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精神障害・精神障害者 2001年

精神障害・精神障害者



◆2001/03/08 第2回法務省・厚生労働省合同検討会:「重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇決定及び処遇システムの在り方などについて」の議事録
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/0103/txt/s0308-2.txt
◆2001/06締切
 世界精神保健連盟世界大会への参加費用援助の募集
◆2001/06/08 全国精神障害者家族会連合会「大教大池田小児童殺傷事件の報道について」
 http://www.zenkaren.or.jp/zenkaren/topic/ikeda_top.htm
◆2001/06/14 学校乱入殺傷:大阪のNPOに精神障害者への中傷電話
 『毎日新聞』
◆2001/06/15〜06/21 稲野慎「開放処遇−精神医療の現場から」
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/→「精神医療」で検索
◆大阪精神障害者連絡会(愛称・ぼちぼちクラブ) 20010616
 「大阪教育大付属池田小学校事件報道による二次被害を受けている精神障害者の訴えたいこと」
◆2001/06/16 『産経新聞』朝刊
 インタビュー掲載
◆2001/06/16 <学校殺傷事件>精神障害者の犯罪 米国の場合
 『毎日新聞ニュース』2001-06-16
◆2001/06/16 「精神障害者連絡会:声明を発表 殺傷事件報道で差別意識拡大」
 『毎日』2001-06-16
◆2001/06/17 特定精神病院:設置の効果を疑問視する声も 賛否の論議起こる
 『毎日新聞』2001-06-17
◆2001/06/17 精神神経学会:学校乱入殺傷事件受け緊急理事会 提言まとめへ
 『毎日新聞』2001-06-17
◆2001/06/18 全国精神障害者家族会連合会 20010618
 「小学校児童殺傷事件報道について」
 http://www.zenkaren.or.jp/zenkaren/topic/ikeda_top.htm
 小学校殺傷事件:報道に懸念表明 精神障害者家族団体
 『毎日新聞』2001年6月19日
◆2001/06/22 触法精神障害者の処遇「特別立法が妥当」 厚労相
 『朝日新聞』等
◆2001/06/24 日本精神神経学会精神医療と法に関する委員会 20010624
  「大阪児童殺傷事件に関連して、重大な犯罪を犯した精神障害者対策に関する見解」
◆2001/06/25 『季刊福祉労働』91号
 特集:精神医療は変わるか
◆2001/06/25 日本精神神経学会 20010625
 「「大阪児童殺傷事件」に関する理事会見解」
◆2001/06/25 重大犯罪精神障害処遇の新法に反対 精神神経学会理事会見解
 『朝日新聞』2001-06-25
◆2001/06/27 精神科医療懇話会
 「池田小学校事件および特別立法に対する緊急声明」
◆2001/06/28 重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇に関わる政府・与党の新法試案
 『毎日新聞』20010629他
◆2001/06/29 精神科七者懇談会
 「重大な犯罪を犯した精神障害者の施策に関する緊急声明」(↓)
◆2001/06/29 「精神障害者処遇:新法試案 「隔離強めるのでは」関係者が懸念」
 『毎日新聞』2001.06.29
◆2001/07/05 「大阪府精神障害者家族会連合会」記者会見
 『日本経済新聞』2001-07-05
◆2001/07/07 精神医療審査会:法律家委員の病院訪問面接、審査件数の1割
 『毎日新聞』2001-07-07
◆2001/07/08 「けいれん伴う電気ショック、閉鎖病棟で常態化 精神医療の草分け 都立松沢病院」
 『朝日新聞』
◆2001/07/13 「電気けいれん療法の使用に関する部会長見解」(↓)
 全国自治体病院協議会 精神病院特別部会部会長 伊藤哲寛
◆2001/07/14 『毎日新聞』
 精神病院の情報公開:厚労省が基準策定へ 「密室」是正図る
◆2001/07/16 『毎日新聞』東京朝刊
 「クローズアップ」 改革論議が減速――精神障害者の犯罪・処遇システム
◆2001/07/17 大阪『読売新聞』夕刊1面
 精神病院への強制入院 20年以上が1万7000人
 制度運用に極端な地域差
◆山本 真理 20010725 「精神科医と死刑執行――日本の精神科医はWPAマドリッド宣言とそのガイドラインを尊重できるか?」
 『精神神経学雑誌』103-7:568-572
◆2001/07/27 「うつ病女性の奨学金、英国政府が取り消し 主治医「留学支障なし」/ 診察せずに「リスクある」 「精神障害へ不当な差別」/抗議受け一転し7か月後支給」
 『読売新聞』大阪2001/07/27:生活面
◆2001/08/06〜10 「法と医のはざま・付属池田小事件」(連載)  『読売新聞』
 (5)入退院の判断 司法関与、揺れる議論(8/10)
      http://www.yomiuri.co.jp/jidou/j20010810_r05.htm
 (4)地域ケア 孤立防ぐ体制整備を(8/9)
      http://www.yomiuri.co.jp/jidou/j20010809_r04.htm
 (3)措置入院 「いつ解除・・・」医師に重圧(8/8)
      http://www.yomiuri.co.jp/jidou/j20010808_r03.htm
 (2)簡易鑑定 短時間の問診、誤診はらむ(8/7)
      http://www.yomiuri.co.jp/jidou/j20010807_r02.htm
 (1)「安易な」不起訴、発端(8/6)
      http://www.yomiuri.co.jp/jidou/j20010806_r01.htm
◆2001/08/20 長野英子「政府及び与党による「触法精神障害者」に対する特別立法立案に抗議するとともに「触法精神障害者」対策議論の中止を訴える」
◆2001/08/22 長野英子「保岡興治(元法務大臣自民党「触法障害者問題」国会議員プロジェクトチームメンバー)議員からの電話に思うこと」
◆2001/08/23 NPO法人精神障害者ピアサポートセンター・こらーるたいとう
 緊急集会パート2
 緊急集会パート2・検証刑法改正保安処分「NO!新法」
◆2001/08/24 朝日新聞
 「精神分裂病の名称変更へ 人格否定、医学的にも不適切」
◆2001/08/31〜「箕面ヶ丘病院」に改善指導・他
 大阪読売
◆大賀 達雄 20010902 「「保安処分」新設攻撃を許すな」
 http://www.alpha-net.ne.jp/users2/chmeguro/opinion/opinion5.htm
◆2001/09/17 山本真理「緊急アピール――特別立法反対の意思表示を与党プロジェクトチームへ」
◆精神障害者の雇用の促進等に関する研究会 2001
 「精神障害者に対する雇用支援施策の充実強化について」
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/0108/h0823-1.html ◆2001/10/18 「ハルシオン」のコンサート 於:大阪府池田市役所大会議室 ◆2001/11/  長野英子「いわゆる「触法精神障害者」への特別立法に反対の声を」
◆2001/11/04-05 大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題 上・下
 [そして今]大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題(上)
 社会復帰阻む閉鎖病棟/長期入院、電話も隠され
01/11/04: 大阪読売・大阪府内版
 [そして今]大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題(下)
 抜き打ち調査、偽装発覚/「外部の目」導入急げ
 01/11/05: 大阪読売・大阪府内版
◆2001/11/11 「海外の精神保健福祉に学ぶ」
 於:久留米市
◆2001/11/16 (社)日本精神神経学会・精神医療と法に関する委員会
 「重大な犯罪を犯した精神障害者に対する、与党PTの新立法制度(仮称治療措置)案に対する見解」
◆2001/12/01 二宮英輔「人と人を繋げることはこんなに楽しい――ある精神障害者の行動と意見」
 第14回目黒精神保健福祉講座
◆長野 英子 2001/12 「法務省厚生労働省への要請葉書の訴え」
入院女性“不審死”届けず 山口の県立精神病院 根拠なく死因「窒息」と診断
 2001/12/31: 大阪読売朝刊2社面


 
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◆2001/06/14 学校乱入殺傷:大阪のNPOに精神障害者への中傷電話
 『毎日新聞』
 http://www.mainichi.co.jp/

 大阪教育大付属池田小の乱入殺傷事件に絡んで、精神障害者や弁護士らでつくるNPO法人「大阪精神医療人権センター」(大阪市)に、精神障害者を中傷する電話がかかっていることが13日、分かった。事務局長の山本深雪さんは「すべての精神障害者を危険視した感情的な反応。精神障害者を敵対視した一部の報道が一因」と批判している。
 事件後、無言電話も含め8件の電話があった。いずれも匿名の男性で、「(精神障害者は)死刑じゃ。静かにしとらんかい」「人殺しばかり助けてどないするんや」などと一方的に話したという。
 精神科医の名越康文さんは「ストレスを抱えた大衆が閉そく感を払しょくするために、マイノリティーへ攻撃的になる歴史は繰り返されている。冷静に状況を見つめてほしい」と話している。
【遠藤哲也】
[毎日新聞6月14日] (2001-06-14-03:01)


 
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◆稲野 慎 2001/06/15〜06/21 「開放処遇−精神医療の現場から」
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/→「精神医療」で検索

◆2001/06/15 【開放処遇−精神医療の現場から @談話室】
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/で「精神医療」で検索すれば、元の記事が出てきます。

 広々とした談話室。患者らのくつろぎの場になっている大きな窓から陽光が差し込み、やわらかな音色の音楽が流れる。5人ほどの男女が、車座になってコーヒーを飲みながら談笑している。囲碁盤に向かう中年の男性、推理小説を読む少女もいる。
 鳥栖市の住宅街の一角にある精神科病院「いぬお病院」の談話室。談笑中の患者らの話の輪に入ってみた。「ここにみんなで集まって話すのが楽しみなんです」。入院者の半数近くが精神分裂病の患者というが、総じておだやかな印象だ。
 正午すぎ、一人の女性患者(68)が、玄関から病棟のなかに小走りで入ってきた。「今日も休む間もないくらい働いてきたよ」。近くの食堂で5年間ほど清掃係をしているという。
 ほかにも、競馬場でアルバイトする男性、大学の講師を務める男性、クラシックコンサートに通う女性……。「急性期」といわれる重症の患者を除いて、昼間の出入りは自由だ。
 病棟に入ってみた。廊下に絵画がいくつもかけられている。通りがかった医者が、若い女性患者に「オッハー」とはやりのあいさつをする。病室は8畳ほどの部屋にベッドが2つだったり、15畳ほどの部屋にベッドが4つだったり。患者らは絵をかいたり、本を読んだりしている。こうした開放処遇用の病室に計150床のベッドがある。
 病棟の2階には、外からかぎがかかるドアで区切られた一角があり、6つの部屋が並ぶ。保護室。「監禁部屋」ともよばれてきた。一角の壁には、虹(にじ)をモチーフにした絵が描かれ、明るい雰囲気が漂う。
 部屋の広さは3、4畳ほど。ベッドのある部屋や布団が床にしかれている部屋もある。大きな窓がある部屋、鉄格子がはめられている部屋などそれぞれ違いがある。
 ある部屋では、疲れ切った表情で「もう私はだめ」などと繰り返す女性患者を、医者や看護婦が聞き役に回って、元気づけていた。
 自殺衝動や暴力衝動などの強い患者は、まずこの保護室に入る。期間は3日から1カ月ほどで患者によって様々。看護婦の付き添いで談話室に出ることもある。症状が安定してくると、開放処遇に移るシステムだ。
 談話室に戻り、「保護室体験」について患者らに尋ねてみた。
 「私は半年前、妄想のために近所の人を威嚇して、急に暴れだしたんです。5人ぐらいの医者や看護婦から保護室に押し込まれた。3週間はご飯ものどに通りませんでした。苦しかった」と男性の患者(45)。
 別の男性患者(21)は「家で5年間ひきこもっていました。3年前のある日、強いストレスのために急に上半身裸のままでまちを歩き出したんです。そのまま保護室に3週間ほど入りました」。
 ある少年患者(17)は保護室から、開放処遇の病室に移ったばかりだった。保護室では暴れたという。うつむき加減で表情に疲れは残るが、落ち着いた表情も見せるようになった。「看護婦さんは優しい。だいぶん気持ちが楽になった」と、とつとつと話す。
 特技のエレキギターの話になると、少年の表情がいくぶん和らいだように見えた。
    ◇
 精神医療施設で、入院患者の外出を認める開放処遇。患者の人権重視や治療効果の面から欧米などで先に導入が進み、国内でも広がりをみせている。一方で、外出中のトラブルなどによって、施設側の外出許可の是非や責任が問われる可能性もはらむ。
 開放処遇の先進的施設の一つといわれる鳥栖市の「いぬお病院」などで、その現場を取材した。

