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法人税についての言説



◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 20090910 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◆Wikipedia
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E4%BA%BA%E7%A8%8E

和田 八束 19750115 「企業課税と資産課税の基本問題」,国民税制調査会編[1975:103-123]*
*国民税制調査会 編 19750115 『国民税制への提言――インフレ下の税制改革』,学陽書房,238p. ASIN: B000J9UTLM 1200 [amazon] ※ t07.

 「法人税は、個人所得との関連を考慮することなく、全く別個の独立したものとし、所得階級に応ずる累進税率を採用するべきである。また、企業経理の方式についても厳格な会計原則によることとし、租税特別措置の廃止や交際費、寄付金等への課税強化をとはかることは勿論、従来「費用」として処理されていた部分を「収益」として顕現化させる必要がある。」(和田[1975:122])

◆国民税制調査会 編 19770501 『企業課税――不公平税制改革への提言』,学陽書房,220p. ASIN: B000J8XTWY 1500 [amazon] ※ t07.

◆佐藤 進 19770501 「法人税の基本的しくみとその問題点」,国民税制調査会編[1977:31-50]
 「資本収益率の比較というかたちでは転嫁が検証されるし、大企業の負担がより大きいなどという重要な意味をもった指摘がありますけれども、一方では利潤分配率ベースになると、転嫁が検証されないとか、同じような方式を計算していみるとこんどは必ずしもそういう結果がでてこないとか、いろいろな問題および論議があります。ある意味で不毛な論が展開されているわけです。」(佐藤[1977:46])

◆佐藤 進 19791218 『日本の税金』,東京大学出版会,UP選書201,218p. ISBN-10: 4130020013 ISBN-13: 978-4130020015 980 [amazon] ※ t07.

 「わが国で、企業課税強化の主張が大きく取り上げられるようになったのは、昭和四〇年代後半に入ってからであり、その最初の出来事が昭和四五年度税制改正における法人税率の一・七五%引上げであった。この当時の状況をふりかえってみると、企業の設備投資の増大・技術革新・輸出拡大という形ですすめられてきた経済の高度成長が、社会的ひずみの拡大や公害等の社会的費用の増大をもたらす結果となり、これが企業に対して応分の負担を求める声を高まらせるにいたった。また、大都市への企業の集中と過密の弊害の発生などが、企業の受益に応ずる負担の要求の根拠となった。さらに、昭和四八秋の石油危機以降、企業が便乗値上げ等の反社会的行動をとったとして世論の反撥をかったが、四九年度税制改正では議員立法による会社臨時特別税の採用、そして法人税率の一層の引上げ(基本税率三六・七五%より四〇%)がなされ、この間、企業の実効税負担ないし実質税負担をめぐる議論が盛んに行われた。法人税率以外に大きな問題となったのは、法人税の課税ベースをめぐる論議であり、これは法人関係特別措置の管理をめぐる動きとなってあらわれた。[…]」(佐藤[1979:94])

 「シャウプ勧告法人税制は、「法人は与えられた事業を遂行するために作られた個人の集合である」という法人擬制説の立場にたって、二重課税の排除を主張するものであった。シャウプ使節団の母国であるアメリカでは、むしろ実在説的立場での二重課税が行われていたのに対し、シャウプは理論的にすぐれた考え方として二重課税排除を主張した。もっとも[…]」(佐藤[1979:98])

 「(一)法人は組織体として法的に独立しており、財産を取得し、所得を稼得することができる。[…]
 (二)法人企業は個人企業にくらべ資金動員力において圧倒的に優勢であり、また収益力においても優れているので、均等化のため独立法人税を強化する必要がある。[…]<0108<
 (三)一般的国家サービスのうち、企業経営の安定や労働力養成、技術開発、そして社会資本の整備なと企業向サービスの分野が拡大しており、企業とくに法人企業はこれに見合った対価を支払う必要がある。
 (四)法人の社会的責任の根拠から独立法人税を支持することが可能であり、法人は企業活動の結果もたらされた社会的費用を第三者に転嫁することなく、自ら負担する必要がある。発生者負担・原因者負担・汚染者負担等々の根拠からの企業負担強化の提案であり、この場合、負担はあくまでも第一次的負担であり、公害発生等の防止に第一次的に責任をもつべきは、発生者ないし原因者であるという理解がその基礎にある。
 (五)経済政策遂行の観点から独立法人税を推進する根拠も十分あると思われる。[…]
 (六)課題の効率性の観点から、第二次的所得である利子・配当・地代・賃料といった個別所得に課題するより、それらの所得の発生源である企業ないし法人のところで課税するほうがより効率的である。賃金に対する所得税が源泉徴収制度のもとで企業による給料天引きの形で徴収されており、これが所得<0109<税の徴税費節約に役立っていることは周知のことである。また利子・配当・地代・賃料等々は派生所得であり、これを生み出すものは企業利潤にほからないのであるから、これらの源泉課税として法人税にウェイトを置いてゆくという考え方も可能と思われる。
 […]二重課税排除や法人擬制説の純化という角度より、二重課税是認・法人実在説の基礎での法人独立課税強化が、わが国の場合とるべき方向ではないかと思われるのである。」(佐藤[1979:109-110])

