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生活保護 2001

生活保護


◆「「生活保護」制限でホームレス急増 違法運用の例も 安全ネット整備を」
2001/01/06:『読売新聞』解説面 cf.原昌平

 全国の主要都市の八割で、生活保護制度の趣旨に反する適用制限が行われ、ホー
ムレスの人々が急増する一因になっている。 (科学部・原昌平)
 路上やテントの暮らしを、憲法二五条にいう「健康で文化的な最低限度の生活」、
つまり人間らしい生活とする人はいないだろう。どんなに貧しくなっても、そう
ならないよう生活保護法があるはずなのに、失業や倒産などで生活に困り、やむ
なく屋外で暮らす人々は全国で三万人と推定される。
 主要七十九市と東京都を対象に読売新聞社がこのほど行った調査で、ホームレ
ス増加の背景にある生活保護の違法な運用が、二種類浮かび上がった。
 一つは、働く能力があるとして失業による生活困窮者を門前払いするやり方だ。
厚生省保護課は「求職に真剣に努力しても、現実に仕事がなければ保護の対象に
なりうる」という。
 ところが、六十五歳ないし六十歳以上の高齢者か、病気や障害で就労できない
人に事実上、保護の適用を限定している都市が二十八にのぼった。
求人の多い時代なら「探せば仕事があるはず」という論理も成り立つ。しかし、
日雇いを含めて雇用情勢が極端に厳しく、失業対策事業も消えた今、生活保護で
転落を予防しないと、収入の途絶えた人々が家賃を払えず、路上生活や自殺に追
い込まれるのは自明ではなかろうか。
 二つ目は、住まいがないことを理由にした排除だ。八十都市のうち、住居のな
い人の保護を入院時に限定する自治体が四十二、就労不能の場合に限定する自治
体も二十四あった。
 家に住み、少し収入のある人は保護しても、もっと困窮して住む所まで失った
人は、体を壊して救急車で運ばれるまでダメ、という奇妙さ。しかも病院からの
退院時に住まいがない場合、制度上はアパートの敷金を支給できるのに、十市は
「しない」と答えた。結果的に、病みあがりで路上に戻している。
 排除の理由を、自治体側は「入れる施設がない」「住所不定では保護の要否調
査がしにくい」と説明する。
 しかし、今問われているのは、路上のままの保護費支給ではなく、居住の確保
を含めた最低生活の保障だ。
 厚生省は「住居がない人も保護の適用基準は一般と同じ。施設がなければ、民
間住宅や公営住宅も活用すべきだ」とする。鹿児島、浜松、藤沢など十市は、敷
金を出して路上から直接、アパートに保護している。広島市は旅館の一室を借り
て仮住居に使っている。
 違法運用が慣例化した背景には、〈1〉厚生省が八〇年代から不正受給防止を
目的に厳密な監査で適用を締め付けた〈2〉自治体が財政負担などの増大を恐れ
る〈3〉ケースワーカーに法を深く理解した福祉専門職が少ない〈4〉当事者側
に不服申し立ての知識、資力が乏しい――などがある。
 生活保護の現状には、国会議員からも「使いにくい」との声が出ている。「事
業に失敗すれば路上」では起業家も育ちにくい。これまで事実上、黙認してきた
厚生省も「漏れの多さ」を問題視するようになった。
 ホームレス問題の解決には、まず生活保護の運用を法律通りに改め、住居の確
保を含め最低限の安全ネットをきっちり張ることが急務だ。
 ただし、それがベストではない。働ける人は仕事をする方が、本人にも社会に
も良いに決まっている。しかし、自立支援センターを通じた再就職は、容易では
ないのが現実だ。以前の失業対策事業は固定的なものになりがちだったが、その
反省も踏まえた形での大規模な公的雇用も検討する必要があろう。   

◇図=全国主要80都市の生活保護の運用状況(昨年11月、読売新聞調査)
○失業困窮者への適用
高齢・病気・障害に限定 12都市
高齢・病気・障害にほぼ限定 16都市
求職努力と住居が条件 32都市
求職努力があれば可 13都市
その他 7都市
○住居のない人への適用
緊急入院のみ 30都市
入院のみ 12都市
入院か施設に限定 19都市
簡易宿泊所も可 6都市
直接アパート保護も可 10都市
公営住宅も活用 1都市
その他 2都市


