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親である/になること

生殖技術


◆レズビアン

  「…アメリカでは、1970年代の後半ごろから、レズビアンの女たちの間では、人工授精によって、それも医者の手を煩わせないで自分たちで行う方法(Self Insemination)で簡単に子どもを産めることが伝えられているし、フェミニズムクリニックもこの方法を助けている。」(宮淑子[1989:61])

  「アメリカ・ニュージャージー州に住む女性心理学者とコンピューター・コンサルタントのレズビアン・カップルが「どうしても自分たちの子どもがほしい」と考え、AIDによって妊娠。コーリー君(2歳)が生まれた…。/…性液を提供してくれたのは、2人の女性の親友に当たる男性で、出産は心理学者のマーガレット・ニコルズ(39歳)が引き受けた。まだ物心がつきはじめたばかりのコーリー君は、そのへんの事情については何も気づいていない。彼にとっては、マーガレットと同棲しているナンシーマクローブもまたママ。このレズビアンのカップルは、9年前、ゲイ解放運動を進めている政治団体の会議で知り合い、2年前に”結婚”に踏み切った…」(宮淑子[1989:62] 『FORCUS』19860321の記事を紹介」(レズビアンの活動について(Duelli Klein[1984]、Hornstein[1984]、これらを文献にあげているものとしてHanmer[1987])

  「レズビアンの女性たちは、母性(マザーフッド)を必ずしも否定しない。性と生殖とが切り離し可能なものなら、異性愛を迂廻しても母親になる道は、体外授精(ママ)や人工授精のようなバイオテクノロジーの発展によって開かれている。彼ら(ママ)は今、異性愛のポリティックスから独立した母性と育児の概念に、チャレンジしつつある」(上野千鶴子「女性にとって”性の解放”とは何か」、ジュリスト増刊総合特集『女性の現在と未来』、1960年(誤記?)、有斐閣)、宮淑子[1989:62]に引用…下の部分に「はたしてそうであろうか。」と続く。)

  「性に権力や暴力を持ち込んで、性を支配と服従関係にしてしまった男社会のポリティックス、「女が一人で生きることを自由に選択できない、女が男なしで生きられない、生きてはならない強制異性愛社会」(映画「声なき叫び」パンフ)のポリティックスから自由になろうとしたレズビアンたちが、新しい母性と育児の概念にチャレンジしようとして、結局は生身の男は排除したものの、男の分身ともいうべき精子をもらい受けて子どもをつくろうとする姿勢には、強制的異性愛社会への迎合を感じてしまうのは私だけだろうか。母性を必ずしも否定しないのなら、養子縁組などをして”育てる”という行為、つまり、”親と子の関係性”をつくりあげることを育んでいくべきではないか。」(宮淑子[1989:63]…上の「精子にしろ、…」に続く)

 cf.

◆シングル …

  「AIDに、最近になって新しい傾向が現われはじめた。従来はなかったことだが、独身女性が精子銀行にやって来て人工授精を求めるようになったのである。ニューヨーク受胎研究協会の外科部長であるウェイン・デッカー博士によると、その数は少なく、彼のいる病院では「独身女性でAIDを受ける者は年に20人以下」だが、無視はできない数だという。」(Howard & Rifkin[1977=1979:118])

  「…法律上の取扱いで検討を要するのは、独身女性に対する人工授精の是非です。アメリカでは、AIDは不妊夫婦の治療として認められるのだから、そもそも独身女性への実施は非合法であるし、レズを正当化するものだとする意見もあるようです。」(大谷實[1985:31])

 「精子にしろ、卵子にしろ、顔のないノッペラボーの代物では決してないのであって、精子には父である男の数十年の歴史が、卵子には、母である女の数十年の歴史が、すでに刻みこまれているのである(石川憲彦『治療という幻想』1986年、現代書館)。そのことに想像力を働かせるなら、性愛のない、人格を認めあった等身大の相手との血の通い合ったコミニュケーションを捨象した、”受精”、人格が投入されない子づくりなど、売買春といかほどの差があろうかと思ってしまうのである。」(宮淑子[1989:63])

  「性的関係を持たずに子どもを産むこの行為は、彼女の人生の欠損感(人生を分かち合うほど愛している男性もいない)を埋め合わせるためである。そのために、子産みを性的人間関係から切り離し、子どもが両親の愛情に恵まれて育つ権利を侵害していいというのだろうか。」(宮淑子[1989:64])

