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平野区市営住宅殺人事件

2011/07/25

last update:20140222

■平野区市営住宅殺人事件の概要

 2011年7月25日、大阪府大阪市平野区で引きこもりの男性が実の姉を殺害した。
 男性は小学生の頃から不登校であり、以後約30年間引きこもっていた。転校することなどを聞き入れなかったのを全て姉のせいだと思い込み事件にいたった。
 2011年7月25日、自宅に生活用品を届けに来た姉(当時46歳)を刺殺し逮捕された。

■一審判決による波紋

◆2012/07/30 姉殺害に求刑超え懲役20年判決 発達障害で「社会秩序のため」
(2012年7月30日 共同通信)
 大阪市平野区の自宅で当時46歳の姉を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職大東一広被告(42)の裁判員裁判で、大阪地裁は30日、求刑の懲役16年を上回る懲役20年の判決を言い渡した。
 判決理由で河原俊也裁判長は、約30年間引きこもり状態だった被告の犯行に先天的な広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の影響があったと認定。その上で「家族が同居を望んでいないため社会の受け皿がなく、再犯の可能性が心配される。許される限り刑務所に収容することが社会秩序の維持にも役立つ」と量刑理由を説明した。

◆2012/08/10 「厳罰という名の隔離  発達障害被告に求刑超す判決」
(2012年8月10日 中日新聞・特報)
 大阪地裁で先月末、発達障害の被告に対し、異例の判決が出た。「被告の障害に対応できる社会の受け皿がなく、再犯の恐れがある」ことを理由に、求刑を上回る刑が言い渡された。これでは「障害者=犯罪者」として罰するのと同じではないか、という批判が高まっている。社会の受け入れ態勢の不備が、障碍者への厳罰化につながっている。判決から見える問題点をあらためて検証した。(出田阿生)
■他人への再犯「あり得ない」
 昨年7月に姉=当時(46)=を包丁で刺殺したとして、殺人罪に問われた大東一広被告(42)の裁判員裁判で、大阪地裁の河原俊也裁判長は先月30日、被告に懲役20年を言い渡した。
 求刑は懲役16年。4年も上回ったのは、被告が「発達障害」と認定されたためだった。
 大東被告は小学5年で不登校になり、約30年間引きこもり生活を送っていた。本人も家族も障害には気づいていなかった。被告は不登校になった時に「転校や引っ越しをして、やり直したい」と両親に頼んだが、実現しなかった。それを姉のせいだと思い込んだ。
 二十代のころにはインターネットで自殺の方法を調べようと、姉に「パソコンを買って」と頼んだが、新品を買ってもらえず、さらに憎んだ。
 犯行時は母親と二人暮らし。結婚して家を出た姉が被告のために生活用品を届けた際、「食費やお金は自分で出すように」と置き手紙で自立を促したことが、今回の犯行の引き金となった。
 大東被告は逮捕後の検察の精神鑑定で初めて、広汎性発達障害の一つ、アスペルガー症候群と診断された。この障害には、他人の感情や意図を理解することを苦手とする傾向がある。コミュニケーションがうまく図れず、いじめられて不登校になったり、障碍者本人が被害感情を募らせてしまうこともある。
 担当した山根睦弘弁護士は「障害のせいで、自分の苦しみはすべて姉のせいだと思い込んだ。通常なら考えられないような動機だ。家族への甘えが入り混じった複雑な恨みの感情を30年も募らせた末の犯行であり、あかの他人への再犯はあり得ない」と説明する。
 懲役20年は殺人罪の有期刑の上限。限度まで重くした理由は何か。判決は▽母親らが同居を断った▽被告の精神障害に対応できる社会の受け皿がない▽再犯の恐れがあり、許される限り長い期間刑務所で内省を深めさせることが社会秩序のためになる--とした。
