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科学技術/所有・国際競争・国家戦略・…2001<ヒト細胞株競売>

科学技術・国際競争・国家戦略・…



◆2001/10/25 <ヒト細胞株競売>40人分、借金の担保に 評価額1・6億
 毎日新聞ニュース速報

 「ヒト細胞研究の権威で日本ヒト細胞学会の奥村秀夫理事長(68)が、個人で所有していた日本人40人分の遺伝子情報を含むヒト細胞株を、借金の担保として提供していたことが24日、分かった。借金は返済できず、細胞株は東京地裁に差し押さえられ、競売にかけられる。最高度のプライバシーで、クローン人間作りに利用される可能性もあるヒト細胞が、誰の手に渡るか分からない状態になっており、研究者のモラルが問われそうだ。
 奥村理事長は毎日新聞の取材に事実関係を認め「軽率だった」などと話している。
 関係者によると、奥村理事長は96年ごろ、ゴルフ場開発や健康食品販売などを手がける実業家(58)の資金提供を受け、所有するヒト細胞を使い、毒性試験などの研究材料としてヒト細胞株の大量生産を計画した。理事長は実業家側から96年4月に1億円、96年9月に2000万円を受け取り、その担保として細胞株を差し入れる契約を結んだ。
 しかし、製薬会社などのパートナーが見つからず、計画は行き詰まった。このため、借金と利息に損害金を合わせて約2億円が未返済として、実業家が今年6月、東京地裁に細胞株の引き渡しを求める強制執行を申し立て、認められた。
 細胞株は7月、東京都品川区の学会事務局に液体窒素に入ったまま保管されていたところを執行官に差し押さえられ、現在は都内のクリニックに保管されている。東京地裁が専門家に依頼した結果、胎児から採取されたもので、評価額は1億6000万円とされた。
 ヒト細胞の入手経緯について、奥村理事長は「当事者の同意を求める手続きが厳しくなかった20〜30年前、サンプルとして学者間で取引していたものなどを集めた」と説明している。
 奥村理事長は、厚生技官として国立予防衛生研究所の免疫細胞研究室長などを歴任し、94年に退官後は日本大客員教授なども務めている。91年の日本ヒト細胞学会発足時から理事長に就任した。同学会は今年8月、クローン人間作りを禁止する一方で、ヒトクローン胚(はい)の作製を条件付きで認める指針案をまとめた。
 ヒト細胞に関しては、臓器や血液と異なり、売買の禁止規定はないが、個人プライバシーに関する遺伝子情報を含むため、現在は遺伝子解析の場合は本人の同意が必要とされている。【本多健】

<ことば>ヒト細胞株

 胎児などから採取され、安定した増殖をする細胞の塊。国内で研究用として販売、流通しているものは主に米国製で、国内では年間5億円分程度が売買されているとみられる。日本人の遺伝子情報を含む研究用のヒト細胞株は商業ベースでは流通していないが、新薬開発などのため過去に採取された日本人の細胞株の需要が高まっている。愛知県のベンチャー企業が移植用皮膚の生産のため、細胞培養の事業化を計画している。」
[2001-10-25-03:05]