 「実際の性的関係がなくても、自分のパートナーではない男の精子をもらって受胎することは、セックスという直接的行為はなくてもやはり、”科学的不倫”(この言葉の命名者はヤンソン由美子さん)といっていい行為なのではなかろうか。この場合、男のペニスがインサートされるか、注(p.66)射器がインサートされるかの違いだけなのであるから……。」(宮淑子[1989:66-67])

  「全人格的な子産みの倫理とは”生殖”を”性的人間関係”から分離させてはならないということ(”性交”と”生殖”の分離の意ではないことに注意)と、子どもの人権の保障、とりわけ産まれてくる子どもが、親の愛情に恵まれて人間らしく育てられるべき権利を侵害してはならないということ、この二つがその核心である。
  したがって、非婚の女性がAIDにより子を産むことは医療としては認められてはならないと考える。」(金住典子[1989:199])

◆事実婚

  「配偶者の中に事実上の夫婦を認めるかは(ママ)どうかは、その国の国民意識の発展の中で考慮すべきであるが、子どもの人権への配慮、人間の尊厳としての子産みの倫理からすると、生殖技術をむやみに拡大していくことは戒めるべきことと考えられることと、医師に性的人間関係の有無の判(p.200)断を委ねることへの危惧等から、慎重な態度でのぞむべきことと考える。」(金住典子[1989:200-201])

  「いったい母性の分割がもつ意味は何なのか?「母は誰か」という法的な問題だけだろうか。いったい「母とは何か」、「母性とは何か」、「家族とは何か」。そういう視点で今までに述べた生殖技術についてのガイドラインや法律を見直すと、既成の家族制度や血縁のつながりを重視しすぎているのではないかという疑問が浮かび上がる。たとえばドイツにしても日本にしても、医学界のガイドラインは体外受精の許容範囲として「婚姻内の夫婦であること」を原則としている。「子どもをもつこと」は法的な夫婦でなければできない行為ではないはずだし、技術の使用を法的夫婦に限ることは、現状の家族制度を容認し強めることになる。
  逆に見れば、生殖技術を法的な夫婦の不妊治療に限定するのは、結婚している女は誰もが子どもを産むべきだという社会の風潮を反映していると言えるだろう。(p.177)
  さらに「遺伝的な母」「産みの母」「育ての母」のうち誰を重視するのかという法的議論のなかで、現状では遺伝的つながり、すなわち血のつながりを重視する意見が強いことも気になる。たとえば、1990年にアメリカで行われた代理出産で生まれた子の親権をめぐる裁判では、「産みの母」ではなく「遺伝的な父母」である依頼者側に親権を与えている。
  家族というのは、その時代の人間の生き方によって変化するはずである。法的婚姻関係のある男女(ヘテロ)の夫婦が血のつながった子を産み育てるという家族のイメージが、「医の倫理」という名目で押しつけられてくる。生殖革命がつきつけた母性の分割の制限は、ほかでもなく、それが内包している「近代家族の解体」の力を封じているのだ。」(柘植[1991b:177-178]…この後、生殖技術は女性にとってプラスになりうるだろうか、と問い、搾取、負担、父権的近代家族制度や男性優位社会という基盤の上に生殖技術を研究開発する際の視点が置かれていることを指摘し、「この現実を変えない限り、生殖技術は母性の未来にとってマイナス要因でありつつけるのだろう。」(p.179)と結ばれる)

  「独身女性やレズビアンの女性が男性と性的交渉を持たずに子どもがほしいと思い、AIDを受けたいと望むのはいけないことなのだろうか。物理的にできないことを望むのがいけないのなら、夫婦間のAIDもいけないことである。独身者やゲイ・カップルやレズビアン・カップルはなぜ子どもを望んではいけないのだろうか。そのような親だと子どもがかわいそうだというのは理由にならない。単身でも幸福な子どもはたくさんいるし、父母が揃った家庭でも不幸な子どもがたくさんいるのである。結局、社会が独身者やゲイ、レズビアン・カップルに(p.120)「子どものいる家族」を作る権利を認めていないということが、最初の問いの答であるようにみえる。このことは独身者やゲイ、レズビアン・カップルを差別していることではないだろうか。」(難波[1992:120-121])

