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インシュリンショック療法

精神障害/精神医療 


◆「インスリン」より
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%B3

「1933年には、ポーランドの精神医学者マンフレート・ザーケルにより、インスリンを大量投与することにより低血糖ショックを人為的に起こさせて精神病患者を治療するというインスリンショック療法(Insulin shock therapy)が考案されたが、死亡例が多く、その後電気けいれん療法、薬物療法(クロルプロマジンに代表される抗精神病薬)などが登場したため1950年代には廃れた。」

◆風祭 元 20010530 『わが国の精神科医療を考える』,日本評論社,292p. ISBN-10: 4535981906 ISBN-13: 978-4535981904 2920 [amazon][kinokuniya] ※ m.

 「(5)インスリンショック療法
 インスリンショック療法は、膵臓から分泌されるインスリンの大量を注射して、重い低血糖反応を惹起させ、精神病症状を改善させる治療法で、わが国では昭和三〇年代まで広く行われていた。
 これは、ウィーン大学のザーケル(Sakel,M.)(8)が一九三三年に発表したもので、彼はその数年前にモルヒネ中毒の治療にインスリンを用いた際に、重い低血糖反応に遭遇し、その後に精神症状が軽快したことに着目して考案したという。彼は一九三五年にこの治療をまとめたモノグラフ"Neue Behandelung Methode der Schizophrenieを発刊し、これに基づいて各国で追試が行われた。
 技法の詳細は省くが、準備期(一〜二週間)には、早朝空腹時に一〇〜二〇単位のインスリンを皮下(筋)注し、一時間以内に朝食をとらせる。その後、毎日インスリンを一〇〜二〇単位ずつ増量し、朝食時間を遅らせる。第一回の昏睡に入ったら昏睡の時間を漸次延長し(いろいろな技法があるが通常三〇分程度まで)、一定の昏睡後に五〇%ぶどう糖液二〇〜四〇mlを静注して覚醒させ、濃厚な砂糖水を飲ませ、朝食をとらせる。昏睡は一日一回を約二〇回程度繰り返すので、一回の治療に一〜二ヵ月かかる大治療であった。昏睡が覚醒<0087<しない遷延昏睡や、午後に起こる後ショックなどもあり、治療者や看護者には熟練と絶えざる注意が要求された。
 治療成績は報告者によりさまざまであるが、緊張型、妄想型で発病初期の分裂病患者の寛解率は四〇〜五〇%とされている。」(風祭[2001:87-88])

◆西川 薫 20101230 『日本精神障礙者政策史』,考古堂書店,342p. ISBN-10: 4874997570 ISBN-13: 978-4874997574 342p. [amazon][kinokuniya] ※ m. ps. ist.

 第3章 第2節 身体に侵襲を加える身体療法の発展
 2.身体に侵襲を加える身体療法の発展 134-148
  3)ショック療法
   (1)インシュリン・ショック療法
 「ウィーン大学のSakelは、1933年に精神病の治療にインシュリンによる人工的な低血糖昏睡をはじめて用いた。これより以前にSakelは、モルヒネ中毒者の禁断症状を緩和し、興奮を鎮める目的でインシュリンを使用していた。昏睡に至らない程度の量のインシュリン注射によって低血糖状態をもたらす試みは、かなりの効果をおさめていた。彼は、この方法が他の精神病の興奮状態をやわらげるためにも役立つのではないかと考えた。そして、適当な注射量を模索試行しているうちに、何人かの精神分裂病患者が偶然にも昏睡状態に陥った。この不測の事故から覚醒した患者の中に、思いがけなく興奮がおさまり、精神症状が軽減したり、消退した例がみられた。これがインシュリン・ショック療法開発の糸口となった。すなわちインシュリン低血糖の昏睡が精神症状の改善に役立つということについて、何らかの理論的根拠を得てそれに基づいて治療方法が考案されたというよりは、まったくの偶然の経験からこの方法の開発が導きだされたというのが実情のようである。117)
 その後、各地の追試報告は、その成績の「優れていることを証明し、精神分裂病の特殊療法の輝かしい第1弾として世界に広がっていった 。118)日本でこの療法を最初に導入し報告したのは、1937年に久保喜代二であった。その後2、3の変法が提唱され、また他の痙攣療法などとの合併療法も考えられた。しかし手技の煩雑さと経済的な理由から特殊な場合を除いてはおこなわれなくなっていった。119)
 インシュリン・ショック療法を実施するには、1〜2週間の準備期が必要であり、この期間の第1日目に通例インシュリン10単位を皮下または筋肉内に注射する。2日目以降は、インシュリンの注射量を10単位ずつ増量し通例10日前後、インシュリン注射量が100単位に達するころから患者の低血糖症状が強くなる。低血糖症状第1期の終わりごろには、次第に意識の障害があらわれ、低血糖症状第3〜4期の治療的昏睡にまで進む。ショック期にはいって最初の昏睡は、15分くらいで中絶し、その後、持続時間を延長して最長1時間程度までにする。120)
 昏睡を中絶する方法としては、30〜50%のブドウ糖溶液20〜40mlの静脈内注射を施行すると通例5分以内に覚醒する。意識を回復した患者には、砂糖<0134<水を大量(200〜500ml)に経口摂取させる。通例1週のうち6日間を治療日とする。通例では、20〜40回をもって1クールとし、全治療期間は1.5〜2ヵ月とされた。症状の好転がみられない場合はそれ以上治療をつづけても効果がない場合が多いので他の方法が選択された。121)
 この治療法の開発は当初から精神分裂病を対象として進められたものであり、その他に躁病様の強度興奮の場合、激しい不安状態などにも試みられたことはあるが例外であった。精神分裂病のうちでは、他のショック療法と同様に緊張型に最も効果があったが、実際には他のショック療法があまり奏効しない妄想型などによく用いられた。その他の型の場合でも、より簡易な療法を一応試みたにもかかわらず効果がないようなときに施行され、まれに寛解をもたらすこともあった。治癒率ないし寛解率についての報告は、かなり幅があるが共通して罹病期間の短いほど治癒率、寛解率ともに高くなっている。日本では、林ワらが全国16病院の統計から、941例の患者のうち完全および不完全寛解の合計を48.2%、そのうち発病半年内のものが62.6%、半年〜1年が49.5%、1〜2年が33.3%であったと報告している。122)」(西川[2010:134-135])

117)懸田克躬編『現代精神医学体系 第5巻B』中山書店. 1977.35ページ
118)懸田編、前掲書、5-6ページ
119)懸田編、前掲書、35ページ
120)懸田編、前掲書、35-36ページ
121)懸田編、前掲書、36-37ページ
122)林ワ・秋元波留夫「精神分裂病の予後及び治療」『精神神経学雑誌』第43号 第10号. 1939.739-740ページ


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