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脱施設 2003

施設/脱施設


■文献等
■ニュース など

◆20030104  障害者を地域へ 共生社会実現に向け、基本計画に「脱施設」明示(解説)――読売新聞

◆20030110 「普通の生活」難題いっぱい ノーマライゼーション(声)【大阪】――朝日新聞

◆20030111 AJU自立の家山田昭義さん(何をみますか’03知事選4)/愛知――朝日新聞

◆20030112 厚労省、障害者支援2事業で補助金打ち切り 拡充方針一転、来年度から――毎日新聞

◆20030112 障害者の支援訴え 19日、仙台で市民集会 /宮城――毎日新聞

◆20030119 田島理事長が辞意を表明 県福祉事業団 /宮城――朝日新聞

◆20030120 厚労省天下り施設に29億円 「補助金きっちり」に猛批判−−障害者団体施設解体――毎日新聞

◆20030126 広がる「逆デイサービス」 特養から民家へ(リポート) /千葉――朝日新聞

◆20030128 「脱施設」にも逆行する方針(声) 【大阪】――朝日新聞

◆20030206 知事「ないものはない」(変わるか予算) /群馬 ――朝日新聞

◆20030217 施設の必要な障害者もいる(声)――朝日新聞

◆20030222 県人事 副知事に田島良昭氏、千葉教育長後任に白石総務部長が内定 /宮城――毎日新聞

◆20030227 新障害者プランとは?(みんなのニュースランド)――朝日新聞

◆20030228 [届け県民の声]知事選に寄せて/1 障害者福祉 「ずっと施設を出たかった」/鳥取――毎日新聞

◆20030305 生活の場、障害者の意思で(4月スタート「支援費制度」:下)――朝日新聞

◆20030320 国立コロニー、「大規模入所」廃止へ 地域移行へ具体策検討−−検討委が中間報告――毎日新聞

◆20030401 知的障害者を地域へ 支援費制度きょうスタート 国の計画に施策伴わず――読売新聞

◆20030504 精神科の「社会的入院」患者、退院させ社会復帰支援 厚労省初試み――朝日新聞

◆20030515 障害者支援金の横領容疑で元会長を逮捕へ 宮城の施設支援団体――朝日新聞

◆20030516 「気持ち踏みにじられた」 宮城・障害者支援金横領事件 /宮城 ――朝日新聞

◆20030524 30年以上の「隔離」に謝罪 群馬・重度知的障害者の「国立コロニー」――毎日新聞

◆20030521 青森県平舘村「かもめ苑」 障害者、都内に受け皿なく(脱施設へ)――朝日新聞

◆20030521 入所施設で暮らす知的障害者、半数が「脱施設」を希望 厚労省調査――朝日新聞

◆20030604 元会長、400万円流用の疑いで再逮捕へ 障害者支援金横領/宮城――朝日新聞

◆20030610 障害者支援 4月時点での事業実施、伸び率鈍化−−補助金打ち切り余波か――毎日新聞

◆20030614 [錦町日記]言葉が生む誤解 /宮城――毎日新聞

◆20030618 再出発 ルポ・長野の知的障害者施設「西駒郷」(脱施設へ)――朝日新聞

◆20030621 寄付利用、見直しへ 県福祉事業団「脱施設」 /宮城 ――朝日新聞

◆20030621 [ニュース展望]国立コロニー改革=社会部・須山勉――毎日新聞

◆20030624 障害者の生活支援「地域生活推進員」、自治体に設置へ/厚生労働省――読売新聞

◆20030627 [論点]生命と暮らし守る居住福祉 早川和男(寄稿)――読売新聞

◆20030701 [湖国の人たち]オピニオン’03 滋賀医科大教授、瀧川薫さん /滋賀――毎日新聞

◆20030702 親にも変化 ルポ・長野の知的障害者施設「西駒郷」(脱施設へ)――朝日新聞

◆20030712 [偽りの家]鹿児島・みひかり園虐待事件/6 施設は幸せですか――毎日新聞

◆20030712 知的障害者施設「国立コロニーのぞみの園」が法人化 入所者の地域移行促進――毎日新聞

◆20030712 群馬の国立コロニー、08年3月までに入所者3〜4割を地域へ−−厚労省検討委――毎日新聞

◆20030723 そのとき隣人は… 知的障害者と地域、どう付き合う?(脱施設へ)――朝日新聞

◆20030725 知的障害者の地域生活移行を支援するマニュアル 東京都が作成――読売新聞

◆20030726 知的障害者 施設隔離から地域で生活へ 実現に支援環境の充実欠かせぬ(解説)――読売新聞

◆20030802 知的障害者援護施設・西駒郷、5年間で地域に250人移行案/長野――朝日新聞

◆20030813 小田島栄一さん 知的障害者が脱施設を訴え(ぴーぷる)――朝日新聞

◆20030818 隔離の時代は終わった コロニー縮小(社説)――朝日新聞

◆20030827 知的障害者グループホーム、実情は… 負担ずしり(脱施設へ)――朝日新聞

◆20030828 宮島渡さん 生活を取り戻す地域ケア(ここが聞きたい) /長野――朝日新聞

◆20030830 知的障害者地域移行に県独自の支援策を 県障害者施策推進協=宮城――読売新聞

◆20030920 障害者20人が来月退所、脱施設に向け一歩−−大和町「船形コロニー」 */宮城――毎日新聞

◆20030902  長崎で福祉トップセミナー 身体、知的、精神3障害へ給付対象拡大でアピール――読売新聞

◆20031003 分け隔てない社会つくろう 「チャレンジド」(声) 【大阪】――朝日新聞

◆20031010 「脱施設」へ制度改革を 定員削減など提案相次ぐ 障害者の自立探るシンポ――読売新聞

◆20031015 コロニー雲仙の25年:上 重い障害、支えられ街へ(脱施設へ)――朝日新聞

◆20031016 コロニー雲仙の25年:下 愛する人と暮らしたい(脱施設へ)――朝日新聞

◆20031020 訪ねて触れる、施設の生活 のぞみの園、催しで交流 高崎 /群馬――朝日新聞

◆20031022 福祉 障害者と地域壁厚く(これから…岩手の悩み:5) /岩手――朝日新聞

◆20031126 障害者支援費の行方 膨らむ介助、足りぬ予算 ――朝日新聞

◆20031208 「安易な施設入所策、人権侵害」 知的障害者が都をあす提訴――朝日新聞

◆20031229 障害者運営のたこ焼き店開いた 岩谷勝さん(ひとメモリー)/大阪 ――朝日新聞

◆20031229 脱施設へ本気の改革を 予算不足の障害者支援費制度――朝日新聞


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◆20030104  障害者を地域へ 共生社会実現に向け、基本計画に「脱施設」明示(解説)――読売新聞

四月から実施される「障害者基本計画」は、障害者の生活の場を地域に移す方針を明示した。日本の障害者施策の歴史的転換が期待される。(社会保障部 小山孝)
 政府が昨年末に決めた「障害者基本計画」は、来年度から十年間の障害者施策について、理念や方向性の大枠を示したもの。基本計画に基づき、数値目標を含む五年分の具体的施策を定めた「障害者プラン」も、同時に発表された。
 基本計画では、まず、障害の有無にかかわらず、誰もがお互いに尊重し支え合う「共生社会」の実現が必要だと明記。そのうえで、障害者の生活の場を施設から地域に移すことを強く打ち出した。さらに、地域で自立した生活を送るため、授産施設などでの活動を経て、最終的には普通に働けるような環境作りを目指すとした。
 注目されるのは、入所施設の建設抑制に初めて踏み込んだ点だ。基本計画では入所施設を「真に必要なものに限定する」としたほか、入所施設整備の数値目標設定も取りやめた。さらに、「障害者は施設」という社会の認識を改めるなどの表現で、「脱施設」の方向を明確にした。
 日本の障害者福祉は従来、「施設偏重」の状況だ。知的障害者の場合、約四十六万人のうち、約十三万人が入所施設で暮らしている。精神障害者では、退院後の受け皿不足で精神病院に入院し続けている「社会的入院」患者は約七万二千人とされ、その四分の一以上が十年以上の入院を続けている。施設で暮らす障害者の多くは、地域での生活を希望している。
 プランでは、これらの障害者のうち、精神病院の社会的入院患者約七万二千人について、すべてを退院させる方針を示した。他の障害者については、入所施設以外のサービスを増やす中で、順次、地域生活に移行することになる。
 知的障害者の親で作る全日本手をつなぐ育成会の松友了常務理事は「当然ではあるが、障害者施策の歴史的な転換」と評価する。
 だが、地域で安心して暮らすための社会資源はどうか。
 これまでは、予算の大半が施設運営に投入されてきたため、地域での生活に必要な福祉サービスは圧倒的に足りないのが現状だ。「きょうされん」(旧・共同作業所全国連絡会)の調査によると、全市町村の14%で、地域生活のための施設や事業者が一つもない。
 プランでは、五年後の目標値として、グループホーム・福祉ホームは一万五千人分増設して約三万五千人分、通所授産施設は一万人分増やして約七万三千人分に。精神障害者が退院後に生活訓練をする施設は七百人分増で約六千七百人。ホームヘルパーは一万五千人増の六万人だ。
 財政難の中で、一定の数値を積み上げた点は評価できるが、障害者のニーズにこたえた数値といえるだろうか。藤井克徳・きょうされん常務理事は「プランの目標値がこの程度では、地域移行は不可能だ。結局、施設を求める声が強まるだけではないか」と批判する。
 基本計画でうたわれた「共生社会」の実現をかけ声だけで終わらせないためには、プランで示された以上に地域福祉サービスを進めていかなければならない

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◆20030110 「普通の生活」難題いっぱい ノーマライゼーション(声)【大阪】――朝日新聞

主婦 湯口明美(京都府宇治市 67歳)
 障害者の暮らしを施設入所中心から地域中心へと改める政府の「脱施設」の計画が決まりました。37歳の娘の通う授産施設でも、行政から説明がありました。普通の生活を地域で――それはとても優しい言葉で、夢のようにうれしい言葉ですが、とても難しく、重い現実が横たわります。
 娘は重度障害者です。親が生きている間は、できるだけ普通の子どもとして生活させてやりたいと、通所授産施設へ通わせています。でも、私たちが老いるにつれ、親亡き後の子どものついのすみかとして入所施設が重要なものであると考えるようになりました。
 政府は「脱施設」の受け皿の一つとしてグループホームの設置を掲げています。グループホームに住んでも、必要とあればすぐに入所施設に移れるよう、施設の傍らに設置し、施設の保護のもと、仲間と共に生き、仕事が出来る家庭的なホームにしてほしいと思います。生活感覚の乏しい子どもたちには、熟練した指導員がぜひ必要なのです。モデルケースとなるようなグループホームをこの地にぜひ一つ、と願わずにいられません。

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◆20030111  AJU自立の家山田昭義さん(何をみますか’03知事選4)/愛知――朝日新聞

――山田さんの呼びかけがきっかけとなり、年齢や性別、障害の有無に関係なくだれでも使いやすい「ユニバーサルデザイン」が、中部国際空港のターミナルビルで採用されました。
 空港会社の平野幸久社長は車いすの私と話す時、かがんで、同じ目線で話します。なかなかできることではない。トップの姿勢がユニバーサルデザインにつながったと思う。
 ――愛知万博でもバリアフリーの部会長を務めているそうですね。
 東京五輪後のパラリンピックで、先進国の選手らが仕事を持っていることを知り、驚きました。大阪万博では障害のある入場者に特別の配慮をした。大きなイベントは社会の考え方を変えるきっかけになります。愛知万博に日本中、世界中から障害者が訪れて楽しめるようにできれば、21世紀の福祉につながると思います。そこまではなかなか理解してもらえませんが。
 ――この4年で県の福祉は変わりましたか。
 空港や万博といった県内の大事業では、大胆に発想の転換がされてきたと思います。トップの意向が働いたのでしょうが、日常の福祉ではリーダーシップが発揮されず、官僚に丸投げされるため、少しも改善が進んでいません。
 ――具体的にはどういうことですか。
 日本は戦後、箱モノ福祉を進めてきた。愛知県は豊かな財政力に支えられ、その優等生だった。しかし、施設に入りたくて入っている障害者は極めて少ないはずです。
 いまや、国は施設福祉から在宅福祉に方向転換しました。でも、県の考え方は変わっていない。宮城県では、県福祉事業団の知的障害者施設が解体され、485人の入所者が地域で暮らせるように支援体制を整えることになった。宮城県が投げたボールを愛知県はどう受け止めるのか、注目したい。
 ――万博、空港の2大事業に予算が注がれ、福祉予算が削られているという批判があります。
 厳しい財政下で削られているのは福祉だけではない。金をかけなくてもできることがある。ソフト面です。例えば障害者の授産所では相変わらず、はしの袋詰めのような仕事しかない。手先がうまく動かない人には向かず、工賃もわずか。僕らはパソコンでソフトウエアの開発やデータ入力をする授産所を作った。年収140万円にもなります。
 ――地震などの災害時に不安はありませんか。
 95年の阪神大震災の教訓が、00年の東海豪雨では生かされなかった。近くの障害者施設に避難できず、学校に避難しなければならなかった障害者もいた。どこで、だれが、どんな支援を必要としているのか知るというソフトな対応で克服できることは多いはずです。
 4年前、山田さんが中部国際空港会社にかけた電話が、ユニバーサルデザイン採用の始まりだった。「AJU自立の家」がコンサルタント契約を結び、仕事づくりにもつなげた。
 政府は昨年末、新障害者基本計画などで「脱施設」をより明確にした。それに先立つ11月、宮城県の福祉事業団は知的障害者施設の「解体」を宣言した。
 愛知県には県立の心身障害者コロニーが春日井市にあり、知的障害のある約500人が暮らしている。解体の検討は始まっていない。
 「障害者が社会で暮らすための制度は整いつつあるが、必要な情報が届けられていない」「障害は様々。一人ひとりと向き合えば、やれることはたくさんある」。経験と実践に裏打ちされた山田さんの言葉は重い。
 (小渋晴子)
    *
 やまだ・あきよし 社会福祉法人「AJU自立の家」(名古屋市昭和区)常務理事。60歳。高校1年生の夏に、海に飛び込んでけいついを骨折。病院で10年、施設で3年過ごした。障害者インターナショナル日本会議議長。

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◆20030112 厚労省、障害者支援2事業で補助金打ち切り 拡充方針一転、来年度から――毎日新聞

◇自治体は反発

 障害者が地域で生活するのを支援する二つの事業の補助金について、厚生労働省が先月、来年度から打ち切る決定をしていたことが分かった。同省は来年度予算の概算要求では拡充の方針を打ち出しており、突然の方針転換に都道府県や市町村は「寝耳に水」と猛反発。撤回を求める要望が相次いでいる。二つの事業は障害者自身が必要なサービスを選んで受ける支援費制度(4月開始予定)でも中核的な役割を果たすと期待されていたもので、同制度の運用にも影響しそうだ。

 厚労省が補助金打ち切りを決めたのは、96年度から始まった「市町村障害者生活支援事業」「障害児(者)地域療育等支援事業」。地域で暮らす身体・知的障害者(児)に対し、「生活」は福祉サービスの利用援助や生活情報の提供などを行い、「療育」はコーディネーターなどと呼ばれる専門職員らが相談などを受けつける。現在は国が事業費の2分の1を補助している。

 4月から支援費制度では障害者が必要なサービスを選ぶため、専門職員らのアドバイスは障害者の社会参加や自立を促すうえで一層重要になるとされる。厚労省も来年度には2事業を拡充する方針を示し、各自治体もそれに基づき予算編成を進めていた。

 ところが、同省は先月中旬、突然、補助金を打ち切り、地方交付税で措置することを決め、同27日に正式通知した。同省は通知で「自治体が弾力的に事業展開できるようにした」と説明しているが、地方交付税は補助金と違って使途が限られていないうえ、来年度には減額も予想されている。このため、補助金打ち切りによって事業を実施しなかったり、途中で中止する自治体も出てくる恐れがある。

 厚労省に撤回を求める要望書を提出した京都府は「つい最近まで事業推進を呼びかけながら、突然打ち切るのは承服しがたい。補助を前提に来年度予算を策定中の市町村もあり、大きな混乱が生じている」と話す。

 厚労省障害保健福祉部企画課は「年末まで議論を続けていたため、打ち切りを都道府県側に示す機会が取れなかった。2事業とも都道府県や市町村の創意工夫で事業展開できるよう、引き続き指導していきたい」と釈明している。【須山勉】

 ◇削れる金、ほかに−−旧厚生省障害福祉課長を務めた田中耕太郎・山口県立大教授(社会保障論)の話

 障害者の脱施設の流れができつつあるターニングポイントともいえる時期なのに厚労省の決定は予算の数合わせの中での事業切り捨てとしか思えない。二つの事業は施設を造るよりずっと効率のよい施策で、在宅障害者支援の要だ。国の予算は圧倒的に入所施設へ振り向けられており、削減できるカネは他にあるはずだ。

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◆20030112 障害者の支援訴え 19日、仙台で市民集会 /宮城――毎日新聞

障害者が地域で生活するための支援事業の継続を訴えようと、仙台市青葉区のフォレスト仙台で19日、市民集会「コーディネーター事業のこれからを考える」(県知的障害者福祉協会など主催)が開かれる。国は昨年12月、障害者の相談や生活支援などを行う「障害児(者)地域医療等支援事業費」と「市町村障害者生活支援事業費」を、国の補助金から地方交付税に移し、地方自治体の一般財源化することに閣議決定。これに対し、同協会は「地方自治体は財政難で苦しんでおり、一般財源化は事業費削減につながりかねない。障害者の『脱施設』が叫ばれる中、時代への逆行だ」と反発し、緊急アピールなどを採択の構えだ。

 現在は障害者の地域生活をサポートするため、各地域に障害者支援センターなどが設置され、専従のコーディネーターが本人や家族、関係者の相談に乗りながら、学校や通所施設と支援の組み立てなどを調整。県内には7カ所のセンター、10人のコーディネーターがいる。

 同集会事務局の佐藤正行さん(石巻地域支援センター副センター長)は「来年度からは障害者が自らサービスを選び、契約する支援費制度が導入され、ますますコーディネーターの存在が重要となるのに、今回の閣議決定は納得がいかない」と批判。また、その支援費制度でも、ホームヘルプサービスの時間数などへの上限設定問題が浮上しており、メンバーらは「これでは障害者に『地域に帰るな』と言ってるようなもの」と指摘する。

 集会には、宮城県のほか、岩手、福島、滋賀各県の支援センター関係者も参加の予定。国の補助金としての事業継続や、一般財源化しても事業費削減をしないよう求めて、今後の行動計画を決定する。【野原大輔】

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◆20030119 田島理事長が辞意を表明 県福祉事業団 /宮城――朝日新聞

県福祉事業団の田島良昭理事長が、3月末の任期終了にあわせて辞任することを明らかにした。
 田島理事長は、知的障害者施設「船形コロニー」(大和町)の入所者を10年までに地域に戻し、地域での生活を支援する「施設解体宣言」を昨年11月に宣言したことで話題になっていた。
 田島理事長は、「知的障害者を地域に戻す流れをつくり、事業団職員の意識を改革するなど、やることはやった」と話し、「今後は実行に移す時期。政治色が濃いと周囲に思われている私が理事長であるせいで、福祉の問題が政治の問題にすり替えられるのは避けたかった」と辞任の理由を説明した。
 田島理事長は浅野史郎知事の選挙参謀としても知られる。
 96年に同事業団の副理事長に就任。99年4月から理事長として2期を務めていた。長崎県の「コロニー雲仙」の理事長にも就いている。

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◆20030120 厚労省天下り施設に29億円 「補助金きっちり」に猛批判−−障害者団体施設解体

◇支援費は「上限」なのに

 地域で生活する障害者を支援する事業の補助金を打ち切ることを決めた厚生労働省が、役員に同省OBが天下っている知的障害者入所施設「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)には、03年度予算案でほぼ例年並みの約29億円の補助金を計上したことが分かった。国立コロニーは役職員の高給などが問題視されており、障害者団体は「支援費制度ではホームヘルプサービスの利用時間に『上限』を設けようとしているのに、天下り先への補助金に手をつけないのは納得できない」と批判している。【須山勉】

 特殊法人の国立コロニーは国の整理合理化計画に基づき、今年10月に独立行政法人化される。同省はこれまで、各入所施設と同様に支給していた措置費(約16億円)に上乗せして、年約30億円の補助金を国立コロニーに出してきた。措置費が支援費に変わる03年度予算案にも、支援費に上乗せして補助金と独法化後の運営交付金分計28億5000万円を計上した。

 国立コロニーの理事長は歴代、旧厚生省OBが天下っており、現在の年収は1570万円、2人いる理事(現在は1人が同省OB)は1380万円。同省からの出向者もいる職員の給与も高く、同省が一般の社会福祉法人施設の財務状況(99年度)を比較した資料によると、1人当たりの人件費は1170万円で、社会福祉法人施設の523万円の約2倍。

 運営面も(1)全国の施設で入所者に地域で暮らしてもらう取り組みが行われている中で、国立コロニー入所者の地域移行率は低い(2)入所者の入浴は原則週3回の日中に限るなど、サービスが画一化している−−などが指摘されている。

 独法化に向けた検討委員会の中で、複数の委員が「民間の取り組みの方が進んでおり、国立コロニーに期待するところはない」との意見を出し、コロニー側も「取り組みが遅れているのは事実」と認めている。

 厚労省障害保健福祉部は「(予算計上は)施設運営に必要と判断した。コロニーの今後のあり方については、検討委員会の意見を聞いていきたい」と話している。

 同省は昨年末に「地域で生活する障害者支援の要」とされるコーディネーター事業などへの補助金打ち切りを決めたほか、4月スタートの障害者支援費制度でも、ホームヘルプサービスの利用時間をもとに補助金の交付基準を設けようとしており、障害者団体が「上限につながりかねない」と同省に抗議している。

