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精神病院/脱精神(科)病院化・報道




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■関連事項(別頁)

施設/脱施設
精神病院/脱精神病院
精神障害/精神医療 
アメリカの脱入院化
精神病院不祥事件
十全会闘争(1967-)
東大病院精神神経科病棟(通称赤レンガ)占拠・自主管理(1969-)
岩倉病院問題(K氏問題)(1974-)
宇都宮病院事件(1984-)
「精神科特例」関連

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■報道〜1999

◆19840824 精神病患者の受け皿どこに(声)――朝日新聞

◆19841024 抜本策必要な精神医療 根深い構造的な欠陥 社会復帰施設の充実を――朝日新聞

◆19841211 精神医療の立ち遅れ 英国のジャーナリスト・コーエン氏(インタビュー)――朝日新聞

◆19850529 全国で初めての救急精神病院開設 短期集中治療めざす 千葉――朝日新聞

◆19850715 問われる「同意入院」 「病気ないのに」大多喜病院の2患者が訴え――朝日新聞

◆19850718 多喜病院の元患者会見 「暴行の実情」訴える ――朝日新聞

◆19850801 国際法律家委、日本に精神病患者の取り扱い改善を勧告――朝日新聞

◆19850817 「不法入院」疑惑の大多喜病院を検証 故意立証へカルテ撮影――朝日新聞

◆19860303 お医者さんはなぜ「先生」か(社説)――朝日新聞

◆19861101 ツンイ・リン氏 日本の精神医療を批判(人きのうきょう)――朝日新聞

◆19870628 人生を病院に捨てないために(社説)――朝日新聞

◆19880427 家族(テーマ談話室)――朝日新聞

◆19881218 入院の半数が65歳以上 多い脳卒中患者 厚生省調査――朝日新聞

◆19891024 デンマーク・アンデルセン元福祉大臣に聞く(デンマークの福祉)――朝日新聞

◆19901225 石川信義・三枚橋病院院長 精神医療(直言曲言) 群馬――朝日新聞

◆19910815 精神医療、入院偏重を見直し 「予防」「在宅」を充実 厚生省方針――朝日新聞

◆19911114 精神障害者受け入れ施設づくりに支援を 16日、横浜でバザー――朝日新聞

◆19911129 「自立の家できた」 精神障害者自ら運営 横浜・港南区――朝日新聞

◆19921216 妻の話だけで精神分裂病と診断 病院側に賠償命令 福岡地裁【西部】――朝日新聞

◆19940611 生活保護患者たらい回し? 伊勢原日向病院運営の三井会 /神奈川――朝日新聞

◆19961001 国の責任、一転し認定 宇都宮病院の「違法な強制入院」訴訟 /栃木――朝日新聞

◆19970410 役所巡り、患者集め 「満床状態」ほぼ確保 安田系3病院 【大阪】――朝日新聞

◆19970522 診察まれ、まず「点数」 職員水増し問題の安田系3病院 【大阪】――朝日新聞

◆19970523 病院監査は「予告なし」で(社説)――朝日新聞

◆19970527 老人・精神医療の拠点病院、県立で初めて誕生 協和町で開所式/秋田――朝日新聞

◆19970613 「精神保健福祉士」実現は急務 国家資格化で人材確保――朝日新聞

◆19970706 PSW 精神障害者・地域のパイプ役(私の出番)――朝日新聞

◆19970728 オンブズマンで病院監視 人権センター・山本事務局長に聞く【大阪】
――朝日新聞

◆19971019 自立促すサービス摸索(列島細見 くらしの場から) /東京・共通――朝日新聞

◆19980220 入院3人に1人、行政機関経由で 安田系3病院を調査 【大阪】――朝日新聞

◆19980415 悪徳医療は許さない 安田病院(社説)――朝日新聞

◆19980507 診療報酬改定で長期入院抑制、要治療の高齢者は対象外に――朝日新聞

◆19980925 患者の人権、陰で侵害 違法の疑い 新潟の国立療養所 【名古屋】――朝日新聞

◆19981225 8病院、精神病の入院患者に結核定期検診せず 法的義務なく/栃木――朝日新聞

◆19990710 精神病ケア、現状は家族頼み 粥川裕平(ストレス手帳) /愛知――朝日新聞

◆19991121 専門家が理解訴え「精神障害者と共に」 和歌山で市民講座/和歌山――朝日新聞

◆19991126 精神病院のデータ公開 選ぶ手がかりに一覧 大阪の団体 【大阪】――朝日新聞

◆19991214 松口病院、投薬減らし再発誘導? NPOが改善を勧告 【西部】――朝日新聞



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◆19840824 精神病患者の受け皿どこに(声)――朝日新聞

市川市 式場  聡(精神科医師 58歳)
 日本の精神障害者の人権について国際人権連盟から批判されたことが報じられ、十八日付社説で「日本の精神医療は、さまざまな点で後進性をかかえている」と指摘されている。
 入院ベッド数が人口比で米国や英国の二倍くらいなのは事実で、在院日数も長期化している。米英で精神病院ベッドを三分の一に減らし地域病院を治療の中心に据えているのも事実である。日本の場合、通院医療で治療可能な障害者が欧米より少ないということではもちろんなく、そのような障害者が数多く入院していて退院もできないのである。
 米国は一九六〇年代から精神病院の縮小化を図り、患者を開放して来た。このため私どもの調査でも、病気の治ってない人々が、医療を伴わぬ福祉施設、老人ホーム、特別養護ホームなどに満ちあふれ、一部は浮浪者として道端にいるか、軽犯罪あるいは重犯罪者として刑務所をふくれあがらせている。
 米国の精神科治療費は、日本の病院の二十倍、医療ぬきの地域施設でも一・五倍かかる。ところが日本では、特別養護老人ホームが精神病院より二割高い。だから為政者が、病院より金のかかる中間施設など造るはずはない。
 米国は医療費が高いので長期在院が許されない。日本は精神病院が安いから長期入院が増える。我々は病める人を治す義務がある。退院させる病者の受け皿はどこにあるのか。マスコミも突っ込んだ報道をしてほしい。



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◆19841024 抜本策必要な精神医療 根深い構造的な欠陥 社会復帰施設の充実を――朝日新聞

患者のリンチ死などが明るみに出た報徳会宇都宮病院事件が、ジュネーブの国連人権小委員会で取り上げられるなど、わが国の精神医療のあり方に国際的な批判が強まっている。そうした中で、栃木県、大阪府下の精神病院で新たに患者に対するリンチや無資格診療が発覚している。一連の不祥事は、日本の精神医療の構造的欠陥に根ざしたものといえ、個々の事件への対応だけですましてはなるまい。抜本的な見直しが迫られている。(水野 孝昭記者)
                                    
 九月以降明るみに出たのは、栃木県河内町の聖十字病院での患者リンチ事件、同県益子町、桂慈会・菊池病院の無資格診療、大阪府・熊取町にあり、日本の民間精神病院の草分けといわれる爽神堂七山病院での無資格診療だ。菊池病院では、院長自らカルテ改ざんを指示、無資格診療の証拠隠滅を図った疑いももたれている。また、民間病院を監督する立場にある県職員の医師が六年間もアルバイトしていたこともわかった。
                                    
 ○警察捜査まで批判
                                    
 栃木県は、報徳会宇都宮病院後の事態に衝撃を受け、百人を超す職員で「特別医療監視班」を編成、十月中旬から精神病院の集中監視を始めた。菊池病院事件では、医療の関係者から無反省とも思える発言があった。九月下旬開かれた栃木県精神衛生協会臨時総会で「宇都宮病院とは本質的に異なる軽微なもの」と位置づけ、「無資格診療は無免許運転程度のこと」として、警察の強制捜査は行き過ぎと批判した。
 摘発の根拠となった診療放射線技師及びエックス線技師法は「医療機器が発達した現場に沿わない時代遅れの法」として法改正を求める動きも出た。日本の精神医療が抱える問題の根深さを認識しているはずの関係者から出た発言だけに、道遠しを思わせる。
                                    
 ○変わらぬ営利主義
                                    
 日本の精神医療体制に占める私立精神病院の比重は極めて高い。厚生省は昭和三十三年、精神病院の医療従事者は、医療法上の必要数の三分の一でよいと特例を認め、その後、措置入院費の国庫負担率を上げた。これを機に私立精神病院の新設、増床が相次いだ。五十八年の病床数約三十二万六千の87%を私立病院が占める。「無免許運転」発言のような高姿勢の背後には、こうした現状もある。
 精神科の外来診療は、時間がかかる割に点数評価が低い。収入の95%を入院収入でまかなう病院も珍しくなく、入院患者は許可病床を約一万人も超えている。長期入院で稼ぐ−人件費を抑えるため、慢性的医療スタッフの不足−無資格診療−リンチなど暴力的管理、患者の人権無視といった悪循環が生じた。中でも精神病院の常勤医は百床当たり一・五人に過ぎず、スタッフ不足は深刻だ。
 薬物療法など治療上の進歩に合わせ、患者を閉じ込めておくだけでなく開放医療を行う。さらに社会復帰をめざす訓練をする「中間施設」をつくるなどの対応が必要だ。米、英では、入院中心主義から、開放医療政策に移し、この二十年間、入院患者は減り続けている。日本でも良心的な医療関係者は、これらに取り組んでいる。
 だが、開放医療を行っている群馬県・三枚橋病院の石川信義院長は「人手をかけて活発に患者に働きかけるよりも、何も治療せず患者をすし詰めにして、薬だけ与えておく方が経営上有利な仕組みは、少しも変わっていない」という。
                                    
 ○進まぬ国の改善策
                                    
 精神衛生法で義務づけられた県立精神病院を未設置の県が埼玉など八県。地域精神医療の核となる精神衛生センターのない県が群馬など六県ある。国や県が担うべき精神医療を私立病院に肩代わりさせ、社会復帰に欠かせない訓練施設の建設は遅々として進まない。国の政策は昭和三十三年の厚生省通達の域にとどまっている。
 精神科の入院医療費は五十二年から五年間で34%伸びて、五十六年には七千億円を超えた。政策を転換し、精神科の診療報酬体系を見直し、入院医療費の一部を、精神科救急医療体制の確立、社会復帰施設の充実、などに振り向けることが必要だ、とする声は多い。
 厚生省の野村瞭精神保健課長は「退院患者の受け皿が不足しているため、日本の精神病院は、欧米の中間施設の役割も果たさざるを得ない側面がある」という。さらに「在宅ケアの実現と退院後の就労対策に力を入れ、入院中心の医療から社会生活の中でのケアへ政策の力点を移していきたい」「患者の社会復帰への道筋が確立できれば、閉鎖病棟内の人権問題の根本的解決にもなる」とも語る。
 だが、病床数の削減や、精神衛生法の改正などの具体策については、「家族などからの入院への希望もある」(大池真澄保健医療局長)、「法改正が必要か、制度の運用改善で対応するか検討中」(野村課長)と、慎重だ。



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◆19841211 精神医療の立ち遅れ 英国のジャーナリスト・コーエン氏(インタビュー)――朝日新聞

報徳会宇都宮病院の患者リンチ死などが明るみに出たのをきっかけに、わが国の精神医療の立ち遅れは国際的に注目されるようになった。コーエン氏は日本の精神医療について、専門誌への報告やテレビ番組製作の事前調査のため十一月中旬に来日、産業界、大学、研究所、日本精神病院協会の医師らに会って取材した。日本の実情を知ってどう感じたかなどを聞いた。
 (聞き手・津山 昭英記者)
           
 −−宇都宮病院事件を知ってどう思ったか。
 「英国の新聞にも大きく載った。精神病院での暴力は誇張される場合が多いので、すぐには信じられず、自分で確かめたいと思った」
 −−来日してみて、事件の取り上げられ方の印象は。
 「短期間の滞在で三病院一診療所しか見られなかったが、いろいろな立場の精神科医と会うことができた。これだけのスキャンダルがあったのに、政府自らがほとんど何もしていないという話で、驚いた。英国では考えられないことだ」
 −−英国でも不祥事があったそうだが。
 「数年前、国立のブロードモア精神病院などで暴力横行などが二件明らかになり、政府は調査委員会を設けて調べた。その結果、強制入院から六カ月以内に入院が必要かどうかの審査を受けられるようになり、短期入院でも七十二時間以内に不服申し立てができるようになった」
 −−英国の患者の状況は。
 「約二百万人のうつ病、約二十五万人の分裂病患者がいる。しかし、年間の全入院患者は約十五万人しかいない。その約10%が強制入院で、残りは自分の意思で入院する。なるべく入院させないようにしているし、入院期間は短い。患者は主治医の治療方針が嫌なら、別の医師に意見を求めることができる」
 −−日本の入院患者約三十三万人の80%は、本人の意思にかかわりなく家族や市町村長の同意で入院させられ、入院期間も長い。
 「緊密な家族制度があって、父母や兄弟が患者の世話をしている。それならなぜ、良くなって退院しようとする患者を家族が引き取らないのか」
 −−長期入院になるのは、地域の受け入れ態勢もあるが、民間病院が営利優先のため患者を多く確保しようとするから、とも言われる。
 「病院経営者に問題があることも聞いた。滞在期間が短く、十分に調べる時間がなかったので、今は触れたくない。一つはっきりしているのは、医療費が余りにも低いことだ。英国では患者一人当たり、一週間に六、七百ポンド(約十八−二十一万円)が支払われている。日本では一カ月に六、七百ポンドだ。これだけ豊かな国なのに。金がなければ、治療にも限界がある」
 −−精神病に対する見方が、日本と英国ではかなり異なるように感じられるが。
 「精神病はだれでもかかる病気で、治療さえすれば社会で十分暮らしていけるということが、日本では余り知られていないようだ。日本では、精神病患者と言われるのを嫌い、患者として数えないようにしているのと、医者にかかるのを嫌がっているからだ。ロンドンの政治的には保守的な私の知人でも、精神病の友人をパーティーに招いたりする。しかし、二十年前には英国でもこういうことはなかった。新聞やラジオ、テレビが、精神病患者がごく普通に生活していることを繰り返し報道して、国民の意識を変えた」
        
 <略歴> デビッド・コーエン オックスフォード大で心理学を専攻。英国の精神医療についてテレビ番組を九本製作、著書も六冊ある。1981年に製作した「私はブロードモアにいた」は反響を呼び、患者の人権保障を強化した法改正への一つの契機となった。38歳。



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◆19850529 19850529 全国で初めての救急精神病院開設 短期集中治療めざす 千葉――朝日新聞


自殺や傷害などにつながりかねない急性期の精神病患者を24時間体制で受け入れる、日本で初めての救急精神病院「千葉県精神科医療センター」(千葉市豊砂、計見一雄センター長)が30日に開所、来月1日から患者を受け入れる。短期間に集中的に治療し、1カ月以内の退院を目指している。宇都宮市の報徳会宇都宮病院事件などで指摘されたように、長期入院が問題化している日本の精神病院の中で、「将来の精神医療のパイオニア」と関係者は期待している。
 同センターは、千葉県が「民間の精神病院には難しい、高度な救急医療施設」(同県医務課)を目指して45年から計画を進め、同県企業庁の埋め立て地に総工費約10億円をかけて建設した。ベッド数は40で、医師7人を含めて70人のスタッフが治療に当たるが、これは200床の病院に匹敵する体制だという。
 患者は原則として1カ月、長くても3カ月以内に退院させる。退院後は、どうしても長期入院が必要な場合は転院させるが、ほとんどは「デイホスピタル」と呼ぶ通院治療や生活訓練に移行させ、早期の社会復帰を図る。集中的な治療のためにスタッフの充実のほか、最新の検査機器をそろえるという。
 精神科の救急医療は、他の診療科と違って健康保険がきかない場合もある。また、患者に手がかかり、高度な内容が要求される救急医療には費用がかかるなどのため、東京・墨東病院などごく一部の病院が、夜間、休日を含めた救急病院的な役割を果たしているだけだった。
 また、宇都宮病院事件で問題になったように、精神病患者の必要以上に長い入院期間が、日本の精神医療の問題点として以前から指摘されており、初期に集中して治療してくれる施設が少ないことが、その一因といわれていた。このため、患者の家族や、精神科医の間で、他の診療科のような、救急医療施設の必要性を訴える声が高まっていた。



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◆19850715 問われる「同意入院」 「病気ないのに」大多喜病院の2患者が訴え
――朝日新聞

白百合会大多喜病院(千葉県・大多喜町、鶴岡孝人院長)に入院していた患者の急死が「暴行による内臓破裂のためではないか」との疑いが表面化したが、同病院の2人の元入院患者が「精神病でないのに長期入院を強いられた」と不法入院を訴え、うち1人は15日までに千葉県警に監禁の被害届を出した。2人とも「家族の同意」だけで入院させられたが、この日本独特の「同意入院」制度が改めて問われそうだ。また、精神障害者の人権問題に取り組んでいる精神科医、弁護士グループは、「ほかにも入院の必要がない患者がいるらしく、多数が違法拘禁されている疑いが強い」として、入院患者全員について調べ直すべきだとしている。
    
 病院側、不法入院を否定
    
 被害届を出したAさん(76)によると、昨年6月、同居している義理の息子に殴られ、「今度暴力をふるったら、手をたたき切ってやる」と家族にいった。驚いた家族が保健所に通報。「腹立ちまぎれに暴言をはいた」だけなのに、同月12日朝、私服警官と一緒に来た保健所員が「大多喜病院に行ってほしい。いやなら病院から車で迎えに来てもらう」と言ったため、仕方なく、家族と病院に行った。
 医師が10分間ほど面接して「精神に異常はないが、きょうは興奮しているから、2週間ほど泊まっていけ」と言われ、3人の看護職員に閉鎖病棟に連れて行かれ、そのまま約8カ月間の入院となった。
 毎週1回、一室(8人)あたり5分間程度の回診を除いて診察はほとんどなく、治療といえば投薬だけ。医師から病名をいわれたことはない。今年2月になって主治医から、同病院系列の老人ホームを勧められて移ったという。
 今月2、3の両日、Aさんを診察した精神科医の広田伊蘇夫・病院地域精神医学会理事長は、「精神衛生法第3条に該当する精神障害の症状はないと判断する」と診断、「なぜ、こんなしっかりした人が精神病院に入院したのか、よくわからない」と首をかしげている。
 もう一人のBさん(32)は一昨年12月、父親への「家庭内暴力」で警察に連行され、Aさんの時と同じ保健所員に、「精神鑑定をさせて下さい」と大多喜病院に連れて行かれた。医師の2、3分間の面接で入院が決まり、その後、院長との面接で事情を説明すると、「両親と相談して退院の日取りを決めましょう」といわれたが、それっきりだった、という。Bさんはせき髄の病気で歩行が不自由なため、高校中退後は定職がなく、父母といさかいが絶えなかった。
 Bさんは先月末に泌尿器系の治療のため転院、今月初めに別の病院で精神鑑定を受けたが、異常なかった。
 2人の入院について病院側は、「Aさんは、日本刀を振るって暴れたと家族に聞いたし、Bさんは入院後もけんかしたりした。2人とも家族からは退院を迫られたわけではないし、むしろ家には引き取りたくない意向のようだ」という。2人の病名は「性格異常」と説明している。
 Aさん、Bさんは、ともに家族が保護義務者となって入院に同意した「同意入院」で、本人の意思がなくても入院が決められる。弁護士らは「家族間の争いで『精神異常だ』といわれ、病院で診断が出て入院すると、本人が『正常だからいやだ』といっても救済手段がほとんどない。現行法の規定は、人権上極めて不十分だ」と指摘している。
    
 <同意入院> 精神衛生法33条に定められた一種の強制入院制度。精神病院が入院の必要を認め、家族など保護義務者の同意があるときは、本人の同意がなくても入院させることができる。知事の審査で退院する道も定めてあるが、本人の訴えで審査にこぎつけることは通常は難しい。



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◆19850718 大多喜病院の元患者会見 「暴行の実情」訴える ――朝日新聞

千葉県大多喜町の精神病院、白百合会大多喜病院(鶴岡孝人院長)の入院患者が看護職員に暴行されて急死した疑いが出ている問題で、同じ病棟に入院していて暴行現場を目撃したという人と、「精神病でないのに長期入院を強いられた」と千葉県警に監禁の被害届を出した人が17日、国会内で記者会見した。事実関係を説明したあと、2人は「入院の必要がない人たちを早く出してやってほしい」と口をそろえて訴えた。
 会見した千葉県在住の無職Aさん(32)は58年12月から今年6月まで、農業Bさん(76)は昨年6月から今年2月まで大多喜病院に入院していた。
 2人とも、「精神病院の実情を知ってもらいたくて」と、公の席に出た理由を説明した。社会党精神・老人病院等対策特別委員会メンバーが立ち会った。
 昨年5月15日、「内臓挫傷」などのため死亡した男性患者(当時44)が、その3日前に、大多喜病院の浴室で看護職員1人に暴行されたとして、Aさんは現場見取り図で説明しながら、その様子を話した。
 「脱衣所で服を脱いでいると、看護士が全裸の患者を引きずるようにして入ってきて、患者を床に投げ落とした。左目あたりを2度けとばし、血がにじんだ。そのあと、洗い場に投げ飛ばし、患者の体が浴槽にぶつかった。さらに床に倒し、腹を3回けった。患者がぐったりすると、入浴中の他の患者に体を洗わせ、再び引きずるようにして連れて行った。浴室には患者が7、8人いたが、看護士が怖くて何も言えなかった」
 Bさんは、同居していた娘むこに殴られた際、「今度、暴力をふるったら軍刀で手を切り落とす」と言ったのが本気にとられ、家族の保健所への通報で入院させられた、と入院のいきさつを説明。「再三、退院を迫ったが、受け入れてくれなかった」などと話した。
 2人の話では、一緒だった第3病棟の患者約80人のうち、約20人は入院の必要がないように見えた、という。



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◆19850801 国際法律家委、日本に精神病患者の取り扱い改善を勧告――朝日新聞

【ジュネーブ31日=柳沢特派員】ジュネーブを本拠に、人権擁護で幅広い国際活動をしている国連の非政府組織、国際法律家委員会(ICJ=N・マクダーモット事務局長)が31日、「日本の精神病患者の人権と取り扱いに関する実地調査」の報告書を発表した。日本の現状を「先進国としては極めて不十分で、立ち遅れている」と厳しく指摘したうえで、精神衛生法の改正、行政及び医療従事者の再教育の必要などを「国家的に最優先すべきもの」と早急な改善を勧告している。
 報告書では、とくに(1)患者の入院手続きと入院中の保護の欠陥(2)長期入院を主とする治療とリハビリテーションの欠如−−の2つを挙げ、「これらが人権侵害を助長している」ときめつけている。その土壌として、精神病患者に対する社会的偏見の存在も指摘してる。
 報告書はこうした分析から、早急に取るべき改善策として(1)家族の同意で入院させる同意入院及び措置入院の強制入院患者に対し、入院1カ月以内に入院が必要かどうかを独立した機関が審査し、さらに少なくとも年に2回審査する(2)自治体に、患者の異議申し立てを受けつける独立した監視委員会設置(3)すべての精神病院の定期的な査察制度(4)患者への情報提供と外部への連絡の自由の確保(5)すべての事故を独立機関に報告する制度−−などを勧告している。
 また、厚生省や地方自治体が、患者の社会復帰やリハビリテーション計画作りに積極的役割を果たすべきこと、治療に携わる関係者の再教育の必要などを指摘している。
 この報告書は先月、日本政府に提出された。これに対し日本政府は、(1)有益な指摘は参考にする(2)現段階では、ICJの正式見解なのか、一部に誤解があるのではないか、などを指摘したい−−と答えた。だが、ICJは調査した専門家の見解であること、誤解はない旨を明らかにしている。
 報徳会宇都宮病院での患者虐待死亡事件などをきっかけに、日本国内で患者の人権擁護の動きが起こったのを受けて、国連人権小委員会(差別防止・少数者保護小委)でも昨年夏、いくつかの国際機関が、日本の精神衛生行政の現状を批判した。
 今回の調査報告書は、ICJと国際保健専門家委員会(ICHP)が合同で組織した3人の専門家による調査団が、今年の5月、約2週間にわたって実地調査した結果をまとめた。



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◆19850817 「不法入院」疑惑の大多喜病院を検証 故意立証へカルテ撮影

患者の暴行死の疑いや不法入院の訴えが問題になっている白百合会大多喜病院(千葉県大多喜町、鶴岡孝人院長)に対し、千葉地裁一宮支部(慶田康男裁判官)は「病気でないのに入院させられた」とする元入院患者(76)から出されていた証拠保全の申し立てを認める決定をし、16日、病院を検証した。検証では、この患者のカルテや看護日誌などを証拠として写真に撮った。検証に立ち会った弁護士は、今後カルテなどを分析し、病院を相手取って「不法入院」による損害賠償を求める訴えを早急に行いたい、としている。
     
 申し立てによると、この元入院患者は、59年6月12日から60年2月7日まで、保護義務者の同意により、閉鎖病棟に入院させられていた。この間、入院時に簡単な診察のあと医師と面会できたのは3回だけで、病名を言われたこともなく、治療を受けたこともなかった。退院時には主治医から「病気でない者を入れておくと処罰されるので、老人ホームへ行け」と言われた、としている。
 こうした経緯から、この人は「精神病ではなく、強制入院の必要もないのに長期入院させたのは、病院側の故意の過失である」として損害賠償請求訴訟を起こすことにしており、立証に必要なカルテなどの証拠保全を請求していた。また、先月半ばには監禁の被害届を千葉県警に出した。
 検証は午前11時から始まり、裁判官らが大多喜病院側に、決定書を示し、この人の入院同意書、カルテ、看護日誌、検査記録の提出を求めた。そのうえで、提出された書類を1枚、1枚、写真に撮影した。
 病院側の説明では、この人は「日本刀を振って家族を脅した」という理由で娘らが同病院に診察に連れて来て、即日、「精神病質(性格異常)」の診断で入院させられた。しかし、本人は、「娘むこに殴られたので、腹立ちまぎれに、日本刀で切るぞ、と暴言を吐いただけ」といっている。
 また、別の病院の複数の精神科医によると(1)「精神病質」という概念そのものが、精神病といえるかどうか、以前から学界で論議になっている(2)最近では、この病名だけで入院させることは避け、細かい診断基準と合わせて慎重に結論を出すようにするのが普通である、という。このため千葉県内のある精神科医は「一般論だが、精神病質というだけで、本人の意思に反して強制入院させたとすれば、常識外れだ」と指摘している。
     
 検証に立ち会った永野貫太郎弁護士の話 不当に入院させたのは明らかで、カルテなどの分析から今後、大多喜病院の体質が明らかになっていくと思う。
     
 鶴岡孝人院長の話 精神病質ということで入院させた。老人性の精神障害で性格異常だった。家族と折り合いが悪く、引き取り手がなく退院が延びたが、病院では、患者の不満があればよく聞いてきたはずで、心外だ。



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◆19860303 お医者さんはなぜ「先生」か(社説)――朝日新聞

入院の期間が長びけば長びくほど病院の収入が減るようにする。そのかわり「短期決戦型」の入院は報酬を高くする。「非入院型」の診療、たとえば、寝たきり老人の訪問診察やアルコール依存症の通院集団精神療法を重視して健保がきくようにする−−。
 こんな内容を盛りこんだ厚生省の診療報酬改定案が、中央保険医療協議会で認められ、4月1日から実施されることになった。
 これには、「総医療費削減を意図したもの」「入院患者を追い出そうとするのか」といった非難の声があがるかもしれない。
 一方、「入院生活は決して自然の姿ではない。なるべく早く住みなれた家に戻して医師や看護婦が訪問する方が回復が早い」「夜通えるナイトケアがあれば、学業や仕事を中断させずに心の治療ができる」「寝たきりの人でもデイケア治療を続ければ身の回りのことができるようになる」と考え、赤字に悩みながら脱「入院治療」を実践していた人たちは、今回の改定を歓迎することだろう。
 全体としてみれば、この改定は日本の医療の質を向上させるための1つの足がかりになると思われる。
 質の悪い品物を売ったり、サービスが劣っていたりすると、客足が遠くなって収入が減る。質の向上をはかれば良い評判がたって収入が増す。自然の競争にまかせておけばサービスや技術の質の向上がはかられる。これが資本主義経済のプラス面である。
 残念ながら、日本の医療の中では、おしなべて、このような市場メカニズムがうまく働かない。お年寄りの長期入院や精神病院の閉鎖病棟への入院に、その傾向が著しい。患者や家族に医療の質の良しあしを正確に判断する知識がしばしば欠けているうえ、患者自身の発言や逃げ出す自由が制限されているからである。
 それをいいことに、看護や食事の質を落とす。薬づけ、検査ぜめにする。ボケたお年寄りをむやみにベッドにしばりつける。チェーン病院同士で医師、看護婦の名義を貸し借りして頭数をごまかす。そんな病院が栄えたりしている。
 日本国際交流センター(山本正理事長)の主催で、さきごろ開かれた高齢化問題日米政策研究大磯会議でも、この問題が焦点の1つになった。
 医療技術や医学知識の不足から、寝たきりや老人ボケがつくられ、安易な長期入院が病院ボケをつくって退院をさらに困難にしていること、そのような危険性について少なからぬ医師たちが無関心であることが日米双方から報告された。
 このテーマについての結論は、市場メカニズムが医療の質の向上についてもプラスに働くためには、患者側が自由な決定権を持ち、その結果、医療供給側が競争にさらされること、さらに医療の場が人びとの目にさらされていること、少なくともこの2つの条件が必要だということだった。
 脳卒中で倒れたお年寄りや心を病んだ人たちに、長期入院の道しか開かれていないとすれば、医療供給側に競争は働きにくい。しかし今回の改定を手始めに、通院治療、在宅治療が着実に充実し、質の高い良心的な医療を志す人たちに手厚く報いる診療報酬体系が成熟してゆけば、入院治療の質が向上する基盤もできる。
 ただし、医療の質を向上させるカナメは、医療チームのリーダーであり、他の医療機関の質を判断する力を持っているはずのお医者さんである。「先生」と呼ばれるにふさわしい研さんと見識を求めたい。



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◆19861101 ツンイ・リン氏 日本の精神医療を批判(人きのうきょう)――朝日新聞

カナダ、ブリティッシュコロンビア大学医学部名誉教授で、世界精神衛生連盟名誉総裁のツンイ・リン=林宗義=博士(66)が、全国精神障害者家族会連合会の招きで来日、31日午後、東京・日比谷公会堂で「精神障害者の社会復帰をいかに促進するか」と題して講演した。
 当時、日本の植民地だった台湾で生まれ、東大医学部で学んだ博士は、終戦とともに台湾に戻り、初の精神科医に。その後、米、英などに留学し、世界保健機関の研究員として欧米各国を見て回るなどした。
 ことし4月には、厚生省から精神衛生法改正についての意見を求められた。「いったん入院すると、薬漬けにされ、長期入院させられることが一番問題。入院治療主義が中心の現行システムをそのまま保っていくのか」などと日本の現状に厳しい指摘をしている。



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◆19870628 人生を病院に捨てないために(社説)――朝日新聞

日本の入院期間は諸外国と比べるとかなり長い。米国の7倍、フランスの4倍、西ドイツの3倍……。老人や精神病患者では、この差はさらに著しい。
 長期入院の是正策など、いくつもの改革案を盛りこんだ厚生省の医療総合対策中間報告が公表された。老人医療費の急増が予想される超高齢社会の到来にそなえ、「質のよい」医療サービスを「効率的に」供給するためのシステムづくりを医療改革の中心に据え、結果として医療費の膨張を抑える、という旗印を掲げている。
 旗印自体に異論はない。しかし、長期入院の是正という目標ひとつとっても、実現するのは並たいていでない。
 まず、日本人の「文化」を変えていかねばならない。日本のお年寄りの入院日数が長い理由の一つに、病院に入院させるのが最善の孝養だという「常識」がある。それがお年寄りの人生の最期をどれほど寂しくさせようと、世間体が優先してしまう。
 病院中心の教育を受けた医師の「善意」も入院を長びかせる。たとえば、がんによる平均入院期間は日本54日に対しフランス11日、米国10日である。残された日々を住みなれたわが家で過ごしたい、という患者の希望は、日本ではめったにかなえられない。このような「文化」が変わらぬかぎり、入院治療が必要でない人びとが病院に長く居続けることだろう。
 諸外国なみの入院期間にするには、質のよい治療で回復を早めねばならない。それにはたとえば、欧米なみの看護体制が不可欠である。日本の病院は高額な医療機器がたくさんあるのと対照的に、職員の数が少ない。
 日本で最高の特2類という看護体制は、欧米諸国ではナーシングホーム、つまり日本の特別養護老人ホームくらいの水準にすぎない。これでは手厚い看護は受けられず、病状がダラダラと長引くもとになる。
 退院した患者が安心して自宅で療養を続けられるための受け皿づくりも急がねばならない。報告書の中にも「訪問看護の拡充」が挙げられている。大切なのは、訪問看護婦に、現場で独自の判断をする権限と経済的な裏づけを与えることである。もちろん地域の医師との緊密な連携は不可欠だが、細々したことまでいちいち医師の指示を受けるのでは、訪問看護の仕事は現実には成り立たない。
 訪問看護に加えてホームヘルパーがヨーロッパなみに配置されるようになれば、家族が退院に難色を示すことも少なくなることだろう。「新たに検討する」と報告書に書かれている「ケア付き住宅」もヨーロッパなみに配置されれば、身よりのない人も安心して退院できるに違いない。
 長期入院をやみくもに制限し、病院からお年寄りや慢性病患者を追い出しても、受け皿がなければかえって、この人たちにみじめな思いをさせるだけである。
 日本の病院が患者の退院になぜ消極的か、も分析してみる必要がある。日本の1日あたりの入院費は安い。米国の9分の1、フランスの5分の1、西ドイツの4分の1である。つまり、日本の病院は「薄利多売」で経営のつじつまを合わせてきたことになる。
 毎年1兆円ずつふえる医療費は、確かに驚異である。だが、その伸びに目を奪われ、医療費削減にのみ熱中すると、取り返しのつかぬことになる。医療や福祉に投じる費用が一時的に増えたとしても、結果としてそれが社会の財産となるなら、よいではないか。超高齢社会を安心して迎えられるような、先を見通した政策に発展させるよう期待する。



