフリカが経済的な関係を深め、貿易を通じて繁栄していくには海が自由で開かれていなければならない。それを担保するのが法の支配だ」と強調した。中国が念頭にあるとみられる。
全体会合では「日本企業の強みは製品品質の高さ、スキルの高い人材育成だ」と述べた。日本企業進出を後押しするため「アフリカ諸国との投資協定や租税条約の締結を推進する」とも語った。アフリカ各国の首脳には、安全なビジネス環境の整備や過度な規制の撤廃などを求めた。
【ナイロビ=竹内康雄】第6回アフリカ開発会議(TICAD)に参加している日本の官民は28日、アフリカ市場への投資や進出を相次いで表明した。22の日本企業・団体がインフラや金融などで協力を進める73の覚書に署名。成長率は落ち込むが中長期的な成長余地は大きいと判断した。
覚書の記念式典は「日本・アフリカビジネスカンファレンス」(日本貿易振興機構=ジェトロ=など主催、日本経済新聞社など共催)の式中に開かれた。豊田通商と日本郵船は仏複合企業ボロレと組んでケニアに合弁企業を設立、タンザニアなどを含む東アフリカ地域で完成車の物流事業を始める。豊通はケニアで手がける地熱発電の事業拡大に向けた調査を開始し、エチオピアでも同発電を始める計画だ。
NECはコートジボワール国家警察に指紋などの生体認証技術を導入し、テロ対策などセキュリティーの強化をめざす。三井住友銀行はアフリカ開発銀行やアンゴラ開発銀行などと覚書を結び、人材育成や顧客紹介などを通じ、具体的な融資案件につなげる狙い。
三菱商事は仏トタルや日本貿易保険と組み、ケニア中部で40メガワット規模の太陽光発電所を建設・運営する。丸紅はウガンダやカメルーンなどで病院運営や地域医療のインフラ整備で協力する。
【ナイロビ=竹内康雄】国連開発計画(UNDP)は28日、サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ)で、男女の格差(ジェンダーギャップ)が2010年以降の年平均で950億ドル(約9兆7000億円)のコストを増やしているとの試算をまとめた。職場や教育などでの格差が大きく、「改善されれば、貧困や飢饉(ききん)の解消が加速する」と分析した。
サブサハラの女性は61%が働いているが、給与などの待遇で差別されているという。アフリカの今後の成長にはインフラや法制度の整備などが必要だ。UNDPは女性が働くべき場所は多いとして、アフリカ各国に男女格差の解消を優先政策に位置づけて、予算を配分するよう求めた。
クラーク総裁は声明で「男女平等と女性の社会的地位向上は不可欠だ」と訴えた。
【ナイロビ=久門武史】28日に閉幕した第6回アフリカ開発会議(TICAD)ではアフリカ各国の首脳が日本の投資拡大に期待を表明した。日本側も各国と協力を進める覚書に署名、協力関係を強化する。だが、投資がすんなりと拡大するかは不透明だ。資源安で失速する経済に加え、テロや治安、腐敗などの問題の解消を進められるかが課題になる。
「原料の輸出から質の高い工業製品の生産へ、我々は経済の転換を急いでいる」。開催地ケニアのケニヤッタ大統領は28日のTICAD関連会議で、産業の多角化や雇用づくりに向けた日本の協力を歓迎。資源に頼らない国づくりを目指す考えを示した。
アフリカ開発銀行のアデシナ総裁は「アジアをしのぐ成長力を持つ国がアフリカにはある。日本とアフリカはパートナー関係を強めなくてはいけない」と述べ、日本に一層の投資を呼びかけた。
原油など天然資源に恵まれたアフリカには今、資源価格の低迷で強い逆風が吹く。2014年に1バレル115ドル台をつけた国際指標の北海ブレント原油は、50ドル弱で推移している。歳入の大半を原油に頼るアンゴラは財政が急速に悪化し、ナイジェリアは通貨ナイラの切り下げに追い込まれた。
国際通貨基金(IMF)によると、16年のサハラ砂漠以南のアフリカの経済成長率は1.6%と15年の3.3%から減速する。2000年代からのアフリカの高成長を支えた資源高の再来は短期的に見込みにくい。
中国の景気減速のあおりも受ける。アフリカで最も経済の多角化が進んだ南アフリカは、中国との関係の深さが裏目に出て経済が冷え込む。逆風下での日本企業の投資にかける期待は大きい。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の石毛博行理事長は28日、日本企業は「長期的な経営姿勢に基づきアフリカに熱い視線を注いでいる」とし、日本企業がアフリカ事業を強化するとの見方を示した。だが、アフリカが投資を安定的に受け入れるには課題が山積する。