◆国民税制調査会 編 19830425 『行政改革と税財政――第二臨調の矛盾を突く』,学陽書房,215p. ISBN-10: 4313820086 ISBN-13: 978-4313820081 1600 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◇佐藤 祐次 19830425 「減税問題と税の公平」,国民税制調査会編[1983:149-166]
 「税の不公平感を裏づけるものとして、東京都の新財源構想研究会が行った個人および法人の税負担の実態を調査した報告はよく知られている。その内容は、おどろくべきことに、個人、法人を問わず高額所得になるほど実際の税負担率が低くなっている(逆累進)ことである。<0162<
 個人について、同研究会の第六次報告(昭和五三年一月)が、所得税、個人住民税の実態分析をした結果、当時の課税方式(土地長期譲渡所得税率二〇%、個人住民税率六%の分離課税)では、所得二、〇〇〇万〜三、〇〇〇万円の階層の税負担率三三・六%を最高として、五億円超の階層が二六・三%と逆に低くなる。その原因は、高額所得者ほど、資産所得の割合が高く、これらに定率分離課税が適用されてきたからである。」(佐藤[1983:]162-163])

◆福田 幸弘 19841129 『税とデモクラシー』 ,東洋経済新報社,287p. ISBN-10: 4492610103 ISBN-13: 978-4492610107 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

2章 税制改正を顧みて
 累進課税緩和と直間比率是正
 「所得税の本来の原則は、勤労所得には軽く、資産性所得には重くということである。それなのに日本の場合には反対に、勤労性所得はむしろ重い扱いを受けていて、これが不公正感を生んでいる。しかも、税率カーブが急で、一番高いところは、所得税七五%と地方税一八%を入れると、限界税率が九三%で、賦課制限が八〇%であったが、五九年度の改正で所得税を五%引き下げて七〇%にした。限界税率は八八%で賦課制限は七八%になった。したがって最高で一〇〇万円のうち二二%しか残らない。これはやはり税金としては異常である。異常な税制を持っていてはいけないというのが、常<0054<識的な税の執行の立場である。余り高い税率があるから法人になる。所得を分配する、経費で落とすことになる。だから、素直な税率にして、所得を正直に出してもらった方がいい。みんな正しく納税をしたいという気持ちはもっているはずで、それが無理なく納められるようにすれば、税収は決して減らないと思う。」(福田[1984:54-55])

◆野口 悠紀雄 19860130 『税制改革の構想』 ,東洋経済新報社,東経選書,228p. ISBN-10: 4492610111 ISBN-13: 978-4492610114 1500 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

 「問題は、すでに述べた「法人成り」やさまざの節税策により、サラリーマンの場合を除けば、形式上の累進性を実現しえない場合が多いことであろう。したがって、実質的な垂直的公平を実現するためにも、水平的公平の実現が要求されるのである。この意味で、異種の所得間の不均衡の是正が、日本の税制にとって最大の課題といえるのであろう。」(野口[1986:13])

◆19860318 「累進構造に関する専門小委員会報告」

 「最高税率の水準を考えるに当たっては、税制がいわゆる法人成りの誘因となることのないよう、法人税率の水準にも留意すべきであろう。」

◆宮島 洋 19860920 『租税論の展開と日本の税制』,日本評論社,348p. ISBN-10: 4535576181 ISBN-13: 978-4535576186 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

 「カーター報告が税率構造の改革にあたってもっとも重視したことは、最高限界税率を現行の八〇%から五〇%へと大幅<0011<に引き下げ、累進度の緩和を図ることでした。その理由として、@追加的所得に対する政府の要求分を二分の一に制限することが心理的なメリットをもたらすこと、A貯蓄、投資、生産などへのインセンティブを損なわないためには最高限界税率を十分に低くしておくことが必要不可欠なこと、B法人所得税との実行可能な完全統合を図るためには最高限界税率を法人税率五〇%にそろえる必要があること(後述)、などがあげられています。」(宮島[1986:11-12])

◆税制調査会 編 198612 『税制の抜本的見直しについての答申 昭和61年10月』,大蔵省印刷局,155p. ISBN-10: 4172339069 ISBN-13: 978-4172339069 [amazon][kinokuniya] t07.

◆橋本 徹・山本 栄一 編 19870525 『日本型税制改革』,有斐閣,309p. ISBN-10: 4641064830 ISBN-13: 978-4641064836 2300 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◆第3章 国際競争下の法人税改革 牛嶋 正 53-69
 「1.1 法人課税の存在理由
 今世紀の比較的早く時期に法人税が先進国の税制に導入されて以来、法人税の課税根拠或いは税体系における位置付けや役割について多くの議論が重ねられてきたにもかかわらず、まだ、これらの問題について理論上も政策上も十分なコンセンサスを得たわけではない。しかし[…]わが国をはじめとして多くの先進国の税制において、法人税はきわめて重要な位置を占めており、事実が先行した形となっている。[…]
 この点に関して、シャウプ勧告のなかでも次のような叙述が見られる。即ち、「日本のみならず、多くの他の国においても、法人税に対してほとんど<0053<根拠または理論らしいものすらなくして、単に、それらが政治的にも人気があり、税務行政上も容易であるうえに、多くの収入があげられるという理由から、重い課税が行われている」ことを指摘し、法人税が問題の多い税目であることを認めながら、わが国の税制に法人擬制説に基づく法人税の導入を勧告している。このようなシャウプ勧告に見られる姿勢は、現実に個々の法人企業が毎日の経済活動において国および地方公共団体から公共財の供給を通じてさまざまな便益を享受しており、加えて、有限責任会社として事業できる特権とか、資金調達での有利性などが付与されていることから、法人税の課税根拠ないしは法人税の存在理由は十分に認められるとする立場に立つものである。
 このように法人税の実在を認めるとき、もはや課税根拠について議論を展開するよりも、法人税が税体系のなかで望ましい役割を担うためにどのような税構造をとり、また、どのような課税方法であるべきかを議論することの方が現実的であるとする立場が導出されるだろう。現在、政府の税制調査会を中心にすすめられている法人課税の見直しも、基本的にはこのような立場に立つものといえる。
 1.2 統合主義と絶対主義
 この問題に検討を加えるにあたって、従来から二つの代表的考え方があった。それは、法人擬制説と法人実在説であるが、マスグレイブは二つの立場を統合主義と絶対主義というよび方をしている。このいずれの立場に立って、法人税の税構造や税体系での位置付けを議論するかによって、分析の内容はかなり変わることになるだろう。また、この二つの立場は、「すべての税は自然人のいずれかが最終的に負担することになる」という考え方を貫くか、それとも「法人は株主と分離した実体であり、法人とは別個の絶対税を相応に負担する独自の担税力うもつ」という考え方をとるかによって区分されるだろう。
 ただ、絶対主義に立つとき、個々の法人の担税力をなにで測るべきかという厄介な問題が提起され、仮にそれを測る尺度が見つかったとしても、次に、<0054<その担税力に応じて個々の法人間にどのように税負担を配分すべきかという問題が提起される。そのため、絶対主義の立場に立って、具体的な法人税構造を導出することは非常に困難なこととみなされる。そこで、以下の分析では統合主義の立場に立ち、その他の、担税力は自然人のもとで測ることとし、むしろ法人間の税負担の配分は、その経済活動に応じて国或いは地方公共団体から受ける公共財の量に基準を求めることとする。」(牛嶋[1987:53-55])

