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科学技術/所有・国際競争・国家戦略・…2000

科学技術・国際競争・国家戦略・…



◆2000/08/  ヒトゲノム 中村祐輔・東大医科学研究所教授に聞く
 『毎日新聞』夕刊
◆2000/09/14 科学技術会議の政策委員会、「ポストゲノム」と「ナノテクノロジー」の研究を戦略的に推進するための懇談会を設置すること決定
◆2000/11/12 『読売新聞』社説 ポスト・ゲノム戦略を急げ
◆『毎日新聞』2000-12-10
 <社説>ポストゲノム 国際競争を勝ち抜くのは
◆2000/12/05 科学技術会議「ポストゲノムの戦略的推進に関する懇談会」最終会合、報告書
◆2000/12/06 科学技術会議の懇談会、ナノテクノロジー国家戦略
◆2000/12/15
 科学技術会議総合計画部会「科学技術基本計画」の原案をまとめる
◆2000/12/27
 『毎日新聞』社説「遺伝子革命 おかしな世界は願い下げ」

◆2001/01/05 遺伝子特許を米が広範囲で承認 断片でも対象に
◆2001/01/18 日本学術会議、『サイエンス』に、人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解析結果を独自にデータベース化している米セレラ・ジェノミクス社の論文を掲載しないよう、講義する書簡を送付したと発表
◆2001/01/18 内閣府の総合科学技術会議、個別テーマ検討の五つの専門調査会を設置することに決定



