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臓器移植・脳死 メディア報道 2009年5月

brain death / organ tranpslantation 2009

臓器移植・脳死 2009


◆2009年5月8日 朝日新聞 渡航臓器移植、自粛決議は来年以降に延期 WHO
◆2009年5月8日 朝日新聞 臓器移植法論議 厚労相「先送りするべきではない」
◆2009年5月8日 読売新聞 臓器移植、日弁連会長が声明
◆2009年5月8日 読売新聞 臓器移植指針、1年間先送り
◆2009年5月8日 読売新聞 臓器移植法、新改正案12日提出
◆2009年5月8日 毎日新聞 WHO:「移植指針」先送り インフル対策優先
◆2009年5月9日 読売新聞 臓器移植法改正、有志議員「今国会で」
◆2009年5月14日 読売新聞 移植法新改正案を了承
◆2009年5月15日 朝日新聞 臓器移植法改正 有志議員、衆院に「D案」提出
◆2009年5月16日 読売新聞 臓器移植、第4案提出
◆2009年5月19日 朝日新聞 臓器移植法改正めぐり討論会 初の4案そろい踏み
◆2009年5月20日 毎日新聞 急いでいいのか
◆2009年5月22日 毎日新聞 臓器移植法改正案:年齢制限撤廃案、衆院委審議入り
◆2009年5月26日 毎日新聞 臓器移植法改正案:「脳死」「子ども」主張対立 法案提出者が討論会
◆2009年5月27日 朝日新聞 臓器移植、A案とD案を軸に 党議拘束かけず本格審議
◆2009年5月27日 読売新聞 臓器移植法改正案、審議は継続へ…議員間で議論かみ合わず
◆2009年5月27日 毎日新聞 臓器移植法改正案:実質審議入り 衆院厚労委
◆2009年5月28日 読売新聞 臓器移植法の審議を続行…衆院委
◆2009年5月28日 毎日新聞 臓器移植法改正案:4案を比較検討 衆院厚労委、審議入り
◆2009年5月29日 毎日新聞 クローズアップ2009:臓器移植法改正案審議 小児移植に慎重論
◆2009年5月30日 読売新聞 [解説スペシャル]臓器移植、描けぬ未来

 
 
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■ 渡航臓器移植、自粛決議は来年以降に延期 WHO(2009年5月8日1時1分) 朝日新聞

http://www.asahi.com/national/update/0508/TKY200905070291.html

 【ジュネーブ=井田香奈子】世界保健機関(WHO)は7日、ジュネーブで18日から開く総会で予定されていた、海外に渡り臓器移植を受けることを規制する決議の採択を先送りすることを決めた。来年の総会以降にずれ込む見通しだ。
 出席する加盟国の保健担当相や高官らは、各国で新型の豚インフルエンザ対策を担当する責任者でもあり、ジュネーブに長期間留め置けないとの判断から、総会期間を予定の10日間から5日間に短縮することにしたため。同日、WHOのマーガレット・チャン事務局長と各国代表部が協議し、合意した。
 日本では、海外に渡って移植を受けることがWHOの決議でいっそう難しくなるとの見通しが強まり、今春から、現行の臓器移植法を改正する論議が国会で本格化した。国会に提出されている三つの改正案のほか、新たな案の検討を急ぐ議員らもいる。衆院厚生労働委員会は小委員会での議論を終え、11日以降、厚労委での審議に入る予定。
 厚労委の理事の一人は「渡航移植に依存する状況は好ましくない」として、海外の動きにかかわらず今国会で結論を出すべきだと主張するが、もともと慎重な論議を訴える議員も少なくない。WHOの動向は国会審議にも影響を与えそうだ。

 
 
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■臓器移植法論議 厚労相「先送りするべきではない」 (2009年5月8日11時5分) 朝日新聞

http://www.asahi.com/politics/update/0508/TKY200905080061.html

 世界保健機関(WHO)が5月に予定していた臓器の渡航移植を規制する決議の採択を先送りしたことについて、舛添厚生労働相は8日の閣議後会見で「WHOは新型インフルエンザの対応で精いっぱいなので、やむを得ないかなと思う。ただ、日本の国会は国会できちんと審議すべきだ」と述べ、臓器移植法の改正論議を先送りすべきではないとの考えを示した。さらに「一国会議員の立場」と断ったうえで「一日も早く議員のみんなで議論をして、臓器移植の手法などについて、国民のコンセンサスを得るということが重要だ」と話した。
 一方、自民党の細田博之幹事長は8日の記者会見で、臓器移植法改正について「今国会で方向・筋道をきちんとつけて、日本人が海外からの臓器移植に過大に頼ることを避ける措置をとっておく必要がある」と語り、WHOの決定にかかわらず、改正案の成立を目指すべきだとの考えを示した。

 
 
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■臓器移植、日弁連会長が声明 (2009年5月8日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090508-OYT8T00256.htm

 日本弁護士連合会の宮崎誠会長は7日、国会で審議されている臓器移植法改正案に関する「会長声明」を発表した。国会に提出されている3案のうち、「脳死は人の死」として15歳未満の臓器提供を可能にする「A案」に反対を表明している。
 与野党の有志議員が今国会に提出予定の「新案(D案)」についても、脳死の定義は現行法のまま15歳未満の臓器提供を可能としているとして、反対としている。両案に反対する理由として、「本人の自己決定を否定する改正は認められない」「子供の脳死診断には(技術的に)限界がある」などとしている。支持する法案は示さず、「脳死の概念について再検討すべきだ」と提案している。