◆<ヒト細胞株競売>「学会にブローカー出入り」 理事長一問
 毎日新聞ニュース速報

 「最先端の学問として注目されるバイオテクノロジーの権威が、自らの遺伝子ビジネスに失敗し、最高度のプライバシーである遺伝子情報を含むヒト細胞を借金の担保にしていた。日本ヒト細胞学会の奥村秀夫理事長(68)。倫理上の問題からヒト細胞は新たな採取が難しくなり、水面下で売買される価格が高騰しているといわれる。理事長によると、今回の問題解決を請け負うと称して学会事務局にブローカーも出入りしているという。遺伝子ビジネスをめぐる危うい実態が浮き彫りになった。
奥村理事長は約2時間にわたり、毎日新聞の取材に応じた。一問一答は次の通り。
――なぜ細胞を担保に入れたのか。
相手側は「事業の権利者だから万一のため」と言うし、実業家との間を取り持った連帯保証人も「借金は形式的で、事業が軌道に乗れば億単位の金が入る」と言うのでサインした。
――借金は返せないのか。
利息も払わなくていいはずなのに、損害金を合わせて元本プラス8000万円も要求された。連帯保証人も保証してくれず、計画通りの資金調達も実現していない。今思うと、だまされたのかもしれない。
 ――強制執行には抵抗したのか。
 細胞は遺伝子情報を含む人類の財産であり、(通常差し押さえの対象となる土地などの)不動産感覚で扱うのはおかしいと主張したが、裁判所は不動産として扱い、差し押さえは止められなかった。
 ――そもそもどうやって入手したのか。
 研究用として、学者の間でやり取りしていたものを中心に集めた。誰のものかは特定できないが、日本人のものだ。
 ――どのくらい価値があるのか。
 日本人のヒト細胞株のコレクションは大変貴重だ。4年ぐらい前に、米国のベンチャー企業から数十億円で引き取ると持ちかけられたこともある。(裁判所が専門家に依頼して算定した)評価額の1億6000万円は安すぎるが、そもそも売買の対象にすべきではない。
 ――そのヒト細胞を担保にしたわけだが。
 軽率だった。自宅を担保に3億円以上投資しており、開発資金がほしかった。
 ――個人的借金の返済に充てたのでは。
 それはない。最近も「問題を解決する」と言ってブローカーが何人も学会事務局に出入りした。他人をどこまで信用していいのか分からない。」
[2001-10-25-03:05]

◆10/25 <ヒト細胞株競売>所有権や売買、あいまいな「倫理規定」 
 毎日新聞ニュース速報

 「ヒトの細胞株は、主に外科手術や生体検査などで摘出された組織を培養して作られる。研究機関や病院が独自に保存・管理しているほか、国立医薬品食品衛生研究所などが公的細胞バンクとして細胞を収集し、研究者に提供している。
 細胞は医薬品の試験や発がんの仕組みの解明などに使われてきたが、最近になって、ヒト細胞を対象とした遺伝子解析研究や、再生医療などの研究が進み、「商品価値」が高まっている。日本人向けの医薬品を開発するには日本人特有の遺伝子解析が必要という見方もあり、海外の製薬企業やバイオベンチャーなども日本人の試料に興味を示している。
 これらの細胞は、いずれ廃棄される組織を利用してきたため、倫理問題があまり考慮されてこなかった。研究者の間ではかなり自由にやり取りされてきたといわれる。研究の進展に伴い、倫理的な取り扱いの必要性がクローズアップされるようになったが、細胞の所有権や売買について明確に定めた規定は今のところ存在しない。
 ヒトの細胞の遺伝子解析研究については、今年4月に厚生労働省などの3省共通倫理指針が施行され、遺伝子解析には原則として血液など試料提供者本人の同意を得ることが義務づけられた。提供を受ける場合には無償が原則とされている。
 しかし、いったん提供された試料から細胞株を作った場合、それを売買していいかどうかは規定されていない。また、一定の条件を満たせば、同意のない既存の試料の遺伝子解析もできる。
 公的細胞バンクを運営する国立医薬品食品衛生研究所は、ヒューマンサイエンス振興財団を通じ、分譲手数料をもらって細胞を提供している。細胞1種類当たりで大学・国公立研究機関が1万7000円、一般は2万9000円という。
 ヒトの細胞は企業も輸入して販売しており、肺がん細胞が6万2000円、健康な人の毛細血管内皮細胞が9万8000円などとなっている。
 ヒトの細胞を使う研究はますます重要度を増すと考えられ、慎重な取り扱いが求められている。」
[2001-10-25-03:05]

 