◆200008
<夕刊特集>ヒトゲノム 中村祐輔・東大医科学研究所教授に
毎日新聞ニュース速報
 世紀の境目に合わせたかのように国際情勢は大きく変わり、第三次産業革命とも言われるIT(情報技術)革命の最中で、世界も日本も過渡期にある。20世紀最後の夏の「特集ワイド」では、そんな時代を見据えたテーマについて各分野の方々に語ってもらった。第一回目は「ヒトゲノム(人間の全遺伝子情報)」。東大医科学研究所ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔教授は、4月に始まった政府の「ミレニアム計画」で疾患遺伝子研究の中核を担う。「人類の月面着陸に匹敵する偉業」とされるヒトゲノム解析の最先端にいる科学者に聞いた。 【山田 道子】
 ――日米欧の国際チームと、米セレラ・ジェノミクス社が6月26日、ヒトゲノムの配列解読をほぼ終了したと、それぞれ発表しました。どのように受け止めていますか。
 ◆「解読」という言葉を使うこと自体が大きな誤解を生んでいると思う。ヒトゲノムは生命の設計図に相当する遺伝暗号だが、暗号解読は通常意味が分かって初めて「解読」と言える。今回は、暗号の並びが分かっただけです。10万種類と推測される遺伝子のうち働きが分かっているのは約10%に過ぎない。だから「読み取りの大部分が終わった」と言うべきでしょう。「終りの始まり」であり、「並び」の解析から「働き」の解析の時代に移行している。
 ――日米欧のチームは国際協力に積極でしたが、今後、遺伝子の働きが解明されれば、新薬開発などをめぐって特許取得の国際競争が展開することが予想されます。
 ◆国際協力か国際競争かというと、今後は基本的に国際競争になる。本格的な特許戦争に入ってくると思う。沖縄で開かれたサミット(主要国首脳会議)で、具体的な特許対象に踏み込めなかったのは、現在のような甘い形で特許を認めていくとアメリカが非常に有利だからです。
 セレラ社はほどんどのゲノム情報を持っている。それを使った特許を認めると、ほとんどの知的所有権がアメリカのものになってしまう。
 一方、きれい事を言っていると企業の開発意欲をそいでしまう。企業は特許によって利益を得るので、特許は開発競争を刺激する。その結果、病気を治す薬が早く見つかる可能性は高まる。どの程度まで特許を認めるかは非常に難しい判断だ。
★一桁違う日米の研究費
 ――なぜ日本でゲノム研究が遅れたと思いますか。
 ◆日本ではヒトゲノム研究がなぜ重要なのかという論議がほとんどされてこなかったことが最大の理由です。アメリカが成功したのは、研究のゴールは病気の遺伝子の解明であり、それによる薬品や治療法の開発だと、我々の将来にとって極めて重要であることを明確に示したからです。
 また、わが国では知的好奇心を満たす研究が尊い生命科学の研究であり、役に立つとか、産業化を考えた研究あるいは作業的要素の大きいものは、本流ではないという考えがずっと根強くあったことです。
 ――国際競争に負けるとどうなりますか。
 ◆医薬品を作るような遺伝子情報が全て欧米の特許になると、日本人は医療を受けるたびに膨大な特許使用料を間接的に支払わなければならなくなる。また、薬価が折り合わず保険がきかないようなことになれば、日本の医療保険制度の仕組みが崩れるかもしれない。金持ちはいい医療を受けられるが、貧乏人は受けられないというように、医療に貧富の格差が出てきかねません。
 ――日本の状況は変わってきていますか。
 ◆変わってきているから、ミレニアム計画の中心的テーマになったのでしょう。ゲノム研究は、従来の研究と違い「量的効果」が必要だ。ジグゾーパズルをするようなもので、100人の研究者が100ピースばらばらに研究成果を持っていても何のことか分からないが、1カ所に100枚並べることでゲノムとはこんなものかと分かる。
 それには戦略に基づく予算の運用が必要です。アポロ計画でも、みんながエンジンばかり作っていたら月には行けなかったわけで、分担を決めたから月に行けた。
 また、アメリカのバイオ研究予算を管轄する国立衛生研究所(NIH)と日本の文部省の科学研究費は一桁(ひとけた)違う。日本は効率な研究体制を早急に確立しなければならない。ミレニアム計画では、予算の半分の約640億円がゲノム研究に投じられ、その中で、少なくとも「SNP」(注1)の発見については我々のところで集中的にやることになった。
★「オーダーメード医療」が可能
 ――SNPなどゲノム研究は医療をどのように変えますか?
 ◆現在世の中に公開されているゲノムデータの医学への応用を考えた場合、二つの柱がある。その一つがSNPで、もう一つが「マイクロアレー」(注2)だ。
 SNPという遺伝子レベルの個体差(最小単位の人の個性)を発見することによって、どのような遺伝暗号を持っている人が病気になりやすいのか、そして、どのような遺伝暗号を持っている人に特定の薬が利きやすいのかが分かる。
 例えば、ある種の免疫抑制剤の副作用で、白血球が減る患者さんとあまり減らない患者さんいるが、その差がSNPの存在によることが分かった。抗がん剤の副作用のSNPによる差も報告されている。
 このような研究が進むと、個人に一番合った「オーダーメイド医療」が可能になります。「テーラーメイド医療」という言い方もあるが、僕は「テーラーメイド」という言葉は、お金持ちだけが受けられる医療という感じがするのであえて使わない。
 マイクロアレーを用いれば、病気になった段階で遺伝子の働きがどのようにおかしくなっているかを調べることができる。
 例えば、食道がんの患者さんで、抗がん剤が効いた人と効かなかった人のがん細胞をマイクロアレーで見ると、遺伝子の働きの強さの違いが色で分かり、遺伝子の働きの強さと薬の効果には関連が見られた。
 最終的には、抗がん剤が人によってどの程度きくかの予測できるようなデータベースを作り、これまで不可能だった抗がん剤の使い分けができるようにしたい。データベースを作るためにも、できるだけ多くの患者さんの情報が必要なのです。
 ――ヒトの遺伝情報は究極のプライバシーです。
 ◆研究の行き着く先にどれだけ大きなメリットがあり、一歩間違うとどのような危険があるのかという議論をしないで、遺伝情報が分かると、明日からプライバシーが侵害されて、差別が起きるかのような伝えられ方はおかしい。遺伝子診断によって病気を早期発見でき、がんによる死を防げることと、プライバシーの問題は切り離して考えるべきだ。
 その診断結果が有効に生かされるためにも、僕は情報をどう管理するのかが一番重要だと考える。日本人はプライバシー侵害に対して非常に鈍感です。今後は情報管理体制を整備するとともに、遺伝情報を不正に入手・使用した場合の刑法上の処罰規定を作るべきでしょう。
 ――遺伝情報が分かることによって、新たな差別を生む問題も指摘されています。
 ◆差別については、僕は教育から変えていかなければならないと思う。
 SNPの研究をやっていると、「みんなが同じではない」ということが分かる。遺伝暗号はみんな違うのだから、それぞれ個性の違いがあって当然です。
 しかし、今の日本の教育は、「みんな同じはず」「みんな同じように努力すれば同じことができる」という考え方は、真実をねじ曲げている。今こそ、「みんな違う。違うことを尊重すべきだ」ということを科学的に訴えることができると思う。本当の意味で個性を認めあい、広い視野で物ごとを教えることができる大きなチャンスなのです。
 注1 SNP
 ヒトゲノムの「一塩基多型」の英文の頭文字を取ったもので「スニップ」と読む。ヒトの遺伝子情報はDNA(デオキシリボ核酸)を構成する4種類の塩基約30億個の並びによって記録されているが、人の姿形が多様であるように、塩基配列も多くの部位で異なっている。その遺伝子の塩基配列のうち1個だけ違うのがSNP。ゲノムの数百〜1000塩基対に1カ所の割合で存在し、300万〜1000万か所の違いがあるとみられている。ゲノム内に多数存在し、判定や情報処理が簡単なため、病気に関係する遺伝子を探す際の標識として重視され、今後のゲノム解析の鍵をにぎるとされる。ミレニアム計画では、2年間で日本人のSNP15万個を発見することを目標としている。
 注2・マイクロアレー
 スライドガラス上に数万種類の遺伝子をひとつづつ並べることができるできるチップ。どの遺伝子かを色彩で判別できるため、例えば正常組織と病変組織の細胞を比較することによって、発現量が変化している遺伝子を簡単に見つけることができる。
[2000-08-15-13:19]

