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スティーブンスジョンソン症候群関連新聞記事:1990年代

2000年代・前半(〜2004)2000年代・後半半(2005〜)


 作成:植村要


『朝日新聞』1993.11.5.朝刊,茨城
「手術後の視力低下、投薬ミスが原因」 守谷の男性が訴え

『朝日新聞』1993.11.12.朝刊,名古屋
副作用の危険40倍 マラリア治療薬の予防使用で研究報告

『朝日新聞』1993.12.2.朝刊
副作用の抗マラリア薬、添付書を改訂へ 厚生省指導

『朝日新聞』1993.12.27.朝刊,名古屋
マラリア薬禍は公務災害 文部省が失明の名大教授を認定

『朝日新聞』1993.12.27.朝刊,名古屋
「公務」認定支えた同僚 薬禍の明大教授にスピード決定

『朝日新聞』1993.12.27.朝刊
抗マラリア剤で失明状態の名古屋大教授、公務災害に 文部省認定

『朝日新聞』1993.12.28.朝刊,名古屋
「新たな犠牲者防ぎたい」 マラリヤ薬禍の名大教授が手記

『朝日新聞』1994.1.20.朝刊
抗生物質コスモシンの「副作用で失明」と提訴 病院を園児と両親

『日本経済新聞』1994.1.20.朝刊
少女と両親、「抗生物質投与で失明」――賠償求め病院提訴。

『読売新聞』1994.3.31.西部朝刊
「抗生物質で脳性まひ」 病院などへ賠償請求 両親ら近く提訴/福岡・大牟田

『読売新聞』1994.4.4.西部夕刊
コスモシン副作用禍 製薬会社を初提訴 親子が賠償請求 販売元も追及へ

『朝日新聞』1994.6.6.朝刊
マラリア薬禍と薬務行政の不備 武岡洋治(論壇)

『朝日新聞』1994.6.9.夕刊,名古屋
教壇に復帰、喜びいっぱい 薬禍で闘病の武岡洋治名大教授

『朝日新聞』1994.10.14.朝刊
投薬にも患者の理解と同意を 斎藤泰一(論壇)

『読売新聞』1994.11.15.東京朝刊
[医療ルネサンス](717)第五部優しさのカルテ 現代薬事情=7(連載)

『読売新聞』1996.7.31.西部朝刊
「医療ミス」主張、3400万円賠償提訴 大分県へ死亡女性の遺族

『読売新聞』1997.12.7.大阪朝刊
[相談室]《眼科》ベーチェット病患者の情報を(寄稿)

『読売新聞』1998.1.31.大阪朝刊
羊膜使う手術療法を承認 角膜移植できない治療法/京都府立医大倫理委

『読売新聞』1998.5.23.東京朝刊
[21世紀への医療ルネサンス]問われる薬の真価(6)抗生物質の使用(連載)

『読売新聞』1999.3.8.東京朝刊
[紙上相談室]幼時からの口内炎が悪化 薬も効かず(寄稿)

『読売新聞』1999.3.19.東京朝刊
第25回医学会総会・生命の博覧会 「開かれた医療」を探る=特集

『朝日新聞』1999.6.3.朝刊,大阪
幹細胞、角膜と共に移植で効果 目のアレルギー後遺症治療

『日本経済新聞』1999.7.5.西部朝刊
命の主人公はだれ 立ち上がる患者の権利(1)医療訴訟急増――ミスの教訓生かされず。


 
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スティーブンスジョンソン症候群に関連する新聞記事本文
*以下、学術利用を目的として記事本文を掲載する。


 
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1993年11月5日 朝日新聞朝刊
「手術後の視力低下、投薬ミスが原因」 守谷の男性が訴え /茨城 
 「病院で手術を受けたあと視力がほとんどなくなったのは、治療した医師の投薬ミスが原因」として、北相馬郡守谷町の会社員の男性(四二)が四日までに、土浦協同病院の医師と同病院を経営する県厚生農業協同組合連合会(水戸市梅香一丁目、本橋元・会長)を相手取り約五百五十万円の損害賠償を求める訴えを水戸地裁土浦支部に起こした。男性は会社を休職中で、医師らに対し生活費の支払いを求める仮処分の申請も同支部に起こしている。
 訴状などによると、男性は昨年三月、同病院で耳の下のしゅようを取り除く手術を受けた。医師は術後、感染予防のため男性にセフェム系の抗生物質を投与したが、高熱や皮膚の班点といった症状が現れたため中止した。しかし医師は、引き続いて同じセフェム系の抗生物質の内服を指示した。
 男性はその後、目の充血や全身の皮膚のただれなどの症状を訴え同病院に再入院、「皮膚粘膜眼症候群」と診断された。角膜が濁って視力が低下し、現在では本の文字が読めない状態。このため会社も年内に退職するという。
 原告側は、(1)投与された薬の使用説明書には、セフェム系抗生物質による副作用のあった患者には使用しないよう明記されている(2)厚生省管轄の基金に救済金の給付を申請したが、薬の使用の仕方が不適正だったとして不給付になったとし、「通常人でも避け得たような投薬上のミスで、医師の責任は重い」と訴えた。
 これに対し病院側は「投与は不適当だったが、これが視力低下の原因とは考えられない」と話している。


 
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1993年11月12日 朝日新聞朝刊
副作用の危険40倍 マラリア治療薬の予防使用で研究報告【名古屋】
 医療機関から予防用として処方され、失明状態に陥るなどの副作用が出たマラリア治療薬「ファンシダール」は、予防に使った場合の副作用の危険性が治療時の使用に比べ約四十倍も高くなるとの報告が今年、出ていたことがわかった。「治療用にのみ使うよう」との世界保健機関(WHO)の勧告が出たのは三年前。それまでは治療効果が高いことから、「予防薬にもファンシダール」と薦めている文献も多かっただけに、今でもその知識に従った「予防法」が行われている危険性があると、熱帯病専門家は心配している。
 ファンシダールの開発製造に当たっているスイス・ロシュの研究者らが今年まとめたところでは、ファンシダールによる副作用は七四年から八九年までに世界で百二十六例あった。同時に予防のために使って起こる副作用の頻度は、治療に使った時の四十倍強とも指摘している。
 ファンシダールは八二年に米疾病管理センター(CDC)が、治療薬のクロロキンが効かない種類のマラリアへの予防用に「クロロキンと一緒に飲むように」勧告してから、世界で広く使われるようになった。
 しかし、その後、クロロキンと併用した欧米人に、全身の皮膚がただれたり、視力が低下したりするスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)という副作用症状が出、複数の死亡者も確認された。このため、CDCは八八年にクロロキンとの併用をやめるよう勧告、九〇年にはWHOも「ファンシダールは治療用に限定するよう」求める事態となった。
 しかし、こうした情報を提供する公的機関が日本にはない。
 国内で初めての副作用が出た名古屋市の男性(五六)にファンシダールを処方した同市内の医師は、副作用の問題が起きるまで「安全な、いい薬」と考えていたという。
 一方、国内で市販されている抗マラリア剤は治療用に認められたファンシダールとキニーネだけ。ファンシダールが予防用に使えないとすると、マラリア汚染地域に行く場合、国内では打つ手がないのが現状だ。


 
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1993年12月2日 朝日新聞朝刊
副作用の抗マラリア薬、添付書を改訂へ 厚生省指導
 マラリアの治療薬「ファンシダール」を予防用に処方されて服用した人が失明状態となるなど重い副作用を起こした問題で、厚生省はファンシダールを輸入販売している日本ロシュ(本社・東京都千代田区)に対し、医薬品添付書を改訂するよう行政指導をした。同社も、添付書の「使用上の注意」冒頭に「マラリアの予防に用いないこと」などを書き加えることにし、一日から各医療機関に、お知らせの文書配布を始めた。
 行政側や薬品会社も、医薬品添付書の説明が不十分だったことを、事実上認める形となった。
 配布の始まった「『使用上の注意』改訂のお知らせ」によると、ファンシダールの医薬品添付書の「使用上の注意」には、予防に用いた場合、治療に比べ皮膚粘膜眼症候群などの重い副作用を起こす危険性が高くなるとの説明も書き加える。
 ファンシダールの開発製造に当たったスイスの製薬会社「エフ・ホフマン・ラ・ロシュ社」(スイス・ロシュ)が今年まとめた論文によると、「予防投与での副作用の危険性は治療の単回投与に比べ四十倍」とされていた。