【メモ】
 97年の厚生省(現厚生労働省)の調査では、1日8時間以上自由に病棟から出入りができる処遇を開放処遇、それ以外を閉鎖処遇と分類。任意入院患者で開放処遇を受けていたのは54%だった。精神保健福祉法改正で昨年4月から、任意入院患者は原則として開放処遇にすることになった。
(6/15)

◆2001/06/16 【開放処遇−精神医療の現場から A不安】
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/で「精神医療」で検索すれば、元の記事が出てきます。

 病院の広場。芝生が張られ開放感がある「いぬお病院」の1階にある卓球場のそばを通ったとき、30代の精神分裂病の男性患者が話しかけてきた。10年近く患っているという。
 「3年ほど前、関西の精神病院にいました。閉鎖病棟でした。私自身そのころから、症状はほとんど変わっていないんですが、開放処遇のこの病院は本当にいい。ふつうの人間として扱ってくれますから。性格が明るくなるし、一人で考えこまないから症状も安定するような気がします」
 患者を閉鎖病棟に入れるか、開放病棟に入れるかは、病院の方針に大きく左右される。同病院には、ほかの病院の閉鎖病棟から移ってきた患者が少なくない。
 精神分裂病の原因は解明されていないが、脳内のドーパミンという化学物質が、過剰に出ることに関連があるという説が有力だ。このドーパミンの量をおさえる働きがある薬を、ほとんどの分裂病の患者が日に2、3回は服用している。
 開放処遇は基本的に薬物治療と並行して実施され、患者の対人関係能力をつけ、リラックスした生活環境が症状を安定させる効果があるといわれる。
 犬尾貞文院長は76年の病院設立から開放処遇を積極的に進めてきた。一方で、「患者は精神的なバランスを崩した状態ともいえる。そこに自由な処遇を提供すると、逆に精神の安定を保つのが難しくなることもある」とし、閉鎖処遇の方が逆に「囲まれている」安心感を提供できるケースもあるという。
 ほかの病院の閉鎖病棟に2年前まで入っていたという女性患者(34)はこう打ち明けた。
 「前の病院は閉鎖といっても、看護婦さんがついて2時間ぐらいはラジオ体操で外に出たりすることができました。いろいろと指示があり、生活のリズムもできた。この病院ぐらい自由だと、少し精神的に不安定になる気がします」
 開放処遇には、患者の家族からの不安の声もある。ある女性(45)は数年前、同病院に精神分裂病の兄を入院させようとしたが、病院の様子を見学してあきらめた。「いぬお病院は全国的にみても開放処遇が進んでいるようですが、症状が安定しないのにあそこまで開放されると兄がトラブルを起こすのではないか、と不安がありました」
 こうした問題点や指摘を踏まえながらも、開放処遇にこだわる理由は何か。
 犬尾院長は「患者が一生を振り返るとき、隔離されたという記憶をできる限りつけたくない。一人の尊重された存在として、普通の記憶として残したい。医師や看護人が偉く患者が従わされるといった関係ではなく、ここに治療のため居合わせた、人同士のご縁としての付き合いをしたい。患者は同じ土俵で一緒に生きていける人たちだと信じている」と話した。
(6/16)

◆2001/06/16 「精神障害者連絡会:声明を発表 殺傷事件報道で差別意識拡大」
 『毎日』2001-06-16
 大阪府内の精神障害者でつくる大阪精神障害者連絡会(塚本正治代表、約300人)は16日、池田市の学校乱入殺傷事件を受けて声明を発表。容疑者の精神科通院歴や措置入院歴が報道されたことで、精神障害者への偏見と差別意識が広がったとして「日々いわれのない苦しみを負わされ、精神的に大きな負担になっている」と訴えている。
 塚本代表は「これまであいさつを交わしていた町の人から、冷たく鋭い視線で見られる仲間も出てきている。しかし私たちが負い目を感じる必要はない。病院ではなく、町の中でありのままの日々を刻んでいこう」などと声明を読み上げた。
【遠藤哲也】
[毎日新聞6月16日] (2001-06-16-19:31)

◆2001/06/18 【開放処遇−精神医療の現場から Bトラブル】
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/で「精神医療」で検索すれば、元の記事が出てきます。

 いぬお病院近くの商店街。患者らが買い物などにくる。
 「150人すべての患者の症状が、私の頭のなかに入っています。70人近くの看護婦からこまめに連絡を受けて、患者の状態把握に努めています」と「いぬお病院」の犬尾貞文院長は言う。
 犬尾院長は診察だけでなく、毎日、私服姿で病院を歩き、日ごろの話題を引き合いに出し、患者とコミュニケーションをとっている。
 こうして、患者一人ひとりの病状を把握しながら、「外出すると自殺や騒ぎを起こす可能性がある」とみると、外出を制限するという。
 開放処遇のほとんどの患者は、外出が許されて買い物やカラオケ、音楽会などに出ていく。
 犬尾院長は患者たちにこう語りかける。「事件を起こしたら、一般の人と同じように刑罰を受けないといけないと思う。社会で生きていくには、それだけ責任が伴う」
 入院6カ月目の男性患者(42)は「精神的に安定しているときでも、図書館や買い物に行っておかしなことをしてはいけない、と思うんです。先生の信頼を裏切ってはいけないって……」。
 犬尾院長は「開放処遇は、患者が外で何をしているか分かりません。患者との信頼関係に基づいている。それを感じてくれれば、彼らには責任感と自制心が働く。社会復帰したときに、行動に責任を持つという訓練にもなる」と強調する。
 以前、法律をたてに「精神病患者は犯罪をしても罪に問われない」と主張した患者もいた。犬尾院長は「責任が持てない」と転院させたという。病院側は患者に厳しい自律を求めている。
 一方で、付近の住民からの苦情があとを絶たない実情もある。
 今年に入り、患者が近くの池で入水を図ろうとして、助けようとした釣り人がけがをした。病院関係者が釣り人の自宅に出向き、謝罪した。
 10年ほど前は、患者が近くの団地の一室に立てこもった。被害妄想が強く、だれかに襲われるような感覚に陥り、部屋のかぎをすべて閉めてしまった。このほか、自転車の盗難、万引き、自殺など、トラブルは次々と起こる。
 こうした度に、近くの町内会で問題になり、病院のスタッフが謝罪し事情を説明してきた。犬尾院長が酒や菓子折りを持って行き、ひざ詰めで語り合ったこともある。学校などでの講演もし、理解を求めてきた。
 病院の元看護婦は「トラブルがいつ起きるか分からない。いつも気持ちが張りつめていました」と振り返る。犬尾院長も「開放処遇は本当にくたびれる」と明かす。
 それでも、犬尾院長は開放処遇に強いこだわりをみせる。「開院から25年、周辺住民には、病院が患者の行動について責任をとる、という姿勢を示してきた。少しずつ信頼関係が築かれてきたのではないか」
 その信頼関係について直接、住民たちに尋ねてみた。
(6/18)

◆2001/06/18 【開放処遇−精神医療の現場から C地域の目】
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/で「精神医療」で検索すれば、元の記事が出てきます。

 病院の周辺には一般の住宅が立ち並ぶ「10年ほど前、私が家を空けているときに家から連絡が入って、驚きましたよ。娘と妻がいたところに、患者の人が家に上がりこんできて、勝手に家のなかを物色していたそうなんです」
 「いぬお病院」の近くに住む男性(70)は顔をしかめる。それから特にトラブルはないが、不安は消えない。
 女子中学生(15)は学校から帰る途中、患者とよくすれ違う。「ときどきじっと見つめられ、怖い気がします」
 ある主婦(52)も「町内会の人ともよく話題になります。実害はないんですが、ただ漠然とした不安があって」と言う。
 一方で、開放処遇を容認する声もある。
 10年ほど前、患者が立てこもり事件を起こした団地に住む女性(54)は「あのあとは特になにもないしね。しょっちゅう患者を見てるから、ああこんなものかなって。慣れてしまった、ということでしょうか」。
 6年前に近くに引っ越してきた女性(88)はそれまで、精神病患者は山奥の病院に閉じこめられている、とのイメージがあった。いま、自宅前は患者たちの散歩コース。
 「最初は驚いた」というが、「毎日見るうちにいつのまにかあいさつする仲になってね。買い物先で会うと『あらきょうは買い物』なんて雑談する人もできた。みんないい人ばかり」。
 昨年から付近の福祉施設に勤務する男性(62)は、職場の窓から患者が歩いているのをよく見かける。「抵抗感は徐々になくなってきました。彼らも大変だろうから、頑張って治してください、という気持ちです」
 開放処遇に対する「地域の目」は様々だった。
 昨年5月の佐賀市の少年による西鉄高速バスの乗っ取り事件。少年が入院中の精神医療施設・国立肥前療養所(東脊振村)の外泊許可を受けて、自宅に戻った直後に事件が起きた。事件は「開放処遇を進める精神科医らに衝撃を与えた」といわれる。
 「いぬお病院」の患者らからは、病歴を絡めた事件報道に対する批判が目立った。
 「報道が、私たちへの偏見を助長しているのではないか」。ある男性患者(45)は食ってかかるように疑問をぶつけてきた。別の男性患者(25)は「あんな事件を起こす人は例外。事件の影響で、外出するのにも心理的な抵抗が大きくなりました」と明かした。
 今月8日、大阪府池田市の小学校で起きた児童殺傷事件でも、容疑者の男に精神障害の疑いが持たれている。同病院の周辺住民の間では、バス乗っ取り事件を含めて、事件で不安が高まった、との声は取り立てて聞かれなかった。「毎日見慣れているから」との声が目立った。
 だが、犬尾貞文院長は「こうした事件が続けば開放処遇に対する批判は高まるだろう」との懸念を示し、こう続けた。「私たちにできるのは、地域との信頼関係を地道につくっていくことだけです」