 

◆20000914 <ヒトゲノム>国際競争に勝てる戦略検討でナノテク懇談会設
毎日新聞ニュース速報
 首相の諮問機関、科学技術会議の政策委員会は14日、ヒトゲノム(全遺伝情報)の解読データを基に体内で作られるたんぱく質の構造や機能などを解析する「ポストゲノム」と、10億分の1メートルサイズの原子を直接操作する「ナノテクノロジー」の研究を戦略的に推進するための懇談会を設置することを決めた。国際競争に勝ち抜く戦略を検討し、具体的な目標や重点分野を設定する計画で、年内に報告書をまとめ、来年度予算などに反映する。
 ポストゲノムは、ヒトゲノムの概要が解読された後、生命科学分野の中心となる研究で、体質に応じた治療法の開発などにつながる。ナノテクノロジーは小型・超高速の電子部品など新しい材料を作り出す技術で、情報技術(IT)や医療といった広い分野で成果が期待されている。
【高野 聡】
[2000-09-14-21:05]

共: ポストゲノム戦略で懇談会
共同通信ニュース速報
 科学技術会議の政策委員会は十四日、人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解読終了後のポストゲノム研究や、原子・分子レベルの微小なナノ技術研究を、それぞれ今後どのように戦略的に進めるかを検討する懇談会の設置を決めた。十二月までに報告書をまとめる。
 ポストゲノム研究は、人の体の基本となるタンパク質の構造・機能解析を中心に各国の取り組みが進んでいるが、医療、産業などの応用を含め、世界をリードする分野、目標を考える。
 ナノ技術は、新たな材料や製造などの「ものづくり」につながる可能性があり、研究開発システムなども検討する。
(了)
[2000-09-14-18:08]

 