 
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1993年12月27日 朝日新聞朝刊
マラリア薬禍は公務災害 文部省が失明の名大教授を認定 【名古屋】
 学術調査でスーダンへ出張した際、予防用に処方されて飲んだ抗マラリア剤の副作用でひん死の状態に陥り、失明状態になった名古屋大教授に対し、文部省は二十六日までに公務災害の認定を下した。予防に用いると副作用の危険が増し、厚生省も治療用にしか認めていない薬だったが、医師から予防用に処方された、との証明書類を添えて申請していた。今回の認定は、教授側に過失はなく、薬を処方した医療機関や、使用上の注意を医療機関に徹底しなかった薬務行政の責任を重くみた結果、とみられる。
 認定を受けたのは、名大農学部植物遺伝育種学講座主任の武岡洋治教授(五六)。昨年八月、砂漠化防止対策と飢餓問題の調査でスーダンへ出かけた際、名古屋市の医療機関で「予防用に」と処方された抗マラリア剤「ファンシダール」を医師の指示通りに服用した。
 ところが、その二週間後から、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS、皮膚粘膜眼症候群)と呼ばれる全身の皮膚症で、のどや口、目などに炎症を起こし、発疹と熱が出た。現地の病院で手当てを受けたが、全身がただれるなどして、一時は命も危ぶまれた。
 症状が落ち着いた九月下旬に帰国、そのまま名大医学部付属病院分院に入院。目以外は全快したが、角膜の損傷は重く、この春には失明状態になった。十一月に京都府立医科大付属病院で角膜移植手術を受け、左目の視力は〇・二近くまで回復したが、右目は今も見えない状態が続いている。
 販売元の日本ロシュ(本社・東京都千代田区)などの資料によれば、ファンシダールは予防用に使うと、治療に用いた場合に比べて副作用の危険性が約四十倍もあるとされる。厚生省の認可も「治療用」に限定されていたが、名古屋の医療機関はそうしたことを知らなかった、という。
 このため、武岡教授は学部長命令による出張での事故で、公務に起因するのは明らかだとして、十一月二十四日に公務災害の申請を出した。今回認定されたことで、療養費などの補償を受けられるほか、障害が残った場合、程度に応じて一時金や年金も受けられるようになる。
 人事院によると、公務災害認定の海外出張時の例はまれで、風土病や「薬害」問題がからむものは、「まずないだろう」という。
 ○国に安全対策願う 武岡洋治教授の話 公務災害と認められたことはありがたい。研究者を含め、海外に行く人は今後も増えるだろう。今回の公務災害認定をきっかけに、国などで安全なマラリア予防対策を講じてくれるようになれば、と願っている。


 
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1993年12月27日 朝日新聞朝刊
「公務」認定支えた同僚 薬禍の明大教授にスピード決定【名古屋】
 「医師の指示に従った結果の副作用で、教授の不注意で起きたものではない」。抗マラリア剤「ファンシダール」の副作用に侵された名古屋大農学部武岡洋治教授(五六)への公務災害認定が二十六日までに下りたことで、支援活動を続けてきた同僚教授らは安堵(あんど)の色を浮かべた。
 農学部の竹谷裕之教授は、武岡教授が参加した砂漠化防止対策研究班の代表者。武岡教授に副作用の症状が現れた時も一緒で、現地で病院などの手配をした。ファンシダールを予防用に服用してもいた。そんな体験を通して「他人事ではない」と思った。名大農学部でも海外へ仕事に出る教職員は多い。国際化の時代、「これは名大だけの問題ではない」という思いもあった。
 武岡教授の病状が落ち着いた今年八月、加藤延夫学長を訪ね、犠牲者を再び出さないためのマニュアルづくりと武岡教授の公務災害申請を文部省へ上げることを要請した。
 加藤学長の判断も速かった。「武岡教授に落ち度がないのは明らか。出張中の不幸でもあり、なるべく早く対応すべきだ」。すぐに農学部の庶務レベルで申請準備の作業が始まり、九月には、共同研究者でスーダン農業研究所の研究者モハメッド・A・イッサム氏からも現地での報告書が寄せられた。
 武岡教授の治療に当たった名大医学部のスタッフも協力した。ファンシダールの副作用で重度のスティーブンス・ジョンソン症候群を起こした国内初の症例患者として、武岡教授のことは今年春から日本寄生虫学会、日本皮膚アレルギー学会などで発表されていた。そこでの発表資料など関連文献が集まった。
 申請は十一月二十四日。申請書類は七、八センチもの厚さになったという。武岡教授に公務災害の補償通知書が届いたのはクリスマスイブの二十四日夕方。申請からわずか三週間後。異例の速さという。通知を手にした武岡教授は語った。
 「講座のスタッフをはじめ支えて下さった教職員のみなさんの力は本当に大きかった。公務災害が認定されたのもみなさんのおかげです。今後、若い研究者たちが安心して国際協力や研究活動に海外へ出ていけるようになるための、一つのステップとなればいいと思う」


 
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1993年12月27日 朝日新聞朝刊
抗マラリア剤で失明状態の名古屋大教授、公務災害に 文部省認定
 学術調査でスーダンへ出張した際、予防用に処方されて飲んだ抗マラリア剤の副作用でひん死の状態に陥り、その後失明状態になった名古屋大教授に対し、文部省は二十六日までに公務災害の認定をした。服用したのは予防に用いると副作用の危険が増し、厚生省も治療用にしか認めていない薬だったが、医師から予防用に処方された、との証明書類を添えて申請していた。今回の認定は、教授側に過失はなく、薬を処方した医療機関や、使用上の注意を医療機関に徹底しなかった薬務行政の責任を重くみた結果、とみられる。
 認定を受けたのは名大農学部植物遺伝育種学講座主任の武岡洋治教授(五六)。昨年八月、スーダンへ出かけた際、名古屋市の医療機関で「予防用に」と処方された抗マラリア剤「ファンシダール」を医師の指示通りに服用したところ、二週間後から、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS、皮膚粘膜眼症候群)と呼ばれる全身の皮膚症で、のどや口、目などに炎症を起こし、体中に発疹(はっしん)と熱が出た。全身がただれるなどして、一時は命も危ぶまれた。


 
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1993年12月28日 朝日新聞朝刊
「新たな犠牲者防ぎたい」 マラリヤ薬禍の名大教授が手記【名古屋】
 「自分の体験を少しでも人に役立ててもらおう」。マラリア治療薬の副作用を、文部省から公務災害と認定された名古屋大学農学部の武岡洋治教授(五六)は一年以上に及ぶ闘病生活中の思いを四冊のノートに記していた。スーダンへの出張、重い副作用の発症と将来への不安との闘い、視覚障害者の思いと提言......。不自由な目をこらし、拡大鏡を使い、ノートに顔をつけるようにして書き続けた。十一月の角膜移植手術で左目の視力をわずかだが取り戻した武岡教授は今、手記のまとめにかかっている。
 四冊のノートには、「眼(め)が涸(か)れる−薬禍、スティーブンス・ジョンソン症候群」「短詩・アフリカ体験と視障世界−我が心と行動一年の軌跡」の題がついている。
 「眼が涸れる」の序章にこう書いた。「失明に近い状態で、これからどのようにして生きていったらよいのか。これは当の本人でしか分からない深刻な悩みである。一人でも多くの人とこの悩みを分かち合い(中略)視覚障害をのり越える道を切り拓(ひら)きたい」
 昨年八月のスーダン出張から、副作用症状の出現、現地での療養。失明状態になった事実を客観的に振り返り、さまざまなことを考察した。最終章の「視覚障害を乗り越える道、視覚情報学の創出と発展を目指して」では、自らの体験から、目に障害を持つ人が何を望んでいるか、そして、何を必要としているかを書いた。薬害にも触れ、医療行政の立ち遅れを指摘、問題提起もしている。
 「短詩・アフリカ体験と視障世界」は三行の詩を重ねる形で、失意のどん底から回復していくまで、心情の移り変わりを描いた。
 今年三月、名大付属病院の眼科に転院した時には、目の状態が悪化し「錯乱状態に近い精神状態だった」。視力を失い、同時に、研究者生命を絶たれるかも知れない恐怖も大きかった。しかし、病院で多くの人との出会いが励ましとなり、立ち直るきっかけになった。
 「何か自分にも人のためになることができないだろうか」「こうしているうちにも第二第三の犠牲者が出るかも知れない」。わき上がる気持ちが、不自由な目を押して、手記を書くきっかけになった。
 五月に書き始めた時、右目の視力はなく、左目も、もやがかかったようにうすぼんやりとしか見えない状態だった。眼鏡の上に、細かい手作業用の拡大鏡をかけ、ノートに顔を近づけて書いた。それでも罫線(けいせん)が見えない。三角定規をノートにあて、それを頼りに書き続けた。
 十一月の角膜移植手術で、左目の視力が〇・二近くまで戻り、少しずつ書き直している。視覚障害者に役立つような情報も入れて、出版できればというのが願いだ。
 「角膜を提供して下さった方のおかげで、完全ではなくても視力が戻った。自分も目に障害を持つ人の役に立てれば。お世話になった方たちへの心からのお礼の気持ちを何か形にして残したいのです」