 【メモ】 
 西鉄高速バス乗っ取り事件は昨年5月3日に発生した。佐賀市から福岡・天神に向かうバスが当時17歳の佐賀市の少年に乗っ取られ、多数の乗客が長時間人質になり、3人が殺傷された。日本精神神経学会では、国立肥前療養所の少年への外出許可の是非を含め、同施設の処遇について調査を進めている。
(6/18)

◆2001/06/19 【開放処遇−精神医療の現場から D再犯防止】
 『朝日新聞』佐賀県版
 http://www.asahi.com/で「精神医療」で検索すれば、元の記事が出てきます。

 大阪府池田市の小学校での児童殺傷事件を伝える記事。事件を機に、精神障害者の再犯防止へ向けた論議が再びたかまりつつある。
 96年、開放処遇を進める精神医療施設関係者に衝撃を与える最高裁判決が出された。
 服役終了と同時に岩手県立北陽病院に措置入院した精神分裂病の男性患者が86年、院外の散歩中に無断で病院を離れ、数日後に通行人を殺害。遺族が起こした損害賠償請求訴訟で、判決は病院側の過失を認めて県側の上告を棄却し、約1億2500万円の損害賠償が確定した。
 「いぬお病院」の犬尾貞文院長は「患者の人権は最大限尊重されなければならない。だが、他害傾向の強い患者は病院では手に負えない場合があるのは事実」と言う。
 法務省の犯罪白書によると、95年の検挙人員のうち、精神障害者やその疑いがある者の割合は0・57%。それが、放火罪では17・52%、殺人罪では12・05%に上った。
 東京医科歯科大の山上皓教授(犯罪精神医学)によると、同じ患者によって犯罪が繰り返される傾向があるといい、「精神障害の犯罪者に対する日本の処遇制度、処遇体制に欠陥があるためではないか」と指摘する。イギリスでは、こうした傾向のある患者や、処遇が難しい患者を集める病院施設が数カ所設けられているという。
 国は西鉄高速バス乗っ取り事件などを受けて昨秋から、精神障害者の再犯防止へ向け、特別な医療体制の整備を視野に入れた検討を始めた。
 これに対し、再犯のおそれがある精神障害者を強制的に収容施設に入れる「保安処分」につながるのではないか、と危ぐする声が根強い。
 国内ではこれまで、刑法改正に保安処分を盛り込もうとする動きや、処遇困難な精神病患者の集中治療病棟をつくる構想に対し、日本精神神経学会や日弁連、患者などから、「人権侵害のおそれが強い」「精神障害者全体を犯罪者扱いにすることにつながる」といった批判や反対があり、見送られた経緯がある。
 今月、大阪府池田市の小学校で起きた児童殺傷事件を機に、精神障害者の再犯防止へ向けた、医療・社会制度の整備を求める声が再び高まりつつある。98年の公衆衛生審議会では、精神科医から「問題が起きたときに我々が責任を問われる。国公立病院に処遇困難な患者の治療を求めたい」との意見が出たという。
 精神病院で発生する人権問題に取り組む「市民人権擁護の会」(本部・東京)の南孝次・代表世話役は「他害傾向が強い患者は国が強調するほど多くないはずだ。こうした施設をつくると、病院の密室性がいっそう強まるなど、人権侵害の余地が大きくなる」と国公立病院による集中治療態勢の整備には批判的だ。
 犬尾院長は「いずれにしても医療関係者は、できることとできないことを開示しあい、開放処遇をとりまく問題点を明確にして、対策を講じる必要がある。そうしないと現状のままでは、開放処遇に対する信頼を得ていくことは難しいだろう」と話した。

  【メモ】
 保安処分は、再犯のおそれがある精神障害者を社会防衛の観点から、専門の施設に収容し治療することを法的に定めること。60年代から法務省で導入が何度か検討されてきたが、「精神障害者への偏見を助長する」と反対意見が根強い。
(6/19)

◆2001/06/20 [開放処遇−精神医療の現場から E人間回復]
 http://mytown.asahi.com/saga/news01.asp?kiji=277
 『朝日新聞』佐賀県版

 長年、精神科病院に入院していた男性が退院後、清掃係のリーダーとして働いていた佐賀市役所

 ずっと、病院の外へ出ることはなかった。家族は面接を拒んだ。父親が死んだことも教えてもらえなかった。「もう、自分は人間ではない。そんな気がして、悲しみなどの感情はわかなくなっていました」
 精神分裂病で60年代から約20年間、県内の精神科病院に入院していたという男性は(65)は、入院期間の大半を占めた閉鎖病棟での生活をこう振り返る。
 厚生労働省によると、日本の精神科病院の病床数は55年の約4万5000床から、70年には約27万床に増え、15年間で6倍になった。増加の背景には、精神科病院は医療法の特例対象となり、患者1人あたりの医師や看護婦の数が一般の病院より少なくてすむなど、国の施策があった。
 一方、欧米では、英国が54年に「10年間で精神科病院を10万床減らす」との目標を掲げたのを皮切りに、60年代にかけ、精神科病院への入院を中心とした政策から、社会復帰を促す政策への転換が広がりをみせていた。
 入院中心の施策が続いた日本では、そのほとんどが患者を病院外に出さない閉鎖処遇がとられるなか、医療スタッフが患者に暴行を加えるなどの事件が起きた。
 こうした状況は、国連の委員会で問題になるなど国際的な批判にさらされた。国は87年、従来の精神衛生法に代わり、患者の社会復帰の促進を盛り込んだ精神保健法を制定。精神障害者のための小規模作業所への助成などが始まった。
 男性が入院していた病院もこのころから、開放処遇をとり入れ、患者の外出を許可するようになったという。
 「別世界でした」
 買い物に行くと、品物の代金をまとめてレジで支払うことに驚いた。覚えていたのは、入院する前の、その場で代金を渡すやり方だけだった。
 「外に出られた」喜びがわいた。「人間的なもの」が回復してくるような感覚を覚えた。病院外のふとんの袋詰め作業にも通うようになった。
 数カ月して退院。病院のケースワーカーに、佐賀市役所の清掃係の仕事を紹介された。1日3回服薬しながら必死で働いた。仕事ぶりが評価され、清掃係7人のリーダーになった。現在は退職し、公民館の生涯学習講座を受けている。
 「閉鎖病棟のなかで人生を投げていた。いまは一日一日が、楽しい。本当に楽しい」。かみしめるように話した。
 99年6月現在、国内の精神科病院入院者の総数は約33万人。約23万人は任意の入院で、このうち約10万人が閉鎖病棟に入院しているという(厚生労働省調べ)。昨年4月からは精神保健福祉法の改正で、任意入院者は原則として開放処遇をすることになった。
 20年以上前から開放処遇を先進的に導入してきた「いぬお病院」の犬尾貞文院長は「開放処遇は大きな流れになってきたが、一般の人にも医療者側にも、日本の精神科病院の特有な歴史のなかでつくられた偏見が残るのも事実。開放処遇を取りまく現実は依然として厳しい」と語る。

 【メモ】
 50年、精神障害者が自傷他害のおそれがあると判断されたときに都道府県知事が本人の意思によらず入院させる「措置入院」を盛った精神衛生法が制定された。65年の改正で警察官や検察官の都道府県への通報義務が強化された。87年に精神保健法、95年には精神保健福祉法となり、社会適応訓練事業が定められた。
(6/20)

◆2001/06/21 [開放処遇−精神医療の現場から F患者本位]
 『朝日新聞』佐賀県版
http://mytown.asahi.com/saga/news01.asp?kiji=280

 入院患者が自由に外出できる開放処遇と対照的に位置づけられる閉鎖処遇。だが、患者が過ごしやすい配慮をする病院が広がりをみせるなど、閉鎖処遇にもさまざまな形が出てきているようだ。
 県内のある精神科病院の閉鎖病棟を訪ねた。
 「急性期病棟」と呼ばれ、外壁は黄色で明るい印象。内部も天井が高く清潔な感じがする。2階に上がり、かぎのかかったドアを開けるとナースステーション。そこから、もう一つのかぎのかかったドアを通り抜けると、小さな喫茶店ぐらいのスペースがあった。
 丸いテーブルが3つ置かれ、4、5人の患者が雑誌を読んだりテレビを見たりしている。無表情でほとんど会話がない患者もいる。40代ぐらいの男性患者が意味の分からない声を上げながら、看護婦に近づく。看護婦は「はい、はい」と、うまくとりなした。
 この病棟で集中的に治療し、一般的には数日間から数カ月で開放処遇の病棟に移すという。
 案内してくれた病院の男性職員は「私たちは県内では、意欲的に開放処遇に取り組んだ病院のひとつ。患者のために、症状に応じた処遇をしようと効果的に閉鎖病棟も併用している」と話した。
 「5日で急性症状がとれる患者や、数年間も幻覚症状がとれない患者がいる場合を考えると、閉鎖処遇を基本に、時間軸で個々の患者別に自由度を与えていくといった取り組みが現実的だ」
 長崎市の「西脇病院」の西脇健三郎院長は、こう指摘する。同病院も閉鎖処遇と開放処遇の病棟を併用して治療を進めている。閉鎖処遇用の病室は木目調のつくりで窓が大きく、圧迫感はない。
 「症状が重い患者や、ほかの患者との接触を嫌う患者には閉鎖処遇が適切。開放処遇でも平均入院日数が極端に長い病院は、患者の社会復帰に熱心ではないということではないか」と西脇院長。閉鎖処遇か開放処遇かといった形式より、「医師が患者本位がどうか、という姿勢が最も問われる」と強調した。
 精神科病院の状況を市民の手で直接チェックしよう、との取り組みも広がりつつある。
 大阪府のNPO法人「大阪精神医療人権センター」は98年から府内の精神科病院を訪ね、通信の自由はあるか、快適な居住環境かなど、患者への処遇を調べて病院に改善を求めている。東京都の市民団体「東京精神医療人権センター」も同様の活動を展開している。
 患者や家族、看護婦らの相談に応じている市民団体「市民の人権擁護の会」(本部・東京)には、「患者に薬が過剰に与えられているようだ」「子供が保護室から出してもらえない」といった声が寄せられるという。
 南孝次・代表世話役は「密室性が強くなりがちな精神科病院には、一層の情報公開が求められる。外部からの十分なチェック態勢の確立も必要だ」と話している。
 【メモ】
 入院は必要ないが、家庭などの受け皿がないため退院できない「社会的入院」の患者が、精神科病院では約3割に上るという。日本精神神経学会の調査では、50歳以上の4人に1人は20年以上入院し、1年以上の入院者の6割は退院しても戻る家がない状況。社会復帰施策の進み具合と入院者数には密接な関連があるといわれている。
      おわり
(この連載は稲野慎が担当しました)
(6/21)