 
 
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■臓器移植指針、1年間先送り (2009年5月8日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090508-OYT8T00271.htm

WHO 新インフル対応優先

 【ジュネーブ=大内佐紀】今月18日に開会する世界保健機関(WHO)総会で予定されていた、海外に渡航しての臓器移植の自粛を求める新指針の採択は、2010年の総会まで1年先送りされることが決まった。
 外交筋によると、WHO事務局は新型インフルエンザへの対応が急務となっていることに伴い、10日間の総会日程を5日間に短縮する方針。事務局が7日各国に提示した議題から、当初含まれていた臓器移植問題が削除された。
 日本の臓器移植法は臓器を提供できる年齢を15歳以上と定めており、海外でしか移植を受けられない小さな子供が多い。WHOの新指針が発効すると、子供が移植を受ける機会がなくなるため、年齢制限緩和に向けた同法改正案が国会で検討されている。WHOの指針採択が先送りされることで、国会審議に影響が出る可能性がある。

 
 
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■臓器移植法、新改正案12日提出 (2009年5月8日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090508-OYT8T00636.htm

 衆院厚生労働委員会の与野党筆頭理事である自民党の鴨下一郎・前環境相、民主党の藤村修衆院議員ら両党有志議員は8日、新たな臓器移植法改正案について、12日の国会提出を目指すことで合意した。同日までに両党の党内手続きを終えたいとしている。公明党は加わらない見通しだ。
 有志議員が8日まとめた「法案概要」には、〈1〉現在の意思表示カードに加え、臓器提供の意思を運転免許証や保険証に記載できるようにする〈2〉施行日は公布から1年後とする〈3〉3年後の見直しを行う――――などを新たに盛りこんだ。

与野党から採決求める声

 世界保健機関(WHO)が海外に渡航しての臓器移植の自粛を求める新指針採択を先送りする方針を決めたことについて、与野党からは8日午前、WHOの方針とは関係なく今国会で臓器移植法改正案を採決すべきだとの意見が相次いだ。一方で、採決への慎重論が勢いを増すことを懸念する声も出た。
 自民党の細田幹事長は記者会見で、「今国会で筋道をきちんとつけ、日本人が海外からの臓器移植に過大に頼ることを避ける措置を取る必要がある」と述べた。
 公明党の太田代表も記者会見で、「この国会で結論を出すことが大事だ」と強調。同改正案を審議する衆院厚生労働委員会の民主党筆頭理事を務める藤村修衆院議員も「結論を出さないわけにはいかない」と語った。
 ただ、同委の自民党筆頭理事の鴨下一郎・前環境相は、「今国会で採決できるように努力したいが、(採決に)反対している人には、多少影響が出るかもわからない」との見方を示した。
 国会では、WHOが今月中に新指針を採択するとの判断から、臓器移植法改正案採決の機運が高まっていた。



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■WHO:「移植指針」先送り インフル対策優先(2009年5月8日 東京朝刊) 毎日新聞

http://mainichi.jp/universalon/clipping/archive/news/2009/05/08/20090508ddm001040022000c.html

 【ジュネーブ澤田克己】世界保健機関(WHO)は7日、新型インフルエンザ対策を優先させるため、18日から27日まで予定されていた今年の総会日程を22日までの5日間に短縮することを決めた。WHO関係者が明らかにした。
 予算やインフルエンザ対策など最低限の内容に絞られる見込みで、総会で予定されていた国内での臓器移植拡大を求めるガイドラインの採択は来年の総会に先送りされる方向となった。
 渡航移植をめぐっては、国際移植学会が昨年5月、自国外での臓器移植の自粛を求める「イスタンブール宣言」を発表した。これまで日本人患者を受け入れていた米国やドイツの病院から、受け入れを断られるケースが報告されている。

 ◇法改正案目指す国会論議影響も

 WHOが海外での臓器移植自粛を求める指針決定を1年先送りしたことは、日本の臓器移植法改正案の議論にも影響しそうだ。今国会で同改正案成立を目指す動きが進んでいるのは、数カ月以内に行われる衆院選で議員の顔ぶれが変われば、一から議論し直さなくてはならなくなる上、今月WHOの指針が決まれば、海外で移植を受けるのが困難になりそうというのが理由だ。
 しかし、WHOの力点は臓器の不正売買防止にあり、指針が渡航移植をどこまで制限するかははっきりしない。修正法案づくりをリードした自民党の鴨下一郎衆院議員は、「海外での移植をやめようという方向性が変わったわけではない」と指摘する。
 各議員の死生観を問われる重いテーマだけに、拙速な審議を戒める声も根強く残る。今後、WHOに合わせ、結論を先送りする動きが出てくる可能性もある。【鈴木直】

 
 
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■臓器移植法改正、有志議員「今国会で」(2009年5月9日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090509-OYT8T00306.htm