◆フランスについて

  1982年2月、フランスで最初の体外授精児アマンディーヌ誕生。ミッテラン大統領はただちに論理(ママ)諮問委員会をつくりこの問題の検討を研究・産業担当大臣のジャン=ピエール・シュヴェルマンに命じた。(新倉修[198909:77]
 「精子の提供を受けて人工授精を行う方法については、ジョルジュ・ダヴッド教授の発案によってつくられた「精子保存研究所(CECOS)」による「あらゆる面で模範的な論理(ママ)基準」のもとに1988年までに15000人の子どもが生まれた。…体外授精…1988年までに2000人の子どもが生まれたという(1988年3月30日付ル・モンド紙)。」
(新倉修[198909:78]
 「…世論調査(1985年5月23日付ル・モンド紙)によると、精子の提供(人工授精)・試験官授精(試験官ベビー)・子宮貸し(代理母)などの医術の進歩について、肯定的な意見を持つ者が多数をしめた。
 しかし、年齢別では65歳以上の者(41%)、職業別では無職および退職者(45%)、宗教別ではきまって教会に行くカトリック教徒(48%)に賛成者が少なく、妊娠中絶法との関連では、これを好ましくないと答えた者のうち賛成者は43%にとどまり、反対者は47%と多い。
 さらに、独身の女性がこの種の子どもを持つことや死亡した夫の精子を冷凍してその死後に受胎することには「驚くほど自由主義的な意見が多い」のに対し、独身の男性や同性愛のカップル(ホモ・レズ)がこの種の子どもを持つことには反対が多い。また更年期をすぎた夫婦が子どもを作ることにも67%が反対する。
 …単性生殖…男が子を産む…更年期をすぎて排卵が止まった女性に子を産ませること……そこまで踏みこむことに対しては、反対意見が強い。
 同じく、多くの人は新技術の発展に好意的であっても、自分で進んで精子を提供したり、卵子の摘出に同意することにはためらいがある。このことは、精子提供者とこれを受ける夫婦との間はお互いに知らないほうがよいという意見が多いこととも関連しそうだ。つまり、精子提供によって子どもを(p.81)つくることができる場合に双方とも相手を教えるべきでないという意見が59%を占め、希望する場合以外は知らせるべきではないという意見が59%を占め、希望する場合以外は知らせるべきでないという意見(23%)や、むしろ知らせるべきだという意見(8%)を圧している。
 …「子どもに教えるべきか」という設問……子どもはなにも知るべきでないという意見が多数であるあること(52%)は否定できないが、提供者がだれであるかをあかさなければ子どもにも教えるべきだという意見が増える(25%)。提供者がだれであるかも教えるべきだという意見も若干ながら増やす(11%)。
 また代理母については……(→この段落は別FAILに全文記載)」
(新倉修[198909:81-82]

◆立岩真也『私的所有論』第3章注03より
  「◇03 […]米国等では代理母だけをとっても膨大な数の文献が出ている(一部は注08に紹介)。[…]以下、女性、フェミニズムの側からの文献。代理母契約の実態報告等も含むArditi et al.eds.[1984=1988](抄訳、女性自身による人工授精 self-insemination に関するDuelli Klein[1984]他の訳はない)、Corea[1985a=1993]。Duelli Klein ed.[1989=1991]も全ての論点に関わり必読。排卵誘発剤使用による死亡事例等、危険性を具体的に指摘し、代理母契約に応じた女性の報告も掲載、自助グループの活動についても多くの紙数を充てている。他にCorea[1985b]、Corea et al.[1987](Corea[1987]、Duelli Klein[1987]、自己授精のグループに言及するHanmer[1987]他所収)。Chadwick ed.[1987]、Stanworth ed.[1987]所収の何篇かの論文。Baruch et al. eds.[1988]中の、医療者側の把握と女性の経験との違いを指摘するCorea[1988]、男性側に原因がある場合に女性に負担のかかる体外受精が用いられることが男性主導で決定されることを指摘するLorber[1988]等。」
 「フェミニズムの側からの議論としてZipper ; Sevenhuijen[1987]。「代理母はフェミニストの問題か?」という問いが立てられ、十年前、自らの友人が代理母出産をしたという話から始まる。「代理母それ自体が制御されうるという主張は神話である。生殖技術という文脈での議論は代理母が医学的あるいは他の規制的な介入なしで行われ、将来より頻繁に行われうるという事実を曖昧にする。卵提供のない代理母は簡単なのだ。…いくつかの政府の委員会は、確かに、例えば自己−受精のような自助的な技術が禁止されるべきことを推薦している。しかし、「体内」受精あるいは自己−受精である限りそれらは効果的に抑止することは不可能である。」(Zipper ; Sevenhuijen[1987:137,138])自己−受精(self-insemination)については Duelli Klein[1984]等(cf.第3章注03・86頁)」