◆戸谷 裕之 19870525 「法人税――その構造と負担」,橋本・山本編[1987:108-127]

 「以上、述べてきたような法人税の根拠は、どれもいま一歩説得力に欠けるかもしれない。しかしながらわが国のように、所得税を基幹に据える社会においては、法人税は資本所得に対する所得税の源泉徴収という考え方がもっとも整合的であると思われる。」(戸谷[1987:110])


◆中谷 巌 19871023 『ボーダーレス・エコノミー――鎖国国家日本への警鐘』,日本経済新聞社,234p. ISBN-10: 4532088046 ISBN-13: 978-4532088040 1200 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

4 法人税制の日米比較
 格差の是正を急げ
 「日本の若い経営者が日本の高い法人税を嫌って大挙して本社をアメリカに移転するなどという事態が起こってからでは手遅れである。税率を高くしておけば、税金が余計に徴収できるという考え方は徐々に有効でなくなりつつある。税制という面でも「制度の国際競争」は始まっているということをわれわれは認識すべきであろう。」(中谷[1987:162])

◆藤田 晴 19871225 『税制改革――その軌跡と展望』,税務経理協会,312p. ISBN-10: 4419009640 ISBN-13: 978-4419009649 1900 [amazon] ※ t07.

 一九八六年の税制改革答申について。
 「ここでの基本問題は、法人所得に対する累進課税の是非である。これについては、答申ははっきりと否定的な立場をとり、税率は基本的には単一の比例税率であるべきだと主張している。その理由としてあげられるのは、累進課税論の基礎にある限界効用の逓減や所得再分配という概念は、本来自然人である個人にだけ当てはまるものだということと、税制は企業規模についてはできるだけ中立的であるのが望ましいということである。」(藤田[1987:211])

◆小倉 武一 19880730 『三間人税政問答』,農山漁村文化協会,293p. ISBN-10: 4540880462 ISBN-13: 978-4540880469 [amazon] ※ t07.

 渓谷「日本の法人税率は国際的にみていかにも高い。また過去を顧みても昨今のように高い水準はありません。とくに経済取引が国際化している今日では企業の海外逃避とか、日本での一つの企業の集中管理をきらう傾向も生じてきます。日本企業の活力を維持するゆえんではありません。」(小倉[1988:65])

◆自由民主党税制調査会 編 19880811 『早わかり 税制改革一問一答』,東洋経済新報社,236p. ISBN-10: 4492610154 ISBN-13: 978-4492610152 980 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

 「法人税については、昭和40年代後半以降、所得税減税財源やその他の財政需要に充てるため、毎年のように負担の引上げが行われてきました。また、一方で、我が国の経済、社会の国際化が進むと、法人税の負担が国際水準よりも高いことが企業の海外逃避の誘因になるなどの問題が生じることも考えられます。
 こうした点から、今回の税制改革では、産業経済の持続的な活力の発揮、国民経済の全体としてのバランスのとれた発展を通じて、雇用の確保などにもつながり、ひいては国民生活の安定をもたらすものと考えられます。」(自由民主党税制調査会編[1988:46])

◆中谷 巌・本間 正明・八田 達夫 19880929 『税制改革で変わる日本経済』,東洋経済新報社,214p. ISBN-10: 4492610162 ISBN-13: 978-4492610169 1400 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◇中谷 巌 19880929 「国際国家へ飛翔するパスポート」,中谷・本間・八田[1988:73-93]

 「日本が税制を決定する場合には、アメリカがどうなっているか、ヨーロッパはどうか、あるいはアジアとの関係はどういう実情にあるかをしっかりと把握したうえで、日本だけが突出しないようにしなくてはいけない。
 この点に関していえば、自民党の税制大綱も政府税調の答申も多少の配慮はしていて、たとえば所得税の税率構造を簡素にしたり、法人税については現在四〇%の法人税率を三七・五%になる方針を打ち出している。<0082<
 しかし、これでも依然、アメリカに比べると、かなりの格差が残る。改正後の所得税の最高税率が日本で六〇%、アメリカで二八%では岡本綾子さんはなかなか日本に戻ってこないだろう。また、アメリカでは法人税率が三四%であることに加え、減価償却制度も日本よりかなり有利である。
 だから、完全に平準化が行なわれたとは言いがたいが、方向としては日米の格差も多少は縮小することになろう。この点では、それなりの評価ができると思う。」(中谷[1988:82-83])

◇中谷 巌・本間 正明・八田 達夫 19880929 「改革すべきは何か」(鼎談),中谷・本間・八田[1988:97-214]