◆20001112
11月12日付・読売社説(2)
読売新聞ニュース速報
 [生命科学]
 ◆ポスト・ゲノム戦略を急げ◆
 人間の設計図であるヒトゲノム(全遺伝情報)の解読がほぼ終了したのを受け、その設計図の意味を突き止め、医学などに生かそうという「ポスト・ゲノム計画」が先進各国で活発化している。
 IT(情報技術)に次いで、二十一世紀初頭の国の活力や人々の暮らしを大きく左右する重要課題だけに、わが国でも戦略的な取り組みが欠かせない。
 生物がどのように生命活動を営み、世代交代してゆくのかを決めているのが、細胞内のDNAに四種類の塩基とよばれる化学物質で記された遺伝情報だ。
 人間の場合、その情報量は文字数で表して約三十億字分にもおよび、日米欧などが十年かけて解読を進めてきた。この解読を生命科学における激烈な競争の第一ラウンドとすれば、まさに始まろうとしている第二ラウンドは、遺伝子がどのように体を作るたんぱく質や生命活動を制御する酵素などを生み出すのかという機能の解明だ。
 研究の進展で、がんを始めとした様々な病気の原因解明や治療法の開発が進み、医薬品の開発も効率化できる。個人の体質に合わせて副作用のない望ましい薬を処方するオーダーメード医療や、病んだ臓器を再生するような治療も夢ではなくなる。
 国民の暮らしや国の経済基盤を支える急成長分野だけに、先進各国が取り組みを強化しているわけだ。だが日本は、ヒトゲノム解読への貢献度が7%しかなかったことに象徴されるように対応が遅れがちで、取り組みも十分でなかった。
 第二ラウンドで求められるのは、まず国の研究機関や大学、さらに民間も含めた研究者らの有機的な協力体制作りと、世界でトップに立てる研究テーマの選択だろう。わが国が特に強い分野を選んで、重点的に資金を投入する必要がある。
 国の研究支援策というと、施設や設備の整備に偏りがちだが、研究支援者の確保など人的な手当ても忘れてはならない。
 日本はこれまで、研究成果を特許化する取り組みでも遅れていた。基礎研究者には特許を軽視する気風が残り、大学や研究機関の特許取得を支援する体制も弱い。これでは、知的財産権を巡る攻防が激化する新世紀の勝者にはなれない。
 膨大なデータの蓄積と処理を伴うポスト・ゲノム研究では、これまで縁の薄かった生命科学とITが結びつかざるを得ない。各機関がばらばらに取り組むよりも、ゲノム情報処理の国家的な拠点を設けるような戦略があってもよい。
 忘れてはならないのは、急進展する生命科学が社会に与える影響だ。究極のプライバシーといわれる個人の遺伝情報をいかに守るか。遺伝情報による就職、結婚などの差別をいかに防ぐか。幅広い検討と、ルール作りを急がなければならない。
 国の科学技術会議が懇談会を設け、先月からポスト・ゲノムの国家戦略を検討しているが、これらのことを十分に考慮してもらいたい。戦略的取り組みに遅れた、ITの二の舞いを演じるわけにはいかない。
[2000-11-11-22:05]

 

◆『毎日新聞』2000-12-10
 <社説>ポストゲノム 国際競争を勝ち抜くのは

 このところ生命科学(ライフサイエンス)の進展が目覚ましい。象徴的な出来事は日米欧の協力で人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解読がほぼ完了したことだ。アポロ計画の成果にも例えられている。
 そしてヒトゲノム解読後の研究をどのように進め、その成果をどう医療や産業に生かしていくかということで、ポストゲノムの言葉がひんぱんに使われるようになった。
人体中で遺伝子情報をもとに作られ、酵素やホルモンとして働くたんぱく質の構造や機能の解明が当面の焦点になる。約10万種のたんぱく質のうち1万種以上が治療薬や診断薬の開発に結び付くとされ、理論的な薬作りが現実のものになった。
 個人に合わせて病気の予防や治療をするオーダーメード医療も可能になる。皮膚や骨、臓器などを復元、再生する再生医学、脳の神秘を解明する脳科学、アレルギーなどの研究にも大きな影響を与えそうだ。
 だが、ヒトゲノム解読での日本の貢献度は1割にも満たない。このままではポストゲノムでも欧米、特に米国に後れを取りそうだ。たんぱく質の機能解明はすぐにも特許になるから「患者の治療にも米国に特許料を支払う事態になるのでは」といった心配もささやかれている。
 「なんとかしたい」という声が政府や学界、産業界に強まり、科学技術会議(議長・首相)に設けられた「ポストゲノムの戦略的推進に関する懇談会」が報告書をまとめた。
 緊急の取り組みが必要な分野として疾患に関係する遺伝子の解明などに加え、たんぱく質の構造・機能解析、生命科学と情報技術(IT)が結び付いた生物情報科学(バイオインフォーマティクス)を挙げた。
 また国家戦略に基づくプロジェクト形式の研究開発が必要だとしている。欧米の後を追うだけでなく日本の優れた技術を活用した「先回りプロジェクト」の推進もうたった。
 当然の内容だが、トップダウン方式のプロジェクト研究は科学技術庁傘下の理化学研究所などに向いていても、大学ではまだ馴染みが薄い。新発足する文部科学省がプロジェクト研究と大学などの個別研究の調和をどう図るか、力量が問われる。
 バイオインフォーマティクスの進展はどうしても欠かせない。この分野に圧倒的に強い米国はゲノム研究で最先端を突っ走る。日本でも生物とITに強い人材の養成と各種データベースの整備が大きな課題だ。
 2000年度から5年間の予定で政府のミレニアム(千年紀)・ゲノム・プロジェクトが始まり、今年度は640億円投入されている。
 成果は早く生かしたいが、日本の産業界の動きは鈍い。ベンチャー企業数も米国よりはるかに少ない。
 国際競争を勝ち抜くために予算の大幅増を図って研究を推進し、ベンチャー育成も図りたい。成果が上がれば将来は医療費の抑制などにもつながるのだから、遠慮はいらない。製薬業界の奮起も求められる。
 生命科学の研究は生命の尊厳を損なったり、個人のプライバシー侵害に結び付きかねない。科学技術会議・生命倫理委員会はヒトゲノム研究の基本原則をまとめたが、研究者の生命倫理への自覚が求められる。
 ポストゲノム研究の健全な発展で21世紀には人々の生活の質が大幅に向上することを願いたい。

