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出生・出産と技術/生殖技術 1994

出生・出産と技術/生殖技術


■遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドライン

守内哲也(文責)

日本人類遣伝学会「遺伝相談・出生前診断に関する委員会(松田一郎委員長)」会告,平成6年12月5日承認

 細胞遺伝学および分子遺伝学の進歩は人類遺伝学の発展に多大の貢献をもたらした.しかし一方で,こうして得られた新知見がこれまでの生命倫理問題に加えて,あらたにいくつかの論点を生むに至ったことも指摘されている.この背景として,ヒトの遺伝子には個人のほとんどすべての生命情報が含まれていること,現在の解析技術により異常染色体や特定の変異遺伝子の検出,さらに遺伝子による個人識別などが可能になったことがあげられる.遺伝カウンセリングや医療に携わる者は,患者およびその家族の基本的人権を守り,彼らが特定の変異遺伝子や遺伝子型を保有するがゆえに不当な差別を受けることがないように,また,必要に応じて適切な医療およぴ支援を受けることができるように務めなければならない.この目的のため,つぎに掲げる各項目に留意することを提言する.
 1.遺伝カウンセリングは十分な遺伝医学的知識・経験をもち,カウンセリングに習熟したカウンセラー(臨床遺伝学認定医など)により行われるのが望ましい.
 2.カウンセラーはできるかぎり正確な今日的な情報を来訪者(以下,クライアントという)に提供するように努めなければならない.これには,疾患の頻度,自然歴,再発危険率(遺伝的予後),出生前および発症前診断,保因者診断などについての情報が含まれる.これらの説明にあたってはカウンセラーはできるかぎりクライアントに理解可能な平易な言葉で行い,その説明内容を病歴簿に記載し,一定期間(すくなくとも5年)保存する.
 3.クライアントおよびその家族は知る権利とともにそれを拒否する権利(知りたくない権利)も有しており,いずれも尊重されなければならない.よって診療および種々の生体試料を用いた検査(以下,診断検査という)は,それを受ける者(以下,被検者という)の自主性に基づいた意思決定に従って行われ,この自己決定についてはカウンセラーの強い示唆あるいは指導のもとでなされることのないように配慮する.
 4.診断検査施行にあたってはインフォームドコンセントを得る必要がある.その場合,診断検査に関する内容,方法,精度およぴ施行にあたっての危険性などの情報は,正確に被検者に伝えなければならない.
 5.自主性に基づいて意思決定を行う権能がないと判断され,代理人により決定される場合,それは被検者の利益を保護するものでなければならない.
 6.クライアントが診断検査の施行を要求しても,医師が社会的・倫理的規範に照らして,もしくは自己の信条として同意できない場合はそれを拒否することができる.
 7.得られた個人に関する遺伝情報は守秘義務の対象となる.とりわけ,なんらかの差別に利用されることのないように慎重な配慮が要求される.ただし,必要性があって本人の同意が得られた場合,あるいは公にすることで第三者の危険が防止でき,その必要性が十分理にかなっていると判断された場合は守秘義務は解かれる.しかし,こうした判断は個人の見解でなく,所轄の倫理委員会などに委ねられるべきである.
 8.出生前診断については現在の診断技術および医学常識を考慮して,付記されるような見解の提示が可能である.出生前診断後の対応については被検者の意向を尊重し,カウンセラーはこの意思決定に関与してはならない.

付:出生前診断に関する兌解1.妊娠前半期に行われる出生前診断は,胎児が重篤な遺伝性疾患などに罹患している可能性があり,なんらかの手法により精度の高い診断情報が得られる場合に考慮される.その手法には,羊水,絨毛,胎児試料などを用いた細胞遺伝学的・遺伝生化学的・分子遺伝学的・病理学的な解析法のほか,胎児を対象とした機器診断がある.
 2.絨毛採取,羊水穿刺など侵襲的な出生前診断は下記のような妊娠について考慮される.
  a.夫婦のいずれかが染色体異常の保因者
  b.染色体異常児を分娩した既往を有する場合
  c.高齢妊娠
  d.妊娠が重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体
  e.夫婦のいずれもが重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体
  f.夫婦のいずれかが重篤な常染色体優性遺伝病のへテロ接合体
  g.その他,重篤な胎児異常のおそれのある場合
 3.X連鎖遺伝病の診断のために検査が行われる場合を除き,胎児の性別を告知してはならない.
 4.出生前診断技術の精度管理については,つねにその向上に務めなければならない.


ファイル名等変更:20031227
生殖技術
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