 八田「ヒト・カネ・モノとよく言いますけれども、それの移動の度合がいろいろ違うと思う。法人のように、非常に簡単に場所を移せる場合には、これはいくら番号があっても、本質的に同一の税率にしないといけないあるいは税率を非常に引き下げていかなければいけない。
 人間の場合には、動けるけれども、動く度合が法人ほど楽ではない。教育とか、言語とか、文化、親の面倒を見るとか、そういうさまざまな問題がある。もちろん、将来に関しても移動性が高まっていくわけですね。[…]しかしそこの段階に至るまでは、ある程度、所得税の累進度が外国よりも高いということは許容できるだろうと思う。」(中谷・本間・八田[1988:184]、八田の発言)

◆八田 達夫 19890916 『直接税改革――間接税導入は本当に必要か』,日本経済新聞社,262p. ISBN-10: 453208850X ISBN-13: 978-4532088507 1300 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

第7章 アメリカの税制改革
 「法人税率を下げたにもかかわらず、投資の税額控除の廃止と減価償却方式の変更によって、大幅な法人税の増収(一九八七年から九一年の五年間に、法人税増は一二〇〇億ドル)が見込まれており、これが投資意欲を減退させるのではないかといわれている。
 もっとも一方には、今までタックスシェルターや、キャピタルゲインを狙って不動産投資に向かっていた資金が、金融資産に流れるから利率の低下を引き起こし、それが投資を刺激するという相殺的効果もある。さらにいえば、この法人税で最も打撃を受ける重厚長大産業(鉄鋼、自動車業界等)は、今までの税制の中立性を侵して強力な実質的補助金を受けていたのだから、それらの分野での投<0193<資が減るのは、長期的観点から見て、効率的な資源配分を達成すると見ることもできる。
 しかしながら、法人税増税が全く問題がないわけではない。キャピタルゲインが全額課税所得とされる新税制下では,法人税は完全な二重課税である。内部留保はそれが適切であると信じられる度合いに応じて、株のキャピタルゲインにはね返る。したがって税の中立性の観点からは、キャピタルゲインが課税所得とされているなら、法人税は廃止されるべきである。このことを考えると、法人税かキャピタルゲイン税の軽減を求める動きが強まるに違いない。」(八田[1989:193-194])

◆貝塚 啓明・野口 悠紀雄・本間 正明・石 弘光・宮島 洋 編 19901020 『税制改革の潮流』,有斐閣,324p. ISBN-10: 4641053529 ISBN-13: 978-4641053526 2060 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◇堀場 勇夫(ほりば・いさお) 19901020 「経済国際化の中の法人税改革」,貝塚他編[1990:155-178]

 「世界的規模で活動している企業は、各国の租税負担の格差に配慮しつつその行動を決定する。すなわち、各国の法人税制を勘案しつつ、世界的規模で資金を調達し、製造し、販売し、利益の分配を選択している。法人税に対するこのような企業の対応は、主として二つあげられる。すなわち、法人税に対する裁定行動と、企業の立地国選択に関する行動である。
 第一の法人税に対する裁定行動とは、活動している国々によって法人税制に大きな格差が生じた場合、トランスファー・ブライシングやタックス・ヘイブンなどを利用することで、その課税所得を法人税負担の低い国に配分させる行動をいう。
 第二の立地国選択に関する行動とは、各国の法人税格差が特に大きくかつ継続する可能性が<0167<ある場合、また裁定行動では限界がある場合、工場、支店、本店の立地国についての選択をする行動を言う。この企業行動は、各国の法人税を論ずることきに、産業の空洞化の問題として、特に最近問題となっている点である。
 […]各国の税務当局は一種の競争市場原理の中で税制を考えなければならなくなるであろう。いわゆる、国際的なタックス・コンペティション(租税の競合)の発生である。」(堀場[1990:167-168])

◆河野 惟隆 19950325 『法人税・所得税の研究』,税務経理協会,262p. ISBN-10: 4419023066 ISBN-13: 978-4419023065 3975 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◆舛添 要一 20001214 『舛添要一の税金のことが面白いほどわかる本』,中経出版,176p. ISBN-10: 4806114197 ISBN-13: 978-4806114192 [amazon][kinokuniya] ※ a07.

 「今や企業が国境を越えて活動する時代です。税制を初めとするビジネス環境が劣っていれば、優良な企業は海外に逃げていきます。1998年度の税制改正より前には、日本の法人課税の実効税率は50%と、諸外国に比べて高かったのですが、現在は40%にまで下がっていますので、その点は評価してよいと思います。」(桝添[2000:138])

◆石 弘光 20010625 『税制ウォッチング――「公平・中立・簡素」を求めて』,中公新書,252p. ISBN-10: 4121015916 ISBN-13: 978-4121015914 819 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

第4章 企業は納税者たりうるか――法人税の新たな展開
 「わが国のみならず、どこの国でも法人税の取り扱いに苦慮している。このことは、各国の法人税制の混乱した過去のジグザグの改革をたどるとよく理解できる。もとより日本も例外ではない。法人税は企業活動にまともに影響を及ぼすだけに、その取り扱いいかんによっては、クロスボーダーで企業は移動しかねない。国際化の時代に入り、国際競争力あるいは協調の点からも、法人税の役割はますます大きくなってきている。
 法人税の正体がなぜ不明なのか。その最大の理由はまず誰が負担するのか分からない点にある。理論的には、株主、従業員あるいは消費者のいずれかにその税負担が及んでいるはずである。だが実際のところ、それを誰も判断できない。より重要なことは、法人税にはあるべき姿を論じる際の基礎的な尺度が確立していない。このことは曲がりなりにも課税の公平確保の視点から、課税ベースを極力広く取るべきだと主張する「包括的所得」基準に基礎を置く所得税とは大きく異なっている。法人税には、理想の姿と描く統一的な尺度がない。かくして同じ直税ではあっても、法人税は所得税と大きく異なっている。
 このように法人税は、あるべき姿を求めて現行税制を改革する方向を一義的にかつ恒久的に設定できないという欠点を有する。法人税改革は、その背後にある経済社会の変化およびその経済効果を見て、その時々に最適な目標を立て、その達成を目指すほかはない。つまり<0070<法人税率の設定にしても、国際間の資本移動、競争力の確保、企業の資本調達あるいは資本市場に与える税制の影響を考え、法人税の仕組みを適宜構築せねばならない。」(石[2001:70-71])

