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ロングフル・ライフ/ロングフル・バース

wrongful life/wrongful birth


On Private Property, English Version
Tateiwa, Shinya (立岩 真也) 2016/09/21
 On Private Property, English Version
 Kyoto Books

 「自分を産んだことの責任を問い賠償を求める訴訟が、当人によってなされることがある。ロングフル・ライフ訴訟と呼ばれる。また、親からの訴訟はロングフル・バース訴訟と呼ばれる。丸山英二[1985][1987][1995]で米国の判例等が紹介、検討されている。また服部渥美[1989]で風疹症候群児の出生が、[1994]では望まれない健常児の出産に関わる損害賠償について検討されている。法学からの議論としてFrench[1992]、哲学・倫理学からFeinberg[1992]。米国での裁判の判例では、子による請求は否定されている。理由として、大半の判決は、障害を伴っている場合でも生命は法的な損害を構成するものではないとする(丸山[1995:180-181])。他に保木本一郎[1994:71-73]。出生前診断との関連では、Cowan[1994=1996:68-70]でロングフル・バース訴訟が羊水検査を開発段階から普及段階に変えたと述べられており、またCharo ; Rosenberg[1994=1996:164-167]では親にロングフル・ライフの責任は問えないと主張されている。…」
(立岩真也『私的所有論』第9章注15)

◆丸山 英二  1985 「重症障害新生児に対する医療とアメリカ法(上)」,『ジュリスト』835:104-113 <206,436>
◆―――――  1987 「アメリカにおけるWrongful Birth訴訟とWrongful Life訴訟について」,『英米法論集』,東京大学出版会 <436>
◆―――――  1995 「アメリカにおける先天性障害児の出生と不法行為責任――Wrongful Birth訴訟とWrongful Life訴訟の近況」,唄・石川編[1995:171-188] <436>
◆上原 正夫 19840215 「「誤って生まれたきた」と誰が判定するのか(上)――自殺と安楽死」(英米法事情),『判例タイムズ』35-04(513):096-097 ※COPY
◆上原 正夫 19840301 「「誤って生まれたきた」と誰が判定するのか(下)――自殺と安楽死」(英米法事情),『判例タイムズ』35-06(515):080-081 ※COPY
蔵田 信雄 1996 「wrongful life とは何か」,京都大学文学部倫理学研究室(編),『ヒトゲノム解析研究と社会との接点 研究報告集 第2集』,p.29-34
服部 篤美 19940301 「望まない妊娠・健常児出産事件にみる損害賠償請求の可否とその範囲」,宇津木・平林編[1994:003-051]
 宇津木 伸・平林 勝政 編 19940301 『フォーラム医事法学』,尚学社,317p. 3000
◆服部 篤美 1989 「先天性風疹症候群児出生事件」 『医療過誤判例百選』:206-


加藤 秀一 20070930 『〈個〉からはじめる生命論』,日本放送出版協会,NHKブックス1094,245p. ISBN-10: 4140910941 ISBN-13: 978-4140910948 1019 [amazon] ※ b

加藤 秀一 2003/10/13 「生まれないほうが良かった」という思想について――Wrongful life訴訟と「生命倫理」の臨界」
 第76回日本社会学会大会シンポジウム報告 報告要旨

◆立岩 真也 2003/08/25 「その後の本たち・1」(医療と社会ブックガイド・30),『看護教育』44-08(2003-08・09):682-683(医学書院)

◆堤愛子
 「子ども自身が、自分が産まれたことに対して賠償を要求するというのは私の感覚ではちょっと考えられない。…産まれてこなかったほうが良かったのに産まれてきちゃったから、という感覚にはちょっとついていけないなという気がします。」
(堤愛子の発言、生命倫理研究生殖技術研究チーム[1992:137])

◆2001/11/28 「「先天的な身障者は、生まれてこない権利がある」仏最高裁が判決」
 http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2001113058218