 

◆2001年6月16日(土) 『産経新聞』朝刊

インタビュー
・広田和子さん(精神医療サバイバー)
・保岡興治さん(元法相)
・町野 朔さん(上智大学法学部教授:刑法)
・日垣 隆さん(作家・ジャーナリスト)
・仙波恒雄さん(日精協会長)

 

◆<学校殺傷事件>精神障害者の犯罪 米国の場合
 『毎日新聞』2001-06-16
 http://www.mainichi.co.jp/

 【ワシントン中井良則】大阪府池田市の学校乱入殺傷事件で、重大な犯罪行為をした精神障害者への対応をめぐる論議が広がっているが、米国では入院患者の4倍にあたる約28万人の精神障害者が、拘置所や刑務所に入っている。重大犯罪で無罪になることに批判が高まり、精神障害者も有罪とする州が増えたためだ。精神障害者は病院に収容するより地域で受け入れる流れだが、受け皿が不十分なことも、拘置所などに入る精神障害者を増やす一因になっている。
 精神障害者の犯罪が衝撃を与えたのは99年1月のニューヨーク地下鉄殺人事件。32歳の女性が当時29歳の男性にホームから突き落とされ、電車にひかれ死亡した。容疑者は精神分裂病の診断を受け自ら治療を求めたが、病院が何度も断っていたことが分かった。裁判では刑事責任能力をめぐり陪審員の意見が真っ二つに分かれ、陪審員を全員選び直して「殺人罪で有罪」の評決に達した。
 全米精神衛生協会のコリー・ブラウン司法担当部長によると、精神障害の疑いがある容疑者が逮捕された場合、裁判官は医師の意見を聞き出廷の可否を決め、出廷不能の場合は治療後に裁判を開く。日本と違うのは、精神障害を理由に無罪となった場合の入退院を裁判官が決定する点だ。81年3月のレーガン大統領暗殺未遂事件では、無罪で入院となった男について、医師は再三、退院可能と勧告したが、裁判官が認めず、今も入院中だ。
 重大犯罪で無罪となるケースへの批判が強まり、ここ10年ほどで約20州が「精神病でも有罪となる」という規定を州法に明記し、刑務所に服役させる事例が増えている。精神障害者の人権を擁護する精神衛生法律センターのタミー・サルツァー弁護士は「犯罪の意思を形成できない者は罰せられないのに、矛盾する。子供を成人とみなし刑事裁判にかけるのと同じ」と批判する。
 米国の精神医療は60年代まで病院への収容が中心で、55年に入院患者は55万人に達した。ロボトミー手術など人権侵害が明るみに出て、70年代に地域生活支援型に転換し、病床数は激減した。
 だが地域の受け皿が不十分な場合もある。このためホームレスとなる精神障害者も多い。精神障害者と分かると、警察が微罪でも逮捕し、長期拘留する例が増えている。
 全米精神衛生協会のローラ・ヤング副会長は「地域の受け入れ、医療、職業訓練、就職、住居の確保など総合的なケアが必要。だが、地域によって取り組み方は千差万別」と話す。
 池田市の事件について、サルツァー弁護士は「精神障害者が暴力的というのは誤った認識。ひとつの悲劇だけから政策を作り出すと、多くの場合、失敗する」と冷静な議論を期待する。
[2001-06-16-11:10]

 

◆特定精神病院:設置の効果を疑問視する声も 賛否の論議起こる
 『毎日新聞』2001-06-17
 http://www.mainichi.co.jp/

 大阪府池田市の学校乱入殺傷事件で、法務、厚生労働両省が検討を始めた新法による「特定精神病院」(仮称)の設置をめぐり、関係者の間で賛否の論議が起こっている。設置を求める専門家は「欧米諸国には同様の施設がある」と強調。一方、「精神医療全体のレベルが低い日本で同じことをしても効果がない」と疑問視する声もあり、米国の関係者もさまざまな問題点を指摘している。
 特定精神病院は重大な犯罪行為をした精神障害者を強制入院させる専門治療施設。事件後の12日に開かれた両省の合同検討会で、東京医科歯科大難治疾患研究所の山上皓(あきら)教授が専門治療施設を含む欧米の司法精神医療制度を例に挙げ、「日本にも同様の制度があれば、事件は防げたのではないか」と力説した。17日にはテレビ番組に出演し、治療と社会の安全の両立の必要性を訴えた。
 しかし、現場の医師からは懸念も出ている。
 措置入院が解除された後の患者を診療している首都圏のある開業医は「専門治療施設を作っても、退院すれば最終的には地域の病院に通う。今でも解除後の患者の診療を嫌がる病院があるが、専門施設ができればなおさら危険視され、治療を敬遠されかねない」。措置入院患者を長年診てきた大阪府内の医師も「最も必要なのは、高い専門性とマンパワー。日本には元々この分野の専門家がほとんどおらず、ハコを作って解決する問題ではない。専門治療施設は事件の再発防止が目的で、その患者が初めて起こす事件は防げない。事件を防ぐには地域の医療レベルを上げるしかない。選挙をにらんだ性急な議論は危険」と訴える。
 米国には州によって刑法に基づく保安施設がある。ニューヨーク・ロースクールのマイケル・ペリン教授は5月に東京で開かれたシンポジウムで「カンザス州は13人の犯罪者のために、医療刑務所に最厳重警備の病棟を100万ドルで造った。そのために州の精神衛生予算が食いつぶされ、残り数千人の精神障害者ヘのサービスが著しく低下した」と指摘。精神障害と犯罪を結びつける制度について(1)「精神障害者は危険」という印象を与える(2)治療が後回しになる(3)地域でのケアをさらに困難にする――と問題点を挙げた。
【精神医療取材班】
[毎日新聞6月17日] ( 2001-06-17-21:28 )

 

◆精神神経学会:学校乱入殺傷事件受け緊急理事会 提言まとめへ
 『毎日新聞』6月17日 ( 2001-06-17-23:03 )
 http://www.mainichi.co.jp/

 日本精神神経学会(佐藤光源理事長、約8900人)は17日夜、大阪府池田市の学校乱入殺傷事件を受けて東京都文京区で緊急理事会を開き、今月末をめどに学会としての提言をまとめることを決めた。
 会合では、重大犯罪行為をした精神障害者の専門治療施設を求める動きについて、慎重な意見が相次いだ。事件を防ぐには、司法と医療の協力体制のあり方を再検討するとともに、職員数が他の診療科に比べて少ないなどの問題点を改善して、精神科医療の底上げを図ることが重要だとの意見が目立った。
 理事の一人は「専門の治療施設があったとしても今回の事件が防げたかどうかは疑問。政治レベルの拙速な論議ではこの問題は解決しない」と話した。
【精神医療取材班】

 ◇日本精神神経学会

 

◆触法精神障害者の処遇「特別立法が妥当」 厚労相  『朝日新聞』
 http://www.asahi.com/politics/update/0622/005.html
 http://www.asahi.com/

 坂口力厚生労働相は22日の閣議後の記者会見で、重大な事件を起こした精神障害者の処遇について「第三の法律というか特別立法を考えるのが妥当ではないか。森山真弓法相との話し合いの中でも、選択肢の一つという話が出た」と述べ、刑法や精神保健福祉法の改正ではなく、新法を制定するのが適当であるとの考えを明らかにした。新法の内容については、現在、精神科医が強制入院と退院の判断をしていることについて「医療の場で考えるのは難しい」と語り、何らかの形で司法関係者を関与させるべきだとの認識を示した。  また、坂口厚労相は、厚労、法務両省の合同検討会について「期限を切って(結論を出すのを)早めなければならない。世論が高まった時に決着するのが大事だ」とも述べた。(11:26)

 

◆重大犯罪精神障害処遇の新法に反対 精神神経学会
 『朝日新聞』2001-06-25
 http://www.asahi.com/

 重大な事件を起こした精神障害者の処遇について、政府が入退院の際の司法の介入、収容する専門病棟の新設などを柱とする新法制定を検討していることに対し、精神科医や精神医学者らでつくる日本精神神経学会は25日、「現行法のもとでの司法、精神医療の改善を優先するべきだ」と新法に反対する理事会見解をまとめた。同日午後、佐藤光源理事長(東北福祉大大学院教授)らが厚生労働、法務両省を訪れ申し入れる。
 見解は、重大事件を起こした精神障害者については、起訴前の簡易鑑定のみで検察官が安易に責任能力を判断する傾向にあることを指摘。起訴したうえで公判で正式に精神鑑定して責任の有無を明確にすることが、精神障害と事件の関係を明らかにし、社会の偏見をなくすことにもつながるとしている。
 また、不起訴や執行猶予となった精神障害者は、十分なマンパワーがある国公立を中心とした精神科病棟で治療が受けられるよう公費を投入すべきだとし、精神病院を退院したり刑務所を出所したりした精神障害者の在宅治療を継続できるように、司法と医療が連携する機関を設置することなどを提言している。
 さらに、大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件にともなう一部のマスコミ報道や事実に基づかない精神科医の不用意な発言で、すべての精神障害者に対する司法措置が検討されているかのような誤解、偏見が広がり、患者や家族に深刻な不安と動揺を与えていることを懸念。精神障害に関する正しい知識を市民に普及する啓発運動を早急に展開するとしている。(15:21)

 ◇日本精神神経学会

 

◆20010628 重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇に関わる政府・与党の新法試案

 「重大犯罪行為の精神障害者処遇」
 『毎日新聞』20010629 1面トップ
 重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇問題で、政府・与党が犯罪の再発防止、精神障害者の人権擁護の観点から制定を目指している新法の試案が28日、明らかになった。精神病院への強制入院、退院の判断などに司法関係者らが関与する「準司法手続き」を採用するほか、専門家の育成、治療法の研究・開発のための「司法精神医療研究所」を新設する。政府・与党は年内にも法案づくりに着手する方針だ。
 日本では、重大な犯罪行為をした精神障害者の処遇に関する専門家がひと握りの精神科医に限られているのが実情。治療法も薬物投与が中心で、個別患者によって異なる症状に十分対応できていないとの指摘もある。このため政府・与党は、司法精神医療研究所設置を盛り込んだ。
 試案の対象犯罪は、殺人、放火、傷害、傷害致死、強姦(ごうかん)、強盗の六つ。これらの犯罪行為をした精神障害者が不起訴や無罪となった場合、裁判官(OBを含む)をトップに精神科医、弁護士、心理カウンセラーらで構成する新設の「司法精神医療審判所」(仮称)が、専門治療施設である司法精神病棟への強制入院について決定する。
 強制入院の必要がないと判断された場合は、訓練命令、服薬命令に基づき、社会復帰訓練施設に入所する。また、強制入院後、審判所が治療が進んだと判断すれば、司法精神病棟からの退院の決定を下し、訓練施設に移す仕組みになっている。
 審判所の審査は、精神障害者、犯罪被害者双方の関係者が傍聴できるようになる見通し。訓練施設は「通院型」が想定されており、精神科医、精神保健福祉士、保護観察官が協力して支援する体制を整えるなどアフターケアを充実させる。
 司法精神病棟の名称は、法務、厚生労働両省で「特定精神病院」案が出ているが、政府・与党に「イメージが悪い」との異論があり、今後の検討課題になりそうだ。
(『毎日新聞』2001年6月29日東京朝刊)