◆土居 丈朗 20021115 『入門公共経済学』,日本評論社

・法人税の意義
 「このようにみれば、法人税は課税前の状態と比べて資源配分に歪みを与えるから、効率性の観点から望ましくないといえる。このまま結論を導くとすれば、法人税は課税しないほうが望ましい、ということにある。しかし、この章での議論をそのまま現実の法人税の議論のあり方に適用するわけにはいかない部分がある。なぜならば、この章での議論は、金融市場において完全情報であったり、企業の利潤は株主にすべて配当として分配されたりする想定になっているからである。現実の経済は、金融市場において完全情報でないかもしれないし、企業の経営実態は法人擬制説が想定しているものとは異なるかもしれない。
 金融市場では、借り手と貸し手の間に情報の非対称性があり得る。借り手の企業は自らが行う事業について正確な情報を持っていても、自らにとって不利になる情報を隠し、貸し手にとって正確な情報がわからない場合がある。企業が、貸し手にとっても望ましい事業を健全に行っていて不利になる<0146<情報がないなら隠そうとはしないが、すべての企業でそうなるとは限らない。その場合、借り手からみれば、どの企業が健全な企業でどの企業が不健全な企業かが正確にはわからない。だから、貸し手は健全な企業と不健全な企業を完全に区別することができない。そうなると、貸し手としては、健全な企業だけにお金を貸すことを貫徹できない。誤って不健全な企業に貸し、貸し倒れることも想定しなければならない。これに対応するためには、貸し手はたとえ健全(に見える)企業に対しても多少高めの金利をつけて貸そうとする。
 健全な企業にとっては、(どの企業かわからないが)不健全な企業が隠す情報のせいで、高めの金利でしかお金が借りれない。実際に健全だった企業は、事業を行って多くの収益を上げるが、その事業のための資金を高い金利の負債でまかなうと、それだけ株主にとっての利潤が減ってしまう。そうなれば、こうした企業はできるだけ負債による資金調達を避け、資本(株式発行や内部留保)によって調達しようとする。すなわち、法人税がないとして、金融市場における情報の不完全性がない状態に比べて、不完全性がある状態の方が資本により多く依存した資金調達になる。
 ところが、前に述べたように、法人税には、負債によって調達すればそれだけ税負担を減らせるが、資本によって調達すればその分税負担を強いられるという性質がある。この性質は、金融市場における情報の不完全性が資金調達に与える性質と正反対の方向に機能する。もし、この情報の不完全性による資源配分の歪みが深刻であれば、法人税を課税することによって、この歪みをいくぶんか是正できるかもしれない。ただし、適切に課税しなければ、法人税の課税がかえって資源配分の歪みを助長しかねない点には注意が必要である。
 別の側面としては、企業は次のような意味で「実体」を持っている場合に、法人税の意義を見いだせるかもしれない。ある個人が、自ら稼いだ労働所得を元手に自宅を購入したとする。もちろん、労働所得には所得税が課税され、課税後初頭を蓄えた末に購入したものである。他方、別の個人は、企業の利潤を蓄えて社宅という名目で家を企業が購入し、それを無料でその個人が借りるという形で、事実上の「自宅」に住んだとする。もし法人税がな<0147<ければ、企業の利潤には課税されない。このとき、同じ自宅の購入資金でありながら、労働所得が元手ならば課税され、企業の利潤が元手ならば課税されないことになる。こうした状況に対して、法人税を課税することに意義を見いだせよう。
 また、所得税では株式の値上がり益(キャピタル・ゲイン)に対して完全には課税できない場合も、法人税の意義を見いだせるかもしれない。ある企業の株式が値上がりし、その株主が株式を売却しないとすれば、時価評価すれば値上がり益があるものの、現金収入としてはまだ実現されていない。こうした未実現の値上がり益は、すべての個人について保有する株式の時価を税務当局が把握できない以上、完全には所得税で課税できない。
 未実現の値上り益を含んだ株式を担保にお金を借りて、消費することが可能だから、未実現といえども購買力を持っている。もし未実現の値上り益に所得税を課税できないならば、株式を担保にお金を借りて遺産を残さずすべて消費したが、未実現のまま(株式に売却しないで)生涯を終えた個人と、生涯を終える直前に値上りした株式を売却して実現した値上がり益に対する所得税を納税した個人とでは、生涯の消費量に差が出てしまう。値上り益を未実現にして税負担を将来に延期することができるなら、未実現の値上がり益を課税する代わりに、留保されている企業の利潤に対して法人税を課税する方法が考えられる。ただし、この方法で、未実現の値上げ益に課税するのと完全に同等の課税ができると限らない点で注意が必要である。
 後二者の論点は、個人には寿命があるが、企業は通常永続するものとされている差異を利用して、所得税の負担を繰り延べたり逃れたりする性質によるものである。こうした性質によって、所得税だけでは同じ経済状態の個人<0148<に対して同じように課税ができないならば、法人税にもそれなりの意義が見だせよう。法人税の意義は、公共経済学の観点からは、必ずしも明確に見いだせるわけではないが、ここで述べた論点では、適切に課税すれば、限定的だがしかるべき意義があるといえる。」(土居{2002:146-149])

◆岩田 規久男・八田 達夫 20031204 『日本再生に「痛み」はいらない』,東洋経済新報社,247p. ISBN-10: 4492394184 ISBN-13: 978-4492394182 1785 [amazon][kinokuniya] ※ e05. t07.