 ◇天下り先の確保だ−−知的障害者の親などで組織する「全日本手をつなぐ育成会」の松友了常務理事の話

 腹が立つ話だ。街から離れた場所に知的障害者を集め、集団生活させるような施設の役割は終わっている。厚労省が国立コロニーを存続させ続けてきたのは、天下り先確保としか思えない。完全民営化するなどし、浮いた国費を地域福祉に回すべきだ。

 ◇地域での処遇示せ−−厚労省の「国立コロニー独立行政法人化検討委員会」の座長を務める岡田喜篤・川崎医療福祉大学副学長の話

 国立コロニーなど国公立施設は、民間より職員の配置や給与が優遇されているが、入所している障害者へのサービスは必ずしも評価されていない。ただ、日本では13万〜14万人の知的障害者が入所施設にいる一方、地域で暮らすためのグループホームなどは1万5000人分しかない。施設の外に行き場がないわけで、厚労省は知的障害者を地域でどう処遇すべきか、早急にビジョンを示さなければいけない時期に来ている。

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◆20030126 広がる「逆デイサービス」 特養から民家へ(リポート) /千葉――朝日新聞

県内の特別養護老人ホームで「逆デイサービス」を取り入れる動きが、少しずつ広がっている。近くの民家を借りて、高齢者が家庭的な雰囲気を味わったり、地域の人たちと触れ合ったりする。痴呆(ちほう)症状の改善などが期待できるという。高齢者が生き生きと暮らす環境づくりを目指して、施設自体が脱施設に乗り出した。(木村恵子)
 
 通常の「デイサービス」は、在宅で暮らす高齢者が、日帰りで施設に出かけて介護を受ける。逆に施設の入所者が、地域に出かけていくのを「逆デイサービス」という。県が「03年アクションプラン」で推進し、新年度予算に補助金を盛り込むことを検討している。
 八千代市の特別養護老人ホーム「グリーンヒル」(津川康二施設長)は、今月から逆デイサービスを始めた。体は元気だが、問題行動がある痴呆の高齢者が対象だ。
 このホームの痴呆棟では30人が暮らす。徘徊(はいかい)する人も多いため、ドアの開閉に暗証番号を用いて、勝手に出入りできないよう管理している。
 しかし閉鎖的な環境は、痴呆を悪化させると言われる。「入所者をできるだけ生き生きと暮らせるようにしたい」と考える津川施設長は、入所者の家族から「空き家を利用してほしい」との申し出があったのを機会に、逆デイサービスを取り入れることにした。
 今月17日、逆デイサービスに同行した。早朝、健康チェックをした7人がバスに乗り込み、約20分離れた市街地の民家に向かった。付き添いのスタッフは4人。不安そうな顔で「寒い」「触らないで」と文句を言う高齢者もいる。
 しかし民家に着いて、こたつに入り、みかんを食べていると、少しずつ落ち着いてきた。「ここにのれんを掛けようか」「お勝手が広くていいね」と会話が弾んだ。1人は、スタッフと一緒に昼ご飯の食材を買い出しに行った。
 スタッフの山田千代さん(38)は「環境が変わると混乱するかと思っていたが、とても落ち着いている。家族や友達が遊びに来るようになれば、もっと家庭的な雰囲気になる」と期待する。
 2月からは、この民家を通常のデイサービスにも利用する予定だ。
 県内では、ほかにも数施設で逆デイサービスを始めている。ネックは資金だ。民家を借りたり、スタッフを増員したりすると新たな負担が発生する。
 津川施設長は「工夫をすればまだできることはある。施設で介護するだけでなく、高齢者が自立できるように手助けをすることが大切だ」と話している。
 
 ○県、「プラン」策定し推進
 逆デイサービスは、グリーンヒルのほか、茂原市の「長生共楽園」や富津市の「つつじ苑」などが取り入れている。さらに数施設が検討中。全国的には宮城や長野が先進県だ。
 県は、地域介護を進めるため、「03年アクションプラン」で「健康福祉千葉方式」を打ち出した。痴呆の高齢者が共同で暮らすグループホームの拡充や、在宅介護に取り組むNPOの助成などに力を入れる。
 施設にも、少人数で、できるだけ個人のニーズに沿った、家庭的な介護をしようという動きがある。一方で、特別養護老人ホームの入所希望の待機者も、昨年11月現在で1万2千人を超えている。

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◆20030128 「脱施設」にも逆行する方針(声) 【大阪】――朝日新聞

自立生活センター・ピア・カウンセラー 南光龍平(大阪市 51歳)
 自立生活センターで、同じ障害者の立場から、一人でも多くの障害のある仲間(ピア)が地域で自立生活が送れるように支援する仕事をしています。4月からの「支援費制度」については、サービスの質も量も今より良くなるものと信じ、自分自身の生活のことも含めて期待していました。
 しかし、制度開始の直前になり、自立生活に欠かせないホームヘルパーの利用時間などに上限が設けられそうなことが分かりました。このままでは障害者は地域で生活できなくなり、施設でしか生きていけなくなります。政府の目指す「脱施設」にも反するやり方ではないでしょうか。
 昨年6月、15年以上生活した施設からやっと出て地域で自立した仲間がいます。その仲間に再び施設へ戻れと言わなければならないのでしょうか。この春から、グループホームでの自立を目指して頑張っている仲間もいます。それもあきらめなければならないのでしょうか。私自身の生活もどうなるのか、不安な気持ちで過ごす、暗い2003年になってしまいました。

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◆20030206  知事「ないものはない」(変わるか予算) /群馬 ――朝日新聞

逃げ場はない。「我々が矢面に」と部長は言う
 
 ○自民 企業誘致「借金でも」 30億円増額のませる
 5日午後、県庁内で記者会見した自民党県連の矢口昇幹事長は満足そうに語った。「財政事情の厳しい中、大きな収穫はあった」
 県連は「積極性が足りない」と、主に企業誘致の関連予算の増額を主張。税収や雇用を回復するには、企業に進出してもらうのが近道だ。
 直前の復活折衝で、県連は予算案に47億円の上積みを求めていた。最後の最後で、小寺弘之知事の回答は「予算案に30億円上積み」。県連の「粘り勝ち」とも見えた。
 同党の長老県議はこう話す。「公共事業は必要なものは全部やる。『金がないからやらない』ではだめだ。『借金してでもやる』という気持ちが必要だ」
 
 ○市町村 県補助金廃止に不安
 5日、前橋市役所。「いよいよ厳しい状況が見えてくる」と、高橋健・財政課長が言った。
 県予算案を詳細に見ると、歳入部分で土地開発基金が取り崩しされていた。金額は10億円。本来土地売買のために使われるもので、一般会計に繰り入れることの少ない基金だ。高橋課長は「財源を必死に模索した結果でないか」と、推測する。
 「財源を生み出すための窮余の策」と、県財政課も認める。同基金の残高は約110億円。うち4億円弱を現金で所有し残りは県有地。土地を近く売却し、取り崩した10億円の残り6億円を調達する算段という。
 市町村への補助金見直し、廃止なども見逃せない。同市が事前に調べたところでは、公民館の建設補助金見直しや、青少年指導員の制度廃止など5項目以上あった。
 高橋課長は「税収減は市も同じ。県の見直し分を市が補うことは出来ない。市民生活と直結しているものも多く、市民にどう納得してもらうかが悩むところ」と話す。
 
 ○県部長 20%カットに衝撃 「各部一律」念押しも
 県庁に激震が走ったのは昨年10月。03年度の財源不足が見込まれ、小寺知事は「要求・査定方式」から転換し、「一般事業費の20%カット」を念頭に、主体的に予算を組むよう各部長に指示した。
 「聞いた時はショックだった」と、ある部長は言う。福祉や弱者切り捨てにつながる、20%一律カットはなじまない、との声もあった。
 一方で、「あの部は90%、この局は100%の予算がついたということのないように、一律方針を守り通していただきたい」と、念を押す幹部もいた。
 知事の答えははっきりしていたという。「当然といったら当然だが、ないものはない」
 方式を改めたのは、予算要求の「応援団」となる県議の声を、最小限に抑える狙いもあった。
 部長の1人は「これまで正直、財政課に運命を任せてきた。今回は本当に真剣にやった。前は議員に頼まれて、予算要求して『ダメでした』と言うこともできた。今回は我々が矢面に立つことになる」と話す。
 別の部長は「予算で対前年度増というのは県の財政状況から考えて、ありえない」といい、今後も各部で考える方式が続いていくと見ている。
 
 ○福祉施設 「将来、予算が削られる不安」 「水土舎」施設長・金谷透さん
 この日、富岡市。知的障害者授産施設「セルプ水土舎」の金谷透施設長(55)は、県予算を心配していた。
 金谷さんは20%カットと、国が補助金を来年度から一般財源に回す点を挙げてこう言う。
 「全体の予算も縮小の方向で、一般財源に回されると、今後福祉が削られる可能性もあるのではないか」
 金谷さんは国の障害者政策については「福祉先進国の欧米と同様に『脱施設』の大きな流れとなるだろう」と評価する。
 それだけに「地域福祉の充実が課題」とも。入所施設からの「脱施設」を進めるには、障害者の就労支援や地域生活支援の受け皿が不可欠という。
   ×   ×
 例えば、公共事業。03年度予算案では10%削減となった。その一方で予定価格の事前公表や、入札を監視する第三者機関の設置は宿題のまま。都道府県レベルで、第三者機関はすでに36導入されている。
 県や市町村の予算は私たちの生活に直結。来年度、何が変わるか。

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◆20030217  施設の必要な障害者もいる(声)――朝日新聞

 会社員 吉川貴志(神奈川県鎌倉市 60歳)
 我が家には何万人に1人の遺伝子突然変異による知的障害を持つ27歳の息子がいる。食事、排泄(はいせつ)などすべてに介護が必要で、言葉はもちろん無く、24時間目が離せない。幸い高潔な福祉家の経営されるハートのある施設に入所でき、現在は帰宅期間のみの介護となっている。本人もここが気に入り、幸せに暮らしている。もしこの施設に入ることが出来なかったら、家庭崩壊の事態も有り得た。
 ところが、今年4月より脱施設の方向で支援費制度がスタートする。障害者は地域で生活することが最大の幸せ、というノーマライゼーションなる福祉の基本方針に準じたもの。
 問題は、知的障害者には色々なレベル、タイプがおり、一概に彼らの幸せを決められないという点だ。知的障害者への一般的認識はテレビドラマなどに見るかなり高いレベルのもの。しかし息子のようにとてもドラマにはならない、地域での生活が困難な重度障害者も多い。一律に脱施設というのは必ずしも彼らの幸せにつながらない。行政に、もっと知的障害者の実態を勉強し、選択肢の多い福祉施策の推進を望みたい。

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◆20030222 県人事 副知事に田島良昭氏、千葉教育長後任に白石総務部長が内定 /宮城――毎日新聞

◇副知事に田島(福祉事業団理事長)氏

 県は21日、松木伸一郎副知事(65)が退任し、後任に田島良昭・県福祉事業団理事長(58)を充てる人事を固めた。また千葉真弘教育長も退任し、後任には白石晃総務部長を充てる方針。
 田島氏は浅野史郎知事が旧厚生省職員だった時代からの仲で、長崎県内の社会福祉法人の理事長から96年、知事の意向で同事業団の副理事長に就任。99年4月からは理事長に就任し、2期目。
 昨年11月に、知的障害者の入所施設「船形コロニー」の2010年までの解体など脱施設化の方針を示し、同12月には今年3月末での任期切れで、理事長を辞任する考えを表明していた。【飯山太郎】

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◆20030227  新障害者プランとは?(みんなのニュースランド)――朝日新聞

Q.新障害者プランとは?
 A.地域生活の移行を促進、「脱施設」実現には課題
 
 事故や病気で体が不自由になったり、学校や職場のストレスなどから心の調子を崩したり。こうした人が身近にいませんか。
 人生は、いつ何が起きるかわかりません。厚生労働省によると、国民の20人に1人、約600万人が障害をもっています。内訳は、体に障害がある人が約352万人、知的障害者は約46万人、精神障害者は約204万人です。役所が把握し認めた人だけなので、実際にはもっと多いとみられます。
 政府は昨年末、障害者施策の新たな基本方針を示す「新障害者基本計画」(03〜12年度)と、前半5年間の数値目標を書いた「新障害者プラン」を決めました。最大の特徴は入所(院)中心から「脱施設」を打ち出したことです。
   *
 現在の障害者プラン(96〜02年度)は、障害のある人も地域で暮らせるようにする「ノーマライゼーション」を掲げながら、実際は入所施設を増やしてきました。
 折れ線グラフを見てください。
 70年代から北欧や米英を中心に「脱施設」の波が起こりました。スウェーデンでは、地域で住むための「グループホーム」や日中を過ごす「デイサービス」、ホームヘルプなどのサービスを整え、施設で暮らす人はもうほとんどいません。こうした流れに逆行するように、日本は施設をつくり続けてきた特異な国です。
 入所施設は、福祉サービスが何もない時代に、「親亡き後」を心配する家族の切実な願いによってつくられてきました。いまも入所待機者がいるとの主張もありますが、それは地域で支える体制の貧しさのあらわれでもあります。
 46万人いる知的障害者のうち、施設で約13万人が暮らしています。円グラフのように半数が10年以上で、子ども時代から30年暮らしている人もいます。厚労省研究班の調査では、いったん知的障害者施設に入所して、地域に出られた人は、全体のわずか1%です。
 施設から出るためには、在宅サービスを増やさなくてはいけないのに、入所施設に、予算全体の7割を使い続けてきたからです。
 作業所などの全国組織「きょうされん」の調べでは、グループホームが一つもない市町村が7割。厚労省の調査でも、ホームヘルプを実施していない市町村は、身体障害者向けで3割、知的障害者向けで7割に達しています。
 新基本計画は「本人の意向を尊重し、入所(院)者の地域生活への移行を促進する」、新プランでは「入所施設は真に必要なものに限定する」として、脱施設の方針を示しました。精神障害者については初めて、10年で約7万2千人の社会復帰目標を出しました。
 実現には、大胆な目標値と予算増が必要ですが、「新プランの内容では焼け石に水」と、関係者に落胆が広がっています。
   *
 例えば、住まいとなるグループホーム・福祉ホームの上積みは、5年間で1万5千人です。
 日本障害者協議会の藤井克徳常務理事は「全国の市町村数(約3千)を考えると、各市町村で1年にたった1人。他の目標値も、脱施設には無意味に近い水準」と目標の低さを嘆きます。
 障害があっても、まちでふつうに暮らす。多くの国が実現し、本来当たり前のことが、日本では一部を除いていつ実現できるか、分かりません。あなたのまちはどうですか。(学芸部・生井久美子)
 
 ●ニュース丸も苦しんだ
 ニュース丸も骨折とねんざで、2度、松葉づえの世話になりました。若い頃だったので、相当な速度で歩きましたが、駅の階段ではスピードが落ちました。それで電車を逃したことも。バリアフリーも進められていますが、障害者が自由に出歩くには、まだまだなのでしょうね。

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◆20030228 [届け県民の声]知事選に寄せて/1 障害者福祉 「ずっと施設を出たかった」/鳥取――毎日新聞

鳥取市美萩野2の住宅団地にある1軒の民家。知的障害者授産施設「県立白兎はまなす園」=同市伏野=を出た39〜48歳の男性4人が昨年10月から、民家を借りたこのグループホームで共同生活をしている。「ここには自由がある」。利用者の向原慎二さん(40)は、ほかの3人と夕食を囲みながらつぶやいた。

 4人は、当番を決めて朝食を作ったり、掃除やごみ出しを分担する。自分のことは自分でしながら、老人ホームの清掃の仕事を終えて帰宅すれば、個室でそれぞれ思い思いの自由な時間を過ごす。施設にはあった消灯時間も、ここにはない。向原さんは誰にも邪魔されずに、趣味のプラモデル作りに励んでいる。

 向原さんは7年間「はまなす園」で暮らしていた。定員70人の施設では、1部屋3〜4人。自由とはほど遠い暮らしだった。「ずっと(施設を)出たいと思っていた」。
 
 ■  ■

 障害者が施設を出て、地域の中でごく当たり前の生活をする。全国的な「脱施設」の流れから、県は取り残されていた。グループホームの設置数は昨年4月1日時点ではわずか5カ所で、全国都道府県の中で最下位だった。昨年中に6カ所増えて計11カ所となったものの、全国レベルにはほど遠い。

 一昨年、「はまなす園」を運営する県厚生事業団が、入所者に対して聞き取りをした。「施設を出て生活をしてみたいか」「これから先も施設で暮らす方がいいか」と聞いたが、半数近い33人が「施設を出たい」と答えた。

 この結果に、はまなす園の深田哲士次長は「70人という家族なんてあり得ず、集団生活が際限なく続くこと自体不自然だった。施設を出て当たり前の生活をしたいという望みは、抱いて当然だ」と理解を示す。

 一方で「脱施設」が進まなかったことに、「県内は全国と比べ施設整備が進んでいた側面があった。それを福祉が進んでいると誤解し、関係者は本人の声を聞くことがなかった」と反省する。

 障害者福祉は、行政がサービスを決定していたこれまでの措置制度を改め、利用者本人がサービスを選択・契約する支援費制度が4月から始まる。県もこの時流に乗り遅れまいと、はまなす園で年内にさらに5カ所のグループホームの設置を進めると同時に、園の入所定員を50人に減らす。

 しかし、「脱施設」はまだ始まったばかりで、サービスの選択肢の幅が広がったとはいえない。地域での支援態勢づくりや重度障害者の生活支援をどうするのか、など課題は山積している。

  ■  ■

 向原さんは、昨年暮れ、グループホームに移ったのを機に、東京へ初めての1人旅に出掛けた。「自分で考えてやりたい」と、1人で時刻表やガイドブックを見てプランを立てた。2泊3日で山手線を乗り継ぐなどして浅草、皇居などを見学した。自己責任が伴う旅は、自立に向けた第一歩となった。

 向原さんの姿に感化されて、一緒に暮らす山添浩治さん(42)も「ぼくもお金をためて旅行がしたい」と新たな夢を抱き始めた。地域に解き放たれて、自分らしく生きようとする自己決定の輪は確実に広がっている。 (つづく)
   ×   ×
 統一地方選の知事選告示(3月27日)まで1カ月を切った。無投票の公算もある中、県政が抱える課題の中で暮らす県民の声を届ける。

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◆20030305  生活の場、障害者の意思で(4月スタート「支援費制度」:下)――朝日新聞

「どこでだれと暮らしたいか」。人生の大事な選択について、入所施設で生活する約13万人の知的障害者は、これまでほとんど尋ねられてきませんでした。それが4月から始まる障害者支援費制度では本人の選択に基づく契約制度に変わり、入所の意思を確認することが必要になります。初めてのことに戸惑いながら、本人の意思を聞こうと動き始めた現場を訪ねました。(生井久美子)
 
 ○ほかの暮らし、ビデオで紹介 自分の考え明確に示す
 2月14日、横浜市にある社会福祉法人白根会の体育館で、40人の入所者が身を乗り出すようにしてビデオの画面に見入った。知的障害者が援助を受けながら暮らすグループホームの様子が映し出されていた。
 一軒家で5人がおしゃべりしながら夕食をとる。個室にはテレビ。ピンクのカーテンが映ると、「きれいねぇ」と声が上がった。「全員個室だからカーテンも選べるよ」と職員が説明する。施設では和室8畳に4人がふとんを並べる。
 選択するためには、施設や自宅以外にどんな暮らしがあるのかなど具体的な情報を提供することが必要、と上映会を開いた。グループホームで生活するタダシさん(62)=仮名=とアイさん(47)=同=も招いた。「施設は9時消灯だけど、いまは自由」とアイさん。入所者からは「なぜ施設を出る気になったの」「お風呂に1人で入れないけれど」などの質問が出た。
 昨年11月、同会は新制度への移行を前に、81人全員に「どこで暮らしたいのか」を聞き始めた。設立40年で初の試みだ。自分の気持ちをうまく表現できない人や言葉を話せない人もいる。相手の気持ちを敏感に感じ、聞く人や尋ね方によって答えが変わることもある。
 職員の中里誠さん(55)たちは、担当の職員だと「施設を出たい」と言いにくいだろうと別の職員が聞いたり、リラックスしている時を選んだりと、知恵を絞った。
 「知的障害者は選ぶ能力がないと思われてきた。わからないと言えば、周囲が先回りしてよかれと思うことをし、職員も親も本人も『施設がいい、ここしかない』と思い込んできた」
 昨年末の調査では意思表示をした人が29人、不明確が15人、聞き取りできずは37人だった。
 ビデオ会の後改めて尋ねると、「わからない」と繰り返していた人たちが、「タダシさんみたいな家」「アイさんの部屋」と答え、理由も説明できるようになった。
 その変化に職員たちが驚いた。具体的なイメージを持つことができれば、自分の意思をきちんと示すことができるのだと再認識した。「どこで暮らしたいか」と聞いてわからない人には、「夜どこにふとんを敷いて寝る?」と尋ねるなど、さらに工夫を重ねる。
 中里さんは「相手の気持ちを本当に知りたいと思うことから、様々な工夫が生まれる。まず、職員の意識を変えることが必要だ」と話す。
 
