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福祉多元主義(welfare pluralism)




◆Hatch & Mocroft 1983

 「ある意味で、福祉多元主義は、福祉・保健サービスが行政、ボランタリー(非営利民間)、営利、インフォーマル部門の4つの異なった部門から提供されるという事実を伝えるために使われることがある。さらに言うならば、福祉多元主義は国家の中心的な役割を縮小することを意味し、福祉サービスを社会的に供給する上での唯一の実行可能な手段とみなしてはいないのである。」(Hatch & Mocroft[1983:2],Johnson[1987=1993:59]に引用)
◆Johnson, Norman 1987

 「インフォーマル部門として考えられるのは、親族、友人、隣人による福祉および保健ケアの供与である。」(Johnson[1987=1993:69])

 「ボランタリー(非営利民間)部門は、組織規模の点から、インフォーマル部門と区別されている」(Johnson[1987=1993:101])

 「福祉多元主義者は中央集権的な官僚制を嫌悪する点では右派と共通しており、行政サービスを十分な有効性を持たず、非効率で、ニーズに敏感に対応(p.183)できていないと特徴づけている。したがって、サービス供給者としての国家の役割は削減されるべきであり、行政によるサービス供給はコミュニティ指向の構造に委譲されるべきである。しかしながら、福祉多元主義者の立場は、右派のそれとはいくつかの点でかなり重要な相違がある。最も基本的な違いは、福祉多元主義種は必ずしも政府支出の削減に賛成してはいないし、ボランタリーおよびインフォーマル・サービス供給部門を支持ずくために政府支出を再分配することを求めている。国家は主要な福祉サービス供給者であることをやめ、福祉サービスの主要な財源調達者として機能し続け、その社会的規制をおこなう役割を高めることになるだろう。したがって、福祉多元主義者は国家に残余的役割委譲のものを認めている。しかしながら、彼らが思い描く国家は分権化されたものであり、現在世界の多くの国々で進められている分権化を支持している。」(Johnson[1987=1993:184])

 1章 福祉国家
 2章 合意の終焉?
 3章 福祉多元主義とは何か
 4章 インフォーマル部門と社会福祉
 5章 ボランタリー部門と社会福祉
 6章 民間営利部門と社会福祉
 7章 国家と社会福祉
 8章 代替的将来像

◆栃本 1996

 「いうまでもないが、ここでいう民間を中心とすることと福祉国家のテーゼによる公的責任は矛盾するものではない」(栃本[1996:89])

◆武智 1996

 「福祉多元主義とはイギリスで発達した概念であり、政府、民間非営利、営利企業、家族や近隣という複数の主体によってサービスが提供されることを積極的に評価する。ここでは、提供でも財源面でも政府と民間が二元的に存在し、デュアリズム(dualism)の形態を意味している。」(武智[1996:183])

◆平岡 1996

 「インフォーマル・ケアへの関心がこの時期に高まった背景としては、オイル(p.282)ショック以降のイギリス経済の低迷と財政危機のなかで公的サービスの量的拡充が困難になってきたという事情を無視することはできない。しかし、それに加えてつぎの2点に関する認識が広く共有されるようになった点も重要である。第1は、いわゆる在宅福祉サービスを含めて公的サービスが拡大整備されていくなかでも、なお、高齢者・障害者等のケアの非常に大きな部分が家族・親族などによって担われているという点が、各種の社会調査の結果からも確認できるという点である。第2は、個別的なニーズへのきめ細かな対応や柔軟性、即応性といった点で公的サービスには限界があり、その点に関してインフォーマル・ケアが果たしうる固有の役割があるという点である。しかし、インフォーマル・ケアは、社会変動のなかでその機能が衰退する傾向にあり、また親族や近隣の特定のメンバーが個人の力でできることにも限界がある。そこで、インフォーマル・ケアを基盤にしながら、より組織的な援助活動を展開することが必要なのではないかという発想が生まれてきたのである。」(平岡[1996:282-283])
◆平岡 2000

 「「福祉多元主義」の概念が、イギリスで広く用いられるきっかけとなったのは、福祉国家体制が成熟化を遂げた段階での民間福祉活動の役割について検討した1978年の「ウルフォルデン報告」であった。そこでは、社会サービスの供給システムに「インフォーマル(informal)システム」「営利(commercial)システム」「法定(statutory)システム」「ボランタリー(voluntary)システム」という4つの下位システムが存在することが指摘され、それらのシステムが福祉国家体制のもとでも相互に補完しあいながら併存してきており、今後もその状況が維持されるのが望ましいという考え方が示されている。
 福祉多元主義の概念と、社会サービスの供給部門をこの4つの部門から構成(p.31)されるものとする分析枠組みは、これ以降イギリスでは定着し、その後、国際的にも広く使われるようになっていった。しかし、その一方で、類似の概念として「福祉ミックス(welfare mix)」あるいは「福祉の混合経済(mixed economy of welfare)という概念も使われている。福祉ミックス・福祉の混合経済という概念は、福祉多元主義と全く同義の概念として使われる場合もあるが、市場部門と公的部門の混合による混合経済体制という経済学的発想がベースにあるため、福祉ミックス・福祉の混合経済の構成部門として、家族・民間市場・国家という3部門、あるいは市場部門・公的部門・インフォーマル部門という3部門が設定されることもある。」(平岡[2000:31-32])

◆藤村 2000

 「……地方政府の責任が高まり、人々の福祉サービスへの要求水準も高まるなか、福祉サービスは質の高度化と量の拡大を通して明らかな変容をせまられている。その変容に対するひとつの取り組みが、行政に限定されず多様な行為主体がサービス提供をおこなっていくという「福祉多元主義(welfare pluralism)の考え方である。その詳しい議論は次節に譲るが、……」(藤村[2000:218])

■文献

◆藤村 正之 20000525 「家族政策における福祉多元主義の展開」,副田義也・樽川典子編[2000:217-247]
◆Hatch, S. & Mocroft, I. 1983 Components of Welfare, Bedford Square Press, London
平岡 公一  1996 「イギリス社会福祉における市民参加――ボランティア活動と当事者参加を中心に」,社会保障研究所編[1996:271-294]
◆―――――  2000 「社会サービスの多元化と市場化――その理論と政策をめぐる一考察」,大山・炭谷・武川・平岡編[2000:30-52]
◆Johnson, Norman 1987 Welfare State in Transition : The Theory and Practice of Welfare Pluralism, Harvester Wheatsheaf=1993 青木郁夫・山本隆訳,福祉国家のゆくえ――福祉多元主義の諸問題』,法律文化社
◆大山 博・炭谷 茂・武川 正吾・平岡 公一 編 2000 『福祉国家への視座――揺らぎから最構築へ』,ミネルヴァ書房,MINERVA福祉ライブラリー35,305p.
◆社会保障研究所 編 1996 『社会福祉における市民参加』,東京大学出版会
◆副田 義也・樽川 典子 編 20000525 『現代家族と家族政策――流動する社会と家族II』,ミネルヴァ書房,250p. 3500
◆武智 秀之  1996 「政府と非営利団体」,社会保障研究所編[1996:179-207]
◆栃本 一三郎 1996 「市民参加と社会福祉行政――シチズンシップをどう確保するのか」,社会保障研究所編[1996:63-100]



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