第6章 成長に資する税制改革とは
 1高齢化時代の税構造を考える
  法人税はなくすべきだ
 「八田 […]株式の譲渡益や配当所得には税金をかけ続けて、むしろ、法人税をなくす方向に持っていくべきだと思います。元来は、最終的に所得を得た人が税金を払うべきですね。株主が個人として得る所得は、株式の配当と譲渡益です。これらに所得税がかけられれば、法人税をかける理由がなくなります。
 昔は、コンピュータによる情報管理ができませんでしたから、譲渡益の徴税は難しかったのです。[…]いまでは、徴税技術が発達し、譲渡益に直接きちんと課税ができるようになったのですから、法人税は不要です。」([205])

◆河野 惟隆 20040120 『法人税法・所得税法の経済学』,税務経理協会,261p. ISBN-10: 4419043237 ISBN-13: 978-4419043230 3570 [amazon][kinokuniya] ※ t07.

◆森信 茂樹 20071002 『抜本的財政改革と消費税――経済成長を支える税制へ』,財団法人大蔵財務協会

 (3) 法人税率の引下げ、金融所得の分離課税をするドイツ
「ドイツでは、EUの加盟国拡大に伴う旧東欧諸国の低コスト競争から産業の空洞化が激化し、経済停滞につながるとともに、EUの財政ルールを越える財政赤字に悩まされていました。政府部内での長年にわたる議論を経て、メルケル大連立政権のもとで、財政再建を進めつつ経済活性化に向けた一連の税制改革が行われました。
 現行のドイツ税制は、利子や配当は、給与収入などと合算して15%から<0033<42%まで(所得税額に対して5.5%の連帯付加税あり)の総合課税となっています。もっとも配当は、二重課税の調整として、その半額が所得に算入され、事実上、半分の税率で課税されます。また株式譲渡益は、1年以内に譲渡した場合のように投機的売買とみなされる場合(半額が総合課税)以外は非課税となっています。
 2003年11月、経済停滞とそれに伴う財政赤字に危機感をあらわにしたドイツ経済専門家委員会は、勤労所得と金融所得を分離して課税する二元的税制(Dual Income Tax Regime)の提言を行いました。
 「所得を投資所得と勤労所得に分け、前者については低い比例税で、後者は累進税で課税する。前者の税率は30%程度、後者は15%から35%程度まで。法人税は、資本所得課税と包括的に(comprehensive)統合する。営業税(地方税)は、資本所得、勤労所得の税率に上乗せすることにより置き換える。目的は、税制が経済に与えるゆがみの軽減、投資への優遇による経済成長である」。
 この委員会はドイツで最も権威ある機関で、提言に対して政府は何らかの対応をする法律上の義務を負っています。これを受ける形で、2006年11月の連立与党作業部会で、「2009年より、利子・配当・株式譲渡益について、25%の税率で源泉分離課税を導入する」ことが合意されました。
 また、VATの標準税率の16%から19%へ引上げ、所得税最高税率の引上げ(42%から45%へ)が、2007年1月から実行されています。増収分の3分の2は財政再建に、残りの3分の1は社会保険料の引下げに充当されます。そして2008年から、法人税率が現行の25%から15%へ引き下げること、営業税基本税率を5%から3.5%へ引き下げること、この結果法人所得課税(法人税・営業税)の実効税率は、現行の39%から30%へと10%程<0034<度引き下がることになります。財源としては、営業税の損金算入を認めないこと、法人のネットの支払利子の損金算入を制限すること(利子を一部法人段階で課税すること)など課税ベースの拡大による増収措置が採られています。」(森信[2007:33-35])

◆神野 直彦 20071130 『財政学[改訂版]』有斐閣

 「実際、法人税は転嫁されていることを実証する研究が続々と現われている。すでにコルムは1954年の時点で、法人税の税率が引き上げられたにもかかわらず、投資と法人利潤が増大していることから、法人税が転嫁されていることを指摘している。ラーナーとヘンドリクセン(Eldon S. Hendriksen)も、1927年から29年、36年から39年、55年から57年という三つの時期について考察し、いずれの時期においても著しく増税された法人税は、完全に転嫁されたと結論づけている。
 こうして今や、法人税の転嫁を肯定する議論が、常識になっているといって<0177<もよい。このような法人税が、生産物市場で転嫁されているとすれば、法人税が直接税ではなく、間接税だといわなければならなくなる。租税に転嫁するか否かを確定することは難しい。シュタインがいうように、転嫁は不可知論の領域に属するといったほうがよいかもしれない。
 そうだとすれば、転嫁の有無を分類とする直接税と間接税の区別は、きわめて曖昧な租税の分類の基準となる。そのため直接税と間接税の区別は、実際の転嫁の有無ではなく、立法上の規定に委ねられるようになっている。つまり、法律上、納税者が負担することを予定している租税が直接税であり、納税者が負担しないで、取引相手が負担することを予定している租税が間接税、と理解さているのである。」(神野[2007:177-178])

「[…]直接税と間接税の比率、つまり直間比率[…]」(神野[2007:178])