■悪循環を生む「受け皿不足」
 この判決について、精神障碍者の当事者団体「全国『精神病』者集団」の山本真理さんは「犯罪行為そのものを罰するのが刑法のはず。障害者だから罪を重くするのは、障害自体を罪として罰しているのと同じ。明らかな差別だ」と憤る。
 母親らが被告を引き取らない以上、社会に受け皿がないから刑務所へ--という判断についても「社会の支援不足を、障碍者個人や家族の責任に転嫁することは本末転倒だ」と厳しく批判した。
 そもそも、統計では精神障碍者の犯罪発生率は低く、件数も一般人に比べて極めて少ない。
 元法務官僚で龍谷大学法科大学院の浜井浩一教授(犯罪学)は「発達障害そのものが重大犯罪の原因ではない。犯罪の多くは突発的。発達障害を理解してもらえないことから生じる『二次障害』が、強い被害念慮(確信はないが、被害を受けていると感じること)などを生み、それが発達障害特有のこだわりと結び付いて起される。適切な対応によって二次障害をケアすることで、重大な結果を防げる」と話す。
 発達障害がある人たちの支援組織「日本発達障害ネットワーク」の市川宏伸理事長は「障害に特徴的な考え方や行動様式を周囲が理解していれば、と悔やまれる。30年も社会的支援がなかったために起きた事件なのに、受け皿がないという理由で刑を重くするとは。障害者を何重にも追いつめている」と語る。
 長期間刑務所に入れれば反省し、再犯が防げるという判決の趣旨だが、刑務所の現行体制では発達障害者も一般受刑者と同じ扱いをされる。神戸学院大法科大学院の内田博文教授(刑法)は「刑務所には発達障害に対応した更生プログラムがなく、長期間収容すれば、かえって症状が悪化するだけだ」と批判する。
「困ったら刑務所」批判強く
 触法障害者はとにかく隔離--という判決の背景に何があるのか。
 精神障碍者の人権問題に詳しい池原毅和弁護士は「地下鉄サリン事件以降の社会や、昨今の刑事司法の流れの影響が如実にある」と分析する。
 池原弁護士によると、2005年に施行された医療観察法が「ある種の出発点」。同法は心神喪失や心神耗弱で刑事責任を問われなかった精神障碍者を入院させ、手厚い治療と社会復帰を目的に掲げて導入された。しかし、「障害者を犯罪予備軍とみなして病院に閉じ込め、隔離しただけ。刑務所に長期間収容するというこの判決も同じ発想だ」。
■社会の偏見が裁判員に影響?
 凶悪犯罪の発生件数は減少傾向なのに治安当局やメディアは「体感治安の悪化」という言葉で危機意識をあおり、厳罰化が進んでいる。あおられた市民の「素朴な正義感」が今回の判決に反映された可能性もある。
 岐阜大学の高岡健准教授(児童青年精神医学)は「障害者の親や家族、隣人など、障害について理解のある人が裁判員に入っていれば、良い意味で市民感覚が反映されるだろうが、そうでない場合、逆に社会で偏見を持たれがちな障害者が『市民感覚』により排除される結果になる」と見る。
 高岡准教授は、障碍者の社会復帰への支援体制について十分な情報提供が、裁判員に対してあったのかも疑問視する。まだ乏しいとはいえ、刑務所を出た高齢者や障害者の社会復帰を支援する「地域生活定着支援センター」などのプログラムが整備され始めているためだ。
 前出の浜井教授は「日本の刑事司法は更生や社会復帰を全く考えていない。家族や病院、福祉施設にも見放された時、断らないのは刑務所だけ。困ったときは刑務所へとなる」と批判する。
 「少年法の手続きのように成育歴や生活環境を調べ、障害と事件との関連性、再犯可能性などを検証する。さらにどんな支援が必要かを考えることこそ、真の更生と社会復帰に直結する。隔離すればいいというのはあまりに非人道的で、社会にとっても無益だ」
 障害者が社会で生きていくための支援体制は決定的に不足している。今回の判決は、その切迫した状況から目を逸らした結果ともいえそうだ。