 

◆2001/06/29 「精神障害者処遇:新法試案 「隔離強めるのでは」関係者が懸念」
 『毎日新聞』2001.06.29

 大阪・池田市の学校乱入殺傷事件を機に、政府・与党は重大な犯罪行為をした精神
障害者を対象にした司法精神病棟や入退院を判断する「司法精神医療審判所」(仮
称)の設置などの試案をまとめ、新法制定に動き出した。しかし、関係者からは「裁
判官を入れれば再犯の予測ができるのか」「精神障害者に対する『隔離』を強めはし
ないか」との声が相次いでいる。
 28日、東京都千代田区の衆院第2議員会館で関係者が意見を交換する集会が開か
れた。精神障害者や共同作業所を運営するNPO法人の代表、専門医ら約60人が参
加。政府・与党の急速な動きに懸念が広がった。
 自らも患者だった大阪精神医療人権センターの山本深雪事務局長は「今回のような
事件が起きると、精神病はやはり怖いと言われる。事務局には『人殺しの手助けをす
るのか』などという脅迫電話も来た。精神障害者がみな犯罪を犯すわけではない。拙
速に法律や制度を変えるのではなく、現行法の運用と医療の質の底上げで対応してほ
しい」と訴えた。集会を主催した精神障害者ピア・サポートセンター「こらーる・た
いとう」代表の加藤真規子さんは「短期間で法律や制度が変わることに、関係者は大
きな不安を持っている」と慎重な議論を求めた。
 一連の動きに対し、医療現場からも「マンパワーの少ない精神医療や司法の課題に
手をつけず、新たなシステムを作るのは本末転倒ではないか」との指摘が相次いでい
る。
 日本精神神経学会(佐藤光源理事長)の富田三樹生・「精神医療と法に関する委員
会」委員長は、裁判官をトップにした入退院決定機関について「精神医療の問題に理
解が深い裁判官が多いとは考えられず、司法が関与するだけで、実効性のあるシステ
ムになるとは期待できない」と成果を疑問視する。
 法曹の立場から、日弁連精神保健小委員会の神洋明弁護士は「専門治療施設は、症
状が重い患者のためには必要だと思う。しかし、重大な犯罪行為をした人だけを対象
にするなら、形を変えた保安処分ともいえる。新しい施設が病院という名の拘禁施設
になってはいけない」と警戒している。
【精神医療取材班】
[毎日新聞6月29日] ( 2001-06-29-03:01 )

 

◆精神科七者懇談会 20010629 「重大な犯罪を犯した精神障害者の施策に関する緊急声明」


                          平成13年6月29日

      重大な犯罪を犯した精神障害者の施策に関する緊急声明

                     精神科七者懇談会
                        国立精神療養所院長協議会
                            会長  白倉克之
                        精神医学講座担当者会議
                         代表世話人  山内俊雄
                        全国自治体病院協議会
                            会長  小山田惠
                        日本精神神経科診療所協会
                            会長  三浦勇夫
                        日本精神神経学会
                            理事長 佐藤光源
                        日本精神病院協会
                            会長  仙波恒雄
                        日本総合病院精神医学会
                           理事長  黒澤 尚

1. 基本的な考え方

 本年6月8日、大阪府池田市で発生した児童殺傷事件は、精神科医療への不信
を招くとともに、精神障害者への偏見を増幅し、精神障害者の生活に多大な影響
を与えた。また同時に、司法と医療の関係のあり方について大きな課題を投げか
けた。
 精神科医療に従事する者として、犠牲となられた方々や偏見にさらされた精神
障害者に報いるためには、この事件に象徴される制度的・構造的な問題点を明ら
かにし抜本的な改善を図る必要があると考える。
 今回の事件を契機に、いわゆる「重大な犯罪を犯した精神障害者」の処遇に関
して、制度の見直し論議が盛んになされているが、真に有効な医療や処遇の制度
を創設するためには、現行制度の問題点を実証的なデータに基づいて検討するこ
とが急がれる。
 その上で、以下のような課題について取り組む必要がある。

2. 具体的な検討事項
(ア) 現行制度の見直し
 a) 重大な犯罪を犯した精神障害者の刑事責任能力評価のあり方を見直すこ
   と。
 b) 起訴前鑑定の実態を調査し、そのあり方を見直すこと。
 c) 矯正施設内での精神科医療の実態を調査し、その改善を図ること。
 d) 重大な犯罪を犯した精神障害者の医療を適正に行うための条件を整備す
   ること。
 e) 再発や生活破綻を来たしやすい精神障害者のために、保健・医療・福祉が
   緊密な連携を保ちながら継続医療、生活支援ができる体制を整えること。

 あわせて、精神科医療全体の質の向上も図られなければならない。


(イ) 今後の課題
 a) 重大な犯罪を犯した精神障害者の入院・退院の評価および退院後の医療
   継続に司法が関わる新たな制度について、実証的な検討を開始すること。
 b) 重大な犯罪を犯した精神障害者のための特別施設の新設論には慎重であ
   るべきこと。国公立病院等に専用病棟を設置し、地域医療の観点を失わ
   ずに治療が可能となるシステムを検討すべきこと。
 c) 精神障害者の裁判を受ける権利を保証するために、医療を提供しつつ刑事
   責任能力を評価する制度を新設すること。

 これらの課題について、今後、本懇談会の「法とシステムに関する委員会」
で、継続して検討を行うものである。
                                (以上)

 

◆精神障害者の家族団体、法制度見直しに「意見聞いて」  『日本経済新聞』(2001-07-05)

 大阪の校内児童殺傷事件を受け、精神障害者を身内に抱える家族らで作る「大阪府精神障害者家族会連合会」(大阪市、会員数約1200人)の寺本徳造会長は5日、記者会見し、関連法や制度の見直し議論について、「当事者や家族の意見を十分に聞くことが必要」と指摘した。また「不安や動揺が患者らに広がっている」として、精神障害者への偏見を助長しないよう配慮した報道を求めた。
 同会は事件後、大阪府内にある精神障害者の共同作業所など約140カ所を対象にアンケートを実施。周囲の目が気になって引きこもったり、薬が飲めなくなる患者が増えていることが判明したという。

 

◆精神医療審査会:法律家委員の病院訪問面接、審査件数の1割
 『毎日新聞』2001.07.07

 精神病院に入院中の患者から退院請求などがあった際に入院の必要性を判断する精神医療審査会で、委員の裁判官や弁護士らが最近5年間に病院に出向いて患者に面接したのは審査件数の約1割だったことが6日、毎日新聞の調査で分かった。17県は法律家委員が一度も面接していなかった。重大犯罪を起こした精神障害者の入退院に司法が関与する新制度が検討されているが、まず現行制度下でのチェック機能強化が必要といえそうだ。
 審査会は87年以降、精神保健福祉法に基づき各都道府県と政令指定都市に設置された。精神科医3人と法律家、有識者各1人で構成し、措置入院や医療保護入院した患者の退院請求を審査。不当入院と判断すれば、知事に報告し退院させる。
 毎日新聞は47都道府県と12政令市の96〜00年度と01年度(4〜6月)の退院請求数と法律家委員(判事、検事、弁護士、大学教授)が病院で面接調査した件数を調べ、沖縄、福岡県を除き回答を得た。退院請求の総数は5219件で、うち法律家委員が病院で患者に直接面接したケースは647件(約12%)。一度も直接面接していないのは岩手、山形、茨城、群馬、埼玉、神奈川、新潟、富山、愛知、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、愛媛、徳島、高知、大分の各県。大部分の自治体は「要職のために多忙で、日程調整がつかない」を理由に挙げた。
 厚生労働省は00年にマニュアルを改定し、精神科医以外の委員も1人以上は病院を訪ね、治療や処遇の実態をつかむよう指導している。しかし、「医師も行かず、事務局の職員が代行することもある」(岩手県)「『医師1人以上』という以前のマニュアルを続けている」(神奈川県)などの自治体もある。一方、宮崎県では51件の請求すべてに弁護士が出向き、京都市では「精神医療や人権問題に詳しい法学部教授が積極的に面接している」という。
 精神医療に詳しい八尋光秀弁護士(福岡県弁護士会)は「人権にかかわる機関なのに、法律家が患者の置かれた状況も知らずに判断するのはおかしい」と批判している。
【精神医療取材班】
[毎日新聞7月7日] ( 2001-07-07-03:01 )

 

◆けいれん伴う電気ショック、閉鎖病棟で常態化

◎精神医療の草分け 都立松沢病院
日本の精神病院の草分けのひとつ、東京都立松沢病院(松下正明院長、136
8床)で、患者を鎮静させるため、全身にけいれんを起こす「電気ショック」
を頻繁にかけていることが明らかになった。欧米では全身麻酔と筋弛緩(しか
ん)剤を併用して実施する「無けいれん法」が原則だ。けいれんを伴う電気
ショックは、国内でも懲罰的に使われた歴史がありせきつい骨折やけいれんが
止まらなくなるなどの副作用が飛躍的に増える恐れも指摘されている。治療体
制が整った病院でのこの実態は、精神医療の構造的な問題だとする声もある。
電気ショックは正式には「電気けいれん療法」と呼ばれる。国内では、全身け
いれんを伴う方法も健康保険で認められているが、無けいれん法に比べ診療報
酬は20分の1で「例外的に認められているにすぎないことは医療に携わる者
の常識だ」と専門家は説明する。
松沢病院と同様の方法は、ほかの病院でも広く実施されているとの指摘もある
が 、実施件数や副作用の発生数など、その実態はほとんど明らかにされてい
ない。同病院の複数の関係者によると、電気ショックが頻繁に実施されている
のは、症状の激しい患者が入る病棟、新規入院患者を受け入れる2病棟、処遇
が難しい患者らが入る長期入院病棟 ――の四つで、いずれも閉鎖病棟。
対象となるのは主に、興奮して暴れる患者。患者仲間に軽い暴力をふるう患者
や、看護婦に脅迫的な言動があった患者が対象となることもある。医師、看護
士ら5、6人で保護室に連れていき、催眠鎮静剤を静脈注射して眠らせたうえ
で、両側のこめかみに電極をあてて電気ショックをかける。4、5日間連日で
かけると興奮状態が治まり、効果が数カ月間続くという。
患者には「注射をする」とうその説明をすることが多い。注射で眠っている間
に電気ショックをかけることと、電気ショックによって意識がもうろうとなり
記憶障害が起こることから、多くの患者は自分が何をされたのか分からず、
「注射を打たれた」としか認識していないようだ。
こうした実態は、複数の医師らがしばしば目にしたり、経験したりしていると
いう。覚せい剤の影響などで興奮状態がひどく注射もできない場合には、複数
の看護者が患者を押さえつけ、麻酔なしで電気ショックをかけることもあっ
た、と話す関係者もいる。
同病院の松下院長は朝日新聞の取材に対し、「病院事務局を通してもらわなけ
れ ばコメントできない」と話し、病院事務局の三井田建城庶務課長は「取材
には応じられない」としている。
(07/08) asahi.com