 ○一軒家を借りて、生活実体験 「地域で」希望者が増加
 「これ、おかしいんちゃうか。制約が多い施設で暮らしたいなんて」
 昨年9月、三重県名張市にある名張育成園の職員上杉修吾さん(37)は、入所者の聞き取り調査結果を見てつぶやいた。
 56人のうち17人が施設での生活を希望した。地域で暮らすは26人、不明確が13人だった。
 10代から30年以上園で暮らしている人が多い。「親の気持ちも考えてあきらめているか、集団で自由がない施設生活で選ぶ力がそがれてきたためではないか」。上杉さんらは、まず地域での暮らしを体験してもらうことにした。
 体験用に借りた一軒家で、1月から施設希望と不明確の29人が4人ずつに分かれて職員と6泊した。日中は園で作業や趣味の活動をし、午後5時に帰る。
 「今日、何食べる?」
 「すき焼き!」
 みんなで夕食のメニューを決めてスーパーで買い物をし、作った。カラオケにも出かけた。
 加藤佐知子さん(51)は「白菜切った」と体験をうれしそうに話す。ほかの体験者も「1人部屋がよかったわ」「風呂に1人でゆっくり入れた」と語る。体験で施設希望者のうち、8人が地域での暮らしを希望するようになった。
 だが、上杉さんは「酷なことをしたのではないか」と悩む。現在、希望をかなえるだけの受け皿が地域にはない。新たにグループホームをつくろうと計画しているが、国の設置目標数が少ないため、国や地方自治体から補助金が出るかどうか見通しが立たない。
 体験後も施設を出たくて荷物をリュックに詰め、玄関に立つ重度の人がいる。同園の市川智恵子社会生活支援室長(49)は「意思を聞いたのに、こたえられないと、また無力感を感じさせてしまう」と心配する。
 
 ●顕在化する脱施設、受け皿確保が課題
 現在、約46万人の知的障害者のうち、約13万人が施設で暮らす。半数を超える人が10年以上だ。入るときに本人の意思が十分に確認されていないことが多く、「映画に行こうといわれて、着いたところが施設だった」という人もいる。
 入所者への人権侵害事件を担当し、福祉施設のオンブズマンとして利用者の相談に乗っている大石剛一郎弁護士(43)は「家族の思いなどがあるにせよ、広い意味ではだまされた人が多い。自治体も本人の意思を確認すべきなのに、あいまいにしてきた。新制度になれば、本人がわかる形で施設以外の選択肢を示す説明責任が施設側に生じる」と指摘する。
 新制度では、すべての施設に名張育成園のような試みが求められる。入退の選択だけでなく、施設は入所者の同意を得て個別支援計画を作り、地域で暮らすことを希望すれば必要な支援を行わなければならない。
 本人の意思が尊重されるようになれば、脱施設の思いは顕在化するようになる。しかし、それを支える地域サービスは圧倒的に不足している。
 03年度から5年間の新障害者プランでは脱施設を掲げたものの、グループホームの新設目標は5年間で約7千人分。障害者団体や研究者などからは、少なすぎるとの批判が出ている。「地域で暮らしたいのに、契約して施設で生活せざるを得ない」という矛盾が各地で起きるのは間違いない。
 これまで埋もれてきた知的障害者の意思を尊重する制度ができたことで、国や自治体、社会はそれにどうこたえるのかを問われることになる。
 
 ◇キーワード
 <障害者支援費制度と意思> 自治体がサービス内容を決める現行の措置制度から、障害者がサービス事業者を選ぶなど自己決定を重視する制度になる。知的障害者の施設入所についても、本人の意思に基づいて施設と契約を結ぶことになる。

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◆20030320 国立コロニー、「大規模入所」廃止へ 地域移行へ具体策検討−−検討委が中間報告――毎日新聞

厚生労働省の「国立コロニー独立行政法人化検討委員会」(座長・岡田喜篤川崎医療福祉大副学長)は19日、国が管理する唯一の重度知的障害者入所施設「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)の511人の入所者を、段階的に地域のグループホームなどへ移すべきだとの中間意見をまとめた。障害があっても街で暮らすというノーマライゼーションの理念に基づき、国立コロニーの大規模入所機能を事実上廃止すべきだとの内容で、各地の同種施設に大きな影響を与えそうだ。

 中間意見は、多くの入所者が一生を過ごしている国立コロニーの役割を「知的障害者福祉行政の今日的な潮流とミスマッチ」と否定し、「どのような重度の知的障害者であっても、地域での生活を可能とする支援」をすべきだと明確に位置付けた。

 具体案として今後新しい入所者は受け入れず、3〜5年以内に現在の入所者の半分に当たる250人程度を地域に移行する計画を挙げる一方、入所者の家族が不安を持たないよう配慮した支援をすべきだとも求めた。

 国立コロニーは国の整理合理化計画に基づき、10月に独立行政法人化するが、同省は中間意見に沿った改革を進める方針。岡田座長は「大規模入所施設の役割が終わりつつあるんだ、障害者も一般の人と同じ地域で暮らすべきなんだというシグナルが出せた。地域移行の具体策を示したうえで、7月までに厚労省に最終報告したい」と話している。

 国立コロニーは15歳以上の重度知的障害者の大規模入所施設として、71年に高崎市の山中に開設された。理事長と理事は歴代、旧厚生省OBが天下っている。【須山勉】

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◆20030401  知的障害者を地域へ 支援費制度きょうスタート 国の計画に施策伴わず――読売新聞

本人の希望尊重し“脱施設”
 身体・知的障害者の福祉の仕組みが、今月から「支援費制度」に変わる。障害を持つ人が、施設ではなく自宅で暮らせるように、地域で支えることが目標だ。一部の知的障害者施設では、すでに入所者の「地域移行」を実践している。その現状と課題を探った。(安田武晴)
 ●個室で自由に
 宮城県大郷町(おおさとちょう)の知的障害者グループホーム「おおさとホーム」。木造二階建ての一軒家で、男性四人が暮らす。以前は、隣接の大和町(たいわちょう)にある施設「船形コロニー」などの入所者だった。
 鈴木今朝治(けさじ)さん(52)は、ここへ来て約五年。近くにある競艇の場外舟券売り場で休日を過ごすのが楽しみだ。「無駄遣いしないように、二、三千円だけ財布に入れて出掛ける」と笑顔を見せる。昨年八月から暮らしている佐藤良則さん(22)は、「休みの日は、ゆっくり寝ていられる」と話す。
 四人とも、クリーニング店や段ボール箱組み立て工場で働く。それぞれ、給料から毎月、家賃や食費、光熱費など約四万円を払う。朝晩の食事の時は居間に集まるが、それ以外は個室で自由に過ごす。四人とも、「施設には戻りたくない」と口をそろえる。
 ●普通の姿
 船形コロニーを運営する宮城県福祉事業団は九五年度から、地域移行に取り組んでいる。大和町など県内六市町村にグループホーム二十か所を整備。計八十六人が、四―七人に分かれ暮らしている。おおさとホームは第一号のホームで、九五年四月に開設した。いきなりホームで生活するのが難しい人は、自活訓練用のホームで一年程度、生活実習を積むこともできる。
 地域移行をより積極的に進めるため、事業団は昨年十一月、船形コロニーの“解体”を宣言した。二〇一〇年までに四百八十五人の入所者を全員、地域に移すという。田島良昭理事長は、「施設で、本人の希望と違った生活を強いるのは間違っている。自分の家で自由に暮らすのが、人間として普通の姿」と力を込める。
 事業団は、重度障害者の地域生活のために、医療ケア付きのグループホームやデイサービスなどを、公的な制度として作るよう国や県に要望。財源確保のため、在宅サービス分野を介護保険に組み入れることも提案している。
 ●3点セット
 長野県も今年度から、県立知的障害者施設「西駒郷(にしこまごう)」の入所者の地域移行に取り組む。五百人の定員を、五―十年で百六十―百九十人に減らす計画で、今年度は約七千万円をかけて、自活訓練事業やグループホームの整備を進める。
 同県では、施設から出た人の生活支援について、県が責任を持ち、家族や保護者に負担をかけないことを明言。また、有識者や、すでに地域で暮らしている障害者らによるオンブズマン組織を作り、地域移行の進ちょく状況を調べる。外部の目で評価、批判を受けながら地域生活の質を高めることが目的だ。
 同県の金井範夫・前社会部長は、「多くの人が施設を出たいと望んでいる。地域でその人らしい生活が送れるよう、出来る限り支援する」と話している。
 また、地域生活支援予算として、前年度比三割アップの約十二億四千三百万円を計上。グループホームなどの「住居」、デイサービスなど「日中活動の場」、ホームヘルパーなどの「支援機能」の“三点セット”を全県で拡充する。
 ◆親の不安解消する制度必要
 各地で、地域移行の取り組みが広がる中、国も、昨年末に策定した「新障害者基本計画」で、地域生活重視の方針を出した。だが多くの障害者が、「施策が伴っていない」と批判する。
 例えば、知的障害者のグループホーム。今後五年間で約七千人分増やす計画だが、八人の知的障害者が昨年八月、国に対して行った提言では、「十六万人分が必要」としている。施設を出たい人だけでなく、親元で暮らす人たちの中にも、自立生活を望む人が多いことを考えての積算だ。
 グループホームは、支援費制度で在宅サービスのひとつに位置づけられている。約十三万人が施設で暮らしていることを考えると、国の数値目標は、あまりにも少ないと言わざるを得ない。
 市町村や、障害者の親の意識も変革を求められている。支援費制度のもとで市町村は、サービス基盤の整備や利用者へのきめ細かい対応が不可欠だ。だが、認識不足を指摘する声は多い。都内のある施設関係者は、自治体の福祉担当職員から、「運良く施設に入れた人を、わざわざ地域に出す必要があるのか」と言われ驚いたと話す。
 一方、地域移行に反対する親の説得に苦労する施設も多い。どの施設も、「親亡き後も面倒を見てもらえる」という親の安心のために入所した人が大半だ。花園大学社会福祉学部の三田優子・専任講師は、「ほとんどの施設で、人間らしい自由な生活は保障されず、ひどい所では人権侵害もある。施設が二十四時間安心できる場所というのは幻想」と言い切る。だが、子どもを施設から出したがらない親は多い。
 地域移行に積極的な東京都中野区の施設「愛成学園」の片山泰伸施設長は、「地域で安心して暮らせるためのサービスと、人生設計を一緒に考えてくれる専門性の高い相談窓口が必要」と指摘。「市町村が、これらを本気で整備しない限り、親の不安は解消されない」と話す。
 ◆定員の段階的縮小を 群馬の入所施設 厚労省委が中間報告
 重度知的障害者の大規模入所施設「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)について、厚生労働省の検討委員会は、入所定員(五百五十人)を段階的に縮小すべきだとする中間報告をまとめた。新たな入所者を受け入れず、三―五年間で、入所者(約五百人)の半数程度を、地域のグループホームなどへ移す。
 障害があっても、地域で自立して暮らすというノーマライゼーションの考え方に基づく判断。検討委員会では七月までに、地域移行の具体的な受け皿づくりや、個々の入所者に応じた支援計画などについて話し合い、最終報告をまとめる。
 同コロニーは、国の整理合理化計画に従い、今年十月に独立行政法人化されることになっており、検討委員会で法人化後のあり方について話し合っている。
 アメリカや北欧では、知的障害者の入所施設を徐々に減らしてきたが、日本は反対に増やし続けている。現在、約46万人の知的障害者のうち約13万人が施設で暮らしており、その7割以上は、在所期間が5年以上。中には30年以上という人もいる。一方、地域移行を実現した割合は、年間1―2%にとどまっている。
    
 ◇要語事典
 〈支援費制度〉
 障害者が、必要なサービスを自分で決め、事業者と契約してサービスを受ける仕組み。費用の大半は、行政が「支援費」として負担する。
 対象は、ホームヘルプやデイサービス、ショートステイなどの在宅サービスと、更生施設や授産施設、身体障害者療護施設などの施設サービスに分かれる。サービスを利用するには、市町村の窓口で申請し、受給者証を受ける。
 行政主導でサービスの内容や量を決めていた従来の「措置制度」と違い、「利用者本位」を強く打ち出している。だが、サービスの量が絶対的に不足しており、希望通りにサービスを受けられる人は少ないのが現状だ。
    
 〈知的障害者グループホーム〉
 民家やアパートなどで、少人数で生活する場。個室が原則で、家賃や光熱費などは各自で払う。国の補助制度で運営するホームは、全国に約三千か所。同じような暮らしの場には、都道府県などが独自に補助する「生活寮」「生活ホーム」がある。

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◆20030504  精神科の「社会的入院」患者、退院させ社会復帰支援 厚労省初試み――朝日新聞

精神科の専門病院に「社会的入院」中の患者を退院させて、医師や看護師、ソーシャルワーカーらが地域で支援する初の試みを厚生労働省の研究班が近く始める。今年度は国立精神・神経センター国府台病院(千葉県市川市)の患者約40人を対象にする。全国で7万人とも言われる社会的入院の解消に向けた小さな一歩だが、厚労省は全国に広げたい考えだ。
 病状が落ち着いて入院の必要がないのに社会復帰の受け皿がなく、退院できない社会的入院は精神医療の大きな課題。米国では70年代から「包括型地域生活支援プログラム」(ACT=アクト)という、「脱施設化」を目指す活動が始まり、各国に広がっている。
 研究班の試みはこれを日本に導入しようという計画。同病院や国立精神保健研究所の精神科医、看護師、作業療法士、臨床心理士、就労カウンセラーら医療、福祉の専門職10人でチームを構成。24時間態勢で退院した患者の生活を支援する。
 ふだんは生活上の様々な相談や職探しなどの福祉的な援助を行い、病状が悪化した際には速やかに医師が往診する――といったように、医療と福祉の垣根を超えて素早く対応できるのが特徴だ。
 対象は、自傷他害や家族への暴力などで頻繁に入退院を繰り返しているような患者。本人の同意を得たうえで毎月5人ずつ支援する。年内に約40人を想定している。
 研究班長で国府台病院の塚田和美・第一病棟部長は「バラバラに活動していた保健、医療、福祉の専門職が連携して障害者の生活支援にあたるところにACTの意味がある。社会的入院を一挙に解消できるとは思っていないが、普及のきっかけにしたい」と話す。

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◆20030515  障害者支援金の横領容疑で元会長を逮捕へ 宮城の施設支援団体――朝日新聞

宮城県大和町の知的障害者施設「宮城県船形コロニー」の支援団体「船形コロニー育成会」の元会長が同会の資金を流用していた疑いが強まり、宮城県警は業務上横領の疑いで元会長を逮捕する方針を固めた。同会では、入所者が施設を出て地域で暮らすために家族らが提供した資金など二千数百万円が使途不明になっており、県警は元会長がその一部を流用したとみて解明を進める。
 同コロニーをめぐっては、運営する県福祉事業団が昨年11月に「解体」を宣言、入所者を地域に戻す全国初の大規模な地域移行として注目されている。育成会は、入所者やその家族ら約千人で作る任意団体で、入所者の貯金の利息などを集め、障害者の自立支援などに使っている。
 育成会の内部調査などによると、使途不明金は97年〜01年度の各年度で見つかった。同会の会計は、入所者の脱施設を促す基金会計のほか、家族同士の親交などに充てる一般会計、入所者のために使われる共済会計に分かれるが、流用はすべての会計で見つかった。同会の口座から元会長の個人口座に金が振り込まれていたり、帳簿に支出の記載があるものの商品を買った形跡がなかったりしているという。
 調査に対して、元会長は「個人の名義の方が品物が安く買えると思った」と自分の口座に金を振り込んだことは認めたが、「(入所者のための)家電製品は購入した。領収書は紛失したので再発行を依頼している」などと流用を否定。その後、昨年12月に辞職届を育成会に提出している。
 同コロニーの入所者は約500人で、大半は重度の知的障害者。

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◆20030516  「気持ち踏みにじられた」 宮城・障害者支援金横領事件 /宮城 ――朝日新聞

福祉にかかわる人間が横領したのは、障害者を支えるべきお金。その逮捕容疑に、知的障害者を施設に預けている家族は怒り、嘆いた。15日、県警に横領容疑で逮捕された宮園道則容疑者(65)は、施設を支援する団体「船形コロニー育成会」の会長だ。育成会では、家族や有志から集めた資金2千数百万円の行方がわからなくなっている。
 
 「障害者から預かった大事なカネを横領するなんて」。船形コロニー育成会の会長が逮捕されたことで、会員の間には怒りと動揺が広がった。宮園容疑者が会の会計の仕組みづくりで中心的な役割を果たしていたことから、「運営を透明にしようと努力していたと思っていたのに、残念だ」とショックを隠しきれない会員もいた。
 仙台市の無職男性(70)は娘がコロニーに入所している。収入は月12万5千円の年金だけだ。「苦しい暮らしの中から、娘のために千円の会費を払ってきた。そんなカネに手をつけていたなんて」と憤る。
 弟が入所している仙台市の男性(69)は「会費は入所者のために払っているもの。障害者を抱える家族の気持ちが踏みにじられた感じだ」と話している。
 一方、仙台市の主婦(66)は「宮園さんは積極的に活動していたので、『まさか』という感じだ」と驚く。「長い間、会長をつとめ、会計への裁量が大きくなって公私のけじめがあいまいになったのかもしれない」
 仙台市の無職女性(80)も「まじめで、入所していた自分の弟の面倒をよく見ていた」と宮園容疑者の人柄を話す。「周りの評判もよかったのに……」と事件が信じられない様子だった。
 不正会計疑惑は昨年秋からあり、会員の間では「もっと早く解明できなかったのか」という声が上がっている。会の元幹部は「宮園容疑者は自分の意のままになる人物を引き立てていた。それが発覚を遅らせたのかもしれない」。また、男性会員は「育成会の年金を取り扱う委員会には、福祉事業団の職員も加わっている。事業団が関係ないとは言わせない」と話す。
 船形コロニー「解体」を見直すよう求める意見もある。男性会員は「『脱施設』を急いで、やみくもに自立支援ホームの整備を進めたことが不正を許す土壌になった」と指摘。県福祉事業団の田島良昭前理事長が昨年秋にコロニーの「解体宣言」をしたことに対しても「会員への相談もなく、唐突に宣言をすることは、私たちをないがしろにしている証拠だ」と不満を口にした。
 
 ○捜索、入所者見つめる中
 障害者が自立を目指して暮らす大和町の「船形コロニー」に、15日午前9時50分すぎ、県警の家宅捜索が入った。
 報道陣のカメラが待ちかまえる中、数台の乗用車に分乗したスーツ姿の捜査員が到着。施設の管理棟に入った。
 捜査員たちは、数グループに分かれて捜索を開始。窓にはブラインドが下ろされ、ブラインドのない窓には、厚手の布が目隠しとして下げられ、粘着テープで張られた。
 「こんな事態になってしまいました。知的障害者の方たちの撮影はしないで下さい」。着手直後、コロニーの職員が報道陣に呼びかけた。
 正午すぎ、佐藤清・船形コロニー育成会会長代行が、報道陣の前に姿をみせた。
 不正を数年にわたって許したとされることについて、佐藤会長代行は責任を認めつつ、「発覚以後、事件が頭から離れなかった。入所者たちの財産を横領したなんて、許せない気持ちでいっぱいだ」と話した。
 コロニーでは被害者となった入所者たちが、捜索を見つめていた。
 
 ○使途不明金、自立支援の資金含む 県福祉事業団の監査、十分と言えず
 県福祉事業団は、施設に入っている知的障害者を地域に戻して自立させる「脱施設」に全国に先駆けて取り組んでいる。事業団の支援団体の会長をつとめる宮園道則容疑者の逮捕は「脱施設」に向けた動きに影響を与えかねないという懸念が関係者に広がっている。使途不明金には、障害者を地域に戻すために入所者や家族らが出した資金も含まれ、事業団や県の責任も議論になりそうだ。
 
 ●揺らぐ信頼
 宮園容疑者が会長をつとめる「船形コロニー育成会」は、事業団が運営する知的障害者施設「船形コロニー」(大和町)の入所者や家族ら約千人でつくる任意団体で、施設の事業を支援している。
 事業団は、入所者を地域に戻す「脱施設」の一歩として、障害者が施設に籍を置いたまま自立に必要な訓練のために4、5人ずつで生活する自立支援ホームをコロニー周辺などに20カ所設けている。現在、ホームでは87人が暮らしている。
 「事業団の『脱施設』に向けた取り組みは全国的にみても進んでいる。その原動力の一つは育成会の基金だった」と、ある育成会会員が話す。
 日本の障害者政策は、対象になる障害者の自己負担と税金で費用をまかなうのが原則だ。だが、コロニーでは、育成会が障害者と家族から広く資金を集めて自立支援に必要な費用に充てることで、「脱施設」の動きを加速させてきた。
 「福祉先進県」づくりを掲げる浅野史郎知事は「『脱施設』の取り組みに間接的な影響が出るかも」と心配する。事業団の前理事長の田島良昭氏も「育成会の会長は障害者のために一生懸命やっていると信じていたのに」と残念がる。
 
 ●確認に甘さ
 事業団によると、育成会は自立支援ホームの運営などのために基金会計から年数百万円を事業団に寄付していた。だが、昨年9月に育成会の監査で使途不明金が見つかるまで、育成会と事業団の間では互いの帳簿をつき合わせるなどの確認を十分してこなかった。
 事業団の相原芳市・地域福祉部長は「育成会は別組織という思いから、チェックが甘くなっていたかもしれない」と話す。今回の事件で、事業団の監査体制が問われることになりそうだ。
 だが、事業団を監督する県は昨年3月に事業団に予算や事業などを独自に決めることを認め、来年4月から自立的に運営できるようにした。浅野史郎知事は当時「全国の福祉事業団のあり方に、一つのモデルを示した」と話している。
 
 ●別施設にも
 県と事業団は、別の施設の運営でも宮園容疑者とかかわっている。宮園容疑者は金成町で知的障害者施設を運営する社会福祉法人「プロメッサ」の理事(4月下旬に辞職願を提出)。この施設は県が65年に設立し、運営を事業団に委託していた。プロメッサは01年春に施設を民営化する際に受け皿として発足した。
 宮園容疑者は、育成会で使途不明金が出た01年度まで法人を設立するのに必要な準備金の寄付を募る資金調達部会長をつとめて、1千万円程度の資金を管理していた。宮園容疑者が逮捕された15日、プロメッサは寄付金の帳簿の見直し点検を始めた。
 