 「しかし、法人税はすでにみたように、転嫁することが常識となっている。むしろ間接税だといってもいい過ぎではない。法人税を間接税だとすると、日本の直間比率は著しく低くなってしまう。
 そうだとすれば、日本の税制改革の直間比率の高いことをもって、日本の租税制度が能力原則にもとづく課税の公平を重視しているとはいいがたい。したがって、日本の直間比率を是正すべきだとする議論には、合理的根拠はないと<179<いうことができる。」(神野[2007:179-180])

◆ヴェルナー 『ベーシック・インカム』

pp. 147-148
 「クライナウ=メッツラー:それでは、企業は高収益を得た場合でも、企業は税金をまったく支払わなくてもよいというのですか?
 ハードルプ:ええ、そうです。それを理解するために、まずはっきりさせておかねばならないことがあります。つまり、私たち消費者は、企業レベルで徴収される税金をそっくりそのまま商品価格に反映された形で支払うわけです―企業レベルでは税はことごとく価格に転嫁されて、したがってブーメランのように消費に跳ねかえってくる。消費者は、従来<0147<の 手続きでは、この税金を実質的に消費者が負担していることも、その規模も知らずに支払っているのです。企業と企業家は、企業を経営し、企業に投資するために、課税後の利益を必要とします。利益は一国の経済の成長能力を示すもので、それは経済が発展するための余地を意味します。このことがしばしば見えなくなるのは、企業家の消費収入と投資収入とが統計上では区別されずに「企業家利益」として表示されるという事情があるからです。元来これは、農民ならだれでも知っていることです。すなわち、収穫の一部は消費にまわされ、収穫の一部は種として保存されねばなりません(投資)。企業家は個人的な所得を得るだけでなく、なによりも彼らの投資を確保しなければならないのです。」([147-148])

◆神野 直彦・宮本 太郎 編 20061205 『脱「格差社会」への戦略』,岩波書店,234p. ISBN-10: 4000237705 ISBN-13: 978-4000237703 1680 [amazon][kinokuniya] ※ e03. t07.

 有効で公平な税制とは何か 大沢 真理・三木 義一・神野 直彦
 三木「金融所得への課税を重くすれば海外へ逃げてしまうとか、法人税を重くすれば企業は海外へ出て行くなどとよく言われますが、かつてOECDが警鐘を鳴らしたように、有害な税の割引競争はやがて各国の税制を蝕みます。
 現在はむしろ、国際取引を利用した租税負担回避のほうが大きな問題です。きちんと負担をさ<0030<せるよう、日本でも税法上の適切な手当が必要です。そうでないと、海外に移動できない中小・零細企業や給与所得者だけが、税負担させられることになりかねません。」([30-31])

◆川上 尚貴 編 20080918 『図説日本の税制(平成20年度版)』,財経詳報社

(2) 法人と株主の負担調整・法人税の転嫁と帰着
「法人は株主とは別個の独立した主体として経済活動を営む一方で、得られた利益は配当され株主に帰属するという二面性を有しています。このような実態から、法人税の性質及び課税根拠については、法人は株主の集合体と見る「法人擬制説」と、法人は株主とは独立した存在と見る「法人実在説」の二つの考え方があります。法人段階で利益に課される税(法人税)と、株主段階で配当所得に課される税(所得税・法人税)について、前者の考え方によれば何ら調整を要しないということになります。わが国の税制では、個人株主については配当控除(税額控除)、法人株主については受取配当の益金不算入制度を採用し、税負担の一部を調整することとされていますが、諸外国でもその取扱いは様々(287頁参照)であり、上述したいずれか一方の考え方によって現在の法人税を説明することは難しくなっています。
 ところで、法人税は税の転嫁と帰着(第1編10参照)についても様々な議論があります。法人税の転嫁の度合いは、生産する財・サービスの需給関係、資本や労働などの生産要素の組み合わせをいかに早く変更できるかなどの様々な点に左右されます。短期的に見ると、消費者や労働者よりも、主として企業とその株主に帰着し、また、法人税は利益に対する課税であり、企業の生産量には影響を与えないものとも考えられています。しかし、現実の市場や企業行動を踏まえると、法人税の負担は、企業の価格設定や賃金・利潤の分配、さらには生産活動にも影響を与えており、こうしたことから、法人(あるいは株主)のみならず労働者や消費者などにも帰着しているものと考えられています。」(川上編[2008:120])

◆林 正寿 20080930 『租税論――税制構築と改革のための視点』,有斐閣

12-3 法人の本質と課税のあり方
法人所得税と個人所得税
「法人擬制説と法人実在説とでは、法人所得の課税に対する考え方が違ってくる。法人擬制説では、法人所得は個人が法人という組織を通して得たもので、したがって法人税は個人所得税の前取りであるという立場をとる。法人が個人に配当する場合、配当に対して法人の段階では法人税が、個人の段階では所得税が課税され、二重課税であると批判される。配当ほどに法人所得との関係は直接的ではないが、株価の上昇から生じる資本利得(キャピタル・ゲイン)が法人所得の社内留保の部分を反映するならば、資本利益に対する個人所得税は、補遺人利益の社内留保に対する二重課税を構成する。
 ところが、法人実在説をとると、法人は株主に還元されない固有の存在であるから、法人所得税と個人所得税は別個の経済主体に対する課税であり、二重課税にならない。法人は個人から独立して存在するので法人税を支払う主体であり、法人の所有者であり株主に対する個人所得税との調整を行わなくてもよいことになる。」

12-4 法人擬制説と二重課税の調整
法人所得税と個人所得税の統合
「法人擬制説を採用するならば、個人の株主から独立した独自の存在としての法人という納税主体は存在しない。法人とは個人の株主が利潤獲得のために設立した組織にすぎず、それ自体が株主から独立して担税力を有するわけではない。法人の所得は株主のものであり、法人の段階で支払った法人所得税は、株主に帰属する法人所得に対する個人所得税の法人所得税という形での前払いにすぎない。法人所得税の存在は、徴収機構としての機能をはじめとしたさまざまな役割のゆえに容認するとしても、法人所得税と個人所得税の両税の課税は、同じ法人所得に対する二重課税を構成する。したがって、二重課税を調整する必要が生じる。>0162>」