 「「身障者には生まれてこない権利がある」仏最高裁が判決」
  28日、フランスの最高裁が下した判決が、新たな倫理論争を触発している。
  フランスの最高裁はこの日、ダウン症候群を持って生まれた男児のリオネル(仮名、6)に対し、彼の出産を担当した医療陣は賠償の義務があると判決した。
  リオネルの母は、妊娠中自分を診察した医師が、超音波検査などを通じてリオネルの障害を発見していれば中絶していたはずと述べ、障害を抱えて生まれたことでリオネルが被った損害の賠償を求めて訴訟を起こしていた。フランスでは、中絶は法律で認められている。
  リオネルの母は、既に1次賠償金を受取っているが、最高裁はこの日リオネルの生まれてこない権利を認めて、賠償金の増額を命じた。
  これに対し、フランスの身障者団体は「国が障害者として生きるより死んだ方が良いとの決定を下した」として大きく反発している。医療界も「胎児の健康に少しでも疑いがあれば、後で訴訟に巻込まれないために、中絶を勧めなければならないのか」と、不満を表した。
  今回の判決は、昨年11月大きな論争を呼んだ「ニコラ・ペリシュ」の判決を再確認したもの。
  当時裁判所は、医師が妊産婦の風疹に気付かなかったため、深刻な脳損傷を抱えて生まれた17才の少年ペリシュに、賠償を受ける権利を認めた。ペリシュの判決についても、身障者団体は控訴を起こしている。

 ※は生存学書庫にあり

■ロングフル・アドプション(訴訟) (wrongful adoption)

 「自分を産んだことの責任を問い賠償を求める訴訟が、当人によってなされるこ
とがある。ロングフル・ライフ訴訟と呼ばれる。また、親からの訴訟はロングフル
・バース訴訟と呼ばれる。丸山英二[1985][1987][1995]で米国の判例等が紹
介、検討されている。また服部渥美[1989]で風疹症候群児の出生が、[1994]で
は望まれない健常児の出産に関わる損害賠償について検討されている。法学からの
議論としてFrench[1992]、哲学・倫理学からFeinberg[1992]。米国での裁判の
判例では、子による請求は否定されている。理由として、大半の判決は、障害を伴
っている場合でも生命は法的な損害を構成するものではないとする(丸山[1995:
180-181])。他に保木本一郎[1994:71-73]。出生前診断との関連では、Cowan
[1994=1996:68-70]でロングフル・バース訴訟が羊水検査を開発段階から普及段
階に変えたと述べられており、またCharo ; Rosenberg[1994=1996:164-167]で
は親にロングフル・ライフの責任は問えないと主張されている。さらに、養子がハ
ンチンソン病であったことが判明して、子を紹介した市に養親が損害害賠償を求め
た裁判を起こし、裁判所がロングフル・アドプションとしてその請求を認めた米国
の判例が棚村修三[1991:24,29]に紹介されている。」  (立岩『私的所有論』第9章注15)

「…Burr v. Board of County Commissioners事件(129)のように,斡旋機関は子の
健康状態や病歴等についての正確な情報を養親に提供する義務があり,これに違反
して損害を加えた場合,wrongful adoption(不法養子縁組)として不法行為責任が
認められる傾向にある。」(棚村修三[1991:24])
「(129) Burr v. County Commissioners of Stark City, 491 N. E. 2d 1101 (Ohio
1986). Burr夫妻が市の福祉課から17カ月の大きな健康な赤ちゃんということで男
の子を世話してもらい,養子収養をしたところ,後でハンティングトン病という進
行性の遺伝病に疾患しており,精神遅滞を伴い,平均余命が 8.5歳くらいしかない
ことが判明し,また,父母はともに精神病院にいる患者であることもわかった。そ
こで,Burr夫妻が市を相手取って,wrongful adoption を理由に子の医療費を含む
損害賠償の請求をしたというケースである。オハイオ州の最高裁は,子の健康状態
やバックグラウンドにつき,市の福祉課の職員に不実表示があり,「本件夫婦に事
実と異なる情報を提供する意図的な行為があって,これにより本件夫婦は,健全な
親となる意思決定をする権利を奪われ,損害賠償を請求しうる権利侵害を被った」
と判示して養親からの損害賠償の請求を認めた。See LeMay, The Emergence of
Wrongful Adoption As a Cause of Action, 27 J. Fam. L. 475(1988-1989)」
(棚村修三[1991:29])

棚村 修三  1991 「アメリカ合衆国における親子法の新しい展開」,
 『ケース研究』228:2-41 <94,437>


REV:..20030925,1228 20071104,20100721
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