 

◆2000/12/05 23:01
戦略不足を反省、たんぱく質研究など重視 ゲノム懇談会
朝日新聞ニュース速報
 ゲノム(遺伝情報全体)研究の進め方を検討してきた科学技術会議の「ポストゲノムの戦略的推進に関する懇談会」(座長=井村裕夫・前京大学長)は5日、最終会合を開き、報告書をまとめた。長期戦略と機動性に乏しく、米英に先行された点を反省し、今後は「国家戦略に基づいたプロジェクト形式の研究開発」が必要とした。緊急に取り組む分野として、たんぱく質の構造・機能解析と、生命情報科学などを挙げた。
 ヒトゲノム塩基配列読み取り後の「ポストゲノム」時代を迎え、医薬開発などの国際競争が激しくなっている。報告書では、成果を産業界で生かすことが重要とし、政策立案段階から産業界を巻き込むことを求めた。たんぱく質研究は薬の開発の効率化に結びつくため、今後5年間で構造決定を集中的に実施する。生命情報科学は、遺伝子機能の解明やたんぱく質の構造決定に欠かせないと位置づけ、大学院などでの人材育成が急務としている。
 現在、総理府にある科学技術会議は来年1月の省庁再編で内閣府の総合科学技術会議に改組・機能強化される。報告書は、ゲノム研究のかじ取り役を同会議が担うよう求めた。
[2000-12-05-23:01]

たんぱく質解析の戦略目標−
時事通信ニュース速報
◎「5年で3分の1以上」提言=たんぱく質解析の戦略目標−科技会議懇談会
 政府の科学技術会議の「ポストゲノム(全遺伝情報)の戦略的推進に関する懇談会」は5日、今後5年間で、1万−1万2000種類ある人間のたんぱく質基本構造の3分の1以上を解析することを提言する報告書をまとめた。今年6月に解読をほぼ終えた人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解読競争で、米国に大きく後れを取った反省を生かし、個人差に応じた医療や新薬開発に結び付くたんぱく質の構造・機能解析で、早急に国家戦略に着手する必要性を強調した。
[時事通信社]
[2000-12-05-21:59]

 

◆2000/12/05

12/06 17:21 ナノテクノロジー 国家戦略に
NHKニュース速報
 一ミリの百万分の一のサイズの「ナノ」の単位で分子や原子を制御し、これまでにない材料などを生み出す技術「ナノテクノロジー」について、政府の懇談会は「産官学が結集して国家戦略として研究開発に取り組む」とした報告書をまとめました。
 ナノテクノロジーをめぐっては、アメリカがすでに、「議会図書館の情報を角砂糖の大きさに収める記憶装置」や、「鉄の十倍の強度を持ちながら極めて軽い材料」などの開発構想を打ち出しており、日本でも今年九月政府が専門家による懇談会を作って、今後の方針を検討してきました。
 きょう、まとまった報告書によりますと、ナノテクノロジーは、ITやバイオテクノロジーなど、今後、活用が広がる分野に欠かせない技術で、二十一世紀の産業革命をもたらす技術と位置づけています。
 そのうえで、国家戦略として取り組んでいくため、分野や研究機関ごとに研究が行われている現状を改め、今後は産官学が結集して、研究開発を進める環境を整えるとしています。
 しかし、技術の開発時期や予算的な裏付けが盛り込まれなかったため、懇談会では、具体的な目標や戦略の設定については、省庁再編に伴って来年一月に設立される「総合科学技術会議」に引き継ぐことにしています。
[2000-12-06-17:21]