 
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1994年1月20日 朝日新聞朝刊
抗生物質コスモシンの「副作用で失明」と提訴 病院を園児と両親
 抗生物質「コスモシン」の副作用に対し医師が処置を誤ったため失明状態になったとして、茨城県日立市の幼稚園児(五つ)と両親が十九日、同市内の二つの病院と医師一人を相手取り、総額一億円余りの損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
 訴状によると、この園児は一九九二年十二月、日立市の病院で肺炎と診断され、コスモシンを注射された。治療を続ける中で二週間ほどして、体に発しんが出て、口の中の皮がむける、目が痛いなどの症状が出てきた。
 別の病院に転院し、最初は水痘症などの治療を受けた。翌一月に入って目などの症状が重くなり、抗生物質の副作用などによって粘膜に激しい炎症が起こる「スティーブンス・ジョンソン症候群」と診断された。
 コスモシンはブドウ球菌などの感染症に有効とされる。しかし、スティーブンス・ジョンソン症候群などの副作用が起こることがあるため、異常がある場合には投与を中止するよう注意書きが付いていた。
 原告側は「コスモシンは副作用が強く、扱いは慎重にすべきだったのに、必要性を確かめずに投与した」「異常があったのに投与を続けるなど、副作用への対処を怠り、転院先でも適切な治療がされなかった」と医師の過失を主張している。
 最初にこの園児を診断した病院は「今の段階では何もいえない」としている。


 
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1994年1月20日 日本経済新聞朝刊
少女と両親、「抗生物質投与で失明」――賠償求め病院提訴。
 茨城県日立市の少女(5)が病院で治療を受けた後、失明状態となったのは、投薬の副作用の症状を誤診し、適切な治療が遅れたためであるなどとして、この少女と両親は十九日、医療法人愛宣会秦病院と担当医、日立製作所多賀総合病院を経営する日立製作所の三者を相手取り、一億円余の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。
 訴えを起こしたのは、少女と、父親(31)、母親(28)の三人。
 訴状によると、少女は一九九二年十二月十七日、秦病院で担当医に肺炎と診断され、入院して抗生物質、コスモシンを投与された。いったん退院したが、同二十八日ごろ肛(こう)門やのどの痛み、まぶたのはれなどを発症。改めて同病院でコスモシンなどの投薬を受けた。しかし全身に発疹(はっしん)が出るなど症状が悪化したため、同三十一日、担当医の勧めで多賀病院に転院した。
 多賀病院では小児科医が水ぼうそうと急性肺炎、と診断し、抗生物質などを投与。症状はさらに悪化し、九三年一月、皮膚科医がスティーブンス・ジョンソン症候群と診断した。その後、少女の目は結膜の癒着がひどくなって開かなくなり、まぶたを開く手術を受けたが、視力は回復せず、現在失明状態となっている。
 原告側は「コスモシンの投与が原因でスティーブンス・ジョンソン症候群を発症したもので、その症状を見過ごして適切な処置が取られなかったために重大な後遺症が残った」などと主張している。
 被告の二病院は「訴状を見ていないので、コメントは差し控えたい」などとしている。


 
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1994年3月31日 読売新聞西部朝刊
「抗生物質で脳性まひ」 病院などへ賠償請求 両親ら近く提訴/福岡・大牟田
 抗生物質「コスモシン」の投与で脳性まひになったとして福岡県大牟田市の女児(6つ)と両親が、大牟田市立病院と製造会社の日本レダリー(東京都中央区)、販売元の武田薬品工業(大阪市中央区)の三者を相手取り、総額約一億七千八百万円の損害賠償を求める訴訟を近く福岡地裁に起こす。コスモシンは処方を誤ると重い副作用を起こすといわれ、死亡者が出るなど全国的に問題になっている。
 訴状によると、女児は平成元年一月、同市立病院で左肩関節に骨髄炎の疑いがあると診断され入院、担当医師はコスモシンの投与を始めた。発疹(はっしん)、高熱、口腔(こうくう)充血などの異常が出始め、呼吸困難に陥るようになった。別の病院に転院後の三月四日、「スティーブンス・ジョンソン症候群」(皮膚粘膜眼症候群)によって気道閉塞(へいそく)を起こし、無酸素性脳症になった。
 コスモシンはブドウ球菌などによる感染症に有効だが、粘膜に激しい炎症を起こすスティーブンス・ジョンソン症候群などの副作用があるため、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置をするように、との注意書が添えられている。
 原告側は「二十四日間も漫然と投与を続けた」として医師の過失を問うとともに「副作用情報を得たなら、出荷停止などの措置をとるべきだった」と日本レダリーなど会社の責任も追及。連帯して賠償する責任がある、としている。大牟田市立病院は「今の段階では訴状を見て検討するとしか言いようがない」と話しいる。
 厚生省は昨年九月、日本レダリーに対し、コスモシンの副作用発生で重大な報告漏れがあったとして厳重注意するとともに、以後一年間にわたり全使用例を調査するよう指示している。


 
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1994年4月4日 読売新聞西部夕刊
コスモシン副作用禍 製薬会社を初提訴 親子が賠償請求 販売元も追及へ
 ◆親子「1億7800万円払え」
 抗生物質「コスモシン」の投与が原因で脳性まひになったとして、福岡県大牟田市の女児(6つ)と両親が、大牟田市とメーカーの日本レダリー(東京都中央区)、販売元の武田薬品工業(大阪市中央区)の三者を相手に、総額一億七千八百万円余りの損害賠償を求める訴訟を四日、福岡地裁に起こした。コスモシンの副作用をめぐる訴訟は全国で医療機関や医師相手に起こされているが、メーカー、販売会社の責任まで追及するのは初めて。
 訴状によると、女児は平成元年一月、大牟田市立病院で、左肩関節の骨髄炎の疑いで入院、担当医師がコスモシンの投与を始めた。発疹(しん)、高熱などの異常が出始め、呼吸困難に陥るようになり、別の病院に転院。粘膜に激しい炎症を起こす「スティーブンス・ジョンソン症候群」によって気道閉塞(そく)を引き起こし、無酸素性脳症になった。
 両親は「二十四日間も漫然と投与を続けた」として医師の過失を問うとともに、「副作用情報を得たならば、出荷停止などの措置をとるべきだった」とメーカー、販売会社の責任も追及している。
 コスモシンは日本レダリーが製造し、武田薬品が販売。細菌感染症などに有効だが、スティーブンス・ジョンソン症候群などの副作用がある。厚生省は死亡者六人を含む三十一件の副作用症例の報告を受けている。
 提訴に対し、大牟田市立病院、日本レダリーともに「今の段階では、詳しい内容が分からずコメントできない。訴状を見て検討するとしか言いようがない」と話している。