◆「治療は的確」と都が確認 (共同通信)

東京都内の精神科医療の中核施設となっている都立松沢病院(東京都世田谷
区、松下正明院長、1368床)で、興奮して暴れる患者を鎮静させるためなどに
「電気けいれん療法 」のうち全身にけいれんを伴う「有けいれん法」という
療法を多用していると一部報道で指摘され、都衛生局が8日、実態確認をし
た。その結果、治療は的確に行われていると判断した。
[共同通信社 2001/07/08]

 

平成13年7月13日

電気けいれん療法の使用に関する部会長見解

全国自治体病院協議会 精神病院特別部会
                    部会長  伊 藤 哲 寛

 去る7月8日、『朝日新聞』は、当部会所属病院である東京都立松沢病院における
電気けいれん療法について大きく報じた。
 記事では、治療の対象となった患者の病状や総数等についての具体的な言及がない
ため、治療法の選択や実施手順が適正なものであったかどうかについて現時点で判断
することは差し控えたい。
 一般に電気けいれん療法は、希死念慮の強い抑うつ状態、激しい緊張病性興奮ある
いは昏迷状態などに対して、なお治療法の一選択肢として認められているものと理解
している。
 しかし、電気けいれん療法は、過去においては、鎮静や管理の手段として乱用さ
れ、本人のみならず保護者にもその実施が知らされないことが多く、精神科医療の密
室性を象徴するもののひとつであったことも事実である。
 精神科医療の従事者は、このような歴史的な背景を十分に考慮し、電気けいれん療
法の実施にあたっては、しっかりとしたインフォームド・コンセントのもとに、厳密
に対象を選択し、適切な術式を決定する必要がある。
 当特別部会としては、会員病院における電気けいれん療法の実態を調査して、その
分析結果を公開し、電気けいれん療法を実施するにあたっての指針策定に寄与した
い。

 

◆精神病院の情報公開:厚労省が基準策定へ 「密室」是正図る
 『毎日新聞』2001.07.14

 「密室化」が指摘される精神病院のあり方を見直すため、厚生労働省の研究班が精神病院・精神科を対象にした情報公開基準作りに乗り出した。全体の約8割を占める民間病院が、国や自治体の情報公開法・条例の網からこぼれているため、公開のためのガイドラインが必要と判断した。「精神科医療情報公開法」(仮称)の試案策定も視野に入れ、3年間で具体案をまとめて国に提案する。
 研究班が6日の初会合でまとめた方針では、今年秋に都道府県と政令指定都市にアンケート調査を実施。精神病床がある公立、民間双方の病院について、自治体が把握している情報をどこまで公開可能か調べる。
 調査項目は▽病床、医師、看護婦数や患者の平均在院日数▽退院請求数▽自由に電話がかけられるか▽入院患者の権利を解説した手引きを置いているか――など50以上にのぼる。それぞれについて公開の可否を尋ねる。一部病院に同様の調査をし、病院側の意識も把握する。
 また、外国の情報公開の実態を調べるほか、退院請求の妥当性を判断する精神医療審査会や患者を抱える家族会などにも、どのような情報が必要か調査する。その上で精神病院に最低限、公開を求められる情報をリストアップし、ガイドラインにまとめる方針だ。
 精神病院をめぐっては昨年、埼玉県の朝倉病院が、指定医の指示なしに入院患者をベッドに縛り付けていたことや、鹿児島県の病院で98年、暴れる入院患者を看護婦が院内の庭木に縛り付けるなどしていたことが発覚している。また、京都の市民団体が98年4月、京都府に複数の精神病院の情報開示を求めたが、病院別の入院患者数などが公開されず、情報公開条例に違反するとして提訴。京都地裁が非開示決定は違法との判決を出したケースがある。
 研究班の担当研究者の伊藤哲寛・北海道立緑ケ丘病院院長は「精神病院で問題が後を絶たないのは、密室性が背景にある。強制入院の患者を受け入れるなど、精神病院は民間でも公的な性格が強いのだから、患者の立場に立って透明化を図り、精神医療全体の底上げと信頼回復に結び付けたい」と話している。【精神医療取材班】
[毎日新聞7月14日] (2001-07-14-15:01)

 

◆2001/07/16 『毎日新聞』東京朝刊
 「クローズアップ」 改革論議が減速――精神障害者の犯罪・処遇システム

 大阪府池田市の学校乱入殺傷事件を受け、政府・与党が急いでいた、重大犯罪行為をした精神障害者の処遇システムづくりが、ここにきてスピードダウンしている。参院選をにらんだ議論の加速に、自民党内をはじめ関係団体から「拙速は避けるべきだ」という声が高まったためだ。精神障害者を一律に危険視する風潮への懸念が、衝撃的な事件に対する感情的な反応を冷却した形だ。【精神医療取材班】

★見直しを迫られ
 「至急、法的不備を正していかなければならない」。事件直後、小泉純一郎首相は法改正に着手する意向を明らかにし、与党3党のプロジェクトチーム(PT)も犯罪を行った精神障害者の処遇システムについて、参院選前に方向性を示す方針を打ち出した。
 まだ、宅間守容疑者(37)の精神鑑定が行われず、同容疑者による「詐病説」すら飛び交っていた。それでも、政府・与党は(1)新規の特別法で対応する(2)重大な犯罪行為を行った精神障害者を対象に「司法精神医療審判所(仮称)」が司法精神病棟への入退院を判断する(3)治療法や専門家養成のための「司法精神医療研究所」を新設する――ことなどを盛り込んだ試案を固めた。
 ところが、参院選公示の直前に慌ただしく行われたヒアリングで風向きが変わる。日本精神病院協会、日本医師会、全国精神障害者家族会連合会(全家連)、日本弁護士連合会からの意見聴取で、制度改正への肯定論の一方、「精神障害者が偏見、差別を受けないよう注意してほしい」(全家連)など異論が相次いだ。
 犯罪行為をした精神障害者の入退院の判断に、裁判官や検察官が加わることには、かつて検討された保安処分と同様、犯罪の恐れがあるというだけで予防的に拘禁することにつながるという警戒感も強い。結局、与党PTは「来年度予算の概算要求を見据えて、8月6日に方向性を示す」とスケジュールを変更した。
 与党PTとは別に、法務省と厚生労働省は今年1月から、「重大犯罪を行った触法精神障害者の処遇」に関する合同検討会で討議を続けており、官邸サイドは20日をめどに両省の考え方を報告するよう指示している。来年の通常国会への法案提出に向けた作業は、選挙後から秋に向けた時期がヤマ場となりそうだ。

★本当に危険か?
 政府・与党は殺人、放火、傷害、傷害致死、強姦(ごうかん)、強盗の6罪を「重大犯罪行為」とし、これらを犯した精神障害者の再犯防止を新法の重点に想定している。だが、現実に精神障害者の重大犯罪がどの程度あるかははっきりしない。警察庁の犯罪統計の「精神障害者等」という項目には、覚せい剤中毒や知的障害なども入っている。医療や保護の対象にならなかった「精神障害の疑いのある者」も含まれている。
 99年の統計で、検挙者総数に「精神障害者等」が占める割合を見ると、放火(14・4%)▽殺人(9・4%)▽強姦・強制わいせつ(1・5%)▽強盗(1・1%)▽傷害・暴行(0・9%)の順に多い。厚労省の統計によると、精神障害者と知的障害者が総人口に占める割合は約2%。これに比べると、「精神障害者等」の検挙者の比率は放火と殺人で高く、その他の犯罪では低い。だが、精神障害者、覚せい剤中毒者、知的障害者を分けた統計はない。
 東京医科歯科大難治疾患研究所の山上皓(あきら)教授の80年の調査では、精神分裂病の患者が起こした殺人事件の被害者144人のうち、親や子、配偶者など親族が102人で、全体の70・8%を占めている。事件で措置入院となる患者の多くを受け入れる公立病院の医師らは「いわゆる通り魔事件のように、見知らぬ第三者を突然襲うような事件は、精神病患者より覚せい剤中毒者が起こすことが多い」と指摘する。

★治療中断の影響
 法務省刑事局の資料によると、95〜99年の5年間で、精神障害を理由に心神喪失や心神耗弱で不起訴となったり、1審段階で無罪となるか刑を減軽された人は3629人。このうち、3212人を調べたところ、犯行時に治療を受けていなかった人が60・8%にのぼった。
 さらにその中の44・2%は以前に治療を受けた経験があり、犯行時に治療を中断したり、中止していた。「治療の中断が事件を引き起こす要因になっている」と指摘する医療関係者は多い。
 日弁連精神保健小委員会委員の神(じん)洋明弁護士は「精神障害者のほとんどは凶悪犯罪を起こさないし、病状の重い人が犯罪を起こすわけでもない。しかし、ひとたび犯罪を起こすと、親類からも地域からも見放され、病院からも足が遠のき、病状を把握する人もいなくなる」と訴える。
 与党PTのメンバーの一人は「何かしなければならないという気持ちは、与野党とも同じだ。しかし、保安処分的な司法の介入まで認めるのは、拙速だ。『なんでこんな制度が出来たのか。あの時に決めた政治家は誰だ』と批判されないようにしなければならない」と自らを戒めた。
(『毎日新聞』2001年7月16日東京朝刊)

 