 臓器移植法の新たな改正案が12日に国会提出される見通しとなった。世界保健機関(WHO)は、海外に渡航して臓器を移植することを自粛するよう求める新指針の採択を1年先送りすることを決めたが、移植対象の拡大を目指す自民、民主両党の有志議員は今国会で日本の対応を決着させる必要があると判断した。
 新たな改正案の準備を進めているのは、衆院厚生労働委員会の与野党筆頭理事である自民党の鴨下一郎・前環境相と民主党の藤村修衆院議員らだ。藤村氏が8日に明らかにした「法案概要」では、臓器を提供できる年齢の制限(現在は15歳以上)を撤廃するのに際し、15歳未満の臓器提供に「遺族による虐待の疑いがない」という条件を付けた。このほか、〈1〉臓器提供の意思を運転免許証や健康保険証に記載することができる〈2〉公布から1年後に施行する〈3〉施行3年後に見直す――などの内容を盛り込んだ。この新案を含め、四つの改正案が国会で審議される。
 今回の改正論議は、WHOの新指針採択を前提に、日本国内で乳幼児からの臓器提供に道を開くことを目指して始まった。このため、WHOの採択先送りが、日本での改正論議に水を差すという見方も出ている。
 ただ、与野党では「今国会で採決しなければ、衆院解散で廃案になってしまう。来年になれば、再び機運が盛り上がるかどうかわからない」という声が強い。新案と同じく年齢制限撤廃を目指すA案の提出者である自民党の中山太郎・元外相は8日、「1年延ばせば、(移植ができずに)死ぬ人が出てくる。そこはきちんとしないといけない」と述べた。

 
 
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■移植法新改正案を了承(2009年5月14日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090514-OYT8T00654.htm

 自民党の厚生労働部会、医療委員会などの合同会議が14日午前、党本部で開かれ、臓器移植法改正をめぐり自民、民主両党の有志が進めていた新たな改正案について、国会提出を了承した。
 提出は15日になる予定で、臓器移植法改正案は計4案となる。新案は現行法と同じく臓器提供時のみ脳死を人の死とし、臓器提供の年齢制限を撤廃する。ただ15歳未満は家族の同意に加えて、第三者による審査を医療機関に義務づける内容だ。

 
 
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■臓器移植法改正 有志議員、衆院に「D案」提出(2009年5月15日23時15分) 朝日新聞

http://www.asahi.com/politics/update/0515/TKY200905150310.html

 自民・民主両党の有志議員が15日、新たな臓器移植法改正案(D案)を衆議院に提出した。提出者は自民党の根本匠、民主党の笠浩史の両衆院議員ら7人。衆院厚生労働委員会の自民党筆頭理事の鴨下一郎氏、民主党筆頭理事の藤村修氏ら自公民の衆院議員26人が賛成者に名を連ねた。
 D案は、脳死になった15歳以上の人からの臓器提供については、現行法と同様、本人が書面で提供の意思を示してある場合に可能とし、現在は認められていない15歳未満は、家族の承諾と第三者によるチェックを条件に可能とする。改正案は四つめ。

 
 
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■臓器移植、第4案提出(2009年5月16日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090516-OYT8T00268.htm

提供、15歳未満は審査

図:臓器移植法と改正4法案の違い(略)

 臓器移植法の改正をめぐり、自民、民主両党の有志は15日、現行法の骨格を維持する一方で臓器提供の年齢制限を撤廃する新たな改正案を衆院に提出した。これで国会に提出された改正案は計4案。与党は来週後半にも衆院厚生労働委員会で審議をスタートさせたい考えだ。
 新案はD案と呼ばれ、現行法と同じく、「臓器提供する場合に限り脳死は人の死」とし、臓器提供の年齢制限を撤廃することが柱。ただ提供時の要件として、15歳未満は家族の同意に加え、第三者による審査を医療機関に義務づけることを盛り込んだ。
 新案は衆院厚労委の与野党筆頭理事である自民党の鴨下一郎・前環境相と民主党の藤村修衆院議員が主導してきており、両氏は今国会で成立させたい考えだ。

 
 
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■臓器移植法改正めぐり討論会 初の4案そろい踏み(2009年5月19日23時15分) 朝日新聞

http://www.asahi.com/politics/update/0519/TKY200905190401.html

 臓器移植法改正のA〜D案の提出者が初めて一堂に会した討論会が19日、国会内で開かれた。政策シンクタンク東京財団(加藤秀樹会長)の主催。
 A案の冨岡勉議員(自民)は「日本では脳死移植が進まないため生体間移植が行われている」と主張。「脳死は人の死」と位置づけ、本人の意思表示がなくても、家族の同意で提供できるよう求めた。
 これに対し、D案の岡本充功議員(民主)は「死の判定を促進し、移植を進めるのは筋が違う」とし、現行法通り、本人意思を臓器提供の前提にすべきだと主張した。
 B案の石井啓一議員(公明)、C案の阿部知子議員(社民)は、虐待児からの臓器提供を見抜く仕組みや小児の脳死判定基準が整っていないことを指摘。子どもからの臓器提供の解禁には十分な議論が必要との考えを示した。