◆2012/08/12 再犯の恐れか、差別か アスペルガー症候群被告への求刑超え「懲役20年判決」への賛否
(2012年8月12日 産経新聞)
 広汎性発達障害の一種、アスペルガー症候群の男が起こした殺人事件の裁判員裁判で、「社会に受け皿がなく、再犯の恐れが強い」として、検察側の求刑(懲役16年)を超える懲役20年の実刑判決が下されたことが、議論を呼んでいる。判決は「許される限り長期間、刑務所に収容することが社会秩序の維持に資する」とまで言及した。刑事司法に詳しい有識者や裁判員経験者は「一般国民の感覚に沿った妥当な判決」と評価したが、発達障害者の支援団体などからは「障害への理解が足りない」と批判の声も上がった。
■「再犯の恐れ」
 波紋を呼んだ判決は7月30日、大阪地裁で言い渡された。大阪市平野区で昨年7月、姉=当時(46)=を殺害したとして、殺人罪に問われた無職の男(42)に対する裁判員裁判だ。
 河原俊也裁判長は、犯行の背景にアスペルガー症候群の影響があったことを認定。その上で「家族が同居を望んでおらず、障害に対応できる受け皿が社会にない。再犯の恐れが強く心配される」として、検察側の求刑を4年上回る懲役20年を言い渡した。
 この量刑は当然、一般国民から選ばれた裁判員6人と法律のプロである裁判官3人が、評議で十分に話し合って決めたものだ。
 判決は「計画的で執拗(しつよう)かつ残酷な犯行。アスペルガー症候群の影響を量刑上大きく考慮すべきではない」と指摘。男に反省がみられない点も踏まえ、「十分な反省がないまま社会に復帰すれば同様の犯行に及ぶ心配がある」と述べ、殺人罪で有期刑の上限となる懲役20年が相当とした。
 事件の内容や犯行態様、結果の重大性、反省の度合い、更生の見込みなどを検討しており、量刑を導き出す手法として通常のやり方から大きく逸脱したものではない。
■逆恨み募らせ…
 今回の判決で認定された事件の一部始終は理不尽極まりないものだった。
 男は小学5年生のころから不登校になり、それから約30年間ほとんど自宅に引きこもる生活を続けてきた。中学校の転校を望んだこともあったが実現せず、姉のせいだと勝手に思い込んで恨むようになった。
 その後、男は自殺を考えるようになった。インターネットで自殺の方法を調べようと思い立ち、姉にパソコンを買うよう無心。ところが、姉が買い与えたのが中古のパソコンだったことから、さらに恨みを募らせた。
 姉は引きこもり生活を続ける男に生活用品を届けるなどしていたが、昨年7月13日ごろ、「食費などは自分で出しなさい」との書き置きを見た男は、姉の報復だと受け止めて殺害することを決める。
 同7月25日、男は自室を訪れた姉の腹などを包丁で何度も刺し、姉は5日後に死亡した。男は逃げ惑う姉を執拗に刺し続けたという。判決は「姉は男の自立のために精いっぱいの努力をしてきた。身体的にも金銭的にも尽くしてきたのに理不尽に殺害された」と言及している。
 残された夫や子供の悲しみ、怒りは極めて大きく、「一生、刑務所から出られないようにしてほしい」と訴えたという。被害者(遺族)の処罰感情は、量刑を決める上で重要な判断材料の一つになる。
■「妥当な判決だ」
 弁護側は公判で「殺意を抱いたのは障害のためであり、この感情をどうすることもできなかった」として保護観察付き執行猶予を求めた。しかし、判決は「犯行の残虐性や結果の重大性から、執行猶予にする事案ではない。アスペルガー症候群の影響は重視すべきでない」と退けている。
 量刑理由で「再犯の恐れ」や「社会秩序の維持」に強く言及した今回の判決について、元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授(刑事法)は「責任能力に問題がない以上、刑罰を決めるにあたっての最も重要な点は社会秩序の維持だ」と強調。「被害者に落ち度はなく、裁判員の判断は常識にかなっている。裁判員裁判を導入した成果だと言える」と評価する。
 裁判員制度を導入した目的の一つは、一般国民の感覚を裁判に取り入れることだ。裁判員の経験がある大阪府内の男性は「一般的な感覚として妥当な内容だと思う。罪を犯した以上、それに応じた罰を受けるのは当然だ」と判決に共感を示し、「障害があるのは気の毒だが、だからといって周囲に迷惑をかけて良いわけではない」と述べた。