 ○「逮捕は残念、真相解明を」 浅野知事
 逮捕された宮園容疑者について、浅野史郎知事は「信望が高く、活動も熱心と聞いていただけに残念だ。刑事、民事の両面から真相をはっきりさせてほしい」と話した。
 県福祉事業団の「脱施設」の取り組みへの影響については「いささかはある。いささか程度にとどめたい」。事業団の責任については「現段階ではわからない」と述べた。
 宮園容疑者が、副知事起用が取りざたされる事業団前理事長の田島良昭氏と親密だったとされる点には「前理事長もショックだと思う。それに尽きる」と話した。
 
 ○「昨年夏から相談受ける」 田島・前理事長
 船形コロニーを運営する県福祉事業団の前理事長、田島良昭氏は、宮園容疑者の逮捕について、「障害者を守るパートナーとして一生懸命やってくれていると信じていたので残念だ」と話した。
 田島氏は昨年7、8月ごろから、育成会幹部の相談を受けていたことを明らかにしたうえで、「得てして同志的な関係からなあなあで済ませてしまうことがある。恥ずかしい事件だが、きちんと精査して表に出すべきだと言った」と話した。
 コロニー解体を進める過程で発覚した今回の不祥事。だが、田島氏は「こういう問題が出てきたことも、巨大な組織をわずかな職員と縁の遠い親族らで支えるより、解体して地域で支える仕組みにした方がいいという理由の一つになる」としている。
 
 ◇キーワード
 <県福祉事業団> 障害者やお年寄りらを対象にした県立施設の運営を担う県の外郭団体。63年設立。年間予算は約70億円で大半は税金。理事長は元副知事の丹野諒二氏。前理事長は副知事起用が取りざたされる田島良昭氏だった。
 <船形コロニー> 県福祉事業団が運営する知的障害者施設。「更生施設」と「授産施設」がある。現在の入所者は約500人。昨年11月、当時理事長だった田島氏が入所者を地域に戻して自立させる「解体」を宣言。全国初の大規模な地域移行として注目を集めた。

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◆20030524 30年以上の「隔離」に謝罪 群馬・重度知的障害者の「国立コロニー」――毎日新聞

◇戻っておいで古里に 親の会、施設の協会がメッセージ

 30年以上前に古里から離され、群馬県高崎市の山中にある重度知的障害者施設「国立コロニーのぞみの園」で集団生活を続けてきた約500人の入所者に向け、知的障害者の親らで作る「全日本手をつなぐ育成会」(約29万人)と関係福祉施設で作る「日本知的障害者福祉協会」(約3400施設)が「戻っておいで」と呼びかけるメッセージを出した。育成会の室崎富恵副理事長は「30年以上にわたって施設で生活せざるを得なかった入所者に謝罪したい」と話している。

 国立コロニーは国が管理する唯一の重度知的障害者入所施設。1950〜60年代に知的障害者をめぐる殺人事件や母子心中が相次いだことを受け、67年に全国から重度の知的障害者を受け入れて開所した。現在の入所者は507人(4月1日現在)。開所時からの在籍者が多く、平均年齢は53歳に達している。

 10月に独立行政法人化されるが、厚生労働省の検討委員会は今月、どんな障害があっても街で暮らすというノーマライゼーションの理念に基づき、入所者を段階的に地域へ移行するよう提言。育成会と福祉協会はこの動きを支援するためのメッセージを作成した。入所者が古里に戻れるような基盤作りに全力を挙げるとし、「ご両親やご家族とともに、行政官や専門職そして市民の皆さんとともに、私たちはあなたたちを待っています」と呼びかけている。

 かつて国立コロニー設立の運動に加わった室崎副理事長は「ユートピアのようなものができると期待していたが、障害者の意思は無視され、親の気持ちで入所させただけだった。地域移行によって家族に負担をかけてはいけないが、本人が生き方を選択できるような場所を与えてあげることが大切」と話している。

 厚労省の高原弘海・障害福祉課長は「検討委員会の提言を具体化するためには、さまざまな関係者の協力が不可欠だ。こうしたメッセージを出していただけるのは大変ありがたい」と歓迎している。【須山勉】

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◆20030521 青森県平舘村「かもめ苑」 障害者、都内に受け皿なく(脱施設へ)――朝日新聞

障害があっても施設を出て、まちで暮らしたい。その願いを実現しようと、政府は新障害者プランで支援の方針を打ち出し、4月からは住むところやサービスを本人が選んで契約する障害者支援費制度もスタートしました。いま約13万人の知的障害者が入所施設で暮らしていますが、いったん施設に入った人が地域に出て生活する割合は全体のわずか1%です。どうすれば脱施設を実現できるのか、シリーズで考えます。今回は青森県平舘村を訪ねました。(生井久美子 清川卓史)
 
 津軽半島の先端部、人口2300人の平舘村に、知的障害者の入所施設「かもめ苑(えん)」がある。山林を背負うようにたつかもめ苑の前には、平舘海峡が広がる。人家もまばらで、一番近い商店は歩いて20分の距離。この苑で都内から移ってきた72人が暮らしている。
 かもめ苑は97年10月、東京都が都民のための施設として建設費を補助して造られた。定員80人のうち9割が都民枠、1割が青森県民枠だ。40人ほどの雇用が生まれることから村が誘致した。
 
 ○十分な説明なく
 隆さん(58)は東京の下町育ち。母親が高齢になって隆さんの世話ができなくなったため、5年前に入所した。昨年秋、隆さんを区のケースワーカーが訪ねた。新制度への移行を前に、本人の意思を確かめるためだ。
 「ここにいますか、東京に帰りますか」。そう聞かれて隆さんは思わず「えっ、帰れるんですか」と聞き返した。「帰れますよ」「じゃあ、帰りたいです」
 そのやり取りの後、ケースワーカーは続けた。「希望として聞いておきます。都内の施設やグループホームに空きがあれば明日にも帰れるし、なければ10年先かも」。隆さんは「10年! 死んじゃうじゃないですか」と声を上げた。その後は1カ月ほど気持ちが不安定だったという。
 奥崎榮二施設長は「本人の気持ちが一番大事。ここの環境が気に入った方はここで、東京に戻りたい人は帰れるよう最大限支援したい」と話す。
 十分な説明を受けず、都外に出るとは知らされずに来た人もいる。幸子さんは「区の人にどこへ行くのと聞いても、『何でもない』って言われて、着いたらここだったの。こんなに雪が降る遠い所なんて」とささやいた。
 
 ○「母親の近くへ」
 「お母さん、元気? 早く迎えに来てね」
 雪さん(47)は1日2回、東京に住む母親(84)に電話する。入所して5年半。ずっと帰りたいと思ってきた。母親の近くで暮らすのが望みだ。「お母さんにカレーを作ってあげたい。安心させたい」
 5人きょうだいの末っ子。かもめ苑に来る前は、母親、兄一家と暮らし、昼は近くの作業所に通っていた。母親は自分が死んだ後のことを心配し、91年に市役所に入所を申し込んだ。都内には空きがなく、「秋田か山形なら」と言われたが、「そんな遠くにやれない」と断った。都内の施設を10カ所訪ねたが、「入所者が亡くならないと空かない」と言われた。
 97年春になって、職員に「青森はどうですか。あとは北海道しかないですよ」と言われ、悩んだ末に入所を決めた。
 いまは年に3回、帰省している。東京に帰りたいという雪さんの願いをかなえるため、かもめ苑では、都内のグループホームで生活することを目標に指導計画を作った。
 電話での言葉遣い、掃除の仕方、火の扱い、感情をコントロールする方法、お金や薬の管理など、自立して生活できるように練習した。昨秋には、都内のグループホームで1週間の体験宿泊もした。職員は「もう帰れる状態」と話す。
 だが、都内にグループホームの空きはない。母親は「私が生きている間に帰ってきてほしい」と待ち続けている。
(入所者の名前は仮名)
 
 ○受け入れ態勢、整える努力を
 堀江まゆみ・白梅学園短大教授(障害者心理)の話 地価が高いからといって、小中学校を都外に造るだろうか。障害者施設だけ遠隔地にあるのはおかしい。住民の反対があっても説明して、理解を求めるのが行政の責任だろう。家族に会えなくなる、いつ戻れるのかわからないといったことを本人に十分説明せず、入所させた例も多い。
 まず、全員にどこで暮らしたいのか聞き取り調査をし、公表してほしい。戻りたい人に対しては、都内の施設や地域支援を進めるNPOなどと連携して、優先的に受け入れる態勢を整え、都外施設の定員削減も進めるべきだ。
 
 ○都、戻せる具体策なし
 東京都の知的障害者入所更生施設は現在79カ所。このうち41施設が他の県にある「都外施設」だ。所在地は青森県から岐阜県まで14県。都外施設の定員は3255人で、都の施設に入所している人の56%を占める。
 このほか、知的障害児施設は17のうち10が、身体障害者療護施設は8のうち3が他県にある。これに都外の協力施設にいる人を含めると、4千人近くの障害者が東京を離れて生活している。
 都外施設が増えた理由として都は、地価が高いことと、施設建設に対する地元住民の反対の強さを挙げる。一方で、働き口が増えるとして誘致する地方自治体もあり、多くの入所待機者を抱える都と思惑が一致する面もあった。
 都外施設は60年代から増えてきたが、有識者による協議会が「都内での設置を促進するべきだ」と指摘したことを受け、かもめ苑を最後に98年以降は建てられていない。
 都社会福祉協議会の報告(02年)によると、都外施設にいる人の入所期間は11年から20年間が43%、21年以上が16%を占める。4人に1人が施設を出ることを望み、都内に戻りたい人は全体の17%だ。
 都は今年度から3年間で、約千人の入所待機者を解消し、地域での生活を支援する緊急プランを立てた。グループホームや入所・通所施設などを約3千人分、300カ所整備する。
 しかし、都外施設の入所者を戻すための具体的な目標や支援策はない。都障害福祉部は「急激な縮小・廃止は現実的ではないし、今後も待機者解消のために利用することもある。将来的な位置付けは今後の検討課題だ」と説明する。
 
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◆20030521 入所施設で暮らす知的障害者、半数が「脱施設」を希望 厚労省調査――朝日新聞

入所施設で暮らす知的障害者の半数が施設を出て地域で生活したいと思っていることが、厚生労働省研究班の調査でわかった。障害者が地域で一緒に生活するグループホームなどの情報を伝えると、施設を出たいと希望する人が増えた。研究班はグループホームの拡充などを厚労省に求めることにしている。
 (くらし面に関係記事)
 障害者が住む場所やサービスの内容を自分で選択して契約する障害者支援費制度が4月から始まるのを前に実施。昨年10月から今年3月の間、東京都、神奈川県、三重県内の三つの施設に入所している195人に面接し、2回にわたって「どこで暮らしたいか」などを尋ねた。
 1回目の聞き取りでは、「施設で暮らしたい」が16%、「施設を出て地域で生活したい」が31%、「決められない」が16%で、意思を確認できなかったのは37%だった。
 グループホームなどの様子を映した写真やビデオを見せたり、見学・体験したりした後再度聞いたところ、施設希望が7%に減り、地域生活希望は52%に増えた。「決められない」は4%に減った。意思を確認できた人の8割が脱施設を選択したことになる。
 施設に入所している知的障害者は現在約13万人。政府は知的障害者向けグループホームを5年間で7千人分増やす計画を立てている。
 研究班代表の小林繁市・北海道伊達市地域生活支援センター所長は「調査から推測して、地域で生活したいと希望する数は6万人以上。政府の計画ではまったく足りないことが明確になった」として、近く厚労省に見直しを申し入れる。

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◆20030604 元会長、400万円流用の疑いで再逮捕へ 障害者支援金横領/宮城――朝日新聞

大和町の知的障害者施設「県船形コロニー」を舞台にした横領事件で、県警は3日、障害者支援金など約400万円を私的に流用したとして、仙台市泉区住吉台西3丁目、支援団体「船形コロニー育成会」の元会長宮園道則容疑者(65)=業務上横領容疑で逮捕=を、同容疑で4日にも再逮捕する方針を固めた。育成会ではこれまでに約2千数百万円の使途不明金が見つかっており、県警はそのうち計約800万円分について立件に乗り出す。
 
 調べによると、宮園容疑者は育成会の会長だった01年4月、育成会の事務員を使って、同会の預金口座から約400万円を自分の口座に振り込ませた疑い。今回の容疑となる約400万円は、育成会の経理上では「自動車関係」という名目で支出されていた。同会の口座から9回に分けて、振り込まれていたという。
 これまでの調べに対し、宮園容疑者は、金を自分の口座に振り込ませたことについては認めているが、その使い道については「家電製品などを業者に発注し、設置している」など供述。横領の容疑は否認しているという。
 一連の横領事件は、入所者が施設を出て地域で暮らすための資金などが不正に使われた疑いがあることから、関係者に波紋を広げている。「脱施設」に向けた動きに影響を与えかねないという懸念も出ており、育成会とコロニーとの関係をもう一度見直すべきだとの声も出ている。

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◆20030610 障害者支援 4月時点での事業実施、伸び率鈍化−−補助金打ち切り余波か――毎日新聞

地域で生活する障害者を支援する二つの事業への補助金を今年度から厚生労働省が打ち切り、障害者の激しい反発を招いた問題で、厚労省は4月時点での事業の実施状況をまとめた。実施数は前年度より増えたが、件数の伸び率は鈍化し、専門家から「事業が後退しないか、引き続き見守っていくことが必要」との声が上がっている。

 2事業は、身体障害者を対象とする「市町村障害者生活支援事業」と、知的障害者を対象にする「障害児(者)地域療育等支援事業」。いずれも自治体が実施主体となり、地域生活を送る障害者に福祉サービスの利用援助や相談などを行う。厚労省は昨年末、急きょ補助金を打ち切って地方交付税で事業を賄わせる「一般財源化」を行い、「地域移行の方針と逆行する」と強い反発を受けていた。

 厚労省の調べでは、全国の「生活支援」の実施数は4月時点で、前年度の302から365に増え、「療育支援」も470から512に増えた。一方、前年度からの増加率は「生活支援」が昨年度の1・40倍から1・22倍、「療育支援」が1・21倍から1・09倍に下がったほか、両事業とも約4分の1が昨年度より事業費を削減された。【須山勉】

 ◇山口県立大学の田中耕太郎教授(社会保障論)の話

 最悪の影響は食い止められた印象だ。障害者の強い批判が国や自治体に周知されたことや、厚労省の決定時期が、多くの自治体が事業の準備をした後だったことが影響したのではないか。障害者施策全体の予算配分は相変わらず施設偏重で、楽観はできない。

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◆20030614 [錦町日記]言葉が生む誤解 /宮城――毎日新聞

 知的障害者入所施設「船形コロニー」が注目される理由の一つに、コロニーの「解体宣言」がある。副知事人事で取りざたされている田島良昭・前県福祉事業団理事長が昨年11月に打ち出したもので、「入所者を地域に」という理想に向かった大きな挑戦だ。

 宣言後、事業団には建設業者から問い合わせが相次いだという。「施設解体の見積もりを出させてください」「更地にした後は遊園地でも造るんですか」−−。情報収集を怠らない、脱帽の営業努力。

 だが、建物を解体するわけではない。施設は、地域でどうしても生活できない人をケアする場所として存続させる予定だ。「解体という言葉のインパクトが強すぎた」と担当者。一つの言葉で大きな誤解が生まれることを知った。【野原大輔】

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◆20030618 再出発 ルポ・長野の知的障害者施設「西駒郷」(脱施設へ)――朝日新聞

施設で暮らすとはどういうことか。利用者はどんな思いで生活しているのか。それを知ることは、障害のある人が地域で生活する「脱施設」を考える出発点ではないか。そう思い、脱施設に向けて県を挙げて取り組み始めた長野県の県立知的障害者大規模入所施設「長野県西駒郷」を訪ねました。(生井久美子)
 
 駒ケ根市と宮田村にまたがる5万坪の敷地に、野菜畑や養鶏場、作業棟、居住棟、グラウンドなどが点在する。西に雪を頂く木曽駒ケ岳を望む。施設の名はこの山にちなんだ。
 入所者は437人。そのほとんどが敷地内で一日を過ごす。施設ができて35年。平均入所期間は15年、30年以上が1割を超える。
 県は4月、数年後に入所者を半減させるとする有識者の提言を受けて、西駒郷に自律支援部を新設。愛知県で地域生活支援に実績のある山田優さん(55)を部長に招いた。グループホームの立ち上げや自活訓練などを進める。
 体に障害がある人やコミュニケーションが難しい重度の人もいるが、山田部長は「支える体制さえ作れば、全員出られますよ」と話す。
 「ウイーン」。電動ノコギリの音が響く。施設内の木工場。障害の軽い人が多い生業部の20人が養蜂箱を作る。「町工場の下請けもしていて、作業は1ミリ以下の精度が求められる。みんなここを出ても十分暮らせる人たちですよ」と職員。午後4時半、チャイムがなると終業の合図。一斉に居住棟に引き揚げる。決められた日課通りに起き、食べ、働く(表)。
 県の金井範夫障害福祉課長(当時)は一昨年夏、西駒郷に3日間滞在し、「自由と選択がないのに痛ましいほど整然としている。これでは隔離収容だ。是が非でも県が責任をもって地域移行しなくては」と思ったという。
 
 ○寝起きは8畳に4人
 居住棟は五つ。93人が暮らす寮に泊めてもらった。玄関を入って右が男性、左が女性に分かれている。
 夕食は午後6時。中央食堂の天井からあめ色のハエ取り紙が6本下がる。職員を含む100人がそろって「いただきます」。食器はすべてプラスチック製。ご飯は量が決められ、お代わりはない。おしゃべりは少なく、ほとんどの人が黙々と10分で食べ終える。
 1班20人で、班ごとにテレビのある居間やトイレなどがある。寝起きは8畳の和室に4人。一度布団を敷くと、ほかの人の布団を踏まないとトイレにも行けない。大切な物は小さな棚に入れ、鍵をかける。
 「グループホームを探してるの」と話しかけてきた恵子さん(43)は入所して9年。「一人になりたい。ここは狭いし、うるさい」と嘆いた。
 入所期間が長い人が布団の場所を決めるという。夕食前から布団を敷いて手芸をしている人がいた。「自分の居場所を確保してるんじゃないかな」と職員が言った。
 
 ○「ここに置いて…」
 明さん(53)は「自由ってもんがないね。献立は決まってるし、酒はだめ」とため息をついた。
 施設にいたいという人もいる。開設時からいる愛さん(54)は「大変じゃないよ」。敦さん(59)も「いいよ、ここ。仕事があって仲間もいる」。職員から故郷に近い別の施設を勧められた正さん(65)は「ここに置いてほしい」と頼んだ、と話してくれた。職場や学校でいじめ、暴力を経験し、入所してほっとしたという人もいる。
 宿直の職員は2人。午後11時、懐中電灯を手に寮を見回る。真っ暗な廊下で女性職員(25)がささやいた。「私が生まれる前からここで生活してきたなんて。私だったら耐えられない。それを支援するのは切ないです。変えていかないと」
 施設内の見直しも始まり、別の寮では個室や2人部屋もできた。
 
 ○見学で「街に関心」
 西駒郷で暮らし続けたいのか、愛さんにもう一度尋ねた。「本当は我慢してる。でも、面倒くさい」とつぶやいた。
 山田部長は「希望を言ってもかなえられず、あきらめてきた。心にふたをしてきたんじゃないかな。そうじゃないと、ここでは暮らしていけなかった。今ようやく夢を語り始めたところ」と話す。
 3月末、聞き取り調査で205人が「出たい」と答えた。4月から作業所やグループホームの見学を始め、街の暮らしに心が動いた人もいる。
 里子さん(33)もその一人。居間の床に正座して、山田部長に「ここ、出たいです。作業所でクッキー作りたい。でも、そう言うと両親がもめるので切ないです」と泣いて訴えた。施設を出ることに反対する親は多い。
 「あきらめちゃいかんよ、あきらめちゃ」
 山田部長は自分に言い聞かせるように繰り返した。(入所者の名前はいずれも仮名)
    ◇
 7月2日付で、脱施設に向けた西駒郷の取り組みと、親の思いを報告します。
 
 ●「刑期ない刑務所」 語り始めた体験者ら、縮小・解体求める声
 入所経験のある知的障害者が公の場で体験を語り始めている。
 障害者支援費制度導入を前にした2月、全国にある障害者の会の代表8人が厚生労働省で記者会見し、入所施設は「刑期のない刑務所のようだ」と縮小・解体を求めた。出口幸史さん(46)は「施設はいつ出られるかわからない。一番つらいのは、24時間職員の目があること」などと語った。
 出口さんらは厚労省に、施設を建て替える場合は定員減を条件にする、障害者の会などが入所者の権利が守られているかを訪問して調査する仕組みをつくる、などの提言書も提出した。
 入所施設の問題は研究者や障害者の家族らが取り上げるようになり、昨年末には入所経験者21人の声を集めた「もう施設には帰らない」(中央法規)が出版され、各地でシンポジウムも開催されている。
 
 ◇キーワード
 <施設入所> 約46万人いる知的障害者のうち、施設で暮らしているのは約13万人。約半数の入所期間が10年を超えている=グラフ。
 地域で暮らすための支援態勢がないなか、入所を希望する親の要望が強まり、60年代後半から、子どもを含む重度から軽度の知的障害者が一緒に生活する都道府県立の大規模な施設が次々と造られた。国立コロニーのぞみの園(群馬県)を含めて現在全国に21ある。ほとんどが定員300人以上で、最多は大阪府の金剛コロニーの850人だ。
 施設の老朽化と入所者の高齢化が問題になり、大規模施設のあり方が見直されつつある。国立コロニーも縮小の方向だ。
 