◆2001/10/25 研究所有のヒト細胞株、差し押さえで競売に
 読売新聞ニュース速報

 「「日本ヒト細胞学会」(東京都品川区、会員約800人)の奥村秀夫理事長が研究開発用に所有していた「ヒト細胞株」が差し押さえられ、26日に競売にかけられることになっていることが分かった。遺伝子解析をはじめ、ヒトの細胞の取り扱いが議論になっている時期だけに、研究者のモラルが改めて問われそうだ。
 関係者によると、奥村理事長に対する債権者が今年6月、ヒト細胞株の強制執行を東京地裁の執行官に申し立てた。同地裁の執行官は翌月、申し立てに基づいてヒト細胞株入りアンプルが入ったタンク2本を差し押さえ、専門家に価値の評価を依頼、約1億6000万円の評価額との回答を受けたという。細胞株は現在、東京都港区のクリニックに保管されている。
 生活必需品や公序良俗を害するものは、差し押さえできないが、あるベテラン裁判官は「細胞株も動産とみなされ、差し押さえの対象財産になる。ただ、こうした物の差し押さえは初めてではないか」と話している。
 ヒトの細胞株は、手術などで患者の体から摘出した組織を培養して作り、医学研究用や、医薬品の研究開発などに利用されている。薬物の反応を見るうえで、マウスなどの動物より正確な結果を得ることができ、新薬開発に欠かせない。最近では、けがや病気などで失われた組織や臓器の再生を目指す再生医療や細胞移植への利用への期待も高まっている。
 現在、国内で使用されている細胞のほとんどは米国からの輸入で、細胞数で50万個単位で2万円前後から10万円ほどで売買されている。国内では国立医薬品食品衛生研究所が運営する細胞バンクがヒューマンサイエンス振興財団を通じて実費で各研究機関に提供している。
 人間の組織については、旧厚生省の専門委員会が1998年、〈1〉組織を摘出する際の患者の同意の取得〈2〉患者からの組織提供は無償による――などを義務付ける指針をまとめている。」
[2001-10-25-13:41]

◆ヒト細胞株が競売に 学会理事長所有の数十人分
 共同通信ニュース速報

 「「日本ヒト細胞学会」の奥村秀夫理事長が所有していた数十人分のヒト細胞株が、差し押さえられ競売にかけられていることが二十五日、分かった。遺伝情報を含む研究用のヒト細胞株が不特定の第三者間で取引される可能性もあり、論議を呼びそうだ。
 ヒト細胞株をめぐっては、文部科学省が今春、遺伝子解析に用いる細胞などの提供を受ける際に本人から同意を得ることなどを求めたガイドラインを定めたが、研究資源として売買することを禁止する規定はない。
 文科省によると、国内には研究機関や大学などが運営している細胞バンクがいくつかあり、実費に近い価格で各研究機関に提供されているという。
 関係者の話や東京地裁の公告によると、六月二十七日に動産執行の申し立てがあり、七月に同地裁の執行官が東京都品川区の学会事務局でヒト細胞株のアンプルが入ったタンク二個を差し押さえた。
 専門家に依頼し評価額を一億六千万円とした上で、九月三日、同月二十八日に競売を実施する旨の公告をしたが、その後、十月二十六日に競売日が延期になった。
 ヒト細胞株は、競売が開かれる東京都港区内の医院に保管されているという。
 奥村理事長は一九五六年北海道大理学部卒で、六一年国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)に入り、免疫部免疫細胞室長などを経て九四年退職した。
 生活に必要な品や公序良俗に反する物を差し押さえることはできないが、法曹関係者は「ヒト細胞株が競売にかけられるのは国内ではおそらく初めて。国外では取引対象になっており、動産として認めても差し支えないと思われる」と話している。」
(了)
[2001-10-25-13:09]

◆実験用のヒト細胞 競売に 学会理事長が債務不履行で
 NHKニュース速報

 「ヒトの細胞の研究者らでつくっている学会の理事長が研究事業のために借りた資金の返済に行き詰まり、持っていた実験用のヒトの細胞が差し押さえられて競売にかけられることになりました。
 競売にかけられるのは、「日本ヒト細胞学会」の奥村秀夫(オクムラヒデオ)理事長が学会の事務局に冷却して保存していた実験用のヒトの細胞です。
 関係者によりますと、奥村理事長は平成八年ごろ、ヒトの細胞を使った研究事業を始める資金として会社経営者から一億二千万円を借りましたが事業ができなくなり、およそ二億円が返済できなくなりました。
 このため今年六月、会社経営者側が東京地方裁判所に奥村理事長の財産の差し押さえを申し立て、翌七月、裁判所の執行官が奥村理事長が持っていた実験用のヒトの細胞を差し押さえたということです。
 細胞は東京・港区のクリニックに保管されていて、あす競売が行われる予定で、評価額は一億六千万円ということです。
 奥村理事長の代理人の小宮山昭一(コミヤマショウイチ)弁護士は「本来、売買にはふさわしくないもので、差し押さえの対象にしないよう裁判所の執行官に訴えたが認められなかった」と話しています。
 ヒトの細胞は遺伝情報を含んでいるため、研究機関に対しては個人情報の保護を求める指針がありますが、こうした取り引きが広がっていくと倫理的な問題がでるおそれもあり、厚生労働省は個人情報の保護を徹底していく必要があるとしています。」
[2001-10-25-17:23]