 一方、発達障害に詳しい六甲カウンセリング研究所の井上敏明所長(臨床心理学)は「発達障害には家族など周囲の理解が大事で、単に刑務所に長く収容するだけでは解決にならない。発達障害への偏見を助長する時代錯誤の判決だ」と憤る。
 患者や支援者でつくる日本発達障害ネットワークや日本自閉症協会、日本児童青年精神医学会の3団体は判決後、「障害に対する無理解と偏見があり、差別的な判決」などと批判する声明をそれぞれ発表した。
 また、罪に問われた障害者を支援する「共生社会を創る愛の基金」も「矯正の可能性を否定し、『危険な障害者は閉じ込めておけ』と言っていることになる」と批判。発達障害者には、全国で設置が進められている発達障害者支援センターや地域生活定着支援センターで専門的な対応が可能として、「受け皿はある」と訴える。
 発達障害者支援センターは、17年に施行された発達障害者支援法に基づいて全国60カ所以上に設置されている。本人や家族からの相談に応じ、助言や指導を行う。地域生活定着支援センターは21年度から各地で設置が進んでおり、刑務所などを出所した障害者や高齢者の社会復帰を支援。出所前から福祉施設のあっせんなどを行っている。
 ただ、いずれも地域によって支援の内容に差があるという。また、本人が拒否した場合は関与が難しいなど、さまざまな課題があるのも事実だ。
 今回の判決は「検察官の意見(求刑)には相応の重みがあり、それを超える量刑には慎重であるべきだ」と断った上で求刑を上回る量刑を決めている。評議では裁判員と裁判官の間でさまざまな議論が交わされたことがうかがえる。
 誰もが裁判員に選ばれる時代。容易に正否の判断がつかない困難なテーマに直面するのは、次はあなたかもしれない。 

