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Baby M〔ベビーM事件〕

代理母


◆Chesler, Phillis 1988 Sacred Bond : The Legacy of Baby M, Times Books, 212p. ; Vintage Books, vii+212p.=1993 tr. by Satoh, Masahiko (佐藤 雅彦), Heibonsha (平凡社), 377p. JV <174>
◇Chesler, Phillis 1988 Sacred Bond : The Legacy of Baby M, Times Books, 212p. ; Vintage Books, vii+212p.=1993 佐藤雅彦訳,『代理母――ベビーM事件の教訓』,平凡社,377p. ISBN-10: 4582824013 ISBN-13: 978-4582824018 [amazon][kinokuniya]  ※ r01006. r0119856.
◆Whitehead, Mary Beth 1989 "'The Baby M Trial'"=1991 Klein ed. [1989=1991:211-218] <174>
Williams, R. H. ed. 1973 To Live and To Die, Springer
◇Whitehead, Mary Beth 1989=1991 「「ベビーM裁判」,Klein ed.[1989=1991:211-218]
◆Kato, Shuichi(加藤 秀一) 1993e "Book Review of Chesler, Phillis Sacred Bond : The Legacy of Baby M"(「書評:フィリス・チェスラー著『代理母』」), Quarterly Mado(『季刊・窓』) 17 <174>

■立岩真也『私的所有論』第3章注08(pp.94-95)より

 「「ベビーM事件」の概要は以下の通り。一九八五年二月、メアリー・ベス・ホワイトヘッド(Mary Beth Whitehead 、当時二八歳、無職、白人、子ども二人)が、スターン夫妻(夫は三八歳の生化学者、妻は三八歳の小児科医)と、ノエル・キーンの不妊センター(ニューヨーク州)を介して契約を結ぶ。契約内容は以下のようなもの。妊娠したら薬をいっさい飲んではいけない。羊水診断を受け、胎児に障害があれば中絶すること、その場合は報酬はなし。流産・死産には千ドル、健康な子が生まれたら一万ドルを受け取る。出産後、ただちに養子契約にサインし、親権を放棄する。二年以内に妊娠しなかったら、報酬はなし。契約後、すぐ人工授精が始まり、全部で九回人工授精を受けた結果、妊娠。一九八六年三月にで女子を出産(精子が夫のもの、卵子及び子宮は代理母)したが、出産後、子の引き渡しを拒否し、連れさる。夫婦が訴え裁判になった。一九八七年三月三一日、ニュージャージー州上位裁判所Superior Court判決(ソーカウHarvey R. Sorkow判事)は、代理母契約を合法とし、依頼者スターン夫妻に親権を認め、メアリー・ベスには親権も養育権も認めないとした(早川武夫[1987]に肯定的な紹介)。一九八八年二月三日、州最高裁判所が代理母契約を無効とする逆転判決を下す。父親をスターンとし、母親をメアリー・ベスとするが、父親側に親としての適格性があるとし、メアリー・ベスには訪問権を認めた。関連する英語文献は非常に多い。日本でもかなり報道された。ルポルタージュとして酒井眞知江[1987a][1987b]。他にヤンソン由美子[1987][1989]。Chesler[1988=1993](書評として加藤秀一[1993e])。Capron[1987=1990]、Capron ; Radin[1988=1990](前者は一九八七年二月一九日カリフォルニア大学での講演に基き、後者は一九八七年一二月一一日カリフォルニア州議会の健康・福祉委員会で行われた「代理母についてのヒアリング」での証言を基にしており、上位裁判所判決を批判し、契約法でなく家族法(養子法)を用いるべきであると主張、これが最高裁判決に影響を及ぼしたとされる)。最高裁の判決文はGostin ed.[1990:253-]に採録。メアリー・ベス (彼女も後に「代理母に反対する全米連合」の活動に参加)の手記としてWhitehead[1989=1991]。この事件に関するものも含む米国の雑誌報道等をいくつか再録したものとして古郡廷治[1988]。代理母を主題とするLandau[1989]、Gostin ed.[1990]、Field[1990]等でもこの事件について多くの紙数が割かれている。」

 立岩がどう考えるかについては同書,第4章5節をご覧ください。

……

198502  Mary Beth Whitehead (28歳,無職,白人,子ども2人)が,スターン
     夫妻(夫は38歳の生化学者,妻は38歳の小児科医)と,ニューヨーク州
     の不妊センターを介して,契約を結ぶ。契約:妊娠したら薬をいっさい
     飲んではいけない。羊水診断を受け,胎児に障害があれば中絶すること,
     その場合は報酬はなし。流産・死産には1000ドル,健康な子が生まれたら
     10000ドルを受け取る。出産後,ただちに養子契約にサインし,親権を放
     棄する。2年以内に妊娠しなかったら,報酬はなし。すぐ人工授精が始
     まり,全部で9回,人工授精を受けた結果,妊娠。

198603  人工受精で女子を出産(精子のみが夫のもの,卵子及び子宮は代理母)
     したが,出産後,子の引き取りを拒否。連れさる。夫婦が訴え裁判にな
     った。