 ◆施設で暮らす知的障害者の入所期間
  1年未満  5.4
  3年未満 11.6
  5年未満  8.7
 10年未満 22.3
 20年未満 30.2
 30年未満 16.9
 30年以上  2.5
 不明     2.3
 (99年度旧厚生省研究班調べ。数字は%)

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◆20030621 寄付利用、見直しへ 県福祉事業団「脱施設」 /宮城 ――朝日新聞

大和町の知的障害者施設「船形コロニー」を舞台にした横領事件を受けて、施設を運営する県福祉事業団は20日、入所者を地域に戻す「脱施設」を加速させる事業に、入所者や家族からの寄付を利用してきた方式を、見直す方針を明らかにした。関係者からの寄付を元にした方法に対しては、県議会から「カネの流れが不透明」との指摘があった。事業団では「事業費をやりくりして『脱施設』が後退しないようにする」と話している。
 同日発表した「今後の対応について」とする文書では、「事業の実施にあたり、安易に、家族会等からの寄付等を充てることのないよう留意する」とした。
 現在、障害者向けの事業は、利用する障害者の自己負担と税金で費用をまかなうのが原則だ。しかし、コロニーでは、00年度から、入所者やその家族でつくる「船形コロニー育成会」が会員から広く資金を集め、ここから寄付した年間数百万円も「脱施設」に充て、事業を加速させてきた。
 しかし、この方法には、障害が重く「脱施設」が難しい障害者やその家族が、比較的障害が軽い障害者の「脱施設」を助ける、という側面があり、異論もあった。
 今回の事件では、使途不明金の中に「脱施設」を促す金も含まれていたとみられている。

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◆20030621 [ニュース展望]国立コロニー改革=社会部・須山勉――毎日新聞

◇知的障害者福祉の分岐点に

 厚生労働省の「国立コロニー独立行政法人化検討委員会」(座長、岡田喜篤・川崎医療福祉大学長)が先月、国が管理する唯一の重度知的障害者入所施設「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)で集団生活する約500人の入所者について「段階的に地域へ移すべきだ」との中間提言をまとめた。入所施設の“象徴”とされる同園の地域移行の成否が、日本の知的障害者福祉の将来を左右すると言っても過言ではない。

 「コロニー」は大規模入所施設の意味だ。日本では1960年代まで、重度知的障害者の受け皿が社会になく、知的障害児のいる家庭で母子心中が起きるなど、悲惨な事件が相次いだ。国立コロニーは、こうした時代の要請を受け、71年に高崎市の郊外に設立された。入所者の出身地は、北海道から鹿児島県まで全国にまたがっている。国の特殊法人改革の一環として、今年10月に独立行政法人化されることが決まっている。

 検討委は中間提言で「重い障害を持つ人たちを1カ所に集めて生活させる大規模施設の役割は終わった」と述べた。多くの入所者は開所当時からコロニーで集団生活しており、平均年齢は53歳。入所者の保護者からは「コロニーが解体されたら、安心して死ねない」という不安の声も上がっている。先月末の保護者会総会に出席した岡田座長は「知的障害者がいつまでもコロニーで生活するのは誤っている。しかし、入所者や家族の意思を無視して、強引に地域移行はしない。私が命をかけて約束する」と理解を求めた。

 「どんな障害があっても普通に暮らす」という意味の「ノーマライゼーション」が日本で叫ばれるようになったのは、81年の国際障害者年がきっかけだ。地域で暮らすようになったことで、施設にいたころには想像もできないほど社会への適応力を身につけた知的障害者の例は、国内外で数多く報告されている。

 しかし、国は「施設偏重」の障害者施策を今でも続けている。全国の知的障害児・者は46万人で、このうち自治体や民間が運営する施設の入所者は約3割の13万人。残り7割は地域で生活しているのに、障害者関係の予算は、逆に7割が施設に回っているのが現状である。

 障害者が地域で暮らすための居住施設が絶対的に不足しており、グループホームに入ったとしても障害者の多くが月数万円の家賃の支払いにも苦労している。一方で、これまでほとんど自己負担がなかった入所施設の障害者は、無収入なのに年金が数百万円たまっているという矛盾が放置されてきた。

 特に、国が管理する国立コロニーには、措置費(現在は支援費)に加え、毎年約30億円の国費が投入されてきた。運営主体となっている特殊法人の理事長と理事は歴代、旧厚生省OBの天下りで、昨年度ベースの試算では、職員の給与は、同規模の民間施設職員の2・4倍の高さだ。「“象徴”を改革しなければ日本の知的障害者福祉は変わらない」と考える関係者は少なくない。

 検討委は現在、コロニー入所者の受け皿となるグループホームなどを、それぞれの出身地近くか、高崎市周辺に整備するなどの具体策を検討中で、7月中に最終報告をまとめる方針だ。厚労省は先月30日、この問題で関東地方の都県などと初の意見交換をしたが、自治体側からも地域移行の手順を明らかにするよう求める声が上がった。同省の高原弘海・障害福祉課長は「もう単に国立コロニーをどうするかという問題ではなく、国の知的障害者福祉の進め方が問われている」と話す。地方コロニーや民間の入所施設にもモデルとなるような地域移行が進むか。全国の障害福祉関係者が注目している。

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◆20030624  障害者の生活支援「地域生活推進員」、自治体に設置へ/厚生労働省――読売新聞

厚生労働省は、障害者の地域生活を総合的に支えるため、一部の自治体に「地域生活推進員」を設けることを決めた。専門スタッフが様々な相談に乗るほか、住居や活動の場の確保、就労支援などを行う。新たな補助事業として早ければ八月にもスタートさせ、施設入所者の地域移行を促すとともに、すでに在宅で暮らしている人についても生活の質の向上を図る。
 都道府県が指定した市町村や政令指定都市などが主体となって行い、複数の市町村による共同実施も可能。民間の社会福祉法人などに委託してもよい。事業費は最大千五百万円で、国が半分、都道府県、市町村がそれぞれ四分の一ずつ負担する。期間は二年間。
 厚労省障害福祉課では「地域生活支援は、四月から始まった支援費制度の定着に欠かせない。新事業をきっかけに、多くの自治体に広がることを期待している」としている。

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◆20030627 [論点]生命と暮らし守る居住福祉 早川和男(寄稿)――読売新聞

私は、安全に安心して住むことは基本的人権であるという「居住福祉」の意義を強調してきた。だが、日本の政治と行政はこの課題に強い関心を示せず、現状ではそのつけともいうべき様々な現象が起きている。
 第一に、阪神・淡路大震災の犠牲者のほとんどは住宅の倒壊が原因であった。年金暮らしの高齢者、生活保護世帯、障害者などに犠牲が多かったのは、自助努力と市場原理の居住政策のもと、劣悪居住と居住差別を強いられてきたからである。
 政府の中央防災会議が先月、東海地震対策を地震予知から耐震強化に転換したのは、遅きに失した感はあるが、適切な判断ではあった。南海、東南海地震などが予測されている現在、耐震強化は緊急を要する。だが、耐震診断や耐震工事費の助成はいわば応急処置である。
 根本的には住宅、環境ともに、安全で収入の範囲内で住居費が支払える「安全居住保障政策」への全面的改革が必要である。防災は事後対応ではなく予防の視点に立つべきであり、その根幹は居住政策にある。
 第二に、介護保険は在宅介護を目指しているが、政策意図に反し、特別養護老人ホームなどの待機者が増えている。狭く、設備が不備で階段の急な老朽家屋では、少々の住宅改造やヘルパーも充分機能しない。良質の居住条件が不可欠である。
 一九九五年の社会保障制度審議会(隅谷三喜男会長)の勧告が指摘するように「実質的には住宅問題であるものが福祉の問題として対策を迫られている」。先進的なグループホームも、国民一般の良質の居住保障なしには限界がこよう。北欧などの老人福祉施設の質の豊かさは、一般的な住宅政策の延長線上にある。
 第三は、ホームレスや中高年の自殺激増と住居の不安定との関わりである。リストラに遭っても住居に不安がなければ何とか暮らせる。だが、家賃支払いやローン返済がゆき詰まれば、たちまち路頭に迷う。
 前述の審議会は「些細(ささい)な事故によって容易に貧困に陥る恐れのあるものに対する施策」の必要性を勧告しているが、その施策とは居住保障だと私は思う。勧告はこうもいう。「我が国の住宅は社会における豊かな生活を送るためのものとしてはあまりにもその水準が低く、これが高齢者や障害者などに対する社会福祉や医療費を重くしている一つの要因である」。居住保障なしに社会保障は成立せず、社会の安定は実現しない。
 第四に、近年「施設からコミュニティへ」の合言葉のもとに、障害者の社会復帰がとりくまれている。施設収容から地域居住への移行は基本的人権の回復である。だがそれが可能になるには、快適で安心できる住居の保障、地域での医療・福祉サービスの充実、共同作業所の確保と職住近接などが必要である。障害をもつ人は家の安全性、居住密度、日照、通風、風景、人間関係などの居住環境に敏感で影響も大きい。家賃支払い能力も高くない。居住保障、居住福祉条件が欠落したままの脱施設化は生活基盤を損なう。高齢者が老人ホームに並ぶように、病院や施設に戻ることになりかねず、目的は果たせない。
 以上、いくつかの事例から現代日本社会における居住福祉の意義と必要性を見てきたが、その重要性にもかかわらず、研究を含めた取り組みは著しく立ち遅れている。最近、日本居住福祉学会(事務局は、中京大学・岡本祥浩研究室 ファクス052・835・7197)が発足した。社会保障、社会政策、法律、経済、保健、医療、建築その他の分野の研究者、自治体職員、市民などの参加する学際的学会である。有事法制が成立したが、市民の生命と暮らしを守る居住福祉政策こそは喫緊の課題というべきではないか。
      ◇
 ◇はやかわ・かずお 長崎総合科学大学教授 神戸大学名誉教授。著書に「住宅貧乏物語」「居住福祉」(いずれも岩波新書)など。72歳。

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◆20030701 [湖国の人たち]オピニオン’03 滋賀医科大教授、瀧川薫さん /滋賀――毎日新聞

◇精神医療の改革に取り組む滋賀医科大教授、瀧川薫さん(48)=大阪府豊中市

◇「負のイメージ払拭したい」

 滋賀医科大、龍谷大、県が今年3月、共同で「みんなで考えよう 地域で支えるこころの病」と題したシンポジウムを開いた。薬物療法の発達で、統合失調症や気分障害(うつ)など精神を病む患者の社会復帰に道が開けてきたが、病気に対する偏見や差別は依然根強い。社会復帰への妨げになっているといい、シンポジウムでは精神医療や福祉の実情と課題を話し合った。シンポジウムを企画した滋賀医科大看護学科教授の瀧川薫さん(48)は「精神の病に対する負のイメージを払拭(ふっしょく)したい」と話している。 【北川功】

 −−医療・行政関係者、学生、患者の家族ら約160人が参加したシンポジウムの狙いは。

 文部科学省が、地域貢献に特に優れた取り組みを支援する「地域貢献特別支援事業」の一環で開きました。看護学、医学、福祉学の専門家、行政の担当者が参加し、患者や家族のニーズを把握するため、どういう関与をしていけるかということを話し合った。

 −−精神の病を巡る現状と課題とは何でしょうか。

 国の「新障害者計画」で、入院ではなく地域の中で生活する「脱施設」化への転換が示された。しかし、受け皿となる家族の負担は大きい。家庭に帰る「社会復帰」はできても、社会の一員として役割を担う「社会参加」まではなかなかできていません。気軽に相談できる場所がないのも問題です。

 −−精神科で看護師も経験されました。精神医療の現場も悩みを抱えているのでは。

 体の病には検査数値など明確な基準があるが、精神の病にはありません。だからこそ患者の観察が大事で、医師や看護師はゆっくりと時間をかけて患者と信頼関係を作る必要があります。しかし、精神科はほかの診療科に比べて医師、看護師の数は少なくてよいとする「精神科特例」がある。本来は外科や内科と同じか、それ以上のスタッフが必要なのです。

 −−精神を病む人たちを社会が受け入れてこなかったのはなぜですか。

 今、「夜寝られない」とか「イライラする」といった軽い症状で精神科を受診する人がたいへん多い。精神科に通うことはなにも珍しいことではありません。しかし、「精神病は怖い」というイメージがいまだにある。精神疾患の患者は、本来は真面目で神経質な人たち。ストレスに要領よく対処できないために病気になる場合が多いのです。現在、向精神薬は300種類あり、糖尿病や高血圧と同じように薬でコントロールし、普通に生活ができる。こういう知識が社会にいきわたっていない。

 −−そうしたイメージを払拭するには、どうしたらいいのでしょう。

 向精神薬が開発されて50年。看護師教育に精神科独自のカリキュラムができてまだ10年足らず。今は過渡期と言えるでしょう。ただ、最近は「人間とは何か」という「自分探し」をきっかけに、精神科の看護を目指す学生が増えてきました。精神科の看護というのは知識だけでなく患者と向き合う人間性が問われる、非常にやりがいのある分野。いい看護師を育てることが、負のイメージ払拭につながると思っています。

◇提言

 精神疾患のケアには、医療、看護、福祉、行政に携わる人たちが、積極的に連携していく必要がある。研究者も現場に入って、患者や家族のニーズを探って行政などに働きかけ課題を解決する「アドボカシー」に力を入れることが必要だ。

◇瀧川薫(たきがわ・かおる)さん

 大阪府生まれ。京都大医療技術短期大学部看護学科を卒業。同大付属病院精神科・神経科副看護長などを務め、立命館大大学院社会学研究科応用社会学専攻の博士課程前期課程修了。東海大講師、岡山県立大助教授などを経て、01年から現職。専門は精神看護学。

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◆20030702 親にも変化 ルポ・長野の知的障害者施設「西駒郷」(脱施設へ)――朝日新聞

 知的障害のある人たちが施設を出て地域で暮らすことに反対する親や家族は多いといわれています。昨年から脱施設に取り組み始めた長野県立の知的障害者施設「西駒郷」(437人)でも当初、保護者の大半が反対でした。それが今年3月には賛成が3割になり、いまも増えつつあります。なぜなのか。施設に託した親の思いとその変化をみました。(生井久美子)
 
 ○明るい表情、不安消え
 「息子が街で暮らす様子を見て安心しました。あんなに明るくなって、夢のようです。施設を出たいという子どもの気持ちを優先しましょうよ」
 6月1日、西駒郷(駒ケ根市、宮田村)の集会場で開かれた保護者会。鈴木春さん(75)は130人ほどの親たちに語りかけた。その言葉を聞いて職員も驚いた。昨年1月に地域移行を提案した際、春さんは「絶対反対です。うちの子は一生置いて下さい」と泣いて訴えたからだ。
 春さんの長男清さん(46)はダウン症で病弱だった。幼いころからいじめられ、つらい思いをしてきた。保育園では片隅に置かれ、小中学校の遠足や修学旅行では「世話ができないから」と参加を断られた。春さんは「弱い体に産んでしまった」と自分を責めた。
 児童相談所で西駒郷を勧められ、清さんは中学の卒業式の翌日、16歳で入所した。春さんを乗せて戻るタクシーを清さんは必死に追いかけた。春さんは一晩泣き明かし、「鬼にならなければ」と言い聞かせた。自分が死んだ後も、息子が安心して暮らせる場所が必要だとずっと思ってきた。
 春さんの考えが変わり始めたのは昨年11月。訪ねてきた職員が「(清さんが)一日も早くグループホームに出たいと言っている」と伝え、西駒郷が作るグループホームに移るよう勧めた。春さんは絶句した。息子に将来のことを考え、自分で判断する力があるとは思ってもいなかったからだ。
 30年間施設で過ごした息子が街で暮らせるのか。職員は「うまく行かなかったら、施設に戻ればいい。責任を持つから」と何度も勧めた。その熱意に動かされ、春さんは同意した。
 
 ○本人の希望、周囲支える
 3月、近くの民家を改修して開設した2カ所のグループホームに10人が移り、清さんも仲間と暮らし始めた。世話人が食事などの世話をし、西駒郷の担当職員がほぼ毎日顔を出す。近所のお年寄りも遊びにきてくれる。清さんは食事の後片づけなどができるようになった。仲間の面倒をみるリーダー格だ。春さんは「大人になった」と変わりように驚き、ようやく不安が消えた。
 清さんは施設を出たいと考えてきたが、春さんが反対していることを知り、口に出さなかった。春さんはいま、「子どもの足を引っ張っちゃいかんよ」と親たちに話す。
 県は、家族の理解を得るため、保護者会などに(1)親元に戻すことはせず、移行後も県が責任をもって対応する(2)地域に手厚い支援体制をつくる(3)施設にいるときより、費用が増えないようにする、と約束した。3月末に西駒郷が意向調査をしたところ、入所者の3割にあたる136家族が地域移行に賛成した。
 入所して10年になる桃子さん(29)の母親(54)は「いまさら地域に、といわれても、日中通う場所もない」と不安だった。だが、4月に職員寮を使った自活訓練が始まり、娘の変化に希望を持つようになった。米をとぎ、みそ汁の具を切る桃子さんの成長に驚き、「仲間と助け合う暮らしを娘にも」と思い始めた。
 
 ○方針転換に残る疑問
 24年間入所している太さん(32)の父親(60)は「脱施設は正しいとは思うが、支援体制が本当に整うのか。地域の偏見や世話人の質も心配」といまも消極的だ。
 「支援体制が整ったとしても、結局頼られるのでは」と心配する親もいる。職員は「地域に出るのはいいけれど、家の近くは困る」「疲れ果てた末に預けた。また元の生活に戻るのが怖い」と漏らす親の声を聞く。
 西駒郷には、排泄(はいせつ)や食事に介助が必要だったり、コミュニケーションが難しいなど障害が重い人もいる。こうした人の家族は「永住できる施設を」と望んできた。
 6月15日、最重度の53人の家族向けに改めて説明会が開かれた。最重度の人が地域で暮らす様子を写したスライドを見せた後、山田優自律支援部長(55)は「障害が重いからといって一度限りの人生を施設で終えて本当にいいんでしょうか。子どもの未来をあきらめないで一緒に変えていきましょう」と訴えた。
 最重度の家族で地域移行に賛成したのは1家族だけだったが、説明会の後に改めて意向調査を始めたところ、これまでに賛成は5家族に増えた。
 葛藤(かっとう)を抱きつつ、親の心も少しずつ街に向き始めている。(入所者と家族は仮名)
 
 ◇入所者半減へ県本腰
 長野県は、数年内に西駒郷の入所者を半減させるとした昨年10月の有識者の提言を受けて、4月に県庁の障害福祉課に自律支援室を設置。地域生活の支援に乗り出した。
 地域での生活には、グループホームなど生活の場、日中活動する場、相談・支援体制の三つが不可欠として、今年度の知的・身体障害者の在宅支援予算を30%増やし、12億4千万円にした。
 このほか、県内に10ある障害保健福祉圏域ごとに、市町村、保護者の会、サービス事業者などの関係機関で調整会議を設け、支援体制作りを進めている。秋には重症心身障害者用のグループホーム2カ所を開設する。
 同様の改革は宮城県などでも始まり、親の意識も変わり始めている。
 5月、厚生労働省の検討会は国立で唯一の「コロニーのぞみの園」の入所者507人を段階的に地域移行する方針を示した。
 親などでつくる「全日本手をつなぐ育成会」はこれを受けて、入所者が故郷に戻れるよう「基盤作りに全力をあげる。私たちはあなたたちを待っています」との見解を発表。「多くの人が30年余も故郷を離れて入所せざるをえなかった。その状況を変えられなかったことに対して謝罪したい」との文言も盛り込んだ。

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◆20030712 [偽りの家]鹿児島・みひかり園虐待事件/6 施設は幸せですか――毎日新聞

◇自立力奪う、24時間管理−−「安らぎ」得られず

 「嫌やったよ、時間にせかされて。ゆっくりする場所もなかった。安らぐのは眠っているときだけやった」。鹿児島県串良(くしら)町の知的障害者更生施設「みひかり園」で4年暮らした女性入所者(31)は振り返る。冬の日。叔母の家に逃げ込むように退所した。「絶対に帰りたくない」。顔をしかめて激しく首を振った。

 長い廊下に並ぶたくさんの扉の奧は、寝台の他は2畳ほどの2人部屋。午後9時。職員が消灯に回ると1日が終わる。入所者を待つのは「今日」と同じ日課が繰り返される「明日」だ。

 知的障害児者の入所施設は全国に約1840カ所(01年10月)。今も3割(推計)に当たる約13万人の「家」になっている。みひかり園のような施設の問題点を、ルーテル学院大の西原雄次郎教授(障害者福祉論)は「24時間管理された集団生活は自分のペースが保てず、ストレスがたまる。ベルトコンベヤーに乗ったような受け身の生活に慣れると、自立する力が失われかねない」と指摘する。

 欧米では知的障害者が街を行き交う。障害があっても普通に暮らすという「ノーマライゼーション」の理念が1960年代から浸透し、入所施設が姿を消したためだ。

 スウェーデンでは精神発達遅滞者援護法が68年に施行され、障害者は専門スタッフの支援を受けて少人数で暮らすグループホームに移り始めた。86年の新援護法は施設解体を明文化し、99年末、入所施設はなくなった。

 近年、障害者が親から独立した組織をつくり、職員を雇ってカフェやラジオ放送局などを運営する試みも始まった。英国も解体が加速し、残る入所施設は数カ所。立教大の河東田博教授(障害者福祉論)は「普通に暮らす権利を保障する法律がけん引役になった。障害者も街で働いたり食事を楽しみ、地域の人間関係の中で生きている」と話す。

 一方、日本でも、政府は地域生活の支援を強調するようになった。だが、知的障害者のための予算の7割は入所施設に回っている。障害者の経済的負担も、月3、4万円ほどの施設より地域生活はかさむ。グループホームなら家賃や食費、光熱費を払わなければならない。生活支援の拠点や人手も十分でなく、親に頼らず自立するためのハードルは高い。