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■急いでいいのか(2009年5月20日 東京朝刊) 毎日新聞

http://mainichi.jp/select/seiji/tsumuji/news/20090520ddm005070181000c.html

 臓器移植法改正案の今国会成立を目指し、与野党が審議を始めた。最も積極的な勢力は、法律で脳死を一律に人の死と定め、臓器提供者の増加につなげることを望んでいる。
 現行法は、生前に臓器提供の意思を示していた人の脳死に限り死とみなし、15歳未満からの臓器摘出を禁じている。推進派はこれでは提供は増えないし、小児向けの臓器が手に入らず、幼い命を救えないと訴える。
 自分の中で、これほど判断が揺れる取材対象はない。今の「死」の定義には違和感を覚えるし、救える命を救えない家族の絶望感、医師の無念を思うと、胸がふさがれる。
 一方で、「提供者がわが子なら」とも考えてしまう。まだ温かい体が刻まれることに耐えられるだろうか。97年の法施行前、8歳の長男を交通事故で亡くした母親は、腎臓をほしいと言われ、錯乱した。「断らなかったら、一生自責の念は消えなかった」
 定まらぬ世論を横目に、国会は法改正を10年近く放置してきた。突如動き出した背景には、迫る衆院選で同志が減ったら……という推進派の懸念もある。このままだと多くの議員は、にわか勉強で採決に臨むことになる。
 近しい人の死を時間をかけて受け入れる文化の日本で、本当に臓器提供が根付くのか。疲弊した医療現場で、早期に治療を打ち切る流れが広がらないか。死生観にかかわる議論は、もっと慎重であっていい。【吉田啓志】



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■臓器移植法改正案:年齢制限撤廃案、衆院委審議入り(2009年5月22日 東京夕刊) 毎日新聞

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090522dde007010036000c.html

 衆院厚生労働委員会は22日、臓器移植法の第4の改正案(D案)の趣旨説明を行い、審議入りした。D案は脳死の定義など現行法の枠組みを維持したうえで、臓器摘出の年齢制限を撤廃し、15歳未満の子供の臓器移植を可能とする。提出者の根本匠衆院議員は「小児の臓器移植を可能にする一方、脳死を人の死とすることに慎重な人の心情にも配慮する道を探った」などと提出理由を説明した。
 27日の同委員会で、既に審議入りしているA〜C3案とともに質疑を行い、実質審議に入る。【鈴木直】



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■臓器移植法改正案:「脳死」「子ども」主張対立 法案提出者が討論会(2009年5月26日 東京朝刊) 毎日新聞

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090526ddm013010102000c.html

 議員立法による臓器移植法改正案が計4案出そろい=表、国会への法案提出者が一堂に会した討論会(東京財団主催)が19日、東京都内で開かれた。出席者は同法の何らかの見直しが必要との認識では一致したものの、具体的な改正点では主張が大きく対立し、合意形成の難しさも浮き彫りになった。討論会の模様を紹介する。【江口一】

 ◇国際基準か社会的合意か/虐待どう見抜く

 出席したのは衆院議員で各案提出者の冨岡勉(自民)=A案▽石井啓一(公明)=B案▽阿部知子(社民)=C案▽岡本充功(民主)=D案=の各氏。
 4氏は各改正案の背景や狙いを紹介したが、脳死の法的な位置づけと、14歳以下の脳死者からの臓器摘出を認め、小児への移植に道を開くべきか否か、の2点で特に意見が割れた。

 ■死の定義

 脳死の位置づけでは、移植の実施にかかわらず法的な人の死と定義するA案と、本人が生前に臓器提供の意思表示をしている場合に限定して法的な死とする現行法を基本的に踏襲するB、C、D各案で立場が大きく異なった。
 A案の冨岡氏は「脳死から意識が戻り社会復帰した例はない。脳死を人の死と認めていないのは日本だけ」として、脳死を法的な人の死とすべきだと主張。改正されれば本人や家族の意思に反して脳死判定など移植手続きが進められるのでは、との懸念には「ありえない」と反論した。
 これに対し石井、阿部、岡本の3氏は、いずれも脳死を一律に人の死とすることに慎重な考えを示した。
 B案の石井氏は「脳死を人の死とする社会的な合意は得られていない。人の死は文化的、宗教的な土壌で異なり、国際的な基準に合わせる必要はない」と述べた。C案の阿部氏は「救急搬送に要した時間など、これまでの脳死移植の検証が不十分。また、脳死にはまだ科学的に追究すべき点がある」として、脳死判定の厳格化を訴えた。D案の岡本氏は「脳死だから治療をしても仕方がないなどと、本人や家族の意思に反する死としてはいけない」と話した。

 ■小児の場合

 小児の脳死移植では、脳死判定そのものの難しさと、虐待による脳死移植を防げるか、などが焦点だ。
 B案の石井氏は日本小児科学会の調査を引用し、「親が虐待の事実を隠せば、医師が見抜くのは難しい。また小児の脳死者は長期間生存することがあり、医学的に脳死判断が可能とする医師は3割にとどまる」などと紹介。提供年齢を12歳以上とした上で、被虐待児からの臓器摘出の防止対策や脳死判定基準の検証などの基盤を整え、段階的に法整備すべきだとした。
 提供年齢の制限は撤廃するとしたD案の岡本氏も虐待を懸念し、14歳以下の臓器提供では家族の同意に加え、院内の医師による第三者委員会の審査が必須と主張した。
 C案の阿部氏は「日本の小児の救急医療は(救命率などの)成績がきわめて悪い。小さな心臓を持った子が死ななければならない厳しい状況を何とかすべきだ」と小児医療自体の改善を訴えた。
 一方、A案の冨岡氏は「世論調査で国民の7割が14歳以下の臓器提供を容認している。脳死判定では6人以上の医師が厳しくチェックするため、虐待は見過ごされない」と強調した。