◆2001/07/17 大阪『読売新聞』夕刊1面
 精神病院への強制入院 20年以上が1万7000人
 制度運用に極端な地域差

 精神保健福祉法による強制入院の期間が二十年以上という「一生閉じこめ」に近い患者が、措置入院と医療保護入院で計一万七千人(一九九九年)にのぼるうえ、制度運用に極端な地域差があることがわかった。とくに措置入院は都道府県別にみた人口比の患者数に十四倍の開きがあり、二十年以上の患者の比率も京都、千葉がゼロなのに山口は69%。診断基準の適用範囲が医師や行政の姿勢に大きく左右されていることを示しており、専門家は「早急な実態解明、是正が必要だ」と指摘している。
 厚生労働省の九九年六月末時点の調査によると、措置入院(行政による強制入院)の患者は全国で三千四百七十二人。うち措置期間が二十年以上の患者は千八十二人(31%)にのぼる。
 都道府県別に人口十万人あたりの措置患者数をみると、佐賀九・四人、鹿児島、大分九・一人に対し、大阪〇・七人、奈良、香川〇・八人と大差がある。
 二十年以上の比率が高いのは山口69%、和歌山63%、岐阜61%の順。一方、京都と千葉はゼロ。東京、沖縄なども一人しかいない。
 逆に三か月以内の比率は東京62%、島根58%、神奈川55%、京都54%、大阪49%の順で、佐賀は2%、大分は5%にすぎない。
 一方、医療保護入院(家族同意による強制入院)は約九万千七百人で、うち一万六千六百二十人(18%)が二十年以上。人口十万人比では熊本百六十八人に対し、福井三十九人。二十年以上の比率は和歌山34%に対し島根8%と、いずれも四倍の地域差がある。
 措置入院は「自分を傷つけるか、他人に危害を加える恐れ」、医療保護入院は「入院が必要だが、本人に判断能力がない」という精神保健指定医の診断が要件。病院は定期的に病状を行政へ報告、精神医療審査会が強制入院継続の必要性をチェックする。
 浅井邦彦・日本精神神経学会理事の話
「措置入院は該当する症状がなくなれば、医療保護や任意入院に切り替えられるので、社会復帰対策の状況は格差と関係ない。家庭事情からわざと公費負担の入院にした『経済措置』も九五年の制度変更で消えたはずで、診断の考え方が違うとしか思えない。治療を続けても措置症状が消えない患者は通常ごく一部で、二十年以上が多数を占めるのは異常だ」

◇措置入院患者数の地域差=グラフ略

 

精神分裂病の名称変更へ 人格否定、医学的にも不適切
2001/8/24朝日新聞

 「人格を否定するような響きを持つ『精神分裂病』という名称を変えて欲しい」−−。精神障害者の家族からの要望をきっかけに、精神科医らでつくる日本精神神経学会(理事長=佐藤光源・東北福祉大大学院教授)が、取り組みを始めた。学会内の委員会が「社会的にも医学的にもこの名称は不適切だ」として新たな病名案を三つに絞り、会員に意見を求めている。秋には有識者や一般の人たちを対象に公聴会も開く。
 来年8月には、「心の病に対する差別・偏見の解消」を活動の柱のひとつにしている世界精神医学会の12回大会が横浜市で開かれる。日本精神神経学会は病名変更を「脱・偏見」活動の一環と位置づけ、来年の大会までに新病名を正式に決定したい考えだ。
 新たな呼び方の案は、(1)原語(ラテン語)の読みをカタカナ表記した「スキゾフレニア」(2)疾病の概念と診断の確立に功績のあった人名にちなんだ「クレペリン・ブロイラー症候群」(3)原語を翻訳し直した「統合失調症(統合失調反応)」の三つ。学会内に設けられた「呼称変更委員会」が提案している。
 学会を動かしたのは、93年に全国精神障害者家族会連合会(全家連)が学会にあてた病名変更を求める意見書だった。
 そもそも、「精神分裂病」という言葉には「人間の人格自体がバラバラに分裂している」というイメージがあるといわれる。全家連が家族を対象に行ったアンケートでは、「患者は社会一般から『何をするのか分からない存在』と思われている」という意見が約6割を占めた。家族の約半数が、「病名を変更した方がよい」と訴えた。
 こうした意見を受け、学会は専門委員会を設けて検討を始めた。昨年発表された委員会の中間報告は、「精神分裂病」という病名が持つ否定的な印象が患者の社会復帰を妨げる要因のひとつになっているうえ、医師が患者に病名を告知しづらくなっていると指摘した。
 また、「精神分裂病」は本来、「太陽」といえば「夏」というような連想が分離し、「太陽」という言葉から、例えば「机」を連想してしまうという「連想の分裂」を意味する精神医学用語だった。それが、「精神機能そのものの全面的な分裂」という意味に受け取られるようになってしまったという。
 さらに「分裂」という症状だけでこの病気を代表させることは従来疑問とされていた。「精神分裂病」という否定的な言葉からは「症状が慢性的に進み、元に戻らない病気」という誤解が生まれやすい。こうしたことから病名変更が必要だと結論づけた。
 全家連は学会の動きに合わせ、新聞広告で市民から新病名を募集することを検討している。
 桶谷肇・事務局長は「学会と連携をとりながら、病名変更に患者、家族だけでなく一般の市民にも関与してもらうことが大切だと思う。『精神分裂病』という病名が持っている問題を広く知ってもらい、心の病に対する理解を深めてもらいたい」と話している。(14:35)

 

◆大阪府が箕面の精神病院に改善指導
 患者拘束が日常化/看護婦数、基準の半分
 01/08/31: 大阪読売朝刊 2社面

 看護婦数が法定基準を満たしていないうえ、患者の処遇も不適切として、大阪
府が、箕面市稲五の精神病院「箕面ヶ丘病院」(西川良雄院長)に対し、医療法
と精神保健福祉法に基づく改善指導を行っていたことがわかった。日常的に一部
の患者をひもで縛って身体を拘束するなど違法な実態が確認されており、府は病
院側から三十一日にも提出される改善報告を受けて是正状況を調査する方針。
 府によると、同病院は一九七〇年設立で、内科、精神科、神経科がある。すべ
て閉鎖病棟で、ベッド数は百二十八床。
 今月初め、府が立ち入り調査したところ、看護婦数が医療法の基準(二十二人)
の半数程度しか確認されなかった。病院側は看護婦数を二十五・四人と報告して
いたという。
 また、精神保健福祉法に基づく政令では、患者の尊厳を守るため、身体拘束を
緊急時などに限定し、指定医がカルテに記載することを義務づけているが、記載
のないまま、一部患者の腰付近をひもでくくってベッドとつなぎ、自由に動けな
くする行為が日常化していた。政令の規定で原則的に自由とされている電話や面
会についても、患者の希望通りにさせていなかったという。
 府は、こうした患者に対する不適切な処遇は、看護婦を法定基準通りに置いて
いない体制の不備から、繰り返されていたと判断。今月初め、看護婦を増員する
か、入院患者数を現在の看護婦数に見合う水準まで減らすため、転院などの措置
をとるよう、池田保健所長名で改善指導した。
 府に対し、病院側はこうした実態を認めているという。府は今後の調査で、十
分な改善が確認されない場合、知事名での指導など、より厳しく対応する考え。


◆法定基準違反・箕面の精神病院 診療報酬を不正請求の疑い
 大阪府/看護職員数を水増し
 01/08/31: 大阪読売夕刊2社面

 看護職員が法定基準(二十二人)を満たしていないなどとして、大阪府が改善
を指導している箕面市の精神病院「箕面ヶ丘病院」(西川良雄院長)が、府の三
十一日までの調査で実際には十二人の看護職員しかいなかったことが分かった。
診療報酬の請求先となる社会保険庁大阪社会保険事務局に対しても、医療法上の
基準数を満たしていると虚偽の申告をしており、同事務局は水増しした看護職員
数に基づき診療報酬を不正請求していた疑いがあるとして、不正分の返還を求め
る方針。
 府や同事務局によると、同病院はすべて閉鎖病棟でベッド数百二十八床。府や
同事務局などには看護職員数は基準以上の二十五・四人を配置していると申告。
患者六人以上に対して看護職員一人が必要な「特別入院基本料」での診療報酬を
請求していた。
 同事務局は今月上旬から、府の調査と並行して病院に立ち入りし、看護記録な
どを基に、基準通りの職員配置が行われていたかなどを詳しく調査している。同
事務局は、病院側が少なくとも半年以上、こうした不正請求を続けていた可能性
があるとみている。
 一方、西川院長はこの日朝、読売新聞の取材に対して、「保健所の指導にすべ
てお任せしているので、コメントは控えさせていただきます」と、病院職員を通
じてコメントした。

◆ 「箕面ヶ丘病院」が改善報告書提出 大阪府、近く立ち入り調査へ
 01/09/01: 大阪読売朝刊 2社面

 看護職員の水増し報告や入院患者の不適切な処遇があったとして、大阪府から
改善指導を受けた「箕面ヶ丘病院」(箕面市、西川良雄院長)は三十一日、府池
田保健所に改善報告書を提出した。医療法と精神保健福祉法に反する運営実態を
認めたうえで、是正措置を盛り込んでいる。府は、報告書通りに改善されている
かを確認するため、近く立ち入り調査を行う。


◆箕面ヶ丘病院の苦情が8年前から/電話隠し連絡妨害/患者外出は年2回
 01/09/02: 大阪読売朝刊2社面

 看護職員の不足や患者に対する違法な身体拘束などが大阪府の調査で発覚した
箕面ヶ丘病院(箕面市)は、「外出できない」「電話を制限された」といった退
院患者からの苦情が、府や市民団体に以前から寄せられていたことが一日、わかっ
た。患者のほとんどが任意入院なのに閉鎖的管理が目立ち、最近では病棟の公衆
電話を隠して外部への連絡を妨げていた。入院環境も長年、お粗末な状態が続い
ていた。
 市民団体・NPO大阪精神医療人権センターには約八年前から苦情が寄せられ
ていた。法律上、府や人権機関への電話は制限できないのに「通話先を職員に聞
かれ、家族なら『週一回にして』、府や人権センターなら『やめろ』と言われた」
などというものだった。 府が八月上旬に抜き打ち調査した時は、電話機そのも
のが隠され、どこにもかけられない状態だった。
 人権センターが昨年刊行した「大阪精神病院事情ありのまま」によると、スタッ
フが昨年八月に訪問した際、一部の病室は壁の結露が目につき、「雨の日はタラ
イを置く」と職員が話したという。
 任意入院は自由な外出が原則だが、病棟は二つとも閉鎖病棟。付き添う職員の
不足から、多くの患者は春と秋の年二回しか近くの公園にも出られない。「あと
の季節は風邪をひいたり、日光が強すぎたりするでしょ」と看護婦は主張した。
 金銭の自主管理は許されず、公衆電話を使うにも詰め所に申し出る必要がある。
通話用に渡される十円玉は「市外は五十円、市内は三十円まで」。面会に来た家
族と話す時も院長が必ず立ち会った。
 長期の患者にも私物用のロッカーはなかった。院長は「とった、とられたのケ
ンカになるから。当分の着替えだけあれば十分だ」「看護婦の人数は多くないが、
その分うちはアットホーム」などと語った。
 西川良雄院長は、読売新聞の取材に、「行政の指導の下、改善に努力している」
とだけ話した。