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◆19880427 家族(テーマ談話室)――朝日新聞

夫が分裂病で長期入院をしている、という女性からお手紙をいただいた。
 入院以来、5人の子どもを抱えて働き続け、それぞれを一人前にしてからも、子どもの世話になるまいと働いてきたが、一昨年8月から半身が思うようにならなくなった。2カ月ほど入院し、1年半前から末娘の家で世話になっている。狭いマンション暮らしで、私がいると家庭が壊れるのではないかと心配だ。別居したいが、年金収入だけではどうにもならない。相談に乗ってくれるところはないだろうか、という内容だ。
 こういう場合、相談の窓口になるのは、区市町村にある福祉事務所である。生活保護、児童、身体障害、精神薄弱、老人、母子、寡婦など福祉全般について援護、更生などの措置を行っている。事務所には老人福祉指導主事、家庭相談員などの専門職員がいて相談に応じてくれる。公立だから相談は無料。



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◆19881218 入院の半数が65歳以上 多い脳卒中患者 厚生省調査――朝日新聞

110万人を超えると推計される全国の一般病院・医院の入院患者の半数は65歳以上のお年寄りで、うち4割が脳卒中の患者で占められていることが、17日にまとまった厚生省の「62年患者調査の概況」で明らかになった。入院患者の期間、疾病についてのこうした実態が分かったのは初めてで、高齢化社会を迎えての国民の健康づくり、医療費の抑制などの面から、脳卒中を中心とする循環器系の病気の予防、リハビリ対策が今後の疾病対策の重要課題となりそうだ。
 調査は、全国各地から無作為に選んだ3080の病院、5875の医院、986の歯科医院を対象に行われ、昨年10月中旬の「ある1日」を指定し入院、通院患者の実態を調べ、全国的状況を推計。
 「調査指定日」に、精神病院を含め全国の医療機関に入院していた患者の総数は約143万人、通院していた患者総数は約663万人。59年の前回調査と比べ、入院患者は6.9%、通院患者は4.4%の増、その「指定日」1日に国民の15.2人に1人が、医者にかかっていた計算になる。
 傷病を種別で見ると、高血圧が64万3000人と最も多く、次いで、精神障害41万4000人、脳卒中33万5000人、心臓病21万6000人、糖尿病15万6000人、がん15万3000人など。また、全患者の約3人に1人が2つ以上の病気を抱えており、65歳以上になるとこの割合が52%に上昇、高齢化社会の進行とともに、「かけもち通院」が増えている実態がここでも裏づけられている。
 入院患者の実態をみると、精神病院では25万7000人の患者のうち82%が半年以上、48%が5年以上の長期入院。一般病院の半年以上の入院患者は、全体(106万6000人)の32%を占め、とくに65歳以上では、51万7000人の入院患者の41%という高い割合。
 また、精神障害を除いた病院・医院の全入院患者110万5000余人のうち、約50%が65歳以上のお年寄り。このうち半年以上入院している22万5000人について分析すると、60%が脳卒中、心臓病など循環器系疾患の患者で占められ、とくに脳卒中の患者が全体の41%と極めて高い率を占めていた。
 一方、都道府県別に、人口10万人当たりの受療率をみると、福岡が8912人と最も多く、次いで高知8786人、熊本8731人、佐賀8656人など。逆に低いのは沖縄の4403人、千葉4804人、茨城4864人などとなっている。



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◆19891024 デンマーク・アンデルセン元福祉大臣に聞く(デンマークの福祉)――朝日新聞

童話作家アンデルセンの故郷は、今日、安心して長生きできる国として世界の手本にされている。その現代のお伽の国を
 ここまで築きあげた中心人物、B・R・アンデルセン元福祉大臣が来日した。日本では介護疲れが原因の心中や殺人が絶えない。
 デンマークにはそれがない。日本には「寝かせきり老人」が60万人もいるといわれる。
 デンマークにはそれもほとんどいない。その理由は……。
 (聞き手・論説委員 大熊由紀子、写真 赤平純一)
[……]

長期入院を減らせば医療費を節約できる 福祉非難は短絡的
 ええ。ただし1976年の生活支援法ができる前は、年齢別、障害別の法律の網と網の間からこぼれ落ちる問題がありました。生活支援法はすべてのハンディの問題を一本化したものです。サーカスのブランコや綱渡りの時に落ちても死なないための安全ネットがありますね。ここで大事なのは、安全ネットを大きく広げ、その目を細かくして、下に落ちなくしたことです。
 −−福祉はとめどもなく財政を膨らませる、と心配する人はこの日本に多いのですが。
 そう単純ではありません。医療費など日本のほうが無駄が多いのではないでしょうか。福祉が充実すれば徒らに長く病院に留め置かれる高齢者が減りますから、医療費は大幅に節約できます。デンマークの平均入院日数は、いま7.8日です。日本は40日でしょう。受け皿がないからそれだけ長く居るわけです。たとえば、私の住んでいるネストベズ市では24時間の在宅ケアを始めたら安心して自宅で暮らす人が増え、病院のベッド10床分、プライエム50人(室)分が要らなくなりました。4万5000人の町です。これで日本円にして2億5000万円浮きました。一方ヘルパーの24時間態勢のために1億5000万円の出費がありました。差し引きで1億円の税金を得しました。財政上の理由で福祉を目の敵にするのは賢いこととは思えません。
             
 ●デンマークの高齢者医療福祉の3原則
 1【継続性の尊重】生活をなるべく変えずにすむようサポートする。
 2【自己決定の尊重】自分の人生のあり方は高齢者が自分で決め、周りはそれを尊重する。
 3【残存能力の活用】過剰なお世話を避け、住環境などを充実させ、残された能力を生かす。
          
 Bent Rold Anderson
 ベント・ロル・アンデルセン(デンマーク読みはアナセン)氏 コペンハーゲン大政経学部卒。ロスキル大教授(福祉制度論、社会政策論)などを経て1982年福祉大臣に。自ら委員長をつとめた高齢者医療福祉制度改革委員会の提言を図らずも自らの手で受け取る。今年の6月、60歳の誕生日で、自治体総合研究所所長を退職。早期年金制度を利用して今も研究生活を楽しんでいる。『社会福祉政策の新たな目標』『市民と安心社会制度』『北欧福祉社会の合理性・非合理性』『福祉社会は維持できるか?』など著書・論文多数。



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◆19901225 石川信義・三枚橋病院院長 精神医療(直言曲言) 群馬――朝日新聞

足りぬ地域ケア施設 公的援助も不十分
 名古屋市内の自衛隊駐屯地で今年10月、丹羽兵助代議士が精神病院に入院中の男に刺されて死亡した。この種の事件が起きるたびに、「精神障害者は怖い」との偏見が頭をもたげる。かつては「医療なき拘禁」との批判を浴びた精神医療だが、良心的な医師、患者の家族らの努力で徐々に改善されてきている。22年前、太田市にすべて開放の精神病院、三枚橋病院を設立。患者への制限、束縛を少なくした「普通の病院」づくりに取り組む石川信義さん(60)に、先進国では最も遅れている、とされるわが国の精神医療の現状を聞いた。
 丹羽代議士襲撃のような事件は、精神障害者への差別、精神病院への偏見をあおる方向につながりがちです。どう受け止めていますか。
 入院患者の外出が自由な開放病棟の場合、患者による死傷事件が起きる可能性が閉鎖病棟よりも高いのではないかと考える人もいるでしょうが、そんなことはありません。鉄格子やカギで閉じ込める代わりに、手厚く医療、援助を続ける開放病棟の理念が実現していれば、事件はまず起きないでしょう。
 ところが、厚生省の医療費抑制策で医療費が安く抑えられ、病院は十分な医療スタッフをそろえることができない。この制度の壁に阻まれ、ともすれば手薄な医療になりがちです。これが、うちの病院を含め、すべての精神病院が抱える悩みです。
 精神病への偏見はどうしてなくならないのでしょうか。
 日本の精神医療が「収容」に偏り、精神障害者の多くが社会から隔離されているからでしょう。一般の人は障害者とほとんど接触したことがなく、大半はマスコミの事件報道を通じて、障害者に対する、偏った見方をつくり上げているのです。実際に障害者に触れたことのある人は、考えを改めるでしょう。
 国立精神保健研究所が今年実施した、病院近くの住民アンケートでも、「患者と接触する機会が多い人ほど、障害者を偏見なく受け入れる」という結果が出ています。
 日本の精神病院には、長期入院者が際立って多いですね。
 心の病は、病気の勢いが強い時と、おさまっている時がある。救急医療の場合、入院患者のほとんどは、ごく短期で退院できるのです。
 中には社会復帰できない人もいます。一定期間、地域社会で援助する必要があります。そのための「地域ケア施設」の態勢が不十分なので、退院させるにさせられない、という病院が多いのです。
 地域ケア施設は、具体的にはどのようなものですか。
 まだ1人では暮らせない人たちが共同生活する「グループホーム」(共同住宅)、日中、軽作業をして過ごす共同作業所、そして、世話をするケア要員。病院と一般社会との間に、この3つを地域ごとにそろえるべきです。
 ところが、県のケア施設は前橋市の精神衛生センター1カ所だけ。共同作業所は県内に3つしかなく、いずれも病院や患者の家族らが自前で造った民間施設です。
 これらの施設は本来、自治体が造るべきものですか。
 「ハンディキャップのある人」に対する援助は、医療ではなく、福祉の領域のはずです。ところが、福祉が仕事の、国、自治体の取り組み方は、まだまだ不十分です。東京、神奈川、長野など、熱心なところもありますが、それらに比べると本県は遅れています。
 うちの病院近くにある共同作業所「麦の家」の年間経費は1200万円ですが、県の援助は150万円。太田市が400万円、周辺町村が150万円出しています。1作業所につき900万円という東京都の援助額とは大きな開きがあります。グループホームには、援助が1銭も出ません。
 宇都宮病院事件から6年。入退院の手続き、入院中の処遇での人権擁護措置を盛り込んだ精神保健法の施行後、2年余り。精神病院の敷居は低くなったのでしょうか。
 通院への抵抗感はだいぶ薄れたようです。うちの病院では、神経症の主婦が近所で誘い合い、一緒に受診に来ることも、よくあります。
 社会状況を反映し、うつ病、神経症の患者が増えています。次から次へとアイデアを出すことを求められる、研究開発の仕事をしている人などが、うつ病になりやすいようです。
 精神医療、精神障害者福祉のあるべき方向は。
 どんなにいい病院でも、それが「ついのすみか」となってはいけません。福祉の基本は、人並みに暮らせるようにすること。老人福祉が在宅に向かっているのと同様、精神障害者も地域に住んで治療を受ける、というのが理想です。町の精神科診療所がもっと増えれば、ずっと気軽に受診できるようになるでしょうし、その分、偏見も少なくなるのではないでしょうか。
 《精神医療の現状》精神障害者は推定で全国に150万人。約1600の精神病院に約35万人の入院患者がいる。半数以上が5年以上の長期入院者。人口1万人当たりのベッド数は27で、他の先進国に比べて際立って多い(イギリスでは人口1万人当たりのベッド数は10、長期入院者は2%)。
 県内には精神・神経科の病床を持つ病院が20あり、うち15が単科病院。公立の単科病院は県立佐波、町村組合立中之条の2病院で、他は私立病院。総ベッド数は約5700。入院患者で常時ほぼいっぱいだ。長期入院者は半数の約3000人。ベッド数のうち、開放病棟が51%、閉鎖病棟は49%。
 《宇都宮病院事件》宇都宮市の報徳会宇都宮病院で84年3月、入院患者2人が看護職員らのリンチで死亡した事実が明るみに出た。これをきっかけに、入院患者への日常的な暴力、病院ぐるみの無資格診療が明らかになった。当時の石川文之進院長は、職員による無資格診療などの責任を問われ、88年3月、最高裁で実刑(懲役8月、罰金30万円)が確定した。
 ●後書き
 「私ども程度の病院が先駆的と言われるようではね。当たり前のことをやっているだけなのに、当たり前と世間に受けとめられないのは、むしろ不幸なことだと思います」
 三枚橋病院は病院の玄関が開け放たれ、外出は自由。患者の表情も明るい。7年前、病院内にディスコをつくり、話題を呼んだ。
 政府が検討中の刑法改正案には、罪を犯した精神障害者を、裁判所の判断で治療施設に収容する「治療処分」が重要課題の1つとして盛り込まれている。精神病院を刑務所代わりに使おう、ということではないか、と石川さんは危ぐする。精神障害者と社会との間の垣根をなくそうとする、この人の前に立ちはだかる壁は厚い。
     *    *    *  
 1930年、桐生市生まれ。東大経済学部卒業後、安田火災海上に入社するが、2年で退職して東大医学部へ。第5次南極観測隊、東大山岳部カラコルム遠征隊に参加。東大病院神経科、都立松沢病院を経て、68年、医療法人赤城会三枚橋病院を設立。現在、同病院理事長兼院長。



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◆19910815 精神医療、入院偏重を見直し 「予防」「在宅」を充実 厚生省方針――朝日新聞

100日単位の長期入院が当たり前になっている精神医療の抜本的な改革を図る方針を、厚生省が固めた。患者を病院に閉じ込めるだけでなく、地域で精神科の健康相談を受けたり、救急態勢を充実させる一方、高度な処遇に当たる専門施設の整備も進める。他の病気同様に、予防から専門治療まで立体的な対応が取れるように整備し、患者の早期復帰を目指す考え。来年度予算案にも経費を計上する。
 今回の改革のもとになったのは、社会全体が緊張度を高め、個人へのストレスが強まって、心の健康が損なわれやすくなっている、という判断が専門家の中に高まってきたためだ。
 アルコール中毒の低年齢化や、痴呆性老人の増加など、精神に関する保健・治療の姿が大きく変わってきている現状も考慮。入院治療に偏っている医療現場の構造を、変えるのがねらい。
 公衆衛生審議会が先月まとめた答申をもとに、現在の医療態勢が「病院」と「社会復帰施設」という単純な二重構造になっているのを見直し、「地域」と「病院」、それに「専門施設」の3段階で、多様化する心の病に対応する予定だ。
 地域対策では、全国を生活圏ごとに分けた345の「2次医療圏」それぞれについて、地域の患者や医療施設の実態にあわせた計画を策定する。
 外来や訪問看護などで精神科の医療が在宅で受けられるように整備するほか、保健所が中心になってストレスによる精神面での問題の相談や知識の普及に当たる。地域ごとに理解のある住民に「精神保健推進員」になってもらい広く社会への浸透を図る。
 患者の容体の急変などに対応する精神科救急は、まだほとんどの地域で手つかずのままであり、応急に入院させ、適切な治療方法の判定などに当たる施設の充実も図る。
 さらに急増する痴呆性老人を対象にした「老人性痴呆疾患センター」も各2次医療圏ごとに1カ所ずつ配置。専門病棟の設置と合わせて地域ごとにきめ細かい対応を進める。
 <2次医療圏>
 医療法に基づいて、複数の市町村をひとくくりにして制定。病院のベッド数などを過不足なく整備する目標を定めたり、地域にあった老人保健対策などを、計画的に進めている。



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◆19911114 精神障害者受け入れ施設づくりに支援を 16日、横浜でバザー――朝日新聞

退院できるまでに回復しているにもかかわらず、家族がいないなどの理由で長期入院を余儀なくされている精神障害者の受け入れ施設をつくろうと運動している横浜市旭区の医療関係者や障害者の家族らが16日午前9時から、同区役所でバザーを開く。
 現在、旭区内の3つの精神病院には1100床のベッドがあるが、10年、20年と長期入院をしている障害者も少なくない。この中には、病気が軽く病状も安定して、退院できる状態なのに、家族の高齢化や、経済上の自立ができないなどの理由で、入院を続けている人も多い。
 こうした精神障害者の受け入れ施設を地域で運営しようと、今年3月に病院関係者や福祉事務所、保健所の職員らで発足させたのが「葦の会(あしのかい)」。精神障害者のための小規模共同ホームと作業所を同区内に来年4月までに設置しようと、運動中だ。今回のバザーの収益金は、当初の活動費用500万円の一部にあてる。



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◆「自立の家できた」 精神障害者自ら運営 横浜・港南区――朝日新聞

精神障害者がともに生活し自立をめざす小規模福祉ホーム「WAI・WAIコーポ(わいわいコーポ)」の開所式が28日、横浜市港南区野庭町で行われた。12月1日から、女性5人がここで生活する。精神障害者を対象にした小規模福祉ホームは、中区の「すずらん荘」と合わせ2カ所になった。
 同ホームは、精神障害者のための地域作業所を開いているボランティアグループ「かるがも会」を中心に、精神障害者とその家族で運営する。
 木造2階建ての同ホームは、正応寺の敷地内にある。地域作業所として借りていた平屋の建物を2階建てに改装してもらった。延べ床面積は約110平方メートル。6畳の個室5部屋、浴室、トイレのほか談話室がある。開設に際し、かかった費用は473万円。市の補助金のほかは募金でまかなった。
 入居するのは、家族が高齢になり世話ができないなどの理由で、障害の程度が軽いにもかかわらず長期入院を余儀なくされていた20代−50代の女性5人。入居後は、家賃と光熱費を自ら負担する一方、地元の企業で仕事をするなど自立を目指す。
 同ホームの運営委員の代表で舞岡病院の総婦長の池田とし子さんは「地域のみなさんの理解があったから、実現できた。障害者に、自立の力をつけてもらえれば」と話している。



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◆19921216 妻の話だけで精神分裂病と診断 病院側に賠償命令 福岡地裁【西部】――朝日新聞

妻の言い分だけで病院側が十分な診察をしないまま精神分裂病と診断、1年近く入院を強いたとして、福岡市東区の会社経営の男性(53)が、福岡県粕屋郡の精神病院を経営する法人と元妻を相手取り、総額4050万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が15日、福岡地裁であった。川本隆裁判官は「病院は、管理者(病院長)が入院の必要性を判断すべきなのに怠ったうえ、担当医が元妻の説明だけで入院させ、違法に身柄を拘束した」とし、868万円を支払うよう命じた。元妻については「悪意はなかった」として、原告の請求を棄却した。
 訴えられていたのは、粕屋郡宇美町で河野粕屋病院を経営する医療法人済世会(河野正理事長)。
 判決によると、男性は1982年5月、元妻の依頼で自宅を訪れた医師に「血液検査」と偽られて鎮静剤を注射され、意識不明のまま同病院に入れられた。精神分裂病と診断され、約11カ月後に男性の肉親の交渉で退院できるまで入院生活を強いられた。
 男性は当時、夫婦仲が悪化しており、元妻が医師に「夫の様子がおかしい。冷蔵庫にスリッパを入れたり、子どもの髪をライターで焼こうとした」などと話したことから、精神衛生法に基づく「保護義務者の同意による入院(同意入院)」として入院させられた。
 判決理由の中で、川本裁判官は「同意入院は、精神障害者の意思にかかわらずその身体を拘束する点で、人権にかかわる。担当医の診断とは別に、入院の必要性は管理者が判断すべきだ」と指摘。担当医の判断だけで男性を入院させたことは「不法行為」とした。さらに、担当医の診断についても「事前に本人から事情を聴かず、元妻の説明以外の調査も怠り、落ち度を認めざるを得ない」と述べた。
 また、男性の病状について、同裁判官は「精神鑑定の結果、入院時に精神分裂病だったとは断定できず、強制的に入院させる必要性があったとは考えられない」とした。
 判決に対し、済世会側は「事実関係など不満な点が多く、控訴したい」とのコメントを出した。
 福岡県によると、河野粕屋病院は82年3月に開設。県に届け出た診療科は精神科のみで、ベッド数は250(一般48、特殊202)。済世会は、同じ粕屋郡内の篠栗町で河野病院、福岡市東区で河野名島病院を経営している。
 河野理事長は元社会党代議士(福岡1区)で、90年まで通算8期務めた。
 ○話し合い拒否された 原告の男性会見
 原告の男性は、判決後に福岡地裁で記者会見し、病院内での体験などを語った。
 それによると、鉄格子越しに、医師に「話し合いをしよう」と怒鳴ったが、相手にされなかったという。
 会見に同席した幸田雅弘弁護士は「精神衛生法の改正以降も、精神医療の実態は変わっていない。今回の事件のように、病気でもない人を外見上、精神障害であるかのように仕向け、長期入院をさせることが現実にある。その問題を表に出せたことがこの裁判の意義だと思う」と語った。
 一方、河野粕屋病院側は、取材に対し、短いコメントを出しただけで、病院の事務室にいた男性職員は「わかりません」「院長への取り次ぎはできません」と話した。
 ●「同意入院」の問題露呈
 身体の拘束を伴う入院手続きの在り方を指摘した福岡地裁判決は、精神医療のあり方を定めていた当時の精神衛生法がはらんでいた問題点を、改めてさらけだした。
 同法の下では、本人の同意によらず、保護義務者の同意による「同意入院」や知事の権限による「措置入院」など強制的な入院患者が大半を占めた。その後、同法は患者への虐待が問題となった宇都宮病院事件などをきっかけに、人権侵害につながると批判を呼び、87年に現行の精神保健法に改正された。
 精神保健法は本人の同意に基づく「任意入院」制度を新たに設け、病院にも努めて任意入院させるよう求めた。事件につながった同意入院の制度は、現在も「医療保護入院」という名称で続いているが、入院患者に占める割合は以前の8割以上から3割ほどに減った。入院に関しては本人同意を得る方向へ、日本の精神医療が動いたのは確かだ。
 だが、昨年12月、国連総会は精神障害者の人権を守るための原則を採択した。そこでは入院に限らず、治療全般に関して十分な説明を受けた上での本人同意(インフォームド・コンセント)を得る必要性などが明記された。ほかの医療と同じく、精神医療においても人権の尊重を求める国際的流れの中で、国内では現行の精神保健法の改正を求める論議も活発化している。



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◆19940611 生活保護患者たらい回し? 伊勢原日向病院運営の三井会 /神奈川――朝日新聞

川崎市の元福祉職員への贈賄容疑で総務部長が逮捕された伊勢原市の老人病院「伊勢原日向病院」(二百十床)を運営する医療法人社団三井会が、系列の人工透析専門の診療所二カ所などと連携して、生活保護の患者をたらい回しにしていた疑いが強いことが十日までに、県警の調べや関係者の証言などで明らかになった。診療報酬の高い人工透析患者を優先し、それ以外の入院患者は透析患者が見つかり次第転院させていたという。三井会側は朝日新聞社の取材申し入れに応じていない。
  
 三井会は伊勢原日向病院のほかに横浜市緑区の「横浜仲町台クリニック」(十九床)を運営し、贈賄容疑で総務部長が逮捕された静岡県熱海市の「熱海クリニック」(同)も、同会の理事長が実質的な経営者になっている。
 複数の関係者の話では、両クリニックの入院患者は、人工透析患者で生活保護を受けている身寄りのないお年寄りがほとんど。人工透析は、慢性疾患と違って長期入院でも診療報酬の保険点数が落ちないことなどから、経営者にとってうまみは大きいとされる。
 両クリニックでは人工透析患者が見つかった場合、そうでない入院患者を伊勢原日向病院や、同じく贈賄容疑で事務長が逮捕、起訴された東京都秋川市の長嶋病院、清川村の精神病院などに送っていた、という。
 横浜仲町台クリニックは昨年六月に開業し、患者の多くが川崎市内の福祉事務所の紹介で来ていたらしい。入院には収賄容疑で逮捕、起訴された川崎市の元福祉職員の相原貞義被告(五九)がからんでいたとみられる。相原被告は開業前後から同クリニックに週に数回ずつ顔を出していたといい、職員は「三井会の理事だと思っていた」ほどだった、という。
 容体が急変した患者は、伊勢原日向病院に送ることが原則になっていた。近くに救急病院があるにもかかわらず救急車で同病院に運ぼうとしたため、救急隊員らから苦情が来ることもあったという。
 熱海クリニックの職員は本紙の取材に対し、「身寄りのない生活保護の患者は、家族がうるさいことを言わないし、死んでも役所が手続きをすべてやってくれて助かる」と話していた。
 横浜仲町台クリニックの関係者は今年一月、県医療整備課に適切な指導を求めていた。



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◆19961001 国の責任、一転し認定 宇都宮病院の「違法な強制入院」訴訟 /栃木――朝日新聞

「最終的な責任は国が負わなければならないことを確認できた」。宇都宮市の報徳会宇都宮病院を舞台にした「違法な強制入院」が問われた損害賠償請求訴訟で三十日、東京高裁が国の賠償責任を認めた判決を言い渡した。裁判所内で記者会見した原告側弁護団は、紅潮した顔で判決の意義を強調する。内藤隆・同弁護団事務局長は、「国際人権規約にもあるように、基本的な人間の権利は国が守らなければならないという、当然の結果だ」と語った。
  
 一審(一九九三年六月、東京地裁)では時効として棄却された原告の請求が今回、「新聞報道により初めて被害を知った」として認められた。損害賠償の認容額が約二倍の計千三百二十二万円になったことについて、弁護団の永野貫太郎弁護士は「数々の悪質な強制入院に対し、私たちは原告にも会えない状況で、人身保護請求をしてきた。こうした経緯を重視して、違法入院の事実を、さらに踏み込んだ形で厳格に判断してくれた」と評価した。
 弁護団によると、違法に強制入院させられていた原告四人のうち一人はすでに死亡。二人は都内で自活しており、一人は目が悪いため老人ホームに入所しているという。
 宇都宮病院では、患者が看護助手らのリンチで死亡したことが八四年三月に発覚。さらに入院患者への暴力や無資格診療、違法解剖などが次々に明るみに出た。この事件を機に、旧精神衛生法が改正され、精神保健法が八八年から施行された。
 内藤事務局長は、この事件後の精神医療の実態について「制度そのものは確かに大きく改善された。だが実際の医療現場の中で、患者らが制度を利用できやすい環境になっているかどうかは疑問だ」と話した。
 事件をきっかけに、弁護団が中心となって設立した「東京精神医療人権センター」(東京都新宿区)は、今秋十周年を迎えた。今も年間二百件前後の相談が寄せられる。だが事件当時のように、院内の暴力のような「原始的な人権侵害」の問題は影を潜めたという。
 だが、「自分の知らないうちに家族の同意で入院させられた」「退院したいが、聞いてくれない」といった、本人の意思に関係のない入院(医療保護入院など)に関する相談は多い。
 現行制度の下では都道府県別に設けられた精神医療審査会が、患者の退院希望について第三者的な立場で審査する。だが、主治医と家族の意見を聞くだけで外部の代理人が関与できず、本人の意思が反映されにくい状況になっている。
 センター事務局の小林信子さんは「イギリスなどではどんな場合であっても医師が直接患者を説得するまで入院させない。日本には『本人の自己決定』についての認識が固まっていない。仮に退院できても、家族が引き取らなかったり、自活できる見通しがたたなかったりする場合が多い。今の制度では、家族も患者も八方ふさがりで救われない」と話す。
  
 ○病院側と宇都宮市、判決へコメント拒む 問われる人権感覚
 東京高裁判決で、事件当時の管理運営責任を改めて指摘された報徳会宇都宮病院(宇都宮市陽南四丁目)と、行政としての判断を怠ったとされた宇都宮市は三十日、判決についてのコメントを拒んだ。
 宇都宮病院の石川叔郎院長は、事件当時の石川文之進・元院長の次男。この日の判決について、「回診中で会えない。会って話すこともない」と事務職員を通じて回答した。さらに石川院長は、院長室前の廊下で「ここはクローズド(立ち入り禁止)になっている。取材には答えない」と語った。
 同病院によると、現在の病床数は精神・神経科が五百三十三床、内科が百三十床。入院患者は計約五百三十人で、前院長時代の九百八十人より減っている。
 一方、この日の判決は、一審に続いて宇都宮市の賠償責任を厳しく指摘した。同市が精神障害者かどうかの判断を怠ったため、精神障害も入院の必要もなかった男性が一年九カ月余りにわたって「違法」に入院させられたとの認定だ。
 判決によると、一九八二年暮れに入院した原告は、身寄りがなかったために市が管理する養護老人ホームに入寮していたが、飲酒して騒ぐことがあったことなどから、市長が旧精神衛生法に基づく入院に同意した。
 しかし、一、二審とも、この原告について「精神病質は存在しなかった」と認定。高裁判決は「宇都宮市長は、医師等による説明はおろか、原告の病名、症状等についても確認することなく入院同意を与えたもので、違法」との判断を示した。
 これに対し、市は「判決文を受け取っていないので、詳しいコメントはできない。今後の対応については判決文を見て検討してまいりたい」との猪瀬光男総務部長のコメントを出した。藤井成二生活福祉課長も「判決の報告を裁判所に行った総務課の担当者から、電話で聞いただけなので」と話した。
 このため、記者が判決全文と要旨を総務部に持参したが、渡辺孝夫総務課課長補佐は「今日はこれ以上のコメントは出せない」と拒み、その理由について「助役や総務部長とも相談しなければならない。検討に時間がかかる」と説明した。市側の人権感覚が問われる対応だ。
  
 ●入退院の判断、医師に任される部分大きく 「強制入院」は長期の傾向
 県によると、県内の精神医療施設には現在、約五千三百人の入院患者がいる。このうち、本人の同意がない「強制入院」は約四割で、一九八八年に精神衛生法が精神保健法に改正された直後の約六割に比べて、入院患者全体に占める割合は減少してきている。宇都宮病院事件が明るみに出た八四年当時に比べれば、病院に対する県の指導基準も厳しくなっているという。だが、いったん「強制入院」となった患者は十年以上の長期入院となる傾向があり、入院や退院の判断は、依然として医師に任されている部分が大きいという。
  
 県健康増進課によると、県内には二十九の精神医療施設があり、八月末現在の入院患者数は五千三百三十一人。そのうち「強制入院」は、指定医と保護義務者の同意による「医療保護入院」が千九百五十四人(三六・七%)、県知事の決定による「措置入院」が百三十五人(二・五%)。そのほかの患者は、患者自らが任意入院同意書に署名した「任意入院」と、患者は同意したが、同意書のない「自由入院」となっている。
 八八年の精神保健法成立(昨年、精神保健福祉法に改正、施行)で、入院には原則として患者の同意が必要となった。それ以前の八六年三月末には、現在の四倍近くの四百八十二人が「措置入院」の患者だった。
 法改正直後の八九年六月末には、入院患者五千四百八十八人のうち、患者の同意を必要としない「強制入院」は、措置入院患者が二百七十六人(五・〇%)、医療保護入院患者は二千九百九人(五三・〇%)。その後は年々、患者の同意のうえでの入院が増えていることが分かる。
 しかし、現在もなお問題なのが入院の長期化だ。昨年六月末の統計では、百三十二人の措置入院患者のうち、八十八人が十年以上の長期入院で、二十年以上も五十七人いる。
 県は、入院患者の処遇が適切かどうかを判断するため、年に一度、各医療施設の立ち入り検査を行っている。精神保健法の制定後は十二時間以上の患者の隔離や、電話、面会の制限などについて、指定医の診断が必要とされるようになった。これらが適切に行われているかどうかを、より厳しく検査しているという。
 しかし、肝心の入、退院の必要性について、高度に専門的な判断を伴う医療現場を監督することは難しいという。県健康増進課の田崎昌芳課長は「措置入院をするかどうかなどは行政として判断できない。指定医に任せざるを得ない部分がある」と話している。



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◆19970410 役所巡り、患者集め 「満床状態」ほぼ確保 安田系3病院 【大阪】――朝日新聞

職員の水増し報告や給与未払いなどの問題で大阪府の調査や大阪労働基準局の捜索を受けた安田基隆・安田記念医学財団理事長(七六)系列の三病院が、行政機関や地方議員に入院患者集めへの協力を求めていた実態が、九日、関係者の証言で明らかになった。テレホンカードを配り、付け届けをして、ホームレスなどのあっせんを依頼、患者を獲得した職員には一人につき五千―一万円の手当がついた。こうした「営業努力」の結果、三病院の病床充足率は極めて高く、府が三月に行った調査では満床に近い約千百人が入院していた。
  
 ■外回り
 「安田病院です。入院の相談があったらよろしくお願いします」
 三つの病院の事務職員は週に二、三日、入院患者集めのための「渉外」に出なければならなかった。回るのは、割り当てられた地域の福祉事務所、警察署の保安課、消防署、そして市議会の議員控室。頭を下げ、五十度数のテレホンカードと病院の入院案内を一人一人に配った。
 担当先から患者を紹介されると、その職員には患者一人につき五千―一万円の手当がついた。一方で安田氏の営業活動への監視は厳しく、会った証拠に相手の名刺を持ち帰るよう指示。訪問先から病院に電話させ、折り返し病院から確認の電話をかけてくることさえあった。
 渉外で和歌山県田辺市にまで足を延ばすこともあった安田病院の元事務職員の話では、各地の福祉事務所から一日二、三件は「ベッドは空いてますか」と照会があった。患者を紹介してくれた所には、病院幹部が盆と暮れに菓子折りや酒を持って行った、という。
  
 ■警察も
 三病院は、医療費が全額公費で賄われる生活保護受給者を、積極的に受け入れていた。
 安田、円生両病院の入院者約六百人のうち、被保護者は六割近い三百五十人。担当の福祉事務所は、滋賀を除く近畿五府県にわたる。中でも多いのは、大阪市更生相談所と同市西成福祉事務所が担当する患者で、いずれも四十人を超えた。
 大阪市更生相談所が受け持つのは、あいりん地区で簡易宿泊所に泊まる人やホームレスの生活保護だ。安田、円生両病院は、保護された人が入院を希望する場合に、入院判定をする市の指定病院にもなっていた。
 精神科の大和川病院の職員は、警察に顔を出した。保護した薬物中毒患者らを保健所を通じて、送ってくれることがあるからだ。大阪府東部の警察署のある署員は「身寄りがなかったり、中毒で暴れたりする患者はどこの病院も引き取りたがらない。大和川はありがたい病院だった」と打ち明けた。
 消防署では、救急搬送した行き倒れの人の紹介を、依頼していたという。
  
