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出生・出産と技術/生殖技術 1986

出生・出産と技術/生殖技術


198609  日本医師会の「生命倫理懇談会」が男女産み分けにつき,伴性劣性遺伝
     疾患の予防に限定するとの見解を発表。特例として日本産科婦人科学会
     か大学の倫理委員会が認めた場合には実施を認めるとの臨床応用の道を
     残す。
     「「男女産み分け」についての見解」(日医生命倫理懇談会結論)
198611  日本産科婦人科学会会告「パーコールを用いてのXY精子選別法の臨床応用に対する見解」
     『日本産科婦人科学会誌』38-11
     →岡本・馬場・古庄編[1988:213-214] <95,430>
     重い伴性劣性遺伝性疾患に限り,実施の登録報告を義務づける。
19861129 「死亡した胎児・新生児の臓器を研究に用いることの是非や許容範囲についての見解」(日本産科婦人科学会会告)
     (1986年11月29日・理事会承認。のち1991年12月に「解説」を追加。)



 
 
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◆1986/09 「「男女産み分け」についての見解」(日医生命倫理懇談会結論)

 「男女の産み分け」については、精子分別による新しい方法が開発されてきているが、現在のところ、性別による遺伝性疾患出現回避のために限定して実施することが適当である。また、日本産婦人科学会または各医科大学(大学医学部)倫理委員会においてとくに必要があると認めた場合にも、実施することを認めてよいものと考える。
 ただし、いずれの場合にも、この方法を実施する医師は、日本産婦人科学会に定める適正な手続きに従うものとする。
 なお、安全性については、今後とも、専門家による継続的な検討が必要である。


【審議の内容】
1.懇談会の経過
(1) 第1回  昭和61年7月18日
 羽田春免日本医師会会長から、懇談会設置の趣旨につき挨拶があり、最初の審議事項として「男女産み分け」が審議された。それに次いで、委員による一般討議を行った。
(2) 第2回    昭和61年8月18日
 慶応義塾大学医学部の飯塚理八教授と兼子智博士を講師として招き、「パーコールによる精子分別について」の説明を聞き、質疑応答を行った。その後、委員による討議を行った。
(3) 第3回 昭和61年8月19日
 日本産婦人科学会「診療・研究に関する倫理委員会」の委員長である品川信良弘前大学医学部教授とその委員である佐藤和雄埼玉医科大学総合医療センター教授を招いて、男女産み分けについての同委員会の審議経過および問題点について説明を聞き、質疑応答を行った。その後、これまでの討議をもとにして作成された「男女産み分けについての見解(骨組み案)について討議を行った。
(4) 第4回 昭和61年9月18日
 前回の骨子案についての討議および各委員からよせられた意見をもとにして作成された「男女産み分けについての見解(案)」についての討議を行い、結論に到達した。

2.安全性について
(1) 医療技術については、安全性が重要な要件となる。男女産み分けの技術として飯塚理八教授のパーコールによる精子分別の方法は、それ自体としては危険性はないと説明されている。これにたいして、倫理上は検討を要する余地が残るとの意見もあったが、いままでのところ障害の起きた事例は現れていない。
(2) 安全性については、今後とも確認を続ける必要がある。安全性の確認については、遺伝的検討のほか、出生時、成長の過程(たとえば18歳まで)など、いくつかの段階における臨床的検討が考えられるが、その確認の方法については、専門家(遺伝学者、産婦人科、小児科の医師など)の判断によるべきである。

3.男女産み分けの是非の論議
(1) 男女産み分けについては、消極論(反対論)から積極論(賛成論)まで、さまざまの意見があり、懇談会の中でも多様な意見が表明された。
(2) 消極論の根拠としては、
1.自然(神)の摂理に反する
2.医療の範囲を逸脱する
3.男女の自然の性比を変える
4.男女の性別を助長する
などがあげられる。
(3)積極論の根拠としては、
1.性別による遺伝性疾患の出現を回避できる
2.親の願望を達成できる
3.自分の子の性別の平均を図ることができる(4人目、3人目、あるいは2人目からは適応を認めてもよい)
4.人工増加の抑制に役立つ
などがあげられる。

4.懇談会の見解
(1)懇談会の討議においては、男女産み分けを遺伝性疾患患者の出生回避のために用いることについては、病的遺伝子の保因者を温存することになるという意見はあったが、消極論の立場からも、強い反対はなかった。
 他方において、積極論の立場からも、男女産み分けはまだ始まったばかりであり、将来の十分な見通しも立っていないので、さしあたりは、希望者に広く適用することを差し控えて、原則として、遺伝性疾患の回避に限定することについて、同意がえられた。
 そこで、この点については、懇談会として一致した見解に到達したことになる。(2)遺伝性疾患回避以外に、特例として男女産み分けを実施する余地を認めることの是非については、種々の意見が述べられた。
 消極論の立場からは、男女産み分けは医療上の必要がある場合に限って実施すべきであり、とくにまだ実験的段階にある現在ではその実施範囲を限定すべきである、という意見がだされた。
 これらに対して、積極論の立場からは、男女産み分けについて、遺伝性疾患の防止以外にも、今後の進展に応じて柔軟に対処しうる余地を開いておくべきだ、という意見が出された。
 この点については、討議の結果多数意見によって特例の余地を開いておくこととするが、それは各大学および医学部の倫理委員会等でとくに必要と認めた場合に限るということにした。このような手続き上の制約を置いて特例の余地をみとめることについては、消極論の立場からも賛同が得られたので、最終的にはこの点についても意見が一致したことになる。
 なお、大学に所属しない医師については、今後の一般問題として大学の倫理委員会の審議を求める道が開かれることが望ましい。
(3)男女産み分けについては、日本産婦人科学会でも審議が行われているが、男女産み分けを実施する医師については、同学会で適正な手続きを定めて、それに従わせるようにすることが、適当であると考えられた。
(4)なお、男女産み分けの安全性と確実性については、当然のことではあるが、問題が生じないように、今後引き続き検討していくことが必要とされた。