◆10/25 「ヒト細胞株」が競売に=学会理事長所有、評価額1億6000万円
 時事通信ニュース速報

 「日本ヒト細胞学会」の奥村秀夫理事長が個人で所有するヒト細胞株が、東京地裁執行官の差し押さえを受け、競売にかけられることが25日、分かった。評価額は1億6000万円。細胞株の差し押さえは初のケースとみられる。個人のプライバシーを含む細胞株が不特定多数を相手とする競売にかけられることは、倫理的な問題をはらみ、論議を呼びそうだ。 
[時事通信社]
[2001-10-25-12:18]

 

◆2001/10/26  <ヒト細胞株>学会が指針を発表 売買は明確に規定せず
 毎日新聞ニュース速報

 「産婦人科医や生物学者らで作る「日本ヒト細胞学会」(奥村秀夫理事長、約800人)は、人の細胞や胚、受精卵などの研究利用に関する「指針」と「見解」をまとめ、25日公表した。奥村理事長が個人的に保管していたような既存の細胞株の所有権や売買については明確に規定しておらず、研究者の倫理に任された形だ。
 同学会の指針検討委員会がまとめた。基本的考え方として「研究にともなって派生する権利などについては個別に対応する」と規定した。しかし、細胞の所有権や売買については具体的に触れていない。
 一方、見解では、ヒトクローン胚づくりを容認する意見を書いたほか、人の胚の研究ができる期間を受精から6〜7週までとするなど、再生医療の研究に向けて従来より一歩踏み込んだ。しかし、同学会は「見解はあくまで学会としての要望で、国の方針とあわない部分は国に従う」と話している。
 国の動きとしては、文部科学省が、6月に施行されたクローン規制法に基づく指針案を策定中で、そこではクローン胚づくりは禁止されることになっている。」
【青野由利】
[2001-10-25-20:50]

 

◆2001/11/02 <ヒト細胞株落札>法律の谷間で所有権もあいまい
 毎日新聞ニュース速報

 「日本ヒト細胞学会の奥村秀夫理事長(68)が保管していた人間の細胞株が、借金のかたに差し押さえられ、競売にかけられて1億6010万円で“落札”された。個人の遺伝情報を含むヒト細胞株だが、これほどの「価値」があるのだろうか。そもそも細胞株の所有権は誰のものなのか。今回の前代未聞の事態は、明確なルールがないままに、生命科学の研究がビジネスとの結びつきを強めている実態を浮かび上がらせた。
【青野由利、松村由利子】

 ■細胞株とは

 手術や検査などで取り出した細胞は普通に培養しても増えず、やがて死んでしまう。ヒト細胞株とは、培養条件などを工夫し、ほぼ無限に増えるようになった人間の細胞のことをいう。
 正常なヒト細胞株を作るのは難しく、ほとんどのヒト細胞株は、もともと増えやすい性質を持つがん細胞だ。ただし、正常な細胞の中にも試験管の中である程度増えるものがあり、液体窒素で凍結保存しておけば、そのつど解凍して使える。このような細胞も広い意味で細胞株と呼ばれる。
 ヒト細胞株は、医学研究や生物学研究に欠かせない。製薬会社関係者は「医薬品開発を行う際には毒性がないかどうかを、いろいろな臓器の細胞を使って確かめる。肝臓の細胞は薬が体内でどのように代謝されるかの試験にも欠かせない」と説明する。
 大学などの研究室でもヒト細胞株を扱うところは多い。子宮がん細胞から作製された細胞株に研究対象の遺伝子を入れ、働き方を調べるといった研究に使われている。