12/06 10:10 毎: <先端分野>ポストゲノムとナノテクノロジーの基本戦略まと
毎日新聞ニュース速報
 ヒトゲノム(全遺伝情報)の解読データの利用を図る「ポストゲノム」と、10億分の1メートルサイズの原子を直接操作する「ナノテクノロジー」の二つの先端分野に対する国の基本戦略が6日、まとまった。ポストゲノムでは、たんぱく質の立体構造や機能の解析を重視。ヒトのたんぱく質で有用とされる約1万〜1万2000種類について、今後5年間で3分の1以上の構造決定が可能な体制づくりを行うとの目標を掲げている。
 首相の諮問機関、科学技術会議の政策委員会が今年9月、2分野それぞれに戦略的推進を検討する懇談会を設け、議論してきた。
 たんぱく質の解析は新しい医薬品の開発などにつながり、得られたデータを有効活用するデータベースの整備と専門家の育成も急務としている。
 電子部品の小型化・高速化や新材料開発などが期待されるナノテクノロジーは、取り組むべきテーマを「5〜10年後の実用化・産業化を目指した研究開発」「10〜20年先を展望した挑戦的な研究開発」「個人の独創性を重視したほう芽的研究」の三つに分類。今後、一般にも理解しやすい具体的な目標を検討するとした。 【金田 健】
[2000-12-06-10:10]

 

◆2000/12/15 19:06 <科学技術基本計画>「総合科学技術会議」を「司令塔」に
毎日新聞ニュース速報
 首相の諮問機関である科学技術会議の総合計画部会(部会長、井村裕夫・京都大名誉教授)は15日、向こう5年間の国の科学技術政策の基本方針を定める「科学技術基本計画」の原案をまとめた。省庁再編に伴い内閣府に新設される「総合科学技術会議」を、予算などの調整機能を持つ「司令塔」として位置付け、縦割り行政の弊害を排し、国全体としての戦略の強化をうたった。また、研究予算の獲得をめぐる競争原理の本格導入や、評価制度の確立など、米国的な研究開発体制を目指す内容になった。
 同計画は「科学技術創造立国」を目標に、1995年に制定された「科学技術基本法」に基づいており、5年ごとに策定される。第2期に当たる今回は、生命科学や情報通信など将来が有望視される分野での国際競争の激化や、来年1月の省庁再編など、国内外の変化を色濃く反映した。
 原案ではこれまでの問題点として、省庁間で研究が重複しがちなことや、研究の成果に対する評価が次の予算配分に十分反映されない点などを挙げた。このため総合科学技術会議は省庁間の総合調整とともに、予算規模やその配分などについて首相や関係閣僚に自主的に意見を具申する「施策の推進役」としての役割を担うことになった。施策の実施状況なども同会議が定期的に検証する。
 研究者がそれぞれのテーマを競って予算を獲得する「競争的資金」の倍増なども打ち出した。こうした研究の選別には第三者の適切な評価が重要になるため、必要な予算を講じて評価業務に従事する専門家を育成することも必要とした。
 同部会では今後、5年間で投入すべき予算の規模などを検討する。この計画案は総合科学技術会議での審議を経て、今年度内に正式決定する予定だ。 【金田 健】
[2000-12-15-19:06]

 

◆2000/12/26 科学技術基本計画を首相に提出
 NHKニュース速報

 政府の科学技術会議は、科学技術創造立国を目指すため、政府が行う研究開発投資をGDP=国内総生産の一パーセント程度に引き上げ、来年度から五年間でおよそ二十四兆円の規模とするとした「科学技術基本計画」をまとめ、きょう森総理大臣に提出しました。
 科学技術会議がまとめた「科学技術基本計画」では、科学技術創造立国を目指すため、高い水準の研究成果を広く世界に発信できるよう研究開発の拠点を整備すること、高齢化社会に対応して病気の治療や予防の技術を飛躍的に向上させるなどとしています。
 そして、これらの施策を実現するため、政府が行う研究開発投資をGDP=国内総生産の一パーセント程度に引き上げ、来年度から五年間でおよそ二十四兆円の規模とするとしています。
 答申を受けた森総理大臣は「基本計画に盛り込まれたライフサイエンスや情報通信などの推進、研究施設などの科学技術基盤の整備をぜひ実現させていきたい」と述べました。
 科学技術会議は、来年一月の中央省庁再編に伴って、内閣府に新たに設置される総合科学技術会議に移行することになっていて、きょう提出された基本計画は、総合科学技術会議で改めて検討したうえ、来年三月に閣議で決定されることになっています。
[2000-12-26-14:38]