 
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1994年6月6日 朝日新聞
マラリア薬禍と薬務行政の不備 武岡洋治(論壇)
 夏の海外旅行シーズンを迎え、今年も熱帯地域へ多くの人が出かけることだろう。その際気をつけていただきたいのは熱帯風土病ことにマラリアである。
 マラリアは今なお熱帯・亜熱帯地域に広く蔓(まん)延し、年間二億以上の感染者と百万の死者を出す世界有数の感染性の高い疾患だ。
 マラリアの恐ろしさは、病気自体はもとより、その予防法に確かなものがない点にある。抗マラリア剤には副作用の強いものが多く、しかもそれらを処方する医療機関の認識が正しいとは言えない。ここにわれわれ市民にとって最大の問題がある。
 私の場合はこうであった。一九九二年七月スーダンヘ同僚と学術調査に出かける際、他の熱帯風土病とともに抗マラリア剤「ファンシダール」を処方された。愛知県旅券センターに隣接のターミナルビル七階医療センター予防接種室においてである。(ファンシダール一錠にスルファドキシン五百ミリグラム、ピリメタミン二十五ミリグラム含有)
 その時もらった「マラリア予防内服薬服用注意」には、予防内服法として「流行地滞在中毎週一回(正確に七日目毎、例えば毎週日曜日)一錠内服」とあり、「本剤は万一マラリアに感染発病した場合にも治療薬として有効」との付記がある。
 ファンシダールを予防内服薬と明記し、治療薬として副次的に扱っている点に注意していただきたい。
 当時私はこのことを疑わなかった。この医療センターを信頼していたからにほかならない。
 ところがここに重大な落とし穴があった。その後、厚生省がこの薬を治療薬として認めているが、予防薬としては認可していないことが判明し、私はがく然とした。この薬の副作用と診断され失明状態で入院中だったからである。この内服注意書は偽りだったのか。予防用に飲んではならない薬を飲んでしまったのか。こんな思いに駆られた。
 私はその年の八月、処方に従いファンシダールを飲んで日本をたった。体調はすこぶる良好であった。現地で体調の異変を知り医師の診断を求めた。ファンシダールの副作用による極めて強度の皮膚粘膜疾患、スティーブンス・ジョンソン症候群と診断された。現地調査は無論中止になった。一時はひん死状態になり同僚たちを随分心配させた。死境を脱し半月余の入院の後、全身の炎症と半ば失明状態の眼疾患を引っ提げて帰国した。空港から直行入院した病院で、この疾患には有効な治療法がないことを眼科医から知らされた。案の定、一年ほどして両眼とも失明状態になった。
 角膜を提供して下さった方と医師のおかげで、左目はわずかに視力が回復し今日に至っている。
 なぜ、このような事態が起きたのか。誤った処方によって生命にかかわる事態が生じたのだ。厚生省は「ファンシダールの投与の方法などは医療現場の問題で、薬務行政として立ち入ることはできない」としているが、薬を処方される旅行者(消費者)にとって薬務行政と医療現場の守備範囲などは問題ではない。
 私の後にも同じ発症者が一人出た。問題は私個人に限らず、今後海外へ行く多くの人命にかかわる。このままでは、さらに発症者が出るだろう。この現実を薬務行政や医療現場の人たちに直視してもらいたい。
 その後、医薬品会社がファンシダールを予防薬として使わないよう使用説明書を改訂したというが、新聞やテレビで知る限り、一般人や旅行者に対して注意を呼びかけるなど適切な対策が取られた気配はない。私はそれを憂慮する。
 一日も早く安全確実なマラリア予防対策を確立しなければならない。関係者の一層の尽力を切望する。そのためならば、微力ながら私の体験と身体を検体として協力することに決してやぶさかではない。
 大学教師という職業がら、私には熱帯地域へ行く卒業生、後輩、同僚や研究者仲間が多くある。みんな現地調査や技術協力で献身的に働いている。こうした人々を私と同じ目に遭わせたくないのである。
 目を病んで、私は顕微鏡をのぞく楽しみを断念した。
 研究生命を断つには視力を無くすればよい。けだし至言である。
 (名古屋大学教授・植物栽培学=投稿)


 
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1994年6月9日 朝日新聞夕刊
教壇に復帰、喜びいっぱい 薬禍で闘病の武岡洋治名大教授
 予防用にと処方されて飲んだ抗マラリア剤の副作用でひん死の状態に陥り、一時は失明状態になった名古屋大農学部の武岡洋治教授(五七)が闘病生活を経て教壇に復帰した。八日から始まった「名大祭」では、研究室を一般公開するオープンハウスの準備を進めた。大学祭は二年ぶりとあって学生たちとの交流を楽しんでいる。その一方で、再び自分のような犠牲者を出してはならないと、書きためた手記を近く出版、「マラリア予防マニュアル」作りにも取り組むことにしている。
 この春、教壇に戻った武岡教授が担当しているのは、農学部の「資源植物発生学」、大学院の「栽培学特論1」の二つの講義。学生と向き合うのは一年半ぶりで、自然と力が入る。教壇を左右に行き来し、黒板いっぱいに板書しながら語りかける。資料はA3判に拡大コピーして使っている。後遺症で目が不自由なためだ。
 それでも、「講義ができる。これに勝る喜びはない」という。自らの講義風景を「学生から見れば、動物園のクマみたいなんじゃないかな」と評す表情は明るい。
 専門は植物栽培学で、主にイネの発生を手がけてきた。十一、十二日に予定されている「名大祭」のオープンハウスでは、農学部の研究室の前で、イネの花が形成される様子などをパネル展示やビデオで解説する。学生の研究紹介や走査電子顕微鏡の実演もある。武岡教授はビデオ「イネの開花」を解説する予定だ。
 一九九二年夏に学術調査でスーダンへ出張した際、医療機関で予防用にと処方された抗マラリア剤「ファンシダール」を飲んでスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)と呼ばれる副作用を起こしてから二年近くになる。
 全身の皮膚や口、目などがただれ、発しんと熱も出て一時はひん死の状態に陥った。視力も失った。昨年十一月に角膜移植手術を受けて左目の視力は〇・二近くまで回復したが、右目は今も見えない。
 旅行や仕事で海外に出る人は年々増えている。学術調査に行く同僚も多い。「第二の犠牲者を出してはならない」。健康を取り戻し、機会あるごとに自らの体験を基にマラリア予防対策の重要さを話してきた。六日付の朝日新聞「論壇」では、薬務行政の不備も指摘した。
 一年かけて書きためた手記は七月半ばに出版される。
 マラリア予防の名大版マニュアルを作ることが出来ればと、同僚たちと検討も始めた。
 「一年前には、大学に戻れるなんて思えなかった。学生や研究室のスタッフとともに名大祭に再び参加できて、うれしい気持ちでいっぱいです」
 【写真説明】
 視力を回復し教壇に立つ武岡洋治・名古屋大学教授=8日、名古屋市千種区の名古屋大学農学部で


 
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1994年10月14日 朝日新聞朝刊
投薬にも患者の理解と同意を 斎藤泰一(論壇)
 抗がん剤との併用により、発売後十六人の死者を含む二十三人の副作用被害を出した抗ウイルス剤ソリブジンの薬害事件は大変痛ましく、残念な出来事であった。
 こんなことが起こらぬように厚生省による「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)が一九九〇年から施行されている。また人を対象とした臨床試験(治験)を行うにあたっての倫理基準として、六四年の世界医師会総会で採択された「ヘルシンキ宣言」もある。それなのに、どちらもが完全には守られていなかったのである。
 GCPが完全に守られていたとしても、日本のものは米国のGCPに比べて大きな欠点を持っている。それは、インフォームド・コンセント(IC、医師が治験の内容について十分に説明し、被験者はそれを理解し納得したうえで、受け入れるかどうかを自分で決めること)に関して十分ではない点である。
 一つは、説明や承諾は文書によらなくてもよいことになっている点だ。これについて癌(がん)治療学会などが改善案を提示したことは評価できる。二つ目は、治験中に明らかになった情報を被験者に知らせることが明記されていない点である。これだけでも実行されていたら今回の事件は防げたかもしれない。実際に処方する医師への製薬会社からの情報公開も十分ではない。今回の事件でも、会社側からすべての実験データが治験担当医に正確に伝えられていなかったという。これでは被験者に知らせるすべもない。
 薬について説明を受ける時、患者が一番知りたいのは副作用のことである。「過敏症や皮膚粘膜眼症候群、消化管出血、まれに再生不良性貧血などの血液障害、眼や腎臓の障害が現れることがある。動物実験で奇形が出た。小児に対する安全性は確立していない」などと書かれている薬がある。幼小児用の製剤も出ている。こういう説明を受けたら恐ろしくて飲めなくなるかもしれない。また自分の子供に飲ませられるだろうか。この薬はアスピリンである。
 ほとんどの薬の添付文書には、もっとたくさんの副作用が書かれている。「あなたにはこの副作用は絶対に出ません」と言いきれる医師はいないだろう。確率というのはゼロか百%を除いて、その事象が起こってからでないと断言できない。それでもこの説明を受けたうえで飲むかどうかは自分で決めねばならない。予防接種の副作用についても同じことがいえる。しかし、副作用を恐れるあまり薬を飲まない人は、薬に無関心な人と同じくらい困り者である。説明を聞いたうえで利害得失をバランスに掛けて、自分にとって利益の多い方を取ればよいのである。
 薬の添付文書にすべての副作用が書かれているのは、可能性への注意である。事故が起きた時でも製薬会社の責任は軽くなるだろう。防御医学と言われるゆえんである。しかし、その時にも責任は医師にある。
 だからこそ、平素からかかりつけの医師をきめておき、自分の体質をよく知っておいてもらうのが賢明な方法である。初めての患者の危険性は把握し難いからだ。
 医院で処方せんを出す時に、薬物名を商品名ではなく一般名で書くことには問題がある。英国の製薬会社で強心薬の製造過程を変えたところ、これまで通りに飲ませたら不整脈などの副作用が多発したことがある。吸収されやすくなったためだった。同じ会社の薬でさえこうなのである。T(一般名)という薬には元の会社のもの以外に、十六の会社から十六種もの違った名前(商品名)でTの入った製剤が売り出されている。他社製剤のすべてが同じ効力を持つという保証がない限り、一般名を書くのは危険が大きいだろう。
 ICや薬についての問題は多い。医師(医学生)に対する倫理教育と同時に、一般人に医学常識の理解度をもっと高めてもらうことも必要である。一般人が医学的内容を理解できてはじめて自己決定ができるからだ。そうでなければICは医療側の責任逃れの便法になってしまう。医師は患者を選べないが、患者にはよい医師を選ぶ権利がある。そのためには、患者側に今までよりも一層の医学知識が必要なのである。大学や病院の図書館の開放も望まれる。
 (川崎医科大教授・薬理学=投稿、岡山県)