 ■件数増えるか

 法改正を目指す機運の背景には、脳死移植件数が99年の第1例以降、計81例にとどまる実態もある。だが、この日は「法改正で移植が劇的に増えるわけではない」との意見が続出した。
 A案の冨岡氏は「移植が増えない問題点は、法改正とは別にある」として脳死判定の煩雑さや国民性を挙げ、地域ごとに専門医による脳死判定チームを置くことなどの支援策を提案した。D案の岡本氏も「脳死者が全員、臓器を提供しても移植に必要な臓器は足りないという現実への理解も必要だ」と述べた。
 また、C案の阿部氏は、移植医療全体を見直すことを要請。法的な規制がない生体移植についてもルールを法律に盛り込むよう主張した。

 
 
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■臓器移植、A案とD案を軸に 党議拘束かけず本格審議(2009年5月27日14時44分) 朝日新聞

http://www.asahi.com/health/news/TKY200905270174.html
図:臓器移植法改正案A〜D案の違い(略)

 臓器移植法改正をめぐり、A〜D案の本格審議が27日、衆院厚生労働委員会で始まった。移植を待つ患者団体は臓器提供の条件を大幅に緩和するA案での改正を求めるが、「脳死は人の死」と法律で一律に規定することに反対論も根強い。審議では、ともに15歳未満の臓器提供に道を開くA案とD案を比べる質問が目立った。多くの政党が党議拘束をかけない見通しで、議員それぞれが「人の死」と向き合う。
 改正案の実質審議は、A、B両案が06年3月に衆院に提出されて以来初めて。渡航移植への国際的な批判の高まりを受け、法改正の機運が盛り上がったためだ。委員会では16人の議員が4案の提案者らに質問。答弁者席には4案の提案者が超党派で座った。
 A案提案者の河野太郎氏(自民)は、原則「脳死は人の死」とすることに「世論調査でも理解は広まっている。法的脳死判定を拒否する権利も認めている」と主張した。
 しかし、臓器の提供側に回る可能性がある交通事故被害者らの間には、救命医療がおろそかになることへの警戒感がある。D案提案者の根本匠氏(自民)は「脳死を人の死と法律で規定するだけの社会的な合意はない」と指摘。現行法の死の定義を維持するよう求めた。
 提供者本人の意思確認も争点になった。とくに本人の意思が不明な場合でも家族の承諾で臓器提供をできるようにするA案には、「拒否の意思が(臓器提供)後にわかったら、殺人罪も起こりうる」との質問も出た。河野氏は「拒否の意思表示を事前登録できるようにする」と答えるにとどまった。
 本人が法的に有効な意思表示ができない15歳未満は家族の代諾とするD案については「子どもにも意思決定権はある。親が気持ちを忖度(そんたく)し、意思を示す」(自民・上川陽子氏)との説明があった。
 一方、B、C両案の提案者は、提供者本人の意思確認や脳死判定の厳密化などの重要性を強調。「臓器移植を定着させていこうと思えば、さらに厳密な脳死判定を行っていくのが時代の流れだ」(社民・阿部知子氏)などと答弁した。(南彰)

 
 
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■臓器移植法改正案、審議は継続へ…議員間で議論かみ合わず(2009年5月27日19時38分) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090527-OYT1T00790.htm

 衆院厚生労働委員会は27日、臓器移植法の改正4案について、集中審議を行った。
 当初は、この日で審議を終了し、早ければ6月上旬にも衆院本会議で採決する見通しだった。しかし、15歳未満の子供からの臓器提供解禁などについて議論がかみ合わず、改めて審議することが決まった。
 4案は2006年3月以降に順次提出されたが、議員同士による本格審議は今回が初めて。A〜Dの各案の提出者に対し、議員16人が計4時間をかけて質疑した。
 衆院本会議の採決は各案に対して投票し、いずれの案も過半数をとれない場合、すべて廃案になる。政党の多くは党議拘束をかけない方針のため、各案の支持者獲得をめざす動きが活発化しており、同委員会理事会は追加審議が欠かせないと判断した。



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■臓器移植法改正案:実質審議入り 衆院厚労委(2009年5月27日 19時39分) 毎日新聞

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090528k0000m010049000c.html

 衆院厚生労働委員会は27日、A〜Dの4案が議員立法で提出されている臓器移植法改正案について、実質審議に入った。各案の提出者に対し、与野党各8人が15分ずつ質疑をし、▽「脳死は人の死」か否か▽臓器提供に関する本人の意思確認の在り方−−などを中心に論戦を繰り広げた。
 4案のうち、A案提出者の河野太郎氏(自民)らは、「脳死を一律に人の死」とするA案について、「世論調査の結果などから理解は得られている」などと主張。これに対し、「社会的合意が形成されているか疑問だ」との反論もあった。
 法改正を巡る焦点は、現行法が禁じる15歳未満からの臓器摘出を認めるか否かだ。本人が生前に意思表示をしていなくとも、家族の承諾などがあれば摘出を可能とするD案提出者の根本匠氏(同)らは、「親が子供の気持ちをそんたくして意思表示することは可能だ」と説明した。
 移植推進派は今国会での法改正を目指しているが、4案とも過半数を得られず、すべて廃案となる可能性もある。【鈴木直】