12/26 10:25 毎: <科学技術会議>基本計画原案を森首相に報告 研究開発費を
毎日新聞ニュース速報
 首相の諮問機関である科学技術会議は26日、本会議を首相官邸で開き、今後5年間の科学技術政策の指針となる「科学技術基本計画」の原案を、議長を務める森喜朗首相に報告した。
 原案には、5年間で研究開発に投入する国費を現行計画より約4割多い総額24兆円とすることなどが盛り込まれている。同計画の審議は、来年の中央省庁再編で内閣府に新設される「総合科学技術会議」が引き継ぎ、この原案をもとに改めて審議して、今年度内に正式決定する。
[2000-12-26-10:25]


◆2000/12/27
12/26 23:55 <社説>遺伝子革命 おかしな世界は願い下げ
『毎日新聞』ニュース速報
 「20世紀に科学技術は目覚ましく進歩した。我々の知識量は増え、生活は豊かになった。中でも遺伝子研究を中心とした生命科学の進展ぶりはこのところ群を抜いている。
 ワトソンとクリックが1953年に、遺伝子の本体のDNAは二重らせん構造をしていると発表したのがすべての始まりだった、と言えよう。
 73年に米国グループが遺伝子組み換え実験に成功するなど70年代に遺伝子工学が花開いた。大腸菌にインスリン、成長ホルモンなど有用物質を作らせることが可能になった。
 がん発生に関する遺伝子や遺伝病の遺伝子が次々に見つかった。遺伝子診断や遺伝子治療が行われ、遺伝子組み換え作物も登場した。そして今年6月には日米欧の共同チームが人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)の解読をほぼ終了したと発表した。
 ゲノム情報に基づいて薬を作るゲノム創薬、個人に合わせたオーダーメード医療が現実のものになる。皮膚や骨、臓器を再生する再生医学の進歩も著しい。大きな医療革命が起きつつある。一方でクローン人間が誕生してもおかしくない。
 重い遺伝病や患者数の多い成人病に新たな治療の道が開け、健康な生活が送れる人が増えるなら歓迎すべきだろう。だが、遺伝子革命が無限の可能性を秘めてはいても、将来に不安を抱く人は少なくあるまい。
 「小さいほどすばらしいとの意識改革が進み、徐々に人類は小型化して食糧・人口問題は解決する」。こんな遺伝子技術絡みの見通しが、科学技術政策研究所が専門家の意見を基にまとめた「21世紀の科学技術の展望」の中にある。多くの人が驚く内容だったのではないか。
 今後は優生学的な人間改造、夫婦が好みに合った赤ちゃんを産むことや、人工生命の合成もテーマとなっていく。各人の遺伝情報が漏れて就職や保険加入が不利になるなどの遺伝子差別も増えるだろう。
 研究者の意欲と社会のニーズが重なって人類はとんでもない方向に突き進むかもしれない。おかしな世界を出現させないため生命科学の進展をどうとらえるか、もっと幅広い議論が不可欠だ。それで研究が少々停滞するとしても、やむを得ない。
 国際的な協力が必要だが、日本はリーダーシップを発揮するという状況にはほど遠い。特に生命倫理面の議論が欧米に比べて少なかった。97年2月にクローン羊誕生が明らかになった時も日本の対応は遅れた。
 日本では遺伝カウンセリング体制なども整っていない。もっと言えば生命科学研究全体の国家戦略がはっきりしていないのだ。
 ヒトゲノム解読の貢献度は1割以下に過ぎず、ポストゲノムでも重要特許を欧米に押さえられかねない。縦割り行政や硬直化した予算制度では迅速な対応は望めないからだ。
 日本の実力を考えると欧米の動きに右往左往せず、得意な分野を伸ばすことが大切だ。倫理面に加えて文化や宗教とのかかわり合いを重視したい。行政や研究者に対して国民も声を上げる必要がある。
 情報技術(IT)の状況も似ている。21世紀に科学技術をバランスよく発展させるには「国民のための科学」という視点が欠かせない。」
[2000-12-26-23:55]


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