 ■経費減
 地方議員は、「寝たきりのお年寄りの入院先がなかなか見つからない」などと相談してきた地元の人を、紹介してきた。安田系病院は差額徴収がほとんどなく、入院費が安いと評判だった。診療報酬の点数が低くなるため一般の病院が敬遠する長期入院患者も、引き受けていた。
 しかしその分、看護婦や医師の数はぎりぎりに抑えられたうえ、様々な罰金制度などもあって人件費は大幅に切り詰められた。冷暖房の使用も極端に制限され、医療設備にも金をかけなかった。そんな方法で収益を上げていた、と複数の元職員は指摘している。



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◆19970522 診察まれ、まず「点数」 職員水増し問題の安田系3病院 【大阪】――朝日新聞

医師や看護職員の大幅な水増しが明らかになった安田記念医学財団の安田基隆理事長(七七)系列の大阪府内の三病院では、いったいどんな「医療」が施されていたのだろうか。元職員や医師の証言を集めてゆくと、安田氏の指示に従って機械的に投薬や点滴、検査を繰り返していた実態が、浮かび上がってくる。医師の診察はまれで、患者の容体にあまり関係なく、診療報酬の点数優先で様々な処置が決められていた、という。元看護婦は「医者がいなくても成り立つ病院だった」と言い表している。
 (社会部・石橋英昭)
  
 ◆月末に指示
 普通の病院の日常業務は、担当医師が患者を診察し、その都度カルテに症状とそれに合う処方や処置を書き込む。看護婦はその指示に基づき投薬などを施す。事務職員がカルテをもとにレセプト(診療報酬明細書)を作り、毎月医療保険に支払いを請求する。
 ところが、安田系列の病院はまるきり違った。
 合計で約千百床ある三病院の医師は、基準では常勤換算で約三十人が必要だが、実際にはその半分程度しかいなかった。医師不足のため、重症者以外の診察には手が回らない。そのかわり、患者をほとんど診ない安田氏が毎月末、三病院分の患者全員のレセプトを点検したうえで、翌月ひと月分の点滴、投薬の回数や増減をまとめて看護婦に指示した。カルテの処置欄は約一カ月先の分まで早々と埋まったという。
 安田氏は、府社会保険診療報酬支払基金の審査委員の経験が長く、請求通り報酬が受け取れるような医療内容を熟知していた。その内容をマニュアルなどにして看護婦らに指示していたようだ。
 さすがに患者が熱を出したような時には、担当医が簡単に診察して抗生物質などを出す。そのときは、ペンで記入済みのカルテを砂消しゴムで修正した。
  
 ◆マニュアル
 たとえば、肝臓病の病名がついた患者には二カ月か四カ月に一回、カルテに「肝ガンの疑い」と記して肝エコー検査をする。半年に一回の胃エックス線検査は「急性胃炎」などと、その検査が必要な病名や症状を書く。看護婦らはこうした手順を定めた「マニュアル」を暗記して、検査を機械的に繰り返していた。
 大和川病院(精神科)でアルバイト勤務をしている外科医は、「薬づけ」を指摘した。急性期を過ぎたアルコール中毒や薬物中毒患者にも、一律に大量の向精神薬を投与し続けるため、けいれんやよだれが出る副作用例も多い。外科医が見かねて薬を減らしたり、転院させたりすることもあった。安田病院、大阪円生病院でも機械的に薬を与えていたという。
 「点滴づけ」も三病院の特徴。比較的元気な患者にも、毎日受けさせる。嫌がる患者もいて、そんなときはヘルパーがこっそり点滴液を捨てた。
  
 ◆長期の入院
 三つの病院の入院患者の中心は、寝たきりのお年寄りや精神病患者だ。薬物常習者やホームレスの人たちもいる。重症者や急性期の患者以外は、本来なら、介護を受けながらの在宅療養や、通院治療で社会復帰を目指す方が好ましい人たちが多い。だが、身よりがないなどの事情でほかに行き場がなく、長期の入院をせざるを得ない。普通の病院が敬遠するそうした患者たちを、三病院は積極的に引き受けてきた。
 日本の医療制度では、長期入院の老人や精神病患者の診療報酬は低く抑えられている。「採算の悪い」患者で高い収益を上げるため、過剰な検査や投薬で限度いっぱいの点数を請求する。その一方で人件費や設備費を極端に抑え、看護職員の水増しで看護料を稼ぐ。患者は弱い立場だから、病院に文句を言えない――。そんな「経営方針」が透けて見えてくる。
   ◇
 安田氏は取材に対して、「他の病院はいい患者さんしか取らない。私たちの病院は、元暴力団員でも、他の病院を追い出された長期入院のお年寄りも、引き受ける。入院費も安い。弱者を救済するそうした病院が、どこかに必要なはずだ」などと話している。



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◆19970523 病院監査は「予告なし」で(社説)――朝日新聞

日本の病院や福祉施設では、看護婦や寮母が走るようにして働く。患者一人当たりこれだけ配置するという国の基準が、他の先進国と比べて著しく低いからだ。
 ところが、大阪府内の三病院が、その貧しい基準をさらに下回る職員しか雇わずに低水準の医療を行う一方、実際には働いていない看護婦と医師合わせて百六十八人を加えた名簿で診療報酬を不正請求していた。水増し請求の額は、この二年半だけで約二十億円にもなる。
 大阪府の横山ノック知事は記者会見し、「弱者を救済するがごとく見せかけ、利用した悪質な犯行だ」と批判した。その通りだが、この実態を長年、見て見ぬふりをしてきたのは、ほかならぬ大阪府と厚生省だったのである。
 合計千百十六ベッドのこの三病院の実質的経営者は、安田記念医学財団の安田基隆理事長だ。厚生省の幹部と親しいことを、周りに自慢していた。
 それを裏付けるように、財団の顧問や役員には、代議士や大阪府の元幹部、府議、市議、著名ながん学者、元最高裁判事、元警察局長、医学部教授たちが名を連ね、厚生省OBも天下っていた。
 患者の待遇のひどさが明るみに出るきっかけは、内部告発だった。
 ところが、大阪府や保健所の立ち入り監査は、他と同様に一、二週間前に予告する仕組みなので、病院側は、うその出勤簿を作成したり、事務員が看護婦に化けたりする偽装工作ができた。大阪精神医療人権センターなどが、府に粘り強く働きかけなかったら、うやむやになっていただろう。
 先進諸国では、長期入所、長期入院する施設には「予告なし監査」するのが、あたりまえと考えられている。入っている人たちは、遠慮があったり、こわかったりして、外部に訴えられないからだ。
 たとえば、英国では一九八四年から本格的な監査が行われるようになった。昼夜を問わず抜き打ちで行う。入所者本位のケアがどの程度行われているかどうかを評価し、具体的な改善策を提言する。入所者にも手引を渡して助言する。こうしたやり方である。日本でも参考にしたい。
 当時の英国では、長期ケア施設の運営に、民間が参入するようになり、入居者が食い物にされる事件が多発した。そこで、地方自治体の監査官に抜き打ち監査の権限があたえられたのだという。
 日本では、それ以前から、精神病院、老人病院や有料老人ホームなどに民間資本を活用する政策がとられ、人権侵害事件も相次いだ。しかし、医師会などへの遠慮もあって、厚生省は「予告監査」という生ぬるいやり方を変えなかった。
 公正取引委員会は最近、有料老人ホーム協会の現、前理事長が経営する施設を含む五つの終身利用型有料老人ホームについて法律違反だと警告した。
 これらのホームでは、二十四時間介護を約束しながら、実際は夜間は警備員がいるだけだったり、高額の入居金をとりながら、介護が必要になると病院の六人部屋に移されたりしていた。
 本来、厚生省や事務の委任をうけている県が普段から目を光らせ、改善を勧告すべきケースである。
 有料老人ホームだけではない。精神病院や老人病院、老人保健施設、療養型病床群などについても、役所は利用者本位ではなく、経営者本位の立場をとっているように見える。
 「予告監査」は、そのほんの一例だ。



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◆19970527 老人・精神医療の拠点病院、県立で初めて誕生 協和町で開所式/秋田――朝日新聞

脳疾患などでリハビリが必要な患者や慢性疾患、老人性痴ほう症など、長期入院が必要な高齢者や精神病患者の治療などを目的とする「県立リハビリテーション・精神医療センター」が協和町に完成し、二十六日開所式があった。老人医療や精神医療を中心とする県立の病院建設は初めて。
 同センターは三年前に着工。最新のリハビリ施設や検査施設、精神障害のある患者の社会復帰をサポートする自立訓練センターも備えている。総事業費は約二百億円。
 県内の高齢化率(総人口に占める六十五歳以上人口の割合)は年々進み、厚生省は二〇〇五年に秋田の高齢化率は二六・九%で全国一になると予測している。同センターはこうした状況を背景に、今後ますます患者の増加が見込まれる脳卒中など脳血管疾患によるまひ治療のためのリハビリや、高齢者の精神面のケアなどを専門に行う拠点病院として建設された。
 ベッド数はリハビリが百、精神疾患が二百(うち半数は老人性痴ほう症患者が対象)の計三百。
 患者はすべてほかの病院からの紹介制で、六月二日から外来の受け付けがはじまる。



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◆19970613 「精神保健福祉士」実現は急務 国家資格化で人材確保――朝日新聞

心を病んだ人たちの社会復帰を支援する精神科ソーシャルワーカー(PSW)を国家資格にすることなどを盛り込んだ「精神保健福祉士法案」が、国会で継続審議となる雲行きになっている。医療保険制度改正法案など重要法案の審議が、会期末ぎりぎりまでずれ込む見通しだからだ。精神医療の関係者や患者の家族は、PSWの国家資格化が、患者の社会復帰の促進につながると期待している。今国会での法案成立のために知恵を絞ってほしい。
 (社会部・和田公一)
  
 精神病院には約三十四万人が入院している。このうち、病状は落ち着いているのに、社会復帰のための施設やそこで働く人が足りないため、病院にとどめ置かれている人は十万人にのぼるともいわれる。
 けがや病気で入院しても社会とのつながりが切れてしまうことはない。しかし心の病に対する差別や偏見が根強く残る中では、精神病院に入院した患者と、家族、学校、職場、地域とのつながりをいかに維持していくかが重要になる。
 東京都練馬区の「陽和病院」(森山公夫院長)には八人のPSWがいる。PSWが一人もいない病院が全体の約三割にのぼるなかで、これだけの数を採用している民間病院は極めて珍しい。病院を訪れると、患者はまず、PSWがいる相談室に案内される。患者、家族の不安感や緊張感を和らげ、スムーズに治療が受けられるよう準備する。病棟に配置されたPSWは患者の相談相手だ。治療のスケジュールづくりにも参加する。退院が近づくと、住まいや職探し、生活保護、年金受給のための手続きなど、社会復帰のためのありとあらゆる援助をする。退院後のケアもまた、PSWの仕事だ。
 陽和病院には、四十年近く入院している患者が数十人いる。そうした患者の一人が退院して都営住宅で一人暮らしを始めた。PSWの荒田寛さん(四六)は十年近くこの人の援助を続けている。最近は部屋にクーラーを取り付ける手続きを代行した。「生活上の援助さえあれば長期入院患者でも社会復帰は可能なのに、病院の中で生涯を終えようとしている人たちがまだ数多くいる」と荒田さんは言う。
 日本と欧米諸国とで、人口一万人当たりの精神科病床数を比較すると、日本=三十床▽オーストラリア=五・八床▽アメリカ六・三床。患者一人の平均在院日数の比較は、日本=三二五・五日▽オーストラリア=一三・四日▽アメリカ=一二・七日(いずれも一九九一年、経済協力開発機構の調査)。隔離収容を基本とした日本の精神医療の改革は、遅々として進んでいないといえる。
 この法案ができあがるまでには、曲折があった。
 二年前は関係団体間の意見調整がつかずに国会提出が見送られた。医療関係の資格は、医師、看護婦をはじめ二十職種以上にのぼる。新たな資格ができれば、従来の資格とどこかで重なり合うために、いわば「利害調整」が難しい。
 また、医療の現場で働くソーシャルワーカーのうち、精神科ソーシャルワーカーだけを特別に資格化することを疑問視する声もある。ソーシャルワーカーを細分化するより、社会福祉士の制度を充実し、PSWなどを包含する資格にするべきだとの立場での反対論だ。しかし、日本の精神医療の現実を考えれば、社会復帰を援助する人材の確保は急務だ。
 PSWの国家資格化だけで、すぐに現状を変えられるわけではないだろうが、現状を変える可能性を感じさせる制度だと思う。



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◆19970706 PSW 精神障害者・地域のパイプ役(私の出番)――朝日新聞

船橋市にある同和会千葉病院の地域医療部。精神科ソーシャルワーカー(PSW)の漆原和世さん=写真右=は退院を控えた女性の相談にのっていた。アパート探しや就職の不安を訴える女性の話を、大きくうなずきながら黙って聞く。
 「大切なのは、時間がかかっても一人でできる自信を持ってもらうことなんです」
 精神障害者の社会復帰を支援するPSWは、経済的な問題など入院中の困りごとの相談に乗り、家族や職場、学校と連絡を取って患者とのパイプ役を果たす。病状が安定したら、医師や家族と相談しながら積極的に退院を勧めていく。「緊張や不安を解き、買い物リストを書き出すなど生活のイメージを描くことから始めます」
 退院後も定期的に訪問し、大家さんや近隣とうまくいっているか仕事は順調か気を配り、きめ細かい支援を続ける。精神障害者に対する偏見や差別はまだ残り、仕事は多岐にわたる。
 総務庁などの調査では、精神障害者は全国で約百五十七万人。そのうち約三十四万人が入院、平均入院日数は四百六十八日になる。十年以上の長期入院も多い。一方、PSWがいない病院が三割を占める。「患者の悩みを聞く人がいて、地域の受け入れ態勢があれば退院できる人がたくさんいるんです」
 PSWは現在、全国で約二千五百人。漆原さんのように精神病院の相談室に勤務したり、社会復帰施設や保健所で働いたりしているが、看護婦や社会福祉士のような公的な資格ではなく、仕事の範囲もあいまいだ。
 精神障害者の医療と福祉について専門知識を持つ、より多くのPSWが現場で活動できるよう、漆原さんたちは「精神保健福祉士」として国家資格化するための活動を続けている。



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◆19970728 オンブズマンで病院監視 人権センター・山本事務局長に聞く【大阪】
――朝日新聞

安田系三病院の不正の解明に行政機関、捜査機関が動き出すまでには、市民団体「大阪精神医療人権センター」(代表・里見和夫弁護士)の地道な活動の積み重ねがあった。患者や職員からの苦情や不正告発を受け止め、行政に調査を求めるなどして安田系病院の実態を追及し続けた。山本深雪事務局長(四四)=写真=に、問題の背景や今後への提言を聞いた。
  
 《入院ルート》患者たちの主な入院経緯をみれば、なぜ三病院が栄えたのかがよくわかる。
 ひとつは、一般病院が長期入院を敬遠する高齢の合併症患者で、家庭の介護が困難だったり、一人暮らしだったりする人。福祉事務所は困った末、「すぐ迎えに行く」のをうたい文句にしていた安田系病院を紹介していた。
 もうひとつは、精神症状や薬物・アルコール依存症として警察で保護された患者。夜間や休日の精神科救急患者に対応する当番病院制がうまく機能していないため、やはり、医師がいなくてもいつでも患者を受ける大和川病院は、警察には便利だった。
 引き取り先のない患者の「収容所」として依存する手前、大阪府は厳しい指導がしにくかったのだ。
 《国公立の責任で》老人医療、精神医療は医療費が安いかわり、医療従事者数もある程度基準を下回ってよい、という特例が医療法で認められている。「単価が安い厄介な患者を民間で受け入れてくれるのだから、多少の手抜きは黙認する」という、医療界の意識の表れだ。それが、患者の人権無視と多額の不正とを生み出した。
 まずこの特例を廃止したうえで、民間病院に任せきりにせず、国公立の医療機関が、十分な人手をかけた療養型病床を責任をもって提供すべきだ。一方で長期の「社会的入院」をなくすために、身よりのない患者が退院後に住める場所、たとえばケア付きの住宅などを公的に保障することも、必要になってくるだろう。
 《病院情報の公開を》行政は、安田系病院の実情を告発し続けた患者や職員の生の声を、もっと聴くべきだった。
 医療監視は形がい化しており、強化策を打ち出してもあまり期待はできない。保健所から病院監視機能を切り離し、独立した非営利団体に委任するオンブズマン制度にした方が、はるかに効果的でコストも低い。また、病院情報の公開を推し進めたい。
  
 <大阪精神医療人権センター> 栃木県の宇都宮病院で起きた患者死亡事件などを機に一九八五年に発足。弁護士、精神病院の元患者、患者の家族や医療関係者らが、患者からの電話相談や面会活動などをしている。九三年と九六年夏には、内部告発証言をもとに安田系三病院に一斉調査をするよう、府と厚生省に要望書を提出した。電話は06・313・0056。



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◆19971019 自立促すサービス摸索(列島細見 くらしの場から) /東京・共通――朝日新聞

病院と地域の接点で活用される相談部門にはなった。でも、立場の不安定さが…
    医療ソーシャルワーカー 渡辺姿保子さん(39)―東京都杉並区
  
 「患者の自立度と依存度はどうか」「家族の経済的、心理的な介護能力はどうか」「地域での福祉サービスの受けやすさはどうか」……。
 患者、家族、地域に分類された十の調査項目が、評価表と呼ばれる一枚の紙に並ぶ。わきには項目ごとに五段階評価した数字に丸がつけられ、一人ひとりに具体的な現状が細かく書かれている。例えば、「自立度と依存度の評価は2、おむつ使用。監視要す」という具合だ。
  
 ○実情見極める「カルテ」を作成
 練馬区に住む渡辺さんが勤める杉並区阿佐谷北一丁目の河北総合病院の医療社会相談室では、五人のソーシャルワーカーが働いている。係長の渡辺さんは、病院の医療ソーシャルワーカーと区から委託された在宅介護支援センターのソーシャルワーカーをまとめた部門の責任者。病院併設の訪問看護ステーションや在宅ケアサービスの看護婦、ホームヘルパーとも一緒に仕事をしている。
 三百床ある病院の入・通院患者のほか、周辺の阿佐ケ谷や高円寺を中心とする在宅のお年寄りや障害者らに最も適した福祉サービスは何かを考えて計画を立て、提供している。
 患者だけではなく、家族や区役所、福祉事務所などとも話し合う際に基本となるのが、この評価表だ。いわば、渡辺さんらソーシャルワーカーの「カルテ」でもある。
  
 ○退院しても不安は解消せず
 杉並区の人口は、約五十万人。今年一月現在の高齢化率は一五・二%と、二十三区の平均より高い。区内には公立病院や大学病院がないため、河北総合病院が地域の中核病院の役割を担ってきた。
 中核病院の大きな役割の一つは、緊急患者への対応だ。地域の開業医とも連携を取って、要請があれば患者を受け入れる。緊急患者用のベッドを常に確保しておかなければならず、長期入院を減らす努力が進められてきた。
 その一環として手がけたのが在宅ケア。一九八〇年から訪問看護を始めたが、当時は都内でも一、二の病院でしか試みられていなかった。
 最近は、退院後いかに安心して暮らせるかにも力を入れている。病気は治っても体力が衰えてしまったような人を、どうしたら地域へ帰してあげられるか。病気であることが分からなくなってしまうお年寄りもいる。家族も、不安や負担が大きい。
 最近は、老夫婦だけの場合や独り暮らしの場合が増えている。渡辺さんはいつも、患者や家族に「一緒に考えますから」と声をかける。そして、患者や家族に最適な福祉サービスを考える。
 「療養に、正しいとか誤りというのはない。それぞれが、ぎりぎりの中で選択する。その判断をサポートするのが私たちの仕事だと思う」 渡辺さんたちは日曜を除いて朝から晩まで、席が温まることがほとんどない。一日に二、三回は相談を受ける。週に一度は、医師や看護婦らと一緒に打ち合わせもある。そして地域へと出かけていく。よりよいサービスを計画するには、人やモノのネットワークをどれだけ持っているかにかかってくるからだ。
 重要性が増しているにもかかわらず、ソーシャルワーカーへの理解が進まないのは、渡辺さんたちの仕事が、あちこちと交渉して計画を立てても、実際にサービスを提供するのが別の人物であることが理由の一つかもしれない。
 「私たちは、病院と地域の接点だと思う」と渡辺さん。とはいえ、地域で活用される相談部門になったと思えてきたのは、病院が区から在宅介護支援センターの役割を委託されてからの数年間のことだ、という。
 それまでは、どこかに居心地の悪さを感じていた。多忙にもかかわらず、渡辺さんたちの仕事のほとんどは制度上、診療報酬の対象とならない。つまり、病院の直接的な収入には、ほとんど貢献しない存在だからだ。「勤めた当初は、いかにしたら病院に受け入れてもらえるかを考えていた」と振り返る。
  
 ○忙しさの割には低い認知度
 五人のソーシャルワーカーのうち、社会福祉士の資格をもっているのは二人。渡辺さんは大学で社会福祉学を専攻したものの、当時は社会福祉士の制度はなかった。社会福祉士の受験資格を得るには、国の指定を受けた養成施設で学ぶ必要があった。
 ソーシャルワーカーは、渡辺さんら医療の現場で働く人間ばかりではない。しかし、専門職として福祉を支えるソーシャルワーカーの立場の不安定さは、まだ多くのところに潜んでいる。
  
 <ソーシャルワーカー>
 日常生活に支障がある人の相談を受け、各種の社会福祉制度を活用した援助や援助を受けるのに必要な調整などをする社会福祉の専門職。社会福祉士が国家資格になっており、一九八七年制定の「社会福祉士及び介護福祉士法」では「相談援助業務」と定義づけている。しかし、病院などで働く医療ソーシャルワーカーや精神保健福祉センターなどに勤務する精神科ソーシャルワーカーなどは、範ちゅう外。精神科ソーシャルワーカーの国家資格については、国会で「精神福祉士法」案が審議中だ。日本でも最近、わずかだが個人やグループで開業する例も出てきている。
  
 ●専門職としての位置づけが急務
 高齢社会の到来で、ソーシャルワーカーの役割が重要になっている。しかし、一般には仕事の中身などが、いまひとつ見えにくい。英国では法律にも明記され、身近な存在になっている。
 厚生省によると、社会福祉士の国家資格取得者は今年6月末に延べ1万人を超えた。とはいえ、国家資格を持たないと従事できない医師や看護婦らとは違い、立場の不安定さは否めない。医療ソーシャルワーカー(MSW)や精神科ソーシャルワーカー(PSW)には、国家資格はまだない。厚生省自体も社会福祉士、MSW、PSWの所管が2局1部に分かれるなど、「縦割り行政」との指摘がある。
 精神保健福祉士法案について、日本精神医学ソーシャルワーカー協会は「心の病に対する社会的な差別や偏見が根強いなかでは、社会復帰を支援するPSWの役割が大きく、質的向上のためにも国家資格が必要だ」と主張する。PSWの多い病院ほど患者の平均在院日数が短くなる傾向がある、という。一方で、国際的にソーシャルワーカーを複数の資格に分けている国がないことや医療関係からPSWだけを資格化することが現場に混乱を生み、試験制度も複雑にする、などとして反対意見もある。
 いずれにしても、関係団体や個々のソーシャルワーカーは資格制度や専門職としての質の向上に向けて努力している。介護保険に加え、「成年後見制度」など新たな分野についても、専門職として活躍できる可能性を探ってもいる。それだけに、専門職としての位置づけが、しっかりしたものになることが急務だ。
 日本ソーシャルワーカー協会の会長でもある仲村優一・淑徳大教授(社会福祉学)は「日本は、まだ過渡期。福祉の仕事は善意でするだけで十分だという考え方が支配的だった。資格との関係で専門教育を積極的に認めてきたのも、ここ十年来のことだ」と話している。
 (地域報道部・大谷秀幸)



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◆19980220 入院3人に1人、行政機関経由で 安田系3病院を調査 【大阪】――朝日新聞

二十四億円にのぼる診療報酬の不正請求が発覚し、去年十月に廃院処分となった安田病院(大阪市住吉区)、大阪円生病院(同市東住吉区)、大和川病院(大阪府柏原市)の安田系三病院の元入院患者を対象に、大阪府と大阪市が人権侵害の状況や入院経路などを聞き取り調査した結果の概要が二十日、明らかになった。それによると、福祉事務所や警察、消防経由で入院したという患者が全体の三五%を占め、精神科の大和川では二十一年以上入院していた人が十七人もいた。安田、円生では四分の一の患者が「診察はなかった」と答え、大和川では二割近くが職員からの暴力を証言。行政機関が行き場のない人たちを劣悪な環境の三病院に送りこんでいた構図が改めて浮かび上がった。「病院の犯罪」が明るみに出て、間もなく一年がたつ。
  
 去年五月以降に三病院から転退院したうち、痴ほうや所在不明などの理由で聞き取りができなかった百八十二人を除く六百十七人に保健婦らが八、九月、面接した。最終結果は三月中にまとめる予定だ。
  
 ◆孤独
 行政機関経由で入院したと答えたのは計二百十八人。福祉事務所は身寄りのないお年寄りらから相談を受けると、入院経費の安い安田、円生病院を紹介。府内の精神科救急態勢が不備なため、警察は薬物中毒患者を保護した場合などで大和川を頼らざるを得なかったといわれる。
 家庭や社会でケアの受け皿のなかった人たちが多かったようだ。入院中に「だれも面会に来なかった」と答えた人が安田、円生で計百五十人、大和川では八十一人いた。大和川は長期入院が目立ち、三分の一の九十四人が「六年以上」。最長の回答は、病院の設立当初からとみられる三十五年だった。
  
 ◆無診察
 診察回数を質問したところ、「なかった」と答えた人が安田病院で四十六人、円生四十二人、大和川で十三人いた。
 「医者が気軽に相談に乗ったか」を安田、円生で尋ねた場合と、「医者が病気、治療計画、薬について説明したか」を大和川で尋ねた場合、いずれも七割前後が「いいえ」と答えた。また大和川で「点滴はだれがはずしていたか」と聞くと、八十四人が「他の患者」「自分自身」と答えた。
 病室の環境や食事、特に冷暖房への不満も多い。三病院とも六―七割台の患者が「病室内が適温ではなかった」と答えた。
  
 ◆虐待
 看護職員による暴力を受けたことがあるという人は安田、円生では計十八人と少なかったが、大和川では五十四人が「頭をたたかれた」「棒でなぐられた」などと証言した。
 精神保健福祉法で保障された患者の処遇が守られていない例が大和川で目立つ。
 入院時の医師の診察がなかったとの回答は二四%の六十六人。慎重であるべき保護室に六割近くが隔離されていた。
 二割の人が手紙のやり取りに検閲などの制限があったと答え、面会禁止の経験を持つ患者も一一%いた。
 三分の二の人がごみ当番や配ぜんの準備をさせられ、その六割が「強制的だった」と答えた。



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◆19980415 悪徳医療は許さない 安田病院(社説)――朝日新聞

約六億円の診療報酬を不正受給していたとして詐欺罪などに問われた安田病院元院長、安田基隆被告に大阪地裁が懲役三年の実刑判決を言い渡した。
 大阪府と大阪市が、安田系列の三病院から転院した六百十七人を対象に聞き取り調査し、改めてその実態がわかった。
 「治療計画の説明はなく、相談もできなかった」とするひとは七割に達した。二十一年以上という長期入院が十七人もいた。病院設立のときから三十五年も入院していたひともいた。
 職員減らしと隠ぺい工作で不正受給を続け、蓄財した数十億円ともいわれる資産の一部を、設立した財団からの寄付の形で医学関係団体などにばらまいた。一方で、精神病患者を強制的に入院させ、時には職員らが患者に暴力をふるった。
 また、三五%にあたる二百十八人が福祉事務所や警察、消防の紹介で入院していた。行政は、三病院の実態を知りつつ、公立病院などでも引き取りたがらない薬物・アルコール依存症患者、行き倒れの病人、精神科の救急患者らを送り込んでいた。
 院長は公判で「弱者救済のナイチンゲール精神でやってきた」と主張したが、そんな言葉の裏で「患者」と名付けたひとたちを食い物にしてきた。判決は「(動機は)金銭へのあくなき執着にあり、患者はそのための手段道具」だったと断じた。
 厚生省は、この事件後、医療監視の強化をめざす通知を自治体に流した。検査をする場合、それまでは医療機関に事前通告していたが、疑いがあれば抜き打ちで立ち入りするように改めた。系列病院の同時調査や、職員や患者からの直接聞き取りなども求めるようになった。
 不正請求対策としては、社会保険事務所の診療報酬明細書(レセプト)点検機能を集約化する専門機関が各地に設けられた。保険医療機関の指定取り消し期間を最長二年から五年に延長するなどの国民健康保険法の改正案も今国会に提出されている。
 大阪府は、三病院を告発してきた市民団体の代表を府精神保健福祉審議会の委員に委嘱した。全国に広げたい試みだ。
 大阪府が抜き打ち調査で二つの病院の不正請求を確認するなど、事件の記憶が生々しい地域では、こうした施策が一定の効果を上げつつある。
 だが、依然として医療監視の強化に消極的な自治体も少なくない。地元医師会の反発などを恐れてのことだ。
 目に余る不正請求をなくすために、各地の医師会の自浄努力も求めたい。安田病院がしていたことは、かなり以前から地元の医療界で知られていたからだ。
 現在の医療保険制度では、入院が長期化するほど診療報酬が減らされる。医療費の抑制が狙いである。三病院は、それでもなお、経費を極限まで切り詰めることで利潤をあげていた。
 安田病院のような不正や虐待は根絶しなければならない。忘れてならないのは、なお各地に「ミニ安田」「疑似安田」病院があり、患者という名で長期入院している人びとがいることだ。
 経済的な理由、家族や住宅事情などから行き場がなく、本来「福祉」が支援するべきひとたちを「医療」に押し付けている構造にも、その一因がある。
 今回の事件は、医療行政の欠陥をあらわにするとともに、福祉の貧しさも浮き彫りにした。



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◆19980507 診療報酬改定で長期入院抑制、要治療の高齢者は対象外に――朝日新聞

病院や開業医が受け取る診療報酬が改定されて一カ月過ぎた。今回は、医療費の伸びを抑えるために、入院患者の在院日数を短縮する仕組みを強めたことに特色がある。とくに一般病院に六カ月以上入院している高齢者の診療報酬は十月から大きく減り、高齢患者の病院追い出しが一層進みそうだ。だが、在宅の医療、介護態勢は整ってない。特別養護老人ホームなどの施設も不十分だ。行き場のない高齢患者を増やさないために、治療の必要な患者はできるだけ新料金の対象外とするなど、慎重な対応が必要だ。
 (有岡二郎・編集委員)

 「うちの病院には長期入院の老人患者が三人いる。今度の改定で三人合わせて一カ月に九十万円の減収。看護婦などの人手を考えれば、退院してもらうしかない」。東京都内の民間病院長(五五)は、病院経営の数値を示しながら語る。
 在院日数短縮の診療報酬改定で最も大きな影響が出そうなのが、入院六カ月を超える七十歳以上(寝たきり状態は六十五歳以上)の患者に新しく設けられた一日六千百三十円の老人長期入院医療管理料だ。厚生省によれば、対象となる高齢患者は約六万六千人と推定されている。
 検査や薬、注射の回数に関係なく払う定額制で、看護料から一部の処置費まで含まれる。職員の配置換えなどの準備時間を考慮して十月から実施される。
 病院側がいやなら、いままで通りに検査や注射のたびに診療報酬点数が加算される出来高払い制で医療費を請求してもよい。だが、看護料が低く抑えられるので、人件費を考えれば、定額制を採用したほうが得になる設定だ。
 「厚生省は長期入院の老人をすべて社会的入院として追い出そうとしている。間違いだ」と岐阜県内の民間病院長(四九)は憤慨する。
 たとえば、ぜんそくと脳血栓の後遺症で半身まひの寝たきり状態の患者は酸素吸入が欠かせず、自宅には戻れない。
 「入院が長くなるほど収入が減る診療報酬の仕組みのために、一般病院には入院の必要のない長期患者はもういない。追い出せない老人患者を抱えている病院はつぶれるしかないのか」というのだ。
 厚生省は、新料金設定にあたって、人工呼吸器の使用中の患者や、抗がん剤を二週間以上投与している重症患者は例外として長期入院を認めるとしているが、対象範囲が少なく限られている、ともいう。
 厚生省によれば、長期療養が多い結核や精神病を除いた一般病床の平均在院日数は一九九五年時点で、三十三・七日。先進諸国の中では飛び抜けて長い。
 同じ九五年に、ドイツは十四・二日と日本の半分以下。フランスは十一・二日で同じく三分の一。英国は九・九日、米国は八日だ。
 したがって平均在院日数を短くすれば、医療費の伸びもかなり抑えられる、というのが厚生省の考えだ。
 病院のベッドが多すぎることが医療費のむだな増加の要因になっているという認識も、厚生省の医療費抑制策の底流にある。
 人口千人当たりのベッド数は十五・五で、ドイツの十・一、フランスの九・四より多く、英国の五・四、米国の四・四を大きく上回っている。
 そこで、病院や開業医の持っているベッドを、急性疾患対象と慢性疾患対象に明確に機能分化させて、診療報酬でも別扱いしよういうのが、厚生省の進める医療制度改革の柱の一つだ。
 在院日数短縮は、ベッドをどちらかに振り分ける手段としてのねらいもある。
 急性疾患対象のベッドには手厚い看護体制を条件に高い診療報酬を設定し、その代わり平均在院日数はできるだけ短縮させる。慢性疾患対象ベッドは在院日数は長くてもよいが、その分看護職の数も少なくてよいから診療報酬を低くする、という政策だ。
 このため四月から、入院患者の基本料金である入院時医学管理料の最も高い料金を請求できる病院の条件が、従来の平均在院日数三十日から二十八日に厳しくされた。また、料金の高い日帰り手術の対象が拡大された。
 「アメとムチで、退院を促進させようとしている」と、全国保険医団体連合会の河野和夫副会長は言う。
 医療費のむだな増加はできるだけ抑えなくてはならない。欧米に比べて長い在院日数の短縮も基本的には進めるべきだ。そのためには「入院は長くて当然」という病院、患者双方の意識を改める必要もある。
 しかし、まだ治療の必要な高齢患者の病院追い出しがあってはならない。新料金は、行き場のない高齢患者を多く生み出すおそれがある。
 在宅医療・介護態勢の充実を急ぐことはもちろんだが、十月の実施までに、対象者とされる六万六千人の実態調査を進め、新料金の対象外とされる重症患者の範囲を広げるなどの対応策を検討したらどうか。