 宮崎県境の集落。園にいた最重度の男性(33)が家族と暮らす。95年秋の運動会で親の車に数時間閉じこもった。その姿に親は「サイン」を感じた。そのまま連れ帰って8年。顔に笑いは戻ったが母は時折思う。「私が死んだらどうなるか。先に死んでくれた方が幸せなんじゃないか」 【障害者虐待問題取材班】=つづく

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◆20030712 知的障害者施設「国立コロニーのぞみの園」が法人化 入所者の地域移行促進――毎日新聞

国が管理する唯一の重度知的障害者入所施設で、10月に独立行政法人化される「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)について、厚生労働省の検討委員会は11日、08年3月までに入所者507人の3〜4割を出身地のグループホームなどに移行させる中期目標を設定することで合意した。移行を進めるため、外部から専門スタッフを招くことも検討している。

 コロニー側が入所者の生活能力を調査した結果、地域移行が可能と評価されたのは132人と全体の3割に満たなかった。しかし、検討委では(1)移行可能と評価された人だけ移行させるのでは、どんな障害を持つ人でも街で暮らすというノーマライゼーションの理念に反する(2)国立コロニーでの地域移行推進は、知的障害者全体の地域移行を促進する政策的な意味がある−−などの意見が出され、07年度までの地域移行率を3〜4割とする中期目標を設定することで一致した。具体的には入所者の出身地か、国立コロニーがある高崎市周辺のグループホームなどで生活してもらう方針。 【須山勉】

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◆20030712 群馬の国立コロニー、08年3月までに入所者3〜4割を地域へ−−厚労省検討委――毎日新聞

◇中期目標を設定

 国が管理する唯一の重度知的障害者入所施設で、10月に独立行政法人化される「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)について、厚生労働省の検討委員会は11日、08年3月までに入所者507人の3〜4割を出身地のグループホームなどに移行させる中期目標を設定することで合意した。外部から専門スタッフを招くことも検討している。

 コロニー側が入所者の生活能力を調査した結果、地域移行が可能と評価されたのは132人と全体の3割に満たなかった。しかし、検討委では(1)移行可能と評価された人だけ移行させるのでは、どんな障害を持つ人でも街で暮らすというノーマライゼーションの理念に反する(2)国立コロニーでの地域移行推進は、知的障害者全体の地域移行を促進する政策的な意味がある−−などの意見が出され、07年度までの地域移行率を3〜4割とする中期目標を設定することで一致した。具体的には入所者の出身地か、国立コロニーがある高崎市周辺のグループホームなどで生活してもらう方針。

 国立コロニーは15歳以上の重度知的障害者が一生を過ごす大規模入所施設として、71年に高崎市の山中に開設された。検討委は今年3月、「知的障害者福祉行政の今日的な潮流とミスマッチ」とし、大規模入所機能を廃止すべきだとの中間意見をまとめていた。月内にも最終報告書をまとめる予定。【須山勉】

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◆20030723 そのとき隣人は… 知的障害者と地域、どう付き合う?(脱施設へ)――朝日新聞

入所施設を出て街で暮らしたい。生まれ育った地域に住み続けたい。こう願う知的障害のある人たちを、街はどう受け入れているのでしょうか。地域住民の理解は大切だといわれますが、あなたの隣に暮らし始めたら、どう感じるでしょうか。通所施設の開設で住民の反対があった京都府向日(むこう)市と、多くの障害者が地域で生活する北海道伊達市を訪ねました。(編集委員・生井久美子)
 
 ○住民とのかけ橋を探る
 京都市の南西にある向日市。水田と新興住宅の間に、社会福祉法人が運営する障害者総合支援センター「乙訓(おとくに)ひまわり園」はある。
 地域で生活する知的障害者を支援する目的で00年にできた。日中を過ごすデイセンターや短期宿泊施設、パン作りやクリーニングなどをするワークセンターがあり、毎日近隣から70人ほどが訪れる。ヘルパーを障害者の自宅に派遣する。
 97年3月、センター開設を目指す市などが、二つの町内会向けに説明会を開いた。
 「不安で、妻子を置いて仕事に行かれへん」「地価が下がる」「施設が必要なのはわかるがここでなくても」。集まった40人ほどの住民から反対の声が相次いだ。事前の打診がなく、提案は突然だった。住民は「一方的」と態度を硬化させた。
 開設を熱望してきた親たちは80軒余りを一つずつ訪ねて、住民の意見を聞き、「自分たちが死んだ後も、街の中で暮らしていけるようにしたい」と思いを伝えた。
 共感は広がったが、「住環境が悪化する」という意見は根強く、園の位置を住宅地から計画よりさらに10メートル離すことで決着した。住民の要望で園の2階のベランダに目隠し用の壁も作った。開設は予定より2年遅れた。
 園は地域との交流の場にしようと、2階に喫茶店を開いた。願いを込めて「かけはし」と名付けた。老人ホームのお年寄りや高校生、主婦が多い日には50人訪れる。開設に反対していた女性(67)は「孫に何かあったらと怖かったけど、何も心配はなかった」と話す。いまは常連だ。
 主婦の成田貴峰(たかね)さん(32)は育児に疲れると、1歳の双子を連れてやってくる。「みんな自分のペースで、楽しそうにパンを作ってはる。見てると、私も元気になれる」
 一方で、園に近い住民はいまも「風通しが悪くなった」「大声が聞こえる」「送迎バスの音が気になる」と不満を語る。
 「なんとか良い関係を作りたい」と竹村忠憲統括施設長(44)。園は8月2日に3回目の夏祭りを開く。今年も全戸に案内のチラシを届けることにしている。
 
 ○職員の熱意、信頼育てる
 伊達市の朝。通学の高校生に交じって、知的障害のある人が自転車をこぎ、バスに乗り込んで職場に向かう。「おっはよー」。近所の人たちが声を掛ける。
 市内のグループホームやアパートなどで暮らす知的障害者は現在372人。市の人口の1%を占める。地域で生活する割合は、全国的にも高い。
 6割がクリーニング店やホテル、菓子店など59の職場で働く。脱施設の先頭に立ってきた市地域生活支援センターの小林繁市所長(57)は「ここでは障害者は特別な存在ではない」と語る。
 そうなるまでには長い時間が必要だった。
 山の中腹に、大型入所施設「道立太陽の園」ができたのは35年前。当時は入所者が街を歩くと住民はじっと見つめ、店員はよだれを見て後ずさりした。入所者が通う歯科医院に、患者が来なくなったこともあった。
 園は当初から、地域移行を積極的に支援してきた。開園から5年後には市の協力で街の中心部に旭寮ができ、20人が移った。旭寮は地域生活支援センターに拡充され、脱施設の拠点になった。
 78年、初めて民家を借りて10人が暮らし始めた。近隣の住民から「火事が心配」との声が上がると、センターの職員が住み込んだ。グループホームなどを少しずつ増やし、様々なトラブルに備えて、24時間いつでも職員が駆けつけられるようにした。いま、372人はセンターから2キロ以内の108カ所で暮らす。
 最も多くが暮らす旭町の自治会長を長く務めた下田良夫さん(77)は「最初は不安だという声もあったが、職員の対応がよく、信頼できた。住民も慣れてきた」と語る。いまは自宅の2階をグループホームに貸す。
 
 ●働く場つくる
 センターは働く場も開拓した。「仕事が覚えられるか」と経営者が不安がると、「チャンスを下さい」と日参して頼み込み、仕事に慣れるまで職員が一緒に働いた。
 14人を雇う養豚・精肉小売業の大矢辰男さん(56)は「駆け落ちした社員を職員と捜し回ったり、来なくなった人を説得したり。いろんなことを乗り越えて私も育てられた」と話す。
 小林所長は「『気の毒だから』だけでは続かない。メリットもあることを理解してもらうことが大切」と指摘する。
 障害者を雇うと国から雇い主に助成金が出る。グループホームなどの家賃は合計で年間約6千万円、買い物などの消費は合わせて4億5千万円になる。グループホームの世話人や相談員は100人余り。雇用の場も生まれた。
 90年にセンターが市民の意識調査をしたところ、地域で暮らす知的障害者が増えることに賛成する人は86%。旭町など障害者が多く暮らす地域では96%に達した。
 菊谷秀吉市長(53)は「周辺の自治体は人口が減っているのに、伊達市は増えている。障害者が安心して暮らせる街は高齢者はもちろん、だれもが安心して暮らせる街でもある」と話す。
 年間約千人が伊達市を視察に訪れる。「これほどの支援体制を整えるのは、うちでは無理」と話す自治体の職員らに、小林所長はいつもこう答える。「まず動き出さなければ、何も始まらない」
 
 ◇キーワード
 <グループホーム> 知的障害者が世話人などの支援を受けて、地域で生活する制度。全国で3001カ所に、約1万2千人が暮らす。平均は4・2人。都道府県と政令指定都市の整備状況は地域差が大きく、知的障害者100人あたりでみると、最多の北海道で5人分、最少の千葉市で0・1人分(02年度推計)。国の新障害者プラン(03〜07年度)は年間平均で1400人分ずつ増やす目標を掲げているが、障害者団体などは「少なすぎる」と批判する。

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◆20030725  知的障害者の地域生活移行を支援するマニュアル 東京都が作成――読売新聞

東京都はこのほど、知的障害者が施設を出て地域で暮らすことを支援するためのマニュアル「地域生活移行支援のために〜取り組み事例と対処方法〜」を作成した。施設や自治体の職員、障害者の家族や養護学校の教職員向けで、実践的な内容となっている。
 地域移行の過程を五段階に分け、各段階ごとに、起こりうる問題を「課題」として示し、対応策を併記。例えば、「課題3 保護者の理解」では、「施設から地域へ出た人の話を聞く機会を作る」「『本人の幸せとは何か?』を考える機会を作る」など五つの対応策を挙げた。
 また、「施設から出ることに保護者が反対していた事例」「重度の知的障害者が地域に移行した事例」など九つの事例を紹介した。
 このほか、入所更生施設を対象に都が行った「地域生活の可能性に関する調査」(二〇〇〇年度)の結果も掲載。施設入所者の約三割は、地域で自立した生活を送ることができると推測した。施設から地域へ移行した八人の声も収録した。
 A4判、八十ページ。都福祉局のホームページ(http://www.fukushi.metro.tokyo.jp/)に近く全文を掲載する。希望者に送料実費で頒布中。詳しくは、都福祉局障害福祉部施設福祉課((電)03・5320・4159)へ。

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◆20030726 知的障害者 施設隔離から地域で生活へ 実現に支援環境の充実欠かせぬ(解説)――読売新聞

知的障害者の大規模施設「国立コロニーのぞみの園」(群馬県高崎市)について、厚生労働省の検討委員会は二十五日、できるだけ入所者を地域に移すべきだとする報告書をまとめた。(社会保障部 安田武晴)
 同園は、知的障害者の入所施設としては唯一の国立施設で、一九七一年四月に開設され、重い知的障害を持つ約五百人が生活している。
 報告書は、障害がある人もない人も人間らしく生活する「ノーマライゼーション」の考え方を強調。大勢の障害者が本人の意向に反し、施設に隔離されて生活している現状を見直すべきだと指摘した。そのうえで、障害が重くても、少人数で共同生活するグループホームなどで、地域社会の一員として暮らせるような仕組み作りを提案している。
 具体的には、本人の意向を尊重しながら、二〇〇七年度末までに入所者の三―四割を地域に移す計画。新たな入所者は受け入れず、定員を段階的に縮小する。移行先は、同園の周辺や本人の出身地などで、グループホームや中小規模の施設での生活を想定している。同園は、出身地の自治体や社会福祉法人などに、受け入れへの協力を依頼するとともに、移行後も責任を持って生活ぶりを見守る。
 知的障害者の大規模施設は「コロニー」と呼ばれ、家族で支えきれなくなった人の受け皿になってきた。国や県によって全国二十か所で整備されたのが六〇―七〇年代。障害に応じた医療や生活指導を受けながら暮らせる場所としての役割を果たしてきた。
 だが、集団生活に伴う極端な不自由さが指摘される一方で、わが国でもノーマライゼーションの理念が普及。一部の地方コロニーで施設解体の動きが出るなど、「施設」から「地域生活」への流れが加速し、国立コロニーの改革にもつながった。
 今回の報告を受け、厚労省の高原弘海・障害福祉課長は「人里離れた施設で一生暮らしてもらうような方法はやめる」と明言している。今後、地方のコロニーや、全国の中小規模施設も、地域移行を真剣に考えざるをえないだろう。
 ただ、障害を持つ人が地域で安心して暮らすには、支援サービスの充実が欠かせない。今年四月、福祉サービスを障害者が選んで利用する「支援費制度」が始まったものの、ホームヘルパーやグループホームの不足が懸念されている。特に、知的障害者のグループホームについては、五年間で約七千人分増やすという国の計画にも「全然足りない」との声が上がっている。
 いまだに「施設にいる方が幸せ」と考える自治体職員や家族がいるほか、退所による減収を恐れる施設関係者もいる。障害を持つ人が地域で暮らすことに住民が反対するケースもある。「地域移行」の実現には、乗り越えなければならない壁は多い。
 検討委員会座長の岡田喜篤・川崎医療福祉大学長は会合で、「施設での生活を前提にしてはならないことは、先進国では常識」と強調した。障害があっても、行政や地域の支えを受けて、自分のしたいこと、できることに積極的に取り組みながら生活できる。そんな仕組みを、一日も早く作って欲しい。

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◆20030802 知的障害者援護施設・西駒郷、5年間で地域に250人移行案/長野――朝日新聞

「脱施設」に取り組む県の知的障害者総合援護施設「西駒郷」(駒ケ根市、宮田村)について、県は1日、今後のあり方を示す基本構想の「素々案」を発表した。5年間で約250人の地域への生活移行を進め、10年後は定員(500人)を40〜100人にすることを目指すことなどを盛り込んだ。
 素々案では、グループホームを整備して生活の場を確保し、障害者対象のヘルパー養成講座を開くなどして就労支援を行い、日中活動の場を提供する。10年後には、定員を40〜100人にし、通所更生(定員20〜40人)と通所授産(定員約60人)の両施設を開設して、在宅障害者を積極的に支援するという。県のホームページ(http://www.pref.nagano.jp/index.htm)で公表し県民から意見を募り、10月に基本構想を策定するという

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◆20030813 小田島栄一さん 知的障害者が脱施設を訴え(ぴーぷる)――朝日新聞

「なぜ簡単に施設に入れるのか、僕たち抜きで決めるのはやめて」。知的障害者本人でつくる「ピープルファースト東久留米」の小田島栄一さん(59)は機会があれば、脱施設への思いを行政や福祉関係者に訴える。
 厚生労働省の「障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討会」ではオブザーバーに選ばれた。先月の会合で自らマイクをとった。こうした場での知的障害者本人の発言は異例のことだ。
 入所経験は小学6年生から。人生の多くを施設で過ごした。アパートでの自立生活開始は6年前、50歳を超えていた。入りたくなかった。もっと若いときに出ていれば――。その怒りや悲しみが原点だ。 (清川卓史)

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◆20030818 隔離の時代は終わった コロニー縮小(社説)――朝日新聞

群馬県高崎市の山中に何棟もの建物が点在する。重い知的障害のある人たちの大規模入所施設、国立コロニー「のぞみの園」である。
 500人ほどが1棟に25人ずつ暮らしている。1部屋に3、4人。食事や入浴は決められた時間通りに進められる。
 作業場も趣味を楽しむセンターも診療所も運動場も広大な敷地に備わっている。人里離れたところで営まれる別世界だ。
 唯一の国立コロニー、のぞみの園のあり方を議論してきた厚生労働省の検討委員会が、知的障害者に対する施策の抜本的な転換を求める報告をまとめた。
 だれもが地域でその人らしく生きるという考え方に沿って、07年度までに3〜4割の人が施設を出て周辺地域や出身地のグループホームなどで暮らせるように、と提言したのである。
 30年も前から、大規模入所施設を反省し、「脱施設」に取り組み始めた欧米諸国とは対照的に、日本は施設を増やし続けてきた。遅すぎた感はあるが、数値目標を盛り込んだ報告が出たことは歓迎したい。
 地域での暮らしを確かなものにするには、多くの壁を乗り越える必要がある。
 71年に開園したのぞみの園に入っている人の平均年齢は53歳。入所期間は27年に及び、出身地も全国にまたがっている。国が施設に偏った予算の配分を変えることはもちろんだが、全国の自治体も入所者を迎えるための住まいやサービスなどの整備を急がなければなるまい。
 滋賀県は、知的障害者が県内どこに住んでも24時間、365日、在宅でサービスを受けられる仕組みを築いている。
 ある施設の職員たちが、地域で暮らす障害者のためにボランティアでホームヘルプサービスを始めたのが発端だった。
 職員たちが独立し、96年、甲賀郡に地域支援の拠点「れがーと」を設立した。ヘルパー派遣をはじめ日中預かり、夜間預かり、休日に映画や買い物に付きそうサービスなどを多様に提供してきた。
 県はこの試みに注目し、県内各地に同様の在宅サービス網をはりめぐらした。
 滋賀県の試みでとりわけ注目されるのは、グループホームの体験宿泊だ。
 重い知的障害がある26歳の男性は、2年前から体験用のグループホームに毎週通って2泊程度の宿泊を重ねている。50代の両親と暮らしているが、親はやがて老いる。将来のグループホームでの暮らしに備えた予行演習だ。この間、彼は自分でできることが格段に増えた。「先行き、施設という選択肢は消えた」と母親は語る。
 長野県や宮城県でも、コロニー縮小に向けた準備を独自に始めている。
 のぞみの園には、入居者や親たちにきめ細かく配慮しながら、自治体や民間施設のモデルになりうる「脱施設」を実行してもらいたい。

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◆20030827 知的障害者グループホーム、実情は… 負担ずしり(脱施設へ)――朝日新聞

家族や地域住民の理解と並んで、知的障害者が入所施設を出て地域で生活するための課題として挙げられるのが、経済的な問題です。「施設にいるときは貯金ができたのに、グループホームで暮らすようになったら赤字続き」。こんな声もよく聞かれます。地域移行を進めるという掛け声とは裏腹に、国や地方自治体の支援が施設に偏っていることが大きな要因のようです。
 (清川卓史、編集委員・生井久美子)
 
 ○家賃重く赤字月3万円
 由美子さん(55)は春、東京都中野区の知的障害者入所更生施設「愛成学園」から、学園と同じ法人がマンションを借りて運営するグループホームに移った。一緒に園を出た女性3人と暮らす。
 入所から2年、「外で暮らしたい」という願いがかなった。個室のテレビで気兼ねなく大好きな巨人を応援できるのがうれしい。生け花サークルにも通い始めた。
 だが、経済的な不安は大きい。月額約6万6千円の障害年金(2級)と、都の家賃補助や福祉手当などを合わせた月の収入は約9万8千円。支出は家賃分担の3万5千円や食費、交通費など12〜13万円。毎月2〜3万円の赤字だ。作業所で仕事をしているが、手取りは月3700円だ。両親は亡くなり、支援する親類もいない。
 学園の片山泰伸施設長(43)は「ある程度の給料がもらえる仕事があればいいが、蓄えを使うしかない」と気をもむ。貯金の残高は60万円。最終的に生活保護を受ける選択もあるが、申請や生活するうえでの制約も多い。
 
 ○長期入所なら貯金も可能に
 由美子さんは学園にいたとき、年金から入所経費の自己負担分約1万9千円を出したが、ほかには使うことは少なく、月約4万円は貯金できた。入所者60人の平均入所期間は33年で、1千万円を超える貯金がある人もいるという。
 4月に障害者支援費制度が導入されて自己負担分は引き上げられたが、施設と地域で暮らす人との格差は大きい。都の試算=図=によると、中・軽度の場合、入所していれば月3万円程度の貯金が可能だが、グループホームの場合は残額の2万円余りで昼食代や交通費などを賄う。都の独自支援を受けても、収入が年金だけでは多くの場合、赤字になるという。
 入所者は医療費の自己負担はないが、施設を出ると障害の程度や所得によって負担が生じ、格差拡大の要因になる。
 愛成学園では99年に地域移行を目標に掲げ、これまでに四つのグループホームに13人が移った。しかし、地域移行を打診された保護者は当初、ほとんどが反対した。
 百合子さん(38)の母親(63)も「職員の目が届くし、お金の面でも安心」と反対した。いまはグループホームで生き生きと生活する百合子さんをみて、決断は間違っていなかったと思うが、不安もある。百合子さんは授産施設で働いて月約5万円の収入があり、生活は安定している。「失業したり、体調を崩して働けなくなったりしたら、年金だけでは暮らせない」。母親は自分が死んだ後が心配という。
 学園の職員は「赤字でも10年生活できる貯金があることが、地域移行できるかどうかの目安の一つ」と話す。片山施設長は「家賃補助など障害者への支援だけでなく、行政はグループホームを支える世話人の待遇改善や研修などにも力を入れてほしい」と強調する。
 
 ○会社が倒産し、新生活を断念
 和夫さん(60)は2月、グループホームから宮城県大和町の船形コロニーに戻った。昨年10月に移ったものの、働いていた廃棄物処理会社が倒産、月2万円ほどの収入がなくなった。病気で入院し、医療費の支払いで貯金も底をついた。
 同県には都のような家賃補助などはない。船形コロニーは脱施設を進めているが、仕事が見つからず、地域で暮らす希望がかなえられない人もいる。和夫さんを送り出した吉川正憲園長(55)は「年金額が低い障害の軽い人は、仕事で収入があるか、貯金が十分ないと、地域で暮らせない。リストラにあう可能性もある。医療費の助成や月2、3万円の家賃補助があれば随分助かる」と話す。
 (障害者は仮名)
 