19870331 ニュージャジー州上位裁判所Superior Court判決(ソーカウ Harvey R.
     Sorkow判事)代理母契約を合法とし,依頼者スターン夫妻に親権を認める
     代理母メアリー・ベス・ホワイトヘッドには親権も養育権も認めないと
     した。

Capron[1987=1990],Capron & Radin[1988=1990]の批判(前者は870219カリフォルニア大学での講演に基き,後者は871211カリフォルニア州議会の健康・福祉委員会で行われた「代理母についてのヒアリング」での証言を基にしており,上位裁判所判決を批判。これが最高裁判決に影響を及ぼしたとされる):契約法でなく家族法(養子法…)を用いるべきであると主張する。

19880203 ニュージャージー州最高裁判所が代理母契約を無効とする逆転判決

この事件の経緯について日本語で書かれたものとしてヤンソン[1989]がある。
判決についての土屋貴志の私訳がある。
江原他[1989:131]にも若干触れられているが,これは198802の判決については述
べていない。
19880203の判決文はGostin ed.[1990:253-]に採録。
関連する英語文献は非常に多い。
Mary Beth Whitehead (「代理母に反対する全米連合」の活動に参加)の手記として
Whitehead[1989=1991]

●文献

◆Capron    1987=1990 「もう一つの生殖技術――法的挑戦」,加藤・飯田編[1990]
◆Capron & Radin 1988=1990 「契約法よりも家族法を代理母のパラダイムとして選択すること」,加藤・飯田編[1990]
◆加藤 尚武・飯田 亘之 編 1990 『生命と環境の倫理研究資料集』,千葉大学教養部倫理学教室
*◆グループ・女の人権と性 1989 『アブナイ生殖革命』,有斐閣
◆立岩 真也 1997 『私的所有論』,勁草書房(第3章・第4章)
◆ヤンソン 由美子 1989 グループ・女の人権と性[1989]
◆Zipper & Sevenhuijen 1987 Stanworth ed.[1987]
◆吉田邦彦,中川良延ほか編 1996 「アメリカ法における「所有権法の理論」と代理母問題――昨今のフェミニズム法学・批判的人種論・プラグマティズム法学に関する研究ノート 前編」『日本民法学の形成と課題 下』 有斐閣
◆吉田邦彦,山富正男・五十嵐清・藪重夫先生古希記念論文集刊行発起人編 1996 「アメリカ法における「所有権法の理論」と代理母問題――昨今のフェミニズム法学・批判的人種論・プラグマティズム法学に関する研究ノート 前編」『民法学と比較法学の諸相T』 信山社出版

◆『朝日新聞』

19860824 代理母が「赤ん坊返して」 愛情断てずに裁判へ 米国 朝刊 22頁 2社 写図無 (全0字)☆
19860911 米の赤ちゃん返還裁判、代理母の訴え却下 親権の争いは継続 夕刊 16頁  2社 写図無 (全0字)☆

◇19861022 問われる「代理母」の是非 依拠する法なく親権で争い(視角) 朝刊 6頁 2外 写図無 (全1483字)
 「マンハッタンのニューヨーク地区弁護士会事務所で去る16日、「代理親と新生殖技術について」の公聴会が開かれた。主催はニューヨーク州上下両院司法委員会である。
 議題から公聴会の内容は推し量り難いと思うが、問われたのは人工授精で他人の子を出産する「代理母」、つまり“貸し腹”の是非である。
 「代理母から産まれた子どもの親権をめぐるトラブルが多いので、州ないし連邦政府がガイドラインを決める必要がある」とのナッソー地区高裁の7月の勧告を受けて、専門家の所見拝聴となったのである。
 公聴会が関係者に注目されたのは、「ベビーM」事件がいま話題を集めているからである。
 ニュージャージー州テナフライに住む生化学者ウィリアム・スターン氏(40)と妻の小児科医エリザベスさん(40)の間に子どもができない。夫妻はニューヨーク不妊センター所長、ノエル・キーン弁護士の仲介で、主婦メアリー・ベス・ホワイトヘッドさん(29)に夫の子どもを産んでもらう契約を結ぶ。謝礼は1万ドル(155万円)。
 この試みは成功して、去る3月、女児が誕生した。スターン夫婦はメリッサと名づけ、さっそく子どもを引き取った。が、3日後生みの親ホワイトヘッドさんが「子どもがいないと寂しく死んでしまいそうだ。2、3日手元に置かせてくれ」と言って、メリッサちゃんを借りると、両親の住むフロリダに逃げ、スターン夫婦への引き渡しを拒否。これで問題がこじれ、警察が介入してメリッサちゃんは同夫婦の元に戻る。
 だが、ホワイトヘッドさんは謝礼1万ドルの受け取りを拒否し、子どもの返還を求め、スターン夫婦は契約をたてに彼女を裁判所に訴え、「ベビーM」事件は法廷で争われているのである。
 公聴会で、76年に全米に先がけて不妊センターを設立したキーン博士は、こう証言した。
 「子どものできない夫婦は米国では6組に1組の高率にのぼっている。さまざまな努力をしても報いられない彼らの『子どもが欲しい』との願いをかなえる方法の1つは養子縁組である。だが、人工中絶が増えたこともあって、養子を見つけるのに平均7―10年もかかるのが現状。ほかに体外受精児(試験管ベビー)もあるが、この成功率は20%以下。となると代理母しかないではないか」
 対して、ホワイトヘッドさんの弁護士ロバート・アレンシュタイン氏は、こう反論した。
「確かに、代理母は子どものない主婦にはいい制度かもしれないが、契約を結んだ後に当事者の気が変わることもある。謝礼を払って子どもを産んでもらうということは、金で子を買うことでもあり、倫理的問題もある。(全米ですでに500件の例があるというが)貧しい女性ばかりが代理母になっている事実も見逃してはならない」
 会場には1万ドルの謝礼をもらって子どもを産んだばかりというカリフォルニアの主婦エリン・ブロットマンさん(24)がいて、「子どものできない夫婦に夢をかなえてあげられるなんて、すばらしいことではないですか」と胸を張った。
 この日、証言に立った関係者17人のほとんどは(1)統一したガイドラインを早急につくる必要がある(2)不妊センターを認可制にすべきであると主張しながら、「代理母」を原則的に支持する見解を示した。
 だが、代理母契約の合法性、“謝礼”の是非、代理母や精液提供者に年齢制限を課すべきかどうかなどについて、彼らはよりどころとなる法律を探しあぐねているふうであった。
 科学や医学の進歩によって生まれた新事態と、既成の法律との“空間”が大きいことを、「代理母」論争がよく示している。(ニューヨーク・久保田誠一)」