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◆19980925 患者の人権、陰で侵害 違法の疑い 新潟の国立療養所 【名古屋】――朝日新聞

「患者の人権の尊重、医療事故防止に注意している」――。精神保健福祉法の規定に違反する患者処遇の数々が明るみに出た国立療養所犀潟病院(新潟県大潟町)は、自ら開設したインターネットのホームページで精神科の閉鎖病棟をこのように紹介している。しかし実際の病棟では、医師の診察なしでの患者の隔離や拘束、保護室以外の場所への患者の隔離、カルテなど診療記録の記載の不備など、法違反の疑いが多かった。病院を立ち入り調査した新潟県の職員のひとりは「病院側は反省しているというが、人権侵害を改善していこうという姿勢が足りない」と嘆いた。
  
 新潟県が同病院にある二つの精神科閉鎖病棟と老人性痴ほう病棟を対象に、八月十日に実施した立ち入り調査の結果は、精神保健福祉法違反の疑いが目立った。
 「診療録に隔離、拘束の理由、期間などの記載がない」=十五件▽「閉鎖病棟と廊下との二重扉の内側に患者を閉じこめていた」=二件▽「『看護者の判断で隔離してよい』と看護記録に記載していた」=一件▽「任意入院であるのに頻繁に隔離、拘束が行われていた」=六件――など。
 法違反が疑われる事例は、隔離や身体拘束にかかわる事項以外にもあった。
 「強制的に入院させた患者の入院届、定期病状報告の遅れ」=二十三件、「未提出」=三十三件▽「家庭裁判所から『保護者』の選任を受けていない扶養義務者の同意で強制的に入院させることができるのは四週間までなのに、その期間を超えても入院させていた」=三件▽「患者が外部の人との面会や電話をしようとするのを制限したことをうかがわせる記録があるのに、カルテにその記載がない」――などだ。
 同病院は二年前から、医療内容などを紹介するインターネットのホームページを開設している。そこには「精神医療の基幹施設として政策医療を中心に、地域医療に大きく貢献していた」「新たな時代『脳の科学・心の世紀』に対応した国立医療機関をめざしている」と高らかに宣言している。また、拘束中の患者が死亡した閉鎖病棟を紹介するページでは、「主治医の診断により治療方針が決定し、薬物療法が主体となって治療が行われている」とした上で、「患者の人権の尊重、社会性の拡大、医療事故防止に注意している」などと記載されている。
 精神医療行政にも詳しい精神科医は「犀潟病院で行われていたことは、病院への行政処分はもちろんのこと、患者の主治医である精神保健指定医の指定取り消し処分が行われてもおかしくないくらい重大な人権侵害だ」と指摘している。
  
 ○「拘束、強引ではない 指示の仕方に不備」 院長一問一答
 国立療養所犀潟病院の大沼悌一院長は二十四日、朝日新聞の取材に対し、患者の死亡事故などを認めた上で、「拘束は必要やむを得ない措置だった。手続き上の不備があった」などと話した。一問一答は以下の通り。
  
 −−患者への身体拘束は適切だったのですか
 亡くなった患者さんは他人の部屋に入り、ものを投げるなどの問題が多かった。拘束は必要やむを得ない措置だった。問題は、その都度、主治医が患者を診察して、看護婦らに指示すべきなのに包括的な指示のみだった。手続き上の不備があった点は認めるが、不必要な拘束を強引にしたわけではない。
 −−事故当日、患者さんに問題行動はありましたか
 夜、他人の部屋に入ろうとするなど、雲行きが怪しくなった。看護婦はこれは駄目だと判断し、「縛るからね」と言って、腰などを拘束した。看護記録には、いつものことだとして、その経緯を記載しなかった。当日の患者の様子や日常の行動パターンからみて、やむを得なかった。
 −−法違反の拘束、隔離やカルテの不備などが常態化していたようだが
 長期間入院の患者への診察、指示はその都度、カルテに記載せず、手抜きしてしまった。入院期間の短い患者では、丁寧に丹念に記載している。ほかの病院でも長期入院では、カルテ記載がさぼりがちになってしまう傾向があるのではないか。
 −−基本的ルールを守れずに、患者の人権などが守れるとお考えですか
 病院には人の出入り、周りの目もあり、人権侵害などあり得ない。ただ、カルテに記載しないと、「本当に診察したのか」といわれても、弁解できない。医師の防御として、自分の立場を明確にいえるよう、カルテの記載をしっかりするよう、指導している。
 −−人手不足など構造的な問題もありましたか
 九十六床の閉鎖病棟には(患者を隔離するための)保護室は四室で、確かに少ない。死亡事故の日も、個室がいっぱいで、亡くなった患者を、すぐ見えるような場所で拘束しなかった。手のかかる患者の多いこの病棟では夜勤に三人の看護は必要だったが、(全体の看護態勢の定員が法律で決められており)二人しかあてられなかった。
 −−今後の対応は
 医師の診察、指示などが適切か互いにチェックできるようマニュアルをつくり、来週から始める。主治医も手続き上の不手際を認めており、国の処分などを待っている段階だ。
  
 ○厚生省は毅然と対応を
 <解説> 精神病院で入院患者の体を拘束することができるのは、主として自傷行為から患者自身を守るためで、一定の臨床経験を持ち厚生大臣の指定を受けた「精神保健指定医」が直接患者を診察して必要と認めた場合に限る。これは精神保健福祉法で定められたことであり、さらに、指定医は患者を拘束した場合、遅滞なく必要事項をカルテなどに記載しなければならないことも法に明記されている。国立療養所犀潟病院で明らかになった事例は法違反の疑いが極めて強い。
 一九八〇年代に患者への日常的な暴行や無資格診療などが発覚した報徳会宇都宮病院事件以来、民間の精神病院の不祥事はあとを絶たない。しかし、一般病院のモデルとなるべき先進的な医療が行われているはずの国立療養所で違法な患者処遇が常態化していた事実に、関係者はショックを受けている。厚生省は「身内」ともいえる国立療養所での不祥事に手心を加えることなく、病院への行政処分である改善命令の発動を含め、毅然(きぜん)とした態度を示す必要がある。 (社会部・和田公一)



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◆19981225 8病院、精神病の入院患者に結核定期検診せず 法的義務なく/栃木――朝日新聞

精神病患者が入院する県内二十九病院のうち、五病院が入院時に結核検診を全く実施せず、八病院では長期入院患者に対して、定期的な検診をしていないことが、県健康増進課の調べで二十四日、わかった。八月下旬に県南の精神病院で結核の集団感染があったことから、県が各病院の予防対策について調べた。同課は年明けから、結核検診を希望する精神病院で、検診することにしているが、身近に潜む結核に対する病院の危機意識の薄さが問われそうだ。
 結核予防法は、十九歳以上の人は年一回、職場や住民検診で健康診断を受けるよう義務づけている。しかし病院には、入院患者の健康診断をする義務はない。このため、患者が長期にわたって入院することが多い精神病院などで結核に感染する事例が発生しており、法の「落とし穴」を指摘する声も出ている。
 県健康増進課の調査対象となったのは県内二十九の病院。主に精神病院だが、自治医科大や独協医科大病院など、精神科の入院施設を備える大学・総合病院も含まれている。
 同課によると、調査したうち五病院では患者の入院時に全く検診をしていなかった。また四病院では、長期間検診を受けていなかったり、糖尿病などの重い病気を抱え、結核が発症しやすいと思われる患者に対してのみ実施していた。
 一年以上入院している患者に対して、定期的に検診をしていたのは十五病院。六病院は検診の対象を一部に限っていた。八病院は、定期的な検診を実施していなかった。
 過去五年間で病院内で発見された結核患者の数を調べたところ、入院患者では計六十五人、職員は計六人が感染していた。このなかには、八月の集団感染のほか、一九九六年六月に宇都宮市内の病院で患者十五人が集団感染した例もある。そのほかの感染者は定期検診でわかったもので、集団感染ではなかったという。
 「院内感染対策委員会」を設けているのは二十七病院あった。特効薬のないメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対しては二十七病院、B型またはC型肝炎には二十三病院、結核に対しては十九病院が委員会を設けていた。
 かつては「不治の病」ともいわれた結核は、猛威は薄れたとはいえ、現在も身近に潜む代表的な伝染病の一つだ。同課によると、九七年の栃木県の人口十万人あたりの結核患者数は二十七・九人。結核登録者は減少傾向にはあるものの、県内には千四百六十六人いる。
 現在でも毎年、五百−六百人が新たに結核患者として登録されている。
 同課によると、結核菌はほとんどの人が体内に持っており、高齢化や疲労などで免疫力が低下すると発症する。重労働をしたうえ、不規則な食生活をした若者や外国人が体を壊し、発症するケースもあるという。
 同課は来年一月から三月にかけて、希望する精神病院に技師らを派遣し、結核検診をする予定だ。田崎昌芳課長は「結核患者を診たこともない医者もおり、結核に対する危機意識は薄れつつある。病院には、結核に対するきちんとした態勢を取ってほしい」と話している。



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◆19990710 精神病ケア、現状は家族頼み 粥川裕平(ストレス手帳) /愛知――朝日新聞

「地球の底から生まれて来た。破滅しそうな地球を救うために自分は神になった」。妄想型精神病で長期入院中の五十代の男性患者はこう話す。
 入院する前は、家業の鉄工所を手伝っていたが、父親が亡くなって工場を閉鎖してからは、仕事に戻る気もない。「いやそんなことより、人類の未来が心配で仕方がない」と真剣に訴える。妹さんは父の死後、毎週欠かさず面会に来て、一日も早い回復を願っている。お寿司(すし)や季節の和菓子を差し入れ、大好きな缶コーヒーを何十本も持ってくる。地球や人類の救世主ではなく、普通のお兄ちゃんにもどって欲しいと願っている。
 映画『男はつらいよ』のフーテンの寅さんの妹さくらは、お兄ちゃんを見守り支えつづける優しい人だ。自由人、寅さんはひょっこり葛飾柴又のおいちゃんの団子屋に戻って来る。最初は歓迎されるが、隣の工場のタコ社長をおちょくったり、かなわぬ恋に悩んでひと騒ぎ起こしたりする。はれものに触るように扱われて居づらくなり、また旅に出る。さくらだけは「お兄ちゃん、また帰ってきてね」と最後まで見送る。
 結婚して家庭ができると、家族の世話をするだけでも大変だ。この妹さんのように、遠く離れた病院にいる兄を定期的に見舞うのは、だれにでもまねできることではない。
 十五年の歳月が流れたが兄に回復の兆しはない。ちっとも治せない主治医に苦情を言うわけでもなく、次の面会に向けて準備を進めている。
 わが国では精神保健福祉法で、精神病患者の家族に長年、保護監督義務を強いてきた。足元もおぼつかない八十過ぎの母親が面倒をみたり、籍が変わった姉妹にも保護義務を課したりしていた。
 患者にとって家族の優しさは、かけがえのない支えだ。最近になって徐々に法改正が進んではいるが、それでも家族に頼りがちなのが、わが国の精神病ケアの貧困な現状でもある。 (名大病院精神科病棟医長)



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◆19991121 専門家が理解訴え「精神障害者と共に」 和歌山で市民講座/和歌山――朝日新聞

精神障害者に対する理解を深めてもらうための「精神保健福祉市民講座」(和歌山市保健所主催)が二十日、和歌山市手平二丁目の和歌山ビッグ愛で開かれた。精神障害者への偏見や差別をなくす目的で年一回開かれている。市民約二百三十人が参加し、県立医科大名誉教授の東雄司さんの講演を聞いた。
 「支えられ、そして支えるまちづくり」と題して講演した東さんは、不登校や摂食障害、児童虐待や家庭内暴力など、心の問題が増えてきていることを指摘。高齢者にも痴ほう症状と誤解されるうつ病患者も増えてきていると話した。
 また、日本は欧米に比べ精神障害者の長期入院者が多いとして「精神障害者への福祉の遅れや偏見、無理解が原因。四十年間入院し続けたままという患者さんもいるし、障害者本人が退院を望んでも、身内の人から受け入れられずに、帰る場所がないまま入院を続ける例もある」と話した。
 また、国内で最初に福祉工場を開設した和歌山市内の障害者福祉施設「麦の郷」の実践を紹介。「障害者本人と共同作業所や地域の生活支援センター、家族会や自助グループ、ホームヘルプサービスや訪問看護などの行政サービス、市民ボランティアがつながり、ネットワークを地域の中で作りあげていくべき時に来ている」と述べた。
 市保健所では、不登校や摂食障害、薬物やアルコール依存症など様々な心の問題について、精神保健福祉定期相談を実施している。また、精神障害者の家族のための会や障害者の社会復帰訓練の場なども設けている。



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◆19991126 精神病院のデータ公開 選ぶ手がかりに一覧 大阪の団体 【大阪】――朝日新聞

実態が分かりにくい精神病院の情報を明らかにし、利用者自身が選べるようにしようと取り組んでいる市民団体が、大阪府内の精神病院のデータを並べた冊子「扉よひらけ 大阪精神病院事情ありのまま」を作った。情報公開制度で集めたデータや訪問インタビューをまとめた。「心を病む人は増えているが、これだけのデータを一覧にして紹介した例はないはず。これを参考に各地で情報開示を進めてほしい」と関係者は話している。
 最近NPO法人に認可された「大阪精神医療人権センター」が、大阪府内の五十八病院にアンケートしたうえで、府の情報公開制度を使って常勤医師一人当たりのベッド数や長期入院者の割合などのデータを集めた。さらに、会員が計二十病院を訪問し、責任者や入院患者とインタビューした。
 訪問時に特にチェックしたのは公衆電話の使い勝手や、病棟から外出するシステム。公衆電話が詰め所のなかにあれば、外部に助けを求めることができない。独立した電話があっても、「トラブルを避けるため」といった理由で、十円玉を詰め所で預かっている病棟が多かったという。
 医師数や看護婦数は、医療の手厚さを示し、長期入院者の割合などを見れば、病院の性格をある程度判断できるという。
 同センターの山本深雪事務局長は「主観的な表現は避けたが、市民団体の冊子として、どこにも遠慮なくデータを出せたので病院の質の良しあしを読み取れると思う。今後も、患者、病院双方の意見を寄せてもらい、私たちも医療現場との緊張感をたやさないように、取り組みを続けていきたい」と話す。
 冊子は千五百円。問い合わせは同センター(06・6313・0056)へ。



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◆19991214 松口病院、投薬減らし再発誘導? NPOが改善を勧告 【西部】――朝日新聞

患者の権利擁護を目的に医師や弁護士らが今年六月に発足させた民間の非営利組織(NPO)「患者の権利オンブズマン」(事務局・福岡市)は十四日、福岡県前原市の精神病院「松口病院」(松口佳憲院長)に対し、退院した患者への投薬を急激に減らし、病状が再発して再入院するよう誘導した疑いがあるとした調査報告書をまとめ、同病院に改善を勧告した。同病院は先月末、入院患者の処遇改善請求を不当に取り下げさせたとして、同県から改善命令を受けている。
 
 患者の権利オンブズマンによると、苦情を申し立てたのは同病院の開放病棟に長期入院していた精神分裂病の元患者。県の改善命令の原因になった処遇改善請求を出した患者の一人で、同オンブズマンでは、元患者や家族、病院の主治医や担当職員などから事情を聴いていた。
 報告書によると、元患者は今年八月中旬に退院後、すぐに不眠症状に陥ったとされる。ほかの病院で調べたところ、退院前に服用していた六種類の薬のうち、中心になっていた向精神薬がまったく処方されていないことが分かった。
 元患者は一九九二年夏にも同病院を退院していたが、その時も薬が半分近くに減らされ、退院の五日後に再入院したという。こうした投薬量の変更について、元患者や家族には一切、説明されていなかった。
 同オンブズマンの調査に対し、病院側は元患者への投薬を減らしたことは認めたが、「強い薬なので、病院外では服薬管理が難しいと考えた」「患者の母親が強く希望した退院だったので、症状が十分に良くなっていなかった」と反論した。
 しかし、同オンブズマンで独自にカルテなどを点検した結果、「薬の急激な減量に医学上の合理的な理由はない」と判断。「患者の健康が侵害され、不必要な再入院が強要された可能性は高い」として、元患者への補償と再発防止を勧告した。
 同オンブズマン理事長の池永満弁護士は「同病院が入院患者確保のため、政策的に退院時の薬の減量を行っている疑問も払しょくできない」と話している。
 同オンブズマンは医療、法律、福祉などの専門家で構成され、全国から苦情や相談を受けつけている。今月十日にNPOとして承認された。改善勧告は六月に発足して以来初めて。
 
 ●「コメントできない」
 病院は同オンブズマンに対し、「改善すべき点があれば改善する」などと話しているという。また病院側は朝日新聞の取材に対し、「院長が不在でコメントできない」と話している。


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■2000

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◆20000604 入院期間 世界標準からかけ離れた長さ(ふしぎの国の医療:34)――朝日新聞

◆20000930 貧しい治療の質、支える仕組みを 精神病床にも多い「社会的入院」――朝日新聞

◆20001001 欠格条項の見直しを 高松で精神障害者の人権を考える集い  /香川――朝日新聞

◆20001228 生活保護の医療扶助、適正化求め厚生省が通知 不必要入院是正を――朝日新聞



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◆20000604 入院期間 世界標準からかけ離れた長さ(ふしぎの国の医療:34)――朝日新聞

日本の医療は世界からかけ離れたところが少なくない。たとえば入院期間。東北大学大学院の濃沼信夫教授(医療管理学)は四月に出版した「医療のグローバルスタンダード」(ミクス)の中のグラフを示す。
 経済協力開発機構(OECD)は加盟二十九カ国の医療統計を集めている。濃沼さんは国ごとの定義の違いを補正し、詳しく分析した。一九九六年の統計を見ると、結核、精神病を除く入院患者の平均在院日数は、日本が三十三・五日で群を抜く。二十九カ国の平均(世界標準)は十二・五日で、日本はその二・七倍にもなる。米国は七・八日と少ない。
 しかも、特異な傾向を示す。日本以外の先進国は六〇年以降、入院期間がどんどん短くなる右下がりグラフ。しかし、日本だけは八五年半ばを頂点とする富士山型になっている。
 「大きな手術が小手術になるなど、技術の進歩で入院期間が短くてすむようになりました。欧米諸国の統計はそれを素直に反映しています」と濃沼さん。
 欧米では、長期入院は患者の回復や社会復帰を遅らせ、医療依存型の人間をつくるとして、適切な在院期間を模索している。ところが日本では、「入院は好ましいもの」との思い込みがある。患者側が入院を望み、医療側も収入につながるので歓迎する。六〇年以降の入院期間の長期化は、病床数が三十年間で二・四倍にも増えたこととも関係する。
 病床数が多いと入院期間が長くなる。人口あたりの病床数で、日本は世界標準の二・二倍、米国の三・九倍だ。
 医療の質に関係する人手はどうか。入院患者一人あたりの医師、看護婦などの職員数は日本は一・一人で、世界標準(二・五人)の半分以下。米国(五・五人)、英国(四・四人)に遠く及ばない。看護婦に限ってもほぼ半分。ところが、人口あたりだと、職員、看護婦数とも世界標準に近い。
 「日本も計画的に世界標準に近づけていくべきでしょう」と、濃沼さん。数値からすると、今の職員数を減らさずに病床を半減し、しかも一日あたりの入院費を倍にする、ということになろうか。人手不足による入院の長期化が避けられ、医療事故も少なくなるだろう。 (編集委員・田辺功)



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◆20000930 貧しい治療の質、支える仕組みを 精神病床にも多い「社会的入院」――朝日新聞

入院治療の必要がないのに、受け入れ先がなくて退院できない――そんな「社会的入院」は、老人病院などで介護を受ける高齢者だけではなく、精神病院に長期入院する人々の問題でもある。日本の長期入院患者のほぼ半分は精神障害者。社会的入院は、国民の保険料や税金で賄われる医療費のむだ遣いであり、患者の人権侵害につながる面がある。患者の側に立って地域で支える在宅ケアなどの仕組みを早急に整えるべきだ。
 (くらし編集部・生井久美子)
 
 「太陽の光が全く入らない保護室(隔離室)に二十年いる患者もいます。身体も心もなえるばかりで療養空間とは呼べない。保護室のトイレに覆いがない病院もまだある。人としての誇りをはぎ取るのは、治療の大きなマイナスです」
 精神病院の改善を求める運動を続ける大阪精神医療人権センター事務局長の山本深雪さん(四七)が、八月開かれた厚生省の医療法改正関係の専門委員会で実態を訴えた。こうした劣悪な療養環境と医療の質の貧しさで患者の症状が悪化し、入院が長期化している例もあると指摘した。
 ただ、精神病床の入院患者の三分の一は受け入れ態勢が整えば退院できることが、いくつもの調査で示されている
 日本福祉大学教授(医療経済学)の二木立氏は「社会的入院というと、老人の長期患者で、治療が要らない人と思われがちだが、それだけではない。とりわけ、精神病院の長期入院は十年単位で、深刻さが違う。それを社会的入院イコール老人のように厚生省が説明するのは、作為的情報操作だ」という。
 実際、一九九六年の患者調査(厚生省)によると、六カ月以上の長期入院患者約五十五万人のうち、六十五歳以上は五四%。一年半以上だと逆転して、六十五歳未満の方が多くなる。
 精神病床の入院期間は長い。約三十三万人の入院患者のほぼ半分が五年以上、三人に一人が十年を超える。老人病院で五年以上が一二%、十年以上は三%。
 人口千人当たりの精神病床数を経済協力開発機構(OECD)加盟国でみると、日本は欧米諸国の二倍から九倍と、異常に多い。平均入院期間も約四百日で、欧米の十倍近く、世界の流れに逆行している。
 精神病院が急増したのは一九六〇年代。「精神病患者は危険」だとして、政府は精神病院をたくさんつくる政策をとり、患者が社会から隔離されることになった。病床がどんどん増え、いったんベッドをつくった以上、供給が需要を生み、長期入院が増えた。その結果、地域に心病む人を受け入れ、支えようとする文化もサービスも十分に育たなかった。
 全国自治体病院協議会常務理事で精神科医の伊藤哲寛さんは、「精神病院の入院医療費は、老人の保健施設や福祉施設より安い。社会保障費が逼迫(ひっぱく)するなかで、精神病院に患者さんを閉じこめておいた方が安上がりだと考える向きもある。そんな考えで政策を進めるなら人権侵害」という。
 「精神科」は医師も看護婦も一般病棟より少なくていいという特例まである。今国会に提出された医療法改正案の関連で一般病棟の看護基準は約半世紀ぶりに見直されたのに、精神科特例を廃止するかどうかは、日本医師会や精神病院経営者の反対などでこう着状態になっている。
 「精神医療サバイバー(生還者)」を名乗る広田和子さん(五四)は、厚生省での意見聴取に対して、入院体験からこう強調した。
 「特例をやめて安心して医療を利用できるようにしてほしい。国は国民に対して、らい予防法や薬害エイズのように、これまでの精神障害者施策を謝罪し、抜本的改革をすべきだ」
 二十二日、全国精神障害者団体連合会などが特例廃止を求めて厚生省で開いた記者会見では、「せっかく地域に作業所や受け入れ施設ができても、入院中の医療が悪く、退院後にうまくつながらない」との嘆く声が聞かれた。
 精神科にしろ高齢者にしろ、社会的入院をなくすには、治療の初期段階の医療の質を充実させ、通所施設や訪問診療・ホームヘルパーの拡充など、安心して暮らせるように地域全体で支える仕組みが大切だ。
 日本の高齢化が進む前に、精神医療で地域の仕組みづくりに真剣に取り組んでいれば、高齢者の痴ほうのケアや社会的入院の問題もこれほど深刻にならなかったかもしれない。
 精神医学の父と言われる呉秀三東大教授は約八十年前、日本の精神病患者についてこう記した。「実ニ此病(この病)ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦(この国)ニ生マレタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ」。高齢者を含めて問題の根っこは今も変わっていない。



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◆20001001 欠格条項の見直しを 高松で精神障害者の人権を考える集い /香川――朝日新聞

精神障害者の人権を考えるパネルディスカッション「香川の精神保健福祉を考える集い」が三十日、高松市松島町の市民文化センターで開かれた。精神障害者というだけで資格の取得などができない「欠格条項」は約六十もの法令にあるとされ、精神障害者が就労して社会生活する妨げになっている。パネリストらは「欠格条項は人権問題。見直すべきだ」などと指摘した。
 「NPO香川の精神保健福祉を考える会」(松岡克尚理事長)が主催し、約百人が参加した。パネリストには、精神障害者が地域で暮らすグループホームを開設した長崎県精神障害者団体連合会長の山口弘美さん(五二)と、香川県弁護士会の久保和彦弁護士が務めた。
 精神障害者の「欠格条項」は、例えば「精神障害者は、自動車の運転免許を取得できない」とされ、就労しても「最低賃金法の適用外」とされている。山口さんは「著しい差別行為だ」とし、また、一部の精神病院では閉鎖病棟が残り、「作業療法」の名目で患者は労働を強いられている、と指摘。「米国のように第三者の監視機関を病院内に置き、人権を監視する必要がある」と訴えた。
 久保弁護士は、十二年間にわたり強制的に入院させられた男性が病院を相手に起こした損害賠償訴訟の例を紹介し「欧米では長期入院は減っている。裁判を通じて精神障害者が置かれた現状を訴えたい」と話した。



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◆20001228 生活保護の医療扶助、適正化求め厚生省が通知 不必要入院是正を――朝日新聞

生活保護費の約六割にあたる年間約一兆円の医療扶助について厚生省は、入院治療の必要がない精神病院や老人病院の長期入院患者に退院を求めるなど、適正化を指示する通知を都道府県知事らに出した。また、都道府県や主要市などの福祉事務所が医療機関から請求された診療報酬明細書(レセプト)の点検を徹底するように指示した。
 厚生省によると、生活保護の対象になっている約百万人の八割が医療扶助を受ける。うち入院患者は十三万四千人で、その約半数が精神病院に入っている。高齢の単身者が医療扶助で老人病院などに長期入院する例も少なくない。こうした長期入院患者には、入院治療の必要性が疑問視される例が少なくないと指摘されている。
 通知では、長期入院の精神病患者らは病状に応じて社会復帰施設や在宅サービスを利用し、高齢単身者らも状態によって介護施設や在宅に移ることを求めている。また、診療日数が過度に多い患者への指導と助言も指示した。
 医療扶助費は一九九〇年度の約七千四百億円から徐々に増え、昨年度は約一兆円で、入院費が約五五%を占めている。

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◆20010114 続く精神病院「社会的入院」(あなたの隣で)――朝日新聞

◆20010130 高齢患者泣く、精神病院の姿(声)――朝日新聞

◆20010208 精神病院の入院患者に生活保護なぜ多い 受け皿なく長引く滞在――朝日新聞

◆20010226 「痴ほう難民」精神病院に 在宅も無理、施設も足りず(時時刻刻)――朝日新聞

◆20010523 積極受け入れの動き 精神障害ある人のホスピスケア――朝日新聞

◆20010708 けいれん伴う電気ショック、閉鎖病棟で常態化 都立松沢病院――朝日新聞

◆20010708 患者、けいれん止まらず 東京都立松沢病院で電気ショック療法――朝日新聞



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◆20010114 続く精神病院「社会的入院」(あなたの隣で)――朝日新聞

電極を持った医師の手が、ひたいに当てられる。次の瞬間、バットで殴られたような衝撃が駆けめぐる――。
 いつもそこで、東京都三鷹市の岡田寿夫さん(六五)は目を覚ます。
 精神病院を九年前に退院した。無認可の作業所で働く今も、悪夢によみがえる。精神分裂病と診断され、電気ショック療法を何度も受けた。おびえる日々のなかで、自立して暮らす自信を奪われた。入院生活は通算、約二十五年に及ぶ。
 入院治療の必要がないのに、家族の事情や受け入れ先がないなど社会の事情で退院できない。それを「社会的入院」と呼ぶ。
 
 ◇精神病院入院…いつしか25年
 岡田さんは、精神病院が運営する共同住宅で一人暮らしだ。入院生活が長かったため、スーパーで値札を見ても高いか安いか、よく分からない。作業所職員に尋ねてから買い物する。
 作業所では、お菓子を詰める箱を組み立てたりしている。約三十人の仲間のリーダー的な存在で、「あと少しだから頑張れ」と声をかける。でも時折、職員に「研究を続けていたかったなあ」と話しかける。
 慶応大工学部を卒業した。大手造船会社に就職して長崎県の研究所に配属され、合金成分の分析に打ち込んだが、ある日、母親から届いた手紙を読んでいるうちに「別人の筆跡ではないか」との思いにとらわれた。うつ状態になって東京の実家に戻った。結婚話に反対されて腹を立てる姿を母親が怖がり、入院を決めた。二十八歳だった。
 病棟の窓には鉄格子がはめられ、十五人から二十人が十五畳ほどの畳部屋で生活していた。朝六時起床、午後九時就寝。ふろは週に一、二度で、セメントむき出しの湯船の湯は深さ二十センチほどしかなかった。
 昼食をはさんで続く袋作り作業の報酬が気になった。一度も渡されたことはなかったが、尋ねられなかった。「電気ショックが怖くて医師の機嫌を損ねることはできませんでした」
 それは、看護婦の言葉が合図だった。
 「タオル持ってきて」。週に二回、畳の上に十人ほどが仰向けに寝転がり、舌をかみきらないようタオルをくわえる。説明もなく、医師が順番に電極を頭に当てる。一回、五秒ほど。
 「扱いは囚人のようでした。でも、電気ショックが体に染み通っているので、病院側に従うようになり、劣悪な環境にも慣れてしまうのです」。三十八歳の春、退院して自宅に戻ったが、町並みも物価も変わってしまっていた。不安感から、今度は自ら電話して別の精神病院に入院し、さらに約十五年を過ごした。
 岡田さんはいま、作業所の仲間とすき焼きを囲むひとときが楽しみだ。病院では、黙々と食事をした。会話しながら夕食するたびに、生きている喜びを実感している。
 岡田さんを支える病院関係者(五三)は「住居や仕事など地域の受け皿が当初からあれば、数年の入院で社会に戻れたのに」という。
 電気ショックは麻酔をかけ、本人か家族の同意を必要とするなど、入院患者の待遇は徐々に改善されてきた。しかし、中心静脈栄養(IVH)や「拘束」が問題になった埼玉県の朝倉病院のような問題は後を絶たない。
 埼玉県の調べでは、朝倉病院の患者の平均入院期間は千二百九十日で、全国平均の約三倍にあたる。入院患者百九十人の平均年齢は七十一・七歳。家族も支えられず、地域にも受け入れ施設がないために送り込まれてくるお年寄りが多い。
 
 ◇時間を返して…病院側を提訴
 「失われた時間を返してほしい一心です」。高松市の和幸さん(五二)=仮名=が昨春、強く訴えた言葉が「NPO大阪精神医療人権センター」の事務局長、山本深雪さんは忘れられない。
 和幸さんは母親の依頼で一九八五年から約十年、高松市の精神病院に入院した。
 退院後の一昨年、退院を引き延ばされて社会復帰が困難になったなどとして、病院を経営する財団法人に慰謝料を求めて提訴した。
 訴状によると、和幸さんは入院中、患者のおむつ取り換えや看護婦詰め所のエアコン掃除、病棟の鉄格子の塗装などをした。病院側は「入院の必要があった」「仕事は作業療法であり、本人が希望した」と反論している。
 「訴訟を通して、退院できるのに病院から出してもらえない人をなくしたいのです」
 和幸さんは、山本さんにこう話していた。
 (くらし編集部 石井暖子 生井久美子)
 
 ●3割が「社会的入院」 日本の精神医療、復帰支援体制育たず
 日本の精神病棟に入院している人は、いま三十三万人いる。
 うち三〇%に当たる十万人が、入院の必要がない、いわゆる「社会的入院」という。厚生省が一九八四年に公表した調査結果だ。
 日本精神神経学会が九九年に実施した調査でも似た結果が出ている。一年以上入院している長期入院者のうち約三二%が、すぐ退院できるか、通院や地域生活の問題が改善されれば退院できる人だった。
 日本の精神医療の歴史をみると、「社会的入院」の背景が見えてくる。
 秋元波留夫さん(九四)は、日本の精神医療の生き証人だ。七十年前から、精神科医として患者と向き合い、東大教授から精神病院長をへて、いまは、障害者を地域で支える共同作業所全国連絡会顧問だ。
 一九〇〇年、最初にできた法律は精神病者監護法だ。「監護」は、「監禁」と「保護」からとった。当時は、自宅の座敷ろうを「私宅監置」として法的に認めていた。
 「カンゴと聞けば看護かと思うけれど、監護。国家が家族に監禁を義務づけた、おかしな名前です」
 秋元さんが東京府立(当時)松沢病院に勤め始めた三五年、精神病院の入院患者は約二万人だった。それ以外に私宅監置は七千人以上いるとみられていた。
 戦後間もない五〇年、ようやく監護法が廃止され、精神衛生法ができた。民間病院の建設に助成金がついたほか、他科より少ない人手基準によって建設が促進された。五年間で精神科病床数は三倍に急増した。一方、地域で患者を受け入れるケア体制は置き去りにされていった。
 「自宅監禁から、病院監置に変わっただけ」
 欧米諸国との決定的な分岐点は六〇年代だ。
 六三年には、患者や医師の提言を受けて、米国のケネディ大統領が年頭教書で「精神障害者に強いている残酷な問題を放置することはできない」と訴え、脱施設対策にのりだした。
 当時、東大教授だった秋元さんは、米国の精神医学会に出席して、そのことを知った。瞬く間に、一万人の精神病患者が入院していたニューヨークの州立病院では千五百人に減るなど、入院患者は激減した。
 一方、日本では六四年、精神障害者が駐日米国大使を襲った事件を機に、精神障害者を危険視する声が強まった。
 「病院の建設誘導策はさらに強まり、病床数はどんどん増えた」
 病院を造るほど入院患者は増え、長期入院も増えた。患者は社会から隔離され、地域で支えるサービスも十分には育たなかった。
 社会復帰の理念が法律に初めて盛り込まれたのは、八八年に施行された精神保健法だ。
 社会復帰施設の法定化や立ち入り検査などの指導監督や精神医療審査会も創設された。だが、復帰施設は条件が厳しく、育たなかった。
 実際に地域で支えたのは、単純労働や農園、リサイクルショップなど無認可の小規模作業所だ。しかし、その数も十分とは言えない。自治体の助成もあるが、自治体の格差は大きい。
 国が精神障害者の社会復帰策に目標人数を初めて掲げたのは、九六年からの障害者プラン・ノーマライゼーション七カ年戦略だ。
 二〇〇二年度までに約三万人分の社会復帰を可能にする施設・事業を整える計画だ。だが十万人といわれる社会的入院の実態からみると、あまりに少ない。
 「政府が病床削減と社会復帰策を、重大な政治課題として本格的に取り組まない限り、実態は変わらない」と秋元さんはいう。