法人所得税の廃止
「法人擬制説の明確な帰結は、法人所得税を廃止して、すべての法人所得を株主に帰属させたうえで、個人の段階で他の所得と一緒に個人所得税を課税することである。既存の法人所得税を存続させるとしても、株主に帰属する法人所得に対する源泉徴収の意義しかない。アメリカでは1999年に財務省が新制度を導入して以来、多くの法人は通過企業と指定され、法人所得税を支払わず、法人所得の金額を株主への支払いに回すようになった。このことにより法人所得税と個人所得税の二重課税は回避され、帰属所得金額が個人の段階で個人所得税を課税されることになる。この処置を受ける法人は、内国歳入法第1章S節の規定に従って課税されるからS法人と呼ばれるが、同じ処置を受ける法人が増加している。法人所得税の転嫁がなければ、法人所得税と個人所得税の調整における完全なインピュテーション方式のもとでも、同じ結果がもたらされる。」(林[2008:162-163])

◆立岩 真也 2009/07/01 「税制について・8(終):法人税について――家族・性・市場 45」,『現代思想』37-(2008-7):- 資料,
 ↓ ◆立岩 真也 2009/09/10 「軸を速く直す――分配のために税を使う」,立岩編[2009:11-218]
◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 2009/09/10 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310 [amazon][kinokuniya] ※ t07

 □正当化できないともされるがそんなことはないこと
 「今回を含め計八回の税制に関わる文章は、その順序をかなり変更した上、関連する他の著者たちの文章と合わせ、この夏に青土社から刊行される本となる。今回でいったん終わらせる。これまで主に見てきたのは所得税だった。今回は――法人に限る必要はないのだが、制度上存在するのは法人税なので――法人税について。
 組織に対する課税をどのように正当化できるか。なかなかに複雑な議論もなされている。国によって制度も異なり、各々複雑なことになっている。ここではごく基本的なことを考えておくとしよう。そのなかなかに複雑なことが言われる中で、法人税の正当化は不可能である、あるいは困難であるといったことが言われる。それはおかしい。そのこと等を述べる。[…]
 […]
 なされている議論は、基本的に、利益が個人に帰属するか法人に帰属するか、両方か、そのいずれかという問題の立て方になっている。それに「法人擬制説」「法人実体説」が絡んでいる。だがそれは必要な議論なのだろうか。そうは思えない。この対立にそれほどの意味があると考えない。
 法人擬制説を、法人の存在性格云々を巡る主張というより、とにかく利益は結局は株主・出資者のものであると主張している説であるとすると、それはそれで、主張自体は明確ではある。しかし、実定法がどうなっているかとは別に、また関係する学問の学説が何を言っているかとは別に、それを受け入れなければならないことはない。本来すべてが出資者に帰属すると考えることはない。そしてこれはすくなくとも法人税を認める人、さらに所得税などの個人に課せられる税を認める人にとっても、当然のことである。その利益がそれらの主体のものであるなら、その一部を税とすることはその権利の侵害であって認められないことになってしまうのである。
 では次に、今述べたことを言うために、利益が帰属し、税を払う主体としての法人の「実在」を言わねばならないだろうか。まず、すくなくとも教科書や概説書の限りでは、「実在」とは何のことなのか、よくわからず、実在するかしないか、答えようがない。実在を示す条件の設定の仕方によって、実在するともしないとも言える。そのことではなく、ここで確認するのは、そこに現に存在する利益の一部が税として徴収される時、「誰」という、支払う主体――ということはすくなくともいったんは、その組織が生産したもの、あるいはその生産したものから生産に必要なものを差し引いたものを、すくなくともいったんは所有している――があると言うこと、特定することは必要でない。税は、ある主体の決定や同意によって――決定したり同意したりする、すなわち何かに対して権利を有する存在を主体という――支払われるものではない。したがって当然、その主体の存在の有無を議論したり、言うことも必要でない。
 次により積極的に述べよう。ごく単純な場合を捉え、ごく単純に考えよう。集団の活動があってものが生産される。そこに生産されたものをどのように分けるのがよいかである。  そこには経営者を含む労働者がいる(むろん両者を分けて見た方がよい場合があることは承知している)。また出資者(資本家・株主)がいる。それぞれの受け取り分がある。けれど、出資という行ないによって生産に貢献した人も、経営・労働という行ないによって生産に貢献した人も、それらを合わせた人たちも、そこにある生産物を独占する権利はないと、私(たち)は考えてきたのだった。ただ、出資者は自分で消費してもよかったのに消費せず、リスクを負って出資した。また経営者・労働者はそれぞれに働き苦労してきたのではある。だから、その人たちがその一部を受けとるのはよしとしよう。ただ、それはそれとして認めた上で、全体からそれを差し引いた分を、他の人々が等しくあるいはその必要に応じて受けとることはよいことである。これが税に当たる。そう考えればよい。  生産組織で生産されたものは、個人によって生産されたものと同じに、個人であれ組織であれ、生産者だけに帰属するものであると考える必要はなく、また考えるべきでない。他の人々によっても利用されてよいものである。そう考えれば、法人税――もちろん計算の仕方によってその性格は変わってくるのではあるが――は、原理的に正当なものである。」
 □二重課税という指摘に対して
 □所得税との関係
 □誰の負担になるか定かでないことについて
 □ここでも海外逃避のこと等


製作:村上 慎司
UP:20090425 REV:20090503, 0611, 0616, 0717, 20, 0816
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