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知能/知能指数/知能テスト

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 ■このファイル目次
  ◆知能ストの登場・拡大
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■知能テストの登場・拡大

※立岩真也『私的所有論』第6章より
※以下では文献などいくらか追加しました。
立岩 真也 2013/05/20 『私的所有論 第2版』,生活書院・文庫版,973p. ISBN-10: 4865000062 ISBN-13: 978-4865000061 1800+ [amazon][kinokuniya] ※

 「20世紀の初めに知能テストが登場し,それはすぐさま,優生学に埋め込まれ,またそれを補強する「事実」を提供することになる。
 その場もやはり合衆国である。そしてまた先にみてきた教育の場は,知能テストの誕生の場であるとともに,とりわけ第二次大戦後,やはりとりわけ合衆国において,「実質的」な機会の平等を与えるべきであるという立場――それは相対的に環境説を論拠とすることになる――と,生得説――生得説ももはやここでは相対的な生得説である――に基づくその政策の無効,あるいは限界を主張する立場の間の戦場になるだろう。次にそれを概観することにしよう。
 知能測定の創始者はフランスのA. Binet (18??-1911)であるとされる★27。彼はパリの小学校において,知恵遅れの子供を見つけ出し,特別のクラスに移すための手段として,1905年テストを開発し,以後その改良を重ねた★28。 (ただし精神年齢(M.A.) ,知能指数(I.Q.)の概念を提出したのはBinet自身ではなく,ドイツの心理学者W. Sternであり(1912年) ,Binet自身は彼の尺度に対してより慎重だったと言われる。)
 彼の開発した尺度は,ベルギー,イギリス,合衆国,イタリアといった国々に広がっていったが,中でもテストの採用,改良に熱心だったのは,合衆国のL. M. Terman, H. H.Goddard,R. M. Yerkes といった学者たちだった。Binet の考えたのと異なり,彼らは知能を遺伝的に規定されたものとみなした。知能テストは知能の遺伝性を実証する手段であり,またその遺伝的な知能の差異を測る手段であった。このような観念のもとで知能テストは様々な (放任を含めた) 政策,政策の意図に結びつくことになる。何より上にあげた合衆国における知能テストの創始者自身,積極的に「政治」に関わる発言をしている。

「……近い将来,知能テストは数万におよぶ軽度の欠陥者たちを社会の監督と保護のもとに置くようにするだろう。そして究極的には精神障害者を増えないようにし。犯罪,貧困,非能率な労働を減らすことができよう。現在見過ごされている軽度の欠陥者は,まさに国が重点的に保護すべきなのである。」(Terman,The Measurement of intelligence,(Binet のテストを翻案した「スタンフォード・ビネー・テスト」の序章),引用はKamin[1974=1977:153])

「精神薄弱がわが国の社会的,経済的,道徳的繁栄に重大な脅威となることに気づき始めたのはごく最近のことである。……慢性的あるいは準慢性的貧困の大部分は……それが原因である。
 ……精神薄弱は増え続けている……救済事業がなされ……おそらく生きて子どもを産むことなど不可能だった者が生存できるようになった。
 もしこのような人たちでも生存に値するという現状を維持しようとするならば,できるかぎり,知的衰退者がこれ以上増えないようにしなければならない……拡大していく衰退の幅を縮めなくてはならない。」(Terman,"feeble-minded Children in the Public School of Calfornia",1917,Kamin[同:17]より引用)

犯罪と貧困とは遺伝的な精神異常,精神薄弱に帰せられる。犯罪と貧困が増加しているのは,救済事業と――次の引用に言われるが――劣った遺伝子を持つ人々が多産であることによる。この犯罪,貧困――貧困そのものというよりそれによる社会への脅威――から社会を守るために手段が講じられねばらないが,知能テストは,欠陥者を,「現在見過されている」欠陥者を発見する手段となる。
 そしてまた,「人種」間の,階級・階層間の知能の差異が言われる。この主張は,劣った集団の増加による脅威の防止とともに,能力,適性に応じた職業につくこと,能力に応じた生活をすべきこと,するのが当然であるという主張に結びついている。