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◆20010130 高齢患者泣く、精神病院の姿(声)――朝日新聞

無職 本田圭(浦和市 65歳)
 入院患者の「拘束」が問題となった埼玉の精神科、朝倉病院に関する本紙記事で「入院患者の平均年齢は七十一・七歳。家族も支えられず、地域にも受け入れ施設がないために送り込まれてくるお年寄りが多い」との一節が、心に刻みついて離れない。私の身内にも年老いた患者がいる。
 現在、精神病の治療は隔離方式の弊害が反省され、社会の中での生活を通して行う方向に大きく転換されていると聞く。国の診療報酬制度も長期入院を抑制する形に改められ、病院側は長期入院患者の削減を迫られているようだ。
 一方で国はいまだに長期患者の社会復帰を支援する施設の充実に本腰を入れることがなく、病院はもともとスタッフが少なく対応しきれない。結局、本来救済されるべき患者にしわ寄せがきている、ということはないだろうか。
 朝倉病院の患者の大半が老人であることの背景に、現在の施策の貧困と矛盾が、各病院でやっかい者扱いされた哀れな長期入院患者の存在として露呈していると思う。



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◆20010208 精神病院の入院患者に生活保護なぜ多い 受け皿なく長引く滞在――朝日新聞

入院している患者の四割が生活保護を受けていた埼玉県庄和町の精神病院・朝倉病院。厚生労働省のまとめでは、生活保護を受けている入院患者約十三万人のうち、半数が精神病院に入っている。なぜこんなに多いのだろう。福祉事務所を訪ね歩いてみた。(中村明子、辰濃哲郎)
 
 東京都内のある福祉事務所に電話して疑問をぶつけた。なぜ、精神病院に生活保護の人がこんなに入院しているのか。職員は丁寧に答えてくれた。
 「生活保護を受けているから精神病院に、というのではなく、精神障害があるから生活保護を受けているのです」
 つまりこうだ。精神障害の重い人は働けなくなることが多いから、無収入になる。だから、生活保護を受けて入院する。ある程度良くなっても、退院後に住む場所の確保が難しいから入院が長引く。
 「それにしても、半分が精神病院というのは多すぎると思いませんか?」
 職員は「たしかに多いですね」と考え込んだ。
 患者の四割が生活保護を受けている朝倉病院は、埼玉県にあるにもかかわらず、東京都内の福祉事務所から送られてきた患者が多い。埼玉県によると、朝倉病院に入院している生活保護受給者七十九人のうち、足立区から十二人、北区から九人、台東区から九人、新宿区六人。都内からの入院が七割以上にのぼる。
 そのうちのひとつ、台東区役所を訪ねた。
 生活保護を受けている人が病院にかかるには「保険証」の代わりに福祉事務所で医療券を発行してもらい、生活保護の指定医療機関に行く。入院の場合も、病院を選ぶのは福祉事務所だ。
 
 ○ベッド埋めて収益確保
 入院先を探す場合、職員は、地域ごとのリストを持って片端から電話するという。
 「一つ探すのに、二十カ所に電話を入れる。満床だったら、とりあえず予約しておいて、ほかをあたるんです」
 ほとんどの福祉事務所の担当者は、この病院選びは難航すると打ち明ける。その理由はさまざまだ。「生活保護だと、他の患者に迷惑をかける」「差額ベット代など上乗せ料金をほとんど払えない」「身寄りがないと入院同意書を取る手続きが面倒だ」。そのために、普段から病院職員と親しくしておく必要があるという。
 でも、「すぐ入れてくれる」「長くいさせてくれる」病院がある。こうした病院を「最後の切り札」と呼ぶ福祉事務所職員もいる。「朝倉病院は、長く入院させてくれる病院の一つだった」という。
 精神病院は、他の診療科と比べてベッド当たりの医療費が少ない。厚生労働省がまとめた資料をみると、一般診療科の五割ちょっとにとどまっている。
 なかには、ベッドを埋めることで、経営を成り立たせようとする病院があるという。
 記者が、ある区役所の生活福祉課で担当者と交わした会話だ。
 担当者「入院してから一年程度、短いところで三カ月たつと、ほかの病院を探して下さい、と言われるんです」
 記者「本人が、ここにいたい、と言ったら?」
 「でも、病院の都合もあるから」
 「どんな都合?」
 「患者をずっとおいておくと、診療報酬が下がるじゃないですか」
 入院してから二週間すると、入院基本料という診療報酬が下がる。その後も一カ月、三カ月、半年、一年とさらに下がる。入院が長くなるほど、診療報酬が低くなる仕組みなのだ。
 
 ○もたれあう?行政と病院
 東京都の生活保護を受けている入院患者は約一万六千六百人。うち精神病院の入院者は約七千五百人だ。精神科の治療を受けている人はここ数年、増え続けているという。
 都の保護課長は「精神障害のある人が在宅や施設できちんとケアを受けられる態勢づくりに取り組んでいるが、なかなかニーズに追いつかない。精神病院への長期入院が多くなってしまう理由の一つだ」と話す。
 福祉事務所を回っていると、いろんな声を聞く。
 「退院しても家族がいなければ自立は難しい。更生施設も満杯で何年か待ち。結局病院で待機ということもある」「六カ月で精神病院を出ると『本当に治ったのか』という大家もいる」
 ある九州の精神科医からメールが届いた。「お話ししたいことがある」
 中年のこの精神科医は、自分が勤務する精神病院の抱える問題を整理した文書をつくって持ってきてくれた。なかの一項目に「治療の場ではなく、保護のための施設として」とある。
 そのひとつが「生活保護」なのだという。家族がいない。家がない。仕事がないという受給者が病気になったとき、精神病院が「収容する場」になってしまっている。
 病院にとって、生活保護の患者は生活の場がないから退院することが少なく、治療費は国や自治体から出る。彼は、病院が生活保護の患者を「固定資産」としか見ていないことを嘆く。
 持ちつ持たれつの関係ができ、「病院の事務長の一番の仕事は、福祉事務所回りだった」という。
 治療が本当に必要なのかどうか。入院が必要なのかどうか。そういう判断よりも、病院の利益や社会の受け皿が不足していることで、長期入院を余儀なくされているとしたら……。
 
 <来週は>
 先週からの精神病院特集に、いろんな意見が届きました。なかには、記事を書くことで、「かえって『健常者』から差別され、精神病院の門をたたくことを恐れることになりかねない」という内容のお手紙もありました。来週の木曜日(十五日)は、寄せられたお便りを参考にしながら、私たちがどのようにこの病と向かい合ったらいいのかを考えていきたいと思います。水曜日(十四日)は、国民健康保険の保険料の徴収をしている方から、現場の実態をうかがうとともに、制度の矛盾に切り込んでいきたいと思います。



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◆20010226 「痴ほう難民」精神病院に 在宅も無理、施設も足りず(時時刻刻)――朝日新聞

乱脈医療で問題になっている埼玉県の精神病院・朝倉病院の医療監視に入った埼玉県の職員は驚いた。入院患者の八割以上が痴ほう症のお年寄りなのだ。しかも、平均四年近く入院している。痴ほう症のお年寄りは全国で約百五十六万人。うち精神病院に入院しているのは三万五千人とも五万人とも言われる。家族も支えられず、介護施設も足りない。こうやって生まれた「痴ほう難民」がいま、精神病院に流れている。痴ほうを抱えたお年寄りに、精神病院はふさわしい場なのか。
 
 埼玉県の女性(四八)は、三年前、痴ほう症の母親(七六)を精神病院に入院させた。女性は仕事を持っているため、面倒をみることはできない。老人病院には長期入院を断られた。介護施設はいつ空きがでるかわからない。保健所に尋ねて精神病院の痴ほう専門療養病棟を教えてもらった。
 おしゃべりだった母は入院後、薬のせいか、ほとんどしゃべらなくなった。ふろは女性の時間に男性がまじる。服もピンクに統一され、散歩も許されない。まるで「収容所」だった。
 一昨年、スタッフが一緒に寝起きする家庭的なグループホームに移って一変した。好きな服を着てスタッフと散歩や買い物を楽しめる。笑顔が戻ってきた。
 痴ほう対策に精神病院を組み入れたのは、実は厚生省(当時)だ。一九九〇年前後に、精神病院に痴ほう専門の治療病棟と療養病棟を相次いで導入した。
 人手や居室面積、歩く回廊など一定の要件を満たせば、診療報酬が優遇される。九九年現在、痴ほう専門病棟のベッド数は約一万七千床で、増え続けている。
 一般の精神病院でも痴ほうを診るという流れは、このころから加速された。
 朝倉病院の場合は、痴ほう専門病棟ではない。痴ほう症と他の患者の混合病棟で、痴ほう症のお年寄りは体をつながれ、おむつをしていた。不必要な治療で体調を壊していたという。
 全国自治体病院協議会精神病院特別部会長の伊藤哲寛さんは「ベッド数を確保して、病院が生き残るために痴ほうを受け入れる病院が問題。精神医療は治療を必要とする急性期の患者にとどめ、それ以外は福祉に任せるべきだ」という。
 
 ●モデル病院の誤り
 「間違いに気づくのに、十年かかった」
 岡山県笠岡市にある痴ほう専門の精神病院「きのこエスポアール病院」の佐々木健院長の言葉だ。
 当時の厚生省が痴ほう病棟をつくった十年ほど前、モデルにした病院のひとつだ。その「モデル」の主が、「間違っていた」と打ち明ける。
 以前は、痴ほう症の八割に向精神薬を使った。だが、薬の影響で足元がふらついて骨折したり、元気に歩いていた人が一日中、眠り続けたり、無表情になったり。一時的に効果はあっても、かえって悪化した。
 九五年、研修にスウェーデンを訪ねたことが大きな転機だった。グループホームが広がり、「脱病院」改革が進んでいた。
 生活の場は病院もホームも自宅も大差がない。病棟にキッチンがある。個室にはなじみの家具を持ち込む。ネクタイをしめた老人や、ネックレスやマニキュアをした女性もいる。
 日本では「徘徊(はいかい)」としか見えなかった痴ほうの問題行動が「散歩」に見えた。
 佐々木さんたちも九六年にグループホームを作った。病棟にもユニットごとに台所を作った。みそ汁のにおいが安らぎを生む。古い家具や鏡台も置いた。ふろも個人浴槽に。薬は当初の十分の一に減らした。お年寄りの表情が変わった。
 「本当に入院治療が必要なのは、百九十人のうち約二十人だ」
 
 ●医療と福祉の谷間
 十年前、痴ほう専門病棟のモデルにしたこの精神病院が、姿を大きく変えている。だが、厚生労働省の精神保健福祉課は「医療やケア内容まで行政が踏み込まないほうがいいし、患者を直接診ている医師の裁量で判断することだと思う」というにとどまる。
 高齢者痴呆(ちほう)介護研究・研修センター研究主幹の永田久美子さんは「痴ほう難民の対策を」と呼びかける。
 「在宅サービスの量も質も、ホームも全く足りない中で家族が困り果て、難民のようになって精神病院にたどりつく。痴ほう対策の遅れの犠牲者です。不適切な医療やケア、環境で、さらに症状が悪化する作られた痴ほう障害が一〇〇%といっていい」
 精神科医療も高齢者福祉も、どちらも対策が中ぶらりん。その谷間に痴ほうのお年寄りが落ちている。
 生活と環境を重視したグループホームや在宅サービス、介護施設の整備、それに精神医療の根本的な改革なしに「痴ほう難民」は救われない。



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◆20010523 積極受け入れの動き 精神障害ある人のホスピスケア――朝日新聞

自分らしい最期を迎えたいと、末期がんなどの病に侵された時にも延命治療を望まず、ホスピスケアを選択する人が増えている。日本にホスピス病棟が誕生してまだ20年。現場では手探りが続く。その課題のひとつが、精神障害や痴ほう症状のある末期患者の受け入れだ。患者とのコミュニケーションが難しいと入院を拒む施設も多いなか、積極的に受け入れを進めているホスピスを訪ねた。(学芸部・平塚史歩)
 
 〇精神安定する患者も 本人尊重、規則で縛らず
 「ほんと、きれいに枯れるように死んでいかしたよ……。色々大変だったけれど、終わりよければすべてよかたい」。熊本市の主婦、佐藤誠子さん(44)はこうつぶやいた。
 アルコール性精神病だった父親が、熊本県西合志(にしごうし)町にある西合志病院のホスピス病棟で亡くなったのは、昨年12月15日。70歳だった。
 その1週間前、外泊で自宅に戻ったとき、ふろ上がりに突然「ありがとうございました」と頭を下げ、亡くなる時は胸の上で祈るように手を組んでいた。酒を飲んでは湯飲みを投げつけ、大声をあげてつかみかかってきた生前がうそのような、穏やかな最期だった。
 若いころから酒好きだった父親は10年ほど前、幻覚や幻聴が激しくなったため近くの精神病院に入院した。3年前に進行性の胃がんが見つかり、総合病院に移ったが、3日で元の病院に戻された。父親が検査や注射を受けつけなかったせいもあったが、「精神科の患者が内科の病気になっても、満床ですって体よく断られるったい」。
 だが、精神病院では内科的な治療にはなかなか手が回らない。一昨年11月には、ぼうこうがんを併発。血尿が出て、痛みを訴え始めた。
 元看護婦で、ホスピスケアに関心があった佐藤さんは「治らないのならぜひ、痛みのない最後の日々を送らせたい」と思った。「痛みを取ってくれる病院に行こうか」との問いかけに、父親は無言でうなずいた。
 99年6月、西合志病院に開設されたホスピス病棟(20床)では、当初から精神疾患や痴ほう症状のある患者でも、希望があれば積極的に受け入れてきた。精神分裂病やうつ病、てんかんなど、すでに20人にのぼる。
 「精神障害があってもホスピスケアを受ける権利はある。痛みをコントロールしながら、その人なりの人生を過ごされるようケアしていくことを心がけている」と病棟長の小林秀正医師は強調する。心療内科出身。福岡で在宅のホスピスケアに携わった経験もある。精神科医との交流などそれまでの経験も生かして、病棟の開設から運営までを引っ張ってきた。
 専任の精神科医を置き、看護スタッフの人数も国の基準より手厚くしている。徘徊(はいかい)や幻覚などのある場合は、ナースステーションからよく見える部屋に入ってもらう。患者同士のトラブルや、転院せざるを得なくなったケースはない、という。
 精神病や痴ほう症患者の受け入れは、本人の病状把握や医療行為への同意の取りつけが難しい。また、家族関係が希薄になりがちなため親族の協力が得にくい。
 だが、ホスピス専任の精神科医、本島昭洋さんは「受け入れる側に知識と経験さえあれば、難しいことではない。むしろ、本人の生活を大切にし規則で縛らないホスピスで、精神状態が安定する患者も多い」と言う。
 佐藤さんの父親も、病室にかぎを掛けられた精神病院では、抜け出して家に戻ったり妄想に悩まされたりしたが、「ホスピスじゃあ自由に院内を歩き回れるから、看護婦さんに声かけられたり、事務室で職員さんとお茶飲んだり。歩き方まで違っていた」と振りかえる。「ほんと、よく見てくれました」
 
 〇病院側対応なお過渡期 「不安・戸惑い」で入院断る
 日本のホスピスの草分け的存在である東京都小金井市の桜町病院聖ヨハネホスピスも、この10年間に、精神障害のある末期がん患者約10人を受け入れてきた。ホスピス科部長の山崎章郎医師は「確かに不安もあった。でも実際には、本人に病気の認識があって、薬もきちんと服用していれば問題はない」という。
 しかし、大半のホスピスで受け入れは進んでいない。山崎医師は「ホスピスは急激に増えているが、ホスピスケアの経験を積んだ医師はまだ少なく、専任の医師を置いていない所も多い。そうした施設に精神疾患のある末期がん患者が来たら、不安や戸惑いがあるのは当然だろう」と、ホスピスがまだ過渡期にある点を指摘する。
 ホスピスの普及や質の向上に取り組む「全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会」が示すケアプログラムの基準は、「入院時に患者が病名・病状について理解していることが望ましい」としている。同協議会が全国の施設に行った調査でも「インフォームド・コンセントができない」「病状を理解できていない」などを理由に、入院を断る例が報告されている。
 受け入れ施設を増やすよりも、むしろ精神病院や施設、在宅などでも広くホスピスケアを受けられる体制を作るべきだという声もある。
 聖隷三方原病院(静岡県浜松市)の千原明・ホスピス所長は「身体的な管理ができるなら、今までの環境で過ごす方が本人にとっていい場合もある。精神科や高齢者施設とホスピスが相談・連携しながら、患者にとって一番いい環境で、痛みを取り除いたり精神的なケアをしたりする関係づくりが先決だ」と話す。
 そもそも精神科に長期入院している患者の場合は、終末期のケア以前に健康管理や病気治療の問題も大きい。
 精神障害のある人は症状をうまく伝えられず、わかった時には末期になっているケースもある。それにもかかわらず、長期入院患者に対しては、がんをはじめ検診の体制が整っておらず、病院任せというのが現状だ。
 宮崎県精神保健福祉センターは96年から、県内すべての精神科単科の病院で胃がんと子宮がんの検診体制を整えた。細見潤所長は「こうした体制があるのはまだ宮崎だけだが、一般に保障されている権利を、精神障害者にも保障することが重要だ。ホスピスでの受け入れなどターミナルケア(末期医療)の問題も、そうした考え方の延長線上にあるのではないか」と話す。
 
 <ホスピス> 末期がんなど治る見込みのない患者の身体的、精神的苦痛をやわらげ、その人らしい最期を送れるようにするケア。医師や看護スタッフ、ソーシャルワーカー、ボランティアらがチームを組んで取り組む。
 近代ホスピスは19世紀後半にアイルランドで生まれ、その後欧米を中心に広まった。日本では81年に静岡の聖隷三方原病院に初めて設置された。国が90年に制度化した「緩和ケア病棟」は現在、全国で87施設、計1614床あるが、病床数はまだ絶対的に不足している上、地域的な偏りもある。ケアの質をどう確保していくかも課題だ。



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◆20010708 けいれん伴う電気ショック、閉鎖病棟で常態化 都立松沢病院――朝日新聞

日本の精神病院の草分けのひとつ、東京都立松沢病院(松下正明院長、1368床)で、患者を鎮静させるため、全身にけいれんを起こす「電気ショック」を頻繁にかけていることが明らかになった。欧米では全身麻酔と筋弛緩(しかん)剤を併用して実施する「無けいれん法」が原則だ。けいれんを伴う電気ショックは、国内でも懲罰的に使われた歴史があり、せきつい骨折やけいれんが止まらなくなるなどの副作用が飛躍的に増える恐れも指摘されている。治療体制が整った病院でのこの実態は、精神医療の構造的な問題だとする声もある。(39面に関係記事)
 
 電気ショックは正式には「電気けいれん療法」と呼ばれる。国内では、全身けいれんを伴う方法も健康保険で認められているが、無けいれん法に比べ診療報酬は20分の1で、「例外的に認められているにすぎないことは医療に携わる者の常識だ」と専門家は説明する。
 松沢病院と同様の方法は、ほかの病院でも広く実施されているとの指摘もあるが、実施件数や副作用の発生数など、その実態はほとんど明らかにされていない。
 同病院の複数の関係者によると、電気ショックが頻繁に実施されているのは、症状の激しい患者が入る病棟、新規入院患者を受け入れる2病棟、処遇が難しい患者らが入る長期入院病棟――の四つで、いずれも閉鎖病棟。
 対象となるのは主に、興奮して暴れる患者。患者仲間に軽い暴力をふるう患者や、看護婦に脅迫的な言動があった患者が対象となることもある。医師、看護士ら5、6人で保護室に連れていき、催眠鎮静剤を静脈注射して眠らせたうえで、両側のこめかみに電極をあてて電気ショックをかける。4、5日間連日でかけると興奮状態が治まり、効果が数カ月間続くという。
 患者には「注射をする」とうその説明をすることが多い。注射で眠っている間に電気ショックをかけることと、電気ショックによって意識がもうろうとなり記憶障害が起こることから、多くの患者は自分が何をされたのか分からず、「注射を打たれた」としか認識していないようだ。
 こうした実態は、複数の医師らがしばしば目にしたり、経験したりしているという。覚せい剤の影響などで興奮状態がひどく注射もできない場合には、複数の看護者が患者を押さえつけ、麻酔なしで電気ショックをかけることもあった、と話す関係者もいる。
 同病院の松下院長は朝日新聞の取材に対し、「病院事務局を通してもらわなければコメントできない」と話し、病院事務局の三井田建城庶務課長は「取材には応じられない」としている。



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◆20010708 患者、けいれん止まらず 東京都立松沢病院で電気ショック療法――朝日新聞

全身けいれんを伴う危険な電気けいれん療法が、公立の精神病院として120年を超える歴史を持つ東京都立松沢病院で続いていた。現行の措置入院制度の中で、治療が難しい患者に対する処遇の問題が指摘されている。薬漬け、保護室での長期拘禁……。またひとつ、問題点があぶり出された。(1面参照)
 
 ●「松沢名物」
 昨年春のことだ。松沢病院に勤めることになった医師は、初日に電気けいれん療法を目撃した。患者のけいれんが止まらず、「このまま死んでしまうのではないか」と慌てたという。
 この医師は以来、同病院での勤務経験を日記風に書いて別の病院に勤務する医師に電子メールで送っている。
 数日後のメールに、こう記されていた。
 「患者が看護婦にすごんだ。すぐに保護室に入れられ、医師4人、看護婦3人に取り囲まれ、睡眠薬を注射された。そのときは実際には実施されなかったが、医師のひとりが『こういう場合の電気ショックは松沢名物だ』と言っていた」
 
 ●看護者に楽
 最近まで松沢病院に勤務していた看護職員は、こう話す。「昔は重症のうつ病などに限定して電気ショックをしていたが、10年くらい前からすごく増えた。ちょっと患者仲間をぶったくらいでかけるようになった」
 あるとき、患者が仲間のほおをパチンとたたいた。「殴りたくなったから、殴った」とその患者は言った。「状態が悪くなる前兆だ」と看護職員は思った。医師に報告すると、その医師は患者に「また人をぶっちゃったね。じゃあ、注射をしようね」と言って保護室に連れていき、注射で眠らせてから電気ショックをかけた。
 「激しい興奮状態が、すぐ消える。根本的な治療じゃないと思うが、看護者にとってはすごく楽だった」と、看護職員は振り返る。
 
 ●医師ら手薄
 数年前、長期入院患者の担当になったある医師は、分厚いカルテをめくった。過去にありとあらゆる薬が用いられていた。多種多様な薬の組み合わせも試されていた。現在処方されている薬の量は、重大な副作用を引き起こすかどうかのギリギリの量だ。
 「それでも興奮して暴れるとき、電気ショック以外に何ができると思いますか。食事をさせずに衰弱するのを待つくらいしか考えつかない。そんなことはできない」と話す。
 松沢病院には、東京都内の措置入院患者の3割弱が集中し、処遇が難しい患者を民間病院からも受け入れている。加えて、医師、看護者の数が手薄な精神医療の構造的な問題が背景にある、との指摘もある。
 しかし、別の都立病院の精神科医は「松沢病院には常勤の麻酔科医がいるし、全身麻酔をかける設備もある。国際常識の無けいれん法で実施できない理由は、職員のモラル低下以外には何ひとつない」と批判する。
 
 〇けがや事故、1件もない
 94年から今年春まで院長を務めた風祭元・前東京都立松沢病院長の話 静脈麻酔のみで電気ショックを行っているのは事実だが、ほかの病院でもやっている。症状が重く、治療が難しい患者が松沢病院に集中している現実も考慮してもらいたい。できるだけ手術室で全身麻酔をかけて実施しようと努力してきたが、覚せい剤患者などやむを得ないケースが残る。そういう場合も、2人の指定医が倫理委で定めた基準に従って診察したうえで実施するなど一定の手続きを踏んでいる。また在任中、電気ショックによるけがや死亡などの事故は1件も起きていない。
 
 ◇無けいれん前提の米英
 病院の秩序を乱す患者が、医師や看護者に押さえつけられ、こめかみに電極をあてられる。患者の全身は激しくけいれんする――。米映画「カッコーの巣の上で」は、60年代初めのアメリカの精神病院で行われていた懲罰的な電気ショックを告発し衝撃を与えた。
 頭部に電気刺激を与えることによって脳の中に発作を起こし、精神症状を改善させる電気けいれん療法は、38年にイタリアで初めて実施され、薬物療法が一般化する60年代まで広く行われた。
 薬物療法の限界が明らかになり有効性が見直される中、米精神医学協会は78年、ガイドラインを策定。「無けいれん」で行うことを前提に、同療法の定義を明確に定め、その適応を決める診断基準、実施の際のインフォームド・コンセント(説明の上での同意)の必要性などを明記した。法律で規制している州もある。
 イギリスでも王立精神協会が同様のガイドラインを定め、実施施設の査察も行われている。 一方、日本では法的規制はもちろん、学会のガイドラインもない。

■2002

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◆20020607 質の向上を急げ 精神医療(社説)――朝日新聞

◆20020824 精神障害者「10年で7万人復帰」 厚労省が目標示す――朝日新聞

◆20020825 痴呆介護、支援して(私のひとこと 02知事選:6) /香川――朝日新聞

◆20020907 病床減らし質上げる 開放的な病棟実現(変わる精神医療:1)――朝日新聞

◆20020928 手薄い「退院後」のケア 福祉と医療連携を(変わる精神医療:4)――朝日新聞

◆20021128 豊明栄病院、系列診療所で長期入院 名古屋市、立ち入り【名古屋】――朝日新聞

◆20021217 患者本位の医療かすむ 豊明栄病院「作業療法」(探る)【名古屋】――朝日新聞

◆20021224 >TOP
◆20020607 質の向上を急げ 精神医療(社説)――朝日新聞

厚生労働省の社会保障審議会による精神障害者の医療福祉計画づくりが大詰めを迎えている。「適切な精神医療」「社会復帰施設の充実」「地域生活の支援」などの実現をめざすものだ。
 一方で、精神障害を理由に殺人などの罪を問われなかった人の扱いをめぐる法案が、国会で審議されている。医療福祉計画づくりは、この法案と密接に関連する。
 日本では、精神科の敷居はいまだに高く、発病しても気軽には受診しにくい。そのうえ、精神病院の医療の質はばらつきが大きい。入院中にひどい扱いを受け、病院に嫌悪感を持ってしまう人も少なくない。
 精神障害者による重大犯罪は、症状が悪化しているときに起こるのがほとんどだ。悪化を食い止めるには、患者があたたかく見守られ、良質な医療を受けられる体制が不可欠である。新計画には、そのための具体策をきちんと盛り込んでほしい。
 精神分裂病(統合失調症)やそううつ病は、新しい薬の登場などによって症状をかなり抑えられるようになった。穏やかに話を聞いてあげることが、患者の気持ちを楽にするのに役立つこともわかってきた。
 閉鎖病棟での長期入院が病状を悪化させることに気付いた欧米では、60年代以降、入院患者を大幅に減らしてきた。ところが、日本は入院患者数が減らず、30万人強で横ばいが続いている。この中には、治療の必要がないのに入院している人が7万人以上いると厚労省は見ている。
 入院が減らない一因は、精神科は一般病院より医師や看護職員が少なくて構わないとする政策にある。少ない職員でベッド数をできるだけ増やして採算をとる構造になっているのだ。
 精神医療を安上がりに済ませようとしてきた政策が、人手の少ない冷たい病院を作り出してきた。人員配置基準をほかの診療科並みにし、人手をかけた治療ができる診療報酬体系にするのが急務だ。
 医療の質を上げるには、閉鎖的な体質を改め、情報を公開しなければならない。第三者による訪問活動などを広め、施設の構造や職種別職員数、平均在院日数、リハビリテーション活動の内容などの開示を義務づけるべきだ。
 退院後の暮らしを支える福祉の充実も欠かせない。身体に障害のある人が支援を受けて地域で暮らすのと同じように、精神に障害のある人を地域で支援する取り組みが必要だろう。
 住まいを確保し、リラックスできる居場所をつくる。無理せずにできる仕事を提供する。病気に理解のある支援者を増やす。こうした取り組みは、地域によって大きな差がある。地域差を埋めながら全体の水準を引き上げる努力を厚労省に求めたい。
 精神医療の底上げこそ、不幸な事件を減らしてほしいという願いにこたえるための本道である。



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◆20020824 精神障害者「10年で7万人復帰」 厚労省が目標示す――朝日新聞

厚生労働省は23日、精神障害者の医療・福祉を充実させる総合計画を検討している社会保障審議会に、「今後10年間で精神病院に入院している約7万人の退院・社会復帰を目指す」などとした報告書骨子案を示した。厚労省が、地域に受け皿が整備されれば退院可能とされる「社会的入院患者」の社会復帰の具体的な目標を示したのは初めて。
 目標の約7万人は、厚労省の99年の患者調査をもとに推計され、うち65歳以上は約2万3千人とされている。
 同審議会の分会メンバーで精神障害の当事者である広田和子委員は「長期入院している高齢者の多くは死亡してしまう」と批判。民間精神科病院でつくる日本精神科病院協会副会長の津久江一郎委員は、同協会の調査結果から約3万人を目標にするよう主張した。
 骨子案にはこのほか、地域の社会復帰施設への体験入所などによる退院促進策▽地域の精神科病院の輪番制による初期救急の整備、などを来年度から進める方針が盛り込まれている。



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◆20020825 痴呆介護、支援して(私のひとこと 02知事選:6) /香川――朝日新聞

 夕映えの会世話人代表 藤田浩子さん
 
 ――高齢化社会が進み、年配者がお年寄りを介護せざるを得ない「老老介護」が問題になっています。
 「80歳代の妻が夫を、あるいは夫が妻を介護するというケースが増えている。老老介護では、介護する側が精神的にも肉体的にも疲れ果て、先に亡くなってしまうこともある。介護される側が仮に介護保険で最も重い要介護度5でも、サービスを使い切らずに老いた家族が介護する場合が多い。介護する側も年金や預貯金には限りがあり、自身の老後が目の前だから、無造作に利用出来ない。『長生きするのが怖い』というお年寄りの声を聞く。介護される側に痴呆(ちほう)症状がある場合が悲惨だ」
 ――具体的には。
 「痴呆老人が病気で入院し、長期入院を嫌う病院から転院を迫られると、なかなか行き場を探すのが大変だ。会の活動でも、この問題で走り回っている。次の病院が見つかっても、痴呆症状があるとわかったら、家族の付き添いを条件に出すところが多い。付き添えないと『じゃあ縛ってもいいですね』となる。大声を出したり、深夜に歩き回ったりするので、家族は目が離せない。自分が介護されてもおかしくない人が、入院患者に気を使い疲れ果てる。追いつめられ、精神科に通う介護者はたくさんいる」
 ――痴呆老人の介護で一番の課題は何ですか。
 「やはり痴呆への理解と、介護者のケア。介護の質は、ここにかかっている。私自身、痴呆の母の介護をしたが、『楽にしてあげて、自分も楽になりたい』と考えるほど追いつめられた。行政が、介護者同士が相談しあえる場を設ける手伝いをしてくれたらなと思う。ある保健所に、会の活動に場所を貸してと頼んだが断られた。立派な施設があっても、使えないのは不思議だ」
 ――県の出先機関再編で、保健所も統合されました。影響は。
 「今まで保健所で痴呆老人の問題も頑張って取り組んでもらっていたが、統合でカバーしなくてはいけない範囲も広がった。一人の保健師にかかる負担が増えたように見える。うちの会はそういう穴埋めをしなくてはいけないと感じる」
 ――そのほかに行政に望むことは。
 「介護保険が始まるまでは、県が特別養護老人ホームなどを回って、サービス評価をした。各施設の質向上につながったが、今はなくなってしまった。新たに第三者が社会福祉施設をチェックする制度が計画されていると聞く。利用者が施設を選ぶ際に大変役に立つと思う。施設関係者は除くなど、人選に配慮しつつ早期に実現して欲しい」(おわり)
    *
 ふじた・ひろこ 61歳。痴呆(ちほう)の母の介護を通じ、介護者の相談機関の必要性を痛感。93年に介護者同士が支え合う市民グループ「夕映えの会」を設立。電話相談や集会、講演会の開催のほか、老健施設などの情報収集や痴呆老人への理解を深める活動を続ける。



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◆20020907 病床減らし質上げる 開放的な病棟実現(変わる精神医療:1)――朝日新聞