 
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◆「神戸市、生活保護記録を開示 一時打ち切りの男性に 異例のほぼ全面」
  2001/01/07: 大阪読売  cf.原昌平
 生活保護の受給者ごとに福祉事務所が作成するケース記録を、神戸市が、自己
情報の本人開示などを定めた個人情報保護条例に基づき、元野宿者の男性(71)
にほぼ全面開示していたことがわかった。ケース記録は国の意向もあって開示を
拒む自治体が多く、全面に近い開示は例がないとみられる。支援団体は「行政に
よる生活保護制度の恣意(しい)的な運用を防ぐうえで画期的な意味がある」と
評価している。
 ケース記録は、生活保護決定までの調査やその後の経緯をケースワーカーが記
載したもので、本人の行動や性格の論評も含まれる。
 男性は市営の低額宿泊所で生活保護を受けていたが、職員の態度に不満を抱い
て一時野宿。昨年三月、行方不明を理由に保護を廃止された。その後、市は調査
不十分だったとして廃止を取り消したが、男性は「なぜ簡単に廃止されたのか」
と疑問を抱き、「神戸の冬を支える会」の協力を得て同八月に開示請求した。
 市は十月にほとんどの書類を開示。面接の記録や福祉事務所内の協議内容も含
まれ、「保護が簡単に申請受理されると思っている」「冬を支える会とつながり
があるようなので公営住宅への入居段階では慎重に」といった記述もあった。
 扶養意思の有無を照会した親族の住所と回答書、資産の有無を照会した金融機
関名は非開示とされた。
 ケース記録はかつて訴訟手続きの中で行政側が提出していたが、近年はほとん
どが拒否。九五年に条例で部分開示した福岡市も多数の記述を伏せていた。
 神戸市は一昨年、別の男性の請求に「個人の評価が含まれる」「国から開示は
不適当との指示がある」と大半を非開示にした。今回は「市の条例に忠実に従っ
て判断した。ただし個別の内容で開示できない場合はありうる」としている。


 
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◆20010916
 第7回全国生活保護裁判連絡会総会・交流会(広島)
 2001年9月16日開催〜 127人もの参加者を集め、大成功!
 http://www7.ocn.ne.jp/~seiho/01soukaihoukoku.htm

  戦後第3の波と呼ばれる、社会保障・生活保護裁判の高揚の中、さる9月16日、全国生活保護裁判連絡会の総会・交流会が、広島市内で開催されました。
  昨年は東京で総会が開催されましたが、その後には、高訴訟の高裁勝利(重度障害者である高真司(たか しんじ)さんの、介護保障と心身障害者扶養共済年金の収入認定の是非を問う裁判。地裁・高裁の連続勝訴は、我が国の生活保護裁判史上、初の快挙です)、大阪での生活保護申請権裁判の第1審勝訴(約1年間にわたり、福祉事務所が保護申請書を渡さなかったため、生活保護申請が遅れてしまったことの違法性を問う裁判)などがあり、こうした盛り上がりの中で、開催されました。
  他方、誠に残念ながら、林訴訟については、今年2月に最高裁の不当判決が出されてしまいましたが、林さんが提起した生活保護行政の問題点(野宿者は入院中や施設入所中しか保護しないという違法な運用)は、現実の行政では改善される流れが作り出されており、敗訴したものの、林訴訟の意義の大きさが、明らかになっています。
  総会では、午前中の、「2001年社会保障リレートーク」で、この5月に歴史的な勝訴判決が確定した、ハンセン病患者の原告からのお話がありました。特別列車での移送や、結婚時の断種など、ご自身の生々しい経験を語られ、日本の国家が行ってきた過酷な人権侵害、そして、つい最近までこのことを放置してきた、重い過去が、改めて明らかにされ、集会参加者の胸を打ちました。
  1907年らい予防に関する件制定から、約1世紀。歴史の重みとともに、歴史は、確実に、人権尊重の方向に向かって動いていることが、わかります。
  また、この7月に集団提訴された、学生無年金訴訟原告のご母堂である鳥羽さんからの訴えも、胸を打つものでした。任意加入という中途半端な制度の谷間に必然的に発生した不合理を、国会の度重なる付帯決議すら無視し、一向に解決しない国の態度には、改めて怒りがわいてきます。
  午後からは、3つの分科会(第1分科会:社会保障裁判、第2分科会:生活保護、第3分科会:国保と介護保障)に分かれ、それぞれ、熱心な討議が行われました。これらの詳細については、各報告をご参照下さい。
  集会の最後には、今回新たに生保裁判連の代表委員に就任された井上英夫さん(金沢大学)より、「いま、社会保障裁判は、大きな高揚期にある。朝日訴訟は『生存』や『最低生活』、堀木訴訟は『平等』を問うたが、今は、『人間の尊厳と自己決定』が問われており、テーマが一段と深化している。私は30年間裁判支援を行ってきたが、昔は負けて当たり前だったものが、今では、高裁での勝利を勝ち取り、国の方が上告するという、昔と逆転した状況になっている。つまり、こちら側が勝ち上がっての闘いという、新しい段階に突入している。皆でがんばろう」という、格調高い発言がなされ、閉幕いたしました。


UP: REV:20071108
生存・生活  ◇生活保護
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