 
 
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■臓器移植法の審議を続行…衆院委(2009年5月28日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090528-OYT8T00297.htm

 衆院厚生労働委員会は27日、臓器移植法の改正4法案について、集中審議を行った。当初は、この日で審議を終了し、早ければ6月上旬にも衆院本会議で採決する見通しだった。
 しかし、15歳未満の子供からの臓器提供解禁などについて議論がかみ合わず、改めて審議することが決まった。
 4案は2006年3月以降に順次提出されたが、議員同士による本格審議は今回が初。A〜Dの各案の提出者に対し、議員16人が計4時間をかけて質疑した。
 衆院本会議の採決は各案に対して投票し、いずれの案も過半数をとれない場合、すべて廃案になる。政党の多くは党議拘束をかけない方針のため、各案の支持者獲得をめざす動きが活発化しており、同委員会理事会は追加審議が欠かせないと判断した。

脳死は「人の死」か 年齢制限は必要か

 臓器移植法改正案の質疑で、意見の違いが浮き彫りになったのは、脳死の位置づけ、臓器を提供できる年齢などについてだった。

 【脳死の位置づけ】

 現行法では、本人が臓器提供の意思を書面で残し、家族が同意した場合のみ、脳死判定され、脳死が確定する。これに対し、A案は脳死は一律に「人の死」とする内容だ。
 川内博史議員(民主)は、「A案が成立すれば、移植するしないに関係なく人の死となるのでは」と追及した。これに対し、A案提出者の河野太郎議員(自民)は「臓器提供を拒否すれば法的脳死判定は行われないため、法律の対象外」と述べ、これまで通り、「心臓死」をもって死亡宣告されることを強調した。

 【臓器の提供年齢】

 現行法は15歳以上の臓器提供のみを認めている。B案は12歳以上の臓器提供を認める内容だが、高橋千鶴子議員(共産)らはその根拠をただした。B案提出者の石井啓一議員(公明)は、「中学入学直前の子供ならば自己決定できると判断した」と回答した。
 年齢制限を撤廃するD案は15歳以上について、民法上遺言が作成できる年齢で、現行法と同じく書面での意思表示が必要とした。一方、15歳未満は家族の同意と第三者による審査で提供できるとしている。D案提出者の根本匠議員(自民)は「子供にも意思があり、それを尊重する必要がある。子供の気持ちを一番わかっているのは親だ」と述べた。

 【小児の臓器提供】

 古屋範子議員(公明)は、多くの子供が海外で移植を受け、国際社会から批判を受けている状況について質問した。西川京子議員(自民)は「これまでは海外の善意で実現してきたが、世界保健機関(WHO)も(臓器移植の自国内完結を)要請している」とし、15歳未満の提供解禁を訴えた。
 「虐待を受けた子供の臓器提供を防ぐための対応は」という古屋議員の質問には、D案を提出した岡本充功議員(民主)が「少しでも虐待の疑いがあれば第三者による委員会で適正に判断し、臓器提供の手続きは中止する」と説明した。

A案支持を表明…日本医学会

 日本医学会 臓器移植法改正論議を巡り、医学・医療系の107の学会が加盟する日本医学会(高久史麿会長)は27日、脳死を一律に人の死と規定するA案を支持すると表明した。同学会の加盟学会を対象としたアンケートで、回答の7割がA案賛成だったことを受けた。同学会は今月18〜22日、加盟団体にA案に対する賛否を尋ねた。回答した64学会のうち46学会(72%)がA案に賛成を表明。反対はなく、「その他」が13学会(20%)、「保留」が5学会(8%)だった。



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■臓器移植法改正案:4案を比較検討 衆院厚労委、審議入り(2009年5月28日 東京朝刊) 毎日新聞

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090528ddm003010110000c.html

 衆院厚生労働委員会は27日、A〜Dの4案が議員立法で提出されている臓器移植法改正案について、実質審議に入った。各案の提出者に対し、与野党各8人が15分ずつ質疑をし、▽「脳死は人の死」か否か▽臓器提供に関する本人の意思確認の在り方−−などを中心に論戦を繰り広げた。
 4案のうち、A案提出者の河野太郎氏(自民)らは、「脳死を一律に人の死」とするA案について、「世論調査の結果などから理解は得られている」などと主張した。
 法改正を巡る焦点は、15歳未満からの臓器摘出を認めるか否かだ。家族の承諾などがあれば摘出を可能とするD案提出者の根本匠氏(同)らは、「親が子供の気持ちをそんたくして意思表示することは可能だ」と説明した。
 移植推進派は今国会での法改正を目指しているが、4案とも廃案となる可能性もある。【鈴木直】