収容主義の時代は終わった。チーム医療が社会復帰を促進する。
 
 午後3時、ストレスケア病棟のナースステーションに医師と看護師約10人が集まった。患者の治療と看護の方針を検討するカンファレンス。この日は、そう状態で入院した思春期の女性の治療を話し合った。
 家族や先生、同級生らと過剰に親密になったかと思うと一転して攻撃的に。過去のいじめ体験が突然よみがえりパニックに陥る。過呼吸、下痢といった身体症状もある。
 主治医が発言した。
 「彼女はそう病ではないと思う。そう状態になることで自分の心を防衛している。入院は3カ月か、長くても半年。あとは外来で治療しましょう」
 ある看護師は「どう接していいか分からなくなる時がある。振り回されるというか……」と打ち明けた。
 別の看護師は「母親にベタベタしているかと思うと激しく攻撃する様子を見ていると、自分の子どもに重ね合わせて考えてしまう。親子って難しい」と話す。
 人間関係や心理状態、そして薬の効果……。話し合いは約1時間続いた。
   □ □ □
 長崎市の中心部から南東に約2キロ。長い坂を上り詰めた丘の上に、西脇病院はある。3年前に新築した新館は、れんが造りの外観とフローリングや木製ドアなどふんだんに木材を使った内装で評判になった。
 ホテルのような受付、大きなガラス、広い廊下と集会場(デイルーム)。病棟はとても明るく開放的だ。
 「精神病院らしからぬ病院ですね」。見学者らは驚くが、院長の西脇健三郎さん(55)はそれが不満だ。
 「患者が安らぎ、癒やされる治療空間を目指したのがこの新館です。これこそ精神病院らしい病院ではないですか」
 57年に56床で開設した西脇病院は典型的な収容型の病院としてベッド数を増やした。西脇さんが理事長・院長職を継いだのは82年。そのころ定床260床に対して入院患者が300人を超えることもあった。
 ベッド数を多くして入院を増やせば収入は増える――日本の精神病床はずっと増え続けてきた。
 西脇病院は現在229床と逆に減らした。患者の平均在院日数は181日。全国平均の約半分だ。収入も減るが、高い診療報酬を得られるよう看護基準を上げ、外来患者を増やした。
 入院が長期化すると社会復帰が難しくなる。西脇さんは、入院の必要性の判断から治療、退院、社会復帰まで、医師、看護師、カウンセラー、ソーシャルワーカーらによる一貫したチーム医療が必要だと訴える。
 「『やっかいものを預かってほしい』というような要請に精神病院が安易に応えるべきではない。一方で、過去の収容主義への反省が過ぎて『入院は悪』と考えるのは間違いだ」
   □ □ □
 ストレスケア病棟では毎週火曜日、アルコール依存症の患者や家族が語り合う夜間集会が開かれる。25年ほど前に数人の患者が始めた。やがて家族、退院した患者、地域の自助グループが加わるようになった。
 その集会で、断酒に成功しているという60代の男性がつぶやいた。「親戚(しんせき)の結婚式が大変かとよ。酒ば勧められるけんね。ばってん、以前酒ば飲んで入退院を繰り返しよる時は呼んでもらえんかった。それゃー、さびしかったよ」
    ◇
 働き盛りや高齢者のうつ病、思春期の摂食障害に引きこもり、薬物・アルコール依存症……精神医療へのニーズが多様化している。かつての隔離収容主義から、地域に密着した医療に生まれ変われるだろうか。
 (和田公一が担当します)
 
 ◆多すぎる精神病床
 日本の精神病床は約36万床ある。人口1千人あたり2.9で、米国の0.6や英国の0.9、イタリア0.6、ドイツ、フランスともに1.3などと比べると、日本が突出して多い(いずれも経済協力開発機構の資料より)。しかも、米国が60年代から、欧州諸国も70年代になって国の政策として精神病床を削減してきたのに対し、日本は94年に戦後初めて減少するまで民間病院を中心に増え続けてきた。
 
 ◆社会的入院が7万人
 入院患者は約33万人。うち10年以上という長期入院患者が28.9%を占める。5年から10年が14.1%。入院が長期化すればするほど社会復帰が難しくなる。
 病状が落ち着いてもう入院の必要がなくなっているのに、生活訓練や職業訓練の施設など社会復帰のための受け皿が地域にないために退院できない人が約7万人にのぼるといわれている。厚生労働省は10年間でこの7万人の退院を目指すという。



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◆20020928 手薄い「退院後」のケア 福祉と医療連携を(変わる精神医療:4)――朝日新聞

医療に福祉の声も聞き入れてほしい。それを職員たちは願う。
 
 パン工場「マルベリー工房」は、シジミ漁で名高い宍道湖の近く、島根県斐川町にある。
 午前8時半、約20人の人たちがいつものようにやってきた。オーブンで焼き上がったばかりのパンの包装や仕分けをする。1日に食パン150斤、菓子パンなどは900個を数える。
 ここは社会福祉法人「桑友(そうゆう)」(武田牧子理事長)が運営する精神障害者の通所授産施設だ。
 「働きたいけど一般の企業に就職するにはまだ自信がない」「一日数時間しか働けないけど、ずっと続けたい」……。そんな人たちが作業に励んでいる。
 国産小麦を天然酵母で発酵させた手作りパンは、地元はもとより、自然食品の会員制個人宅配ルートに乗って全国に愛好者がいる。5月には隣の出雲市にキャンプを張ったサッカーW杯のアイルランド代表チームのためにパンを焼いて話題になった。
 工房のわきに生活訓練施設(援護寮)がある。定員20人。退院した人が日常生活に必要な訓練ができる入所施設だ。ここで最近、ある出来事が起きた。
    *
 夕食時、食堂で入所している30代の女性が苦しみだした。目がつり上がり、上半身が硬直している。職員が女性を連れて主治医のいる病院に向かった。
 ところが2人は待合室で40分も待たされた。主治医もいない。やっと発作止めの注射がなされた。寮に戻って30分後、ようやく女性の表情に生気が戻った。
 この日午前、女性は病院で診察を受けていた。このときすでに「眼球上転」の症状が出ていた。抗精神病薬が追加された。
 ただ、この症状では薬の副作用が疑われることもある。これに関する詳しい説明は聞けなかった。なぜ質問しなかったのか。同伴した職員はそれが心残りだ。
 女性が入寮したのは昨年4月。精神科診療所の開業医からの紹介だった。「症状は決して軽くない。でもできるだけ在宅と施設で支えていきましょう」とこの開業医は言った。
 5月の連休明け、入寮者全員で四国に2泊3日のバス旅行に出かけた。開業医は、容体急変に備えて武田さんに指示を与え、旅行先の病院にも連絡して万が一の際に治療してもらえるよう取りはからった。
    *
 旅行中、釣った魚を船の上でさばいてもらい、刺し身にして食べた。女性は輪の真ん中にいた。そのときの女性の笑顔を、武田さんは忘れられない。
 旅行の後、症状が悪化して1年ほど入院。この夏再び寮に戻った。
 最初の入寮以来この女性を担当している職員の川上太郎さん(26)は「ほかの入寮者とのコミュニケーションもとれるようになった。病気で隠されていた健康な状態がよく見えるようになってきた」と話す。
 ただ、「状態が悪くなったとき医者がすぐに診てくれたら」と思う。病院に行っても診察時間は短く感じる。「忙しいから仕方がない」と頭では理解しているとはいえ、どこか釈然としない気もする。
 「私たちは、その人の一日の様子を見ている。それを丁寧に説明できる場があればいいのに」
 武田さんが宍道湖のほとりに作業所を開設して今年で15年。いろんなことがあった。そして精神障害者が地域で生活していくには、福祉と医療の密接な連携が必要だと痛感している。
 「私たちが今、一番欲しいのは、きめ細やかで良質な精神医療なんです」
 (この連載は和田公一が担当しました)
 
 <社会復帰施設>
 精神障害者の社会復帰をめざす施設には、生活訓練施設(日常生活の訓練)▽授産施設(就労希望者に訓練)▽福祉ホーム(生活の場を提供)▽福祉工場(一般企業への就職が難しい人を雇用)▽地域生活支援センター(地域で生活している人から相談を受け助言する)がある。施設数は全国で計1376カ所。
 このほか地域で共同生活を行う人たちを支援するグループホーム事業(約900カ所)などがある。
 
 <増える診療所>
 地域で診療所を開業する精神科医が増えている。厚生労働省の調査では、精神科を標榜(ひょうぼう)する診療所は99年現在で全国に3682カ所あり、70年の657の5倍以上になった。
 日本精神神経科診療所協会の窪田彰副会長は精神科診療所の役割として、気楽に受診してもらうことと、長期入院患者の退院とリハビリテーションの支援を挙げる。同協会のホームページ(http://www.japc.or.jp)で検索できる。



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◆20021128 豊明栄病院、系列診療所で長期入院 名古屋市、立ち入り【名古屋】――朝日新聞

入院患者に院内業務をさせたことが問題化した愛知県豊明市の「豊明栄病院」が、名古屋市内にある系列の診療所に精神科の患者を相次いで転院させ、一部を長期入院させていたことが分かった。転院させた患者は、この半年間で100人近くにのぼる。医療法は、診療所での入院は原則として48時間以内とするよう定めている。名古屋市は、相次ぐ長期入院が同法に違反する疑いがあるとして、27日、この診療所に抜き打ちで立ち入り検査をした。
 
 立ち入り検査を受けたのは、名古屋市天白区の診療所「一ツ山クリニック」(古川剛院長、19床)。同クリニックも豊明栄病院も、ともに医療法人玉光会(豊明市)が経営している。
 関係者によると、精神科が主体の豊明栄病院では、設備などの面で内科治療に限界があった。このため、入院患者の内科疾患が悪化すると、以前からたびたび、一ツ山クリニックに転院させていたという。
 この日の名古屋市の検査では、5月下旬から11月中旬までに豊明栄病院から97人の患者が転院していることが分かった。なかには長期にわたって同クリニックに入院し、そのまま亡くなった患者もいるという。この日も、19床のうち16床の患者が48時間以上の入院だったという。
 診療所は19床以下の医療施設を指すが、医療法では、病院への移送が不可能な場合などを除き、診療所に48時間を超える入院をさせないよう求めている。同法施行規則は、臨時の場合を除いて、精神科の患者を精神病室以外に入院させることを禁じている。名古屋市によると、同クリニックのベッドはすべて一般病床で、精神病床はないという。このため、同市は、転院が「臨時の場合」にあたる適切なものだったかなどを調べる。
 朝日新聞の取材に対し、一ツ山クリニックの古川院長は、長期の入院患者が多くいたことを認めた上で、「系列の豊明栄病院から頼まれた。内科疾患を併発した精神科の患者を引き受けてくれる病院は、なかなか見つからなかった」と説明している。
 玉光会をめぐっては、豊明栄病院が精神科の入院患者に別の患者のおむつ交換などをさせていたとして、愛知県が今月14日、緊急に立ち入り調査をしている。名古屋市も、玉光会の医療措置に不適切な点が多いとみて、同クリニックへの検査に踏み切った。
 
 ◇常識的に考えにくい
 厚生労働省精神保健福祉課の話 診療所は、患者を48時間を超えて入院させないよう努めなければならないと、医療法ではっきり決められている。仮に治療の必要があり、施設が整っているからと言っても、精神病院から診療所への転院は想定外で、常識的には考えにくい。



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◆20021217 患者本位の医療かすむ 豊明栄病院「作業療法」(探る)【名古屋】――朝日新聞

愛知県豊明市の医療法人玉光会「豊明栄病院」で、精神科の入院患者が別の患者のおむつ交換などをさせられていたことが先月、明るみに出た。背景には、精神病院特有の閉鎖性もある。違法性が指摘された豊明栄病院の実態とともに、精神医療全体のあり方が問われている。(石黒正彦、小山裕一)
 
 おむつ替えや院内のトイレ掃除は本来、職員が担うべき仕事だ。豊明栄病院はそれを作業療法という名目で、入院患者にやらせていた。
 同じような患者使役は99年、三重県多度町の精神病院でも問題化した。
 作業療法の名目で患者を働かせることは、厚生労働省の通知で禁じられている。なぜ、なくならないのか。
 日弁連精神医療問題小委員会の伊賀興一委員長は、一般病院の3分の1のスタッフ数で認められている現行の精神病院設置基準が一因だとし、「スタッフを抑えた分を患者の労働で埋めようとしている」と指摘する。
 人手不足は、多くの精神病院が抱える悩みだ。
 11月に愛知県の指導を受けた豊明栄病院は、その後、作業療法士の採用に動き出した。しかし同病院は看護師ら担い手に若手が少なく、患者に労力を頼る傾向が最終的に解消されるのか、不安視する関係者もいる。
 
 ○目立つ長期入院
 もう一つ、浮き彫りになったのは、長期にわたる入院管理の傾向だ。
 全国の精神病院では、患者をできるだけ入院させて経営を成り立たせる傾向が目立つ。患者の社会復帰に力を入れている欧米と比べ、日本の人口当たりの精神病床数は極端に多い=グラフ参照。
 厚労省の病院報告を見ても、9月末の全国の精神病床の利用率は93%と満床に近い。一般病床の77%を大きく上回る。
 豊明栄病院でも病室の定員を超えて入院させる事態がたびたび起き、県は医療法などに違反するとして今月9日付で改めて文書で是正を求めた。
 ただし、同病院が病床不足に陥ったのは、入院期間の長さだけが原因ではない。皮肉なことに、生活保護の受給者や身寄りのない患者を積極的に受け入れてきた病院の方針も一因になっている。
 精神科が主体の豊明栄病院では、入院患者ががんや脳梗塞(こうそく)など別の疾患を悪化させると転院が必要になる。だが、「多くの病院は、こうした患者を引き受けてくれない」と病院側は弁明する。
 「手のかからない患者」で占めたいという受け入れ側の思惑が転院先を狭め、結果的に、定員を超す患者を病室に押し込める違反につながる。豊明栄病院にとどまらない問題の根深さがある。
 
 ○地域での支援へ
 精神病院は外部の目が届きにくいとされる。
 監督する立場の行政も、病院の日常的な姿を十分に把握しているとは言えない。病院に立ち入る医療監視も、事前に通告するのが前提。問題があっても、検査日までに隠されてしまう可能性があり、愛知県の担当者は「内部情報がないと動きにくい」とこぼす。
 閉鎖的な側面や長期に及ぶ入院。その克服へ向け、厚労省は今年1月から、社会保障審議会の精神障害分会で検討を重ねてきた。
 豊明栄病院でも見られた通り、日本ではこれまで、患者を管理しやすい入院や隔離が中心で、社会復帰の視点や、質の高い医療を受ける患者本来の権利が損なわれがちだった。今後は、地域での生活支援重視へと、方向転換していく見通しだ。
 地域に受け入れ施設があれば退院できる「社会的入院者」が、全国の精神病床入院患者約33万人のうち約7万2千人いる(厚労省調査)。審議会の分会メンバーである池原毅和弁護士は「患者の閉鎖処遇を減らせば、病院自体の閉鎖性も改善される」と指摘している。



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◆20021224 脱施設へ受け皿整備 政府、目標値を決定 新障害者基本計画――朝日新聞

政府は24日、03年度から10年間の「新障害者基本計画」と、同年度から5年間の数値目標を定めた「新障害者プラン」を決めた。施設入所や入院中心の施策から地域の中で生活する「脱施設」に転換することが特徴で、07年度までにホームヘルパーを現行プラン(96〜02年度)より1万5千人多い6万人に増やす。
 新計画は「本人の意向を尊重し、入所(院)者の地域生活への移行を促進する」「入所施設は真に必要なものに限定する」として脱施設の方針を明記。
 新プランでは、現行プランにある入所施設の建設目標をなくす一方、障害者が地域で生活するための受け皿としてホームヘルパーのほか、▽グループホーム3万400人分、福祉ホーム5200人分(現行目標は合計で2万人分)▽精神障害者生活訓練施設6700人分(現行目標6千人分)▽05年までに車いすで乗れるノンステップバスを路線バスの約10%に導入(新規目標)などの整備目標を掲げた。
 精神障害者については地域社会に受け皿が整えば退院が可能な「社会的入院」の解消を掲げ、10年間で約7万2千人の退院・社会復帰を目指す。
 さらにすべての施設を在宅サービスの拠点と位置づけ、小規模化、個室化を進める。
 現在、知的障害者約46万人のうち約13万人が、身体障害者約352万人のうち約19万人(いずれも01年)が施設で暮らす。精神障害者は約204万人のうち約33万人(99年)が入院し、4割以上が5年以上の長期入院だ。
 
 ■新障害者プランの主な目標(03年度〜07年度)
 ▽ホームヘルパー6万人(4万5千人)
 ▽ショートステイ5600人分(4500人分)
 ▽グループホーム・福祉ホーム3万5600人分(2万人分)
 ▽精神障害者生活訓練施設6700人分(6千人分)
 ▽05年までにノンステップバスを約10%導入(新規目標)
 <注>カッコ内は現行プラン(96〜02年度)の目標

■2003

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◆20030604 心神喪失者処遇法案、参院委で強行採決 今国会成立へ――朝日新聞

◆20030711 「社会復帰の治療」重点 心神喪失者処遇法が成立――朝日新聞

◆20030919 精神障害者「社会的入院の解消を」 都福祉審議会 /東京――朝日新聞

◆20030925 家族外の面会禁止掲示、「違法」指摘で外す 都立松沢病院閉鎖病棟――朝日新聞

◆20031203 国立療養所鳥取病院、「精神スーパー救急」に 山陰で初認定/鳥取――朝日新聞



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◆20030604 心神喪失者処遇法案、参院委で強行採決 今国会成立へ――朝日新聞

重大な犯罪を起こし、心神喪失などで刑事責任が問えない精神障害者に裁判所が治療を命令できる「心神喪失者処遇法案」が3日、与党3党の強行採決によって参院法務委員会で可決された。医療・法律関係者や精神障害者の間には「長期入院につながりかねない」などと懸念が強く、3会期にまたがって審議が続いていた。近く参院本会議で可決され、衆院で再議決を経た上で今国会で成立する見通しだ。
 この日は「審議は尽くした」とする与党が採決を求める動議を出し、審議の継続を求めていた野党を押し切った。
 法案によると、殺人、放火などの重い犯罪行為を起こした人に責任能力がないか欠けている場合、裁判官と医師の合議で治療の必要があるとの結論が得られれば、裁判所が入院・通院を命令できる。対象者は国公立を中心とする専門治療施設に入る。退院の是非や、通院などの治療開始・終了についても、裁判所の合議体で決定される。
 現在は、都道府県知事の行政処分として「措置入院」の制度があるが、医師だけの判断で入退院を決めており、司法の関与を望む声があった。一方で、新制度に入院の期間制限がないことから、「社会防衛を理由に精神障害者が長期間、入院させられるのではないか」との懸念も出ていた。


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◆20030711 「社会復帰の治療」重点 心神喪失者処遇法が成立

重大な犯罪行為をしたが刑事責任が問えない人に対し、裁判所が入・通院を命令する制度の導入が10日、正式に決まった。同日の衆院本会議で、心神喪失者処遇法が与党3党と自由党の賛成多数で可決、成立。来年度中の運用開始をめざして政府と最高裁は本格的な準備に着手する。
 新制度は、これまで医療現場に任せきりだった触法精神障害者の処遇を司法制度の中に改めて位置づけるもので、地裁の裁判体に初めて医師が加わり、「再犯しないための治療の必要性」を裁判官との合議で判断する。
 厚生労働省によると、00年6月現在、現行の強制入院制度である措置入院の対象者は3247人。このうち4人に1人が20年以上入院しており、長期入院を強いる病院側への批判が強かった。一方で「重い犯罪をしたのに処罰されず、知らないうちに退院している」と不透明さを指摘する声もあり、01年6月の大阪の児童殺傷事件をきっかけに、新たな制度の創設に向けた機運が高まっていた。
 新制度では、「本人の社会復帰のための治療」を前面に打ち出している。入院という名の隔離・収容にしないためには、新設される専門施設でどれだけ高い質の医療を提供し、社会復帰を後押しするかにかかってくる。
  ○精神科医と処遇を合議 全国50地裁で
 新法の対象となるのは、心神喪失・耗弱の状態で殺人、放火、強盗、強姦(ごうかん)、強制わいせつ、傷害致死、傷害の罪にあたる行為をし、不起訴処分になったか、無罪か執行猶予の裁判が確定した人。法務省は統計から年間300〜400人と試算する。
 検察官の申し立てに基づき、裁判官と精神科医の各1人が合議で処遇を決める。全国50の地方裁判所で審理する。裁判官以外が合議に参加する初の制度となる。
 裁判所は、対象者が本当に殺人などにあたる行為をしたか、心神喪失・耗弱者かの2点を判断したうえで「入院」「通院」「入・通院の必要なし」のいずれかの決定を出す。基準は「再び同様の行為をしないための治療の必要性の有無」。
 入院命令の場合は厚生労働省が所管する専門施設に入る。期間の上限はなく、6カ月ごとに裁判所が入院継続の是非を判断する。対象者は裁判所に退院を申し立てられる。通院命令の場合の上限は延長も含め5年。通院期間中は保護観察所が病院や自治体と連携して社会復帰を支援する。


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◆20030919 精神障害者「社会的入院の解消を」 都福祉審議会 /東京――朝日新聞

都の「地方精神保健福祉審議会」(会長=竹村堅次・東京武蔵野病院名誉院長)はこのほど、精神障害のある人の長期入院問題に関する提言をまとめた。退院できる状態でありながら受け入れ基盤がないため入院を余儀なくされている「社会的入院患者」の解消に向け、都や国に取り組みを促す内容だ。都はこれを受け、共同生活の場としてグループホームの設置促進を検討するほか、制度改善に向けて国への働きかけを強めるとしている。
 提言は「医師やスタッフは病院を『終(つい)の棲家(すみか)』ととらえていた経緯があり、意識の変革が重要だ」と指摘。
 その上で、▽自立意欲の引き出し、リハビリなど早期退院に向けた取り組み▽病院から地域へ円滑に移行させる体制の構築▽入院30年以上の超長期患者の処遇に対するチェック体制▽福祉ホームや生活訓練施設などニーズにあった施設整備――などを促している。
 15年にわたって同審議会をまとめてきた竹村会長は「病院は経営上痛みを感じるかもしれないが、一患者当たりのスタッフの数を増やして体制を整えることが重要。適正な処遇をした上で受け入れ態勢をととのえ、入院者の社会復帰を促進すべきだ」と話す。


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◆20030925 家族外の面会禁止掲示、「違法」指摘で外す 都立松沢病院閉鎖病棟――朝日新聞

日本の精神病院の草分け、東京都立松沢病院(松下正明院長、1368床)の一部の閉鎖病棟で、「家族以外の面会」を一律に禁じる掲示を出していたことが分かった。「精神病院入院患者の通信・面会の自由」は精神保健福祉法に基づき厚生労働大臣が定めた「処遇基準」で保障されている。人権団体などから「違法」との指摘を受けた病院側は24日までにこの掲示を外し、朝日新聞の取材に対しては「掲示は速やかにより適切なものに改める」とした。
 入院患者への虐待で問題になった「宇都宮病院事件」などをきっかけに設立された、民間の東京精神医療人権センターの調査で明らかになった。
 先月20日、センターの小林信子事務局長が約8年間にわたり相談にのってきた長期入院患者(46)への面会が、病院側から突然禁止された。
 小林氏が主治医に理由をただすと「家族以外の面会は一律禁止。病棟の規則だ」との説明。病棟入り口には「家族以外の面会、差し入れをお断りしています」との張り紙が出されていた。小林氏は「個別処遇が原則。一律禁止はおかしい」と副院長らとも交渉したが、面会禁止自体は撤回されなかった。
 同センターの永野貫太郎弁護士による調査では、患者から「ほぼ一日中病棟内に拘禁され、外気にあたる機会がない」との訴えもあった。
 病院側は24日、「面会制限は法と厚労省告示(基準)に基づき、患者の医療・保健に欠くことができない限度で個別具体的に決定している」との見解を明らかにし、掲示については「家族以外にも現実に面会を認めており、現実に合わせた表現に変える」とした。


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◆20031203 国立療養所鳥取病院、「精神スーパー救急」に 山陰で初認定/鳥取――朝日新聞

国府町新通り3丁目の国立療養所鳥取病院の救急病棟(35床)が精神科で最高レベルの救急施設や体制を整えた「精神スーパー救急」の認定を国から受けた。認定は全国で5番目で、山陰地方では初めてという。
 厚生労働省は今年度から5年をかけ、1年以上長期入院をしている精神科患者のうち約7万2千人の退院、社会復帰を目指している。「スーパー救急」は、この施策に対応し、初期診療やスタッフの充実、個室病棟の整備など、長期入院を防ぐための施設基準をクリアした病棟。
 施設基準には、1カ月間の全患者の延べ入院日数の4割以上が新規患者の入院日数である▽新規患者の4割以上が3カ月以内に退院し、在宅へ移行する▽精神保健指定医が5人以上常勤している▽24時間対応で休日・夜間の診療が年間200件以上ある――ことなど、厳しい条件がつけられている。
 国立療養所鳥取病院は「外科や小児科で普及してきた緊急医療も精神科では未発達。社会復帰のためには早期治療と集中治療が大切」と昨年11月から精神科病棟を改築し、個室を増やすなど準備を進めてきた。独立行政法人化を前に病院の特色を示す狙いもあったという。
 柏木徹院長は「民間の病院には長期入院が必要な場合のケアに力を入れてもらい、鳥取病院では集中治療をするなど、地域と連携し、患者の早期社会復帰に携わっていきたい」と話している。

■2004

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◆20040124 病床は縮小し、地域ケア拡充 県立駒ケ根病院検討委 /長野――朝日新聞

◆20040129 佐波・東村から(町から村から) /群馬――朝日新聞

◆20040323 社会的入院減へ精神病床見直し 厚労省、検討会の報告受け――朝日新聞

◆20040923 県立2病院の累積赤字、55億円超す 長期入院減など響く /青森――朝日新聞

◆20041013 厚労省、12月上旬にも方針 障害者福祉の一本化試案――朝日新聞

◆20041020 不法入院11年、賠償命令 精神病院に120万円 高松 【大阪】――朝日新聞

◆20041106 地裁判決は不服、元入院患者控訴 /香川――朝日新聞


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◆20040124 病床は縮小し、地域ケア拡充 県立駒ケ根病院検討委 /長野――朝日新聞

老朽化した県立駒ケ根病院の整備などを協議していた県の検討委員会の提言がまとまり、信州大医学部教授の天野直二委員長がこのほど、田中康夫知事に提言書を出した。現在310床の病床数を180〜200床程度に減らし、同時に入院患者の社会復帰を進める事業の充実を求めている。
 提言書は、「入院中心の治療体制から地域でのケア体制へ」を理念に掲げた。病床数を減らす一方で、市街地に医師や看護師らが常駐する「地域デイケアセンター」の設置を提案している。
 また、現在週1回開設している児童思春期外来で入院病棟を整備するほか、老年期精神疾患の専門外来の開設を提言した。ただ、長期入院患者の社会復帰を進めるうえで永住施設をどう整備するかは、今後の課題とした。


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◆20040129 佐波・東村から(町から村から) /群馬――朝日新聞

[……]
<健>
 ○心の病、社会復帰を支援 県立精神医療センター、院長率先し病院を改革
 1月のある平日の午後6時半過ぎ。当直態勢の院長室の内線が鳴った。
 「……うん、うん。患者さんは家族と一緒?」
 188センチの長身を折り曲げながら、武井満院長(56)は急患の搬送を告げるスタッフの話をメモに取る。佐波・東村国定にある県立精神医療センター(372床)の長い夜は始まったばかりだ。
 58年に高崎市内に前身が発足し、70年に現住所に移転してきた同病院には現在、約200人の医療スタッフが働く。年間約800人が新たに入院し、1日の平均外来患者数は約140人。医療スタッフの数は比較的恵まれているが、「それでも医師が定数に2人足りない」という。
 県内唯一の県立単科精神病院として、民間病院が敬遠しがちな患者も引き受ける。「治療の継続性が保たれず、患者に不利だ」として他の病院に転院させないのが原則。全国でも珍しいという。
 社会環境の複雑化などを背景に、心の病に苦しむ人は増えている。同病院の新規入院・外来患者数も約10年で3、4倍に増えた。一方で、99年から院長を務める武井院長は、第2診療部長として赴任してきた92年以来、病院改革に取り組んできた。目標は「扱いが難しい患者をつくらない」。
 武井院長によると、日本では長く、司法や行政などが、心の病に苦しんだりその疑いで他人を傷つけたりした人を、精神病院に押し込んできた。それが、世界的にも問題視される長期入院につながり、扱いが困難な患者を生んできたという。
 院内で検討を重ね、退院後の住宅を貸してくれる地域の理解者も得るなどして、患者の社会復帰に力を注いできた。「医師にできるのは治療だけ。生活や就労の支援、訪問介護など、ケースワーカーらによるケアも大事なんです」
 心の病に苦しむ人は増える一方。県や医療関係者らにも改革を訴えてきた。「全体で患者を受け入れる、足腰の強い社会を作っていかないと」。武井院長らの挑戦は、当分終わりそうにない。


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◆20040323 社会的入院減へ精神病床見直し 厚労省、検討会の報告受け――朝日新聞

精神医療の将来像や入院治療のあり方を議論している厚生労働省の検討会(座長=吉川武彦・中部学院大教授)は23日、比較的社会復帰しやすい入院期間1年未満の患者への集中治療や、復帰に向けたリハビリの充実で、入院の長期化を予防することなどを盛り込んだ中間報告をまとめた。同省は社会的入院患者計7万2千人の社会復帰を目標に掲げており、この報告を反映させる形で、地域ごとに必要な精神病床数「基準病床」の算定方式を04年度中にも変更する。
 同省によると、精神病院への入院患者全体33万人(99年調査)の3割にあたる9万4千人は、入院期間が1年未満に集中している。このうち、受け入れ条件が整えば退院可能な「社会的入院」が2割超の2万人余いるという。
 中間報告は、入院1年未満の「急性」の患者が集中的な治療を受けられるよう、専門医らの重点配置を提言。一方で、1年以上の長期入院患者に対しては、精神状態が不安定で専門的治療が必要な「重度療養」、治療のほかに生活介護の要素が大きい「痴呆(ちほう)療養」に分類した処遇を打ち出した。


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◆20040923 県立2病院の累積赤字、55億円超す 長期入院減など響く /青森――朝日新聞

県は22日、県立中央、県立つくしが丘(精神科・神経科)両病院の03年度決算を発表した。中央病院は13億8900万円、つくしが丘病院は2億2600万円の赤字をそれぞれ計上、累積赤字は中央病院が48億3100万円、つくしが丘病院が6億7600万円となり、合わせて55億円を超えた。
 県医療薬務課によると、中央病院の03年度の事業収益は152億1千万円で、前年度に比べ0・3%増えた。一方で、事業費用は約166億円でほぼ横ばいだった。赤字額は前年度比19%減った。入院患者が1・1%増え、手術件数が増えたことが影響した。
 また、つくしが丘病院は、事業収益21億4900万円に対して、事業費用は23億7500万円だった。赤字幅は前年度に比べ42%増えた。
 長期入院患者の社会復帰を促し、病床利用率が84・3%と3・6ポイント減ったことが要因だという。


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◆20041013 厚労省、12月上旬にも方針 障害者福祉の一本化試案――朝日新聞

厚生労働省は12日、身体・精神・知的で分かれている障害者向けのサービスを新法を作って一本化することなどを柱とする障害福祉政策の改革試案を社会保障審議会の障害者部会に示した。同省は介護保険の活用を含め、12月上旬にも方針をまとめ、来年の通常国会に新法案や関連の改正法案を提出する予定だ。
 試案では、サービスの利用内容や量を調整するケアマネジメント制度も示された。制度では、新たに障害者の相談を受けて支援する事業者を設ける。
 障害者がサービスを利用する場合、相談事業者の支援を受けるなどして利用計画案を作り、市町村に提出。市町村は審査会を開き、都道府県の専門機関へ照会するなどしてサービスの内容や利用量を決める。複数のサービスが必要だったり、長期入院・入所から地域での生活に移ったりする場合は、相談事業者が自立支援計画を作り、サービス利用の調整・契約援助などを行う。
 また、支援の必要度などを客観的に示す障害程度の区分を新たに設け、身体・知的・精神共通の尺度にする。ホームヘルプサービスなど介護サービスについては各障害の特徴に配慮しながら、介護保険の要介護認定基準を基本にする。
 同日の部会では、サービスの支給決定の過程やケアマネジメント制度の導入などに質疑が集中した。障害者団体の委員が市町村の審査会について、「障害者が自分でサービス内容を決めるという流れに反する」と反対する一方、「透明性を確保するため必要」との意見も出た。


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◆20041020 不法入院11年、賠償命令 精神病院に120万円 高松 【大阪】――朝日新聞

精神病院に11年以上、不法に入院させられて社会復帰が困難になったとして、高松市内の無職男性(55)が、同市上天神町の大西病院を経営する財団法人「大西精神衛生研究所」(大西寧代表理事)を相手取り、約9400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が20日、高松地裁であった。豊永多門裁判長は、病院側に120万円の賠償を命じた。
 判決などによると、男性は85年、家族の依頼で精神病質として入院。96年にいったん退院したが、入退院を繰り返し、入院期間は延べ11年2カ月に及んだ。91年ごろからは、病院側の指示で建物のペンキ塗りや草刈り、ほかの患者のおむつ換えなどの作業も無償でさせられた。
 原告側は「退院可能になっても病院側が不法に長期入院させたため、退院後に就職できなかった。また、院内で半ば強制的に無償労働させられた」と主張。病院側は「男性は通院が困難な状態だった。労働は治療的意味があった」などと反論していた。
 この訴訟に関して日本精神神経学会が独自に調査委員会を設けて男性の診療状況などを調べ、02年に「病院がさせた作業は治療に当たらない」との報告書をまとめている。


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◆20041106 地裁判決は不服、元入院患者控訴 /香川――朝日新聞