 ◇施設に偏る国の支援策
 政府は新障害者基本計画(03〜12年度)で脱施設を打ち出したが、実現に向けた財政的な裏付けは明確ではない。厚生労働省研究班の分析では、これまで知的障害者関連の予算の7割が入所施設の経費に投じられており、その比率は03年度も大きく変わっていない。
 東京都は、地域移行策としてグループホームの整備費補助や運営費への助成、家賃補助などの制度を作り、03年度予算で3億5600万円を計上している。都のような独自の制度がある自治体は少ない。都の有留(ありとめ)武司障害福祉部長は「国は観念的に脱施設というだけで、何ら施策を講じていない。施設と地域生活の費用負担のアンバランスを見直し、施設偏重の予算構造を変えないと地域移行は進まない」と話す。
 また、河東田(かとうだ)博・立教大コミュニティ福祉学部教授(54)は「国が入所施設の削減計画を立て、地域生活の支援策を充実させなければ、脱施設は実現しない」という。
 河東田教授によると、脱施設を達成したスウェーデンでは86年に法律に全入所施設の閉鎖を明記、97年にはその期限を99年末と定めて、解体計画を進めた。一方で、地域で暮らすための生活保障を充実させた。現在、多くの知的障害者の月収は、平均的な市民の手取りとほぼ同じ約15万円。約9万円の年金に、住宅手当約5万円、日中通うデイサービスの活動手当約1万円が加わる。
 河東田教授は「脱施設のためには、まず国が生活の基盤を保障する必要がある。日本でも年金額を上げ、住宅手当を設けるべきだ」と指摘する。
    *
 ◇体験、意見、感想をお寄せ下さい。連絡先の電話番号を付記して下さい。
 <郵便>〒104・8011 朝日新聞社くらし編集部
 <ファクス>03・3549・0813
 <eメール>水曜日は社会保障 hoshou@asahi.com
 
 ◆東京都が試算した平均的家計
 (中・軽度障害者1人あたりの月額)
 ○施設入所
 <収入>
 障害年金(2級) 6万6417円
 <支出>
 経費の自己負担分  3万800円
 −−−−−−−−−−−−−−−−
 残額       3万5617円
 
 ○グループホーム利用
 <収入>
 障害年金(2級) 6万6417円
 福祉手当     1万5500円
 家賃補助     1万2000円
 合計       9万3917円
 <支出>
 家賃       3万4645円
 食費(朝晩)   2万3911円
 共益費      1万2463円
 合計       7万1019円
 −−−−−−−−−−−−−−−−
 残額       2万2898円

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◆20030828 宮島渡さん 生活を取り戻す地域ケア(ここが聞きたい) /長野――朝日新聞

「アザレアンさなだ」施設長(44歳)
 
 通所介護や一時宿泊などを24時間態勢で提供する「小規模多機能サービス」――。厚生労働省の「高齢者介護研究会」は6月、お年寄りが尊厳を保ち、在宅生活を続けられる新たなケア像を打ち出した。その先取りとして注目されているのが、老人ホームと宅老所・グループホームを併せ持つ「アザレアンさなだ」(小県郡真田町)の取り組みだ。宮島渡施設長に、小規模多機能サービスの可能性を聞いた。(聞き手・細川治子)
 
 ――宅老所やグループホームを運営している特養は珍しいですね。
 6年前、一軒家を借りて、特養のお年寄りを連れていく「逆デイサービス」を始めたのがきっかけです。日中、雪かきや植木いじりをしてもらったら、お年寄りは生き生きした。県のモデル事業として補助金を受け、翌98年には、グループホームとして制度化された。
 今は町内に、グループホーム3カ所、宅老所2カ所がある。宅老所は、さらに2カ所増やす予定です。
 ――なぜ施設から出たのですか。
 お年寄りの欠点や弱くなっているところを訓練したり教育したり、治療したりするのが、老人ホームのモデルだった。本人の意思と関係なく、歌ったり踊ったりさせるのが、能力を引き出すことなのかなと疑問に感じた。ぼく自身、本人をケアの「対象」ととらえ、「主体」にしてこなかった原体験がある。
 むしろ、その人を形づくってきた生活を取り戻す環境とケアを提供することで、自分を取り戻させることができると思った。社会資源をうまく使いながら、暮らしを自分たちで作る喜びを求め、地域という場所を選んだ。
 ――痴呆症の進行を遅らす効果はあったか?
 経験から言うと、物を取り上げたり、役割を奪ったりすると、痴呆症は進行する様に見える。今までのケアは、こぼさずに食べることをリハビリだと要求してきたが、それはしつけ。食事の楽しみを味わってもらう視点が欠けていた。喜びや笑顔のある生活を大事にすることが福祉だと思う。
 ――「脱施設」となると、特養の存在意義は。
 サービスの質・内容によって、利用者が選択すればいい。ぼくらは、利用者の基準にかなうものを用意したいと模索している。将来的には特養は、若年の障害をもった人の利用も考えられる。
 国は、施設に画一的な基準をあてはめ、自宅か施設かという二元論だったが、「地域ケア」がすき間を埋める。自宅のすぐそばに宅老所やグループホームを作って、施設の機能を届ければ、生活の拠点になる。小規模で多機能だったら、融通がきくし、コストも安い。
 ――「特養機能」の出前ですね。
 配食サービス、公民館を使ったサテライトケア、訪問入浴、ホームヘルプもそう。特養はそれらのサービスを、人材的に、資金的にバックアップできる。ただ、住民ボランティアなど、地域と有機的につながることが重要だ。施設に併設した宅老所やグループホームでは地域性は築けない。施設を多機能化するのではなく、地域を多機能化しなければならない。
 ――介護保険制度がニーズ掘り起こしのきっかけになったのですか?
 3年間の認定調査の結果、要介護者の2分の1が痴呆であることが明らかになった。治療・訓練中心のケアから、実証分析を重ねた末、ケア論が確立された。それは、痴呆ケアに代表される高齢者の尊厳を守るケアで、厚労省の新しいモデルになっています。
  *
 みやじま・わたる 特別養護老人ホーム「アザレアンさなだ」施設長。大学卒業後、東京都内の信用金庫に勤務。茨城県内の老人ホームの生活指導員を経て、93年から現職。県社会福祉審議会委員。東京都出身。

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◆20030830  知的障害者地域移行に県独自の支援策を 県障害者施策推進協=宮城――読売新聞

県障害者施策推進協議会は二十九日、重度知的障害者の地域生活移行へ向けた基本方針をまとめた。
 受け皿となるグループホームについて、世話人を増やし、医療ケアに対応できるよう看護師を配置できる県独自の制度を新設すべきだとした。日中活動の場となる通所などの小規模施設も、計画的に配備する必要があるとした。また、二十四時間対応型の相談支援拠点を整備すべきとした。
 地域移行にあたっては、本人と家族の意向を踏まえて段階的に行い、施設に在籍したまま街での生活を体験する「自立訓練」を積極的に活用すべきだとした。 県福祉事業団は昨年十一月、知的障害者施設「船形コロニー」を二〇一〇年までに解体し、入所者を地域のグループホームに分散させる方針を発表しており、これを契機に、協議会の専門部会で基本的な考え方を検討していた。

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◆20030920 障害者20人が来月退所、脱施設に向け一歩−−大和町「船形コロニー」 */宮城――毎日新聞

◇障害者20人が来月退所…グループハウスへ−−脱施設に向け「一歩」

 ◇出身地に近い場所選び順次入居−−整い始めた地域のバックアップ体制

 大和町の知的障害者入所施設「船形コロニー」で生活している485人のうち50人が、年度内に地域のグループハウスなどでの生活を始めることになった。うち20人は、10月末までに施設を退所する。コロニーを運営する県福祉事業団が打ち出した「2010年までの施設解体」の第一弾で、脱施設に向けた具体的な一歩となる。【野原大輔】

 コロニーには、作業所に通う人を対象にした「授産者施設」と、それ以外の人の「厚生施設」があり、それぞれ85人、400人が入所している。

 このうち、年度内に退所するのは、授産者施設の20人と厚生施設の30人。10月に完成する県内10カ所の民間グループホームから、出身地に近い場所を選び順次入居する計画となっている。

 ただ、定員などから直接グループホームに移れない場合は、出身地に近いコロニー以外の知的障害者入所施設にいったん入り、グループホームに空き定員ができたり、新たなホームが完成したところから順に入居する。

 現在、施設を出る順番や介護・自立訓練のメニューを、グループホームや受け入れ先の施設と調整している。

 施設を出て、障害があっても地域で暮らす「ノーマライゼーション」は障害者福祉の潮流となりつつある。

 障害者自身が福祉サービスを選択する「支援費制度」が4月から始まったことも、それを後押ししており、県も民間福祉法人と連携して通所施設やグループホームなどの整備を進める方針を打ち出している。

 県福祉事業団は今後、段階的にコロニーの定員を削減し、220人いる臨時職員数も削減する。50人の退所に伴い、まず20人を減らす予定という。

 同事業団は「地域のバックアップ体制が徐々に整い始めてきた。今年度中に実績を作り、施設解体への道筋をつけたい」と話している。

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◆20030902  長崎で福祉トップセミナー 身体、知的、精神3障害へ給付対象拡大でアピール――読売新聞

「介護保険制度見直し議論急務」
 障害者施策の介護保険への移行などについて議論する「福祉のトップセミナーin雲仙」が先月三十、三十一日、長崎県島原市の島原復興アリーナで開かれた。地方自治体の首長や福祉関係者らによるシンポジウムなどが行われ、介護保険のサービス給付対象に身体、知的、精神の三障害を加える制度見直しについて、早急に議論すべきだとする「長崎アピール」を採択した。
 セミナーは、同県の社会福祉法人・南高愛隣会の主催、読売新聞社の共催で開かれた。メーンの「首長夢トーク」では、宮城、滋賀、佐賀の三県知事と、愛知県高浜市、長崎県佐世保市など三市一町の首長が参加。障害を持つ人が、施設ではなく、自宅やグループホームで地域社会の一員として暮らすための方策、そのための財源確保などについて意見交換した。
 長崎アピールには、障害者の福祉サービスを介護保険に組み入れるにあたり、障害者ケアマネジメント制度の確立と、長時間介護を必要とする人へのきめ細かな配慮が必要なことなどを盛り込んだ。
 セミナーではこのほか、地域生活支援の実践報告やシンポジウム、障害者雇用の現状と問題点、入所施設解体の動きなどについての講演も行われた。

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◆20031003 分け隔てない社会つくろう 「チャレンジド」(声) 【大阪】――朝日新聞

無職 清水崇之(兵庫県西宮市 37歳)
 私は身体障害者です。障害者の当事者として言いたいことがあります。9月23日の「心を合わせて呼称変えよう」に同感です。28日の「尊敬をこめてチャレンジド」は、全くその通りだと思います。
 「チャレンジド」とは欧米で最近使われる言葉です。障害者は挑戦することを神から与えられた者であるとの考えからきています。健常者という言葉は嫌いです。日本人は分けることが好きな人種です。だから、障害者、健常者という表現をするのでしょう。北欧では脱施設が進んでいます。分け隔てをすることは間違っているとの考えからでしょう。
 障害者はかわいそうな人間だと思っておられるでしょうが、高齢になれば障害を負うかもしれないし、いつ交通事故に遭って障害を負うかもしれません。ひとごとではないはずです。
 一人でも多くの方がこの問題に目を向けられることに期待します。

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◆20031010  「脱施設」へ制度改革を 定員削減など提案相次ぐ 障害者の自立探るシンポ――読売新聞

障害を持つ人が、施設でなく地域で生活する方策を探る連続セミナー「当事者エンパワメントシンポジウム」(全十回)が始まった。障害者の地域生活支援サービスを提供する「全国自立生活センター協議会」の主催。初回は今月四日、大分県別府市で開かれ、主に「脱施設」の観点から議論が行われた。
 「エンパワメント」とは、障害者が主体的に福祉サービスなどを利用しながら、自立する力を得ること。シンポジウムでは、同協議会の中西正司代表、熊本県の東俊裕弁護士ら八人が発言した。
 中西代表は「入所施設からグループホームへ出る人が増えても、施設が新規入所者を受け入れては意味がない」と主張。「まず、公立施設が定員規模を縮小し、同時にグループホームなど居住の場を整備すべきだ」と話した。
 また、東弁護士は、米国の脱施設化の動きを報告。「施設入所者に手厚い予算配分を抜本的に転換しない限り、日本で脱施設は難しい」と訴えた。
 これに対し、厚生労働省の高原弘海・障害福祉課長は「地域での生活を支えていく方針は、国も同じ」と強調。国立知的障害者施設の定員縮小計画などを紹介したが、「新規入所を止めることについては、もっと議論が必要」と話した。
 一方、大分県内で障害者の地域生活支援事業を展開する社会福祉法人シンフォニーの村上和子理事長は、「入所施設には職員と利用者しかいない点がおかしい」と指摘。地域の人たちとふれあう通所型施設や作業所などの実践を報告し、「障害があっても、移動、食事、消費、気配りの四つの力を身につければ地域で暮らせる」と強調した。
 このほか、障害者たちもパネリストとして登壇。知的障害を持つ熊本市の田崎和範さん(28)は「自立生活では、他人への配慮が大切」と体験を発表。精神障害を持ちながら地域で暮らす二人の女性は、日本の精神医療の遅れを指摘した。
 次回のシンポは、十一月一日、仙台市の仙台国際センターで。その後は、札幌市(十一月三十日)、高松市(十二月六日)と続く。問い合わせは、同協議会((電)0426・60・7747)へ。

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◆20031015 コロニー雲仙の25年:上 重い障害、支えられ街へ(脱施設へ)――朝日新聞

「ふつうの場所でふつうに暮らしたい」。知的障害のある人たちの願いを受けとめ、脱施設に取り組んでいるのが社会福祉法人「コロニー雲仙」(本部・長崎県瑞穂町)です。いったん施設に入ると、ほとんどの人はそこで人生を終えるのに、この施設は「九州のドン・キホーテ」と異端視されながら、25年も挑戦し続け、支援のネットワークを広げています。2回にわたって報告します。
 (編集委員・生井久美子)
 
 ○9年で「奇跡」の社員
 なだらかな坂の下に有明海が広がる。県道沿いにペンション風の三角屋根の家が3軒並ぶ。施設を出た障害の重い人たちが職員と暮らす家だ。
 午前7時。その一軒でグループホームの「夕日ケ丘住宅」を訪ねると、コーヒーの香りがした。居間の大きな窓から朝日が差し込む。大柄な男性が朝食を並べながら元気にあいさつしてくれた。
 「矢野敏郎です。44歳です。コロニーにきて23年目です」
 初対面の人には自分の生年月日、住所と電話番号を伝える。
 ダウン症やてんかんなど重い障害のある仲間5人と、住み込み職員1人との共同生活だ。食事前にそうじをし、7時45分に自室で両親の仏壇に手を合わせて出勤する。
 敏郎さんは知的障害だけではなく、自閉症もある。それが、この町にきて大きく変わった。職員からは「奇跡の人」の1人と言われる。
 理事長の田島良昭さん(58)は、敏郎さんと出会った24年前の冬を鮮明に覚えている。
 施設を建てるため、ヒノキの山を切り開いているところに両親とやってきた。黒のトレンチコートに革靴姿。身長180センチを超す体で突然、倒れる大木めがけ突進した。興味を持ったのだが、危険なことが本人はわからない。「危ないっ」。田島さんが叫び敏郎さんをはじき飛ばした。
 当初は毎日パニックになると大声で走り、職員に頭突きをくらわせた。ところが、子牛の養育を通した訓練で仕事に目覚め出す。生後1週間の子牛に朝夕ミルクを飲ませる。なつく子牛に「かわいいねえ」と声をかけるようになった。
 1年後に「弁当を持ち、園外実習に行きたい」と言い出した。コロニーは毎年、実習で力をつけた人を華やかな「卒業式」で祝い、地域に送り出す。その姿にあこがれた。4年目に夢がかなう。食肉加工場で3年間実習し、今の福祉工場でそうめんを作り始めた。
 福祉工場の社員の給料は実習生の20倍。帽子の色も社員は白、実習生は緑。「社員」を目標にした。「頑張れば、いいこといっぱいあるけんね」。職員も励ました。
 翌年、施設に籍を置いたまま、地域の住宅の個室で暮らし出す。時折、パニックも起こしたが、着実に覚えていった。
 実習9年目の97年、社員になり施設を卒業した。月給は手取り9万5千円。めいに初めてお年玉を渡した。毎月、鉄道を乗り継ぎ、3時間かけて福岡の姉の所に帰れるようになり、エアロビクスに通う。
 女性職員が疲れてしょんぼりしていると、「お熱ある」と心配する。失敗を注意されても「母さんお肩をたたきましょ」とユーモアで和ませる。
 姉の財前順子さん(47)は「あきらめなかった職員に感謝しています。体や心の中の生きる力を芽吹かせてもらった」と感激する。
 工場長らは言う。「何もできないのではなく、何もさせてもらえない人たちが多い。体験と自信を持つことで彼らは成長していく」
 
 ○職員も入所、生活体験
 コロニーは85年から重度の人が地域で暮らせるための自立訓練を優先した。97年には重度棟の20人全員が地域に出た。
 精神病院でベッドに縛られ、ひどい床擦れに苦しんでいたダウン症の千代子さん(45)が牧場でピンクのヘルメットをかぶり乗馬を楽しんでいた。23カ所の施設で断られた強度行動障害の浩司さん(32)は職員と肩を組み散歩していた。ここでなければ鍵付きの部屋で拘束されていた人たちだ。
 雲仙はなぜ、こんな取り組みができるのか。
 田島さんは施設を作る前の73年ごろ、続々と出来た全国の入所施設を視察した。新しい建物に張り切る職員、安心する親……。だが、入所者は生気のない目で「おうちに帰りたい」と訴えた。
 「本人の願いをかなえるのが我々の仕事」。田島さんは視察後、仲間と語り合った。開設した施設の台所横の6畳間に妻子と住み、集団生活の過酷さを身をもって知った。新人職員は半年間の研修中に入所施設生活を体験する。「一日も早く出たいと実感する」ことが職員教育の出発点だ。
 入所施設に籍を置いたまま、地域の住宅で暮らす独自の仕組み「自立訓練棟」もこの実感から生まれた。25年間に280人を施設から送り出し、県内800人の地域生活を支えている。
 
 <コロニー雲仙> 瑞穂町の二つの入所施設を出発点に、社会福祉法人南高愛隣会が長崎県内に広げた知的障害者の地域生活支援サービス事業などの総称。設立は78年。
 四つの地域サービスセンター、暮らしの場として45のグループホーム、12の自立訓練棟などを運営。社会自立への教育訓練、職業能力開発、福祉工場、就労支援、在宅支援事業などで、職員は190人。入所施設(定員100人)は今35人が暮らす。厚生労働省の研究班の調査では、知的障害者で入所施設に入ってから地域に出て暮らす人は1年にわずか1%足らず。脱施設を進める雲仙は25年の平均が12%だ。
 
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◆20031016 コロニー雲仙の25年:下 愛する人と暮らしたい(脱施設へ)――朝日新聞

幸せって何だろう――。25年間、知的障害者の脱施設を進めてきた社会福祉法人「コロニー雲仙」(本部・長崎県瑞穂町)が新たな試みを始めています。「愛する人との暮らし」を応援しようとこの4月、「結婚推進室」をスタートさせたのです。いろんな心配の声もありますが、恋愛をタブー視せずに、取り組んでいます。(編集委員・生井久美子)
 
 ○タブー視せず結婚支援
 「一人よりも二人のやすらぎの人生を!」
 ピンク色のハートのポスターがはってあった。「結婚推進室ぶーけ」の入り口。コロニー雲仙の県南地域サービスセンターにある。
 コロニーの今年の目標は「愛する人との暮らしの支援」だ。グループホームのベテラン世話人で室長の納谷まさ子さん(54)と宮崎登喜子さん(57)が相談にのる。
 納谷室長は「あんなキラキラした笑顔を見たことない」と交際を始めたカップルに驚く。「『心に思っている人がいる』と堂々と話せる場を作ったのがよかった」
 結婚だけではない。お茶飲み友だちや、友人同士で暮らすなど新しい家族や仲間づくりも探っている。
 開設の発端は昨年12月10日だ。理事長の田島良昭さん(58)が障害者関係の功労者として内閣総理大臣表彰されたお祝いの会でのことだ。
 「子ども」たちが集まった。コロニーは地域で暮らす800人を支援している。田島夫妻はうち47人(32歳〜81歳)の「親」(保護者)になっているが、40人が駆けつけたのだ。
 だが、表情に大きな差があった。40人中、結婚しているのは5人。35人がグループホームで20年も暮らしている。
 「結婚して4歳の息子を連れてきたヤスコは輝いていたが、独り身でグループホームで暮らす子たちは表情が乏しい」。田島さんは気付いた。
 グループホームを県内に45カ所(160人)もつくり脱施設を進めてきた。いろんな支援策を打ち出してきた。働いて自立するように、施設を早く出られるように、励ましてきた。女性には「男にだまされるな」と、教えてきた。
 それでよかったか。
 田島さんは自問した。恋愛をタブー視してきたのではないだろうか。愛し愛されることの大切さを教えていなかったのではないか。
 最高齢の善一さん(81)は昔、名古屋で3カ月一緒に暮らしていた女性のことを話す時が一番生き生きしていた。人生で最もときめいていた時期だからではないか。
 2月、コロニーの親の会に集まった500人の家族に、田島さんは「これからは子どもの立場に立つ」と宣言し、結婚推進室を作ると話した。
 それまでに数組のカップルが親の反対で結婚をあきらめていた。
 