 
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1994年11月15日 読売新聞東京朝刊
[医療ルネサンス](717)第五部優しさのカルテ 現代薬事情=7(連載)
 ◆抗生物質投与で裁判に
 「すり傷から命を落とすなんて考えられない」。大阪市の会社員(37)は長男A君(当時九歳)の死を納得できない様子で振り返る。
 A君は昨年三月十二日、小学校からの帰宅途中、自転車と接触しそうになって転び、左ひざにすり傷を負った。自宅で消毒して治療していたが、足の付け根が痛みだし、同二十七日、四十度の熱が出て市内の病院に入院した。傷が原因の「化膿(かのう)性リンパ節炎」と診断された。
 抗生物質の投与でも熱は下がらず、担当医は四月二日、両親に「薬を変えます」と説明し、抗生物質を「コスモシン」に変更した。
 両親によると、熱は一時、下がったものの再び上昇。九日に下痢、嘔吐(おうと)、手には赤い発疹(はっしん)が現れた。翌日には発疹は全身に広がり、十一日は二十回も嘔吐を繰り返し、強い腹痛でほとんど眠れない状態に。翌日、肝、腎(じん)機能が低下し肺炎を起こし、十三日未明に息を引き取った。
 ◆医師の「88%」が感じる副作用などの情報不足
 両親は「コスモシンの副作用が原因」として、病院と担当医、メーカーを相手取り損害賠償を求めて、今年四月に提訴した。
 訴状によると、発疹や下痢、嘔吐、肝、腎機能障害、肺炎などは、いずれもコスモシンの副作用として薬の添付文書に注意書きがあるが、医師はA君が亡くなる直前の十二日朝まで投与を続けた。
 原告側は「発疹や下痢、嘔吐が現れた時点でただちに投与を中止すべきだったのに、医師は『発疹は、はしかか風疹による可能性もある』と皮膚科に診察を依頼しただけで、薬の副作用を疑うことなく使用し続けた」と主張。
 これに対し、担当医は発疹が全身に出た十日、薬が原因である可能性も考え、コスモシンと併用していたペニシリン系の抗生物質の投与を中止。「ペニシリン系の方が発疹が出やすいと判断したのと、コスモシンは使い始めて熱が落ち着いたので投与を続けた。両方とも投与を打ち切れば細菌などで炎症が悪化する恐れがあり、不可能だった」と説明する。
 「嘔吐や腹痛、発疹は多くの病気に見られる症状で、この薬に特別なものではなく、薬が原因と決めつけられない」とも反論する。
 コスモシンについて、メーカーは平成四年「重い皮膚障害である皮膚粘膜眼症候群などの副作用で、昭和六十二年の発売以来、六人が死亡したという報告がある」との注意文書を医療機関に配布。原告側は「A君の発疹は同症候群の初期症状」と見る。
 医師は「同症候群が起きることは知っていた。しかし、病院内の他の医師たちが日常使っても問題はなく、他の抗生物質に比べ特に危険という認識はなかった。効き目もよいので使った」と話す。
 しかし、原告側は「薬の効果に比べ副作用を軽視しがちな医師の姿勢が事故を招いた」と指摘する。
 医師は「A君の症状は皮膚粘膜眼症候群とは異なる」としており、この問題が薬害かどうかは判決を待たなくてはならないが、裁判では医師が薬の副作用をどの程度重視していたかなどが争われることになるだろう。
 薬害に詳しい東京都立北療育医療センターの別府宏圀(ひろくに)副院長の調査では、医師の八八%は「医薬品情報が不十分」と感じている。
 ◆あいまいな添付文書
 今回、訴訟の当事者になった医師も「普通、医薬品の添付文書を読んで副作用を調べるが、『まれに』『時に』起きるとしか書いていないことが多く、どんな頻度で現れるのか、どの症状に注意すべきか分かりにくい」と話す。
 薬の副作用情報が医師に正しく届かない。この状況が変わらない限り、薬害をなくすことも難しい。


 
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1996年7月31日 読売新聞西部朝刊
「医療ミス」主張、3400万円賠償提訴 大分県へ死亡女性の遺族
 大分市の大分県立病院に入院中、急死した同県津久見市の女性(当時六十六歳)の遺族が、「病状悪化に対して適切な処置をしなかった」として県を相手取り、約三千四百万円の損害賠償請求訴訟を三十日までに大分地裁に起こした。
 訴状によると、女性は一九九二年十一月下旬に風邪薬を飲んで体に赤い斑点(はんてん)ができたため、同市内の国立大分病院に入院。皮膚や鼻の粘膜などがやけどのようにただれるスティーブンス・ジョンソン症候群と診断されたが、皮膚科がないため、同年十二月七日、県立病院に転院。十三日未明から尿量が低下して血圧も急激に下がり、午後三時三十四分に死亡した。死因は急性じん不全の一つである急性尿細管壊死だった。


 
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1997年12月7日 読売新聞大阪朝刊
[相談室]《眼科》ベーチェット病患者の情報を(寄稿) 
 四十八歳女性。四年前、ブドウ膜炎を発症し、ステロイド剤を使っていますが、最近、ベーチェット病と言われました。右目の視力も下がってきました。同じ病気でがんばっておられる方の情報を知りたいのです。  
                           (大阪府、S子)
 【答え】ベーチェット病は重い皮膚・粘膜・眼症候群の難病で、原因は不明です。目以外には口内アフター、皮膚の膿疱(のうほう)形成・結節性紅斑(こうはん)、外陰部かいようなどが起こり、目ではブドウ膜炎や網膜の血管炎を起こし、また再発しやすいのです。
 そのため、白内障や緑内障を併発し、これらに手術をすることもありますが、視力は病気の影響を受けやすく、なんといっても再発しやすいので厄介です。
 通常は免疫抑制剤を使いますが、発作が起こればステロイド剤を用います。根気よくコントロールしていくしかありません。
 ベーチェット病は難病指定になっているので、病院で診断書を書いてもらい、市役所や保健所に申請しますと、治療費は公費負担になります。また、ベーチェット病友の会というのがあります。連絡先は帝京大学医学部(03・3964・1211、内線1756)で、火曜日と木曜日の午前十時半から午後五時まで受け付けています。ここで、地域の友の会の紹介をしてもらえます。
                           (眼科医・湖崎克)


 
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1998年1月31日 読売新聞大阪朝刊
羊膜使う手術療法を承認 角膜移植できない治療法/京都府立医大倫理委
 京都府立医大の医学倫理委員会(委員長・栗山欣弥学長)は三十日、同医大眼科学教室の木下茂教授の申請を受けて、角膜移植ができない「スチーブンス・ジョンソン症候群」などの治療法として、帝王切開時に取り出される羊膜を用いる手術療法を承認した。

