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資料:PSW協会―保安処分への反対決議ほか―


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last update: 20161019


■目次

  1. 「総会決議文」(1974(昭和49)年5月17日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1974:16])
  2. 「抗議文」(1981(昭和56)年6月27日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1981:23])
  3. 「刑法改悪・治療処分新設法案の国会上程を阻止する決議」(1982(昭和57)年6月26日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1982b:12])
  4. 「『精神病による犯罪』の実証的研究(野田正彰著)に関する見解」(1982(昭和57)年6月26日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1982b:13])


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@「総会決議文」(1974(昭和49)年5月17日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1974:16])

 私達は,現行の精神衛生法を中心とする精神医療が必ずしも「精神障害者」に対する治療を保証するものとはいえず,かえって,それが患者の人権を侵害する状況を創り出していると言わざるを得ません.このことは特に,「精神障害者」の入院制度や地域精神衛生の諸対策の中で集中的に,たち現われています.
 私たちは,このような状況を見据えながら「精神障害者」の人権を侵害する事態を阻止し,同時に,私たちの行動を点検しながら,日常の取りくみをすすめることを前提として,現在,法制審議会において最終段階を迎えた保安処分を含めた刑法改正に反対いたします.
 保安処分の新設は「精神障害者」を治療の名の下に,社会防衛,社会治安の目的で,社会から隔離,収容するものに他なりません.この中で「精神障害者」とは何かの判断基準もあいまいなままに,このことがすすめられようとしています.さらに拘禁状況の下での「精神障害者」の治療は困難であり,また将来犯罪を行うおそれのある者として収容するものは,予防拘禁に他なりません.しかも,その際の収容は,無期限になされる可能性もあるわけですから,人権侵害の危険が大きいと考えます.
 以上の考えから,私達は保安処分を含めた刑法改正に反対し,行動することを決議します.
昭和49年5月17日
日本精神医学ソーシャルワーカー協会第10回総会
第10回精神医学ソーシャルワーカー協会全国大会

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A「抗議文」(1981(昭和56)年6月27日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1981:23])

 改めて刑法改「正」についての法相発言,及び保安処分制度新設の動きに対し,抗議する.
 刑法改「正」にともなう保安処分制度新設に対し,日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会は,これまで再度にわたって反対の意を表明してきた.
 しかし,昭和56年6月26日の閣議後における奥野法務大臣の発言は,刑法改「正」草案に修正を加え,保安処分対象の限定と手続と名称についての若干の手直しをするものと伝えられている.しかしながら,これらの手直しも精神障害者に対する人権侵害的本質には,何ら変わることのないものである.
 我々は,精神医学ソーシャル・ワーカーとして「精神障害者の社会的復権と福祉」の実現を目指して日常実践としている立場から,いかなる保安処分制度もこの理念に逆行するものとして,ここにあらためて抗議の意を表するものである.
 我々は,保安処分制度新設に反対するためにあらゆる具体的行動をおこすことをここに改めて表明し,新設の動きに抗議する.
昭和56年6月27日
日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会第17回全国大会
大会運営委員長 関原 靖
日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会第17回総会
協会理事長 柏木 昭
奥野法務大臣 殿

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B「刑法改悪・治療処分新設法案の国会上程を阻止する決議」(1982(昭和57)年6月26日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1982b:12])