◆2012/08/28 大阪地裁で判決のあったようなアスペルガー症候群等の被告人への対応についての意見書(一般社団法人日本発達障害ネットワーク 理事長市川宏伸)
大阪地方裁判所において、アスペルガー症候群と精神鑑定された被告の殺人事件で、検察官の求刑を超える懲役20年の判決が言い渡されました。この判決文を読むと、被告人は十分な反省をしておらず、アスペルガー症候群に対応できる受け皿が何ら用意されておらず、その見込みもないという状況のもとでは再犯のおそれが強く心配されるので、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持に資するとして、有期懲役刑の上限である懲役20年に至ったとされています。この判決は、アスペルガー症候群をはじめとする発達障害者に対する差別及び、刑罰という点で大きな問題を抱えており、到底許されるものではありません。当事者、家族、支援団体などからなる日本発達障害ネットワークは、今回の件に関し、発達障害者の特性が十分に理解され、司法の場において適切な対応がなされるよう、下記の点について提案いたします。
T適正な判決が行われるための対応
1.捜査段階における心理・福祉等の専門家等による立会い
発達障害の特性に配慮した適切な方法による情報の提供等が確保されて、はじめて黙秘権や弁護人選任権の告知が機能すると考えます。そのためには、本人の思考・行動様式を十分に理解できる関係者が立会い、情報提供することは取り調べの適正さを確保するためにも是非とも必要です。また、本人の供述の内容を正確に伝えるためにも、本人の思考・行動様式を十分に理解できる関係者が立会い、その真意を伝えることは有効です。
この専門家は通常の刑事被疑者の持つ黙秘権など「刑事手続き上の権利」について適切な知識・認識を保持していることが前提ですが、この前提が存在するならば、心理・福祉関係者に限定せず、教育・医療関係者等支援者であっても差し支えないものと考えます。また、この専門家については、本人との接見に望む場合、通常の弁護人の接見と同様の条件が認められる必要があるものと考えます。
発達障害者の捜査段階における情報提供及びコミュニケーション確保の保障の観点から専門家および関係者の立会いの仕組みを作っていただきたいと思います。
2.取り調べの可視化の必要性
取り調べの実際のやり取りが残されていることは、発達障害者の論理が分かりやすく、事件の本質が理解されやすいものと思われます。そのためには、事件の内容について捜査官と本人とのやりとりのすべての場面が録画される必要があると考えます。特に取り調べ初期のやり取りの可視化が重要です。それは、取り調べが進んでからのやり取りでは、本人の語る内容が修飾されてしまっている可能性が高く、事件の本質が理解できなくなっている可能性があるからです。
捜査段階における適正な手続きを担保する観点から、取り調べの全行程が適切に録画され、その記録の下に公正な対応がなされるべきであると考えます。
3.公判段階における適正な手続きの確保
公判段階において、適正な手続きの確保がなされないままに自白がなされた場合には、証拠として採用されない仕組みが必要であると考えます。
また、発達障害者が被告人や証人として、質問や尋問を受ける場合には、発達障害の特性に対応した適切な情報提供やそのために必要な専門家等の支援が受けられるような仕組みを創設していただきたい。
4.司法・警察関係者の発達障害への理解の促進
司法関係者(裁判官、検察官、弁護士、裁判員等)及び警察関係者などの発達障害についての無知・無理解によるさまざまな問題が指摘されています。これらを改善するために、発達障害の特性、障害に配慮したコミュニケーション方法、関係の構築や支援の基本などについての理解等を促進する研修の一層の充実を図る必要があると考えます。
U事件を起こした被告への対応
1.受刑中の発達障害者の特性に応じた処遇プログラムの提供
独特の考え方や行動様式を持つアスペルガー症候群の受刑者には、長期間の特性に合ったコミュニケーション方法や心理的アプローチの支援が必要です。発達障害者は相手の感情や周囲の空気を読み取るのが苦手で、自ら深く反省する気持ちがあってもそれを表現することがうまくできないことがあります。その障害特性に合った、内省へのアプローチや処遇プログラムが刑務所や少年院、児童自立支援施設等で提供されることが必要です。また、精神医学的治療が必要であれば適切な医療面での配慮も必要であると考えます。
2.専門的な医療施設の設置
英国ではブロードモア病院など高度治療施設、中等度治療施設などが用意されています。殺人など重大な罪を犯した発達障害児者については、処罰よりも専門性ある心理カウンセリングなどを集中的に行える、医療観察法病棟をイメージした専門施設での一定期間の対応が必要と考えます。一定期間を経過した者、あるいは重大とは言えない罪を犯した者については、専門性を有した福祉施設での対応により、社会復帰を促進していただきたいと考えます。そのために、国立施設としてすでに罪を犯した発達障害者の支援を行っている国立コロニーのぞみの園、あるいは国立障害者リハビリテーションセンター及び国立精神・神経センター等の機能の一層の活用を是非検討していただきたい。
3.社会復帰を想定した支援体制の構築
発達障害者については、矯正施設在所中に社会復帰に向けた社会生活能力の向上に向けた支援や出所後の生活を想定した関係者の連携によるマネジメントが不可欠です。また、退所者には矯正施設や保護観察所や更生保護施設の司法分野と福祉分野が“地域生活定着支援センター”等を活用しながら支援する形が整いつつあります。このような社会復帰を想定した支援体制がどの地域においても構築できるよう、罪を犯した発達障害者を受け入れる地域生活定着支援センター及び発達障害者支援センター、グループホームや福祉施設等の充実をお願いします。
以上