◆ 大阪・箕面ヶ丘病院/医師数も水増し/知事名で改善指導
01/09/06: 大阪読売朝刊 2社面

 看護職員数の水増しや患者の人権侵害が発覚した大阪府箕面市の精神病院「箕
面ヶ丘病院」(西川良雄院長、百二十八床)が、医師数でも法定基準を満たして
いないことが五日、府の調査でわかった。病院側は基準に適合する数を府に届け
ていたが、出勤簿の改ざんが確認されたため、府は虚偽報告と断定し、同日、太
田房江知事名で改善指導を行った。是正されない場合は、医療法などに基づく改
善命令に踏み切る。
 府によると、同病院は、医師数が法定基準の三人を下回る二人なのに府には三
・二人とするなど、偽った報告をしていた。病院側は水増しを隠すため、出勤簿
を改ざんし勤務していない医師を出勤としたり、看護職員のタイムカードを偽造
したりしていたという。
 府は病院側から改善報告を受けたが、隠ぺい工作などが裏付けられ、府の内規
に基づく「重大違反事項」に当たると判断。より厳しい指導に切り替えた。

 

◆毎日2001年10月16日 15:00
コンサート:精神障害者バンドが 18日に大阪・池田市役所で

 大阪府池田市は18日、人権啓発講座の一環として、精神障害者2人で作るバンド「ハルシオン」のコンサートを市役所大会議室で開く。大阪教育大付属池田小の乱入殺傷事件の被告に通院歴があったことをきっかけに精神障害者に対する偏見が広がったことを反省して企画した。メンバーは「僕らのありのままの姿を見て、人権について考えてほしい」と張り切っている。
 2人は大阪精神障害者連絡会(ぼちぼちクラブ)代表の塚本正治さん(39)と同事務局次長の下村幸男さん(39)。下村さんは大学時代に精神分裂病と診断され、塚本さんは25歳でうつ状態になった。自ら障害者であると公表し、95年にバンドを結成。バンド名は服用している薬の名にちなんで付けた。福祉の集会や街頭ライブで偏見や差別をなくすメッセージを訴えてきた。
 しかし、池田小事件で殺人罪などで起訴された被告と関連付けて、同府内などで精神障害者が袋を持って歩いていると通行人から「中に包丁が入っているのか」と言われたり、家主から賃貸契約を解除されるなどしたケースが相次いだ。池田市は「事件による偏見をなくし、正しい理解を深める必要がある」と福祉施設に相談。塚本さんらのバンドを紹介され、コンサートが実現することになった。
 講座のテーマは「届くなら歌を」。同市人権・同和課は「障害者自身のメッセージを参加者が家庭や職場に持ち帰り、差別を解消してほしい」と期待している。
 コンサートは18日午前10時15分〜同11時45分。無料。塚本さんらは、8月に自主制作したCDから、自作フォークソング6曲をギターやハーモニカで熱唱する予定で「精神障害者は何をするか分からない、などという世間の偏見をなくしたい」と話している。【村瀬達男】
[毎日新聞10月16日] ( 2001-10-16-15:01 )

 

◆[そして今]大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題(上)
 社会復帰阻む閉鎖病棟/長期入院、電話も隠され
01/11/04: 大阪読売・大阪府内版

 患者への人権侵害と職員数の水増しが八月に発覚した箕面市稲の「箕面ヶ丘病
院」(西川良雄院長、百二十八床)は、他の精神病院の関係者が「三十年前の感
覚」とあきれるほど、隔離収容主義の古い体質を引きずっていた。開放的な治療
と社会復帰に努力する精神病院も増えているのに、なぜこうした病院が残ってい
たのだろうか。                    (科学部 原昌平)

 府が八月八日に抜き打ち調査した時の入院患者は百二十一人。府は、病状の比
較的重い患者は転院、入院の必要がない患者は退院を図り、実際の職員数に見合
う数にするよう指導し、今では七十人台に減った。転退院に協力している大阪精
神病院協会は六十人にまで減らすよう求めている。
 転退院の内訳は十一月一日時点で転院二十九人、退院十四人。病状の軽い患者
は多く、池田保健所は十月二日に患者向けの「社会復帰説明会」を院内で開いた。
尼崎市など兵庫県出身の人が四割を占めることから、阪神間の保健所にも協力を
求めている。
 しかし住まいの確保が容易ではない。家族の協力が得られない人、身寄りのな
い人が多いうえ、大阪教育大付属池田小事件の影響で、精神障害者に対する偏見
が強まったからだという。

 関係者が驚くのは入院期間の長さだ。大半が十年を超え、三十年以上もざら。
ソーシャルワーカーはおらず、社会復帰の訓練もない。病院は五年前、社会復帰
促進と称してグループホームを隣に建てたが、全く使っていなかった。病院生活
に慣れてしまい、社会へ戻る勇気を持てない人が目立つという。
 「患者も家族も他の病院を知らず、精神病院に入ったらこんなものかとあきら
めていた感じ。彼らの人生の二十年、三十年は何だったのか」と池田保健所の精
神保健福祉相談員、野田美紗子さんは嘆く。

 箕面ヶ丘病院は措置入院先に指定されておらず、医療保護入院(家族同意によ
る強制入院)も十二人だけ。大半は任意入院で、退院も外出も本来自由なのに、
「事故があると困るから、外出は家族と一緒でないとダメ」と閉鎖病棟に閉じこ
めてきた。
 事実上、任意とは名ばかりの強制入院が行われていたといえる。だが、任意入
院の場合、行政への届け出が不要でチェックも少ない。
 府は六、七年前から外出制限の実態を知り、改善を求めていたが、「付き添う
職員が足りない」という弁明に、強い指導はしていなかった。

 関係者によると、診療内容もずさんだった。病名が精神分裂病なら、どの患者
も同じ二種類の薬で、量も同じという画一的な処方。カルテに医師の診察を示す
印は定期的に押されているが、病状の記述はろくにない。死亡した患者の診断書
は「急性心不全」という死因が多いという。
 病棟内やトイレの掃除、食事の配ぜんは患者の仕事だった。体の不自由な患者
の入浴介助やオムツの交換、植木の水やりまで、比較的元気な患者がやっていた。
 外へ連絡しようにも病棟の公衆電話はふだん隠され、郵便も握りつぶされた。

 府は年一回の精神保健福祉法による実地指導の際、患者数人を適当に選んで院
内の人権状況を聞く。しかし病院側は、その日だけ、本当のことを話しそうな患
者約二十人をバスで外に連れ出していた。
 「結果的に、話を聞いたのは病院に言いなりの患者ばかり。電話も自由にかけ
られる、という答えが返ってきた」と柳尚夫・池田保健所長は悔しがる。

◇写真=住宅地の一角に建つ箕面ヶ丘病院。目隠しのように樹木で窓を覆ってい
る(箕面市稲5で)


◆[そして今]大阪ニュース検証 箕面ヶ丘病院問題(下)
 抜き打ち調査、偽装発覚/「外部の目」導入急げ
 01/11/05: 大阪読売・大阪府内版

 大阪精神病院協会(大精協)には、民間四十八病院が加入する。「箕面ヶ丘病
院」(箕面市稲)もその一つだ。
 大阪では一九九七年、安田系三病院(廃院)の患者虐待や劣悪医療、職員数水
増しが問題になった。その反省を込め、大精協は九八年から年一回、スタッフが
互いに他の病院を見学して参考にする「ピアレビュー」を実施している。しかし
箕面ヶ丘病院は唯一、受け入れを拒んでいた。
 箕面ヶ丘病院の西川良雄院長は長年、大精協の会合に出ていなかったが、九九
年に大精協が刊行した病院紹介では「環境療養に重点を置き、質の高いスタッフ
を確保」「患者さんが主体的に判断し、行動できるように閉鎖から開放へ移行」
とうたっていた。
 その陰で、男女三人の患者が自由に動ける範囲を制限するため、窓の鉄格子に
ひもでつなぐなど違法な身体拘束が日常的に行われていた。府は、西川院長に精
神保健指定医として不適切な行為があったとし、九月、処分権限を持つ厚生労働
省に報告した。
 病院ではその後、非常勤の指定医を雇い、看護婦の研修を進めている。
 関山守洋・大精協会長は「とても病院とはいいがたい状態だった。三十一年前
の開設時と同じ意識でやっている病院があったのは驚きで、これまで実態を知ら
なかったのは非常に遺憾なことだ。現代の正しい精神医療を行えるよう改善させ
たい。助力と指導は惜しまない」と強調する。

 府によると、病院に実際にいた職員は常勤換算で医師二人、看護職員十二人。
それぞれ精神病院の医療法基準の66%、54%という少なさで、看護婦は六十
―七十歳代が多かった。
 発覚を防ぐため、辞めた看護婦の名前を借り、パート職員を常勤に装ってニセ
書類を作る、府の調査の時だけ人を集める、といった方法で水増しが行われた。
過去に問題となった他の病院と同様の典型的な手口だった。
 こうした偽装工作に効果的なのは抜き打ち調査。今回もそれで発覚した。府精
神保健福祉課の幹部は「意図的な不正には結局、抜き打ちしかないだろう。今は
確度の高い情報がある場合だけだが、疑いのレベルで予告なしに入ることも検討
したい」と話す。
 診療報酬上の入院基本料は看護職員一人あたりの患者数によって一日の単価が
決まる。箕面ヶ丘病院が届けていたのは「精神病棟特別2」という医療法基準に
満たない最低ランクで、もともと点数が低いので不正発覚に伴って返還すべき差
額は巨額にならないとみられるが、本来、悪質な手段で不正受給するのは詐欺に
あたる。近年、職員の大幅水増しが発覚した病院は、いずれも保険医療機関の指
定が取り消されている。

 問題病院がなくならない背景には、チェック体制の不備と患者支援の不足があ
る。
 大阪社会保険事務局で職員配置など診療報酬の「施設基準」を担当する職員は
たったの二人。受け付け事務にも追われ、実地調査すべき府内の病院、診療所は
千数百か所あるのに、月二、三か所しか回れていない。
 保健所には精神障害者や家族の医療・生活相談に乗る相談員がいるが、その人
数は池田保健所管内で計三人だけだ。
 箕面ヶ丘病院について、NPO大阪精神医療人権センターの山本深雪事務局長
は「もともと一般科より低い精神科の基準の半分という職員数で、まともな医療
ができるわけがない。何十年も時間が止まったような病院経営が放置され、精神
医療全体の足を引っ張っている」と指摘する。
 府の精神保健福祉審議会は昨年五月、様々な権利擁護団体のスタッフが閉鎖病
棟まで予告なしに「ぶらり訪問」して患者の相談に乗る制度を提言した。そうし
た「外部の目」がふだんから入るシステムを早く実現しないといけない。
      ◇
 箕面ヶ丘病院の西川院長は、読売新聞の再三の取材申し入れにも応じていない。

 cf.◇大阪精神医療人権センター



UP:2001
精神障害/精神障害者
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