 IQ70−80の水準の知能(テストはこの「軽度」の精神薄弱の診断に有効とされる)は「南西部のスペイン系インデオやメキシコ人および黒人ではごく普通の水準である。彼らが鈍いのは人種的なものであり,すくなくとも先祖から受け継いできたものである。……知的特性の人種差全体について新たに実験的方法で取り上げてみよう。おそらく一般知能にはかなりの有意差が見出されるだろう。しかもこの差は知的環境を変えても拭い得ないものなのだ。
 こうした人種の子どもたちは特別な階層として分けられるべきだ。……彼らは抽象的事柄を習得することはできないが有能な労働者にはなれるのだ。……いまのところ,彼らに出産を許すべきではないことを納得させることは不可能だが,しかし彼らは異常に多産であるから優生学上は大きな問題となるのだ。」(Terman ,The Measurement of intelligence,1916,pp91-92,Kamin[同:16]より引用)

「極端に愛他的で人道的な態度で,労働者に公平でありたいと願う人たちは,社会生活に大きな不平等があることは悪であり不当であると考えています。……この主張は誤りです。これは労働者とそれを保護する立場の者と同じ知的水準である,という仮定に立つ議論なのです。
 事実は,あなた方が二○歳の知能を持つのに,そのような労働者は一○歳の知能しかないのです。あなた方が住んでいるような家を彼らにも与えるのは馬鹿げています。それは,すべての労働者に大学教育を受けさせよう,というのに似ています。これだけ知的能力の差が広がっているのに,そんなことで社会的に平等になるのでしょうか。知的水準が異なれば興味も違ってきて幸福感を与えるものも異なる必要があるのです。
 世界中の富が平等に分配されれば平等になる,というのも馬鹿げています。知的な人はお金を上手に使い,病気に備えて貯蓄もします。ところが知能の低い人はいくら収入があっても,その多くをでたらめに使い生活の向上のために何もしません。数年前,ある地方で炭鉱夫のほうが技師よりも収入が多かったことがありましたが,炭鉱が一時閉鎖になった今日最初に困ったのは彼らでした。炭鉱生活は不規則で,仕事の多い時期に仕事のない時のために貯えておく必要があることくらい,その生活からわかっているはずですが,貯えようとしなかったのです……。
 こうした事実はわかっています。でも,それは知的水準を変えようがないから生じるのだ,と気づくほどにはわかっていないのです。われわれの無知から,こうした人たちにもう一度機会を与えよ,と言うのです――いつまでたっても,もう一度機会を,と。」 (Goddard,Human Efficency and Levels of Intelligence,1920,pp99-103,(1919年,プリンストン大学での招待講義で),引用はKamin[同:18-19])

このように,現状の肯定,平等化に繋がる政策の否定が主張される。他方,先に述べたように,劣性な遺伝子,低い知能を持った人の増加が恐れられ,その対策が立案され,実行された。合衆国ではそれは2通りの方法でなされた。★
 ◆第一の方法は断種,断種法である。[…]
 ◆第ニのものは移民の制限である。[…]

★27 Binet及びBinetと彼の協力者Th.Simon共作の論文のいくつかを訳して本にしたものがある(Binet & Simon[1965a,b,c,1908=1982],Binet[1911=1982]) 。その他,Binet[1911=1961],Binetの評伝としてT. H. Wolf[1973=1979]。Gould……
★28 文部大臣の要請によるとされているものがあるが(Kamin[1974=1977:14],日本臨床心理学会編[1979:260],等),彼が独自に開発したというのが真相らしい (Wolf[1973=1979:182ff]) 。
★  Eysenck vs. Kamin[1981=1985:159-163]
★  以下主に,Kamin[1974=19877:21-48]による。他にKevles[1985=1993],Gould[1981=1989]
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■IQ論争