◆2012/08/07 「姉刺殺大阪地裁判決」についての会長談話(大阪弁護士会)
2012年(平成24年)7月30日、大阪地方裁判所(第2刑事部)は、発達障害を有する男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。
同判決は、検察官の求刑を超える量刑をした理由として、被告人が十分に反省する態度を示すことができないことにはアスペルガー症候群の影響があり、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできないとしながら、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば同様の犯行に及ぶことが心配され、社会内でアスペルガー症候群という障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では更に強く心配されるとした。そのうえで、被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資するとして、検察官の求刑を超える上記の量刑を行った。
同判決には、少なくとも看過することのできない2つの重大な問題点がある。第1に、刑法の責任主義の原則に反する点である。
発達障害を有することは何ら本人の責めに帰すべきことではなく、これに対応できる支援体制を整備することは国及び地方自治体の責務である。にもかかわらず、これらの事由をもって再犯のおそれを強調し、刑を加重することは、まさに刑法の責任主義に反するものである。しかも、被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資するというのは、まさに保安処分の理念に基づいて量刑判断がなされたものと言わざるを得ない。
第2に、発達障害の障害特性及び発達障害者支援法の趣旨への無理解に基づき、発達障害者に対する偏見、差別を助長するおそれがある点である。
同法は、発達障害を早期に発見し、発達障害者の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図ることを目的とし、その実現のために、国及び地方公共団体の責務として、支援センターの設置など必要な措置を講じるものとしている。大阪府及び大阪市においても発達障害者支援センターが設置されている。また、矯正施設(刑務所等)から退所してくる障害者や高齢者の社会復帰を支援するための地域生活定着支援センターも設置されるなど、必ずしも十分であるとはいえないものの支援体制は年々拡充されてきている。ところが、同判決は、社会内でアスペルガー症候群という障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという誤った認識をし、国及び地方自治体の責務にもふれず、その必要性すら言及していない。また、発達障害の特性として、収容して内省を深めることが困難であるにもかかわらず、収容することで内省を深めさせる必要があるとする。発達障害の障害特性及び発達障害者支援の現状にあまりにも無理解である。のみならず、意に沿わない者に対して同様の犯行に及ぶおそれがあるなどと再犯のおそれを強調するあまり、あたかも発達障害と犯罪が関連性を有するかのような誤解と偏見を与えるおそれがある。そして、明らかに、障害を有することを不利益に斟酌しているのであって、障害を理由とした差別的判決であると言わねばならない。
当会は、同判決の有する重大な問題点を指摘することによって、各方面において発達障害の正しい理解を深めることを求め、また、発達障害者が社会経済活動に参加することに協力することは国、地方自治体のみならず国民の責務でもあることを確認し、さらに、発達障害者が「自分は大切にされている」と思える社会の形成に寄与していくことを決意して本談話を発表するものである。
2012年(平成24年)8月7日
大阪弁護士会
会長 藪野恒明

◆2012/08/31 求刑を超す判決を下した大阪地裁判決に対する声明(日本障害フォーラム)
 本年7月30日、大阪地裁において、小学校5年生から不登校となり、約30年間自宅に引きこもる生活をおくってきたアスペルガー症候群を有するとされる42歳の男性被告人が、実姉を刺殺した殺人事件で、検察官の求刑16年を超える懲役20年の判決が言い渡された。
 求刑を超える懲役刑となった理由として、被告人は未だ十分な反省に至っていない。社会内でアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない現状では、再犯の恐れが強く心配される。長期間刑務所に収容することで、内省を深めさせる必要があり、そのことが社会秩序の維持にも資するとされたためである。
 この障害を理由とした判断により量刑が左右されることは、全く妥当性を欠く差別的な判決であり、怒りを禁じえない。
求刑よりも重く厳罰に処した部分は、発達障害への無理解と無認識に基づくものであり、結果として根拠のない偏見と差別を助長することを危惧するものである。2006年には障害者権利条約が国連で採択され、現在、我が国においては障害を理由として、あるいは障害に関連して理不尽な取扱いがされることの無いよう障害者差別禁止法の制定に向けて議論を尽くしている最中である。今回の判決はこうした流れに大きく逆行するものである。
 被告が反省に至っていないとして判決に影響をもたらしたが、裁判所が捉えた状況は、アスペルガー症候群を正しく認定できているか疑問である。アスペルガー症候群の特徴として、相手の感情や周囲の空気を読み取るのが苦手で、自ら深く反省する気持ちがあってもそれを表現することがうまくできないことが指摘されるからである。ここに至る前に障害に対する支援策が用意される必要がある。障害を理解し、被告人の考え方やサポートできる専門家が取り調べや裁判において事件について正確に知るために同席できるなどの配慮が必要となるが、果たして今回の司法上の手続きの中でこのような配慮がきちんと行われてきたのだろうか。
 さらに受け皿がないから社会復帰(参加)の可能性が阻まれると言うことは、障害の有無や家庭環境によって刑のあり方が左右されるということになり、認めるわけにはいかない。ましてやそれが「社会秩序の維持にも資する」と述べることについては、社会の環境整備の不足をなぜ障害者自身が責任を取らされなければならないのか、断じて納得できない。
発達障害者の社会支援は05年の法施行以降、各都道府県に支援センターが設置され、福祉サービスを受けて地域で暮らしている発達障害者は大勢いる。罪を犯した障害者についても地域生活定着支援センターが全都道府県に設置されている。判決はそうした社会的な状況をまったく考慮していない。一方で受け皿が無いと判断した事情には、こうした支援体制が多くの国民の知るところに至っていないとの現状も物語っている。障害理解も含めた発達障害支援の不十分さ等、多くの課題が露呈したと言わざるをえない。
 また今回の判決は、刑に服した後の社会復帰を社会の責任でどのように支援していくかという課題を改めて示している。犯罪は、障害の有無にかかわらず発生する。犯した罪を本人が反省する事はもちろんだが、社会復帰に向けては社会の支援体制が無ければ個人の努力だけでは難しい。障害の有無にかかわらずどの人にも適切な復帰へのプログラムと環境が用意されるべきである。
 私たち日本障害フォーラムは改めて今回の判決に大きな怒りを表明するとともに二度とこうした判決が下されないよう司法当局に強く求める。また、この判決が新たな障害への差別偏見を生み出すきっかけになる事の無いよう多くの国民が障害の正しい理解と認識をもつよう各界の努力を求めるものである。
多くの国民の理解と共感の中、障害のある人もない人も平等に共に生きる共生社会の実現に向けて、我が国が着実に歩を進めて行く事を期待するところである。