精神病院に11年以上不法に入院させられた上に無償で働かされ、社会復帰が困難になったとして、高松市内の無職男性(55)が病院を経営する財団法人「大西精神衛生研究所」(大西寧代表理事)を相手取った損害賠償訴訟で、男性側はこのほど、病院側に慰謝料など120万円の支払いを命じた高松地裁の判決を不服とし、高松高裁に控訴した。
 男性側代理人の久保和彦弁護士は「一審判決は長期入院の不法性を認めておらず、院内労働による精神的苦痛への慰謝料も不十分だ」としている。

■2005

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◆20050108 精神障害への理解を深めて(声)――朝日新聞

◆20050224 三鷹市、心病む人の自立支援 経験者が訪問、話し相手に /東京――朝日新聞

◆20050327 医療観察法、施行前の改正検討 病棟建設地で反対強く――朝日新聞

◆20050618 精神病院、病状報告など遅れ1005件 過去5年間、県内17カ所 /岩手県――朝日新聞

◆20050917 同室の患者殺害し自殺? 原町の精神病院、79歳が刺した疑い /福島県――朝日新聞

◆20051010 (旬に聞く インタビュー)渡部芳徳さん 精神病院閉じて福祉ホーム、背景は/福島県――朝日新聞

◆20051112 県立の精神科病院「富養園」移転で基本計画 意見募り年内にも固める /宮崎県――朝日新聞

◆20051209 「想定できない行動」 容疑者入院の精神病院長謝罪 高知の会社役員殺害 /高知県――朝日新聞


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◆20050108 精神障害への理解を深めて(声)――朝日新聞

養護学校教諭 小田切鈴子(山梨県笛吹市 54歳)
 私には、精神科に長期入院している26歳の長女がいます。昨年末、自宅へ戻り、家族でクリスマスイブを祝いました。
 その長女が病院へ帰る前に「髪を切りたい」と言うので、近くのカット専門の美容室へ行きました。長女が、美容師さんに「私は精神科の病院に入院しています。お風呂が週2回しかなくて、ドライヤーも自由に使えません。だからまとまりやすいように切って下さい」と言いました。そのとき、精神障害者と知られてカットを断られるかと思いましたが、その美容師さんは他のお客さんと同じように、長女の要望を聞きながらきれいに仕上げてくれました。お陰で、長女も晴れ晴れとした様子で病院に戻りました。
 今日では障害者に対する意識が以前に比べ変わりつつあり、社会の受け入れも温かく進んできていると思います。しかし、精神障害者についてはまだまだ理解が薄く、偏見や差別が多く残っていることを日頃より実感しています。せめて、「私は精神障害者です」と臆(おく)することなく言えるような社会になって欲しいと思います。


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◆20050224 三鷹市、心病む人の自立支援 経験者が訪問、話し相手に /東京――朝日新聞

 心を病む経験をした人たちが、孤立したり引きこもったりしないで済むように、三鷹市は新年度から当事者や支援団体、病院などと協力し、地域で自立生活を援助する仕組みづくりに取り組む。同じ問題や環境を体験した人が、対等な立場で仲間として支え合う活動を進めていきたい考えだ。
 市地域福祉課によると、市内には精神科の大病院が二つあり、九つの通所作業所と三つのグループホームがある。こうした関係者で運営協議会を設け、事業に取り組んでいく。
 主な活動の一つが5月以降にも始める「友愛訪問」だ。入院が長引き、社会で生活する自信を失ってアパートに引きこもったり、地域に受け入れられずにいたりする人たちは少なくない。同じ経験をした人が訪問し、話し相手になったり、情報を伝えたりする。訪問活動には報酬が支払われる。また活動を有効に続けるために、仲間同士で話を聴く力をつけるカウンセリング講座なども開く。
 支援の仕組みをつくることで、長期入院者も安心して地域に移れるようにし、孤立せずに暮らしていけることを目指すという。


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◆20050327 医療観察法、施行前の改正検討 病棟建設地で反対強く――朝日新聞

政府は、心神喪失などを理由に重大な犯罪行為の刑事責任が問えない人に対して入院治療などの処遇を定めた心神喪失者医療観察法を7月の施行期限前に改正するため、与党と検討に入った。専門病棟が住民の反対などで十分確保できないためで、施行前に法律を改正するのは極めて異例。都道府県立精神病院を代用するなどの経過措置を新たに盛り込む方向で、今国会にも改正法案を提出、遅くとも秋には成立させたい考えだ。
 同法は、検察官の申し立てに基づいて、裁判官と精神科医の合議で入院、通院、治療なしを判断、厚生労働相が指定する医療機関で社会復帰に必要な治療を受けさせるもので、国は「精神医療全体の底上げにつながる」と位置づけている。01年に起きた大阪教育大付属池田小の殺傷事件で新たな制度を求める声が高まったのをきっかけに、03年に成立した。
 法務省の推計では、同法の新規入院対象者は年間約300人。厚労省は新病棟(1病棟30床、予備3床)を国立で8カ所、都道府県立病院で16カ所の計24カ所(792床)設ける計画をたてた。国立を優先的に整備し、6カ所程度を7月までに開設する予定だった。
 これまで、国立7カ所で厚労省や市町村、病院が地元住民向けに説明会を90回以上開いてきたが、「危険だ」「逃げたらどうする」などの反対が相次ぎ、各地で交渉が暗礁に乗り上げている。
 新病棟建設が着工できたのは国立精神・神経センター武蔵病院(東京都小平市)と独立行政法人国立病院機構花巻病院(岩手県花巻市)、同機構北陸病院(富山県南砺市)の3カ所(計99床)だけ。
 都道府県立病院で新病棟開設の内諾を得た1カ所も、受け入れは早くて07年度以降。施行期限時に受け入れ可能なのは武蔵、花巻の2病院の66床で、年末には病床が不足し始めるとみられる。
 現在、心神喪失などを理由に不起訴や無罪となった場合、多くは都道府県知事の行政処分として精神保健福祉法に基づいて措置入院させている。政府・与党は必要な病床数を確保できるまで、経過措置として措置入院を受け入れている都道府県立病院を代用できる案などを検討している。
 ◇キーワード
 <心神喪失者医療観察法> 精神科医や精神保健福祉士らのチームが国のガイドラインに基づき個別に計画を立て、先進的治療を提供する。保護観察所の社会復帰調整官も病院や自治体と連携して支援する。入院は1年半が基本。半年ごとに裁判所が入院継続の是非を判断し、本人が退院を申し立てることもできる。通院は最長5年。入院期間の制限はなく、「社会防衛のため、長期入院させられるのでは」との懸念もある。
 現在の措置入院は、担当医が治療方針や退院の時期を判断するため、「社会復帰につなげる治療が十分でない」「知らない間に退院している」などの指摘があり、同法成立の背景になった。


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◆20050618 精神病院、病状報告など遅れ1005件 過去5年間、県内17カ所 /岩手県――朝日新聞

県障害保健福祉課は17日、県内に22ある精神病院のうち17病院で、医療保護入院者の入退院状況などの届け出が、過去5年間で合計1千5件も遅れていたことを明らかにした。
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律では、自傷他害の恐れがない精神障害者を、本人の同意が得られないまま入院させる(医療保護入院)場合、患者の病状報告などを年1回管轄保健所に届け出るよう定めている。また自傷他害の恐れがあり、県知事の権限で入院させた(措置入院)患者も、半年ごとの病状報告が求められている。県精神保健医療審査会では、報告を元に、患者の入院状況などが適正かどうか審査している。
 同課が報告状況について、00〜04年度分を調査したところ、約1万件の報告のうち、約1割が遅れていたことが分かった。期限より2年も遅れて報告されたものもあった。遅れた事案で、入院形態に問題があるものはなかったという。
 単純ミスもあったが、長期入院者の事例では、報告する意義の認識が甘かったために遅れたケースも見られたという。毎年の保健所の実地指導も、不十分だった。
 同課は、再発防止策のため、事務処理のマニュアル改訂や、病院と保健所での情報の共有化などを検討している。


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◆20050917 同室の患者殺害し自殺? 原町の精神病院、79歳が刺した疑い /福島県――朝日新聞

16日午前4時過ぎ、原町市上町1丁目にある精神病院の雲雀ケ丘病院(金森良院長、254床)から「患者が同室の患者を刺した」と110番通報があった。患者2人は、それぞれ市内の別の病院に運ばれたが、ともに死亡した。
 原町署の調べでは、死亡したのは、相馬市の74歳と79歳の無職男性。看護師が午前4時に定時巡回した際、79歳男性が病室内で立っていたため、声をかけたところ、自分の腹を刺して倒れたという。ベッドに寝ていた74歳の男性は、果物ナイフで胸を刺されていた。同署は、79歳男性が74歳男性を刺し、自殺を図ったものとみて、病院側から事情を聞いている。
 病院側によると、現場は、同院西棟2階の4人部屋。死亡した2人は長期入院の患者だった、という。


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◆20051010 (旬に聞く インタビュー)渡部芳徳さん 精神病院閉じて福祉ホーム、背景は/福島県――朝日新聞

受け皿がないため、精神障害者が退院できない「社会的入院」が問題となっている。入院患者の県内の年平均在院日数(03年調査)は、全国平均より67日多い415・6日と、東北で最長だ。今年8月、白河市内に退院後の自立を支援する「福祉ホームひもろぎの園」ができた。精神病院の閉鎖後に設けられた施設で、社会復帰の受け皿として期待が集まる。設立の背景などについて、精神科医で社会福祉法人真徳会の渡部芳徳理事長(41)に聞いた。(聞き手・永沼仁)
 ――思い切って病院を閉じました。その背景を聞かせてください。
 「一般病院は今まで、大学病院に医者の派遣を要請してきましたが、数年前から、難しくなってきました。さらに、薬の進歩があります。副作用が少なく、よく効く薬が出てきたので、長期入院の必要がなくなってきました。これなら病棟がいらず、ベッドの稼働率も下がる。だから閉じようと決断したわけです。病院に借金がなかったことも理由の一つですね」
 ――すんなりできたのでしょうか。
 「入院患者や家族に精神的な負担を強いることですから、変化を好まない家族からの反対もありました。でも、症状が良くなった人には積極的に在宅復帰を働きかけ、ほかの病院にも受け入れをお願いしました。125の病床を徐々に減らし、閉じる時は70ぐらいでしたね。昨年7月からは、外来中心のクリニックでデイケアも始め、症状が悪化しないように注意もしました」
 ――その結果は?
 「約3割の方が在宅復帰できました。やればできるんです。受け入れ条件が整えば、退院可能な人が全国で約7万人いるとされますが、実感として分かりました。病院を閉じて1年以上になりますが、うまくいった方だと思います」
 ●病院と在宅結ぶ
 ――福祉ホームはどんな場になっていますか。
 「病院を出た直後の方の生活の場で、病院と在宅を結ぶ中間的な施設です。グループホームと違い、社会復帰をコーディネートする精神保健福祉士、看護師がいて、医師もかかわります。ここで生活訓練などをしながら最長5年間暮らしてもらい、将来は家庭復帰、アパートでの自立した生活に移行してもらいます」
 ――元患者の方たちにも好評のようですね。
 「部屋は個室で、自由ですから。病院は『開放病棟』と言いながら、どこも夜には鍵が掛かります。スタッフは関連する老人保健施設での経験を生かし、管理ではない接し方を心がけています。精神病院の暗いイメージが変わり、入所者の表情も良くなりました。運営も医療法人ではなく、より公的な社会福祉法人で行っています」
 ●働く場も確保へ
 ――治療だけでなく福祉にまで踏み込んだということですね。
 「これからは機能分化が大事だと思います。うちのようにクリニックでデイケアやホームに取り組むところと、発病直後の重い患者を受け入れる中核病院。それぞれ役割がある。病床数を徐々に減らし、福祉ホームに変わることで、患者さんの快適さが向上し、社会復帰につながっていくと思います」
 ――今後の取り組みは?
 「お年寄りの介護を、障害者の手でできないかと考えています。働く場を確保し、『福祉産業』をめざしたい。個人的には、うつや統合失調症など病気のことを企業や一般の方に、もっと分かりやすく説明する活動もしていきたいですね」
   *
 渡部芳徳(わたなべ・よしのり) 精神科医・「真徳会」理事長 東京都小平市生まれ。山梨医大(現山梨大医学部)卒業後、福島県立医大神経精神科に入局。米デューク大医学部に留学、99年に帰国。白河市内に66年に開院された南湖病院を拠点に在宅介護支援センター、介護老人保健施設などを開設。02年、都内に「ひもろぎ心のクリニック」を開設、04年、南湖病院の病棟を閉じ「南湖こころのクリニック」に改称、精神科デイケア開始。うつ病やパニック障害についての著作もある。


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◆20051112 県立の精神科病院「富養園」移転で基本計画 意見募り年内にも固める /宮崎県――朝日新聞

県は11日、県立の精神科病院「富養園」(新富町三納代)を県立宮崎病院(宮崎市北高松町)に移転・併設する整備基本計画案を発表した。計画案は県のホームページに掲載し、病院外来でも配布する。12月12日まで県民の意見を募り、参考にしたうえで年内にも計画を固める方針だ。
 計画案は、発症間もない急性期治療や高次救急医療、児童思春期治療などの5本柱を掲げる。
 「こころの医療センター(仮称)」を宮崎病院の一部門として設置。成人向け病棟を宮崎病院南側の職員駐車場に建設し、同センターの児童思春期部門を「子どものこころの診療科(仮称)」として同病院7階の小児科フロアに設ける。
 成人病棟は60床、児童思春期病棟は10床を上限とし、いずれも個室にする。県内には平日夜間や土曜日の精神科救急医療機関がないため、常時24時間態勢を整える。
 成人病棟は08年度に着工し、09年度の開設を目指す。児童思春期病棟は06年度に改修を終え、07年度に先行移転する。
 富養園は4病棟159床(稼働病床数)で職員は135人。入院患者は54人で5年以上の長期入院が21人に上るが、民間医療機関や社会福祉施設などへ紹介する。外来患者は西都・児湯地域在住が多いため、園跡地に民間の精神科を誘致するなどして対応する。
 来年4月に1病棟を閉鎖し、09年度の成人病棟開設と同時に閉園する。職員は県立の各病院に再配置する。
 富養園は52年設置。04年6月に県精神保健福祉審議会が「総合病院への併設が望ましい」と答申し、宮崎病院への移転・併設が検討されていた。
 計画案の問い合わせは県立病院課(0985・26・7080)へ。


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◆20051209 「想定できない行動」 容疑者入院の精神病院長謝罪 高知の会社役員殺害 /高知県――朝日新聞

香川県香川町で高知市の会社役員矢野真木人さん(28)が殺害された事件で、無職の男(36)が7日、殺人容疑で高松南署に逮捕された。これまでの調べでは、男は事件について「わからない」などと供述しており、入院中の精神病院から来年にも社会復帰を目指そうと許可を得て外出中、通り魔的に面識のない被害者を襲った可能性が高い。患者の復帰に、地域の理解は得られるのか。事件は重い問いを投げかけた。
 院長を務める主治医(48)は8日、病院で開かれた会見で「被害者、ご家族に申し訳ない」と話したうえで、「事件を予見できる症状はなかった。想定できない行動だった」と説明した。
 病院の説明によると、男は昨年9月、強い不安を感じる神経症の症状を訴えて来院し、10月に本人の希望で入院した。数日間は興奮しやすい状態で閉鎖病棟で過ごしたが短期間で改善し、11月には開放病棟に移った。周囲の音が人の声に聞こえるなど幻聴の兆候もあったが、「行動を支配するような幻覚、妄想ではなく、暴力もない。長期入院を避け、生活力を維持すべき」と判断。12月には退院に向けた治療に入り、外出を許可した。
 外出は日中の2時間、出入りの時刻を病院の帳簿に記入すれば自由で、男はこれまでに40回以上外出していたという。
 厚生労働省は04年、長期化する入院が患者の社会復帰を妨げる悪循環を防ごうと、入院治療中心の精神医療から地域での生活を重視する「改革ビジョン」を策定。同病院も「早い社会復帰を目指す治療が今の世界の主流」と患者を地域に帰す努力を続けてきた。
 だが事件後、病院の周辺住民からは「これから、外出中の患者と普通に接することができるか不安」などの声も出ている。主治医は「開放処遇には慎重にならざるを得ない」として、外出を認める決定などについて、主治医以外の診断も仰いで二重チェックも検討したいという。
 ●父の会社継ぎ世界へ、雄飛の夢たたれ無念 両親語る
 殺害された矢野真木人さんの父啓司さん(58)と母千恵さん(56)は8日、高知市朝倉丙の自宅で悲痛な心境を述べた。
 真木人さんは幼児期をイギリス、インドで過ごし、言葉に苦労したものの、じっと耐えるような子どもだったという。啓司さんの会社を継ぐため香川大へ進み、将来は会社を背負い、ビジネスマンとして世界へ雄飛する夢を持っていた。その矢先の理不尽な凶行だった。 「残念以外の何ものでもない。事件の日は高松で会社の会議があり、いつまで待っても真木人は現れず、代わりに警察がやって来た」と啓司さん。千恵さんは、「真木人は高知に帰ってくると、いつもお昼まで寝ていた。今、眠っている真木人に『もうお昼よ、起きなさい、食事ができてるわよ』と何度も話しかけた。でも、もう起きてはくれなかった」と声をつまらせた。

■2006

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◆20060114 「不必要な入院、人権侵害」 岡山弁護士会、元院長に勧告 /岡山県――朝日新聞

◆20060609 (こころからだ)精神障害者の自立支援 伊勢に作業所と診療所の新施設 /三重県――朝日新聞

◆20060616 病院に1200万円賠償命令 転院させる義務認定 医療過誤訴訟控訴審 /宮城県――朝日新聞

◆20060718 (患者を生きる:92)うつ 仙台の挑戦:1 都市のお年寄りが危ない――朝日新聞



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◆20060114 「不必要な入院、人権侵害」 岡山弁護士会、元院長に勧告 /岡山県――朝日新聞

岡山弁護士会は13日、瀬戸内市の精神病院(04年に廃院)で入院治療の必要のない患者が長期入院させられたのは人権侵害にあたるとして、元院長に元患者への謝罪と補償を求める勧告書を送付した。
 人権侵害を受けたとされるのは、いずれも岡山市に住む男性(50)と女性(58)。それぞれ19年、15年入院し、退院後の03年10月、人権救済を同弁護士会に申し立てた。
 勧告書などによると、同病院の入院患者は全員が本人の同意がなくても入院させることが可能な「医療保護入院」の扱い。しかし、県が廃院を前にほかの医師に患者41人を診察させたところ、転院が必要だったのは13人。大半は自宅に戻るなどして社会復帰を果たすことができたという。多くは10年以上の入院で、最長は約50年だった。
 また、患者に農作業や院内を清掃させていたほか、外部との連絡手段となる公衆電話も備えていなかったと指摘された。
 元院長は取材に対し、「間違ったことは何もしていない。患者は治っていないので、退院させなかった」と話している。


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◆20060609 (こころからだ)精神障害者の自立支援 伊勢に作業所と診療所の新施設 /三重県――朝日新聞

伊勢志摩地域で精神障害者の自立と社会参加を支援しようと、NPO法人「伊勢ふるさと会」の設立を申請した元伊勢保健所長の医師らが、作業所と診療所を併せ持った施設を伊勢市大世古3丁目に完成させ、11日に開所式をする。南勢地方に、こうした支援施設が少なく、退院が可能な精神障害者であっても長期入院を余儀なくされたり、地域で十分なサポートを受けられず引きこもったりしているケースが少なくないため、2年がかりで構想を進めていたという。
 「伊勢ふるさと会」の理事長で、伊勢慶友病院医師の北村純さん(56)は04年11月、思いを同じくする伊勢志摩の精神科医師や看護師、作業所指導員らと集まり、精神障害者の社会復帰施設を建設しようと決意した。保健所長だった北村さんは、兼職を禁じる県を退職。地域全体で心の問題に対応し、障害者への理解と交流が深まる場所づくりに奔走してきた。
 同会が運営するのは、小規模作業所の工房「ぼちぼち倶楽部」と診療所「心のクリニックいせ」。障害者基本法の理念を伊勢志摩で実現し、障害者が地域で当たり前の生活を送れるよう手助けする拠点となる。
 工房は、伊勢市一之木1丁目で十数年活動してきた小規模作業所「ふるさと工房」を引き継ぐ形。6月から、におい袋の製作や廃油によるせっけんづくりなどを始める。
 施設が手狭だったため、これまで断念していた調理施設を新たに設けた。今後はパン工房と飲食店としての開業を目指し、障害者の自立に役立てたい考えだ。北村さんは「障害者が各自のできる範囲で社会活動に参加することで、地域住民からも親しまれる施設になるはず。将来的には、職業訓練や就労援助も実現したい」と話している。
 診療所は、必要な医師が確保できる今秋の開業を見込む。不登校の悩みなど、地域の人たちが抱える心の問題に幅広く対応する方針。また、うつ病相談など、企業で問題になっているメンタルヘルス対策にも力を入れたいという。
 施設に関する問い合わせは伊勢ふるさと会(0596・28・0806)へ。


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◆20060616 病院に1200万円賠償命令 転院させる義務認定 医療過誤訴訟控訴審 /宮城県――朝日新聞

入院していた長男が死亡したのは病院側が適切な医療行為を怠ったためだとして、仙台市太白区の父親(72)らが、同区内の病院「春日療養園」を運営する医療法人吉田報恩会などを相手取り、3300万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が15日、仙台高裁であった。
 大橋弘裁判長は、請求を棄却した一審・仙台地裁判決を変更し、1200万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
 判決によると、長男は統合失調症と診断され、73年から同病院に長期入院。抗精神薬の投薬治療などを受けていたが、01年12月、嘔吐(おうと)により気管支内に入った吐瀉(としゃ)物などで窒息死した。
 両親側は(1)投薬量などに不適切な点があり、長男が衰弱していた(2)嘔吐の前に吐血や腹痛などの異常があったのに食事を取らせるなど不適切な措置があった――などと主張していた。
 判決は(2)について「適切な医療行為を行うことができる病院に転院させるべき注意義務があった」として病院側の過失を一部認めた。
 同病院は「担当者が不在でコメントできない」としている。


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◆20060718 (患者を生きる:92)うつ 仙台の挑戦:1 都市のお年寄りが危ない――朝日新聞

仙台市中心部から北東へ5キロ。昭和40年代初め、山を切り開いて造成されたかつてのニュータウン「鶴ケ谷(つるがや)団地」は今、住民の約3人に1人が65歳以上の高齢者だ。低層の市営住宅88棟は老朽化し、建て替えが決まった。日中は一人歩きの高齢者が目立つ。
 「ここへは、数え切れないほど通いましたね」と、仙台市立病院の粟田主一(あわたしゅいち)神経精神科部長(47)。市は来年度から、大都市では全国でも初めての本格的うつ対策を市内全域で実施する。その出発点が、鶴ケ谷地区での粟田さんらの取り組みだった。
 老年精神医学を専門とする精神科医になって22年。長期入院者の地域復帰や、認知症高齢者のための地域ケアに取り組み、仕事場の半分は「地域」だった。
 東北大の助教授時代、人口約7千の町で高齢者のうつ対策を研究した。人口が少ない農村部では、制度を整えれば浸透も早い。「核家族化し、地域のつながりが薄い都市部にこそ、うつ対策は必要なのではないか」。相談した辻一郎教授(公衆衛生)に、高齢者の寝たきり予防を目的に計画されていた大規模実態調査「鶴ケ谷プロジェクト」への参加を誘われた。団地内の池への入水など、高齢者の自殺が相次ぎ、自殺率は全国の約2倍に達していた。
 鶴ケ谷団地の高齢者の5人に1人は、独り暮らしだ。孤独死の問題もあり、市は調査に協力的だった。だが、くぎを刺された。「研究で終わるのではなく、市の政策にどう生かせるか考えて下さい」
 過去の同様の研究では、住民に「自殺」について尋ねたものはほとんどなかった。「自殺者を減らす」という明確な目標を立てた。
 調査の入り口になる70歳以上の健康診断に一人でも多く参加してもらおうと、老人会を回っては一緒に輪投げなどをした。02年夏の健診受診者は4割を超えた。
 受診者の2割にうつ症状がみられ、うち15%が自殺を考えていた。農村部での調査と比べ、うつ症状の割合は倍以上。翌年も同様の調査を行った。定期的な訪問が必要かどうかを見極めるため、40人以上の高齢者の自宅を保健師と一緒に回った。
 「お年寄りは長い歴史を持っている。自分の人生経験を次の世代に伝えることは、大きな生きがいになる」。昔話を聞きつつ、今の悩みを探っていくと、診察室では聞けない話がたくさん出てきた。両親から戦中戦後の話をよく聞いていたため、話が合った。「本来は、家族や近所の人にするような話。話し相手がいないから、うつも重くなる」。重症になる前に相談できる態勢づくりの必要性を、痛感した。
 「研究で終わらせない」という約束は守った。04年に東北大の研究が終わった後も、「うつ対策の総合プロデューサー」として、市と共に政策を立案し、訪問看護師を育成し、患者の相談に乗り、啓発活動を続けてきた。二人三脚を組む市障害企画課主任の佐藤和代さんは「会議でこちらが提案したことを、必ず『いい考えだね』と肯定して、具体的対策を提案してくれる。人を育てるのが上手な人」という。
 うつ対策の全市拡大に忙しかった2年前、埼玉県のニュータウンに住んでいた両親を相次いで亡くした。2人は死ぬ間際、「死にたい」とうつ状態になったり、錯乱状態になったりした。だが担当医は「痴呆(ちほう)なら退院を」と主張し、治療の必要性を理解してもらうまで苦労した。
 「老人の精神的変調はケアされない、という現実を嫌と言うほど味わった。もしうつ病になっても『自分はうつ』だと自覚し、周囲の支援を受けながら最期を迎えて欲しい」。うつの重症化を防ぐには医療だけでは限界がある。患者を支える地域社会の資源の乏しさへの怒りが、粟田さんの活動の原動力だ。
 昨年からは、厚生労働省の「自殺対策のための戦略研究」の一環で都市対策のあり方を検討している。市の対策よりさらに大規模なプロジェクトで、市を舞台に今月から3年半にわたる実践研究が始まる。
 「この問題はあきらめるか、やり続けるかしかない」。診察室を飛び出し、現場を走り回る日々が続く。
 (文・岡崎明子 写真・江口和裕)

■2007

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◆20070310 精神科退院後の復帰支援院内施設、来月から 団体は反発――朝日新聞

◆20071228 (ひと)松浦幸子さん 心の病を持つ人たちが働く「クッキングハウス」の代表――朝日新聞

◆20071108 入院の女性、病室で絞殺 山口・宇部 【西部】――朝日新聞

◆20071016 2園児殺害に無期判決 心神耗弱認める 滋賀の事件で大津地裁――朝日新聞

◆20070525 (惜別)精神医学界の重鎮・秋元波留夫さん 精神障害者の社会復帰に尽力――朝日新聞

◆20070509 県、障害福祉計画を策定 自立支援法に基づき 地域生活へ移行を推進 /和歌山県――朝日新聞



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◆20070310 精神科退院後の復帰支援院内施設、来月から 団体は反発――朝日新聞

厚生労働省は、精神科病院に長期入院している患者の社会復帰策として、医療機関が病棟を改装して生活訓練を行う「退院支援施設」へ転用できる制度を、4月から実施する。昨年10月の実施予定を障害者団体の強い反対で見送っていたが、新施設側に地域の支援団体などと十分な連携をとることを条件に、新制度を導入することにした。しかし、障害者団体は9日、記者会見し「受け入れ態勢がない地域は多く、長期入院が続く」と反対姿勢を強めている。
 厚労省は、全国の精神科病院に入院する32万人のうち、地域で生活する場がなく入院を余儀なくされている約7万人を12年度までに退院させる計画だ。しかし、グループホームなど地域での受け皿づくりが住民の反対などで進まず、「病院から地域への橋渡しをする施設が必要」として、退院支援施設をつくることにした。
 この施設では、患者が入所し、2〜3年かけて生活能力を高めたり、職業訓練を受けたりして、地域での自立を目指す。ただ、引き続き医師の監督下に置かれ、施設と精神科病院との間で入退院を繰り返し、地域移行が進まないことが懸念されている。
 この日会見した精神障害者の支援グループ「こらーるたいとう」の加藤真規子代表は「地域の態勢整備にもっと力を入れるべきだ」と批判した。


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◆20071228 (ひと)松浦幸子さん 心の病を持つ人たちが働く「クッキングハウス」の代表――朝日新聞

「不思議なレストラン」。そう呼ばれている。東京・調布にある「クッキングハウス」。ここで働く80人は、うつや統合失調症など心の病を抱える人たちだ。無理せず楽しく、接客や調理を担う。中には、キュウリを1本切るだけの人も。寝ころんでもいい。どこかホッとする雰囲気の店は、小さな子を連れた母親たちや、サラリーマンらでにぎわう。
 長男の不登校をきっかけに弱者の立場で物事を考えてみたいと、32歳で社会福祉の専門学校に進学、精神科に長期入院した人の社会復帰を手伝い始めた。退院しても、一人でカップめんを食べている姿に胸が詰まった。
 一緒にご飯を作って食べよう。心を病む人たちを支援するユニークな場所作りは、3人の子どもを育てる母親の感性からひらめいた。20年前のことだ。さらに、一緒に作った料理を一般に提供するレストランへと発展。評判を聞きつけて北海道から沖縄まで年に2千人が訪れ、各地で同様な取り組みが広がっている。
 3年前、大きな支えだった夫の正行さんを不慮の事故で亡くした。悲しみのどん底で一番癒やされたのが「ハウス」の仲間たちの言葉だった。「心のつらさを知る人たちのもつ力を、実感しました」
 年60回の講演には仲間も同行、堂々と話す。先月出版した「生きてみようよ!」では、自信をつけた仲間たちが、体験や思いを初めて実名で記した。
 (文・鶴見知子 写真・高波淳)    


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◆20071108 入院の女性、病室で絞殺 山口・宇部 【西部】――朝日新聞

山口県宇部市西岐波の精神科と神経科を中心にした片倉病院から6日午前8時ごろ、「患者が死んでいる」と宇部署に通報があった。署員が駆けつけたところ、長期入院中の女性(53)が病室のベッドで死亡しており、7日に司法解剖したところ、死因は首を圧迫されたことによる窒息と判明。同署は殺人事件として捜査を始めた。
 調べでは、職員が6日午前7時半ごろ、朝食の時間になっても起床してこないことから女性の病室を訪ね、ベッドの布団の中で仰向けになって死亡しているのを見つけた。目立った外傷はなく、着衣の乱れもなかったという。窓は施錠され、外部からの侵入の形跡はなかったという。


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◆20071016 2園児殺害に無期判決 心神耗弱認める 滋賀の事件で大津地裁――朝日新聞

滋賀県長浜市で昨年2月、同市立神照(かみてる)幼稚園に通う武友若奈ちゃん(当時5)と佐野迅(じん)ちゃん(同)を同園に車で送る途中に刺殺したとして、殺人などの罪に問われた鄭永善(ていえいぜん)被告(35)の判決が16日、大津地裁であった。長井秀典裁判長は、無期懲役(求刑死刑)を言い渡した。判決理由で「長女が園児にいじめられていたと邪推した身勝手で冷酷な犯行。落ち度のない、いたいけな幼児2人の命を奪った結果は重大だ」と述べたが、統合失調症により善悪の判断能力が著しく低下する「心神耗弱状態」だったとして減刑した。=15面に関係記事
 鄭被告は事件前、統合失調症と診断されて長期入院しており、公判では犯行時の責任能力が最大の争点になった。弁護側は「量刑が重すぎる」と即日控訴した。
 判決は被告の殺意について、鋭利な刺し身包丁で胸部などを20回以上刺すなど確定的殺意があったと認定。そのうえで、犯行準備をしたり、事件後に逃走したりしたことから、「自己の行為による被害児童の死亡の結果を十分に認識していた」と判断した。
 次いで責任能力について検討。精神鑑定の結果について、03年以降に幻覚や妄想などが始まり、犯行前後も同様の症状が見られたことなどから、犯行時は統合失調症との鑑定結果は信用できると判断。検察側の「人格障害」「詐病」との主張を退けた。そのうえで、犯行時は統合失調症に完全に支配されていたとはいえないとして、善悪の判断能力を失う「心神喪失状態」ではなく、心神耗弱状態だったと結論づけた。
 検察側は「人格障害の可能性があり、かりに統合失調症だとしても寛解期(=症状が一時的または永続的に軽減、消失した状態)だった」とし、完全責任能力があったと主張していた。
 一方、初公判で「刺したのは砂人形。殺人ではない」と起訴事実を否認した鄭被告は、9月の被告人質問で園児2人を刺したことを認めたが、「2人は元気だ」などと供述。弁護側は心神喪失状態を主張し、無罪か少なくとも心神耗弱で刑が減軽されるとしていた。
 ◆キーワード
 <長浜園児殺害事件> 06年2月17日朝、滋賀県長浜市相撲(すまい)町の路上で、同市立神照(かみてる)幼稚園に通園途中の園児2人が刺され、倒れているのを通行人が見つけた。2人はまもなく死亡し、県警は同日、同園に通う女児の母親で中国籍の鄭永善被告を大津市内で見つけ、殺人容疑で緊急逮捕した。幼稚園は保護者が交代で園児を車で送るグループ通園制をとっており、鄭被告は事件当日、殺害された園児2人の送迎当番だった。


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◆20070525 (惜別)精神医学界の重鎮・秋元波留夫さん 精神障害者の社会復帰に尽力――朝日新聞