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■クローズアップ2009:臓器移植法改正案審議 小児移植に慎重論(2009年5月29日 東京朝刊) 毎日新聞

http://mainichi.jp/select/science/news/20090529ddm003010113000c.html

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 ◇脳死判定の困難さ/虐待児の紛れ込み

 脳死臓器移植の拡大や適正化を目指す臓器移植法の改正4法案(いずれも議員立法)が、実質審議入りした。今年4月末現在で1万2240人に上る移植待機患者やその家族は、法改正で臓器の提供が増えることを期待する。一方、子どもの臓器提供に道を開く法改正には、慎重論が根強く、臓器移植を支える医療体制自体の不備を指摘する声もある。さまざまな課題に加え、議員一人一人の死生観に違いもあるだけに、4法案を巡る国会審議の行方は流動的だ。
 「子どもが海外で移植を受け、批判を受けている」「世界保健機関(WHO)も(自国内での移植拡大を)求めている」。27日、衆院厚生労働委員会で始まった審議では、改正法案の焦点の一つである小児脳死移植についても、議論が交わされた。重い心臓病などを抱え、海外で移植手術を受けるしか手だてがない子どもも多い。このため4案のうち対象を14歳以下に広げるA案などの支持者は「日本人を日本人が救える国に」と訴える。
 ところが、子どもの臓器提供には課題が多い。田中英高・大阪医科大准教授(小児科学)は(1)子どもの脳死判定は難しく、心停止まで時間がかかったり、後で自発呼吸が戻る例もある(2)保護者らによる虐待で脳死になった子どもが紛れ込む恐れがある(3)子どもの同意なく実施することは「子どもの権利条約」に反する可能性がある−−などの問題点を挙げる。
 大阪府枚方市の市立枚方市民病院などが、長い脳死状態の続いた国内の子どもを調べたところ、心停止まで43〜335日の期間があり、親が子の死を受け入れるまで100日以上を要した。同病院の田辺卓也・小児科主任部長は「脳死から心停止までの時間は親子にとって無意味ではない。多くの小児科医が年齢制限撤廃に抵抗を感じている」と話す。
 また、08年に日本小児救急医学会が公表した調査では、虐待を受けた子どもを「適正に診断できる」と答えた医師は12%にとどまり、「できない」が30%、「わからない」が50%だった。虐待した親が臓器提供に同意する恐れも指摘されている。日本小児科学会は、法改正にあたり、小児救急体制、提供者と患者の人権保護、家族の心のケアなどの整備を求めている。【関東晋慈、曽根田和久】

 ◇提供件数伸びぬ背景、医療体制の不備

 脳死臓器移植の件数が伸びない背景に、医療体制の不備を挙げる専門家も多い。日本救急医学会理事の有賀徹・昭和大教授(救急医学)は「提供者の家族へ説明する負担や、判定作業に医師が長時間拘束されるなど、現場の負担が大きい。法改正されても簡単には提供数が増えないのではないか」と話す。
 有賀教授らは06年度、臓器提供病院などを対象に脳死と考えられる症例が、脳死判定を経て臓器提供につながらなかった原因を調査した。その結果、163施設が「脳死判定をしていない」と回答。そのうち約3割が「時間がかかる」、約2割が「(家族への説明など)面倒な仕事になりそう」と理由を挙げた。
 全国的な医師不足の中、特に脳死患者の発生が多い救急現場の人手不足は深刻だ。法的脳死判定では、医師が2日近くかかりっきりになるため、一般の救急患者を断るケースもある。有賀教授は「提供数を増やすには、脳死判定を支援する医師の派遣体制や費用の手当てなどが必要」と語る。
 臓器移植に対する国民の意識の低さも長年指摘されてきた。厚労省研究班で国内の渡航移植の実態を調べた小林英司・自治医科大客員教授は「移植について学校で教える機会が少なく、家庭でも話題に上らないことが、移植への関心が低い大きな理由」と指摘する。【河内敏康、永山悦子】

 ◇審議の行方、流動的 採決順の調整難航も

 4法案はいずれもまだ成立の見通しは立っていない。自民、民主、公明各党は法案の一本化はせず、党議拘束もかけていない。衆院厚労委での採決も避け、本会議でいきなり採決する方針だ。ただ、どの案が衆院を通過しても参院で修正される可能性もあり、再び衆院での審議が必要となる。移植を巡る議論は、死生観にかかわるだけに、推進派、慎重派とも「拙速は避けるべきだ」との認識では一致しており、成立までに1カ月以上かける必要があるとの意見が強まっている。
 審議は移植推進派が主導しており、採決方法も4案への賛否を一つずつ順番に問う手法が検討されている。4案を一度に採決すると、各案とも過半数を取れず、すべて廃案となる可能性が高いためだ。
 順次採決は最初に過半数を得た法案が可決され、他は廃案となる。もちろん、4案とも過半数に達しなければすべて廃案となるが、4案すべてに賛成することも可能な点に違和感を持つ議員もいる。採決順が結果に影響を与えるという問題もある。4案の中で最も要件が緩和され、移植数が増加するとみられるA案が最初に採決され、否決されたとする。その場合、A案を支持した議員の中には「次善の策」として、A案の次に移植が増えるとされるD案の採決時には賛成に回る人もいる見通しだ。
 だが、A案より臓器摘出要件が厳しいD案を先に採決すれば、A案支持の議員はD案に反対する可能性が高い。採決が後になった方が有利になる側面もあり、採決順に関する意見調整が難航する可能性もある。【鈴木直】