 
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1998年5月23日 読売新聞東京朝刊
[21世紀への医療ルネサンス]問われる薬の真価(6)抗生物質の使用(連載)
 ◇通算1822回
 ◆副作用で重大な被害 風邪で抗生物質点滴
 「風邪かな」。埼玉県に住むK子さん(35)は91年4月、のどの痛みを覚え、鏡をのぞきこんだ。熱はないが、のどの奥が赤くなっていた。
 学生時代からモデルの仕事をしながら、ジャズのライブハウスで歌い、近くCDデビューすることが決まっていた。チャンスを逃したくなかった。「仕事を休めない。早く治そう」と近くの内科医院を受診した。
 医師は「のどの奥に菌がついている。扁桃炎(へんとうえん)」と診断、抗生物質の点滴をすることになった。
 「熱もないのに、なぜ点滴を?」と疑問に思って尋ねると、「こじらせてはいけないから」と医師。その説明に従い、3日間、点滴を打ちに通った。
 ところが、症状は良くならないどころか、1週間くらい後に耳鳴りがし、体中の皮膚が赤くなってきた。同じ医院へ行くと、「風邪」と言われ、別の抗生物質の飲み薬を出された。
 だが、さらに1週間後には、口の中全体に水疱(すいほう)ができ、痛みで水も飲めない。目が真っ赤になり、焼け火ばしを入れられたように激しく痛んで目を開けることもできなかった。
 この医院に行き、「おかしい」と不安をぶつけても、医師は「風邪のウイルスが原因」と、再び同じ点滴をした。その間、吐き気に襲われた。「どこかに入院させてください」と頼んだ。
 近くの病院に入院したが、血液検査でも原因は分からない。体の赤みはひどくなって火膨れになり、着替えのたびに皮膚がごっそりむけ、見舞客も目をそむけるほど。死線をさまようこと2か月。生命の危機は脱したが、失明した。
 その年の暮れ、受診した大学病院の説明は、にわかに信じられないものだった。「これはウイルスのせいなんかじゃない。スティーブンス・ジョンソン症候群という薬害です」
 この症候群は、全身の皮膚や粘膜が侵され、死亡や失明につながる。一部の抗生物質や解熱剤などで起きる。K子さんに使われた点滴は、セフゾナム(商品名コスモシン)という抗生物質だった。この薬では同様の被害が相次ぎ、その後、製造中止になった。
 CDデビューの夢を果たすどころか、外出もままならない失意の日々。重大な結果をもたらした抗生物質の点滴が、そもそも必要だったのだろうか。
 ◆二次感染予防が名目
 国立国際医療センター(東京)の青木真医療情報室長(感染症内科)は「風邪のほとんどはウイルス性で、抗生物質は効かない」と説明する。それでも風邪に抗生物質が使われることが多いのは「肺炎など二次的な感染の予防」という理由からだ。K子さんの場合も「こじらせてはいけない」と医師が点滴をした。
 しかし、青木室長は「予防が可能な感染症は1―2%とされる。抗生物質の副作用や、菌が耐性を持って薬が効きにくくなることなどマイナスの方が大きい。起きてもいない感染症を恐れてむやみに薬を使うより、二次感染がないか丁寧に経過を追う方が重要」と指摘する。
 ところが、厚生省・日本医師会編の「抗菌薬療法・診療のてびき」には、上気道炎(風邪)の薬物治療は「二次的感染の予防が主体」と書かれている。これでは過剰な抗生物質の使用を推し進める恐れはないか。
 「抗菌薬が必要以上に使われている。私の仕事の三分の一くらいは、医師に抗菌薬の使用をやめてもらうこと」。青木室長の実感だ。
 イラスト・池原さやか


 
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1999年3月8 読売新聞東京朝刊
[紙上相談室]幼時からの口内炎が悪化 薬も効かず(寄稿)
 Q 幼い時から口内炎に悩み、最近は年間の3分の2は唇やほおの裏側、舌などにできています。ビタミン剤も効きません。(東京・30代女性)
 ◇東京医大耳鼻咽喉科助教授 吉田知之 
 ◆原因突き止めて除去
 A 口内炎は口腔(こうくう)や咽頭(いんとう)の炎症で、様々な原因で起きます。大別すると、外傷やウイルス感染のように因果関係がはっきりしたものと、原因不明で繰り返し起きるものがあります。いずれも症状や見かけは一緒です。
 多く見られるのは、虫歯が刺激したり、口腔粘膜をかんだりしてできるものです。虫歯による刺激は、口の中の細菌やかびをはびこらせ、口内炎の原因になります。歯科で治療を済ませて口腔内を清潔に保つことが大切です。
 また、全身的な要因によるものもあります。例えば、貧血やその他の血液疾患▽糖尿病、甲状腺(せん)疾患などの代謝や内分泌の異常▽ストレスや不眠症などの自律神経障害▽ビタミン不足、偏食、慢性胃炎などの栄養摂食障害です。
 このほか皮膚の病気である多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)や粘膜皮膚眼症候群の一部として起きたり、また、最近は、歯に詰めた金属が溶け出すために起きるアレルギーなども原因の一つと言われています。
 治療方法は、原因がはっきりすれば、その原因を取り除くことが望ましいのですが、局所的な処置だけで治りにくい場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科の専門医にご相談のうえ、内科的検査を受けて、全身的な原因がないかどうか、調べてみる必要もあります。