19870226 親権叫ぶ代理母 米の「ベビーM事件」、裁判大詰め 夕刊 3頁 らうんじ 写図有 (全3436字)
19870327 米の代理母裁判、事件の出版・映画化権で新たな論争の火種に 朝刊 6頁 2外 写図無 (全785字)
◇「米の代理母裁判、事件の出版・映画化権で新たな論争の火種に」
87.03.27 朝刊 6頁 2外 写図無 (全785字)

 「【ニューヨーク26日=横井特派員】産んだ母親か、人工授精した父親か――。「代理母」によって生まれた赤ちゃんの養育権をめぐって争われている「ベビーM」事件は30日、米ニュージャージー州の裁判所で判決を迎えるが、大詰めで思わぬ難題が持ち上がった。代理母側がこの事件の出版権、映画化権を売ろうとしたのに対し、父親側が25日、待ったをかけた。「プライバシー権」と「言論の自由」の争いは、この裁判の様相を一層複雑にしている。

 この日、原告の生化学者ウィリアム・スターン氏(41)夫妻は、この事件をもとにした小説、映画、ドラマ化の権利の売却を禁じるよう、事件を審議している州上級裁判所に申し立てた。「ベビーMは、もうすでに十分、好奇の目にさらされている」との理由である。

 一方、代理母契約の無効を主張している被告のメアリーベス・ホワイトヘッドさん(29)は(1)この契約の非人間性を社会に訴えるため(2)弁護士費用や上訴に25万ドルは必要(3)ベビーMと暮らすために抵当に入っている家を請け戻すのにも金がいる、と反論した。

 この事件は全米中の関心を呼び、すでに数十件の映画化、ドラマ化の要請が原告、被告双方に殺到している。米国で初めて「代理母」制度を裁くというだけでなく、警官からの逃亡、私立探偵の活躍、感情をむきだしにした法廷劇、とドラマ性にことかかないためだ。
 だが、裁判を通じてこの事件が代理母契約をする女性の側の貧困の問題や科学の力で新しい生命を生む倫理の問題など、さまざまな問題をはらんでいることが浮き彫りにされてきた。

 今回のスターン夫妻の申し立ては憲法修正1条による「言論の自由」の観点から却下されるべきだ、との意見が専門家の間に強い。一方で、ベビーMの「商品化」が本人の将来に与える影響を心配する声もある。

 ベビーMは判決を前にこの27日、満1歳の誕生日を迎える。」


19870401 代理母契約は有効 米のベビーM事件で判決 夕刊 12頁 2社 写図無 (全632字)
19870402 米のベビーM裁判、代理母契約の合法性になお疑問 朝刊 6頁 2外 写図有 (全955字)
19870406 米国民、「代理母」判決に好感 CNNなどの世論調査 夕刊 14頁 2社 写図無 (全324字)
19870411 代理母の訪問権を回復 「ベビーM」事件で米の州最高裁判決 夕刊 2頁 2総 写図無 (全426字)
19871104 米・代理母が妊娠、親権争い不利に? 「ベビーM」裁判 朝刊 26頁 2社 写図無 (全0字)☆
19880204 代理母は乳児売買 米・州最高裁が逆転判決「金銭の契約無効」 夕刊 14頁 2社 写図無 (全737字)
19880407 週8時間監視なし面会、「ベビーM」の代理母に認める 夕刊 18頁 2社 写図無 (全0字)


REV:....20030811,1227 20060122, 20131202, 20160527
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