 私達は,1974年法制審議会が法務大臣に対して「改正刑法草案」を答申して以来刑法の改悪には,協会として反対してきた.しかし,1981年12月26日法務省は,「刑法改正の基本方針」を発表し,保安処分新設を刑法改悪の中心に据える方向で,強硬に刑法の改悪と,保安処分の新設法案を国会に上程しようとしているので,日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会は,改めてそれに反対する.
 昨年法務省が,保安処分を治療処分と名称変更したことは,保安処分という名称の与える戦前の予防拘禁制度に対するイメージを変えることだけを目的としたものであり,その法案そのものは,ひとつも変わっていない.そして,治療処分と禁絶処分を一本化し,対象を重大犯罪者に限ったことは,マスコミキャンペーンによって広められた「精神障害者」らしい人による重大犯罪事件を利用して,法案成立を図ろうとするものである.このことは,ことさらに「精神障害者」と犯罪を結びつけ,全体から見れば,少数の「精神障害者」による事件を,「犯罪性精神障害者」の処遇は社会的問題であると決めつけるものであり,従来から私達が解決しようとしてきた「精神障害者」は,恐しい者・犯罪を犯かす者などという社会の中の偏見を増長させるものとして,決して許すことの出来ないものである.同時に,保安処分制度による施設の設置は,現在でも多くの問題を持つ精神病院における保護病棟よりも,さらに非治療的・収容主義的な施設を法務省管轄として新設するものといえるわけで,精神病院の開放化・地域医療の推進を考える私達の立場としては,新設に強く反対せざるを得ない.
 保安処分制度の基礎をなしているのは,一度犯罪を犯した「精神障害者」が将来再び犯罪を犯かすかどうかを「予測」しうるとすることにある.それに基づいて「処分」を加えるということは,現実の精神医療・福祉の中でも困難を伴う「精神障害者」の「社会的復権」の保障をおこなうことを,より困難にするといわなければならない.そして「精神障害者」を特別な人間とせず,彼らと共に生きようとする立場からは,そのような「予測」は不可能であり,保安処分制度は,法律として矛盾するものといえる.
 私達,精神医学ソーシャル・ワーカーは,「精神障害者の『社会的復権』」を保障する立場から「精神障害者」を治安・社会防衛の対象とする「治療処分」の新設に反対し,併せて「精神障害者」を犠牲の標的として,「予防拘禁制度」を実態化しようとする刑法改悪・治療処分制度新設の国会上程を阻止する運動を,全国の精神医療従事者と共に行なうことをここに決議する.
1982年6月26日
第18回日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会総会

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C「『精神病による犯罪』の実証的研究(野田正彰著)に関する見解」(1982(昭和57)年6月26日)(日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会[1982b:13])

 日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会は,刑法改悪・保安処分新設に反対する立場から,野田報告に対し,若干の検討を加えることにする.
1.症例報告の形式をとっているが,野田氏自身が直接関わったものでなく,本人の了承をとらず,その内容を公的な場に報告することは人権侵害の恐れが大きい.
2.症例は,全国各地にわたっているが,症例報告としても,社会調査としても,その方法論が不明確であり,13症例で日本全国の精神医療実態を「実証」したとはいえない.
3.野田氏は,この報告を通して,精神医学の技術が完璧であれば「精神障害者」の犯罪は防止できると述べている.例えば,事例Tの考察の中で「もし私が事件の何時間か前の段階で診察していれば,症状を引き出し,心因反応として診断し,強制的にでも入院させ,2週間ないし1ヶ月の入院ですべて解決していた可能性は大きい.」と述べている.事例9においても「問題点の第1は精神科医の診断能力の欠如である.」とあり,この報告全体を通して野田氏は「精神障害者」を「管理」する立場に立っているといえる.つまり「クライエントと共に生きる関わりの視点」が欠落しているわけで,このような姿勢に基づく症例報告は「精神障害者の『社会的復権』」を保証するものではない.
4.野田報告は,13症例の地域的状況をその文化的側面の分析において説明しようとしているところがみられるが,それが地域における精神医療の実態を規定している文化的背景の分析まで及んでおらず,結果として画一的な精神医療の価値観によって13症例を考察しているといえる.このことは,社会のなかで,地域に根ざした「精神障害者」との関わりの視点を模索するPSWの立場からみると,野田氏は「精神障害者」を社会生活を営む者としてみていないとしか考えられない.
5.症例9にもみられるように,野田氏は,この報告全体を通して地域の保健所制度,精神衛生相談員の業務内容について,批判を加えている.しかもそれらの記述が,地域に働くPSWをはじめ,精神医療従事者の個人的責任であるかのようにみえるものが多い.このことは,現場に働くPSWの立場からは,納得のいかないことである.つまり,PSWのマンパワー不足の問題,経済的背景の貧困の問題,行政における精神医療施策軽視の問題,国における精神医療制度の問題,そして地域社会における「精神障害者」の社会生活に対する無理解の問題等々,社会的な問題に起因することが多く,「精神障害者」と共に生きる視点を貫いてPSWが日常の業務を行なう困難さを理解する視点が欠落しているといえる.
6.以上,野田報告は,保安処分制度新設反対という形式においては,日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会の意見とは一致するにしても,「精神障害者」との関わりの視点においては異なる.また,精神医療の業務を「精神障害者」の犯罪防止を目的とするという野田報告とは,本協会は意見を異にする.
1982年6月26日
第18回日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会総会



*作成:樋澤 吉彦
UP: 20161019 REV:
資料:PSW協会―医療観察法に対する見解ほか―  精神科ソーシャルワーカー/臨床心理技術者  ◇精神障害/精神医療  ◇強制医療/保安処分/心神喪失者医療観察法/…  ◇事項
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