 
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1999年3月19 読売新聞東京朝刊
第25回医学会総会・生命の博覧会 「開かれた医療」を探る=特集 
 「社会とともにあゆむ医学――開かれた医療の世紀へ」をメーンテーマに、第二十五回日本医学会総会が四月二日から三日間、東京・丸の内の東京国際フォーラムなど都内三つの会場で開かれる。その前後の三月三十日から四月八日まで、臨海副都心の東京国際展示場(東京ビッグサイト)を会場に、初の医学博覧会「生命(いのち)の博覧会」が開催される。総会登録者向けの「医学展示」も、一日から八日までビッグサイトで行われる。総会の学術講演やシンポジウムなどの目玉と、博覧会の見どころを紹介する。
 ◇テーマに「歯学」初登場
 ◆総会
 医師向けの学術プログラムでは、多彩なテーマがずらりと顔をそろえた。開会式が行われる二日から閉会式の四日まで、基礎医学、臨床医学、社会医学にわたり現在の医学・医療が抱えている諸問題、最先端のトピックスなどを取り上げる。
 第一線研究者と臨床医による特別講演は十二、最先端の学術テーマを解説するレクチャーシリーズは百五十九、問題点や課題、新しい潮流を討議するシンポジウムが百五十、パネルディスカッションが四十八、臨床の現場で役立つ日常的な病気の最新情報を提供するテーマシリーズ三十、と数多くの企画が組まれている。
 分野別でも、脳と神経、がん、老化、エイズと感染症、プライマリ・ケア、緩和医療、二十一世紀の医療、医学教育、看護とチーム医療、生命倫理など幅広く、合計二十五の大項目に分けられている。
 この大項目に今回から初めて、歯学の分野が登場するのも目新しい。「歯学の最先端治療」と題し、痛みの少ない治療法や、外見を損なわない修復法など、歯科領域の先端的話題を紹介。さらに、高齢社会に対応した在宅歯科診療の取り組みや、口腔(こうくう)内にできるがん診断・治療法についての研究成果などが発表される。
 「緊急テーマ」として開かれるシンポジウムは四つある。英国で一昨年、クローン羊「ドリー」の誕生をきっかけに、人間への応用も含めて大きな問題となっている「クローン技術」、新たに国内で発見され、七番目の肝炎ウイルスとして注目を集めている「TTウイルス」、来年四月から実施される「介護保険制度」、社会問題化している環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の各テーマで、第一線の研究者らが参加する。
 さらに総会が掲げる大テーマ「開かれた医療」に沿って、医師以外の一般市民に向けた二十一の市民公開講座も注目の的。がんの予防と治療、薬の使い方、こころの病、生活習慣病、患者の権利と責任など身近なテーマを医師がわかりやすく解説する。
 ◇高知の「脳死」多角的に検証
 ◆臓器移植
 先月二十八日から今月一日にかけ、臓器移植法に基づく初の脳死移植が行われた。高知赤十字病院(高知市)で脳死判定を受けた女性から摘出された心臓、肝臓、腎(じん)臓、角膜が、計六人の患者に移植された。移植を受けた患者はいずれも順調に回復し、移植医療に喜びを表している。
 その一方で、脳死判定を行う際の透明性や判定手続きの妥当性、臓器提供者のプライバシーをめぐる問題点などがクローズアップされた。移植医療定着に欠かせないものは何か、など大きな課題を残した。
 このため総会事務局では、急きょ今回の脳死移植を取り上げ、様々な角度から検証する緊急報告会を計画している。脳死移植に携わった現場の医師らを招く予定にしている。脳死移植医療の抱える問題点や課題、今後の展望などを討論する。
 緊急報告会とは別に、臓器移植をテーマとする通常のプログラムも組まれている。心臓移植では、補助人工心臓の装着によって心臓の機能が回復したケースを紹介しながら、どういった病状、段階で装着すべきかなど検討する。また、脳死移植が日常的な医療となっていない状況下で、海外では「ブリッジユース(つなぎ)」としても使われている補助人工心臓から、提供者が出た場合の心臓移植にどうバトンタッチするか、といった問題も取り上げられる。
 白血病などを対象にした骨髄移植や臍帯血(さいたいけつ)移植でもシンポジウムが開かれる。ドナー(提供者)の登録状況、感染症の現況、移植施設の基準などについて、治療に携わっている現場医師が報告するとともに討議する。
 「眼科領域における移植医療」と題したシンポジウムでは、従来の角膜移植では治らなかった難治性網膜疾患や、黒目に血管が入り込んで失明に至るスティーブン・ジョンソン症候群などに対する最新の移植手術が紹介される。
 これは、網膜移植や、帝王切開で取り出した羊膜、角膜の周囲にある組織「輪部」などを用いた治療法で、眼科治療に新たな広がりを持たせたものとして注目されている。
 ◇生活習慣病の展望も
 ◆遺伝子治療
 昨年十月、国内初のがんの遺伝子治療が、東京大学医科学研究所付属病院で始まった。この遺伝子治療の方法は、進行した腎臓がんを対象に、免疫力を高める遺伝子を組み込み、増殖能力を失わせたがん細胞を患者に注射する。
 同病院以外でも、今月二日、岡山大学病院が、がん抑制遺伝子(P53)を使った肺がん治療を開始した。千葉大は食道がん、がん研究会付属病院も乳がんの遺伝子治療計画を厚生、文部両省に申請。現在、学内(施設内)倫理委員会に申請されたものを含めると、全国十施設でがん遺伝子治療の準備が進んでいる。
 総会では、このような申請ラッシュを受け、初日の二日、「がんのレクチャーシリーズ」で浅野茂隆東大医科研病院長が、二十一世紀につながる新しいがん治療戦略として、海外での実施状況も交えた現状を解説する。腎がんの男性患者(60)の初の遺伝子治療の経過も報告する。がんの増殖速度がゆるやかになり、免疫細胞が増えているこの患者は、当初の治療計画をいったん終了したが、十六日から追加治療に入っている。
 口腔がんや胃がんなど、がん遺伝子治療も適用範囲が広がりを見せているが、そのような現状と将来展望は、それぞれ「歯学」レクチャーシリーズ、「がん治療戦略」シンポジウムで紹介される。
 また今回は、エイズやがんといった「致死性」の病気だけでなく、腎炎、高血圧、糖尿病といった生活習慣病における遺伝子治療の展望を語る講演・発表が数多く用意されているのが特徴。阪大病院では、新しく血管をつくる血管新生遺伝子(HGF遺伝子)を使った閉塞(へいそく)性動脈硬化症の臨床治験に向け準備を進めているが、こういった流れに沿い、遺伝子治療の基礎研究の進捗(しんちょく)状況、将来的な適応疾患などを第一線の研究者が取り上げる。
 ◇「生命の選別」対応訴え
 ◆生殖医療
 長野県の医師が昨年六月、第三者から提供を受けた卵子を体外受精させて受精卵を母体に戻し、子供を出産させたことを公表し、社会的議論を巻き起こしたが、体外受精や顕微受精、男女生み分け、出生前診断に代表される先端的生殖医療の技術は、社会的、倫理的問題を突きつけている。
 日本では戦後まもない時期から、第三者から提供された精子による人工授精(AID)が行われてきたが、最近になって、民間の精子バンクから精子の提供を受け、未婚女性が出産したことが明らかになった。
 今年一月には、生まれてくる子供に先天性の病気があるかどうかを、体外受精した受精卵の遺伝子検査で調べる受精卵診断が、鹿児島大医学部倫理委員会で承認され、日本産科婦人科学会の審査を通れば実現する見通しになっている。これに対し、一部の障害者団体や女性団体が「生命の選別につながる」として反対している。
 こういった生殖医療をめぐる状況を反映して、総会では、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの受精卵診断を計画している鹿児島大産婦人科の永田行博教授が、受精卵診断、出生前診断の実情と問題点について講演する。この講演では、「生命の選別」として反対するこうした声にどう向き合うか、医療の側から問題提起する。また、こうした診断方法が、将来的に人間の胚(はい)段階での選別や遺伝子操作につながる可能性も踏まえ、早急に対応を考える必要性を訴える。
 「遺伝子医療の倫理」と題したパネルディスカッションも四日に行われ、出生前、着床前診断におけるインフォームドコンセント(説明に基づく同意)や、個人情報の厳格な管理、カウンセリングシステム、社会的合意、確実な安全性の保障などについて、現場で診療に当たる専門医たちが討議し、あるべき姿、方向性を探る。
 ◆最新情報 やさしく紹介
 三十万人の入場者を見込んでいる"生命(いのち)"の博覧会は、医学、医療、健康、福祉などに関する正しい知識と情報を、体験型のイベントなどを通じわかりやすく紹介するのが目的。それに沿って、会場をテーマごとに五つの「館」に分けている。
 ◇博覧会見どころ ゲーム感覚で薬を学習
 ◆人と病気との戦い
〈第一館〉
 身近な健康の話題から未来の薬開発まで、幅広く医療と医薬について、来場者とともに考えていくのが狙い。
 立体音響シアター「テアトル二〇〇X年・人体ミクロ探検」では、まずマスコットキャラクターと一緒に人間の体内に潜り込む。そこでは、未来の薬が手術なしで肺がんを完治させるミクロ冒険ストーリーが、CG(コンピューター・グラフィックス)映像で描かれており、病巣だけを攻撃するよう開発された将来の薬のイメージが広がる仕掛けになっている。
 観客参加型スタジオライブである「演示座」では、タレントや医師が、医学・医薬の世界をわかりやすく解説する。「なぜ肩こりが起こるのか」「歩くとどうして健康にいいのか」などの問題を、クイズ形式によるやりとりを通じて解答する。春休みの子供たちもゲーム感覚で薬のことを楽しく学べそうだ。
 「薬の相談室」では、日本薬剤師会の協力を仰ぎ、薬剤師四人が常時対応する。「自分が使っている薬はどんな薬か」「副作用や相互作用の心配はないか」といった質問に答え、薬の正しい使い方や選び方を一人一人に丁寧にアドバイスしてくれることになっている。現在使っている薬を持参して相談しても構わないという。人体での薬の働きが一目でわかる人体モデルも展示される。
 「セルフケア」ゾーンは、自分の健康度を測る体験コーナー。自宅で使える最新の測定装置を自分で使って、血圧や体脂肪の測定、血糖値のチェック、骨粗しょう症診断の指標となる骨密度の測定などができる。
 ◇「症例検討会」映像で
 ◆病院探検 
〈第二館〉
 「病院は暗い、怖い」といったイメージを取り除き、明日の病院をイメージした最先端病院が再現される。普段じっくり見る機会が少ない病院の内部、舞台裏を紹介する。
 病院探検シアターでは、医師の間でごく当たり前に行われている「カンファレンス(症例検討会)」の模様などを映像で見せる。複数の医師が狭心症患者の治療計画を討議するシーンや、患者が入院し、手術を受けて回復、退院していく経緯などがわかりやすく描かれている。最後に流れるメッセージ「あなたも医師です」は、患者が「医者任せの医療」から脱皮し、医師、医療スタッフとともに治療に立ち向かう重要性を訴える。
 病院が本物そっくりに再現された探検コーナーでは、最新設備の手術室をはじめ、内科、産婦人科、小児科の診察室を見ることができる。MRI(磁気共鳴撮像)やエックス線CT(コンピューター断層撮影)などの大型医療機器(実物大模型)などにも触れることができる。
 電子カルテのコーナーでは、現在は医師が手書きしているカルテの代わりに、名刺サイズのICカードにパソコンを使って電子的に診療記録を打ち込んだり、カードから読み出す仕組みが目の前でわかる。
 ICカードは、半導体チップ(IC=集積回路)をクレジットカード大のカードに埋め込んだもの。電子マネー(現金)への応用などさまざまな利用研究が進んでいるが、ここではカルテへの利用例が紹介される。
 ◇お年寄りの苦労 疑似体験 150以上の企業・団体出展 福祉ロボットも展示
 ◆安全都市・在宅ケア
〈第三館〉
 博覧会最大のスペースに百五十を超える企業、団体が出展、大きく五つのテーマに沿った区域(エリア)に分けられている。各区域ごとに中心テーマをわかりやすく説明した一角「オピニオンキオスク」が設けられる。
 A区域のテーマは「賢い患者のお医者さん選び」。「かかりつけ医」と家庭を結びつける電子システムなどの先端機器が展示されている。「かかりつけ医」は、家族が病気になった時、日ごろからかかっている近くの医師で、家族の健康管理に欠かせない。救急箱の機能を電子化して、体温計などで測った患者の健康データが「かかりつけ医」に送り込まれる最新製品の発表なども予定されている。
 風邪であっても大きな病院に出かけ、「三時間待ちの三分診療」に文句をつけるより、自宅に近くて待ち時間が少なく、必要な時には専門医を紹介してくれる「かかりつけ医」の重要性を改めて考えるきっかけになりそうだ。東京都医師会の協力で、実際に医師と個別に問診できる相談コーナーも設けられるが、こちらは会場での予約が必要。
 B区域は「体験でわかる看護と介護」がテーマで、参加型の公開実験が行われる。眼鏡をかけて視野をぼかし、お年寄りの白内障を疑似体験したり、おもりが付いた服を着て手足が不自由な高齢者になった体験ができる。ベッドから起き上がったり、車いすに乗り移ったり、室内を移動したりして、介護されるお年寄りの体験もできる。疑似高齢者を介護する側の体験もでき、介護される人、する人双方の苦労や悩みがわかる。介護保険制度の実施を一年先に控え、介護問題を身近にとらえ、高齢社会を視野に入れるきっかけになるかもしれない。
 「福祉機器・よろず相談コーナー」では、日本理学療法士協会の協力で、家庭で使うリフトや車いすなど福祉機器の使い方に関する相談を受け付ける。
 C区域は「安全と安心の生活環境」をテーマに、福祉機器や介護など各種のロボットが展示される。食事支援ロボットは、交通事故やスポーツ事故による頸髄(けいずい)損傷で四肢がマヒした障害者の利用を想定。あごの動きに合わせてレーザー光線の向きをずらし、照射する標的を変えることで弁当箱のどこの食べ物を取るかを選ぶ。すると、スプーンとフォークですくったり、はさんだ食べ物が障害者の口元まで運ばれてくる仕組み。
 D区域のテーマは「健康な日々を生きる」。ラジオ体操に焦点を当て、健康体操の歴史が映像とポスターで紹介されている。
 E区域は「優しさの都市へ」をテーマに、高齢者、障害者が参加して豊かな街づくりが実現している全国の事例を写真とリポートで紹介。また、超高齢社会を控え、体の不自由な人、介護する人双方にも優しい「ウェルキャブ(福祉車両)」が展示されている。快適な状態でどこにでも移動できる新しい交通手段として注目されそうだ。
 ◇第一線の医師の公開健康相談も
 ◆世界に広がる医療
〈第四館〉
 日本貿易振興会(ジェトロ)主催のヘルスケア'99で、三月三十日から四月三日まで開催される。世界の医療機器や、医療分野の国際協力が紹介され、今日の医療が地球規模で連携し合っている姿が実感できる。
 ◆市民の広場
〈第五館〉
 市民ステージでは、医学会総会の幹事機関になっている東大医学部、東京医科歯科大医学部、千葉大医学部、慶応大医学部、慈恵医大、東京女子医大が、第一線の医師を参加させ、来場者のさまざまな質問に答える公開健康相談を開く。
 作家の渡辺淳一さん、元プロテニスプレーヤーの伊達公子さん、女優の三田佳子さん、放送タレントの永六輔さんら著名人による講演会も予定。