◆立岩[1997]第7章注4より

 一九六九年カリフォルニア大学のジェンセンの発表した論文をきっかけに、知能の発達に関する遺伝・環境論争が起こる。ジェンセンは、その論文の冒頭に、「補償教育が試みられてきたが、それが失敗であることがはっきりした」(Jensen[1969→1972=1978:85]) と述べ、その原因は、この計画を指導する理論の持つ二つの相補的側面、すなわち、「すべての子どもは根本的にほぼ等質である」という「平均児概念」と、「社会的剥奪仮設」(注03の引用参照)に問題があるとして批判を展開する。その結論は以下のようなものである。
 「1)IQの母集合分散のうちの八〇%ほどは遺伝分散によるものである。IQに及ぼす遺伝要因の影響は環境要因の影響よりもはるかに大きい。/2)社会階層や人種によって知能の集団平均に大きな差があるのは、環境条件の良し悪しよりも、むしろ階層や人種の間の遺伝的な差異によるところが決定的である。/3)環境要因中、最も大きな影響を与えるのは出生前の環境である。/4)人種や階層によって能力のパターンに差があるので、これの差にもとづいて、人種や階層によって異なる教育法を開発すべきである。」(井上[1979:35])この他一九七一年にIQが環境よりもより大きく遺伝に規定されているという内容の論文をヘアンスタインが発表して、これも論議を呼んだ(内容を発展させ、「正統派との論争のあらまし」と題して自らと批判者達との対立の経緯を記した序章をつけた著作としてHerrnstein [1973=1975]) 。
 両者の結論、その導出の仕方についての疑義、あるいは反論が提出された。例えばジェンセンの(1) の主張に対して、ジェンクス他は、遺伝規定性(h2)を四五%としている(Jencks et.al.[1972=1978:98])。またケイミンは、双生児などについてなされた研究を検討してその矛盾を指摘し、再検討した場合には遺伝的要因が効いているとはいえないと主張し(Kamin[1974=1977:49-181])、またジェンセン、ヘアンスタイン、ヴァンデンバーグ(S. G. Vandenberg)らの著作について、使用している論文を正確に紹介しておらず意図的に歪曲していると指摘し(Kamin[1974=1977:182-213]) 、4)の主張についても根拠がないと批判する(Kamin[1974=1977:214-231])。(この他3)、4)に対する批判、疑問について井上健治[1979:39-44]。IQを知能の表現として用いることが妥当か、補償教育が失敗と言い切れるかといった点にも言及されている。他にWilliams[1974=1975]、Gould[1977=1984:155-162]。米国の教育制度改革の推移については黒崎勲[1989]。)

◆立岩 真也 20020401 「生存の争い――医療の現代史のために 2」,『現代思想』30-05(2002-04):41-56

 「☆04 IQ論争については『私的所有論』[1997:310-312]に文献をあげた。関連して社会生物学論争についての文献は[1997:309-310]。その後出た本としてGould[1996=1998]があり、[2001-(12)]でも紹介した。この本はGould[1981=1989]の増補改訂版であり、付け加えられた部分には論議を呼んだHerrnstein & Murray[1994](著者の一人は[1997:63,310]で一部を紹介したHerrnstein[1973=1975]の著者でもある)に対する批判がある。グールドによるこの書に対する批判の紹介から知能テストの創始者ビネの論の検討に進む重田[2001]、グールドの本の統計学的手法についての検討と訳書の日本語訳のわからなさについて石田[2001]がある。」

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■文献(発行年順)