Arditi, Rita ; Duelli Klein, Renate ; Minden, Shelly eds. 1984 Test-Tube Women: What Future for Motherhood ?, Pandora Press=1986 ヤンソン由実子訳,『試験管の中の女』,共同通信社(部分訳)234+12p. <91>
Corea, Gena ; Renate Klein, Duelli ; Hanmer, Jalna ; Holmes, Helen B. ; Hoskins, Betty ; Kishwar ; Raymond, Janis ; Rowland, Robyn; Steinbacher, Roberta 1987 Man-Made Women : How New Reproductive Technologies Affect Women, Indiana Univ. Press, 109p. <91>
Duelli Klein, Renate 1984 "Doing It Ourselves : Self-Insemination", Arditi et al. eds.[1984:382-390] <91,171>
Hanmer,Jalna 1987 "Tranforming Consciousness : Women and the New Technologies", Corea et al.[1987:88-109] <91>
 cf.『私的所有論』の文献表

◆法

 「…人工授精による出生子の身分その他の問題については法律が制定されておらず、まだ訴訟になった例もなく、法律論としても不明の部分が多い。もともと人工授精及びその出生子について、法政策論も確立されていない。しかしある意味では最も現代的な問題でもあるので、考えられる法解釈論の概略を記す。(注14)
 (1) 配偶者のない女性が産んだ人工授精子はその非嫡出子となる。
 (2) 妻がAIHによって産んだ子はその夫婦の通常の嫡出子であり、嫡出推定も働く。ただし、夫死亡後に夫の保存性液によった場合は、嫡出推定は認められないことが生じる。
 (3) 妻がAIDによって産んだ子は、婚姻中に妻の産んだ子であるから、戸籍には夫の嫡出子として記載される。そしてAIDをするについて夫の同意があるとき(これが通常である)は、この同意は否認権の放棄とみなされ、夫は嫡出否認権を行使できないとする見解が多い。夫の同意がないときには、利害関係(p.111)人は普通の親子関係不在の訴によって、その嫡出性を争うことができると解すべきであろう。
 (4) 人工授精子とAIDの性液提供者との関係は上記いずれの場合でも、否認を許す関係ではないとされる。前者は認知請求できないし、後者の任意認知も無効である。したがって母が提供者と婚姻しても準正嫡出子になれない。
 しかし(3)、(4)については異なる見解もあり、立法によってしか解決できない多くの問題がある。/(注14) 小池=田中=人見編『人工授精の諸問題』1960年慶応通信参照。」
(深谷松男[1988:111-112])

◆2000/02/10 「オランダの諮問委、レズビアンの体外受精拒否は法律違反」
 『朝日新聞』2000-02-10  「オランダの治療平等委員会は9日、レズビアンのカップルに対する体外受精拒否は法律違反だとする勧告を出した。同委員会によると、不妊治療専門の3つの病院が、父親と母親がそろっていないことを理由に女性カップルの治療を断ったという。」(速報22:32)

◆2001/06/08 「同性愛カップルに結婚と同等の権利 カナダ・ケベック州」
 朝日新聞

 「カナダ・ケベック州議会は7日、同性愛カップルにも結婚と同等の法的な権利を認める法案を可決した。カナダでこうした法案が通ったのはノバスコシア州に次いで2州目。これにより同性愛のカップルでも子供の養子縁組や人工授精が可能になるという。」(19:20)


◆宮 淑子 19891030 「性と性殖のあいだ」,グループ・女の権利と性[1989:51-69]

REV:...20060802, 20031227, 20040101
生殖技術  ◇性/同性愛  ◇家族 
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