企業にとって高いハードルとなるのが、テロ、内戦といった治安の問題だ。産油国のリビアでは11年にカダフィ政権が崩壊し、力の空白を突く形で過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭した。ナイジェリアでは過激派組織「ボコ・ハラム」による誘拐や自爆テロが続く。
南スーダンではキール大統領を支持する政府軍と、マシャール前第1副大統領派との間の戦闘が泥沼化。同国の政情不安が日本企業が進出している周辺国に波及する可能性もある。イスラム過激派の温床となったソマリアとともに、企業が安全に活動するにはほど遠い環境だ。
物流に不可欠な交通インフラの整備も遅れ気味だ。道路や鉄道、航空網などの整備が進まなければ、人の往来に時間とコストがかかり、企業の負担が大きい。
汚職や腐敗といった根深い問題を抱える国もある。南アフリカのズマ大統領は公費乱用が批判され、ジンバブエではムガベ大統領が30年近く政権の座に就く。コンゴ共和国などでは現職大統領の任期延長を可能にする憲法改正の動きが相次ぐ。特にこうした長期政権を敷く国では汚職などがはびこり、企業活動を阻害しているとされる。
ナイロビ=渡辺淳基2016年8月29日12時18分
国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁が28日、ケニアの首都ナイロビで朝日新聞の単独取材に応じ、アフリカの経済成長には「女性の社会進出と男女平等を推し進めることが不可欠だ」と語った。「日本からの進出企業が増えれば、それだけ(女性雇用などの)価値観を広げることにつながる」とも指摘し、日本企業の果たす役割に期待を示した。
UNDPは同日、日本政府などが主催した第6回アフリカ開発会議(TICAD6)で、人々の生活や教育環境の変化を調べた「アフリカ人間開発報告書2016」を発表した。
その中で、女性の中等教育修了率や労働参加率が低いこと、未成年の結婚や妊産婦の死亡率が高いことが、アフリカ経済の発展を阻害していると指摘。その損失額は、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国合計で年平均950億ドルに達し、アフリカ全体の国内総生産(GDP)の6%前後に相当するとの試算も公表した。
クラーク総裁はこうした点を踏まえ、「TICADがめざす経済成長を実現しようとするなら、男女平等の追求は『善行』のようなものではなく、まさにその中心となる取り組みだ」と指摘。さらに、「日本の会社が進出してくれば、女性に職業訓練を施し、活躍してもらおうという強い価値観をアフリカで示すことになる。女性の社会進出にとって前向きな影響がある」と述べ、日本企業がアフリカで果たす役割にも期待を寄せた。(ナイロビ=渡辺淳基)
2016/8/30 19:02
外務省と国際協力機構(JICA)は30日、政府開発援助(ODA)など途上国で国際協力事業に従事する日本人の安全対策をまとめた。ODA事業に安全対策費を上乗せするほか、JICAが企業の安全経費の一部を負担する方針を打ち出した。
高野裕介2016年8月31日07時40分
ケニアで28日まで開かれていた第6回アフリカ開発会議(TICAD6)に合わせ、大学生らのグループが28日、東京都渋谷区でアフリカをテーマにしたファッションショーを開いた。モデル20人が、ケニアやソマリアなど10の国にまつわる衣装を着て、会場を盛り上げた。
ファッションショー「Tokyo Africa Collection」を企画したのは、早稲田大で紛争などについて学んだ菅生零王さん(23)ら約30人。若い世代に貧困問題や紛争という側面だけでなく、「格好いいアフリカ」から興味を持ってもらいたいとの思いから、なじみやすい「ファッション」を前面に出したという。
衣装は、芸大や服飾専門学校生らの手作りで、それぞれの国をイメージした作品に仕上げた。内戦状態が続く南スーダンを担当した菅生さんは、国際協力機構(JICA)の担当者らに現地の様子を聞き取り、ビーズをふんだんに使った衣装を作った。菅生さんは、「来てくれた人たちが、明日からアフリカのニュースを少しでも気に留めるようになればうれしい」と話した。(高野裕介)