 ○デート付き添い、家族の相談も
 県南のグループホームを中心に5月、25歳から55歳の男女140人にアンケートした。回答があった90人のうち、70人が結婚を望んでいた。14人が交際したいと答えた。希望する相手の名前を書いた人が31人もいた。
 推進室の納谷さんたちの予想よりもはるかに多かった。みんな親や職員に気をつかっていたのだとわかった。
 推進室に登録した45人を対象にお見合いや合コンも開く。いま18組がデートを重ねる。互いの気持ちを確かめ、初デートに付き添う。いじめや虐待などのつらい体験から、思いを伝えるのが苦手な人の「通訳」もする。家族の相談にものる。
 グループホームに暮らす一恵さん(40)は両親が3歳で離婚し、15歳まで養護施設で育った。家庭を持ちたい。ずっとそう思ってきた。おだやかな秀高さん(39)と相性がいいのではないか。納谷さんたちは考えた。レストランで出会いの機会を作った。
 1週間後には2人で買い物に出かけた。映画にも行くようになった。連絡をとるために一恵さんは携帯電話を買った。秀高さんの携帯電話とうまく通じない。一恵さんは仕事が手につかなくなり、交際の中断もあった。2人の心が通じ始めると、表情は和らいだ。
 秀高さんの母親(61)は7月、サービスセンターを訪ねた。「結婚後も今まで通り支援してください」と前田辰郎所長(45)に頼んだ。「親も勇気を出さんと」と母親は言った。2人は9月22日に結婚式を挙げた。
 家族もさまざまだ。「波風をたてなくても」という心配もある。財産などの問題もある。子どもができたら育児は。結婚生活に失敗したらどうするのか……。今はまだ家族の多くが反対する。推進室から交際の打診を受けて、「とんでもなか」と反発した母親もいる。
 一方で、子どもを産み、支援をうけながら働く夫婦をみて、「息子に相手を」と頼んできた親もいる。
 前田所長は言う。「人を好きになってわくわくしたり、嫉妬(しっと)したり、ほっとしたり。時にはうまく行かないこともある。それが人生ですたい。一度限りの人生。何もなかより、よっぽどよかじゃなかですか。それを支援して行きたい」
 
 ○ホーム運営で職員に戸惑い
 「結婚して次々にグループホームからいなくなれば、そもそもホームが成り立たなくなる」「ホームで暮らすリーダー的な存在の人がいなくなると運営しにくい」。職員の中にも戸惑いがある。
 いま交際中の18組のカップルの大半はグループホームで暮らしている。
 田島さんは「グループホームは入所施設よりはいい。だが、幸せになるために必要なければ解体すればいい」とさっぱりしている。脱施設の次は脱グループホームへ。「本人の願い」をかなえるための試行錯誤は続く。

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◆20031020 訪ねて触れる、施設の生活 のぞみの園、催しで交流 高崎 /群馬――朝日新聞

1日から独立行政法人化された高崎市寺尾町の「国立重度知的障害者総合施設のぞみの園」(旧国立コロニーのぞみの園)で19日、「ふれあいフェスティバル」が開かれ、訪れた市民と入所者、職員が交流した。催しの締めくくりとして、入所者で作る「あすなろ合唱団」が仮設ステージ前に並び、歌声を響かせた。
 
 施設見学では、延べ35人の市民がそれぞれ1時間半ほどかけて、木工や印刷などの作業所、診療所や入所者の生活の場である寮を見て回った。
 重い知的障害に、二重三重の身体障害がある入所者24人が暮らす「いちょう寮」では、居室や食堂を見学した。一人ひとり、障害の程度や部位が違うので、きめ細かな介助が必要だという。
 同園の入所者の平均年齢は53歳。同寮の担当者は「普通の人の生活にできるだけ近づくように努力しているのですが、高齢化が進んでいることもあり、難しい時もあります」と説明した。
 入所者は現在499人で、出身地は全国各地に広がっている。旧国立コロニーは施設中心で進んできた国内の障害者福祉の象徴的存在だった。
 「脱施設」の流れを受け、厚生労働省の検討委員会は、同園の入所者の3〜4割を07年度までに、出身地のグループホームなど地域で暮らせるように、との最終報告をまとめている。

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◆20031022 福祉 障害者と地域壁厚く(これから…岩手の悩み:5) /岩手――朝日新聞

 「玄米コーヒーは、よくかき回してください」
 知的障害者の男性が、丁寧に接客する。
 「親切で、気持ちいいですね」と、もてなされた主婦(42)。この主婦が訪れたのは、雑穀を使った郷土食などをそろえたレストラン「自然(じねん)房」。花巻市内の「るんびにい広場」にある。
 広場は、知的障害者更生施設「ルンビニー苑(えん)」を運営する社会福祉法人光林会が00年に作った。施設で作った雑貨を売る店や、アートギャラリーなどもある。
 広場では、障害者8人が働く。「障害者が地域で働き、地域の人と交流を深められる場にしたい」と、苑長の三井信義さん(50)は語る。
 ■  □
 だが、広場での日々の売り上げは、そのまま経費に消え、「維持していくのがやっと」だ。収益事業なので、県などの補助金も受けられない。
 公的助成を受けながら、普通の会社に近い形で運営し、安定した障害者の雇用の場を目指すには、「福祉工場」という形もある。だが、それには最低賃金が補償される社員として20人以上の障害者を雇用できる財務基盤や、自前の土地建物を持つことなどが条件になる。
 しかし、広場の土地建物は、5年契約の賃貸。期限までに資金を捻出(ねんしゅつ)して買い取るか、別の場所を探して移転できなければ、存続できる保証はない。
 三井さんは思う。「障害者と地域をつなぐ試みに、もっと政治の理解があってもいいのに」
 この間も、不況でまっ先にリストラされる障害者が後をたたない。
 ■  □
 選挙のたびに、候補者たちは「福祉の充実」を声高に叫ぶ。だが、三井さんには、どの公約も空虚に響く。「我々は少数者。結局、ひとごとなのでしょう」
 衆院選で、自民、民主の2大政党対決が注目される中で、福祉や暮らしをめぐる争点はぼやけ気味だ。
 知的障害者と保護者らでつくる「県手をつなぐ育成会」の山口喜弘事務局長は「政策がより重視される今度の選挙では、もう口先だけの訴えでは通用しない」と、見る。候補者が、期限や数値などを示して具体的な政策を語っているか、現場の有権者は注視している。(田中陽子)
 
 <障害者福祉> 政府は、新障害者基本計画(03〜12年度)で、施設入所中心の施策から、「脱施設」への転換を打ち出した。だが、その具体的な道筋はまだ見えず、知的障害者関連予算の約7割が、入所施設の経費に充てられている構造も、大きく変わっていない。
 仕事の場や住居の確保、住民の理解など、地域の受け皿づくりが今後の課題だ。約46万人いる知的障害者のうち、施設に入所しているのは約13万人。県内では約7400人のうち、約2300人が施設で暮らしている。
 行政は、今ある制度に障害者を当てはめているだけだ

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◆20031126 障害者支援費の行方 膨らむ介助、足りぬ予算 ――朝日新聞

「障害者が自ら選ぶ福祉」を掲げた支援費制度が始まって8カ月。ホームヘルプなど在宅サービスの利用が予想以上に伸びた半面、国の補助金が初年度から大幅に足りなくなりそうです。障害者団体や自治体は予算確保を厚生労働省に求めていますが、展望は見えていません。このままでは地域で暮らす障害者に必要なサービスが低下する恐れがあります。支援費をきっかけにサービスを使い始めた現場を訪ね、制度の行方を考えました。
 
 千葉県市川市。週末のJRの駅では、知的障害のある人が若いヘルパーと出かける姿をよく見かけるようになった。
 市の昨年度の知的障害者のホームヘルプの利用者はわずか5人。それが支援費導入で一挙に25倍の128人に増えた。ほとんどが外出支援などの移動介護の利用だ。
 障害が重い太郎さん(33)=仮名=は月2回、ヘルパーと東京都内のデパートに行くのが楽しみだ。これまでは60代の父母と出かけていた。だが、太郎さんは身長175センチと大きい。「体力がありあまって早足。ついていくのがやっとだった」と両親。「出かけないとストレスがたまるのか、家で階段を動き回り、母親にいらだちをぶつけていた」。外出支援は今や一家には欠かせない。
 歯医者や耳鼻科の通院に付き添ってもらう人もいる。動きが激しい人の場合、親だけでは通院できず治療が遅れたり、虫歯治療を全身麻酔で受けたりしていた人もいる。
 市の「手をつなぐ親の会」副会長の竜円香子さん(60)は「移動介護は生きていくのに切実。だから利用が急増した」。利用総時間は前年の14倍だ。市は身体、知的、障害児のホームヘルプ予算を昨年度の倍の1億6千万円計上したが、数千万円足らなくなりそうだ。
 担当課は「国の補助がなくても、市は実施したサービスの代金を支払わなくてはならない。地域支援の核の居宅介護を支えられなくては市民に信頼されない」という。
 
 ○脱施設へ強まる望み
 大阪市の馬渡健二さん(35)は今春、29年間の施設入所生活に終止符を打った。
 「店の人が毎朝、声をかけてくれるんです」。電動車イスで商店街を進みながら、馬渡さんは顔をほころばせた。脳性マヒで全身に障害がある。入浴トイレ、食事など生活すべてに介助が必要だが、支援費で月231時間が認められた。ワンルームマンションでの一人暮らしだ。
 福岡県にある施設は外出に身内の許可が必要で、手持ち現金は2千円までだった。介助の手間を考えジャージー姿が多かった。「一生施設で終わりたくない」。その一念で昨夏から準備した。
 地域に出て髪も染めた。自分と同じ重度障害者が施設から出る支援をするのが夢だ。「いつか結婚もしたい。二度と施設には戻りません」
 東京都の調査では、長時間支援が必要な全身性障害者のホームヘルプ1人当たりの月平均利用時間は233時間。前年度の1・5倍だ。東京都国立市は全身性障害者がホームヘルプ利用者の3分の1だ。今年度事業費(12カ月ベース)は約5億5千万円、一般会計の2・4%になる見込み。「補助金が確保されなければほかの行政分野に影響する」と深刻だ。
 
 ○制度存続に危機感
 支援費制度の導入前、知的障害者のホームヘルプの実施は全市町村の約3割だった。新制度はホームヘルプ単価を介護保険並みに上げ、事業者参入を促した。だが、そのサービス拡大の進展ぶりは国や自治体の予算対応を大きく上回った。
 朝日新聞が都道府県・政令指定都市・中核市にアンケート(有効回答率79%)を行ったところ、03年度のホームヘルプ事業費は前年度の約1・5倍に増える見込みだ。身体障害者の利用時間増、知的障害者の新規利用に加え、単価アップの影響も大きい。厚労省によると、サービス1時間あたりの費用は約3105円で前年度より636円(26%)増えた。
 障害者手帳などを持つ身体・知的障害者は約490万人だが、在宅サービス支給が決まっているのは約19万人。サービス希望者はさらに増え、04年度以降の予算確保も厳しい状況が予想される。
 このままでは障害者の地域生活を支える理念は看板倒れになりかねない。自治体からは制度存続を危ぶむ声も出ており、介護保険との統合や施設への手厚い財源配分の見直しを求める論議が加速する可能性もある。
 
 ◇ニーズ爆発、議論の好機
 高橋紘士・立教大学教授の話 支援費の予算が大幅に足りなくなったのは、これまで抑えられていた障害者のニーズ(需要)が爆発した結果だ。苦しみ、声を潜めていた障害者や家族がいかに多かったかを認識させた意味ではすばらしいことだ。支援費制度は本人の意思によってサービスを選ぶ理念はいい。だが、財源の裏付けがない欠陥が露呈した。財源調達の仕組みを含め、本格的な制度議論をする好機ととらえたい。
 
 ◆キーワード
 <障害者支援費制度> 行政が決めていた福祉サービスを障害者が選び契約できるようにした。保険料財源がある介護保険と異なり、費用は国や自治体の障害者福祉予算で賄う。ホームヘルプ事業では2分の1を国が補助し、残り4分の1ずつを都道府県と市町村が負担。03年度当初予算で国は278億円(前年度比14・5%増)を計上したが、5月までの実績で計算すると50億円程度不足する見通しだ。

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◆20031208 「安易な施設入所策、人権侵害」 知的障害者が都をあす提訴――朝日新聞

「施設の外で暮らせるような支援を十分せず、安易に、しかも遠隔地の施設に入所させたのは人権侵害」として、知的障害者施設の元入所者が9日、東京都を相手に2500万円の賠償を求める訴えを東京地裁に起こす。背景には地域の生活支援よりも施設入所を優先してきた福祉の現状がある。元入所者は「施設から出られない多くの障害者の声を代弁したい」と話している。
 訴えるのは社会福祉法人札幌育成園運営の寿都(すっつ)浄恩学園(北海道寿都町)の元入所者で、札幌市在住の松岡敏雄さん(43)。
 松岡さん側によると、松岡さんは東京都日野市にある都立の知的障害者施設七生(ななお)福祉園を90年に退所し、働きながら一人暮らしをしていた。94年、住み込みの職場を解雇され、緊急一時保護という形で七生福祉園に収容された。ところが、都は、同園が定員いっぱいで、都内のほかの施設にも空きがなかったことなどから、同市を通して松岡さんらと相談の上、95年2月から01年5月まで、寿都浄恩学園に入所させたという。
 松岡さん側は、地元で暮らせる支援があれば、学園への入所に同意はしなかったとし、「都はホームヘルプなど地域の支援を尽くさず、安易な入所措置を取った」と主張している。
 東京都障害福祉部は「訴状を見ていないのでコメントは控えたい」としている。
 
 ◇「脱施設」への支援体制問う
 〈解説〉世界的に障害者入所施設の縮小・解体など「脱施設」が進んでいる。日本も、障害のある人が街でともに暮らす「ノーマライゼーション」を政策に掲げているが、実際には障害者が地域で暮らすのを支える体制作りを怠り、入所施設を増やしてきた。その結果、13万人の知的障害者が施設で暮らし、施設から出られる人は年間わずか1%だ。東京に限れば、4千人近くが都外の施設にいる。
 政府の新障害者基本計画では「脱施設」が打ち出され、今年4月から、行政が決める措置制度に代わって、本人がサービスを選べることをうたった障害者支援費制度が動き出した。それでも、施設偏重の予算構造は変わらず、地域支援体制の整備は遅れている。今回の訴えは、こうした政府や社会のあり方を問うている。

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◆20031229 障害者運営のたこ焼き店開いた 岩谷勝さん(ひとメモリー)/大阪 ――朝日新聞

感謝される喜びを 岩谷勝(いわたにまさる)さん(62歳)
 
 河内長野市の焼き肉店「横綱」のオーナー。今年1月、駐車場の一角にたこ焼き店をオープンさせた。3人の知的障害者が働いている。
 
 見てよ、3人ともいい笑顔してるだろ。お客さんに「いらっしゃいませ」と口ごもらずに言えるようになったし、小麦粉をとき、たこ焼きをひっくり返す手つきは慣れたもの。週1回、水曜日の休みを除いて、午前11時から午後4時まで、頑張ってる。
 3人は45歳から60歳で、施設などで暮らしている。これまでは「ありがとう」と感謝ばかりする立場だった。それがいまは「ごちそうさま」と感謝される。この違いはすごいことだよね。
 行政は「脱施設」というけれど、グループホームの建設には地域で反対運動がまだ起きる。ならば、自分で地域の受け皿をつくろう、と決めた。好きなゴルフは、当分お預けだけど。
   *
 長女(33)は重度の知的障害者。4年前から自宅を出て知的障害者施設で暮らす。
   *
 周りからはずっと一緒に暮らしたら、と言われたこともある。でも、娘の自立を考えれば、若いほど順応できる、と思って決めた。
 昔、精神的に追いつめられた時期もあった。娘が小学生のころだった。車に乗せて海辺に行き、飛び込んで死のうと思った。黙っていたら、娘が急に「お父さん、帰ろ。おうち帰ろ」と言い出した。我に返って、車のブレーキを踏んだ。心の底まで見透かされていたんだ。
   *
 岡山県生まれ。中学卒業後、集団就職で大阪に出た。鉄工所の営業マンになり、29歳で父親になった。
   *
 娘と一緒にいる時間を増やそう、と42歳のときに脱サラした。焼き肉店の経営は苦しく、最初は家族が食べていくのに精いっぱいで、逆に忙しくて娘をほったらかしにしてしまった。
 3年目ぐらいから店が軌道に乗ると、せめて朝食だけは一緒に食べよう、と店の営業時間を短縮させた。
 娘の学校の保護者参観も保護者会も全部おれが出た。でも、あのころ学校に来る父親の姿は少なかったね。
   *
 最初の店の広さは9坪。事業を拡大し6年前に現在の店を開いた。従業員9人。40坪の店内は車いす専用のテーブルやトイレがあり、点字メニューもある。
   *
 うちも、よく家族で外食するけど、店に入ると人の少ない隅っこに座る癖がついているんだ。人に見られたくないから。でもそうじゃないよね。車いすでもくつろいで食事してもらおう。そんな店をつくりたくて引っ越しを繰り返したんだ。
 交通事故で車いすになった2人の兄弟が来たことがある。「初めて焼き肉店に来た」と大喜びしてくれた。目が見えない人が「初めてオーダーします」。やった。本当にやった、と思った。資金があったら、もっとすごい店をつくったのになあ。
   *
 小中学校などで講演する。自分の体験を包み隠さず話そうと思うが、まだ口にできないこともある。
   *
 子どもたちには、「知能の遅れも個性と考えて」と呼びかける。でも、まだ割り切れない気持ちも残る。車で海に飛び込むのをやめたことがあると言ったけれど、その後もいろいろあった。
 思春期だった高等部のころ、娘が暴れたり叫んだりすると、手足をしばったこともある。娘の成長にともなって、結婚、出産という問題も出てくる。娘は自分で結果をコントロールできず、親も教えることができない。そんな問題に直面したときの気持ち、まだ、なかなか表に出せない。
 卑屈な考えに吸い込まれそうになることもある。親より一秒だけ早く死んで欲しい。この子を見届けてから死にたい。すごい考えだよね。でも、そんな考えとは正面からぶつからないと、気持ちの揺れが残り、前へ進んでいけない。
 眠れない夜もある。その時は、使い切れないほどの金があったら何をしようかと考えるんだ。
 まず自宅の改装。次に、グループホームが入るビルを建て、温泉を掘り当てて、おれが生まれ育った岡山の清流のそばに施設を建て……。
 寝床でニヤニヤとそんなことを考える。夢みたいな話で楽しい。今が幸せだからそんなことを考えるのかな。
 (聞き手と写真・下地毅)

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◆20031229 脱施設へ本気の改革を 予算不足の障害者支援費制度――朝日新聞

「障害者が自ら選ぶ福祉」を掲げて支援費制度がスタートして9カ月。制度はサービス需要を掘り起こし、国の在宅サービス予算が初年度から約100億円も不足する財政問題が表面化した。厚生労働省はほかの予算を振り替えて急場をしのぐが、04年度以降も予算不足は避けられない。このままでは施設中心の政策が変わらず、「障害がある人も、ない人と同じように地域で生きる」という国が掲げるノーマライゼーションの理念は看板倒れに終わる。
 支援費制度は、障害者がサービス事業者を選び、契約する仕組みだ。市町村がサービス内容を決めていた時と比べて利用は急増、遅れていた知的障害者や障害児向けサービスでは利用額が10倍以上伸びた自治体も少なくない。
 厚労省は03年度にホームヘルプなどの在宅サービスの予算を27億円増の516億円にしたが、不足額は総額の2割に達した。04年度予算では緊縮財政のなか、「破格」の17%増、602億円が認められたものの、03年度の実績見込み額に届かなかった。在宅の身体・知的障害者約365万人のうち、在宅サービス支援費の支給決定者はまだ20万人。今後も利用が増える可能性は高い。
 事業費の2分の1を補助する国の補助金が底をつけば、グループホームなど地域で暮らすための受け皿作りが滞り、ホームヘルプサービスも抑制される恐れが強い。財政が厳しい今こそ、施設に偏る予算構造を改革する決断が迫られる。
 03年度の支援費予算3213億円のうち、67%を占めるのが入所施設関連だ。利用者数で37%を占める在宅サービス予算は総額の16%に過ぎない。新たな入所施設も建設されている。
 「自分が老い、死んだ後も障害のある子が暮らしていけるように」と願い、施設入所を望む親は多い。背景には、障害者が地域で生活するための環境が整わないことへの不安がある。予算が施設重視になっているために地域の受け皿作りが進まず、それがさらなる施設志向を生む。地域で暮らしたいという障害者の願いをかなえるには、長く続いてきたこの連鎖を断ち切ることが必要だ。
 ところが、厚労省は予算不足の対策として、まずグループホームやホームヘルプのサービス単価を切り下げる案を示した。単価が下がれば、必要な世話人を雇えなくなるグループホームが出るなど深刻な影響も考えられる。障害者団体や自治体は「国の責任放棄だ」と強く反発。結局、同省は案を白紙撤回した。
 予算の膨張を抑えるためにまず在宅サービスを切り詰める、という姿勢からは地域生活支援を本気で進める意思が感じられない。地域で暮らす障害者や支える家族、事業者の取り組みを裏切るものでもある。
 厚労省は来年から、障害者福祉と介護保険の統合について本格検討に入る。税金と保険料で給付費をまかなう介護保険と一緒になれば、財政が安定し、サービスも拡大できるからだ。しかし、その議論の前に、障害者政策の理念である「脱施設」実現のために何をしなければならないか、を国は再検討する必要がある。
 脱施設を掲げながら、具体策を示さないのでは、制度への不信感が増すばかりだ。脱施設をほぼ達成したスウェーデンでは、入所施設解体の方針を法律に明記、期限を設けて予算配分を大胆に変え、地域サービスを飛躍的に増やした。
 「街の中で、人の中で生きたい」。国は本気で当事者の切実な声に耳を傾ける気持ちがあるのか。支援費の予算不足問題は、国にそのことを問うている。
 (くらし編集部 清川卓史)



*作成:三野 宏治
UP:20100408 REV:
施設/脱施設
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