5.付随的な問題について
(1)産み分けの確実性を高めること
 パーコールによる精子分別の方法によれば、女児を生ずるX精子については95%、男児を生ずるY精子については80%の分離効率が得られたとされている。これを遺伝性疾患の回避に限定する場合においても、この効率がさらに高められ、不成功による問題が生じないようにすることが望ましい。
(2)営利性を伴わないこと
 医療はもともと営利を目的とすべきものではないが、男女産み分けについても、合理的な費用で行われるようにしなければならない。
(3)規制の実行性について
 男女産み分けの技術については、いまのところ相当な練習が必要であり、一般に広く利用できるものではないとのことである。しかし、懇談会の見解に違反する者があった場合にどうすべきかは問題となる。
 規制の方法としては、法律による強い規制と医師内部におけるガイドラインによる自主規制とがありうるが、男女産み分けについては医師内部(日本医師会、日本産婦人科学会、各医科大学及び医学部の倫理委員会など)における自主的規律によることが適当と考えられる。したがって、このガイドラインについて違反者が生じた場合には、それぞれの団体内部で適切な処置をとることが望まれる。

 
 
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◆1986/11
 パーコールを用いてのXY精子選別法の臨床応用に対する見解

                            昭和61年11月
                       社団法人 日本産婦人科学会
                           会長  飯塚 理八

 パーコールを用いてのXY精子選別法(以下「本法」と称する)とその臨床応用には、確実性、安全性、有用性などに、今後さらに検討されるべき点が多いので、本法の臨床応用は、現時点においては、重篤な伴性劣性遺伝性疾患を有する児を妊娠することを回避するためのみ行われるべきである。
 本法の臨床応用にあたっては、会員は以下の諸点に十分留意されたい。
                  記
1.本法の実施者(臨床応用者)は、生殖医学に関する高度の知識及び技術を習得した医師でなければならない。
2.本法を実施しようとする会員は、予め学会指定の書式(様式)に従って、学会に登録しなければならない。また、本法の確実性や安全性などについては、本会に報告することが望ましい。
3.本法の実施者は、実施前に、被実施者に対して本法の概略や予想される成績等を予め十分説明し、夫婦の同意書をとり、これを保管しなければならない。
附記
(1)なお、重篤な伴性劣性遺伝性疾患を有する児の妊娠(ないしは受精)を回避するため以外の目的で本法の臨床応用を、厳密な意味での医療行為と判断するかどうかは、議論の多いところである。この問題に関しては、広く社会倫理的見解が集約されるのを待って、結論がくだされるべきものと考える。
(2)本法に類似の研究やその臨床応用が、将来行われることや、現に行われていることも予想されるが、会員は、研究の進め方や研究成果の発表に関しては、本学会や所属施設等に設置された倫理委員会などの意見を、聴取することが望ましい。
*学会指定の書式(様式)は追って本見解の解説とともに機関誌に掲載する。

                (日本産婦人科学会雑誌38巻11号所収)

 
 
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◆1986/11/29 「死亡した胎児・新生児の臓器を研究に用いることの是非や許容範囲についての見解」(日本産科婦人科学会会告)
 (1986年11月29日・理事会承認。のち1991年12月に「解説」を追加。)

 流産・早産などにより死亡した胎児・新生児の臓器等を研究に用いることの是非や許容範囲を、本委員会では、慎重に協議したが、問題の対社会的・道義的責任の重大さにかんがみ、本会会員が、次の諸事項を守られるよう要望する。
1)妊娠期間の如何に拘らず、死亡した胎児・新生児の取扱いは、死体解剖保存法が既に定めているところに従う。
2)死亡した胎児・新生児の臓器等を研究に用いることは、それ以外には研究の方法がなく、かつ期待される研究成果が、極めて大きいと思われる場合に限られるべきである。
3)死亡した胎児・新生児の臓器等を用いて研究を行うものは、原則として医師でなければならない。また、その研究協力者も、すべて、研究の特殊性や対社会的重要性などを、十分に認識したものでなければならない。
4)死亡した胎児・新生児の臓器等を研究に用いようとするものは、予めその目的を母親及び父親(親権者)によく説明の上、その許可を得ておく必要がある。 また胎児・新生児及び両親等のプライバシーは十分に尊重されなければならない。
 なお、生存中の胎児・新生児に関しては、明らかにその予後を好転させると考えられる研究的処置に限り、母親及び父親(親権者)の同意が得られた場合に行うことができる。
ファイル名等変更:20031227
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