【あきもと・はるお 4月25日死去(肺炎)101歳 7月22日しのぶ会】
 日本の精神医療の中枢を担ってきた。
 東大医学部を卒業後、金沢大教授を経て、58年に東大教授となった。66年に東大を退職し、東京都内にある国立武蔵療養所(現、国立精神・神経センター)の所長、都立松沢病院長に就いた。教え子の一人、同センター名誉総長の高橋清久さん(69)は「わが国の精神医学の象徴的な存在でした」と悼む。
 療養所長になったころ、精神医療は「入院中心から、地域ケアへの転換」が言われるようになった。精神障害者が、まちの中で暮らすための生活指導や就労訓練に取り組んだものの、受け皿がないことや、強い偏見から、社会復帰はなかなか進まなかった。
 76年、療養所の近くに精神障害者が働く、全国初の共同作業所ができた。協力を求められた所長の秋元さんは快く応じた。アパートの4畳半2間で始まった「拠点」を守るため、療養所の職員にカンパを呼びかけた。その後、この作業所を運営する社会福祉法人の理事長と、共同作業所の全国組織「きょうされん」の顧問にもなり、亡くなるまで務めた。
 83年に医療現場を離れた後は、さらに精神障害者の社会復帰運動に力を注いだ。講演では、「精神医学の父」と言われる先輩の呉秀三・東大教授の有名な言葉を借り、「患者には『この国に生まれたるの不幸』がいまも重くのしかかっています」と、長期入院が続く精神医療の現状を批判した。
 「きょうされん」常務理事の藤井克徳さん(57)は、30年以上の交流があった。秋元さんの原動力には「入院中心の医療を変えられなかったという思いがあったのではないか」と察している。
 88歳から始めたパソコンを駆使して、年1冊以上の本を出した。亡くなる前日まで仕事への意欲を口にした。
 死後、研究に役立ててほしいと秋元さんの脳は献体された。父の生き方を見てきた4人の娘が決断した。(稲石俊章)


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◆20070509 県、障害福祉計画を策定 自立支援法に基づき 地域生活へ移行を推進 /和歌山県――朝日新聞

県は、障害者の自立と社会参加を進めるための具体的施策を盛り込んだ「県障害福祉計画」を策定した。仁坂吉伸知事が8日、定例記者会見で発表した。06年10月に施行された障害者自立支援法は、各都道府県が障害福祉計画を策定するよう定めている。
 計画では、今後5年間で、現在福祉施設に入所している障害者1480人の1割にあたる148人と、病院に入院する精神障害者523人のうち退院可能な438人について、グループホームなど地域生活に移行できるようにする。そのための方策として、空き家をグループホームなどに改修するための費用の補助や、長期入院する障害者の退院に向けた訓練を指導する病院職員を増員することなどを盛り込んだ。同法については、福祉サービスの利用者負担増などの苦情が全国的に相次いでいる。仁坂知事は「県もきめ細かく支援していくしかない」と話した。

■2008

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◆20080124 患者殺害容疑で男を書類送検 山口、同じ病院に入院 【西部】――朝日新聞

◆20080221 県財政再建、早くも狂い 1兆5349億円、08年度当初予算案 /福岡県――朝日新聞

◆20080903 認知症入院、9年で倍 8.3万人、1年以上6割 厚労省調査――朝日新聞



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◆20080124 患者殺害容疑で男を書類送検 山口、同じ病院に入院 【西部】――朝日新聞

山口県宇部市の精神科と神経科が中心の病院で昨年11月、入院患者(当時53)が死亡しているのが見つかった事件で、宇部署は23日、同じ病院に入院中の男(54)を殺人容疑で山口地検に書類送検した。男は精神疾患で長期入院中。同署は責任能力はないとみて逮捕を見送り、任意で調べていた。


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◆20080221 県財政再建、早くも狂い 1兆5349億円、08年度当初予算案 /福岡県――朝日新聞

県の08年度一般会計当初予算案が20日、発表された。総額は1兆5349億円。歳出抑制を図ったが、高齢化社会が一段と進むなか、社会保障費など必要不可欠な歳出の伸びは抑えきれず、前年度比0・1%の微増ながら、3年連続の増額予算となった。地方交付税は5年ぶりに増えたが、新たな県債発行も加わり、08年度末の県債残高は過去最高になる見込みだ。昨年、策定した「新財政構造改革プログラム」は早くも狂いが生じた形で、財政再建への厳しいかじ取りが続く。[……]
【医療】
 ■慢性肝炎対策 肝炎ウイルスによる慢性肝炎患者に対し、1人あたり約25万円を助成し、治療費負担を軽減する。
 ■在宅医療推進 末期がん患者の在宅医療を支え、最期を自宅で過ごせる仕組みを整えるため、支援センターを設置する。長期入院中の精神障害者の社会復帰なども支援する。
 ■周産期医療対策 県内に四つある総合周産期母子医療センターへの助成を拡充し、緊急時にも対応できる出産態勢を整える。助成には当直2人体制確保などの実施を義務づける。
 ■県の医療費助成制度見直し案
 【対象】
     (3歳〜小学校就学前)
      <乳幼児医療>     <母子家庭医療>    <重度障害者医療>
 現行    入院のみ        母子家庭        身体障害者
                   1人暮らし寡婦     知的障害者
 ↓                             重複障害者
 改定後   通院・入院とも     母子家庭        身体障害
                   父子家庭        知的障害
              (1人暮らし 寡婦は廃止)    重複障害
                               精神障害


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◆20080903 認知症入院、9年で倍 8.3万人、1年以上6割 厚労省調査――朝日新聞

認知症の入院患者が、96年から05年までの9年間で4万3千人から8万3千人と倍増したことが厚生労働省の調査で分かった。急速な高齢化で重度の認知症の人が増えているためだ。約6割が1年以上の長期入院で、退院後の受け皿不足による「社会的入院」が相当数いると見られる。
 厚労省は、社会的入院を解消することで、現在約35万床ある精神病床を10年間で7万床減らす計画だった。今回の調査結果を受けて、計画通り削減を進めると必要な治療を受けられない患者が出ることも考えられ、計画見直しの方針を固めた。3日開かれる厚労省の検討会で表明する。
 認知症の場合、主な症状の物忘れだけではなく、妄想や暴力、徘徊(はいかい)などの症状が重い時は入院治療が必要だ。
 重度の妄想や暴力は通常、1〜2カ月の治療で改善するとされるが、1年以上の長期入院患者は05年時点で57%、5年以上の患者も15%にのぼる。脳卒中や糖尿病などを併発して長期入院している人のほか、症状は回復しても、家庭や施設などの受け入れ先がなく、退院できない人も相当数いるとみられる。
 厚労省は来年夏までに、精神障害者の医療福祉に関する計画を策定する予定だ。在宅や施設での療養が可能な認知症患者はできる限り退院させて地域のケアに委ねる方針だが、医師が退院可能と判断しても、症状が不安定な人については老人保健施設なども受け入れに難色を示すことが予想され、「社会的入院」の解消は容易ではなさそうだ。
 認知症の高齢者の数は02年時点で149万人で、15年には推計で250万人に増える見通し。(中村靖三郎、太田啓之)
 ◇キーワード
 <精神保健医療の改革> 厚生労働省は、統合失調症や認知症などの精神医療を入院中心から地域療養中心に転換する計画を04年9月に策定。実態調査で「グループホームなど受け入れ先が整えば退院可能な精神障害者」を7万人と算出。10年間で精神病床35万床のうち7万床を削減する方針を打ち出した。だが、うつ病などの精神疾患の患者が増え、削減は進んでいない。10年以上長期入院の精神障害者は8万1千人いる。

■2009

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◆20090225 (となりの医療さん)竹川佳代子さん 統合失調症、理解して /奈良県――朝日新聞

◆20090826 (09政権選択 点検政策:10)精神障害者 届かぬ支援、入院長期化 衆院選――朝日新聞

◆20090926 認知症の長期入院が急増 足りぬ受け皿施設、実態把握も不十分――朝日新聞

◆20091118 (裁判員法廷@徳島)悲劇の背景、議論始まる 精神障害の長男殺害・遺棄 /徳島県――朝日新聞

◆20091210 認知症、退院後の居場所を 「家で暮らしたい」病院・地域が支援――朝日新聞



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◆20090225 (となりの医療さん)竹川佳代子さん 統合失調症、理解して /奈良県――朝日新聞

「私の弟が統合失調症になって入院してから、もう25年以上になります。私は35歳の時から親代わりとなって面倒をみてきました。あのころから比べると、随分と穏やかになってきています。一度自宅に外泊させてやりたいと思うのですが、近所や親類の者が白い目で見るんです。入院前は大声を出したり、おかしなことを言ったりしていたもので……。当時は外も歩けませんでした。私も退職を迎え、体力も金も、気力もなくなりました。これからどうやって弟の面倒をみたらよいのかと、悩んでしまいます――」
 ある入院患者さんのご家族が、面会に来られた時の話です。
 こうした長期入院の患者さんが、病院には多くいらっしゃいます。家族の方が病気を理解し、一緒に暮らせるように支援することが医療であり、私たち看護師の役割だと思っています。
 統合失調症という病名は最近になってよく耳にするようになりましたが、本当の病状は理解しにくいものがあります。原因ははっきりしていませんが、見えないものが見えたり、思考がまとまらず、他者との距離がうまく取れなくなり、閉じこもったり、人格が崩壊したりするなど、さまざまな症状が起こります。
 ひとむかし前では「何かにとりつかれたのだ……」と、閉鎖された病院の中で治療を受けることが多くありました。突然大きな声を出したり、ひとり笑いをしたりするので、「あの人は、何だ?」と考えるのは当然かもしれません。しかし、それも、幻聴(人の声や何かの音が聞こえてくること)であったり、妄想(現実でない出来事を感じること)であったりします。
 現在は医療の進歩とともに精神病薬の発達、精神療法、作業療法とさまざまな治療により、統合失調症の病状も安定することが多くなりました。病状が安定すると、イライラして眠れなかった人が「お薬のお陰でぐっすり眠れるようになりました」と笑顔で話すことがあります。「今日は嫌な声がしないので、外に出ても安心。アイスクリームを買いに売店に行きたい」と、買い物にも出掛けられるようになります。少しずつ、運動したり、編み物をしたり、その人がその人らしい暮らしができるようになるのです。そのためには、病気や治療への理解、環境を整えるための家族や地域の人の支えが必要です。
 誰もが安心して暮らせる社会となるように、地域社会におけるシステムづくりと、お互いを支え合う「思いやりの心」が、これからは大切になるのではないでしょうか。
 * 松籟荘病院副看護師長 88年、大阪南病院付属看護学校卒業。同病院、舞鶴医療センターを経て、98年から松籟荘病院精神科病棟の副看護師長を務める。登山が趣味。


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◆20090826 (09政権選択 点検政策:10)精神障害者 届かぬ支援、入院長期化 衆院選――朝日新聞

精神障害者が共同生活する東京都調布市のグループホーム(GH)の男性(71)は、統合失調症で病院に42年間入院していた。
 入院中のカルテには、最初の10年ほどは「退院したがっている」と医師の記述が続いたが、その後、「退院したくない」という訴えに変わっていた。
 入院中、特別に許可を得て大好きな石原裕次郎の映画「黒部の太陽」を見たことがある。「主人公たちが掘り続けたトンネルの向こうから、明かりが差し込んできた場面が今も忘れられない」と話す。長い入院生活を経て、自由な生活を取り戻した自分の人生と重ね合わせる。
 GHを運営するのは、精神障害者の社会復帰を支援する社会福祉法人「巣立ち会」。男性に退院するよう説得した理事の田尾有樹子さんは「長い間隔離されていたら、外の世界が怖くなるのは当たり前。長期入院を放置してきた行政や医療・福祉関係者の責任は重い」と話す。
 ●病院だけでは限界
 05年の調査で、統合失調症の入院患者19万5千人のうち10万1千人が5年以上の長期入院だ。この中には、訪問看護や緊急時の相談など地域のサポート環境が整えばGHやアパートなど地域で暮らせる人が相当数いるとみられる。
 金沢市の松原病院(ベッド数463)は、GHを立ち上げるなどして長期入院患者の退院を進めてきた。99年には57%だった5年以上入院患者の比率は、09年には34%にまで減った。
 松原三郎理事長によると、長期入院患者の退院後にかかる医療費は、訪問看護など手厚いサポートをしても入院時の約半分だという。松原理事長は「病院だけでは限界がある。病院と地域をつなぎ、退院促進の流れをつくるため、行政がもっとお金を投入しなければ」と指摘する。
 厚生労働省は03年度から精神障害者が地域で暮らせるよう支援する事業を始めたが、今年度予算は17億円。08年度は745人を退院させたが、長期入院患者のごく一部だ。
 東京都内のソーシャルワーカー(34)は今年度3人の患者の退院にこぎ着けた。患者との関係づくりや、受け入れ先でのサポート体制を整えるのに時間や手間がかかる。予算不足で退院支援をする人自体が少なく、受け入れるGHも足りない。地域のアパートの貸し渋りにあうことも珍しくないという。
 「病院、自治体、福祉事業者とも退院促進に積極的な所は少ない。病院とGHとの連携も不十分」と指摘する。
 ●根強い世間の偏見
 知的障害者や身体障害者は本人や家族の訴えが政治や行政を動かす力となるが、精神障害者の場合は、家族が世間の目を気にして表に出たがらないことも多い。
 ソーシャルワーカーとして精神医療・福祉の現場に携わってきた田園調布学園大の伊東秀幸教授は「地域社会には精神障害者への偏見が根強く、受け入れ施設の整備に反対する住民も多い。家族も高齢化していたり、入院前に本人とトラブルがあったりして、必ずしも退院を望まないケースも多い」と指摘する。
 厚労省は06年の障害者自立支援法でようやく、精神障害者へのサポートを身体・知的障害者への支援と同様のレベルに引き上げた。
 自立支援法については、サービス利用時に障害者に自己負担を求めるため、強い批判があるが、精神障害者の支援者からは評価する声が出ている。「巣立ち会」の田尾さんは「従来はGHや作業所の利用者が増えても自治体から出るお金は変わらず、資金面の問題で十分な退院支援ができなかった。自立支援法で利用者数に応じてお金が出るようになり、多くの人の支援ができるようになった」と話す。
 先の国会に提出された自立支援法の改正案には、関係者が無償で支援することも多い退院時の住居確保や新生活の準備に対して報酬を出すことが盛り込まれた。だが、衆院解散で改正案は廃案となり、退院促進策は宙に浮いたままだ。
 (太田啓之)
 *キーワード
 <精神障害者の長期入院> 欧米諸国は80年代半ばから精神障害者が地域で暮らせる環境づくりに力を注ぎ、精神科のベッド数を減らしている。人口千人あたりのベッド数は00年時点でイタリア0・2、米国0・3。これに対して日本は2・8。フィンランドは80年代に2年以上の長期入院患者の半減を目指し、治療プログラムの改善や、障害の程度に応じた受け入れ施設を整備した。
 厚労省は04年に、35万5千ある精神科ベッドを14年までに7万減らす目標を定めたが、認知症の入院患者も増えたため、07年で35万1千とほとんど変わっていない。


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◆20090926 認知症の長期入院が急増 足りぬ受け皿施設、実態把握も不十分――朝日新聞

 病院に長期入院する認知症の患者が急増している。退院後の受け入れ先が見つからず、病院でケアを続ける「社会的入院」も広がりつつあるが、国はその実態も把握できていない。今後の精神医療や福祉のあり方に関する厚生労働省の有識者検討会が24日、最終報告書を公表したが、認知症の入院患者を将来どの程度に抑えるかという目標値は、「現時点では実態把握が不十分」として、結論を2年間先送りした。
 認知症患者の中には、暴力や妄想の症状がひどく、入院治療が必要な人もいる。統合失調症の入院患者が減る一方で、認知症の患者数は96年は4万3千人だったが、05年には8万3千人となった。
 適切な治療をすれば、認知症の激しい症状は1〜2カ月程度で落ち着き、退院できることが多いとされる。だが、現実には1年以上の長期入院が6割近くを占め、5年以上の患者も12%いる。厚労省の研究事業調査では、認知症の専門病棟に入院している患者の約半数が退院可能だが、施設に入れなかったり家族の了解が得られなかったり、などの理由で退院できない。
 検討会の報告書では「入院治療が不要な者が入院し続けることがないよう、介護保険施設のさらなる確保が必要」とするが、特別養護老人ホームの待機者が30万人を超えるなど施設不足は深刻だ。
 東京都の精神ソーシャルワーカーによれば、一度暴力などの問題を起こした認知症入院患者は家族や施設が引き取りたがらない場合が多い。統合失調症の患者が減り、空きベッドを増やさないよう、医療の必要度の低い患者を受け入れる病院もあるという。
 医療の質でも問題を抱える。石川県立高松病院の北村立副院長によれば、認知症の入院患者の約3割は入院前の誤った投薬が症状悪化の原因という。
 日本の人口千人あたり精神科ベッド数は2・8と、イタリアの0・2、米国の0・3などと比べ先進諸国の中でも際だって高い。ケアハウスやグループホームなどの受け皿を増やし、患者が地域で暮らせるようにするのが急務だが、先進的とされる東京都でも11年度末までの地域移行目標2500人に対し、08、09年度の実績は計686人にとどまる。
 検討会のメンバー、全国自治体病院協議会の中島豊爾副会長は「このままでは将来、相当数の高齢者が精神科のベッドで亡くなることになる。文明国として恥だ」と危機意識を募らせる。(太田啓之)


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◆20091118 (裁判員法廷@徳島)悲劇の背景、議論始まる 精神障害の長男殺害・遺棄 /徳島県――朝日新聞

県内2件目となる裁判員裁判が17日、徳島地裁で始まった。選任手続きに出席した38人の候補者から裁判員6人(女性5人、男性1人)、補充裁判員3人(女性1人、男性2人)が選ばれ、審理に入った。「相談できる公的機関があったのに、被告は利用しなかった」と指摘する検察側に対し、「精神障害者を支える社会の仕組みが不十分で、被告の一手に負担がかかっていた」と主張する弁護側。裁判員は真剣な表情で聴き入り、詳しい犯行状況の説明では考え込む姿も見られた。
 ●検察側、残虐さや計画性強調 弁護側、被害者の暴力を説明
 「被告は、自分の手で処分しなければと決意した。『処分』というのは被告の言葉です」。法廷内のモニターに映ったスライドで「処分」の文字が赤色で強調された。裁判員の前に立った検察官は冒頭陳述で、藤見秀喜被告(62)が統合失調症だった長男・一(はじめ)さん(33)の殺害を決意するまでの過程を一つひとつ説明した。
 「遺体を切断すれば身元がわからない」「流れの速い鳴門海峡に遺体を捨てれば見つからない」。被告が考えたことを示しながら、残虐さや計画性を強調。裁判員は配られた資料にメモしたり、厳しい表情でモニターに見入ったりしていた。
 検察側は一さんの胴体の写真を証拠として請求していると明かした。「被告が何をしたか、その真実そのものです。イラストでは足りない。ぜひ採用いただきたい」。裁判員に頭を下げて訴えた。
 一方、弁護側は「精神障害者の家族に多大な負担がかかっている現状が事件の背景にあった」と話した。
 一さんは大阪地裁で2月、強制わいせつ致傷の罪で有罪判決を受けた。判決から約2週間後、一さんから暴力を振るわれ負傷し、警察に通報。病院に入院したが、約2カ月で退院。被告は「1年程度入院させられないか」と病院に頼んだが、「本人の同意がないと入院させられない」と断られ、結局、家に戻された。
 モニターで要旨を示しながら被告が追い詰められていく様子を語る弁護人に、うなずく裁判員、下を向いて考え込む裁判員もいた。
 ●被告日記「金がとんでいく」 医師調書「完治期待できず」
 検察側が請求している胴体の写真について、弁護人は「写真は凄惨(せいさん)です。裁判員の方にショックを与えないために反対します」と訴えた。
 双方が事件の経緯を説明した後、それぞれの主張を裏付ける証拠が出された。
 検察側は、凶器とされる工具と同種のものを提出。裁判員は一人ずつ手に持って確かめ、男性裁判員は「重いね」とつぶやいた。
 検察官は一さんの病歴を説明する前、専門的な用語を簡単な言葉で言い換える工夫をした。「心神喪失」は「精神の病気などのため、善悪を全く判断できないか、その判断に従って行動を全くコントロールできないこと」、「措置入院」は「自分や他人を傷つけるおそれが強いと判断された精神障害者を、都道府県知事の命令で強制的に入院させること」などとした。
 一さんの病歴や被告の対応を表で示した場面では、被告の日記の一部が出された。一さんの病状が悪い時は「なんでうちの家だけがこんな目にあうんやろか。普通に育ててきただけやのに、情けない」。病状が良い時は「ようやく光が見えてきた」「このまま治ってくれると大きな期待をしたい」。犯行の直前には「(経営していた自転車)店の中はぐちゃぐちゃの状態。病院からの請求で金がとんでいく」と書かれていたという。
 検察側が、被告の供述調書のうち遺体の手足を切断する様子を読み上げる場面では、女性裁判員の一人がつらそうな表情を浮かべ、たびたび下を向いて目をつぶった。
 一方、弁護側は一さんが最後に入院していた病院の担当医の供述調書を読み上げた。「重度の統合失調症で薬を服用しても完治は期待できなかった」「一般患者の3倍も強い鎮静剤を使っていた」。担当医は「今の医療では一さんのような方を長期入院させることはできない。お父さんは将来を悲観して悩んでいたと思うが、殺してばらばらにする行為は到底許されない」と指摘したという。
 被告は、終始うつむいたままだった。どんな話や証拠品が出されても、表情を変えなかった。 18日は被告への質問と被告の妻への証人尋問がある。


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◆20091210 認知症、退院後の居場所を 「家で暮らしたい」病院・地域が支援――朝日新聞

退院後の受け入れ先が見つからず、「社会的入院」を続ける認知症の患者が増えている。高齢化が進む中、認知症の人は年々増え続けており、厚生労働省の調査(2005年)で、入院患者は約8万3千人いる。病院と地域が連携を取りながら、住み慣れた家で暮らせるよう支援する動きも出てきた。(堀内京子)
 「あれ、お父さん、今日は天使みたいな顔しとるねー」
 石川県北部の70代の夫婦宅で、訪問看護に訪れた石川県かほく市の県立高松病院の瀬戸幸子看護師が話しかけた。妻は軽度の認知症で、難病のため足が不自由だ。妻を介護する夫も認知症で、週に1度、2人とも訪問看護を受けている。
 瀬戸さんは雑談をしながら、かかりつけ医が処方した薬の内容や身体の状態、精神状態を確認していく。以前は夫が妻を介護しながら暴力を振るったり、大量の酒を飲んだりしたこともあったため、さりげなく様子を見る。
 変化が見られた場合は、病院に診察の予約を入れて、医師に状況を説明する。この日は、夫婦の介護保険サービスの利用計画の作成などを担当しているケアマネジャーも時間を合わせて訪れ、瀬戸さんと情報を共有した。
 夫婦の家から車で約1時間のところに暮らす娘は「『1日でも長く一緒に』という両親の願いにこたえられてありがたい」と話す。症状が進んだ場合に備えて、どのような介護プランが必要かも話し合っているという。
 精神科病院である高松病院は、17年前に認知症病棟を設置し、24時間態勢で患者を受け入れている。「高齢者は入院すると、格段に気力と体力が落ちる。診断を早くして治療方針を決めて、早く帰すことが大事」との方針で、可能な限り入院期間を短くする工夫をしている。
 訪問看護もその取り組みの一つだ。日常生活の状況を細かく把握し、医療と介護が連携を取りながら、認知症の人も自宅で暮らせるよう支援している。北村立副院長を中心に医師や看護師、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士がチームを組み、週に1度ミーティングをして絶えず状況を把握している。
 認知症患者の退院をスムーズに進めるための工夫もある。認知症の人は、入院前に家族や地域とトラブルになっているケースもあり、帰宅を希望する人の退院が遅れる一因にもなっている。
 退院前に、退院後の生活を支援する精神保健福祉士が、ケアマネや家族などと話し合いの場を持ち、病状や対応の仕方などをきちんと説明する。高松病院と連携する石川県津幡町の地域包括支援センターは、「近所の人に対して『何かあれば、病院が必ず受け入れてくれるから』と説明できるので、退院する人にとっては通行手形になっている」と話す。
 糖尿病や心臓病など、認知症以外の症状のある人が一般病院での入院や治療を拒まれないよう、高松病院の連携病院も紹介する。日頃から、近隣で使える施設を把握し、空き状況もみている。
 こうした取り組みにより、この3年間で、高松病院に入院した認知症患者の35%は2カ月程度で自宅に戻った。20%は4カ月程度で老人保健施設に移ることができた。
 北村副院長は「認知症の人の場合、医療と介護の連携がポイント。医療の側も、デイサービスなど使える資源を知っていることが必要だ」と指摘する。
 ○増える長期入院、「5年以上」も15%
 認知症の患者は暴力など激しい症状で周りが気づき、救急病院や精神科病院に運ばれることがある。また骨折や高血圧、心臓病などの病気で一般病院に入院しても、認知症の症状が出て精神科病院に転院させられるケースもある。
 こうした認知症患者が長期に入院するケースが増えている。認知症の人たちが暮らせるケアハウスや、グループホームなどが不足し、退院後の受け皿がないことも理由の一つだ。
 精神科の入院患者の中で最も多い統合失調症の人の退院は進んでいる。厚労省の患者調査によると、入院患者数は99年から05年にかけて、1・6万人減少している。一方で、認知症の入院患者はこの間、1・5万人増えた。
 一般の病院に入院している人も含めた認知症の入院患者全体の入院期間を見ると、約6割が1年以上の長期入院で、15%は5年以上入院していた。
 9月に報告書をまとめた、今後の精神医療や福祉のあり方に関する厚生労働省の有識者検討会も、「居住先や支援が整えば、退院可能な認知症の精神病床の入院患者が6割を超える」と指摘している。
 国は、入院治療が中心だった認知症の施策を見直し、地域社会の中で暮らせるよう方針を転換させている。住宅地の中の小規模グループホームなど地域密着型サービスを増やし、認知症サポート医やかかりつけ医の認知症対応力向上の研修などを急ぐ。
 認知症の高齢者は、02年に149万人だったのが、15年には250万人に増えると推計されている。
 しかし、国は治療が必要な認知症の患者がどれぐらいいるか実態を把握していない。将来の入院患者数などの目標値の設定は、11年度までかかる予定だ。
*短期化、病院の意志が重要*
 厚生労働省の精神医療や福祉に関する有識者検討会のメンバーで、全国自治体病院協議会の中島豊爾副会長(岡山県精神科医療センター理事長)の話 高松病院の取り組みは、病院が「短期間で患者を家に帰す」という強い意志を持てば実現できるという見本になる。最初の受診直後から病院の精神保健福祉士などもかかわって、早い段階から「帰宅したらどのような生活が可能か」をチームで検討する点がユニークだ。
 公立病院だからできることとも言える。民間の精神科病院ではより効率が求められるため、情熱を持った医師の確保やチームでの検討会に時間を割くことなどは難しい面もある。しかし、「患者を帰して、そこに病院が出て行く」ことが患者のためにもなり、結局は病院の評価を高めることになるだろう。

■2010

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◆20100224 (どうなる医療2010 診療報酬改定:中)認知症・精神医療は−−社会復帰、地域で精神 長期入院――朝日新聞

◆20100310 イタリアの精神医療を紹介 日本の改革訴え ジャーナリスト・大熊さん /群馬県――朝日新聞



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◆20100224 (どうなる医療2010 診療報酬改定:中)認知症・精神医療は−−社会復帰、地域で精神 長期入院――朝日新聞

退院後の受け入れ先がなく「社会的入院」を続ける精神病床の患者が、地域で暮らせるように後押しする仕組みが4月の診療報酬改定で盛り込まれた。増え続ける認知症患者を支えるため、かかりつけ医と専門病院が連携すると評価されることになった。(及川綾子)
 統合失調症や認知症の患者の社会的入院をなくそうと、国は約31万床ある精神病床を2015年までに7万床減らすことを目指している。
 4月の診療報酬改定で、病気のなり始めや症状が重い「急性期」の報酬を手厚くする一方で、5年を超える長期入院患者を1年間に5%以上減らした医療機関への報酬を倍増する。
 福島県郡山市で、精神病患者の社会復帰に力を入れるあさかホスピタル(571床)の佐久間啓院長は「住宅や社会参加の機会、仕事といった条件を整えずに、ただ『長期入院がよくない』と言うのはおかしい。退院を促す前に、地域の受け皿を整えるべきだ」と指摘する。
 同院は03年、長期入院患者の退院を促すプログラムを導入した。まず、薬の飲み方や人付き合いといった退院に必要な知識を提供する。さらに少人数のグループに分かれて、退院への具体的なイメージを持ってもらう。
 退院に向けて、医師や精神保健福祉士、訪問看護師、デイケアのスタッフらチームを作り、地域で生活できるように支援する。これまで42人が退院した。地域に戻った後は、訪問看護、デイケアなどで支える。
 就労支援にも力を入れている。作業療法士の資格を持つ専従の「ジョブアドバイザー」が、仕事探しから、就労後も相談にのる。あさかホスピタルと連携するNPO法人「アイ・キャン」は、グループホームの運営、パン工房や病院での就労訓練を手がける。
 あさかホスピタルに入院していた統合失調症の男性(33)は、今は病院職員として働いている。「体調管理の方法も教わった。急に退院して働けるものではなく段取りが必要だ」と話す。
 退院の準備から、患者が地域で暮らしていくには、医師や看護師以外の専門職の支援が欠かせない。しかし、採算が取れず、ボランティア的な要素が強い。佐久間院長は「退院に結びつけるには、多くのスタッフがかかわっている。こうした働きに対してきちんと診療報酬で評価してほしい」と話す。
 ●かかりつけ医と連携
 認知症の高齢者は05年の205万人から、35年には2・2倍の445万人に増えると推計される。入院患者も05年時点で約8万3千人おり、入院が長期化する傾向にある。
 今回の改定で、認知症の人を地域で支える「認知症疾患医療センター」などの専門病院が、診断と治療方針を決め、かかりつけ医がその後の管理を担うと、新たに診療報酬が出るようになった。かかりつけ医は症状の悪化や定期的な評価が必要な際に紹介すると報酬が加算される。
 認知症疾患医療センターに指定されている仙台市立病院は、かかりつけ医から紹介を受けた患者の初診前に、医療相談室の精神保健福祉士や保健師が白内障や糖尿病といった既往歴、家族構成、介護保険の利用状況などの患者情報を把握してから医師に引き継ぐ。認知症以外の疾患を抱えている高齢者の診察やその後のケアを考えていく上で、重要な仕事だという。
 治療方針が決まると相談室は、地域包括支援センターや福祉事務所と連絡を取り、患者や家族に地域で生活するための情報を提供する。
 同院精神科顧問の粟田主一医師は「患者は一般的に大病院志向だが、それではパンクしてしまう。今回の改定で連携は進むだろうが、在宅が促進されるかといえば、これだけでは厳しい。センターそのものが不足している。仙台市でも三つは必要だ」と語る。
 国は150カ所のセンター設置を目指すが、66カ所にとどまる。実施主体の都道府県・政令指定市は財政難から新たな設置には二の足を踏む。病院にとっても補助金だけで専従の精神保健福祉士の人件費などを賄うのは厳しい。仙台市立病院のように初診前の情報収集には診療報酬はつかないため、市はセンターの運営事業費689万円(国が半額補助)に加えて、09年度の一般会計予算で2億5200万円を繰り入れている。
 仙台市内の医療機関への調査では、認知症の患者を診療する際に「原因診断や治療方法が難しい」「適切な薬物療法が困難」と回答している。こうした問題に対応できる専門的な病院の整備が、かかりつけ医側からも求められている。
 センターの支援が無ければ、本来なら地域で暮らせる患者が社会的入院を余儀なくされる可能性もある。粟田医師は「専門病院がバックアップしてくれるという安心感があれば、かかりつけ医も安心して治療できる」という。
 市内の開業医をかかりつけにする認知症の女性(93)と同居する長女(64)は「心臓も弱り血圧も高い母を日頃見てくれ、いざという時は専門の先生を紹介してもらえるので安心。頼りになる存在がそばにいる。情報をしっかりと共有し合ってくれることが大事」と話す。


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◆20100310 イタリアの精神医療を紹介 日本の改革訴え ジャーナリスト・大熊さん /群馬県――朝日新聞

精神病患者を地域で受け入れようと訴える、ジャーナリストの大熊一夫さんが7日、太田市福祉会館で講演し、精神医療分野で改革したイタリアの事例を紹介、患者が精神科病院に長期入院するケースが目立つ日本の現状を変えようと訴えた。県精神神経科診療所協会と日本精神神経科診療所協会の主催。
 大熊さんによれば、イタリアでは1978年、精神科病院を廃絶する法律が制定され、精神科病院の新設や既存の精神科病院に新たに入院させることを禁止。20年後には精神科病院が全廃され、治療は「地域精神保健サービス」に移行した。「精神科病院では個性、自律などの基本的な人間性が損なわれる」などの理由からだ。
 イタリアでは国内を細かく区分けし、それぞれの「地方保健公社」が予防、診療、リハビリを担う。総合病院などの精神病床数も減り、全国で約1万床。約35万床ある日本と比べ段違いに少ない。
 日本の精神保健福祉法では、精神科医などが治療の開始を判断できるが、イタリアでは本人の意思に基づいて治療されていると大熊さんは話す。
 以前は精神病患者を隔離して収容したベネチアのサン・クレメンテ島が五つ星ホテルになったこと、精神科病院の入院患者が病院外の女性に思いを寄せる歌が生まれ、その歌手が著名な音楽祭で優勝したことなども紹介、「イタリアは本当に変わった」と述べた。
 さらに「地域精神保健サービスは精神科病院と違って敷居が低く、本人の人生へのダメージが少ない」とし、日本でも地域精神保健サービスの導入が必要だと主張した。
 講演後、参加者が「イタリアの精神病患者が働く状況はどうか」と質問。大熊さんは「精神病患者は最低賃金が守られる労働者として働いている」と答えた。
 大熊さんは元朝日新聞記者。1970年にアルコール依存症を装って精神科病院に入院し、「ルポ・精神病院」を記した。


*作成:三野 宏治
UP:20100812 REV:20100819, 0821, 20110711, 14, 0806, 20130804
施設/脱施設  ◇アメリカの脱入院化精神障害/精神医療  ◇クラブハウスモデル
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