◆2012/08/01 姉刺殺大阪地裁判決への緊急声明(全国「精神病」者集団)
2012年7月30日、大阪地方裁判所(第2刑事部)は、アスペルガー症候群の男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、検察官の求刑懲役16年を上回る懲役20年の判決を言い渡しました。判決によると、検察官の求刑を超える量刑をした理由として、「被告人が十分に反省する態度を示すことができないことにはアスペルガー症候群の影響があり、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできないとしながら、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば同様の犯行に及ぶことが心配され、社会内でアスペルガー症候群という障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では更に強く心配される」というものでした。そのうえで、「被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」として、この異常な判決を正当化しました。
 この判決文は、アスペルガー症候群という精神障害を理由に、社会に復帰すれば同様の犯行に及ぶことが心配されるとして、求刑以上の量刑を下したわけであり、完全なる排外と保安処分に貫かれたものであるといえます。そして、判決文にある、この場合の「障害に対応できる受け皿」とは、更生保護、医療観察、強制入院、いかなるかたちであろうとも、障害を理由とした同様の行為なる差別意識に基づき閉じ込める保安処分施設=収容所(アサイラム)でしかありません。さらに、聞こえのいい「障害に対応できる受け皿」という語は、独り歩きし、さまざまな保安処分を支援の名の下に積極的に取り入れていくことになるでしょう。なによりも、こうした意見が裁判員裁判によって、なされたことは、忘れてはなりません。
 全国「精神病」者集団は、あらゆる排外と闘うため、このような裁判所の判決や「障害に対応できる受け皿」なる保安処分施設の推進、裁判員制度に対して、断固として粉砕の立場をとります。

◆2013/02/26 発達障害の男に二審は求刑以下 姉殺害で懲役14年
(2013年2月26日 共同通信)
 大阪市平野区で姉を刺殺したとして殺人罪に問われ、発達障害を理由に検察側の求刑懲役16年を超す懲役20年の一審判決を受けた無職大東一広被告(42)の控訴審で、大阪高裁は26日、一審大阪地裁判決を破棄、懲役14年の判決を言い渡した。
 昨年7月の裁判員裁判判決は、発達障害の一種、アスペルガー症候群である被告について反省が不十分などと判断。再犯の恐れが高いとしていた。
 控訴審判決は「一審判決はアスペルガー症候群の影響を正当に評価していない」と指摘。「十分に反省を示せないのは同症候群の影響。それなりの反省を深めつつあり、再犯可能性を推認させる状況でない」と述べた。


*作成:桐原 尚之
UP: 20140222
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