 
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1999年6月3日 朝日新聞朝刊
幹細胞、角膜と共に移植で効果 目のアレルギー後遺症治療【大阪】
 アレルギーの後遺症などによって目の表面に障害を受け視力が著しく低下した患者に、角膜を移植するとともに提供者の黒目のまわりにある幹細胞も一緒に移植すると視力が改善することを、坪田一男・東京歯科大教授(眼科)らが確かめ、3日発行の米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに発表する。
 薬などに対するアレルギーで起こるスティーブンス・ジョンソン症候群や、やけどなどで目の表面に大きな障害を受けた場合には、角膜移植をしても、患者の角膜上皮細胞に新しい細胞を供給する幹細胞が失われているため移植した角膜は機能しなくなるとされている。そこで、坪田教授らは、角膜移植の時、提供者の幹細胞も移植することにした。
 39人の43個の目にこの手術をしたところ、自分の指の数がわかる程度の視力が、1メートルの距離から視力表の一番大きい記号が読める0.02程度まで平均して改善した。中には0.9まで回復した人もいた。これほどの手術例は世界的にも珍しいという。


 
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1999年7月5日 日本経済新聞西部朝刊
命の主人公はだれ 立ち上がる患者の権利(1)医療訴訟急増――ミスの教訓生かされず。
 相次ぐ医療事故が、これまでの医療への信頼を失わせている。医師への“お任せ主義”を脱し、診療記録(カルテ)の開示や、病状告知を求めるなど積極的に医療にかかわろうとする患者が増え始め、医療現場では「患者の権利」という考え方も芽生え始めた。今月、患者の苦情から医療を学ぶ市民団体「患者の権利オンブズマン」が福岡市に誕生。患者不在の医療を変革しようと動き出した。患者やその家族の姿を通して「患者の権利」を追った。
 「痛い。痛い」。福岡県内に住む佐藤原彦さん(50、仮名)は今でも、病室で泣き叫ぶ娘の朱里ちゃん(当時1歳9カ月)の姿がまぶたに焼き付いている。
 八九年一月、病院で「左肩関節の骨髄炎の疑い」と診断された。抗生物質の投与を受けたところ、全身の皮膚が焼きただれたようになり、朱里ちゃんは泣き叫んだ。「分かりません」と繰り返すばかりの医師に不信感が募り転院した。
 転院先で朱里ちゃんの病状は抗生物質「コスモシン」などの投与により、全身の炎症を起こす「スティーブンス・ジョンソン症候群」と知った。「医師を疑っているようで、口を挟める雰囲気ではなかった。医師にお任せになってしまった」と佐藤さんは悔やむ。
 コスモシンを巡っては各地で訴訟が起きた。佐藤さんも九四年に提訴。「副作用の危険性など裁判で初めて分かった。なぜ説明してくれなかったのか」と声を震わせた。
 朱里ちゃんは九六年三月、息を引きとった。「謝罪してほしかったが、病院側は過失がないと主張するばかりで、精神的にも疲れ果てた。早く忘れたかった」。昨年四月、製薬会社が解決金を支払うことで和解が成立、遺影に報告した。
 「もう、病院に行くこと自体が怖いです」。子宮筋腫(きんしゅ)と診断され、摘出手術を受けた北海道の女性(52)はこう話す。昨年末、札幌地裁に提訴。摘出した子宮にがんが見つかったのに告げられず、病状を知る権利を侵害されたという訴えだ。
 女性は「病院はがんを除去したのだから感謝されて当然と言う。でも手術後に正しい病状、病名の説明を受けなければ、どう健康管理をすればいいのかも分からない」と訴える。
 医療過誤に関する訴訟は年々増え続け、最高裁によると、昨年度末の時点で全国で二千七百件が争われている。市民団体「医療消費者ネットワーク」(東京)に寄せられた苦情は過去五年間で三千件を超え、医師の説明不足や診療記録の非開示などが約六割に上る。
 代表世話人の清水とよ子さんは「事故が起きても、患者が放置されたままの医療に対して国民のいら立ちがある」と指摘。大学病院の内科医も「医療機関にはミスや苦情から学ぶ姿勢が欠けている」と話す。
 こうした現場の声からは、医師が患者と十分なコミュニケーションを取らないまま治療が続けられる「患者不在」の医療の実態が浮かび上がる。一方で「病院側の対応にあきらめない患者が多く、患者の権利意識が高まってきている」(清水さん)のも事実だ。
 「手術で視力が弱くなったが、どう病院と対応したらいいのか」「医師は医学用語を並べるだけ」――。福岡市内のあるビルの一室では、医療機関への苦情や不満の電話が鳴りやまない。面談の予約は一週間先まで埋まっている。
 応対するのは一日から活動を始めた「患者の権利オンブズマン」。医療機関に対する苦情相談に応じ、話し合いによる解決を支援する全国初の試みだ。
 弁護士である池永満理事長は「訴訟か、泣き寝入りかの選択では成熟した社会とは言えない。患者に十分で正確な情報を伝えるインフォームド・コンセントを行うなど『患者の権利』を守ることが医療の質を高める」と話す。
 同理事長によると、海外では「患者の地位と権利に関する法律」(フィンランド)、「医療契約法」(オランダ)など患者の権利を法制化している国もあるほか、英国では病院が患者の苦情を受け付けるのを国が義務付けている。医療は医師だけのものではないという認識が定着している。
 日本の場合、カルテ開示の法制化が見送りになるなど、医療は医師に任せなさいという「パターナリズム(父権性温情主義)」がまだ根強く残っている。
 「医療は患者と医師の共同作業。医師も歩み寄り、患者も医療に参加していく姿勢が必要」(池永理事長)。その挑戦は「医療はだれのためか」という患者、医師双方への根源的な問い掛けでもある。
 ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言(概略、世界保健機関ヨーロッパ会議、九四年三月三十日)
 一、人間として尊重される権利を持つ
 一、自己決定の権利を持つ
 一、身体・精神の不可侵性の権利及び身体の安全を保障される権利を持つ
 一、プライバシーを尊重される権利を持つ
 一、道徳的・文化的価値観、宗教的・思想的信条を尊重される権利を持つ
 一、達成可能な最高水準の健康を追求する機会の権利を持つ


作成:植村要/掲載:青木慎太朗
UP:20070713

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