 ■評価額は

 奥村理事長が保管していた細胞株は、東京地裁が依頼した大学教授が1億6000万円と評価した。この評価額に首をかしげる専門家は多い。
 理事長によると、保管していたのは数十人分の胎児の正常細胞で、「生体の状態に非常に近く、価値が高い。環境ホルモンなどが人体に与える毒性を調べようと考えていた」と言う。評価した教授も「現在は手に入りにくい日本人の胎児細胞で、まとまった人数分そろっているところに価値がある」と説明する。ただ、この教授は、理事長の論文などを参考にしただけで、細胞の性質を確かめたわけではないという。
 国内にはヒトの正常細胞を製薬会社などに売る企業が複数ある。そのうちの1社が輸入販売する胎児の細胞は1種類で10万〜18万円程度だ。公的な機関が運営する細胞バンクの場合は、どのような細胞も1種類3万円以下の実費で提供する。人間の受精卵から作製され、再生医療の研究材料として価値が高いヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)でも、米国の非営利団体が1株5000ドル(約60万円)で提供している。
 細胞を使い、毒性の研究をする専門家は「毒性などを調べるのに特に胎児細胞の価値が高いことはなく、これほど高額とは思えない」と指摘する。

 ■誰のもの

 では、体から取り出された細胞は、「動産」として扱える誰かの「所有物」なのだろうか。
 倫理問題に詳しい弁護士の光石忠敬さんによると、民法は取り扱う対象を「人」か「物」かの二つに分けて考え、「物」のうちの不動産でないものを動産とみなす。今回は液体窒素のタンクに入った細胞が動産とみなされたが、光石さんは「細胞は物でも人でもなく、第三のカテゴリーではないか」と指摘する。
 物かどうかの判断が異なるうえ、細胞には、提供者、細胞株を作製した研究者、それを利用する研究者や企業、研究機関などがかかわり、権利関係は複雑だ。しかし、細胞の提供や研究利用全般について定めた指針や法律はまだない。
 問題の細胞株は、奥村理事長が国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)で作製・収集し、退官する際に持ち出したという。「国の金で研究しているのだから、個人の持ち物ではない」と指摘する研究者もいるが、感染研には退職時に細胞を持ち出すことを禁止する規定はない。米国では、研究試料は研究機関に属するが、日本の規定はあいまいで、理化学研究所の研究員がからむ「遺伝子スパイ事件」の際にも問題になった。
 患者などから組織や細胞が研究者に提供される場合には無償が原則で、これを前提に同意が求められる。しかし、理事長が細胞を入手したのは25年から30年前で、同意の有無ははっきりしない。
 同意を得て無償で提供されたとしても、細胞が最終的に「商品」につながるケースは増える。米国では、患者の体から取り出した細胞で医師が特許を取得し、患者が利益の分け前を求めて医師らを訴える裁判も起きた。「同意があればどう扱ってもいいというのではなく、利益を社会に還元するシステムを含め、医学研究全体をカバーする法律が必要だ」と光石さんは提言している。

 <事件の概要>ヒト細胞株が競売にかけられるという事態は10月25日、毎日新聞の報道で発覚した。ヒト細胞学会の奥村秀夫理事長が学会に無断で「分室」を設けて、個人事業の拠点としていたことが判明するなど、不可解な事実も浮上している。
 奥村理事長が、細胞株を使ったビジネスチャンスをうかがう過程で実業家(58)と知り合い、1億2000万円の事業資金と引き換えに96年9月、細胞株を担保とする契約を結んだのが、発端だった。事業計画は行き詰まり、実業家は利息などを含め約2億円が未返済として今年6月、東京地裁に強制執行を申し立て、認められた。
 10月26日に行われた競売には実業家だけが参加し、地裁が決めた最低価格の1億6010万円で買い受けた。実業家側は細胞株の活用の仕方について「まだ何とも言えない」と話している。」
[2001-11-02-00:45]



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