◆Binet, Alfred 1911 Les idees moderne sur enfants, Flammarion=1961 波多野完治訳,『新しい児童観』,明治図書,世界教育選集20 <260>
◆Binet, Alfred & Simon, Theodor =1982 中野善造・大沢正子訳,『知能の発達と評価――知能検査の誕生』,福村出版 <260>
◆肥田野 直 編 1970 『知能』(講座心理学9),東京大学出版会
◆品川 不二郎 1971 「知能テスト有害論に答える」,『教育心理学研究』31 →1975 『現代のエスプリ』97:105-111 ※
◆滝沢 武久  1971 『知能指数――発達心理学からみたIQ』,中公新書 ※
◆上出 弘之・伊藤 隆二 編 1972 『知能』,有斐閣
◆Jensen, Arther R. 1972 Genetics and Education, Associated Book=1978 岩井勇児・松下淑訳,『IQの遺伝と教育』,黎明書房 <310-311>
◆Bowles, Samuel ; Gintis, Herbert 1972-1973 "IQ in the US Class Structure", Social Policy Nov.-Dec.1972,Jan.-Feb,1973=1973 「アメリカ階級構造におけるIQ」,青木編[1973:221-288] <312>
◆Herrnstein, Richard J. 1973 I.Q. in the meritocracy, Little, Browm=1975 岩井勇二訳,『IQと競争社会』,黎明書房 <63-64,311>
◆渡部 淳 編 19730901 『知能公害』,現代書館,反教育シリーズXI,204p. 600 ※
◆Wolf, Theta 1973 Alfred Binet, Univ. of Chicago Press=1979 宇津木保訳,『ビネの生涯――知能検査のはじまり』,誠信書房 <260>
◆Kamin, Leon J 1974 The Science and Politics of IQ, Lawrence Erbaum Associates=1977 岩井勇二訳,『IQの科学と政治』,黎明書房 <234,235,255,260-261,310,311>
◆Williams, Robert 1974 "The Silent Mugging of the Black Community", Psychology Today May 1974=1975 兵庫県高校進路指導指導研究会阪神支部事務局訳,「黒人社会への静かなる圧殺――科学的人種差別とIQ」,『臨床心理学研究』12-3:45-53 <311>
◆『現代のエスプリ』97 1975 「知能」,至文堂
Gould, Stephen Jay 1977 Ever since Darwin W. W. Norton=1984 浦本昌紀・寺田鴻訳,『ダーウィン以来――進化論への招待 上・下』,早川書房,上219p.下221p. <311>
◆Eysenck, H. J. vs. Kamin, Leon 1981 Intelligence : The Battle for the Mind, Pan Books=1985 斎藤和明訳,『IQ論争』,筑摩書房,366p. <260>
◆伊藤 隆二・苧坂 良二・東 洋・岡本 夏木・板倉 聖宣・麻生 誠 1981 『知能と創造性』 (講座 現代の心理学 4) 小学館
Gould, Stephen Jay 1981 The Mismeasure of Man, W. W. Norton & Company Ltd.=19890720 鈴木善次・森脇靖子訳,『人間の測りまちがい――差別の科学史』,河出書房新社,466p.,3900
◆滝沢 武久 19711025 『知能指数――発達心理学からみたIQ』,中公新書,166p. 470 <260> ※
◆古庄 敏行 1971 『知能の遺伝学』,酒井書店
◆渡部 淳 編 19730901 『知能公害』,現代書館,反教育シリーズXI,204p. ISBN-10: 476841110X ISBN-13: 978-4768411100 600 [amazon] ※ d, i02
◆古畑 種基 監修・古庄 敏行 1975 『知能の遺伝学』,酒井書店
山下 恒男 19770630 『反発達論――抑圧の人間学からの解放』,現代書館,278p. ISBN-10: 4768433316 ISBN-13: 978-4768433317 1600 [amazon] ※ d,→20020710 『反発達論――抑圧の人間学からの解放 新装版』,現代書館,286p. ISBN-10: 4768434290 ISBN-13: 978-4768434291 [amazon][kinokuniya] ※ d,
山下 恒男 編 19801215 『知能神話』,JICC出版局,256p. ASIN: B000J82GU0  1200 [amazon] d, i02,
◆倉 武志  19800925 「「障害児」診断における知能検査の実態――テストする側からの声」,『福祉労働』08:071-078 ※
◆東 洋 1981 「知能テスト論」,伊藤他[1981:135-212]
◆明峯 哲男 19810325 「書評:山下恒男編『知能神話』」,『福祉労働』10:118-121 ※
◆Gould, Stephen Jay 1981 The Mismeasure of Man, W. W. Norton=1989 鈴木善次・森脇靖子訳,『人間の測りまちがい――差別の科学史』、河出書房新社 〔2〕
◆Eysenck, H. J. vs. Kamin, Leon 1981 Intelligence : The Battle for the Mind
 Pan Books=19850510 斎藤和明訳,『IQ論争』 筑摩書房 366p. 2472円
◆伊藤 隆二・苧坂 良二・東 洋・岡本 夏木・板倉 聖宣・麻生 誠 1981 『知能と創造性』 (講座 現代の心理学 4),小学館
◆田島 仁 19831207 『おとなのIQ――知能指数診断と知能の開発法』,産心社,238p. 750 ※
◆Kevles, Daniel J. 1985 In the name of eugenics ; genetics and the uses of human heredity, New York : Knopf, x+426p. ; 24cm. =19930925 西俣総兵訳,『優生学の名のもとに――「人類改良」の悪夢の百年』,朝日新聞社,529p. 2800 ※
◆真田 孝昭  1985 「知能理論と優生思想」,『臨床心理学研究』23-1:54-63 <260>
山下 恒男 1990 「IQ論争,あるいは隠された悪意」,『別冊宝島』123:22-31 <4>
◆Gould, Stephen Jay 1996 The Mismeasure of Man, revised edition, W. W. Norton=1998 鈴木善次・森脇靖子訳、『人間の測りまちがい――差別の科学史 増補改訂版』、河出書房新社 〔2〕
サトウ タツヤ 20060125 『IQを問う―知能指数の問題と展開』,ブレーン出版,179p.ISBN-10: 4892428248 ISBN-13: 978-4892428241 ¥2940 [amazon]
日本社会臨床学会 編  20080330 『心理主義化する社会』,現代書館,298p. ISBN-10: 4768434789 ISBN-13: 978-4768434789 \3000 [amazon][kinokuniya] ※ mp i02


UP:1997 REV:20090711, 0712, 20100108, 0122, 20120526, 20140910, 19
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