 
 
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■[解説スペシャル]臓器移植、描けぬ未来(2009年5月30日) 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090530-OYT8T00297.htm

法改正、議論かみ合わず

 図:現行の臓器移植法と改正4法案の違い、脳死と植物状態の違い(略)

 臓器移植法改正案の本格審議が、衆院厚生労働委員会で始まった。
 当初、1回きりで終わらせる予定だった27日の審議では、反対のための空論や誤解が多く、議論がかみ合わないため、改めて週明け以降に審議することになった。(科学部・瀬畠義孝 科学部・日向邦夫)

誤解

 A案からD案まで4案ある改正法案の中で、A案は最も臓器提供数の増加が見込まれ、患者団体や医学・医療系の107学会が加盟する日本医学会などが支持している。脳死を一律に「人の死」とし、現行法が禁じる15歳未満からの臓器提供を可能にする内容だ。

 「A案では患者が脳死と診断されると、延命治療が中止される懸念がある」

 衆院議員会館で今月19日に開かれた同法改正の勉強会で、石井啓一議員(公明)はこう訴えた。阿部知子議員(社民)ら、現行法をより厳しくするC案提出者も、「A案では脳死と診断されると、臓器提供を拒めないのでは」「健康保険の適用を打ち切られるのでは」と主張する。
 しかし、A案を提出した河野太郎議員(自民)は27日の審議で、「それは誤解。A案でも脳死を死と受け入れられない人は脳死判定を拒否できる」と強調した。
 衆院法制局は「現行法を含め、各案とも臓器移植に関する医療行為にしか効力が及ばない」との見解。つまり、臓器提供を希望しない人が脳死と診断されても、臓器提供は行われないし、治療は継続される。医療費が自己負担になるわけでもない。

長期脳死

 C案提出者など慎重派は、年齢制限解禁に反対するために、小児に特有の現象を持ち出した。
 一つは「長期脳死」という現象だ。脳死になると通常は、数日で心臓が停止する。しかし、小児の場合、脳死状態と診断された後、1か月以上も心臓が動き続ける場合がある。
 こうした現象はA案を支持する日本移植学会も認めているが、同学会の寺岡慧理事長は「いくら心臓が動き続けても、脳機能は二度と回復せず、必ず心臓も止まる」と強調している。
 「脳死診断後に脳機能が回復した例がある」という症例もあげる。しかし、世界脳神経外科学会副会長を務める神野哲夫・藤田保健衛生大名誉教授は「これは脳死というより植物状態。脳外科医の学会で、脳死と診断された子供が回復した例は、1例も聞いたことがない」と言い切る。小児の場合、大人の法的脳死判定で義務づけている無呼吸テストが実施されないことが多い上、時間を空けて2回必要な診断を省く場合も多く、不完全な診断になっている可能性がある。

小児の意思

 図:臓器移植法改正をめぐるその他の論点(略)

 現行法は、15歳未満の子供は臓器を提供したり、拒否したりする意思表示能力がないとして、臓器提供を禁じている。民法の遺言能力規定を準用したからだ。
 これに対しA案は、15歳未満でも家族が同意すれば提供可能とする内容。B案は本人の意思表示など臓器提供の条件は現行法のまま、提供年齢を15歳以上から12歳以上に引き下げる。小児脳死移植の必要性は認めつつ、社会合意を得るには段階的な年齢引き下げが不可欠と判断した。
 D案は、今月15日になって提出された各案の折衷案。家族の同意に加えて第三者の審査を条件とした。
 海外では、本人の生前の意思が不明な場合、家族の同意があれば、いずれの年齢でも提供できるとする方式が主流だ。世界保健機関(WHO)が推奨し、米国や英国、韓国など多くの国が導入している。スペインやフランスなどでは、本人が生前に提供拒否の意思を示していない限り、承諾とみなして提供できる方式をとっている。
 C案の提出者などは「子供が『提供拒否』の意思を書面で残せる仕組みが整っていない」と批判する。しかし、数多くの患者が移植ができずに亡くなり、ごく一部の患者が海外に渡っている。
 こうした現状を見据えた冷静な議論も必要ではないか。C案や現行法では、臓器を提供したい子供や家族の意思は生かされないからだ。

 臓器移植法 脳死臓器移植に道を開くため、1997年に施行された法律。臓器提供の条件として、本人の書面による意思表示と家族の同意を求めている。臓器提供ができる年齢も15歳以上に限定したため、国内での提供件数は81件と低迷。海外に依存する状態が続いている。
 法改正のきっかけは、世界保健機関(WHO)が今年1月、「臓器移植の自国内完結」を求める新指針の採択方針を表明したことだ。採択は1年延期されたが、海外でも臓器不足は深刻で、欧州や豪州などは日本人患者の受け入れをすでにやめている。
 6月初旬にも予定されている衆院本会議での採決は、政党の多くが党議拘束を外す方針。それぞれの改正案に対して投票され、いずれの案も過半数に達しない場合、すべて廃案になる。




*このファイルは生存学創成拠点の活動の一環として作成されています(→計画:T)。

*作成:伊藤 未弥(立命館大学大学院社会学研究科・2009入学)
UP:20091013 REV:
臓器移植  ◇臓器移植・脳死 2009
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